07/08/16 21:48:14 AvByj9Kb
>>522
『オヤジ、冷やで!…おめぇらはどうするんだ?』
定食屋に入った米田一行は、少し奥の席に腰を下ろした。
米田の前に少年が座り、少年の隣に琴音が座った。
米田は早速冷やを頼んだ。冷やというのは酒を冷やしたものである。
『私は水とお新香だけで結構です、君は?』
琴音は水とお新香だけにした、脂っこいものも時には良いのだが食べ過ぎは美容の大敵である。
そして少年はというと…
『えっ…その…え……天丼…を』
「あいよっ!うちで天丼を頼むたぁ坊ちゃん通だねぇ、旨ぇの作ってやっからほおっぺた落ちねえように押さえときねぇ!なんだったらじっちゃんとおっかさんにも押さえてもらいな!」
『あの…そ、の……は、は…い…』
江戸っ子オヤジの軽やかな弁に押され気味の少年であった。
それはさておき、少年を名を知らないことに気づいた米田は、聞いてみることにした。
『…おう、ボウズ…おめぇの名前聞いていいか?ボウズじゃあ他人行儀でいけねえや』
少年は少したじろいだが、何故か頬を染め言葉を詰まらせながら呟いた。
『…菊……です』
米田は耳を疑った、菊という女は良く聞くが男ではめったに聞かない。
『え?…ああ、菊か…好い名前じゃねえか』
『ええ、菊は華やかな花ですが…どこか儚げな花、です。
菊つくりは罪つくり…ともいうのよ、菊君。』
琴音が少年を見つめ、そう言った。