07/12/18 23:47:23 q+sL6+Sa0
■寿司屋(ランクS)
恥ずかしながら、俺は回らない寿司屋というものにはじめて来た。
俺達の血と汗と涙の出るような働きっぷりに、ボーナスもそこそこ出て一安心。
普段財布の管理に厳しい千早も今日だけは大目に見てくれるようで……それならば、と
以前千早がレポートで行った、回らない寿司屋へ行こうと言うちょっとしたイベントが決まった。
「トロと思ってバナナ喰え~♪(ヘイらっしゃい!)」
「音無さん、はしゃぐ気持ちは分かりますけどこういうお店で歌うのは……」
「あ、あれ?わたし歌ってた!?ご、ごめんなさい…こんな高級なお店ってはじめてで……」
店の大将は50代を過ぎたくらいの柔らかい物腰の人で、小鳥さんのお茶目を笑って許してくれる。
……っていうか小鳥さん。20年以上前に流行った大ヒット寿司ソングを何故知ってるんですか!?
しかも歌詞とか全然違うし!!
「えっと……俺達、慣れてないから良く分からないんだよな。【お任せ】で頼んでいいのか?」
「いえ、それは常連さんのすることです。はじめての人の場合、嫌いなネタがあるかもしれませんし、
最初は好きに注文していいんですよ。今日くらいは値段を気にせず食べてみませんか?」
「そうよね♪すみません、アワビくださいー」
「うお!?小鳥さん度胸あるな……」
千早の言うとおり、こんな高級店に足を踏み入れた時点でそこそこの出費は覚悟したんだ。
ここで引いては男がすたる。俺も金目鯛と寒ブリを頼んでその美味さに驚いた。
「凄い……芸能人ってやつは、仕事でこんなものを喰えるのか……」
芸能人をプロデュースする側にいる俺達だが、食生活まで同じわけじゃない。
千早もそんなに派手な生活はしていないが、国民的アイドルともなれば最高ランクの食事を
口にすることもある。グルメレポートなどの仕事も何度かするし、
食事に関する経験値から言えば完璧に俺より上なんだろうな。
しかもその経験値を毎日の料理に持ち込もうとするから……俺の食う晩飯も、なにげにレベルアップしている。
食材を買うお金は折半だが、千早の手間賃や技術料を考えるとその5倍は払っていい気がするぞ。
「生タラバガニと河豚の白子、あとは……え?関サバあるんですか?じゃ、それを」
「プロデューサー……コンサートのプログラムというのは、すでに決まってますよね……」
「ああ、そうだけど」
「このように、お客さんと1対1のお仕事なら、年齢や好みでネタを替えられます。
ですが、数万人を相手のコンサートなどではそれはできませんよね」
「そうだな。一人を指名してリクエストを聞いたりしたら、それこそ暴動になる。
だからこそ、俺達は必死にプランを練るんだ。アンコールからトークまで。
来てくれたお客さんたちが、明日も頑張ろうと思えるようなステージにするために」