08/02/08 07:35:50 yfiytG780
「ううーっ。ごめんね、千早ちゃん」
「だから、気にしてないって言ってるのに」
とあるオーディションの終了後、千早と春香のユニットである『クリスタル』の控え室ではこのような会話が繰り返されていた。
「でも、私が歌詞を間違えた所為でグダグダになっちゃって」
「失敗は誰にだってあるわ」
「音程も外しちゃうし、ダンスだってミスしちゃうし。足、引っ張りまくりだよぉ」
ガックリと肩を落とす春香。凹みまくりで今にも泣き出してしまいそうな雰囲気を醸し出していた。
「そんなに落ち込まないで。次のオーディションで汚名返上すればいいじゃない」
「ぐすっ。返上できるかなぁ? 汚名挽回名誉破壊しちゃったらどうしよう」
「……春香」
パートナーの弱々しい様子に千早は言葉を詰まらせてしまう。
「今日のオーディション、千早ちゃんだけならきっと合格できてたよ。なのに私の所為で……。
本当にごめんね、千早ちゃ―」
それは衝動的な行為だった。千早はとにかく、この太陽の様な明るさを持つ親友を元気付けたかった。
「ち、千早ちゃん。おでこに……キス」
目をパチクリさせる春香に、千早は優しく微笑みかける。
「レッスンが上手くいかなかったりして私が暗い顔をしてるとね、いつもプロデューサーはこうしてくれるの。
気分が落ち着くおまじない。どう? 少しは効き目があった?」
「え? う、うん。……効いた、かも」
微かに頬を染めて春香が頷く。
その様子に安堵の笑みを零しつつ、千早は春香の目をジッと覗き込んだ。
「ねえ、春香。少し、話を聞いてくれる?」
コクン、春香は首を縦に振った。
「前のオーディションの時、私、サビの部分のダンスをミスしたわよね。でも、春香がアドリブで合わせてくれた。
そのおかげで合格することが出来たわ。本当に感謝してる」
「でも、それとこれとは」
話が違う、そう言おうとした春香を遮って千早が続ける。
「もし私が前回の春香みたいに上手いフォローができていれば、今日だって合格していたかもしれない。
けど、私はできなかった。つまり、私もミスをしたということ。春香、あなただけが責任を感じる必要は無いわ」
「なんか、それって詭弁ぽい」
「……私たちはユニット。二人で一つなの。失敗の責任は二人で負うべきよ」
「千早ちゃん、スルーしないで。あと、いい話っぽく強引に締めようとするのはやめようよ」
突っ込みつつ春香は笑った。若干ぎこちなくはあったが。
「あなたが余計な茶々を入れるからよ」
少し照れくさそうに千早がコホンと咳払いする。
「とにかく、一人で抱え込まないで。そう言いたいの。
二人で悔しがって、二人で反省して。また明日から二人でレッスンを頑張って。
―そして、次のオーディションの後、二人で喜びましょ」
「……千早ちゃん」
「ねっ?」
「うん。……うん!」
涙が溢れそうになるのをなんとか堪え、輝かんばかりの笑顔を千早に向ける春香。
それに釣られる様に、穏やかな微笑を浮かべる千早。
また少し、絆を深め結束を固める二人であった。
「ところでさ、千早ちゃん」
「なに?」
「一つ聞き捨てならない言葉があったんだよね」
「え?」
「おでこへのキス」
「……」
「いつもプロデューサーさんにしてもらってるって、どういうことなのかな?」
「そ、そんなこと言ったかしら?」
「誤魔化そうとしてもダメだよ。そこのところ詳しーく教えて欲しいな、ち・は・や・ちゃん♪」
「……くっ」
ほんのちょっとだけ不穏な空気が漂っている様に見えなくもないが、それはきっと気の所為である。
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電撃15年祭での今井さん&中村さんのユニットから名前を拝借しました>クリスタル