07/12/22 22:55:30 f0vjEDEO0
「よ~し、もう少しで千早をコンプリートだ」
「プロデューサー、その言い方は誤解を生むので止めて下さい」
拳を握りしめ、力強く言う彼に千早はため息混じりに言う。
「千早は欲しくなるようなのは、見当たらないのか?」
「そうですね・・・・・・特に見当たりません。少し向こうで休んでいますね」
周囲のUFOキャッチャーを見回し、千早は答える。金のブラは絶対に要らないし。
「それにしても最近のゲームは音質が良いわね」
缶紅茶を買い、ベンチに腰掛け、筐体から流れる自分の声に苦笑する。
「映画に私の歌が使われただけでも光栄だけど・・・・・・ゲーム化までとは」
筐体から流れる自分の歌声に合わせてハミングしながら、そう呟く。
「こんな機会でもなければ、ゲームセンターなんか来ないかな」
今日だって、この大手ゲームメーカーの直営店、しかも旗艦店舗のイベントでなければ、
絶対に出演依頼は来なかったに違いない。
ゲーム化に伴い、自分の歌をアレンジして、BGMになると聞いた時は心配したが・・・・・・
ゲームメーカーの音楽担当のセンスはかなりいいと千早は思った。
「でも、まさか私の・・・・・・私達の人形があるなんて」
驚いたのはそれだ。765プロ全アイドルの人形がUFOキャッチャーの中にあったのには驚いた。
そして、千早がモデルの「ちひゃー」人形を揃えるため、彼はかれこれ二〇分ほど奮戦している。
「何種類あるのか知らないけど、あまり使いすぎないで欲しいな」
そう言って周囲を見回す。そして、ある物に気がつく。
「恋愛占いなんかもあるのね。姓名による判断・・・・・・」
そう呟いてから周囲を見回す。イベントも終了し、今は千早達の貸し切り状態だ。
「え~と、プロデューサーの漢字はこれで間違いなし。誕生日は確か・・・・・・西暦かぁ」
以前に誕生日を祝った時の年齢から逆算して、各項目を埋めていく。
「あくまで時間潰し。暇だし、何もしないのもお店に悪いし」
そう言いながら、今度は自分の項目を埋めていく。
「結果はプリントアウトされるのね。あ、出てきた」
「お~い、千早、お待たせ。全部揃ったぞ」
千早が結果を取ろうとした時、彼に名前を呼ばれ、紙をうっかり落としてしまった。
「あ、なにもそんな狭い場所に落ちなくても」
紙が落ちたのは運悪く棚の裏。さすがに勝手に棚を動かすのはマズイ。
「はぁ、誰かに見られたら・・・・・・言い訳は別に可能ね、小鳥さん以外には」
一番近くにいる男性の名前で試すのは不思議ではないだろう。
「千早、どうしたんだ」
「いえ、なんでもありません。そろそろ帰りますか?」
「その前に俺は店長に挨拶してくるから。もう少し待っていてくれ」
そう言うと彼は立ち去っていった。出口近くのベンチに行くと彼が取った人形が並んでいた。
「全部で六種類かぁ。いろいろとあるみたいね。自分が言うのも変だけど、本人より可愛いかも」
そう言ってから苦笑する。元々が可愛げないのにどうやったら比較できるのだ。
「くっ」
「え、あ、これは・・・・・・ありがとう」
「くっ♪」
人形から声が聞こえたので見ると、一体の手に落とした占い結果があった。彼が拾ったのだろうか?
千早がお礼を言いながら撫でると嬉しそうに人形が鳴く。本当に良くできている。
「千早、お待たせ」
「あ、お帰りなさい」
結果を読み終えたところで彼が戻ってきた。
「さあ、帰ろう。それにしても五種類あると結構嵩張るなぁ」
「え、六種類では?」
先ほどの自分が数えた時は・・・・・・と千早が見ると五種類しかない。
占いの結果を持っていた髪の毛のボリュームが多い人形が見当たらない。
「いや、全部で五種類だぞ。どうかしたか?」
彼の言葉に「なんでもありません」と千早は頭を振る。
「ところで千早、なにか嬉しいことでもあったのか。顔が綻んでいるぞ」
「ええ、ありました。でも、内緒です」
彼にそう答え、千早は店の外へと歩き出す。さっきの人形は自分を励ますために出てきたのだと思って。
そんな二人を物陰から「くっくっ♪」と小さな陰が見送っていた。
さあ、クリスマスまであと少し。明日からはコンビニ弁当としばらく離れられると思うと嬉しい