07/02/20 04:57:09 GYwq0j+B
「何を言うかと思えば……下らん。俺は聖書の面白さなど少しもわからんぞ。
最初に言ったろう、何の役にも立たんものを何故読むのかと」
残る片目が、はじけるように顔をあげるグラキエースを捉えた。それを、きび
すを返して視界の外から追い出すと、アクセルはひらひらと手を振って部屋
の出口へと向かう。
「アクセル」
と、その背中に声がかかった。一刻でも早く部屋を出たかったアクセルは、
そのまま無視して行こうとしたが、そのあとの言葉につい足を止めて―い
や、止められてしまった。
「ありがとう」
かあっと顔が熱くなるのがわかった。急いでこの部屋から出なければなら
ない。だというのに、背後のグラキエースのまだ何かを言おうとする気配が
アクセルの足を捕まえて離さない。
「やはりジョシュアの言っていた通りだ。アクセルは優しいと」
ここでようやくアクセルにかかっていた麻痺が解けた。振り返って、怒鳴ろ
うとする。
「グラキエース!!」
「ラキ、だ」
「は?」
と、ここでまた突拍子もないタイミングで、突拍子もないことをグラキエース
は言い始めた。大口を開けたままぽかんとするアクセル。そんな彼を尻目に、
グラキエースはどこか少し自慢げだ。
「愛称、というものだ。仲間というのは、愛称で呼び合うものなのだろう? こ
れからはジョシュアのことをジョッシュ、私のことをラキと呼ぶがいい。」
「……そいつも、ジョシュアの入れ知恵か?」
皮肉だった。少なくとも、アクセルはそのつもりだった。だが、当のグラキエ
ースは自慢げな表情のまま一つ頷くだけで、しごく満足そうだった。
「ありがたいことなんだな、これが」 こいつも、貸しだ―ひどい脱力感に襲
われながら、アクセルは心の中でジョシュアを罵った。どうにも、彼の被保護
者はアクセルとすこぶる相性が悪いらしい。
これ以上深手を負わないうちにと、早々にアクセルは立ち去ることにした。最
後に一つだけ、捨て台詞を残すことにして。
「しかし、愛称と言う割には、お前さんは、ジョシュアをジョッシュと呼ばないな」
「なんだ、そんなことか」
てっきり動揺でもするかと思っていた、アクセルは、捨て台詞のはずだった
のに、つい足を止めてしまった。それがいけなかった。だって、グラキエースは
ずいぶんと楽しそうな声でこう言ったのだ。
「少しでも長くジョシュアの名を呼びたいからな」
「ジョッシュ……貸し、100個な」
愛機の整備をしていたジョシュアはぶるりと身を震わせた。この悪寒の理
由を、ジョシュアはそう遠くないうち、恥ずかしさとともに知ることになる―