07/12/29 00:01:50 jK56yUOj0
「ふう、買う物はこれで終わりかな?」
「そうですね。これでお正月の分も大丈夫です」
車に買い物袋を詰め込み、千早は買い物メモを再チェックする。
この後のスケジュールを考えたら、事実上、年内最後の買い出しになるだろう。
正月にコンビニで買い物は嫌すぎる。
「それにしても千早、実家には帰らなくていいのか?」
「その話は何度もしましたよ、プロデューサー。確かに両親の実家に誘われていますが・・・・・・」
同じ事を質問してくる彼にメモをしまいつつ千早は呆れ顔で答える。
「私だって、お正月くらいは体を休めたいと思います。
どちらの実家に行っても落ち着くことは出来そうにありません」
「ま、確かにそれもそうだな」
千早の言葉に彼もようやく納得する。
離婚直後ともあれば、それぞれの実家で色々とやり取りがあるだろう。とても心安らぐとは思えない。
「しかし、俺と一緒で落ち着くとは思えんが。いい加減に見飽きてきただろうし」
「いいえ、プロデューサーの顔はずっと見ていたいくらいです。あっ」
彼の言葉に反射的に答えて、千早はちょっと大胆な台詞だったことに気付く。
少し頬を赤くして、彼の反応を見てみる。
「そんなに俺の顔は面白いかなぁ」
「・・・・・・ああ、そうでした。こう言う方でした。はぁ」
「千早にため息をつかれる理由が全く不明なんだが」
「いえ、いいです。ちょっと先行きの大変さに目眩がしただけです」
クリスマスに距離を縮めた気がしたが・・・・・・いや、確かに縮めたのだろう。
明らかに他の事務所のアイドル達と比べ、プロデューサーとの関係は親密だ。
しかし、なぜか色恋沙汰にならないのは、彼が天然だからか千早が臆病だからか。
「私の意地っ張りな性格も原因の一つかも」
そう呟き、助手席に座りつつ千早はため息をつく。
「プロデューサー、私って、意地っ張りだと思いますか?」
「う~ん、意地っ張りと言うか・・・・・・プロ意識が強いと言うか・・・・・・。
ただ一つに拘ると周りが見えなくなるのは事実だな。
それを意地っ張りと言っていいのか分からんが」
千早の問いに彼は顎に手をやって答える。
「まあでも、それはそれで可愛いと言うか」
「もう、子供扱いしないで下さい」
頭に置かれた彼の手に頬を膨らませて千早は抗議するが、笑顔では意味がない。
「あはは、ごめんごめん」
そう言いつつ離れていく彼の手を千早は愛おしげに見送る。
「あ、そうそう。千早、このマフラー、本当に暖かいぞ」
「そうですか。それは何よりです」
マフラーを外しながら言う彼に千早は微笑む。
「いやぁ、コートは買い換えてもマフラーを買うことはなかったからなぁ。
初めてマフラーを使ってみたけど、こんなにいい物だったとは」
「そこまで気に入っていただけたなら、作った甲斐がありました。
初めてのマフラーが私の拙い贈り物で申し訳ありませんが」
「いやいや、今まで使ったことはないけどさ、千早のマフラー、最高だと思うぞ。
俺の贔屓目を抜きにしたとしても。大事に使わせてもらうよ、一生」
嬉しそうに言う彼に千早も顔が綻んでくる。
「さ、そろそろ帰ろうか。買い忘れはないな」
「はい、大丈夫です」
彼にそう答え、千早は悪戯を思いつく。普段なら思いつかないし、言わないだろう。
しかし、年末の雰囲気とクリスマスの残滓が彼女の悪戯心を後押しした。
「プロデューサー」
「どうした、千早」
「マフラーもですが・・・・・・私も大事にして下さいね、一生」
「あははは、もちろん大事に・・・・・・って、一生!?」
驚いた視線で自分を見る彼に千早は心の中で話しかける。
私も一生あなたを大事にしますから、と。
コンビニ弁当に付いている梅干しって、なんであんなに美味いんだろう