07/12/30 13:47:34 g/ycsL1l0
Ｐどころか、人には決して言えない妄想から、はたと気が付いた様に我に返る
「はぁ…、何考えてんだろ、私」
少し肩を落とした表情で、深い溜息を小鳥が付いた
この世に生を受けて、今年で早や齢二十とﾁｮﾒﾁｮﾒ。アイドルのあの子達とは、年齢でもお肌の張りも一線を画す
傍から見れば、最初っから随分と分の悪い無謀な競争なのかも知れない
だけど悲しいかな、意中の人は当然のお約束事の様に言うまでも無い『あの人』
あの自覚の無い魔法使いさんは、何時の間にか、この私にも魔法を掛けちゃってたのだ ――― 「恋の呪文」ってヤツを
最も、あの鈍感さんにそんな甲斐性が有るなら、私に限らずとっとと幸せになってる子が出てるのだろうけど
つくづく不憫よね、あの子達も。密かに慕い続けても願いが叶うのは1/11だってのに
あ、そっか…あの人は優しいから亜美ちゃんと真美ちゃんの場合は一緒にか、なら1/10ね
でも、そこに私が入ると再び可能性は10%を切る。しかも私の場合は更に掛け率が…半値8掛けの声が聞こえるのよぉ！
…ううっ、い、嫌な事は考えるの止しましょう。心が折れそう
『賽の目にでも、聞いてくれ』
いっそ、この言葉が現実になるならまだ希望は持てる。平等だから。でも、ギャンブルの神様が贔屓しちゃったらその限りじゃ無いけど
っつーか、その際は是非私を贔屓して下さい。おながいします
さ、寒い…こ、心の隙間風が寒いわ…って、自爆で何しろって言うのよ、ああもう
「ただいま戻りました！」
寒空の中、今日も元気に営業を終えてＰが戻って来る
「へ？ あ、お、お帰りなさい！」
何時の間にか又していた妄想から、Ｐの声でこちらへ返って来た小鳥が慌てて答えた
「どうかしたんですか？」
「あ、い、いえ…な、な、何でもないです！」
「そうですか。 ここの所忙しかったから…小鳥さん達もキツイと思った時はお休み取った方が良いですよ？」
ああ、又、そんな優しそうな笑顔で言葉を掛けてくるし…
い、言えない…言える訳が無いわ、そんな事。貴方の事で思いっきり妄想してました…なんて、言えるわけ無いでしょぉ！？
チョッと寂しい心の葛藤を続ける小鳥
その彼女の心中を知ってか知らずか、ふと思い出した様にＰが言い出した
「あ、そうだ。 帰ったら、渡そうと思ってたんだっけ。 はい。小鳥さん、コレ」
綺麗な包装に包まれた小箱。御丁寧にチョッとしたリボンまで掛けられている
「え？ な、何ですか、コレ？ 私に…？」
「ええ。 ほら、今日の営業って貴金属メーカーさんからのＣＭオファーの件だったでしょ？ で、取りあえず、打合わせにって事だったんですが…」
尚も続く、彼の台詞
「打ち合わせ終わってよくよく宣伝商品見たら、力入れてるだけ有って結構綺麗だなぁ…って思ったんですよ
んで、ついうっかり『やっぱり綺麗な物ですねぇ…。 そう言えばクリスマスプレゼント渡しそびれた人が一人居るんだよなぁ…』って
それからは、『じゃあ特別に。こんなのは如何です？お安く致しますよ？』って始まっちゃいましてね。残念な事に断りきれなくてｗ」
呆気に取られた小鳥が、慌てて小箱を見つめ直す
「ああ、遠慮無く開けて下さい。 これなら小鳥さんに似合うかなぁと思って、一応一生懸命選んで見ました。クリスマスの時に渡しそびれたお詫びも兼ねてますので」
その言葉が、言葉通りの意味なら…彼の台詞も笑顔も、今は小鳥の心に入らない。ただ一心に、小箱の中身を確かめたくて
「あ、え、えーっと…。 ちなみに、そ、そう言う意味のヤツじゃ無いですよ？」
出て来た。小さな、とても小さな…だけど彼女にとっては、とても重い小さな ――― 銀色のリング
「バカ…」
リングを見つめ俯いた小鳥から、一言と一滴の雫が零れる
本当に…本当に、バカな人…。こんなことされたら…ますます、本気になっちゃうじゃない、諦めきれなくなっちゃうじゃない
こんなに大好きなんですから、貴方の事
「え？ こ、小鳥さん？ ど、どうして涙なんて…」
相変わらず鈍い魔法使いさんは、又、彼女に恋の呪文を掛けた事に気が付いて居ない様で
女性は幾つになっても、恋する乙女なのでしょうか
これは、そんなお話の一つで御座います