07/03/04 19:30:21 ZZ4gTU5y
―深い。蒼い―
この身になってから、感覚は失われてしまったけれど、きっと刺すように冷たいんだろう。
だけど……僕を握ってくれている坊ちゃんの手はとても暖かいんだろう。
冷たい海の中、僕たちは静かに漂う。音もない海の底を。
スタン達ともう少し話ができてれば。
ルーティともう少し一緒にいられたならば。
ヒューゴの変化にもう少し早く気がついていれば……
頭の中に浮かぶのはそのような後悔ばかり。
……だから、僕は卑屈だといわれるんだよな。
でも、この道を選んだことは後悔していない。
1000年というときを経て、坊ちゃんに会えた事。
僕がずっと坊ちゃんと共にする事。
ハロルド博士は鼻で笑うんだろうな。
『せっかくの永遠の命を無駄にするなんて』とかって。
でもね、僕は坊ちゃんと共にいたい。
坊ちゃん以外の誰かを、マスターにするなんて考えられない。
だから―僕はここで永遠の眠りにつく。
青白い坊ちゃんの顔。
ずっと苦しんできたんだよね。
ヒューゴの事、ルーティの事、スタンの事、マリアンの事。
最期は自分の意思で動いたんだ。
ヒューゴの命令ではなく、自分の意思で。
坊ちゃんは立派でしたよ。
わがままで意地っ張りで、寂しがりやで甘える事に不器用で。
僕も散々苦労しましたよ。でも、その分楽しかった。
1000年前より、充実していたのかもしれない。
ね、坊ちゃん。僕は坊ちゃんのお守に疲れましたよ。
ソーディアンにあの世なんてないとは思いますけれど、もし会えたら……
―今度は友達として出会いましょうね。スタンに負けないぐらいに。
微笑を浮かべているように安らかな坊ちゃんの寝顔。
声をかければ『うるさいぞ。シャル』と返ってきそうで。
「ゆっくりと休んでくださいね」
もう届かない声を最期にかけ、僕は………………
―おやすみなさい。坊ちゃん―