FFDQバトルロワイアル3rd PART12at FF
FFDQバトルロワイアル3rd PART12 - 暇つぶし2ch283:名前が無い@ただの名無しのようだ
07/12/30 00:06:33 kYOCXeGWO
>>281
あ…はい…

284:名前が無い@ただの名無しのようだ
08/01/02 16:05:48 Q+j+nPTE0
新年初の保守

285:名前が無い@ただの名無しのようだ
08/01/05 18:53:44 aXURgPpo0


286:欺かれて、裏切られて、騙されて 1/20
08/01/06 19:29:50 0vMLZVLY0
「一人呼ばれたようだけれど、大丈夫?」
「気持ちは落ち着いたさ。いつまでも泣いてたんじゃ、死んじまったやつらに笑われちまう。
 そりゃ、悲しくないっつったらウソになるけどな」
元の世界では、自分はバッツらを助けるために身を犠牲にした。
ガラフも、エクスデスの攻撃からバッツらをかばって死んだ。
だが、そのことでバッツらがエクスデスの討伐を諦めたか。そんなことはありえない。
ますます、決意を固めたはずだ。
悲しいのは誰だって同じ、でもそこから前に進めないとしたら、それは己の弱さのためだ。
いちいち感情にとらわれて、そのたびに誰かに喝を入れられるようじゃ、カッコ悪すぎる。

「へえ、ギルガメッシュ、泣いてたんだ…」
「そんなことはねえよ! 何だ、ほら、言葉のあやってやつだ」
「ん~、まあ大丈夫そうだね。ところで、あれ見て」
スミスの指差す先、ミスリル鉱山の真ん前には先ほどまではなかった、例の青い渦。
「僕としては、カインが戻ってくるかもしれないからここで待ちたいんだけれど。
 それに、あいつらもこっちに戻ってくるかもしれないしね」

あいつらとは、当然アルスとザックスのことだろう。ここを離れておそらく2~3時間。
戻ってくるか来ないかは微妙なところだ。だが、人に会うのは悪くはない。
脱出派なら一緒に行動し、殺し合いに乗ってるなら倒すだけだ。
「だな。しばらく待ってみるとするか」

数分後、準備をすると言ったギルガメッシュが見つけてきたのは大きなタル。
タルというものは意外と頑丈で、特に良質なものなら例え高度数千メートルの山を転がり落ちてもびくともしない。
彼が酒場から見つけてきたものも、ところどころ小さな穴は開いているものの、ほぼ原形をとどめている。
「で、何に使うの?」
「これを旅の扉の前に置いてだな…」
「怪しすぎるでしょ」



287:欺かれて、裏切られて、騙されて 2/20
08/01/06 19:30:39 0vMLZVLY0

「意外と余裕があるな。急ぐ必要はなかったかもしれない」
ウルとカズスの中間辺りで放送を聞いたアルスたち。彼らが向かった先はカズス。
残り二時間で道のりの半分、森を抜けウルの村を探索するのは危険。
カズスは残っている建物も少なく見通しが良く、さらに地理を知っているため旅の扉を見つけやすいと考えたのだ。
一度歩いたためだろう、戻りはスムーズ、早歩きではあったが余裕で間に合いそうだ。
草原を横切り、峡谷を駆け抜け、廃墟と化した村、その外れの森まで来たところでザックスは手で制す。
旅の扉前が待ち伏せに最適であり、一日のうち最も危険な場所だというのをザックスは嫌というほど理解している。
自分達がここを離れて数時間、だが別のルートから誰かが来ていないとは限らない。
異常を見逃さないよう、急ぎながらもここからは慎重にカズスに進入する。
かつては泉のあった家屋。今では廃墟となった、その向こう、隠そうとしながらも隠しきれていない気配。

「そこにいるのは誰だ?」
僅かに空気の震えが感じられる。しかし返事は無い。
「こちらから危害を加える気はない。戦う意思がないなら、出てきてくれ」
持っている武器を前方に捨てる。
廃墟の向こうからの視線は確かに感じられる、だがやはり返事は無い。
髪をいじっているような音、体がこすれるような音、僅かに聞こえるズリ、ズリと靴が地面を擦る音。
耳を澄ませば色々聞こえてくるが、出てくる気配はない。そこに感じるは、困惑と警戒。

「どうする?」
ザックスに意見を求める。
ザックスは喋れない。代わりに予め二人の間で決めておいた簡単な合図、そして振りで疎通を図ることにしている。
彼はアルスを指す。主に衣装。特に覆面。拒絶。


288:欺かれて、裏切られて、騙されて 3/20
08/01/06 19:31:29 0vMLZVLY0
アルスにとっては大切な父親の形見。ザックスもそれは十分に理解している。
ザックスの場合は、オルテガの声を知っていたし、オルテガと一緒にいたユフィとアルスの様子を見ても、信用に足ると思った。
だが、現在の状況は声を出さない男と覆面マント。いることがバレても一向に出てこないあちら様。
向こうにしてみれば、こいつらどうすればいいんだろうという感想を持つだろう。

それでもアルスは首をかしげる。
「ザックス、君の言っていることがよく分からない。
 僕が何か不審なカッコウをしているとでも言うのか?」
いやいやフシンだろ、そう突っ込みたいが声は出せない二名。
アルスの、いや、約半分の参加者の世界ではこれは標準衣装なのだから仕方がない。
「だが、考えてみれば僕の顔が分からなければ向こうも不安になるのかもしれないな」

アルスは覆面だけを脱いだ。やっぱり怪しいだろと思ったがもう仕方が無い。
向こうに危害を加える気はなさそうだから、出てこなければ無視して向かうだけだ。
だが、アルスが顔を見せるとすぐに杖を片手に持った金髪の少女が安心した様子で顔を見せた。
ふと、感性がずれているのは自分なのかと思ったが、もう気にしても仕方が無い。

アルスができるだけやさしく、少女に声をかける。
「僕はアルス。こっちはザックスだ。彼は言葉を話せないが、怖い人じゃないから安心してくれ」
そりゃないだろ、とザックスはアルスを肘で小突く。少女が手を口に当ててくすくすと笑う。
「  …私はタバサです。よろしくね、かっこいいお兄さんたち」
「よろしく。ところで、タバサちゃんはここで一人で何をしてたんだ? 他に仲間は?」
「仲間は……セージお兄さんと一緒だったけれど…」
「セージ? セージと一緒だったのか? いつ、どこで?」
数秒の沈黙。微妙に角度を落としてうつむく。タバサの顔に影がかかる。
隣が、お前女の子とほとんど話したことがないだろ、と言っている気がした。NGワードだった。
「あ、いや、別に無理に言わせるつもりはなくて…」
「ご、ごめんなさい。でもお兄さん達は気にしないで。放送でも呼ばれなかったし! きっと大丈夫よね!」

289:欺かれて、裏切られて、騙されて 4/20
08/01/06 19:32:20 0vMLZVLY0
なんとなく気まずい雰囲気。それを感じたのか、少女はここにいた理由を話し始める。
「え~と、お兄さんたちは旅の扉を探してるんだよね? ここにいたワケは、見てもらったほうが早いと思うの」
少女が旅の扉への案内を始める。
西部から南回り。この辺りは爆心地から離れていたこともあり、比較的損傷が少ない、
といっても、壁や地下室が残っていたり瓦礫が散乱していたりという状況であって、
普通に見れば大災害を被っているのは変わりはないのだが。
武器防具屋の廃墟の影から旅の扉を覗く。旅の扉は鉱山の前、爆心地のほぼ近くだ。
が、扉の真ん前に、あからさまに怪しいタル。荒涼とした風景に、ポツンと佇むタル。
さすがにここまで怪しいと、すがすがしい気分になってくる。

「君のイタズラじゃないよな? いや、あんな大きなタルを運ぶのは無理か。
 ……あれは、新手の冗談か? どうする?」
こうまで怪しいと、逆に中に誰か潜んでいる可能性も否定しきれなくなるものだ。
最悪、二人以上で襲ってくる可能性もある。
他に敵がいるとすれば、フリオニールやピエールのような砂の下からの奇襲、または遠距離魔法攻撃。
呪文で先制攻撃を仕掛けるにしても、今の位置からだとちょっと遠い。
先頭はアルス、最後尾に少女。射程距離圏内に入るまで、異変がないか、目を凝らして一歩一歩進む。
先ほどから僅かに感じていた、どこからともなく湧き出てまとわりついてくる、黒く、重い気配。
出所は特定できないが、誰かいるのは間違いない。


290:欺かれて、裏切られて、騙されて 5/20
08/01/06 19:33:09 0vMLZVLY0
武器防具屋を過ぎ、宿屋まで来たところで左前方に違和感。ガリガリと小さな小石を踏むような音。凝視。
瓦礫の下から覗く、茶色い筒。さらに、何かが燃え伝っていく音。筒の狙いは少女。
背伸びをしていて、銃口には全く目が行っていない。
ザックスの思考はこの間一瞬、経験で慣らされた体は自然に少女をかばう。
位置、距離、音。少女を銃弾の軌道からずらし、かつ自分が避ける時間は十分にある。
少女を突き飛ばす。数瞬後れて発砲音。太腿に、撃ち抜かれた衝撃。

(????)

まず、銃弾をかわせなかったことへの疑問。少し遅れて太腿に来るじんじんとした痛み。
本来なら、少女と一緒に前方に倒れているはずなのに、自分は少女のいた位置に留められた。
思い返せば、少女を突き飛ばす際、何故か同じ力で押し返されたような感触。
だが、その異変の正体がつかめない。
「お兄さん、大丈夫!?」
「ザックス、タバサを連れて今すぐそこから離れろ!」
とにかく、ここにいるのは危険。武器防具屋の表まで撤退。




291:欺かれて、裏切られて、騙されて 6/20
08/01/06 19:33:59 0vMLZVLY0

「おらあっ!! ギルガメッシュチェーンジ!」
ギルガメッシュが気合十分に飛び出す。
飛び出すと同時にチェンジは完了、銅の剣とロングソードを、そしてミスリルアクスを持って、大振りにアルスに斬りかかる。
ロングソードはレオンハルトの使っていたもの。アルスの心がふつふつと煮えくり返る。
アルスはラグナロクを逆手に斬撃を受け止める。
武器はアルスのほうが上だが、力と手数はギルガメッシュのほうが圧倒的に上。さすがに押されてしまう。
ザックスが負傷している以上、ここを突破されてしまうわけにはいかない。
「心配しなくとも向こうにゃ手は出さねえよ」
ギルガメッシュの口元が歓喜に歪んだ。
「おう、やっと会えたな。昨日の朝から、ずっと探し回ってたぜ」
「何を言ってる? 人違いじゃないのか?」
アルスに面識は無い。それどころか、今までの行動を振り返っても、こんなに付け回されるような理由は浮かばない。
「何がなんだか分からねえって顔してやがるな。なら、手に持ってるその剣に聞いてみるんだな」
そう言われても、ない理由はどこを探してみてもない。
「誤解じゃないのか!? 確かにこの剣は僕が持っているが…」
「フリオニールを殺して手に入れたもので、サリィを殺して手にしたもんじゃない、そう言いたいんだよな?
 どっちにしろ、同じことだ! お前らみてえなクソヤロウが使っていいもんじゃねえんだよ!」
まるで筋の通らない理屈。しかも、関係のない少女まで巻き添えにしている。
どうやら、交渉の余地のある相手ではなさそうだ。
「お前の言い分は分かった。こっちとしても自分の勝手な都合に皆を巻き込むようなやつは野放しにできないな」
「そう、それだよ。お前らはいつもそうやって善いやつを気取って、尤もらしい理屈をこねて、油断したら後ろからグサリだ。
 もう俺は騙されねえ! ここでお前の息の根を止めて、ラグナロクも取り返させてもらうぜ!」


292:欺かれて、裏切られて、騙されて 7/20
08/01/06 19:34:53 0vMLZVLY0



合点のいかないことはあったが、襲撃された以上同じ場所で考え込むわけにも行かない。
昨日も意識と行動がかみ合わないことはあった。ピエールに放たれた例の魔法弾の効果が残っているのだろうか。これはあり得る。
だが、もう一つの可能性……この少女自体があの襲撃者とグルだったりしたら…?
止血もそこそこに、様子を見る。今のところ敵は一人。他に誰かが潜んでいるような気配もない。
ザックスはこの襲撃者を見たことがある。カナーンで、オルテガらに拾われ、イザたちに看病されていた男。
だが、あれほどうなされ、懺悔していた男がこうまで変貌するだろうか? 誤解をしているような面もある。
それに、襲撃者こそ一人しかいないが、どうも誰かに監視されている感触が拭えない。
「お兄さん、どうしたの?」
体の隅々までじっとりと舐めまわされるような、嫌な気分。それがすぐ近くから常に感じられる。
そう、この少女と出会った時から!
「ふ~ん、もう気付いちゃったの? どうだった? なかなか上手い演技だったでしょ」
少女の瞳の奥が不気味な滅紫色に変色。フラッシュのように光が照射される。
尤も、カメラのような白い光ではなく、滅紫色の光なのだが。
反射的にバスターソードを抜き、あたりを薙ぎ払う。
「もう、いきなり斬りかかるなんて、女の子に対して失礼じゃない?」
相手はぴょいと攻撃をかわし、先ほどまでと変わらない、だが今では邪まなものにしか感じられない笑顔を向ける。
こんな邪気に満ちた女の子がいるか、子供はもっと無邪気なもんだ。
そんなふうに悪態を付きたい気がした。
金髪に気を付けろ。カナーンでイザたちから聞いた、そのフレーズが頭をよぎった。




293:欺かれて、裏切られて、騙されて 8/20
08/01/06 19:35:42 0vMLZVLY0


「うりゃっ!」
ギルガメッシュは、雄たけびを上げ、力任せながらも急所は外さない。
だが、勝負が付かない。徐々にギルガメッシュに焦りの色が見えてくる。
ギルガメッシュが攻撃を繰り出す。アルスが攻撃を受け止める。繰り出す。受け止める。繰り出す。受け止める。
繰り返し。アルスは確実に三本の武器をさばいていく。守り一辺倒、だが押されている気配は無い。無駄な動きもない。
このままでは、タイムリミットまで打ち合うことになりかねない。
「このままじゃ埒が明かねえな…」
「だったら、一旦出直して来たらどうだ?」
「へっ、そうはいくか! こっちにはまだまだ奥の手は残ってるんだぜ!」
武器と武器がぶつかり合い、互いに弾き合った反動を利用して、ギルガメッシュが大きく飛びのく。
反撃に転じようとしたアルスに、武器を持っていない手を向ける。

「何をする気だ?」
ギルガメッシュの手に集まる光を見て、警戒するアルス。確実にかわせるよう、集中を向ける。
が、それがよくなかった。膨れ上がった光は爆発し、太陽ほどの強さの光がアルスの網膜を傷つける。
青魔法フラッシュ、アルスの知識にはない目くらましの魔法だ。
思わず態勢を崩してしまう。マズい!

