07/08/04 21:34:02 wiuJCJSh
>>498
その騒ぎを聞きつけて野次馬も集まってきた。
店主ですら「兄ちゃん!やっちまえー!」という歓声をあげている。
火事と喧嘩は江戸の華、ということだろう。
山崎も腕を離したが、治まる気配もない。
事態が大きくなっては不味いと踏んだあやめは、騒ぎ始めた客達の鎮静に当たり、一馬は周りの男達が手を出さぬようにと目を光らせていた。
しかし、一触即発の状態には変わりない。
こういう時に聞く古くからの諺がある。
古人曰く、待てば海路の日和あり…と。
『貴様ら何をやっとるのだ!』
幸か不幸か、騒ぎを聞きつけた軍人が店に現れた。
嶺諷会の男達が敬礼したところを見ると、上官らしい。
『貴様らは蕎麦屋で何を騒いでおるか!』
背筋をビシリと伸ばし敬礼をする男達のひとりがその上官に答えた。
「ハッ!三隅中佐、この男共が我々を侮辱したのであります!」
万事休すか、あやめが米田の表情を見る。
米田は、笑っていた。
それは好機であった。
『この男共…?』
三隅中佐が四人の顔を覗き込んだ。
あやめの顔を見た時は眉をしかめ、
山崎の顔を見た時は目を見開き、
一馬の顔を見た時は手を震わせ、
米田の顔を見た時には顔から血の気が失われていた。