08/02/05 02:39:25 +Zyc+SiJ0
『765プロに咲き誇る愛欲の花。大手芸能プロダクションの爛れた裏側』
「……なんですか、これ」
３流ゴシップ紙に掲載された記事。
その見出しを読んで小鳥はまず絶句し、次に中身を読んで頭痛を覚えた。
あまりにも低俗な記事。的外れな内容。
クシャクシャに丸めてゴミ箱に放り投げたい衝動をどうにか堪え、小鳥は深いため息を吐いた。
「よくもまあ、こんな記事を恥ずかしげもなく掲載しますね」
怒り混じりの愚痴を零す小鳥に、社長である高木が穏やかな声で宥める様に応える。
「それだけ765プロが大きくなった、ということだよ。周りがやっかみたくなる程にね」
ランクＣ以上のアイドルを多数抱える765プロは今や業界でも一大勢力となっていた。
しかし、会社としての成長があまりにも早過ぎた為か、妬みや僻みの矢面に立たされることも増えてきている。
今回の記事もその類だろう、高木はそう判断していた。
「ですが、さすがにこれは酷すぎだと思います。名誉毀損じゃないですか。絶対に抗議すべきです」
「そう、だね。そうすべきだろう。だけど―」
「千早。次の衣装なんだけどさ」
「決まったんですか？」
「スクールミズギなんかどうだろう？ もしくはエクササイズウェア」
「……お世話になりました。今日限りで事務所を辞めさせていただきます」
「冗談だって。そんなの着させるわけないだろ」
「ふふっ、わかってます。私も冗談ですよ」
「あんな可愛い千早の姿、他の男には見せたくないしね」
「そ、そういうことを言うのはやめて下さい。……不意打ちはずるいです」
「ハハッ。恥ずかしがる千早も可愛いな」
「も、もうっ」
「ふーん。次はメルヘンメイドなんだ。この伊織ちゃんに相応しい可愛い衣装じゃない」
「だろ？」
「あんたにしちゃ上出来な選択だと思うわ」
「自分でもそう思うよ」
「それにしても、あんたって衣装選びにはいっつも時間が掛かるわよね。もっとパパッと選べないの？」
「仕方ないだろ。伊織の衣装を選ぶのは大変なんだよ」
「なんで？ 私、あんたが選んだ服ならなんでも……じゃなくて、え、えと……
い、言い訳するんじゃないわよ。大変だろうとなんだろうと、もっと早く終わらせなさいよね。
せっかくのあんたとの時間が潰され……ごほっごほっ。
と、とにかく愚図は嫌いよ」
「ごめんごめん。伊織は何を着ても可愛いからさ。選択の幅がありすぎて、かえって困っちゃうんだよ」
「……そ、そう。なら仕方ないわね。と、特別に許してあげるわ。感謝しなさいよね」
些か遠い目をして高木が溜息をこぼす。
「抗議するのに、若干の後ろめたさを覚えるのはどうしてだろうね？」
「……あ、あはは」
上手い回答が思い浮かばず、ただただ乾いた笑い声を上げるしかない小鳥だった。
―余談
「ねえねえ、ハニー。これ見て」
「新聞？」
「765プロの名前が見えたから気になって買ってきちゃった。駅の売店で」
「キオスクで新聞を買うアイドルってのもシュールだな。
えっと、なになに……。うわ、こりゃひでぇ」
「あ。やっぱりハニーもひどいと思う？」
「そりゃそうさ」
「だよね。みんなひどいよ」
「ああ、まったくだ。……みんな？」
「うん。だって、ミキたちに内緒でこんな凄いことしてたんだよ」
「あ、あの……美希さん？」
「こうなったらミキたちも負けてられないよね」
「こんな記事を鵜呑みにするなよ！ つーか対抗意識を燃やすな！」
「大丈夫だよ。ミキ、ハニーの子なら何人でも産んであげる」
「人の話を聞いて下さいね。あと、いろいろと自重しろーっ！」