「ここだ!」
三つの武器を縦、横、斜めの三方向から一点に集中!ギルガメッシュの渾身の一撃!

ガギィィィン! くるくるくる さくっ さくっ


294:欺かれて、裏切られて、騙されて 9/20
08/01/06 19:36:32 0vMLZVLY0
「ありゃ…? お、俺の武器が!」
ロングソード。アルテマソード、ラグナロクと最強クラスの武器を相手に悲鳴を上げながらも打ち合い続けた猛者。
銅の剣。世界のオブジェの一つでありながら、数々の戦いを演じてきた名脇役。
ギルガメッシュの腕力、そして度重なるラグナロクとの剣戟に耐え切ることはできず、粉々に砕け散った。
飛び散った剣の破片がギルガメッシュの腹部に突き刺さる。

「ま、待て、俺が悪かった!」
「マホトーン」
「くそ、こんなに強いとは……」 プロテス。効果が無かった。
「これじゃ、てもあしもでないぜ……」 シェル。効果が無かった。
「って、きたないぞ!」 ヘイスト。効果が無かった。
「手数が減った分を、呪文でカバーする気だったんだろう? 丸分かりだ」
「ならオレ様の真の剣技を見せてやる!」
ギルガメッシュはミスリルアクスを全手持ちして、アルスに襲い掛かる。
アルスは未だフラッシュの効果が抜けず、三種の武器の攻撃による衝撃で腕が痺れている。
ミスリルアクスの横合いからの一撃は、ラグナロクを岩壁へと吹き飛ばしていた。





295:欺かれて、裏切られて、騙されて 10/20
08/01/06 19:37:21 0vMLZVLY0


ぞくぞくする。思わず身震いしてしまう。今ならどんな病気にも一秒で感染できてしまいそうだ。
さっきの瞳に宿った不気味な光を見てしばらくして、なにやら背筋が寒くなった。
張り詰めていた全身の筋肉と神経が、一気に萎んでしまう感じ。
「ほら、お兄さんみたいな人間って心の力が強いでしょ?
 どんなに怪我しても、ナントカのため~ナントカのため~で耐えちゃう。
 そこで、その抵抗力ってヤツを消させていただきました。あ、でもすぐ元に戻るから安心して」
何かの魔法だろうか、紫の霧が発生して、まわりの風景が歪む。
すぐに幻影だと分かり、目で見るのは諦め、あの邪気だけを追う。敵は動いていない。
すぐに、今度は甘美な香りが鼻を満たし包み込んだ。
これも幻、そう思いたいが、幼いころ、いや、まだ物心付く前にきっと体験した懐かしい匂い。
望郷の念が湧き上がる。まぶたの裏に母の幻影が見える。故郷の幻影が見える。
そう、これは幻影。この香りは獲物を堕とすトラップ。
根源はきっとその向こう。人を惑わすこの甘い空間を通り抜けて、一撃くらわせられれば。
なのに、ダメだ、眠い、耐えられない。体も心も言うことを聞かない。どうした、オレの体………。
「もう、抵抗力が落ちてるって言ったじゃない。体が別物になってるってコトを理解しないと。さて…と」
ごそごそという音が聞こえる。ザックを探っているようだ。
だが、何をする気なのかは考える暇もなく、意識は夢の世界へと落ちていった。




296:欺かれて、裏切られて、騙されて 11/20
08/01/06 19:38:22 0vMLZVLY0

「イオラ!」
下は小石混じりの砂地。アルスが地面の砂を巻き上げる。
フラッシュの効果が残り、まだ上手く目を開けられない。腕は痺れが取れない。
ドラゴンテイルで、腕八本分の攻撃なんて受け止められるわけもない。
接近戦は今しばらく避けるべきなのだ。
もうもうと立ち上る砂煙が、ギルガメッシュにアルスの位置を視認させない。

「くそ~、目くらましとは! だけどな…」
ギルガメッシュが剣の持ち方を変える。足に力を込めて、大きくジャンプ。
「上空には砂はとどかないぜ!」
もうもうと巻き上がる砂、その中に見える黒い影。
「場所が丸分かりだ! 態勢を立て直すつもりだろうが、そうはさせねえ!」
影目掛けて斧を突き出す。

ぞくりと背筋が寒くなる。砂煙の合間から向けられる鋭い眼光。
もう攻撃の態勢に入っている。今更変えられない。
だが、そもそも態勢を変える必要すらないのだ。



297:欺かれて、裏切られて、騙されて 12/20
08/01/06 19:39:12 0vMLZVLY0

接近戦では不利だが、それならば一帯全てを呪文でなぎ倒せばいいだけだ。
手加減が出来るような相手でもない。雷の威力を軽減するようなものもない。
アルスは左手の指を立て、天へと向ける。空気は酷く乾いている。
影が映る。上空に見えるギルガメッシュの姿。あの攻撃は、カインとの戦いを通して知っている。
だが、今更詠唱を止める必要はない。敵が落ちてくる前に、詠唱は完了するのだから。
アルスを取り巻く魔力は青い粒子へと変質し、その指先を伝って天空へと流れていく。

「アルスお兄さん」
自分の後ろに小さな影。何故来た、そう思っても詠唱は途中、もう止められない。
せめて自分の前に出ないよう、右手で制す。
空高くにて粒子は高速で渦を巻き、空気中の水分を砕き、擦り、静電気へと変化する。

「ザックスお兄さんから…」
横目で確認、片手に剣を持っている。波状で、燃えている刀身はザックスの持っていたフランベルジェという剣。
武器が飛ばされたのを見て、届けに来てくれたのだ。
蓄積された静電気はやがて雷で出来た雲となる。あとはアルスによって言葉が紡がれるのを待つだけ。

疑問が湧いて出た。フランベルジェは、燃えるような刀身を持つ剣、だったが実際に燃えている剣だったか?
それに、どうしてその剣先をこっちに向けている?
「渡してくれって…!」
気付いた時には、ずぶりと肉が貫かれる感触が、そして胴体にごうごうと燃えるフランベルジェが突き刺さっていた。
波状の刀身は深々と突き刺さり、簡単に抜くことはできない。
炎は父の残したマントと共に、アルスの体を内部外部両部から炭と灰へと変えていく。
死はすぐそこまで迫っているらしい。体験してみると、あまりにあっけないものだ。
だが、まだ意識はハッキリしている。口は動く。声は出る。心は生きている。雷雲は消えていない。
せめてもう一足掻き。対象は、自分を含めて辺り一帯。
「ギガ…デ……」
最後の文句を唱えようと、天を見上げたアルスが最後に見たのは、焼け焦げて宙に舞う自分のマントの一部と、
己に向かって振り下ろされるミスリルアクス……父の形見である戦斧の鈍い輝きだった。


298:欺かれて、裏切られて、騙されて 13/20
08/01/06 19:40:08 0vMLZVLY0

「随分上手くいったな…。はっきり言って、後味はよくねぇがよ」
作戦は簡単、少女の姿で油断させ、例の二人が来た場合は分断して一人ずつ始末するというだけ。
銃はギルガメッシュが狙ったのではなく、予め銃弾の通る延長線上に敵を誘い込んだだけだ。
背伸びを合図に銃を発射、当たろうと当たるまいとかまわない。どっちにしろ分断の理由はできるのだ。
「ところで、お前いつまでその姿でいるんだ? 二人とも死んだんだし、必要ねえだろ? そういう趣…」
「自力で戻れないの。あ、これ知ってる。遠くにあるものを攻撃する武器」
少女=変化の杖で化けたスミスがアルスのザック…フランベルジェを突き刺すと同時に奪い取ったザックを物色する。
まず目に付いたのが、黒く大きな金属製の機械。大型マシンガンだ。
「え~と、これは設置すればいいのかな?」
「そいつは銃みたいなものなのか?」
武器マニアのギルガメッシュとしては、この類の武器は物珍しいのか、横合いからペタペタ触ったりバンバン叩いてみたりする。
「あ、あんまり乱暴に扱わないでよ。壊れちゃうかもしれないし。
 多分銃と同じものだと思うけど、じゃあ、あのタルで実験してみようか」
マシンガンを向けた先は、例の旅の扉前に置いてあるタル。
要は囮とあっち方向に逃げられないようにするための保険といったものだ。
当然中に人も魔物も入ってなんかいない。
デールが使っていたのを思い出しながら、見たとおりに引き金を引く。
辺りを切り裂く絶叫は鉄の悪魔と呼ばれるに相応しい。
ただの銃とは比べ物にならない量と数の弾丸が樽の木板をみるみるうちに粉砕していく。




299:欺かれて、裏切られて、騙されて 14/20
08/01/06 19:41:00 0vMLZVLY0

甘い息とマヌーサによって作られる幻影の空間。
元々甘い息の効果は短い。密室ならともかく、成分が風に流される屋外ではすぐに効果が切れてしまう。
それに、すぐ近くでマシンガンの掃射音がする。マヌーサも解け、脳が覚醒する。
まず彼が見たのは、パチパチと燃える人型の炭。マシンガンを撃つ少女とそれを隣で見ているギルガメッシュ。
「とんでもねえ代物だな…」
「だね。間違って人に向かって発射しちゃったら大変なことになるね」
マシンガンの威力に驚く二人。確かに、あれをまともにくらえば自分だってひとたまりもない。
それだけなら、不意を撃って一人、特に少女の姿をしているほうだけでも仕留めようと思ったかもしれない。
だが、直後に見た光景はそれを思いとどまらせるに十分だった。

少女が屈託の無い笑顔を浮かべる。
マシンガンの威力に唖然としているギルガメッシュのほうに振り向く。マシンガンの銃口ごと。
「こんなふうに、さ」

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!

マシンガンは唸りをあげ、唖然とする……
仲間に銃口を向けられたことに唖然とするギルガメッシュの腹部をぶち抜いた。


300:欺かれて、裏切られて、騙されて 15/20
08/01/06 19:42:07 0vMLZVLY0
「あははははははははは! 凄い、凄いね!
 はは、うん、無理に喋らなくていいよ。何が言いたいのかは大体分かるから。
 フライヤにも同じことを言ったんだけど、最初からこういうつもりだったんだよ。
 ご苦労様でした。今まで思い通りに動いてくれて、ありがとう。感謝してる。
 感謝してるけど、いちいち誰かを悪役に仕立て上げるのも手間がかかるんだ。だからそろそろさよならしよう?」
「あ、そうそう、いいこと教えてあげる。さっき戦った二人とも、別にフリオニールの仲間なんかじゃないんだよ」
ギルガメッシュの目に様々な色が浮かぶ。驚嘆、憤怒、後悔。
現実の否定と、現実からの逃避を求める気持ちが少しだけ現れる。
「いいじゃない。君はよくやったよ。フリオニール君は死んだし、剣も取り戻しました。めでたしめでたし。
 一人殺して、ゲームにもしっかり貢献しました。でも、これ以上アンタに何か出来ることなんてあるのかな?
 ゲームを止める? 単純で戦うしか能の無いキミが? 寝言は死んでから言いなよ」
スミスはギルガメッシュが落としていたラグナロクを拾う。誰の手に渡ろうと、輝きは変わらない。
だが、ギルガメッシュにはこの剣が寂しい光を放っているように見えて仕方がなかった。
「この武器がお気に入りみたいだから、これでとどめを刺してあげる。
 アンタのために作られた武器が、アンタの命を完全に断つわけさ。きっと、サリィさんも本望だと思うよ?」
スミスが両手でラグナロクを持ち、ギルガメッシュに刃を向ける。


301:欺かれて、裏切られて、騙されて 16/20
08/01/06 19:43:12 0vMLZVLY0
まるで衰えを見せない、ラグナロクの輝き。
ギルガメッシュが生涯で手にした武器の中で、もっとも強く、もっともシンプルで、もっとも美しい。
命を分けてくれたとか、そんなご大層なものじゃないが、まだもうちょっとだけ動けそうな気がする。
スミスを許せないという怒り、それとも一矢報いようとするプライド、これ以上この剣を汚させないという想い。
サリィやわるぼうの復讐、限界までやってやるという自暴自棄に近い感情。
とにかく、もう下半身に命令は伝わらないが、上半身に残った全血、神経、筋肉を酷使。スミスに飛びつく。
ギルガメッシュはもはや生きているだけの死体。そう思っていたスミスは、最後の抵抗をかわせない。
ギルガメッシュに組み付かれ、押し倒される。ギルガメッシュには、ラグナロクが刺さったまま。命がとくとくと零れ落ちる。

「ちょ、ちょっと、離せ、何すんのさ死に損ない!」
それでもなお残った命。それら全てが輝き、それは無数の赤い粒子となる。
粒子はギルガメッシュを中心に広がり、辺りを包み込む。
「大人しく死んどけって、今更になって何足掻いてんのさ!」
押し返して、起き上がり、足で蹴り付け、腕を振り払おうとしてももう動かない。
「~~~~~!!!!」
ギルガメッシュは黒髪の剣士、ザックスと目が合った。
彼の目がどんな色を湛えていたのか、ザックスにも分からないだろう。
次の瞬間には、ギルガメッシュの体は真紅に包まれて、回りの世界を紅一色に染めたのだから。





302:欺かれて、裏切られて、騙されて 17/20
08/01/06 19:44:04 0vMLZVLY0


どれくらいの時間が経ったのか。数秒かもしれないし、数分かもしれない。
ギルガメッシュの体は消失してしまい、自爆に巻き込まれたあのマシンガンも、原形は保たれているが使えないだろう。
アルスの遺体は未だにパチパチと燃え続けている。少女の姿はどこにも見えない。
少女を探す暇はないかもしれない。あとどれくらいでタイムリミットが来るのか分からないのだから。
足元に飛ばされてきたのは、ギルガメッシュが持っていたザック、そしてラグナロク。
至近距離での爆発を受けたのにも関わらず、ラグナロクにはどこにも損傷が見当たらず、その輝きも衰えることがない。
アルスの形見というわけではないが、何故かこの剣を持っていてくれと言っているような気がした。

