【想いを込めて】如月千早23【バレンタイン】at GAMECHARA
【想いを込めて】如月千早23【バレンタイン】 - 暇つぶし2ch37:SS
08/01/30 16:14:56 LXA3y0Zh0
プロデューサーSIDE>>

「今日は、何だかエラい目に遭ったな……」
 自宅へ向かう道すがら、俺は雪がちらつく空を見上げて溜息をついた。
「ふふ。大変でしたね、プロデューサー」
 と、千早が隣で小さく笑う。
「笑い事じゃなかったんだぜ。アイツら、ここぞとばかりに豆ぶつけてきやがって」
 アイツら、というのは、主に亜美真美、伊織、美希といった事務所の年少組である。
 今日は節分だから、豆まきをしようではないか。という社長の掛け声で始まった豆まきは、開始から
五分と経たぬうちにカオスの様相を呈しはじめた。
 鬼のお面を付けたプロデューサーやスタッフは、アイドルから「鬼は外ー!」と豆をぶつけられた。
まぁ、それだけなら、想定の範囲内である。
 だが、床に撒き散らされた豆に足を取られて、春香が転倒。それに担当Pが巻き込まれるという
二次被害が発生したところで、やよいを除く年少組に変なスイッチが入ってしまったらしく、豆まきと
いうか豆投げと言った方がよいような状況に陥り、俺は本気で逃げまどう羽目になった。
 まぁ、煎った大豆をぶつけられても、大して痛くはないのだが、鬼呼ばわりされながら豆をぶつけられる
のは、意外と心に来るものである。
「鬼も楽じゃないな」
 そんな俺の呟きに、千早がくすりと笑みをこぼす。
「大丈夫ですよ」
「何がだよ?」
「そんな、かわいそうな鬼さんは、私が匿って差し上げますから」
 笑顔で俺を見つめてそんなこと言われたら、胸がドキドキするじゃないか。
「そ、そうか……」
 取り繕うように返事して、深く息を吸いこむ。
 この子は大事な担当アイドルで、まだ15歳の女の子なんだ。
 そう自分に言い聞かせて、何とか落ち着きを取り戻そうとする。
 えーっと、こういうときは確か素数を数えるといいんだよな。
 で、素数って何だっけ?
 素の数?
 違う違う。1とその数以外で割り切れない数のことだろうが。
 数える前からテンパっててどうするんだよ、俺。
「プロデューサー……」
 千早の冷たい手が俺の手を掴む。
「千早……?」
「プロデューサーの家でも豆まきしましょうね」
「あぁ、そうだな」
「でも、福は内、だけでいいですよね」
「ん? そりゃまた、どうしてだ?」
「だって、プロデューサーの家には追い出すべき鬼はいませんから」
「そっか……。千早は優しいな」
 そう言って、千早の頭に積もった雪をそっと払ってやる。
「その優しさがあれば、たとえ鬼がいたとしても、きっと悪さなんかしなくなるよ」
 我ながらクサい台詞だとは思う。
 だけど、なぜか自然にそんな言葉が口をついて出てきたのだ。
「ありがとうございます」
 そう応えて頬を染める千早。
 ステージ上で見せる輝きとは違う、年相応の少女の顔。
 初めて出会った頃には、とても考えられなかった。
 あの頃の千早はどこか肩に力が入っていて、何かに追い詰められているような、何かを追い込んでいる
ような、そんな切羽詰まった印象があったものだ。
 それが、こんなにも豊かな表情を見せるようになった。
 笑顔も増えた。
 よかったな―と、素直に思う。
 願わくば、この笑顔がいつまでも輝いていますように。
 そう思いながら、俺は千早の小さな手をそっと握りかえしたのだった。


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