【今夜私は】如月千早21【あなたのものよ】at GAMECHARA
【今夜私は】如月千早21【あなたのものよ】 - 暇つぶし2ch690:SS
08/01/11 22:33:38 +ISXgJ4g0
「千早、学校の課題か?」
「そちらはもう終わっています。悩んでいるのは今度の曲の歌詞です」
プロデューサーが頭をバスタオルで拭きながら、風呂から出てくると千早が卓袱台でノートを見ながら唸っていた。
「正直、作詞を甘く見ていました。曲に合わせるのが大変です」
「初めての作詞だからなぁ。時間はあるし、ゆっくり考えたらいいよ。その経験は無駄にならないから」
煮詰まっている千早に彼は微笑みながら言う。
「いえ、書きたいことはあります。でも、それが文字にならないんです」
「それもよくあること。そう言う時の対処法は二つ」
千早の言葉に牛乳を片手に彼は答える。
本来なら風呂上がりのビールといきたいが、千早に休みの前日だけと決められている。
「一つは思い浮かぶまで待つこと。欠点は確実に思い浮かぶとは言えない。
 もう一つはその状況に身を置いてみる。欠点はその状況が作り出せないと無理」
「後者で駄目なら前者を試みるわけですね」
彼の言葉に千早は頷く。そこで自分が考えている歌詞を思い浮かべる。
「では、後者を試してみます。プロデューサー、背中をお借りします」
そう言って、千早と背中を合わせ、座ってみる。背中に感じる温もりが心地よい。
「合わせた背中から感じるあなたの温もりが♪
 文字数が多いわね。背中越しに感じるあなたの温もりが♪」
背中越しに千早の澄んだ声が聞こえ、彼女がノートに書き込んでいく気配が感じられる。
「二人の鼓動が奏でるメロディ♪  いえ、ここでメロディは唐突ね。二人の鼓動が奏でる調べ♪」
調子が上がってきたのか千早の声の調子が明るい物になっていく。
「きっと二人で夢見た未来♪
 次は・・・・・・新たな扉をあなたと二人で開きたい♪」
そこまで書いて千早は目を閉じ、今まで書いた歌詞を頭の中で歌ってみる。
注意しないでも分かっている。歌詞の内容が自分の気持ちを書き綴った物だと。
初めて蒼い鳥を聞いた時、これこそ自分を象徴する歌だと思った。
それが今では孤独では飛べなくなってしまっている。
でも、それを弱くなったと千早は思わない。
なぜなら、今の自分はあの頃と違い、飛ぶ力だけでなく、飛ぶべき行き先も見据えているから。
「どうだ、千早。効果はありそうか?」
「ええ、もうしばらくこのままでお願いします」
背中越しに聞こえた声に千早がそう答えると、彼がタオルケットを渡してきた。
「千早も風呂上がりだろ。風邪をひくといけないから後三分だけだぞ」
「分かりました」
タオルケットを膝に掛け、千早は目を瞑る。
最近になって、気付いたことがある。自分は人の肌の温もりに飢えていたんだ、と。
あの事故の日から親が千早に触れたことはない。
頭を撫でることも叩かれたこともない。代わりに物が飛んできたことはあったが。
暗闇の中でじっと蹲り、歌にしがみついて生きてきた。歌を失った時、弟の記憶も消えてしまう気がして。
その暗闇の中に差し込んだ光が彼だ。
歌で生きていく、と決めていたが、第一歩を踏み出す方向さえも分からなかった自分。
最初はアイドルと言う方向に歩くのは、間違っている気がした。
しかし、歩んでいきうちに気が付いた。ああ、自分は形に拘りすぎていた、と。
暗闇に差し込んだ光は、自分の未来を照らし出してくれた。
暗闇で光明に救われた人間は、その明るさと温もりを決して忘れない。
「ん、千早。そろそろ炬燵に戻った方がいいぞ」
「はい、ありがとうございました。おかげでいい詞が思い浮かびました」
彼の言葉にそう答え、千早は彼の正面に座る。
「お役に立てて何よりだ」
「ええ、今度から作詞で困ったら、この方法を試してみようと思います」
そこまで言ってから千早は苦笑する。また暗い感じの曲が来ることもある。その時は作詞は無理だと断ろう。
「そっか・・・・・・あ、千早。これ、カップリング曲のイメージだって」
「そう言えば、連絡を今日中にすると言ってましたね」
彼が思い出したように鞄から取り出した封筒を受け取り、中から曲が入ったCDとイメージなどが書かれた資料を取り出す。
「え~と、テーマは結婚!?」
「あはは、千早も憧れているのか? それも作詞は千早だけど」
絶句する千早に彼が暢気に声をかけてくる。
その声を聞きながら千早は思う。イメージを作るために妻にして下さい、と頼んでみようかな、と。

今年一発目の晩ご飯がコンビニ弁当。虚しい食事ほど、妄想が膨らむなぁ


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