時間は今どれくらいなのか分からない。もしかしたら、まだ余裕はあるのかもしれない。
ただ、それでももうこの村にこれ以上留まる気にはなれなかった。
この村、いや、この世界は悲しいことが多すぎた。半ば、一度だけ振り返る。
パチパチと炎が燃える音と、風の音が聞こえるのは相変わらずだった。
旅の扉へ飛び込もうと踏み出す。
「ザックスさん」
聞こえる猫なで声。戦いの元凶。
旅の扉の向こう、鉱山の入り口に壁を背にして少女が立っていた。


303:欺かれて、裏切られて、騙されて 18/20
08/01/06 19:44:55 0vMLZVLY0
「伝えたいことがあって、待ってた」
爆発を至近距離でくらったにもかかわらず、顔も服も綺麗なままだ。
なんなんだこいつは? そもそも生物ですらないのか?
「仲間さん、もうほとんど生き残ってないんだよね?」
お前が殺したんだろう、そう言ってやりたい。
今すぐこの場で八つ裂きにしてやりたい。でも、剣の攻撃は届かない。

「私がやったことは、全部が貴方がやったこと。次の世界でそう広めてあげる。
 きっと正義のヒーローたちが我先に貴方を殺そうとするだろうね」
風魔手裏剣を投げても、やはり本職ではないと使いこなせないのか、当たらない。
かまいたちは、相手に届く前にかわされてしまう。
相手に近付こうにも、旅の扉を軸に自分と相手が回るだけだ。

「さて、狙われたザックスお兄さんは、みんなを説得することができるのでしょうか?
 それともできないまま終わるのでしょうか?」
少女と目が合いそうになる。目をそらす。まともに見てしまえば、あの不気味な光を受けてしまう。

「これが貴方を生かした理由。全員死んでしまったら、後に続かないからね。
 何故教えるのか、それは自分で考えてね」
少女はごそごそとザックをいじる。
突然投げられた、小さく厚みのある本。バスターソードの腹で受け止める。
アルスの持っていた官能小説。受け止めるものも無く、地面にことんと落ちた。

「それは餞別にあげるね…」
言葉。餞別というより、ただの囮と目くらましに使ったに過ぎないのだろう。
少女の姿はどこにもなかった。次の世界へ向かったのだ。
地に落ちた本は開かれ、風に吹かれてぱたぱたと捲れていく。
やはり、この世界はあまりに辛いことが多すぎた。辛いことの後には楽しいことが待っていると聞くが、
扉を抜けた先に待つのは苦難と悲哀だけなのだろう。それでも、ここで立ち止まることはできないのだ。


304:欺かれて、裏切られて、騙されて 19/20
08/01/06 19:45:43 0vMLZVLY0


やっぱり旅の扉の前は罠を張りやすい。
ザックスに生きていてもらったのは、一人生き残りがいないと誤情報が広がらないからにすぎない。
そもそも、タバサに化けた理由は、自分が最も始末したい人間だからなのだ。
アルスとギルガメッシュはうまく殺せたが、実のところは二人の生死もどちらでもよかった。
ここまでやれば、ザックスは確実にタバサを危険な快楽殺人者だと思い込むだろう。
だが、タバサと実際に会っている一部の人間は、彼の話の矛盾にきっと気付く。誤解と疑心暗鬼の誕生だ。
うまくいかなくとも、こっちの足は付かない。
ちなみに、ザックスを殺人者に仕立てるのはやってもいいが、やらなくてもいい、その程度のこと。

変化の杖を使ったのは三度。アルスらに会う前、ザックスを無力化したとき、そして爆発で吹き飛ばされた後。
とにかく自分にとっては利用価値が大きい。
でも万能ではない。会ったことがあれば十分化けられるが、数分ごとに使っていないとすぐに効果が切れてしまう。
使うたびに数秒だけ元の姿に戻るから、集団に紛れ込むのは正直難しいかもしれない。
それに、怪我まではコピーできず、常に見た目健康な状態に変化してしまうので、それでバレる可能性もある。
あと、口調を変えるのにはまだ慣れていないと痛感した。

ギルガメッシュが瀕死だったため、自爆自体は大した威力は無かったが、あの至近距離で爆発を受けたのはさすがに痛かった。
魔法の絨毯を広げたから、落下の衝撃は和らげられたけれど。
多分、変化を解くとボロボロの状態なんだろう。今でも表面こそ綺麗だが、あちこちが痛いのだから。
次の世界は当分絨毯頼みにしようかな。


305:欺かれて、裏切られて、騙されて 20/20
08/01/06 19:46:34 0vMLZVLY0
【ザックス(HP3/8程度、左肩に矢傷、右足負傷、一時的に耐性減)
 所持品:バスターソード 風魔手裏剣(16) ドリル ラグナロク 官能小説一冊 厚底サンダル 種子島銃 デジタルカメラ
 デジタルカメラ用予備電池×3 ミスリルアクス りゅうのうろこ
 基本行動方針:同志を集める
 最終行動方針:ゲームを潰す】
【現在位置:新フィールドへ】

【スミス(HP1/5 左翼軽傷、全身打撲、洗脳状態、闇のドラゴン)
 所持品:変化の杖 魔法の絨毯 波動の杖 ドラゴンテイル 
 基本行動方針:ゲームの流れをかき乱す
 第一行動方針:カインと合流する
 最終行動方針:(カインと組み)ゲームを成功させる】
【現在位置:新フィールドへ】

【アルス 死亡】
【ギルガメッシュ 死亡】
【残り39名】


306:現実の対義 1/8
08/01/06 19:55:29 0vMLZVLY0

氷の上。煌く刀での一閃を、ラムザはしっかりと盾で受け止める。
部分的とはいえ湖すら凍らせるほどの相手に対して、ただ防戦一方。
敵の強さ以上に、ラムザはこの氷の下に消えた二人の生命を思って焦燥していた。
水中で―いや氷の中で人はどれくらい生きていられる?
迷うより先にラムザの身体は行動を起こしていた。その場から、はるか高く飛び上がる。
最高高度のジャンプ。一点を狙うその攻撃はセフィロスに読まれないはずもない。
結局、氷に深々とブレイブブレイドを突きたてただけ、その上崩れた体勢で次のセフィロスの攻撃を捌かなければならない。
剣を抜くことも盾を向けることも叶わず、ラムザはただ鎧の性能だけを信じてわずかに身体を捻った。
受ける角度を変えたことで胴を捕らえた刀は最高の鎧に跳ね返され、滑るように軌道をそらされる。
「………ッ……!! ほう、いい鎧を着ているな」
セフィロスがようやく繰り出したラムザの反撃が届く距離から離れていく。
慌ててこちらも身体を隠すように盾を構えて対戦の姿勢へと戻る。
しかし、真の狙い。あれだけ強烈に剣を突き立ててやった氷のほうは多少の亀裂が入ったもののまだびくともしない。
さらに何度か繰り返せばやがて割ることができるだろうが、そこまであとどれくらいかかるだろうか。
相手にも意図を読みとられるだろう。
「では、その首を落とそう」
朝の入射角の低い光が美しく、刀と銀髪から照り返る。
防御に徹すれば、かなり時間を稼げるとは思う。しかし、それから何か意味が得られるだろうか?


307:現実の対義 2/8
08/01/06 19:56:18 0vMLZVLY0
今までとはパターンを違えたセフィロスの攻撃がラムザを襲う。
常に本命の頭部への一刀必殺の攻撃に繋げることを念頭におきつつ、
反撃を誘うような剣が精密に偽装された荒っぽさをまとって圧倒してくる。
中途半端な反撃は死を招く。
防御か、氷を割るためにもう一度ジャンプを敢行するか。
前者は氷の下の二人を殺し、後者は自分を殺しかねない。自分と他人、二択。
思考する間をおかずに激しく斬りつけてくる攻撃の合間を衝いて
ラムザは氷を蹴って上空高く飛び上がっていた。

ターゲットは敵である銀髪・セフィロスではなく氷上の一点、つまり最初のジャンプで穿った場所。
計略も偽装もなくラムザは打ち割らんとする強固な意志をもって同じ場所を流星のように衝いた。
鋭い音を立てて亀裂が広がっていくものの、それでも巨大な塊の一部が抉れたという程度に過ぎない。
圧倒的な、不足。そして、誰も待ってはくれない。
放射線状に広がるクレバスの中心にいるラムザはさっきよりさらに回避行動を起こすに時間が必要で
反撃で斬る事を狙っていたセフィロスの攻撃はさっきよりさらに速い。
氷の上を風のように向かって来る氷と同じ色の剣士にラムザは抵抗する気を失うことは無いものの、
正直に言って死の可能性を―覚悟した。



308:現実の対義 3/8
08/01/06 19:57:07 0vMLZVLY0
盾を動かそうとする腕が重い。
すべてがスローモーションの世界。しかし、そこに通常の速度を持った何かが割り込んでくる。
セフィロスの進路と直交する形で突然に細かい氷が巻き上がり、衝撃が駆け抜けていく。
ラムザはそれを、知っている。
鍛え上げられた肉体と精神が産み出す地を走る衝撃を放つ技術―
「大気満たす力震え、我が腕をして 閃光とならん!!」
横合いからの奇襲を受け、銀色の疾風が対応すべく動きを緩める。
同じ方向に顔を向けたラムザの目に映るは白い騎士。
名乗りを上げるような言葉に従い幾筋かの雷がセフィロスに狙いを定めて降り注ぐ。
「無双稲妻突きッ!!!」







309:現実の対義 4/8
08/01/06 19:58:09 0vMLZVLY0

なぜか心地よい水の感触が肌を撫でていく。
短い手でしっかりとリルムを抱きかかえながら、ウィーグラフは水面下より深いところへと逃れていく。
水中に光が差し込んで来る方向から急速に水が凍りついていく音が追ってくる。
さらに必死に泳ごうと身体に力を込めたところでウィーグラフは今の姿が水中に適しているものだと気が付いた。
もっと強く、足で水をかく。カッパで無ければできない水中での機動力の発揮。
異常な速度で成長を続ける氷は巨大な浮氷塊を形作ったが、
努力のかいあってウィーグラフとリルムは凍結に捕まることなく逃れ去ることができた。

どうして、一人で逃げなかった?

結果的にセフィロスの攻撃を避けきったウィーグラフは、思い出すように自問する。
いや、あの時はこのカッパという状態が水中に適しているなどとも―
ああいや違う、もし術者であるリルムを殺されては元に戻る手段を―

頭上の光の調子が変化する。
水面を広く覆っていた氷の下を抜けたのだ。
抵抗するような力を入れず、ただウィーグラフに身を預けているリルムをちらりと見る。
そこにあるのは、信頼……だろうか。
信頼、信頼? ……自分には縁のない……無い? 何故? いや、そんなことは……



310:現実の対義 5/8
08/01/06 19:59:02 0vMLZVLY0
岸から急激に水中に落ち込んでいる土の壁、そして上に続く空を見上げる。
両足で絶妙に水をけり、ロケットのようにウィーグラフは水中を上昇していく。
その間も、考えは止まらない。
咄嗟の判断でリルムを助けたこと、そんな小さなことから
突然にウィーグラフは自分自身を客観的に相対化して見ることができるようになった。
内に生じた戸惑いもそれでいくらか氷解していく。
リルムを助けたのはウィーグラフ=フォルズであり、
ラムザに対する復讐鬼ウィーグラフでは、無い。
自分の姿と重なるように凶悪な復讐の仮面を被ったもう一人のウィーグラフがいる、
そんな構図が、見えてきた。

自分が本当にやりたかったことは、
いつだってそこにたどり着くまでの道のりで別のことに摩り替わっていた。
ある時は軍功でそのすべてを実現できると必死に戦い、
またある時はラムザを追うためだけに神殿騎士として活動した。
いつだって、いや誰だってそうだ。
役目だとか立場だとか仮面をかぶって満足に成し遂げられなかったやりたいことは何だった。
いつも真ん中にいたのは誰だった?
どうなのだ、ウィーグラフ=フォルズッ!! 思い出したかッ!?
自分がどういう人間なのかをッ! 何をやりたかったのかをッ!




311:名前が無い@ただの名無しのようだ
08/01/06 19:59:20 +rBSAsDd0
 

312:現実の対義 6/8
08/01/06 19:59:48 0vMLZVLY0
水から上がるとすぐに魔法の光に包み込まれ、ウィーグラフは元の姿を取り戻した。
失った側の目を押さえ、濡れた寒さに細かく身を震わせながらもリルムは残った目でしっかりと見つめてくる。
ウィーグラフは今し方助けた相手なのにすでに興味を失ったと言わんばかりにそちらを見ず
自分達が水に飛び込んだ方向―ラムザと銀髪を残してきた方向を見極めようとした。
ラムザはどうなったのだろうか。
「……助けてくれたから元に戻したけど、またすぐにカッパにするぞ」
背後からの脅しを受け流す。
戦闘の舞台はどうやら氷の上に移っているようだ。
「どっちなの? どーするつもぇッッ……!!」
振り返り様の一撃。
少女の鳩尾にウィーグラフの拳が容赦なくめり込む。
殺す気はない、障害にならない程度にわずかな時間無力化できればよい。
それは、今のウィーグラフ=フォルズが描く理想の中には無いことだ。
打撃の痛みより呼吸を妨げられる苦痛に身体をくの字に折るリルムのザックから手早く自分の剣と薬ビン一つを取り出し、
ウィーグラフは氷の戦場へ向けて猛然と走り出す。
その背を押す心地よい動機の追い風を感じながら。
今になってよく見える。
民間人でも、騎士でも、復讐鬼でもいつだって自分は徹頭徹尾、理想家であった―と。


313:名前が無い@ただの名無しのようだ
08/01/06 20:00:24 +rBSAsDd0
 

314:現実の対義 7/8
08/01/06 20:00:38 0vMLZVLY0
空高く、ラムザが飛び上がっていく。
跳躍力を逃げる方向に使えば、ラムザ一人逃げ切ることは容易なはずだ。
ウィーグラフは走りながら、自然と笑っていた。
可笑しくて仕方ない。ラムザよ、貴様はまったく可笑しくなるくらいに信頼に足る敵だ。
今、ウィーグラフが描く理想のために為さねばならないのは異分子の排除―以前討ち逃した銀髪の男を倒すこと。
ラムザとの正真正銘の決着はその後、一騎打ちでカタをつける。
素晴らしいではないか、この疑いなき理想のヴィジョンはッ!

