07/12/22 18:20:07 VMVqihkU0
菊地真は俺と同期の人間のプロデュースでデビューし、現在アイドルとして活躍中。
うちの伊織と比べダンスのパラメータが突出。体力の面では負けを認めざるをえない。
性格的に伊織とはぶつかることが多いが、それはあくまでライバルとしてで、けして仲が悪いわけではないようだ。
「へへっ、伊織。これくらいでどうしたんだよっ」
「ほら、どうしたんだよってよ」
「はぁ……はぁ、う、うるさいわね……」
ダンスレッスンでへばって床に座り込む伊織とそれをからかいに来る真。
そりゃあんなに肩に力が入った上に、オーバーペースで踊ればバテもするさ。
たまたまレッスン時間が被って居合わせただけとはいえ、意識してたんだろうな。
「これくらいで膝が笑っちゃうなんて情けないなー。トップアイドルになるのはボクの方が先みたいだね」
「……くぅ~」
お互い様みたいだけど。
この勝負に関してはなにも言い返せないため、ひたすらに悔しそうな伊織。
こいつのそんな様子を見てると、何故かあのネコ口が憎たらしく見える。
屈辱に耐え切れなくなったのか、ふんぬ、とばかりに伊織は立ち上がった。
これ以上言っても単なる負け惜しみなのに気づいていないようだ。
「ふんだ、流石の伊織ちゃんも、体力じゃ男の子には敵わないわよ」
「ボクは女の子だーっ!」
おぉ、負け惜しみにしては意外とダメージがあるな。
とはいえ、そういう悪口はフェアじゃない、一言釘を刺しとこう。
「伊織、そういうことは言っちゃダメだよ」
「なっ、アンタ真の肩持つわけ!?」
「へへっ、ガツンといってやって下さいっ」
任せとけ、と目配せしておく。
「あのな、本人にどうしようもないこと言っちゃダメだろ。真だって精一杯女の子らしくしてるんだから」
「……そうね。ごめんね真、あんたアレで精一杯なのよね」
「あぁ、なけなしのフェロモンとか、精一杯……な」
「あんたら二人表でろぉ!!」
あ、沸点超えた。
ニヤつきながらさらに追い詰めようとする伊織を手で制す。
そして俺も真顔になる、ここからはフォローだ。
「すまない、俺も伊織も捻くれ者なんだよ。さっきのダンスは凄かったぞ」
「そんなのでごまかされませんよ! ボクのフェロモンは、どうせなけなしなんだ!」
「何言ってんだ、なけなしだろうがなんだろうが、フェロモンが出てるってのは人を魅了してるってことだろう」
「え……」
「お前のダンスはそういうもんなんだよ。それに、一生懸命女の子らしくしようとするのはな……」
どっちが上とかじゃない。立派な魅力。逆に考えるんだ。ギャップ萌え。
それらしい言葉を大安売りしてみる。
満更でもなさそうにネコ口になったのを確認したところで、「調子に乗ってすまなかった」と一応心から謝っておいた。
「へへ……、いえ、ボクも大人気なかったですし」
今度から気をつけてください、と言って戻っていく真。
気づかれないよう、向こうのプロデューサーに親指を立てておく、計画通り。
本当に簡単にごまかされるんだな、あいつの言う通りだ。
この二人ってそこら辺は似たもの同士なのかな、と一人納得していたところに、クイクイと上着のすそが引っ張られる。
振り返ると腕を組んだ伊織が仁王立ちしていた。
少し赤く染まったその顔は、「さぁいつでもいらっしゃい」とばかりにツンとすましている。
「なんだよ、その顔」
「ほ、ほらっ、私のダンスはどうだったの?」
「ステップがワンテンポ速い」
なんだかよく分からないが、いっぱい罵られた。
伊織の発声は今日も完璧だ。