07/12/25 21:41:59 k1xn5IL90
流れを読まずに投下
765プロでの宴の後に。
ツリーやネオンが輝く街を伊織と二人で歩く。
「本当にタクシー使わなくてよかったのか? 伊織の家まで、結構距離あるけど」
「いいのっ、最近忙しかったんだから、少しはクリスマスのムードに浸らせなさいよ」
そう言って伊織はキャスケット帽を目深に被りなおし、マフラーを顔を隠すように巻きなおす。
まぁ、こんな風に帽子被ってズボンはいてるってだけでイメージも変わる、誰も気づくまい。
第一、人もそんなに歩いていないし。
「どうだった? 今日のパーティー」
「すっごく楽しかったわ! パーティーって、やっぱりアレ位楽しくないと嘘よねー」
大きい会場貸し切って、ニコニコしてるだけのパーティーより何億倍もマシ、と伊織。
「今日は本当に贅沢した気分よ。……あ、ありがとね、プロデューサー」
「贅沢って、それほど豪華でもなかったろ。事務所を手作りで飾って、食べ物も持ち寄りで」
贅沢の意味をそのまま受け取った俺に、伊織はそうじゃないの、と苦笑する。
「自分の力で得た物や仲間を満喫する。これ以上の贅沢なんてないじゃない、にひひっ♪」
その言葉に「そっか」と生返事を返す。
ちょっと感動して胸がいっぱいになったのもあるけど、伊織が少しふらついているのが気になった。
よく見ると膝が笑ってる、そろそろ電池切れみたいだな。
さて、おんぶの提案でもしてみようか。
伊織を背負ってまた歩き出す。
「前はしぶしぶだったけど、今日は素直だな」
「……そりゃスカートじゃ抵抗あるわよ」
なるほど、それもそうか。
今日はちょうどよくズボンをはいてるし、こっちも気を使わなくて済む。
「って、おい動くなよ」
そう言った俺の首にマフラーが巻きついた。
「伊織?」
「さ、寒いでしょ? 下僕への心優しいごほうびよ」
ほらこれも、とキャスケットまで被せられた。
「ありがとう……って、変装解いたらまずいんじゃないか?」
そこまで周りに人はいないものの、周りに気づかれる可能性がゼロというわけでもない。
すると伊織は黙って首に回した腕の力を強め、俺の体に顔をうずめた。
「こ、こうすれば……モゴモゴ」
「……ま、大丈夫だろな」
それからずっと、俺達は無言だった。
いつもうるさい伊織も黙ってたし、きっとそれが自然なんだろう。
しばらくして、背中から小さくハミングが聞こえてきた。
曲はフタリの記憶……をちょっと歌った後、何かに気づいた様にドゥ・ユー・リメンバー・ミーに変わる。
会話はないけど、BGMは心地よく、背中は暖かかった。
ひょっとしたら今、俺は世界で一番贅沢をしているのかもしれない。
ハミングが寝息となった頃、無事に水瀬家に到着した。
お出迎えはなんと、伊織のお父様。
いつも通りにダンディだが、なぜか表情筋がピクピク動いている
そしてそばで待機するジャンバルジャンくん。
お父様によると、この子は合図一つで不審者をボロボロにして撃退するほど賢いらしい。
で、お父様、その笛はなんですか。