標的を捉えることなくラムザの一撃はただ虚しく氷を穿ち、
機を逃すまいとセフィロスが刀を舞わせて落下地点へ挑みかかる。
ウィーグラフは大きく息を吐きながら、以前と同様に力を込めた腕で大地を叩く。
腕を伝わる大地の怒りを疾風のごとく―地裂斬。
衝撃が、突進していくセフィロスの進路と交差するのを確認しながら氷上へと飛び出した。
朝の光に輝くプレデターエッジを高く掲げ、聖剣技の題目を述べ、
「―無双稲妻突きッ!!!」
裂帛の気合と共に稲妻を、剣を振り下ろす。



刀の向こうのいつかの鋭い眼光と再び合い見え、ウィーグラフはしっかりと敵を認識した。
理想のオーダー。セフィロスを斬れ、ラムザはその後。
思い描いた理想の通り―何も、惑うようなことは無い。
ウィーグラフはいつだって理想の実現を内面での動機にして戦ってきたのだから。

「ウィーグラフッ!!」
「黙れラムザッ! 馴れ合いに来たのではないのだッ!
 死に損なったかッ、銀髪の男よッ!! 貴様の敵はこの私ッ、さあ引導を渡してやろうッ!!」

315:現実の対義 8/8
08/01/06 20:01:50 0vMLZVLY0

【セフィロス(HP 1/2程度)
 所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠
 第一行動方針:ウィーグラフ、ラムザとの戦闘
 基本行動方針:黒マテリア、精神を弱体させる物を探す
 最終行動方針:生き残り力を得る】
【ウィーグラフ(HP1/4)
 所持品:プレデターエッジ、エリクサー
 第一行動方針:セフィロスの撃破
 基本行動方針:ラムザと決着をつける】
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5)
 所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
 第一行動方針:セフィロスとの戦闘
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【現在位置:湖南岸部の氷上】

【リルム(HP1/2、右目失明、魔力消費)
 所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー×2
 スコールのカードデッキ(コンプリート済み) 黒マテリア 攻略本 首輪 研究メモ
 レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 首輪 ブロンズナイフ
 第一行動方針:セフィロスと戦闘し勝利あるいは無事に逃げ延びる(ウィーグラフは敵?味方?)】
【現在位置:湖南部の岸】


316:パラメータ修正
08/01/06 20:08:20 0vMLZVLY0
パラメータ微修正。セフィロスの体力を少し減らしておきます。9/20よりはこっちの方がいいかな…

【セフィロス(HP 1/2弱程度)
 所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠
 第一行動方針:ウィーグラフ、ラムザとの戦闘
 基本行動方針:黒マテリア、精神を弱体させる物を探す
 最終行動方針:生き残り力を得る】
【ウィーグラフ(HP1/4)
 所持品:プレデターエッジ、エリクサー
 第一行動方針:セフィロスの撃破
 基本行動方針:ラムザと決着をつける】
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5)
 所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
 第一行動方針:セフィロスとの戦闘
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【現在位置:湖南岸部の氷上】

【リルム(HP1/2、右目失明、魔力消費)
 所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー×2
 スコールのカードデッキ(コンプリート済み) 黒マテリア 攻略本 首輪 研究メモ
 レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 首輪 ブロンズナイフ
 第一行動方針:セフィロスと戦闘し勝利あるいは無事に逃げ延びる(ウィーグラフは敵?味方?)】
【現在位置:湖南部の岸】


317:名前が無い@ただの名無しのようだ
08/01/13 16:16:07 VO8dk/DYO
保守っとく

318:名前が無い@ただの名無しのようだ
08/01/18 11:25:34 6Yp8Cgyf0
保守

319:守れない約束の意味、守りたい物の価値 1/26+1
08/01/19 00:30:28 M2yvXiyJ0
四度目の放送ともなれば、だいたいの覚悟はできている。
知人、仲間、友人、その名が呼ばれようとて、今更驚くことではない。
誰がいつ死んでもおかしくない。そんな狂った事実こそ、この世界での常識だ。
大人だろうと子供だろうと、受け入れざるを得ない、現実だ。

「わたぼう……」
テリーの脳裏を、青くふわふわした姿が過ぎる。
やたら軽くて明るくて、すっとぼけてるようで、本当は強くて何でも知っている、タイジュの精霊。
そのわたぼうが死んだなど、とても信じられる話ではない。
数日前のテリーならば、冗談だろうと笑い飛ばせたはずだ。
死んでない自分の名前まで呼ばれているんだし、何かの間違いだろうとはねつけたはずだ。
けれど笑うことができないのは、いくら信じられないと思っていても、心が理解しているから。
わたぼうが死んだ。それが事実である、ということを。

「テリー……」
ティーダが俯きながら名前を呼ぶ。慰めの言葉を思いつかない、といった様子で。
ギードは何も言わず、ごわごわした手をテリーの肩に置く。
「無理しなくても、いいんだぞ」
「今は、我慢しなくてもいいんだよ?」
ロックは頭をぽんぽんと撫でながら、アーヴァインはテリーの目線に合わせるようにしゃがみながら、同じような言葉をかけた。
そして複雑な表情でお互いを見やると、「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
ユウナだけは、誰とも視線を合わせないまま、黙りこんでいた。
が、それも多分、ゼルやエドガーの死を悼んでいるのだろうと、テリーは思った。

アーヴァインは友達のゼルを失った。
ロックは仲間のエドガーとゴゴを亡くした。
ギードだって、イザと、レナという知人に死なれている。
他にもテリーが知らないだけで、親しい相手を亡くしているのかもしれない。
それでもみんな、自分は泣こうとしない。
何故泣かないのかと問えば、帰ってくる答えは、多分こんなところだろう。
『小さい子供に心配はかけられない』

320:守れない約束の意味、守りたい物の価値 2/26+1
08/01/19 00:31:40 M2yvXiyJ0
確かに、テリーは子供だ。
魔物と心を通わせることはできても、戦う術は知らない、無力な子供だ。
でも、その立場に甘んじる気は、もうなかった。
テリーは子供である以上に、タイジュの国のモンスターマスターなのだから。
溢れそうになる涙を堪えるべく、目をこする。
そして、顔を上げ、視線をまっすぐ前に向けたまま、きっぱりと言い切った。
「俺は……大丈夫。大丈夫だよ。
 それより、ティーダ兄ちゃん達の知り合いが、サスーン城で待ってるんだろ?
 リルムのことは心配だけど、早く行かないと、時間が無いよ」

モンスターマスターの才能は、何も魔物と絆を結ぶことだけではない。
優しさがないマスターには、魔物は心を開かない。
けれど、いくら優しくても、戦闘の指示が下手で余計な苦痛を負わせてしまうマスターは、魔物とて認めてくれない。
パーティを率い、状況を把握し、適切な指示を出す。時に道具でサポートし、言葉で励まし、
仲間達が百パーセントの発揮できるよう、気を配ることができるかどうか。
それもまた、重要な資質なのだ。
状況に流される内に忘れていたそれを思い出させてくれたのは、
目に見える力が強さではないというギードの言葉と、ロックと話した冒険の―仲間達の記憶だった。

「ギードはロック兄ちゃん乗せてあげてよ。足怪我してるから。
 大人一人なら、そんなに辛くないだろ?」
「う、うむ……それは構わんが」
「ちょ、ちょっと、テリー君。
 別に、君までサスーンに行く必要はないんだよ?」
少々たじろぎながら応えるギードの言葉を遮ったのは、ユウナだ。
このパーティの中で、ただ一人目的を異にする彼女にとって、今の話の流れは決して好ましいものではない。
ギードを始末する算段が思いつかない今、首輪解析の手がかりを与えるわけにはいかないのだ。
もしもサスーンまで同行されれば、魔力の流れを読める上、妙に幅広い知識を持っているプサンと合流することになる。
そうなれば、首輪の解析が一気に進む可能性が高い。
それに、逆にここでギードとロックがいなくなれば、回復魔法が使えるのは自分ひとり。
アーヴァインを始末する際には有利になれる。
そんな打算を、『仲間を心配する女性』という仮面で覆い隠し、ユウナは言葉を続けた。

321:守れない約束の意味、守りたい物の価値 3/26+1
08/01/19 00:34:01 M2yvXiyJ0
「ロックさんもだけど、リルムやほかの人が心配なら、そっちに行ったほうがいいと思う。
 危険なのは確かだけど、そんなの、どこへ行っても変わらないと思うし。
 プサンさんと合流したいのは、あくまで私たちの都合だもの。
 無理して付き合う必要はないよ」
だが、ユウナの思惑を知らないテリーは、にべもなく首を振った。
「リルムのことは心配だけど、オレは姉ちゃんたちについてく。
 サイファー兄ちゃん達よりも強い殺人鬼が、まだ生きてるんだ。
 バラバラで行動してたら、いざって時、どうにかできなくなるよ。
 それにオレたちに何かあったら、リルムだってすごく心配すると思う」
「そうだな……リルムもラムザも、放送で呼ばれなかったんだ。
 あいつらはあいつらで、どうにか上手いこと切り抜けたんだろう。
 余計な心配をかけないためにも、今は自分の身を守ることに専念するか」
ロックがそう言ったのは、エドガーの件があり、森の中に殺人者がいると信じているから。
それがわかっていても、エドガーを殺した張本人であるユウナにとっては、もどかしいことこの上ない。
(別に心配かけたっていいじゃない。……なんか、むかつく)
心の中でぶつぶつ文句をいいながら、それでも笑顔を貼り付けて、テリーの頭を撫でた。
「そっか。じゃあ、みんなでサスーンに行こう!」


「ごめんね、ギード。重くない?」
朝日差し込む森の中、甲羅の上でアーヴァインが呟いた。
「大丈夫じゃよ」と微笑むギードの横で、ティーダに支えられたロックが面白くなさそうに口を尖らせる。
「俺だってテリーだってがんばって歩いてるっていうのに、お前ときたら」
「仕方ないじゃ~~ん! 歩けないんだから~!」
そう反論するアーヴァインの顔は、ところどころ土で汚れ、鼻の辺りが赤くなっている。
「耳の中に木の枝つっこまれて、こう、グサっぎちゅっぐりぐちゃがりっぎちゃっ、ってやられたんだよ?
 フツーの人間だってそうじゃなくたって、誰だって三半規管逝くに決まってるよ!
 それこそあんたに代わってほしいぐらいだよ!」

322:守れない約束の意味、守りたい物の価値 4/26+1
08/01/19 00:36:08 M2yvXiyJ0
平衡感覚を司る器官を損傷し、何もない場所で転ぶこと三回、ついでに木の根に足を取られて転ぶこと一回。
見かねたティーダが肩を貸すも、彼を巻き込んですっころぶに至り、ついにロックと場所を交換することになったのだ。
(ちなみにロックが承諾した最大の原因は、あからさまに不機嫌な表情でアーヴァインを睨んでいたユウナである)
「なんかさあ、バット頭に当ててグルグル回る罰ゲームあるじゃん?
 あれの回転方向を縦とか横とかナナメとかグルグル回してるのがずーっと続いてるカンジ」
「座ってても?」
「立ってても座ってても変わらないっていうかさ。
 僕、本当に座れてる? なんかナナメったり横になったりしてるような気がする」
「……重症ッスね」
「うん。たぶん、今が一番ヒドイと思う。
 片耳が大丈夫なら、ある程度は慣れてくるって聞いたことあるから。
 ……ううっ、酔いそう」
「ひ、人の背中の上で吐いたりせんでくれんかのう!?」
「朝ごはん食べてないから吐くものないよ。
 まー、いざとなったら誰かのザック借りてエチケット袋にするけど」
「「自分のでやれよ!」」

下らないやり取りを続け、あるいは聞きながら、一向はサスーンへと歩を進める。
今はロックが手にしているレーダーに何かが映ることもなく、至って平穏な道程。
だが、それが仮初のものであることは、ティーダとユウナ以外の誰もが承知していた。
と言っても、ユウナの本心に気づいている者がいるわけではない。
ロック、アーヴァイン、ギード、テリー、彼らの抱える不安の種は、『ティーダがユウナに謝っていない』ということ。
ロックや、事情を聞いたアーヴァインにいくら説得されても、ティーダはユウナに頭を下げなかったし、それ以前に彼女の行為に納得さえしなかった。
ティーダにとってユウナは、自分を省みずに他人を救う道を選ぶ人間であり、物静かな中に芯の強さを秘めた女性、というイメージが強いのだ。
さらにユウナからすれば三年の歳月が過ぎているといえ、彼にとっては数日の別離。
自分が要らないほど強くなり、活発になった。ティーダはそれを良い意味で変わっていたと思っていた。

323:守れない約束の意味、守りたい物の価値 5/26+1
08/01/19 00:37:11 M2yvXiyJ0
だが、今のユウナには以前の彼女には無かった弱さがあった。
それが、首輪の解除を実現しようとしていた人物であるエドガーを死に至らしめた―言い換えれば、脱出を試みる者全員の希望を潰してしまった。
そんな思いがあるからこそ、ティーダは、中々ユウナを許せないでいた。
そこに、日の出と魔女の放送である。
流転する事態の前には、痴話喧嘩がうやむやになるのも仕方ない、というより当然。
リルムは帰ってこないが生きている、けれどテリー達の仲間は数人死んでいる。
プサンとも合流しなければいけないし、そんなあわただしい状況で、一々謝ってなど居られない。
もちろん、そこまでの算段などティーダにはなく、単純に忘れているだけだ。
だが計算づくだろうと天然だろうと、『謝っていない』事実は変わらない。
放っておけばユウナの心の傷は悪化する一方。
さりとて下手に蒸し返しても、ティーダが納得しない限り不毛な議論が続くだけだということは、賢者でなくたってわかる。
それこそ子供だってわかる。よほど空気の読めない者でない限りは。

「はぁ……どうすりゃいいんだか」
「何がッスか?」
心配事の張本人のすっとぼけた返事に、ロックは『お前のせいだ』という言葉をぐっと堪え、苦々しく吐き捨てた。
「なんでもねえよ」
つっけんどんな態度に、ティーダはクエスチョンマークを頭の上に浮かべる。
「なんだよ、もう。言いたいことあんならハッキリ言えばいいのに」
その一言が、ロックの表情をさらに引きつらせる。
二人の態度に、嫌な雰囲気を感じ取ったアーヴァインは、話題を逸らすべく大きな声で話しかけた。

