07/08/12 21:06:42 bHq2hTGI
>>516
『…坊や』
琴音が、少年の肩に手を置いた。
少年は反射的にかビクリと体を震わせ、とっさに逃げ出そうと身構える。
しかし、まるで磁石のように琴音の手は掴んだままだ。
そんな様子に異常を感じた、屋台のおっちゃんが声をかける。
「姉さん姉さん、この坊やに何か用でもあるのかね?」
この男、琴音を女性と勘違いしたらしい。琴音が幾ばくか頬を染めた。
『あら…いや、まあ、そうよ』
その時、後ろから人影が現れた。米田である。
「じいさん、この姉さんの知り合いかい?」
米田は、「姉さん」に一瞬眉が引きつったがなんとか取り繕うように話を続けた。
『ま、そんなところだ。
この坊ちゃんにちょいと用があってな、俺が頼んだンだ』
「ならいいんだけどね、ほら最近いろいろ危なっかしいからねえ」
『隣組の目ってのはそういう所で生きてくるンだ、これからもよろしく頼むよ』
「ああ!任せときな!…いかん、客だ!」
屋台にまっしぐらに戻って行くおっちゃんの背を眺める米田。
琴音はどうしていたかというと、米田の巧みな話術に圧倒されていた。
流石陸軍きっての知将、米田一基。話術もお手のものである。
『…さて、ボウズ…ちょいとこの姉さんが話があるそうでな。ついてきてもらえねぇか?』
少年は俯いたままだった。
その時、腹が鳴った。少年である。
『お?腹ぁ減ったか?
よし、このジジイが奢ってやろうじゃねぇか!』
『…?可い…ん…ですか?』
初めて少年から語られた言葉に、琴音と米田は顔を見合わせ…少年に微笑んだ。
かくして、彼らは小さな定食屋に入ったのだった。