07/12/22 22:41:35 f0vjEDEO0
「さて、またしても手元にクリスマスソングのカラオケCDがあるわけで。
そして、今は事務所に私一人。今までと違い、みんなは帰宅済み」
そこで一息入れて周囲を見回す。窓の外は既に暗く、そして静かだ。
「これはサンタさんから『音無小鳥よ、思う存分歌いなさい』と言う一足早いプレゼントね。
ありがとう、サンタさん。お礼に私がNORADの追跡から逃がしてあげるわ！！」
無茶苦茶なお礼を言って立ち上がり、入り口に鍵をかけ、事務所内のチェック。
ロッカー、机の下、掃除用具入れ、窓の外に人影無し。
窓にブラインド、強引に修理してもらった床は問題無し。
念のために床はタイル一枚一枚を踏み、入念にチェックしておく。
警備員の控え室まで音は響かないし、見回りは先ほど終わっている。
「今度こそ、今度こそ、本当に大丈夫。六度目の正直よ」
そう言って小鳥はCDをコンポに放り込む。そして、三角帽子と赤いケープを羽織る。
本当はミニスカサンタのコスプレをしたいが、そこは最後の理性で踏みとどまる。
「うん、準備完了。よ～し、漲ってきたわ。私が何時までもへこんでいると思ったら、大間違い！！」
音無小鳥はただの小鳥ではない。不死鳥のごとく、灰燼の中から何度でも蘇るのだ。
「さて、皆様、お待たせいたしました。
クリスマスまであと僅か。盛り上がってくる毎日を楽しくお過ごしでしょうか？
今宵、貴方を私が貸し切り、第六回小鳥祭りを開催します♪
では一曲目は『慌てん坊のサンタクロース』です」
自分自身が慌てん坊なところを棚に上げ、小鳥は歌い出す。
二、三曲目と選び、最後はChrismas for you！から『PERL-WHITE EVE』を引っ張り出す。
千早が歌っているのを見て、密かに羨ましかったのは絶対に内緒だ。
「生まれたままで粉雪の夜♪ う～ん、やっぱり人生経験豊富な私向けね」
そう言ってから落ち込む。豊富だけど、何も実っていないことに気がついたから。
「ううん、落ち込んじゃ駄目。明るい未来が待っている･･････はず。
さ～て、そろそろ店仕舞いしますか」
そう言ってからコンポからCDを取り出し、ケースに戻す。
「でも、真ちゃんのDING DONGも良い曲ね。DING DONG 聖なる鐘の音が♪」
「「DING DONG 二人の思い出を 素敵な夜だけ 残してくれた♪」」
「へっ？」
何故かハモっている声に気付き、小鳥が振り返ると･･････
「あ、やば、見つかっちゃった」
「うひゃぁぁぁ、ま、真ちゃん、なんで天井からぶら下がっているの！？」
そこには天井から頭だけ出している真がいた。観念したのか真は床の上に着地する。
「いやぁ、忘れ物しちゃって。玄関に回るのが面倒なので雨樋をよじ登って、
屋根裏から直接ロッカールームに入ろうと思って」
「お姉さん、そっちの方が面倒だと思うんだけど」
と言うよりも玄関から入ってきて欲しいと小鳥は思う。ここの防犯システムって、一体なんだろう？
「そしたら、小鳥さんの楽しそうな声が聞こえてきたので、ちらっと天井パネルを外して覗いたんです。
小鳥さんの歌唱力は抜群だと聞いていましたが本当ですね！！」
「うにゃぁぁぁ、また聞かれちゃった、また聞かれちゃったぁぁぁ」
六度目の敗北に小鳥はその場に崩れ落ちる。そして、この後の展開も悲しいことに予想できてしまう。
「真ちゃん、念のために聞くけど、録音とか携帯電話とか」
「あ、はい。千早から参考になるから録音しておいた方がいい、と聞いていましたので録音して、
携帯電話でプロデューサーにも実況中継を･･････あれ、小鳥さん、何処に行くんですか？」
とぼとぼと歩き始めた小鳥に真は問いかける。
「ううん、もういいのよ、真ちゃん。この後の展開も読めるから。
プロデューサーさんには私は人前で歌うのは絶対に嫌です、と伝えておいて」
「あ、はい、分かりました。あ、小鳥さん、ボクと一緒に今度･･････」
歌いませんか、と続けようとした真だが、振り返った小鳥の衰弱しきった表情に口を噤む。
「何か言った、真ちゃん」
「いいえ、なんでもありません」
「そう、私は少し休憩室で休むから、三〇分ほど電話番をお願いね」
そう言って、小鳥は休憩室へと向かう。
「千早ちゃん、最後に立ち塞がるのはあずささんではなく、やはり貴女なのね」
とこの場にいない人間に一方的な言い掛かりを付けながら。
休日出勤の職場でコンビニ弁当を食べながら思いついた。
虚しくなったが･･････正月休みが長くなるのでそれほどショックじゃなかった。