06/11/23 23:39:58 6XVsn+Qw
執務室でヴィンデルは溜め息をついた。モニターに移るデータの山、山、山。机の上にも、デジ
タルでは扱えない情報が載った書類の山ができている。
やるべきことが多すぎた。兵糧の補給ですら、特殊部隊という性質上、気を配らなければならな
い。だというのに、仕事量に反比例して使える人材は極めて少なかった。次元転移の際の痛手が、
こんな形でも表れている。その一番の影響を受けているのは、間違いなく部隊指揮官のヴィンデル
だった。満足に眠れぬ日が続く体は、大きな声で疲労を訴えている。
ヴィンデルが背を反らす。ぎいとなった椅子が、まるで今の自分たちのように思えて、ヴィンデ
ルは唇を皮肉気につり上がらせた。
「いつか、折れて砕けるるかもしれんな」
呟いた内容は、真実、ヴィンデルの本心だった。誰にも語らぬ、独りの今だからこそ吐けた弱音。
補給を絶たれた軍隊は弱い。所詮異邦人に過ぎぬシャドウミラーの未来は、決して明るくはない。
ただ、それでも諦めることは許されなかった。亡霊達がヴィンデルの背中を押し続ける限り、
シャドウミラーは止まれない。
例えその先が敗北であろうとも、戦争を止めるわけにはいかない。
それが永遠に続く闘争を理想とするシャドウミラーの理念であり、ヴィン
デルの信念だった。もし、止まることがあるとすれば、それは死ぬときだけ。
いつか来るやもしれぬ未来に思いを寄せたヴィンデルは、ふんと一つ鼻を鳴らした。
「砕けた破片は、指先を傷付ける程度には鋭い。その時は……せいぜい、派手に散らせてもらおう」
暗い喜びに顔を歪ませ、ヴィンデルは再び仕事へと取りかかる。
彼は知らない。
同じ理想を持つはずの信頼していた部下に、裏切られる未来があることを。
彼は知らない。
戦争の部品として作られた人形こそに、足元を掬われる未来があることを。
オペレーション・ナンバー139が始まる前夜、ヴィンデルは独り執務室で夜を過ごしていった。