「ねーねー、ところでさー!
 ギードやロックの世界にもGFとか召喚魔法ってあるの~?」
「……は? 何だよ、いきなり」
「ずいぶん唐突じゃのう」
首を傾げる一人と一匹に、アーヴァインは前もって用意していた偽りの動機を並べ立てる。
「僕が使ってたディアボロスってGFさ、カズスの爆発に巻き込まれて消えちゃったんだよね。
 もー、長い付き合いだったし、相性も良かったし、使えるやつだったしで、すっごい悲しくてさ。
 復活させる方法、誰か知らないかなーって」

324:守れない約束の意味、守りたい物の価値 6/26+1
08/01/19 00:38:31 M2yvXiyJ0
「GF……幻獣のようなものかのう」
首をひねるギード。しかし、幻獣という言葉を聞きなれていないアーヴァインは、逆に困惑してしまう。
「そ、その幻獣ってのがどんなんだかわかんないけど……
 僕の世界じゃ、自立した意思を持つエネルギー体って定義されてるんだ。
 特定の力場内部や、アイテムや生命体に宿ってエネルギー供給を受けることで、実体化できるようになるんだけど」
「なるほど、己の肉体を持たぬタイプの幻獣じゃな。
 その幻獣の本体―魂が残っておれば、一定量の魔力を補充すれば復活できるはずじゃが」
「生命力が尽きて出てこれないんじゃなくて、ホントに消えちゃったんだよ」
「それでは無理じゃのう」
あっさりと言われたところで、友人の将来がかかっているのに、はいそうですかと納得できるはずがない。
アーヴァインは折れていない方の腕でギードの甲羅をぽこぽこ叩きながら、どうにか役立つ情報を聞き出そうと必死に縋りつく。
「そんな簡単に切り捨てないでよ~!
 ディアボロスだよ? あんこくにエンカウントなしに時空魔法とステータス魔法精製に闇よりの使者!
 通常の三倍のダメージ! ガルバディアのレーダーにもきっと映らない絶対隠密移動!
 ヘイストスロウストップペインメルトン! 絶対に殺さず、でも絶対に瀕死に追い込む超強いグラビデ!
 復活できたら役立つこと間違いなしの最強の助っ人なんだよ~~!!」
「うーん、確かにお前より役立ちそうだな」
ロックがぽつりともらした一言に、アーヴァインは横目で睨みつけた。
「ついでにアイテムぶんどる技も持ってるから、誰かさんも要らなくなるよ」
「なんだと」
「止めろよ、二人とも!」
一気に漂い始めた険悪な雰囲気に、ティーダが慌てて仲裁に入る。
「あんたなあ、なんで喧嘩吹っかけるようなこと言うんスか!
 アーヴィンもいちいち反応してんなって!」
「……気に食わないもんは気に食わないんだよ」

325:守れない約束の意味、守りたい物の価値 7/26+1
08/01/19 00:39:31 M2yvXiyJ0
そう言って、そっぽを向くロック。
彼にしてみれば、アーヴァインにはティナを殺されたという恨みがある。
しかし同時に、リルムやテリーを庇おうとしていた場面も目にしている。
殺したいほど憎んではいないが、仲間として迎えることができるほど許せもしないし、夜中に騒がれた怒りも残っている。
さりとて、あからさまに手ひどい怪我を負っている相手を本気で殴りつける気にもなれない。
そんな複雑な感情と理性が入り乱れた結果が、手加減した暴力や憎まれ口や皮肉なのだ。
一方のアーヴァインは、『仲間を殺した相手だからキライなんだな』とは思っている。
半日前の彼であれば、元は自分が悪いのだから黙っていようと自制心を働かせただろう。
だが、そんな考えは今の彼には無くなっていた。
故に何か言われれば口答えもするし、毒舌には毒舌で応戦する。
敵意に敵意を返す、しかしそれはあまりに当然の反応でもあるがために、誰もそのことに気づかない。
ティーダもロックも、アーヴァイン自身でさえも。

「僕だってうるさいオジサンなんかに好かれたくないよ~~だ。
 てゆーか、あんたなんかより、ディアボロスだよ。
 消えたの元に戻せないなら、新しく作る方法でもいいからさ」
あっかんべーとロックに向かって舌を出した後、アーヴァインはギードに向き直る。
消えた召喚獣を蘇らせる方法がわからなくとも、生まれる過程を知れば、消滅したはずのティーダが実体化している理由と、もう一度消えそうになった場合の対策が立てられるかもしれない。
そう考えての発言だ。
「もっと無茶だろ」
ロックの茶々を無視して、ギードは目を閉じ語り始める。
「うむ……強力な力と強き心を持つ者が幻獣に転生することは、稀にあるが……
 特定の幻獣を作るとなると、飛竜からフェニックスに転生する方法しかしらんのう」
「フェニックス!?」
「うむ。飛竜が自らの意思で、とある砂漠に立つ塔の頂上から身を投げることで、死してのち幻獣フェニックスとして蘇るのじゃ」
「なんで~~?」
不思議そうに指をくわえるアーヴァインと、興味深い……というより半ば執念めいた目つきで凝視するロックを前に、ギードは講釈を始めた。

326:なんて長いんだもうダメだ 8/26+1
08/01/19 00:40:53 M2yvXiyJ0
「さて、具体的な仕組みまではワシにもわからんわい。
 まあ、砂漠という炎属性を強化する力場に、思念の増幅を行う魔術的処置を施し
 幻獣が生まれやすい環境を整えた上で、
 死して尚蘇る不死鳥のイメージを建築材の一つ一つに至るまで封じ込めることで、
 フェニックスを生み出す素地を作り上げたのじゃろう。
 じゃが、それだけでは何故人やチョコボでは無理で飛竜のみが転生できるのかという説明がつかん。
 人間やチョコボでも幻獣になった例はあるからのう、魂の素質や意志力の問題ではない。
 考えられるのは肉体的な素質じゃ。飛竜の舌は万病に効く薬になるのじゃが、それはつまり、飛竜には先天的に癒しの力を持っているいうこと。
 ということは、死した飛竜の肉体そのものを魔力に変換するための装置か魔法陣を塔に仕掛ければ、
 癒しの属性を持った膨大な力を得ることができるわけじゃ。
 そうやって幻獣になるだけの力を持ちえた、他者の為に自ら命を捨てる道を選んだ強き魂が、
 炎の力と、塔全体に記憶されている不死鳥の形を得ることで、はじめてフェニックスという幻獣に……
 ……と、これこれ。こんなところで寝ると風邪を引いてしまうぞい」

ギードは足を止め、自分の背中ごとうとうとと船をこぎ始めていたアーヴァインを揺さぶった。
「ふわぁぁぁ……久々に教室で授業受けてる気分になったよ」
大きなあくびをするアーヴァインを見やりながら、テリーがむすっとした表情で言う。
「ギードには悪いけど、何言ってるのかわからないよ。
 もっと簡単に説明してくれよな」
ぷーと頬を膨らませる少年に、ギードはかっかっかと笑った。
「子供には難しい話じゃったか」
「大人でも難しいって」
ティーダのつっこみに、ロックまでもが頷いて同調する。
何も言わないのは、最初から話を聞く気がないといった様子で歩き続けているユウナだけだ。
ギードはごほんと咳払いし、若者達にわかりやすいように説明しなおした。
「とにかく、幻獣を作るには
 強い意志を秘めた魂と、膨大な魔力と特定の属性を持つ力場、
 そしてそれらを束ね、幻獣としての形と存在を定める、確固としたイメージが必要だということじゃ」

327:守れない約束の意味、守りたい物の価値 9/26+1
08/01/19 00:41:43 M2yvXiyJ0
それでもアーヴァインは理解しかねている様子で、しばし腕を組み目をつぶる。
「う~ん。グラビガがたくさんドローできる場所で、すんごい魔法のアイテムを持った状態で、
 ディアボロスと相性MAXな僕が、ああなりたいって強く思いながら死んで、
 他のみんながディアボロスになれますようにって祈ってくれたら、もしかしたらなれるかも、ってこと?」
「……まあ、理論的には、そうじゃが」
呆れ顔で答えるギード。
その表情は、『何を無茶なことを言っているんだ』という彼の心境を雄弁に物語っている。

「ん~………」
アーヴァインは再び考え事を始める。
もう少し突っ込んだことを聞くべきか、止めておくか、悩んでいるのだ。
もちろん、多少深いことを尋ねたところで、ギードやテリーやロックが彼の本当の狙いに気づくことはないだろう。
隣を歩いているティーダが実は召喚獣など、それこそ夢にも思っていないはずだからだ。
だが、ユウナは違う。
ティーダの素性を知っているユウナに聞きとがめられ、それでティーダの悩みに勘付かれれば元も子もない。
尋ねるべきかどうか。
アーヴァインは薄く目を開け、そっとユウナを見た。
彼女は相変わらず黒い靄に包まれ、俯いたまま、ぶつぶつと何事かを呟きながら歩いている。
表情は真剣で、心ここにあらず、今考え事してるから黙ってて、といった様子。
大事なことを考えているようにも、強いショックから立ち直れていないようでもある。
この様子では、アーヴァイン達の話など耳に入っていないことは間違いない。
(けど、このまま放っておいて良い状態でないことも間違いない、よね……)
立ち込める漆黒の靄は、彼女の心象風景でもある、そんな風にさえ思える。
嫌な感覚に冷や汗を流しながら、アーヴァインはギードに問いかけた。
ユウナの心を支えるためにも、まずはティーダの不安を解消してやることが先だと、自分に言い聞かせながら。

328:守れない約束の意味、守りたい物の価値 10/26+1
08/01/19 00:42:20 M2yvXiyJ0
「ねーギード。一度幻獣になったら、元の飛竜とか、人間とかに戻れたりできるの?」
あまりにダイレクトな質問に、ティーダが目を丸くする。
若者二人の心境など知らないロックは、質問攻めを続けるアーヴァインに肩をすくめた。
「なんでそんなことばっか聞くんだ? 勉強にでも目覚めたか?」
「ちっちっち。甘いな~、ロック。
 例えばさ、えーと、死んだ人を幻獣に転生させて、かつ人間に戻すことができるなら、
 みんなは無理でも誰か一人や二人、助けられるかもしれないだろ~?」
などと並べ立てた言葉は口からでまかせで、
(あれ? これって意外とイケてるアイデアじゃね?)と思ったのは発言した後。
様々な期待に胸を膨らませたアーヴァインだったが、現実はそれほど甘くなかった。
「残念じゃが、そんな話は聞いたこともないわい」
「……だってよ」
ロックが冷たい視線を注ぐ。
投げやりな口調と少しばかり力の抜けている肩が、彼自身僅かな期待を抱き、そして落胆したことを示していた。
(まあ、そう上手くいくはずないか)
アーヴァインは一人ごち、得た情報を頭の中で整理しなおす。

329:長すぎてエラーが出た 11/26+1
08/01/19 00:47:34 M2yvXiyJ0
(魔力と魂、それと形のイメージで、召喚獣は成り立ってる。
 アイツを形作ってたものがイコール祈り子ってののの夢だったから、
 祈り子が消えた時点で『召喚獣ティーダくん』として存在することができなくなった。
 だから召喚士でもティーダを召喚することはできなくて、ユウナも会えずじまいだった。
 けど、今はアルティミシアがなにかしてるから、ティーダは実体化してる。
 うーん……なんか、色々腑におちないなあ。
 時間を越えて人を集められるなら、消える直前のティーダを引っ張ってきたほうが効率的だし。
 けど自分が消滅したってこと覚えてる以上、一度、『ティーダ』は消えたのは確か……
 ……待てよ? そもそも、ティーダの魂って、どうなってんだろ。
 記憶があって、人格があるんだから、本物……だよなあ。
 一から作るならティーダの姿の殺人ロボットにした方が、殺し合い進むし。
 やっぱり、そこは最初からティーダの魂は消えてない、って考えるのが自然かな。
 僕だっておとーさんおかーさんから生まれたけど、生んだ人が死んだからって消えるもんじゃないし。
 それならアルティミシアは『ティーダ』のイメージと魔力を与えれば、アイツを召喚して実体化させることができる……
 って、それも十分面倒臭いような気がするなあ。ずっと召喚してなきゃダメじゃん。
 だいたい、召喚獣のままだったら、ギードの言うとおり本体部分=魂さえ残ってれば幾らでも復活できるんじゃないの?
 殺し合いなのに、そんなザルっぽいこと、するかなあ。
 それに、もう一つ。『ティーダ』って人物のイメージは、どっから来たんだろう?
 アイツ、祈り子は死者の魂を像に封じ込めたものっていってたよな。
 祈り子になった人が以前に出会った人物に、『ティーダ』の元になった奴がいたのかな。
 『オリジナルティーダ』、みたいのが……………オリジナル?
 待て…………待て、待て待て待て!
 もし、『オリジナルのティーダ』のクローンを作って、召喚獣としての形と性質を失ったあいつの魂を入れたら、どうなる?
 見た目ティーダ、中身もティーダの、召喚獣ティーダの記憶と人格を持つ人間のティーダになるんじゃないか?)

330:守れない約束の意味、守りたい物の価値 12/26+1
08/01/19 00:49:01 M2yvXiyJ0
(細胞さえ手に入れることができるなら、魔法で一からそっくりな身体を作るより、楽チンだし。
 培養装置に放り込んで、急速成長させれば、命はあっても心のない空っぽの人形のできあがり。
 そこにイキのいい魂を入れるだけであら不思議、なんて簡単、ティーダくんの完成です。
 アルティミシアのお手軽三分クッキング、なんつってー……って、いや結構マジでこの説当たってるんじゃ?
 ああ、でも確かめる方法がわっかんないなぁ……。
 死んでも消えなかったら人間なんだろうけど、そんな確かめ方イヤだよ~~!)

