08/02/02 03:18:03 bpWdFTTR0
■ライブ（大型ステージ）ランクＢ
「いぇい！ハイ、ターッチ！！」
今日は７６５プロ主催の合同ライブ。最後の曲を歌うわたしの前で、アンコール以外の出番を終えた
高槻さんが、担当プロデューサーと成功を祝うハイタッチをしていた。
その後、担当プロデューサーに両脇を抱きかかえられ、子供のようにくるくる回っている。本当に楽しそうだ。
そう言えば、その前は真が笑顔で担当プロデューサーと、コブシを突き合わせて喜んでいたっけ。
いや、それだけではなく出番の直前にも気合を入れる意味でまたコブシを突き合わせていた。
縁起かつぎか、勢いをつけるためか、それとも気持ちを通じ合わせるためなのか。
そう言えば、わたしは彼女たちのように決まった儀式のようなものは無い。
昔はそんなもの無くてもまったく気にしなかったが、今あの二人を見ていると、ちょっとだけうらやましいかも。
「どうしたの千早ちゃん？やよいちゃん達の方をずっと見てるけど……」
「え……あ、お、音無さんっ……会場アナウンスお疲れ様です！えっと……あの、うぅ……」
「トリを前に緊張してる……なんてわけは無いわよね。どうしたの？今日は大事な合同ライブだし、
おねーさん、真面目に相談に乗っちゃうわよ」
「あ……その、何と申しましょうか……わたしも、あの二人みたいにプロデューサーに……」
「……ふんふん、つまり千早ちゃんもプロデューサーさんにやさしくタッチして欲しいわけだ♪」
「その要約のしかたは、誤解を招きそうな気がするのですが……おおむねそうです」
「じゃあ、こんなのはどう？プロデューサーさんと手の平を合わせて、『夜空に星が瞬く限り……』って」
「……それ、あずささんが声優のお仕事をしたときのやつじゃありません？」
「くっ……意外と鋭いわね。じゃあ、胸に触ってもらって『聞こえる？鼓動が……』って」
「わたし、死にに行くつもりは無いんですけど……それに、場所的に問題が」
音無さんが真剣に相談に乗っているのは分かる。けどどうしてもどこかで見た感じになるのは何故だろう？
～本番１０分前～
「……というわけで、わたしはアナウンス室でスタンバイなので、お二人ともごゆっくりー♪」
「何がごゆっくりなんだか……うーん、確かに能動的に千早に触るなんてできなかったからなぁ……」
「いえ、あのっ……音無さんが多分に曲解して説明してますから、気にしないでください！！」
「いや、本番前にテンションを上げるのもプロデューサーの役目だよ。ちょっと目を瞑ってくれる？」
言われるままに目を瞑り、わたしは舞台袖に立つ。壁を通した客席からは、高槻さんと真が盛り上げたお客さんの熱気が伝わってきた。
どこを触られるのかドキドキしているわたしの背中に、熱を帯びたプロデューサーの手が触れた。
「……ひゃんっ！？」
突然の感覚に、かなりみっともない声を出してしまったのではないかと体中の血がはげしく駆け巡る。
「社長の知り合いが開発したゲームの話なんだけどさ……こうやって、ヒロインの身体に触れて
パワーを分けてあげる男がいるんだ。その男とヒロインの絆が強ければ強いほど……大きなパワーになるんだ。
俺と千早が今までしてきた経験や、思い出……それを千早に託したい」
背中に感じるぬくもりから、プロデューサーの気持ちが伝わってくる。
ハイタッチでもコブシ合わせでもない、彼の気合と信頼が、じんわりと……わたしの背中に、流れてきた。
不思議な事に注入された絆の力は全身に溢れ、その溢れた分は零れ落ちず、漲るように翼の形を取った……気がした。
「……行っておいで、千早。俺達の練習の成果、全部お客さんにぶつけてくるんだ」
「はい！！」
ステージへの足取りは軽く、絆という翼が力を付与してくれたためかは分からない。
たとえそれがゲームの話だろうが何だろうが、わたしは確かにプロデューサーから力を貰ったんだ。
「真、高槻さん……アンコールでは皆で最高に盛り上がりましょうね……行ってくるわ」
する事はひとつ。この力に気持ちを乗せて、全力で歌うだけ。
……でも、さっきの……安心するというか、気持ちいいというか……今度、プロデューサーが疲れている時、
両手で彼の背中に触ってみようかな？わたしも彼に、元気を分けてあげたいから。
……なんて考えていたら、もう１メートル先はカメラから見える位置。
わたしは一旦気持ちを入れ替え、この幸せな気持ちを歌に乗せるべく、熱気を帯びた客席に集中した……
※>293の流れに乗ってタッチコミュを一本。ネタはゆ●りあです。このゲームかったるい戦闘シーン以外はマジで好きだったので。