07/07/26 02:44:40 WrVTucxK
>>489
『おっといけねぇ、コイツを渡さなきゃあならねぇな』
米田は何やらチケットを取り出し、手渡していった。
それを手にしたあやめが驚いたような声を上げた。
『これは…花と散るらむですか!?』
どうやら浅草神崎活劇写真館で上映中の『花と散るらむ』という無声映画のチケットらしい。
あやめも知人から聞いて知っていた。
この『花と散るらむ』とは、海軍将校と病弱ながらも舞台に立ち続けるひとりの女優の愛を描いたラブストーリーで、単なる悲劇だと言われていたが、いざ公開されれば評判はかなり良いものだった。
内容は良く作り込まれており、何より玉梓つわ子の演じる女優と冴木ひなの演じる凛々しい海軍将校の別れが情に脆い江戸っこたちの涙を誘うという。
米田は一升瓶の酒を煽り、懐中時計を覗き込んだ。
『ああ、まあせっかくだからなァ。
おっと……まだ時間がある、昼飯にしようぜぇ。そこに旨い蕎麦を食わせる店があってな!』
こうなってしまうと、最早米田のペースだ。
ずんずん先を行く米田の傍らに一馬が並び、その後ろを山崎とあやめが並んで歩いていった。
次幕