「兄ちゃん、どうしたんだろ」
「知恵熱でも出たんだろ」
うんうん頭を抱えるアーヴァインを心配するテリー。
それをにべもなく切り捨ててから、ロックはふっと十数分前の言葉を思い出した。

「そういやあ、サイファーって奴より強い殺人鬼ってのは、誰のことなんだ?」
まさかアーヴァインやケフカ達じゃないだろうな、と思いながら問いかける。
だが、ロックにしてみればちょっとした確認であっても、記憶に刻まれた惨劇の恐怖は、そう簡単には拭い去れはしない。
びくっと身を硬くするテリーに代わり、ギードは重々しく口を開いた。
「セフィロスという、銀髪の剣士じゃ」
多くの皺を刻んだ顔からは、忌まわしいという感情がありありと見て取れる。
その裏に隠されたいくばくかの後悔に気づいたのは、事情を知るテリーだけだ。
「恐ろしい実力と冷静な思考を兼ね備えた、冷酷非情の男じゃよ。
 クジャという者と組み、アリアハンにいた者達を襲い、
 セリス、パウロ、クラウド、リディア、多くの命を一晩で奪った……」
「一晩で四人って……マヂッスか」
絶句するティーダ。
だが、それ以上に驚きを隠せない人物がいた。

「セリス、だって……?」
捜し求め、叶わなかった、最愛の人。
その名を、予想もしないところで聞いたロックは、放心したように呟く。
その一方で、恐怖を振りほどいたテリーが、とつとつと語り始める。

331:守れない約束の意味、守りたい物の価値 13/26+1
08/01/19 00:50:09 M2yvXiyJ0
「サイファー兄ちゃん達、みんなであいつを倒しに行こうって言ってたんだ。
 でも、もっと戦力を増やしたいって、そんなことも話してた。
 だからみんなばらばらになって、仲間を探しに行ってたんだと思う。
 だけど……」
「少人数になったところを他の敵か、そいつに襲われた、ってことか」
だからテリーは別行動を拒否したんだな、とティーダは納得する。
そして悔しげにぎゅっと唇をかみ締めている少年を励ますべく、仲間に向き直った。
「大丈夫ッスよ! そんな悪い奴は、俺らでバーンとやっつけてやるッス!
 なあ、アーヴィン!」
だが、期待とは裏腹に、帰ってきたのは冷たい返事だった。
「そいつはど~だろ。
 全員が全員ターニアちゃんレベルの一般人ってことはないだろうし、
 サイファーより上で恐ろしい実力って言うぐらいじゃあ、本気でヤバイ相手ってことでしょ。
 最前線で頑張ってくれる足止め兼アタッカーが、ロックさん以外にもう二人ぐらいいないとなあ」
「え、なんで俺ハブられるんスか」
自分こそ最前線で頑張るガードなのに、と、不満半分呆れ半分の表情を浮かべるティーダ。
しかし、アーヴァインにとって『仲間の命>超えられない壁>他人の命』なのである。
「だって、そんな強いやつに接近戦挑むなんて危ないじゃん。
 攻撃は連続剣っぽいの使える人に任せて、遠くでサポート役に徹した方がいいって。
 ヘイストとかスロウとかのサポートって重要だよ?」
「連続剣っぽいのって俺のことかよ。
 ヘイストやスロウなら俺だって使えるけどな」
ロックが、こちらも不満そうにアーヴァインを睨みつける。
突き刺さるような視線に、ニヤリと皮肉めいた笑みを浮かべ、アーヴァインは答えた。
「彼女の仇は自分の手で討つもんだろ? 常識的に考えてさ」
「……じゃあそうするか。
 ちなみに俺が守ると誓った女はセリス以外に二人いるんだが」
「うっわ、3股って酷いね」
ひどーいひどーい、とからかうアーヴァインの眼前に、鋭い剣先が突きつけられる。
ぴたりと口をつぐみ、冷や汗を流す同行者に、ロックは口の端を吊り上げて言った。
「そのうち一人はこの殺し合いでどっかのヘタレ野郎に殺されたんだよな。
 彼女の仇は自分の手で討つべきだよな、なあ?」

332:守れない約束の意味、守りたい物の価値 14/26+1
08/01/19 00:51:24 M2yvXiyJ0
顔は笑っているが、目は笑っていない。
「すいません調子乗ってました。謝るから止めて、首刺さないで」
アーヴァインは真っ青になりながら、ぺこぺことものすごい勢いで頭を下げた。
そんな二人の様子を見ていたテリーは、ぽつりと呟いた。
「なんでロック兄ちゃん、アービン兄ちゃんに剣向けるの?」
「え?」
きょとんとしているテリーに、アーヴァインはやはり、ぽかんと口を開ける。
「アービン兄ちゃん、ロック兄ちゃんの仇みたいじゃんか」
そのセリフに、何かを悟ったアーヴァインは、ロックに視線を移した。
「……言ってないの?」
自分が人を殺していたことを、という続きの言葉をどうしても口にできない。
それでも意味を理解したロックは、『ふん』と鼻を鳴らし、吐き捨てる。
「お前な、一応死に掛けてたんだぞ?
 いくらお前がどうしようもないバカ野郎ったって、身動きできない奴の非難なんかできるかよ」
そっぽを向いたまま戻ってきた返事に、アーヴァインは思わず目を潤ませた。
「ロック……
 カルシウムと乳酸菌が足りてない精神年齢リルム以下のオジサンだって思っててゴメンなさい!」
彼にしてみれば感謝と謝罪のつもりでいった台詞だったが、ロックはそうは取らなかったらしい。
ロックに限らず、普通の感性を持つ人間なら感謝にも謝罪にも聞こえないだろうが。
「やっぱもう一回昏睡しとくか、な」
「ひゃ~! ごめんなさーーーい!」
ぐっと拳を握り締め、アーヴァインの胸元を掴むロック。
お仕置きのパンチをさえぎったのは、テリーの不安げな一言だった。
「……聞いちゃいけないこと、聞いた?」
心なしか怯えたような視線に、少しばかり毒気を抜かれたロックは、アーヴァインから手を離す。
そして『お前が説明しろ』と言わんばかりに顎をしゃくった。
アーヴァインはふう、とため息を吐いてから、意を決した様子で口を開いた。
「昔の僕は、悪いヤツだったんだよ。
 多分、ピエールやアリーナのこと、責められないぐらいにね」
テリーが眉間を寄せる。
『なんで?』と問いかけようとして、言葉を出せない、そんな様子だ。
アーヴァインは、紫色の瞳に目を合わせることができないまま、言葉を続ける。

333:守れない約束の意味、守りたい物の価値 14/26+1
08/01/19 00:53:48 M2yvXiyJ0
「自分でも思い出せないんだ。
 単純に死にたくなかったからかもしれないし、もっと別の理由があったのかもしれない。
 でもね。今の僕は、誰かを殺したいとか思ってないし、皆にも生きていてほしいと思ってる」
そこまで言って、ちらりとテリーに目をやった。
手をぎゅっと握ったまま、足を止め、俯いている。
それも一瞬のことで、アーヴァインの視線に気づくと、すぐに歩き出した。
その仕草に、強い後悔と自責の念を呼び起こされたアーヴァインは、己を嘲りながら言った。
「自分勝手、だよね。昨日だってギードのこと、見捨てちゃったし。
 結局、誰も助けられなかったしね」
「そのことなら気に病むでない。
 お主の決断がなければ、ワシもテリーも命を落としていたかもしれんからのう」
口を挟んだギードの言葉は、本心からのものだ。
事実、殺人者三人に囲まれた状況で、子供を守りながらのハンデ戦では、生き残る目はなかっただろう。
アーヴァインがテリーとトンヌラを連れて脱出し、ピエールを引き離して二対一の形に持ち込んでくれたからこそ、全滅という最悪の結果を逃れることができたのだ。
だが、一方で、トンヌラを助けることができなかったのも事実。
黙りこくってしまったテリーに、アーヴァインは自棄になったように笑い出した。
「アハハハハ……! やっぱ、僕の事なんか信じられないか。
 そりゃそーだよね、何人も殺しといて改心しましたーとか、
 そのくせ今は銃も撃てない役立たずですー、とか、有り得ないってレベルじゃないもんね~」
「そんなことない!」
狂気さえにじみ出ている哄笑を遮って、テリーは叫ぶ。
「兄ちゃんは、オレとトンヌラを助けてくれたじゃないか!
 なんで自分でそんなこと言うんだよ!?
 今は人殺す気なんてないんだろ? だったら、胸張って人殺しじゃないって言えばいいだろ!」
ぎりっと歯を食いしばりながら、反射的に足を止めていたギードの背中によじ登り、アーヴァインの身体をぽかぽかと叩く。
本気で怒っているその表情と行動に、アーヴァインは一瞬だけ、仲間達の面影を見た気がした。
「……ありがとう」
テリーの頭にぽんと手を置き、アーヴァインは呟く。
それから、わざとらしくふざけてみせた。

334:守れない約束の意味、守りたい物の価値 16/26+1
08/01/19 00:56:33 M2yvXiyJ0
「やっぱ、疲れてるとダメだね~。考えること考えること、悪い方向に行っちゃうよ。
 幻聴も聞こえるし、幻覚も見えるしさ~」
「幻覚に幻聴って、それはヤバすぎなんじゃあ……
 病院行ったほうが良くねッスか?」
「「どこにあるんだよ」」
ティーダのマヌケなコメントに、ロックとアーヴァインの声が重なる。
二人はしばし前のように顔を見合わせ、舌打ちしながらそっぽを向いた。
アーヴァインはむすっと頬を膨らませ、しかし傍のテリーに気づき、慌てて言い放つ。
「まあ、とにかくさ、今の僕は人を殺す気なんてないから!
 もし誰か傷つけたり裏切ったり殺したりしたら、エデンなしでモルボル食べてやる!!」
等と叫んだのは自分の決意を示すためだったのだが、少々行き過ぎたらしい。
ロック、ティーダはおろか、ずっと我関せずを貫いていたユウナでさえ、目を丸くしている。
「モ、モルボル~!?」「あんなの食べたら死ぬぞ!?」
「止めたほうがいいよ!! 気持ち悪いよ!」
真っ青な顔で口々に言う三人。
その剣幕にたじろぎながらも、アーヴァインは胸を叩いて答えた。
「大丈夫! 成長しきった奴ならお腹壊さないでいけるから!
 苦あま酸っぱカラくて、冗談抜きで精神修行になるレベルのまずさだけど!」
「食ったことあんのかよ! あんなもんガウでも食わないぞ!?」
「あんたんとこの班長ってどんだけ鬼なんスか!?」
「鬼っていうか、何でもかんでもコンプリートしたがる完璧主義者なんだよね。
 カードは全種類集めるし、食べられるモンスターは全部食べて効果を確認したがるし」
その話に、妙な不安を覚えたテリーは、アーヴァインを見上げて問いかけた。
「……トンヌラの仲間、食べたりしてないよね?」
アーヴァインはしばし口をつぐみ、明後日の方向へ目を逸らす。
「サボテンダーはウエスタカクタスみたいな味でおいしかったなー」
(食ったことあるな……)(食べたな)(食べてたんだ……)
ジト目で視線を注ぐ三人。彼らに気づいたアーヴァインは、必死で弁解の言葉をまくし立てる。
「ほら、班長の指示に逆らうとアイテムや魔法分けてもらえないから、仕方なく、ね。
 ……だから仕方なかったんだってば、黙って後ずさりしないで、そんな目で見ないでユウナ~!」

335:守れない約束の意味、守りたい物の価値 17/26+1
08/01/19 00:58:03 M2yvXiyJ0
他愛のないやりとりを続けながら、一行はサスーンへと歩み続ける。
時計を持たぬ彼らには知る由もないが、放送が流れてからすでに三十分の時が流れていた。
道のりも半分を過ぎ、あと十数分歩けば、城の影が木々の向こうに見えてくるだろう。
そんな時だった。
アーヴァインの目に、森の奥から湧き出る漆黒の霧が映ったのは。

「ねーねー、あっちの方、すごいもやっとしてるんだけど」
ギードの首をとんとんと叩き、右手の方を指差す。
つられて皆、そちらを見るが、
「「「「「…もやっと?」」」」」
テリー、ロック、ユウナ、ティーダ、ギードの声が唱和した。
五人の視界にあるのは、至って普通の森。霧も靄もありはしない。
しかし、アーヴァインには確かに見えているのだ。
「なんかこう、霧と雲の中間みたいな、真っ黒い霧が、もこもこしてるっていうかさ。
 ……何かあるのかもしんないから、ちょっと様子見てくるよ」
そう言って、ギードの背から飛び降りる。
黒い霧の正体を探りたいという気持ちが、あれほど強かった眩暈を薄れさせた。
だが、精神が痛みを忘れるのと、傷ついた体が治ることは、イコールではない。
「あ、アーヴィン! だいじょう……」
慌てたティーダが、大丈夫なのか、と言い終わる前に、べちこーんと派手な音を立ててすっころぶ。
もちろん、折れた片腕で受身などとれるはずもない。
「………」
顔から地面にダイビングしたアーヴァインに、ティーダはおそるおそる近づき、しゃがみこんだ。
「なあ、大丈夫か?」
「まま先生、僕はもうダメかもしれません」
鼻も頬も土まみれにして突っ伏したまま、情けない声で呟く。
そんなアーヴァインを起こしてやりながら、ティーダは仲間達に向かい、親指を振った。
「ちょっと、代わりに見てくるッス。
 ホントに何かあるかもしんないし」
そう言って駆け出そうとするティーダを、ギードが制止する。
「単独行動は危険じゃ。行くならば全員で行ってみよう」
彼の言葉に、ロックはため息をつきながら首を横に振る。

336:守れない約束の意味、守りたい物の価値 18/26+1
08/01/19 01:02:12 M2yvXiyJ0
「おいおい、本気かよ。コイツの幻覚だったら無駄足踏むだけだろ」
その一言にカチンと来たのか、アーヴァインは左手を振り回しながら力説する。
「いーや、ぜったい何かあるね~!
 あのモヤっぷりはただごとじゃないって!」
「だから、どこにそんなモヤがあるんだよ。
 本当に何かあったら、それこそ逆立ちしてモルボル食ってやってもいいぜ?」
「言ったなー! 触手部分塩コショウでしんなり炒めたの山盛り食べさせてやる!」
「いやもうモルボルはいいって。つーか二人ともケンカ止めろって」
いい加減に呆れているティーダの制止も無視し、アーヴァインはギードを促した。
「ギード、行こう行こう! きっと向こうに何かある、何かが僕を呼んでいる!」
「兄ちゃん、オレの仲間に勝手に命令すんなよー!」
「……二人とも、少しぐらいは年寄りを労わらんか」
アーヴァインとテリーの言い草に愚痴をこぼしながら、それでもギードはのっそりと歩き出す。
普通、魔力を視認することはできないが、潜在的に魔法の才能を持つ者なら存在を感じることができる。
相性や波長が合えば、もっとはっきりした形で『見る』ことも可能だ。
魔物であるトンヌラに至っては、魔力どころか感情の流れさえ見えていた。
だから、彼に見えているものの正体まではわからずとも、そこに何かあるということは疑っていない。
―『黒い靄』という表現は、少々気にかかりはしたが。

