07/08/10 08:08:19 ZblcD/JV
>>512
仲見世を抜けて、少し開けた所に足を向けると、丁度紙芝居をやっていた。
一馬も水飴片手に見入っていたらしい。
「はい、今日はここまで…ありがとね。あ、また水あめ買ってちょうだいね。うん」
どうやら終わりらしく、紙芝居屋は不満の声を上げる子供たちを宥めていた。
『…おや、米田中将。中将も紙芝居に?』
一馬がこちらに気づいた。
『いやな、ちょいとウロついとっただけだ。
珍しいじゃねぇか?おめぇが紙芝居を見るたぁ…』
柔らかくなっている水飴を練りながら、一馬は赤く染まりつつある空を見上げた。
『さくらが見たら喜ぶだろうと…思いまして。』
さくら。
その名を聞いたのは、春の陽気が心地良い日だった。
真宮寺桂に挨拶するため仙台に赴いた米田に、一馬が紹介したのだった。
【これが私の大切なものだ】と…。
『…もう長く会っていません。』
一馬の呟きに、米田はふっと我に返った。
『…そうか、さくらは幾つになる?』
『もう四つでしょうか、…はい』
米田も赤に染まる空を見上げた。
『…なあ、一馬。』
時代を見つめ、戦場を見つめてきた双眼が一馬をとらえる。
『…死ぬんじゃねぇぞ、何があっても…。』
『…ハハッ…、わかりました。』
しばらく二人はそうしていた。
そして、米田は一馬と別れ足を進めた。