ギードの後を追いながら、ティーダはぽつりと呟く。
「テンション高いなー」
「まるっきり躁うつ病って奴だな。
 じゃなけりゃ、頭打ちすぎてどっかおかしくなってるんじゃ?」
「俺の頭ともども殴ってた人が言うことじゃないッス」
ロックの、からかい半分の一言に突っ込んではみたものの、ティーダ自身、微妙な違和感をぬぐえない。
精神不安定なのは今に始まったことでないし、他人優先であまり自分を省みないのも、
そのくせ一言多いのも、ゼルがいつものことだと言っていたこと。
だいたい、仲間の死に直面すれば人格だって変わるし、それ以前にたかが一日で性格全部を把握できるわけがない。
それでも、―ユウナにも言えることだが、元気に、活発になっているように見えて、何かがおかしくなっている、そんな印象があった。

337:守れない約束の意味、守りたい物の価値 19/26+1
08/01/19 01:03:58 M2yvXiyJ0
距離にすれば、百メートルほど歩いただろうか。
ロックの手のひらに納まっているレーダーのモニター、その端に、二つの光点が輝き始めた。
「反応はあるけど……動いてない?」
横合いから覗き込んでいたユウナが、訝しげに呟く。
その声音には、不吉な予感と、いくばくかの恐れが篭っていた。
彼女の言わんことを察したロックは、わずかに歯を食いしばる。
「休憩中か、じゃなきゃあ……」
続く言葉はティーダにも理解できた。
足掻いてはいても、傷心から立ち直れてはいないであろう幼子を見やり、そっと肩を叩く。
「テリー。やっぱりここで待ってるッスよ」
だが、テリーは首を横に振った。
「いいよ。オレの知ってる人だったら、……ちゃんと、お墓作ってやりたいから。
 レックスや、トンヌラのときみたいに」
「……そっか」
気丈にも、しかしうっすらと涙を浮かべているテリーに、ティーダはそれ以上何も言うことができなかった。
口をつぐみ、魔女への怒りを静かに燃やしながら、前を行く仲間の後を追った。


木々の合間に、それらはあった。
ただサスーンに向かうだけでは気づきもしなかっただろう、わずかな戦いの爪痕。
無念さと悲哀を刻み付けた男の死体と、原型を留めぬ魔物の死体に、ロックはため息をついた。
「相打ちでもしたのか、誰かに殺されたんだか……
 やってられないな」
二人の素性を詳しく知らぬ彼やユウナにとっては、出てくる感想はその程度だ。
だが、テリーとギード、アーヴァイン、ティーダの四人は違った。
「リュカに、ピエールか……」
ギードが力なく呟く。
片や打倒セフィロスの志を共にしていた青年、片やテリーの仲間をことごとく葬り、友人の遺体さえも傷つけた魔物。
それが、ギードから見た二人の立場で、だからこそ複雑な気持ちが胸中に渦巻く。
息子を墓から暴き出し傷つけた相手と知らぬまま、結果的に仇を取り、
そして同時に子供を突き刺したのと同じ剣で、殺められたのだとしたら、なんという運命の皮肉だろうか。

338:守れない約束の意味、守りたい物の価値 20/26+1
08/01/19 01:07:24 M2yvXiyJ0
感傷に浸りながら、ギードはアーヴァインを背からおろすと、
テリーやユウナと共に、二人―といっても、魔物であるピエールの身体は既に原型を留めていなかったので、実質一人―の身なりを整えた。
それから、ロックとティーダに頼んで落ち葉やら柔らかい土やらをかき集めてもらい、覆う程度にかけてやる。
ギードとしても、テリーが言ったようにきちんと埋葬してやりたい気持ちはあったのだが、迫る時間がそれを許さなかった。
五人で力を合わせ、十分ほどでどうにかこうにか体裁を取り繕い終わる。
最後に黙祷してから、ギードは膝を抱えて座っていたアーヴァインに声をかけた。
「さて、そろそろ行こうかの」
「……ああ、うん」
ぼんやりとした様子で、アーヴァインは頷く。
その空ろな眼差しと、周囲に漂う死臭にも似た嫌な雰囲気が、ギードの心に引っかかった。
どこかで見た記憶がある。それが何なのか思い出す前に、アーヴァインがぽつりと呟いた。

「ざまあみろ」
その左手にはいつの間にか拳銃が握られていて、誰かがそのことに気づく前に、土が跳ねた。
銃声が轟いたことを皆が認識した時には、弾丸がリュカだったものの胸を貫いていた。
「……何を」
何をしているんだ、とロックが睨みつける。
心底からの怒りを多分に含んだ鋭い視線に、アーヴァインは悪びれることなく答えた。
「僕なりの弔砲さ。仲間を殺してくれた奴へのね」
「仲間……?」
「そう。こいつはリノアを裏切って、そんでこいつを操って、ゼルを殺したんだ」
もちろんロックも、ゼルのことは、ティーダ達から聞き及んでいる。
ティーダ達を助けるべくピエールと戦い、死んだ、仲間がいる。
そのピエールの主君がリュカであり、他の仲間をも殺めたというなら、リュカを憎む気持ちはわからなくもない。
だからといって遺体を傷つけ、死者を冒涜していい理由にはならないはずだ。
「ふざけんな! 自分のこと棚に上げて、他人のこと責めてんじゃねえ!」
ロックはアーヴァインの胸倉を掴み、大声で怒鳴りつけた。

339:守れない約束の意味、守りたい物の価値 21/26+1
08/01/19 01:09:12 M2yvXiyJ0
「だいたいテリーの気持ちはどうなるんだ?!
 お前にとっちゃ仇の親分でしかなくても、アイツにとってリュカは友達の親父なんだぞ!?
 自分の気分を晴らすためなら、他人の心が傷ついても構わないってか?!!
 ああ、何とか言えよ、アーヴァイン!」
その言葉に、アーヴァインは一瞬、困ったような表情を浮かべた。
「そんなんじゃ、ない……」
俯くと同時に、力のない呟きがこぼれる。
多少の反論を予想していたロックは、彼の態度に動揺し、思わず手を離した。
アーヴァインは身体をふらつかせ、数歩、後ずさる。
そして。
「だけど……憎いモノは憎いし、ぶっ壊したいんだ!」
静かな声を追うように、今一度、銃声が木霊した。

銃弾は、逸れなかった。
立ち尽くすロック、その体の中心を貫く軌道に沿って飛んでいった。
だが、当たりはしなかった。
トリガーが引かれる寸前、ティーダがロックを地面に押し倒したせいで。
放たれた凶弾は、空を切り裂き、遠くの木に突き刺さって止まった。
「あーあ。外れちゃった」
アーヴァインは無表情のまま、つまらなそうに言い放つ。
「うるさい人なんかぶっ壊れちゃえばよかったのに。
 そうすれば静かになるしさ」
唖然とする一行の前で、くるくると銃を回す。
回転が止まったとき、銃口は今一度ロックの胸に狙いを定めていた。
「まあ、壊れるまでやればいいよね?
 ……みんな、そう言ってるし」
ロックが口を開くより早く、ティーダが二人の間に割って入る。
「銃、置くんだ」
「ヤだ。コレなかったら、壊せないじゃん」
その、壊すという表現に、ロックは違和感と既視感を覚えた。
殺すでなく壊すと言う、それは昨日ヘンリーから伝え聞いた、緑髪の殺人鬼の口癖ではなかったか?

340:守れない約束の意味、守りたい物の価値 22/26+1
08/01/19 01:11:18 M2yvXiyJ0
ロックの疑念を他所に、二人の視線は交錯を続ける。
「ティーダこそ邪魔しないでよ。
 乱暴するし口やかましいし、ロックなんていなくたっていいじゃん」
「あんたこそ、どうしてそんなすぐ忘れるんだよ!
 誰も殺さない、殺させない。約束したばっかだろ、アーヴィン!」
その言葉に、アーヴァインは小さく眉を寄せた。
瞳は前を向いたまま、けれど、そこに宿る光が大きく揺らぐ。
「……ティーダ?」
罪悪感と殺意の間で葛藤するかのような、青ざめきった表情を浮かべ、手をがたがたと震わせる。
だが、それでも、銃口は下がらない。
数秒の沈黙の後、アーヴァインは小さく息を吐いた。
肩の力を抜き、左手をゆっくりと下ろす。
ティーダは安堵の息を吐き、アーヴァインに一歩近づいた。
けれど、そのとき、感情の篭らない冷たい声が耳を打った。
「やっぱ、無理だよ」
そういったアーヴァインは、ティーダの記憶にはない、冷たく歪んだ笑いを浮かべていた。
動かないはずの指先が動き、三度引き金にかかる。
取り付かれたような青い瞳の奥に、ティーダは赤い輝きを見た気がした。
混乱する思考に硬直する体。―避けられる余地はない。
否応なしに覚悟を決めたその時、一つのものが見え、一つの言葉が聞こえた。
それはアーヴァインに向かい銃を構えたユウナと、テリーの声。
「止めるんだ、『アービン!』」
その言葉に反応するかのように、びくん、とアーヴァインの体が跳ねる。
同時に、ユウナの銃が硝煙と銃声を吐き出した。
本来胸を打ち抜く予定だった弾丸は、しかしテリーの叫びに驚いたことで大幅にぶれ、幸か不幸か拳銃のみを吹き飛ばした。
アーヴァインはぱちくりと目をしばたたかせ、その場にへたり込む。
「あれ……? 何、してんだろ、僕……」
疲れたように一言呟いてから、彼はがっくりと地面に倒れ伏した。
「アーヴィン! おい、アーヴィン!」
ティーダは慌ててアーヴァインに駆け寄る。
その視界を、突然、白い光が包んだ。

341:守れない約束の意味、守りたい物の価値 23/26+1
08/01/19 01:15:30 M2yvXiyJ0
「!?」
何が起きたのかわからず、ティーダは反射的に身を硬くした。
光はすぐに薄れ、しかし周囲の風景が一変する。
木々は連なれど、墓はなく。眼前の、アーヴァイン以外の仲間の姿は……
「一体、なんなんだ?」
真後ろから、ロックの悪態が響いた。
振り向けば、そこにはちゃっかり拳銃やら荷物やらを持っているロックに、テリー、ギード、そしてユウナの姿。
「すまんが、テレポを使わせてもらったぞ」
そう言ったのはギードだった。
「正直、間に合わんかと思ったがの。まあ、怪我も無く済んで良かったわい」
「良くねえよ」
のんきなことを呟くギードに、ロックは力なく言い返す。
怒りを通り越して呆れた、という様子だ。
「何なんだよ、一体。頭おかしいっていうより、狂ってるだろ、こいつ」
気を失ったのか、ぐったりと倒れこんでいるアーヴァインを指差しながら、ロックは吐き捨てた。
ギードはその疑問に答えようとしたが、彼よりも先に、テリーが口を開く。
「多分、あの時のトンヌラみたいに、悪い力に飲み込まれかけてたんだと思う。
 兄ちゃんの目、自分を見失ったモンスターと同じ色してたから」
「悪い力? なんだそりゃ。
 魔導注入されて精神壊した奴ってなら知ってるけどさ。
 いくらこんな状況だって、何もしてないのにイカれたりするもんかよ」
「こんな状況だから、じゃよ」
胡散臭げな眼差しでアーヴァインを見やるロックに、ギードが言った。
「憎悪や怨念が集う場所は、元より負の力を生み出し、呼び寄せる。
 ましてこの世界は魔女の手のひら、その悪しき意思と力が空気のごとく渦巻いておる。
 そんな中で人を殺め、死と怨念に触れることは、魔女の意思を浴び続けると同じことじゃ。
 心の隙間に入り込まれ、知らず知らずのうちに思考を支配される者がおっても、おかしくはない」

そのセリフに、ティーダは、ゼル達の言葉を思い出した。
魔女は強力な魅了能力を持ち、彼らの知人であるサイファーや、アーヴァインが住んでいる国の首都を丸ごと洗脳したことがあると。
自由意志を奪い、凶行に走らせ、心を蝕み、最終的には全てを失わせる。
許せるものではない、絶対に。ティーダは歯を食いしばりながら、そう思った。

342:守れない約束の意味、守りたい物の価値 24/26+1
08/01/19 01:17:31 M2yvXiyJ0
「……アーヴィンを助ける方法はないんスか?」
ティーダの呟きに、ギードは俯く。
「アーヴァイン殿の言う黒い靄―悪しき力に触れなければ、多少は抑えられるはずじゃ。
 故に、テレポであの場を離れたのじゃが……
 根本的な解決方法となると、元凶を無くす以外にないのう」
それは魔女を倒すという意味に他ならず、脱出方法さえ判明していない現状では不可能に近い。
悔しさのあまり拳を硬く握り締めるティーダに、テリーが近づいた。
「大丈夫だよ、ティーダ兄ちゃん。
 アービン兄ちゃん、名前呼ばれたとき、正気に戻ってただろ?」
ティーダの脳裏に、名を呼んだ直後の、青ざめたアーヴァインの顔が浮かんだ。
テリーの言う通り、あの時だけは自分を取り戻していたようにも思える。
それに、倒れる直前、テリー自身も名前を呼び、アーヴァインは我に返っていた。
「名前には、命名神マリナンとかいう神様の加護があるんだよ。
 だからオレみたいなモンスターマスターは、仲間に名前をつけるんだ。
 名前があれば、正気を失いそうになった時に、神様の力で呼び戻せるから。
 完全に悪い力に飲み込まれたら無理だけどさ」
「……ホントかよ」
そんな神様なんているのか、とか、明らかに世界が違うのに同じ神様がいるのか、とか、色々疑惑も浮かぶ。
しかし、名前を呼ぶことで少しだけでも正気に戻れる以上、アーヴァインが完全には自分をなくしていないことだけは確か。
そこに縋るしか、今は、方法がないのだろうか。
アーヴァインの手を握りじっと黙り込む、その肩を、白い手が優しく叩いた。
ティーダが顔を上げると、傍らにユウナが立っていた。

「ティーダ。キミ、確か、変な種持ってたよね?
 昨日のお昼過ぎに、プサンさんに見せてた」
「あ、ああ……」
彼女に促されるまま、ティーダは袋から、奇妙な形の種を取り出す。
ユウナは微笑を浮かべ、その種を指し示した。
「確か、プサンさん言ってたよね。
 この種、理性の種っていって、強力な精神安定剤になるって。
 アーヴァイン君に飲ませてあげれば、魔女の洗脳を解く事ができるんじゃないかな?」
「あ……!」

343:守れない約束の意味、守りたい物の価値 25/26+1
08/01/19 01:19:24 M2yvXiyJ0
ティーダの顔がぱぁっと輝く。
「そうだ、そうだよ! アーヴィン助けられるじゃんか!
 あんがとな、ユウナ!」
嬉しそうな恋人の顔に、ユウナの心の奥底が痛みを訴える。
こんな風に親切ぶっているのは、ティーダとの溝を埋めたいのと、アーヴァインを始末するときに自分に疑いが向かないようにするため。
その思惑通りにティーダは喜び、感謝の言葉を捧げてくれている。
なのに、ユウナの心は満たされない。
「……なあ、昨日の夜は、ごめんな。
 俺、ちょっと、動転してたんだ。
 エドガー死んだら、ユウナもアーヴィンも、無事に帰れなくなるんじゃないかって思ってさ」
ロックやギード達がどれほど説得しても言ってくれなかった言葉を、あっさりと口にしてくれる。
でも、それは、友達を助けたからだ、とユウナは思った。
「俺さ。自分が死んでも、二人は、元の世界に戻ってほしいんだ。
 あんなヒドイ事言った後で、信じてくれないかもしれないッスけど」
剣の束で砕いた種をアーヴァインに飲み込ませながら、ティーダは話し続ける。
「だけど、本当に、二人とも大事だからさ……
 俺に愛想尽かしても、キライになっても構わない。
 ただ、自分の命、粗末にするような真似だけは……止めてくれ。頼むから」
「………」

344:守れない約束の意味、守りたい物の価値 26/26+1
08/01/19 01:20:23 M2yvXiyJ0
ユウナは思う。
これが『キミだけは』だったら、どんなに嬉しかっただろう。
自分ひとりだけ特別だと言ってくれたなら、二人一緒に生き延びる道を探す気にだってなれたかもしれない。
けれど、ティーダにとって、自分は出会ってたった一日の友人と同価値でしかないのだ。
それがどうしても我慢できなかった。
だから、ユウナは、目を瞑ってこう答えた。
「私も、キミのこと、本当に大事だよ。
 だから、簡単に死ぬなんていわないで。生きてスピラに帰ってよ。
 私、頑張るから」
ティーダを生かすために手を汚し、ティーダを生かすために死ぬ。
そうすれば、きっと、ティーダの心には自分のことだけが刻まれるはずだ。
ユウナの言う『頑張る』はそういう意味で、しかし彼女の本心を知らないティーダは、あくまでも額面どおりに受け取った。
「わかったッスよ。三人で……」


「『みんな』で帰ろう!」
ティーダの言葉を、テリーが遮る。
驚いて振り向いたティーダの横合いから、ロックの手が伸びた。
「俺らも入れないなんて薄情な連中だよな、ったく」
愚痴をこぼしながら、ロックはアーヴァインの首根っこを引っつかむ。
「ほれ、よいしょっと」
その身体を、ギードが器用にも首で掬い上げ、甲羅の上に載せた。
「さあさ、サスーンへ急がんとな」
「そうそう」
「そうそう」
ギードが促し、ロックがティーダの腕を掴み、テリーが真似してユウナの手を引く。
若き恋人たちはきょとんとした表情を浮かべ、ロックとテリーはくすりと笑いあった。

かくして、一行はサスーン城へと向かう。
その胸中に様々な思惑と、決意とを抱いて。

345:守れない約束の意味、守りたい物の価値 27/26+1
08/01/19 01:21:34 M2yvXiyJ0
【ティーダ(変装中@シーフもどき)
 所持品:フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) 自分の服 リノアのネックレス
 第一行動方針:サスーンに戻り、プサンと合流
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け/アルティミシアを倒す】
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、一部記憶喪失、右腕骨折、右耳失聴、気絶)
 所持品:竜騎士の靴 ふきとばしの杖[0] 手帳 首輪
 第一行動方針:????
 第二行動方針:ティーダが消えない方法を探す/ゲームの破壊
 備考:理性の種を服用済み】
【ロック (軽傷、左足負傷、MP2/3)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証 対人レーダー
コルトガバメント(予備弾倉×3) 魔封じの杖、死者の指輪、ひきよせの杖[0]、レッドキャップ、ファイアビュート
 第一行動方針:サスーンへ向かう
 第二行動方針:ピサロ達、リルム達と合流する/ケフカとザンデ(+ピサロ)の監視
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ギード(HP2/5、残MP1/3ほど)
 所持品:首輪
 第一行動方針:サスーンへ移動
 第二行動方針:ルカとの合流/首輪の研究】
【テリー(DQM)(軽傷、右肩負傷(8割回復)
 所持品:突撃ラッパ シャナクの巻物 樫の杖 りゅうのうろこ×3 鋼鉄の剣 雷鳴の剣 スナイパーアイ 包丁(FF4)
 第一行動方針:サスーンへ移動
 第二行動方針:ルカを探す】
【ユウナ(ガンナー、MP1/3)(ティーダ依存症)
 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子、官能小説2冊、
 天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、ライトブリンガー
 第一行動方針:サスーンへ移動し、プサンと合流する
 第二行動方針:邪魔なギードとアーヴァインをティーダに悟られないように葬る
 基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、ティーダを優勝させる】
【現在位置:サスーン城東の森・城近辺】

346:名前が無い@ただの名無しのようだ
08/01/24 09:47:51 5vJ8yDfm0
hosu

347:名前が無い@ただの名無しのようだ
08/01/27 19:59:02 7AqvO51G0
保守

348:いい げるせいた でるけ ぷりむ かににん りんり
08/01/31 03:08:19 j7HVPmoE0
そもそも、確かに色々とストレスのたまる一日ではあったが、前日はちゃんと睡眠をとっていた。
それに、仮にも俺は世界最強の国家たるバロン王国における最強の軍隊、竜騎士団の隊長だ。
この程度の怪我やストレスで動けなくなるほど柔な鍛え方はしていないし、
ゼロムスを倒した後もこれ以上の寒さかつ空気の薄い試練の山において、鍛錬を怠らずに過ごしてきた。
では、これは一体どういうことなのだ???

                    ,,∧
                 .,./ ::::\
            ,/ヽ、.、/'″::::::::::::::::\
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   _,/′ ::::::::::::::::        ↑   ::::::::::::::::\::::::::::::::::::::::::
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      ___,./   IIIIIIIII   ┌─‐┐
 ┌‐┐ |ロロロ!==,___loooo|─| ̄|ロロロロ|──┐
 ̄| 日| ̄|ロロロ|〔〕| 田 |┬┬|回|00|ロロロロ|:[]:[]:[]:[]:|'' ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
''"''''""""''"""'''''"""''""'"''""''''''''""''"''''"""''"""'''''"""'''""""''
'"´`''"´"''""''''""''"''"''""''''''''""''"''''"""''"""'''''"""'"''""''''''''"""''""
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'"´`''"´"''""''''""''"''''"""''"'''""'''''"''"""'''''"''""''''''''""''"''''"""''"''""'''''''"""''""

349:いい げるせいた でるけ ぷりむ かににん りんり
08/01/31 03:09:58 j7HVPmoE0
さて、この殺し合いの場において、最もおろかな死に方は、なんだ?
戦死? 失血死? 衰弱死? 溺死? 病死? 餓死? いや、違う。
旅の扉へたどり着けずに爆死することだ。そして俺は今、その危機に直面しているのだ。

…やはりこんな姿になってしまったせいなのか。あまりに寒くて、意識が薄れかける。
放送の際に地震が起きなければ、きっと夢見心地のまま、誰にも意識されない下等生物として死ぬことになっただろう。
俺の目標は最後まで人間として生き抜くことだ。生き残っても人間に戻れないのでは意味はないし、
ましてゴミのような薄汚い小動物のまま一生を終えるなど、これ以上ない屈辱。


いや、こういう時こそ冷静さが必要だ。まず、俺の体はどうなっている?
     __
   ./⊿_ 三^''ー-、,,_
  ∠イU_」 /      ゙゙'''ー---‐‐-、
    ヽ└               ヽ、
     `ヾミ、、             `、ヽ
       ,,、,,)=ミ、             `y'
      _ ^  ヾ) ';      _,.-;;;::=-‐'、
    =-、ゝ-‐''"  ,,ト--‐,..-'",.-''"   _ )
     "~^``ー-‐'゛ ...__λ.._  __,..-''"/
               ,.==ミ,=-'二.--‐''"
             " ̄

350:いい げるせいた でるけ ぷりむ かににん りんり
08/01/31 03:12:34 j7HVPmoE0
まず、俺はカエルになっている。
体中がぬめり、口は裂け、首はつまり、目が飛び出し、腰骨が横に広がり、肋骨はない。
ぼってりと腹がふくらみ、重くて長いこと立ってなどいられない。当然、加速装置など使えない。
両手の指は消え、だが足の指は増え、指の間には皮膚の膜が生じている。
耳たぶがなく、音の感覚がおかしい。現に、どこかから水の流れ落ちる音が聞こえるが、
音がダイレクトに耳に入ってくるのか、普段よりも大きな音に聞こえる。

これほど寒くて風の強いところにいたら、皮膚が乾燥して死んでしまうかもしれない。
カエルになってしまったために、脚力、移動力は落ちている。
当然武具の装備も無理。せいぜいプロテクトリングをはめられるくらいだ。加速装置もこの体には合わない。
だが、十分に休んで体力はある程度回復している。

さて、どうすればいい? 他に参加者がいればまだ手の打ち様もあったかもしれんが、あいにく俺は独りだ。
何かいい案はないか? そういえば……。

351:いい げるせいた でるけ ぷりむ かににん りんり
08/01/31 03:15:32 j7HVPmoE0
貿易が盛んな街、カナーン。
ウルやカズスの商人はもちろん、海が近いため、多くの街や村の商人がここを訪れる。
貿易商シドの実家があるのもこの街だ。
ジェノラ山の麓に位置し、そこからあふれ出る水が川となり、街を横切っているのも特徴の1つ。
\______________________________________/
   V
  __ 
/歴史/|
〈三||=〈/
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   ○
  ο
  o
∠⌒彡
 Υζi.i<\
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*ジェノラ山の麓に位置し、そこからあふれ出る水が川となり、街を横切っているのも特徴の1つ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

やはり知識は得ておくものだ。城の図書保管庫で得た知識が、まさかこんなところで役に立とうとは。
陸上移動に関しては、カエルの足なら壁に張り付くことが出来るとはいえ、足を滑らせれば終わりだ。
そもそも普通に飛び跳ねながら移動して間に合うとも思えない。
そう、こうなれば川に飛び込み流れに身を任せて、カナーンまで一気に下るしかないのだ。
幸い、泳ぐのに適した体になっている。時間的猶予もない。四の五の言っていられる状況ではない。

352:いい げるせいた でるけ ぷりむ かににん りんり
08/01/31 03:16:06 j7HVPmoE0
           ゚ ゚ 。         。       ゚ ゚ 。
              c ,,, ,  。   ゚   ,,,,_   。
            c/´c" ミ゙ヾ'~'~ γ´'"  ミヾっ
           c///,:'⌒ヾヾ vヾ'  ////,:'⌒ヾっヾっ
          c"c,, c" ゚ 。 )、 ~''^' ,i//   `ヘっっ
                   |i|!) ソ !li,'i,(
                 ノ|i ノi|!゙.;il| ,,ill       ,ノ      ゙"゙"゙"゙"
               ,/lll |ノil|! .,:;. jil;:v'll!ヽ     |ll\,,         ゙"゙"゙"
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      _    ノヽノゝ) | |:::: :::         / ̄ ゙" ゙"゙ "゙"゙ "゙ "゙ " ゙"    ゙" ゙" ゙"
        ∨ ̄  |  ;|ll l|,ノ:: ::         |ll〉    ゙"゙ "゙" ゙"゙"         ゙"゙"゙ "
        |lll l  ll|  ノl ノ::: ::        ,,_ノ
 ____人__,,ゝ'''\:::. ::       ,,ノ             ゙" ゙"゙  "゙" ゙"゙ " ゙" ゙"゙"
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       ,,__    ,,ノ|       lヽ_,,  ゙"゙"゙ "゙"゙" ゙"        ゙"゙"゙ "゙"゙ "゙"    ゙ " ゙"
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353:いい げるせいた でるけ ぷりむ かににん りんり
08/01/31 03:18:34 j7HVPmoE0
         、ー+ヾー、;/~; ::  ; : ; ; :  `/、`―-、,~
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【カイン(HP1/5程度、左肩負傷、少々疲労、カエル)
 所持品:ランスオブカイン、光の剣、ミスリルの篭手 プロテクトリング 加速装置 レオの顔写真の紙切れ ミスリルシールド
     ドラゴンオーブ
 第一行動方針:旅の扉へたどり着く
 最終行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】
【現在位置:ジェノラ山~カナーン間】

*カナーンの町にも滝があります。プロテクトリングで落下の衝撃はやわらぎます。

354:グランバニアの黄昏 1/6
08/01/31 19:04:41 YQ39kyn50
放送にはまだ多少なり時間がある頃―
パルメニ盆地の中央に横たわる森の中はまだ夜明け前の闇の中だ。
暗闇にわずかな濃淡を作り出しながら小さな陰が暗黒の中を駆けていた。
荒い息遣い、悲壮の表情、疲労の滲む肉体。
新しいすり傷をあちこちに作りながら、タバサは闇の中を行く当てもなくさまよっていた。
地面から突き出た小さな根のコブに足を取られ、転ぶ。
まともに受身さえ取れず、したたかに身体の前面が強打された。

誰かの死に触れるのはもうたくさん―もう見たくも聞きたくも無い―
もう何も、何も―

タバサは根と苔と土でできた地面に横たわったまま起き上がろうともしない。
前を向こうと、下を見ようと結局目の前にあるのは闇だ。
土や苔の匂いを感じることもできず、転んで打ちつけたせいで流れ出始めた血の味と感触だけが
気味悪く喉や肌を伝っていた。
そこにはもう希望はなく、どころか今のタバサには絶望の現実を考える気力さえない。
残っているのは無気力に沈み込む心と体の滓だけ。

……………、……………、………………、…………、
もう、何もしなくても…………? ………………

考えることを放棄した頭、二日間の大きな疲労が一気に表出した身体、
暗い森の闇の底の底に這いつくばったすべてが活動を止めていく。
やがて闇の中で現実と非現実は曖昧になっていき、
踏み外すようにタバサは眠りへと……堕ちていく。

***



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