07/02/13 00:07:47 BLUerzU+0
あたしは、クリフトの背中に頬を寄せ、首に手を回した。
小さい頃、ここはあたしだけのものだった。温かくて安らげる秘密の場所。
こうして頬を当てると、今も温かくて気持ちいい。
違うのは、あの頃より大きくて広くなってるのと、痛々しい傷跡だけ。
あんまり居心地がよかったから、身体もぴたっとくっつけて目を閉じた。
そしたら、クリフトがか細い呻き声を上げ、前の方を押さえてうずくまってんの。
具合でも悪くなったのかと思って、あたしは様子を見ようとするんだけど、
さっき胸の方を洗おうとした時以上に、真っ赤な顔で反対向くのよね。
こっちは心配してるっていうのに、変なクリフト。
さて、そろそろ湯船に入れてもいい頃かな。
気を取り直して、あたしはクリフトの肩に手をかけて、立ち上がらせた。
平らな岩に座らせ、あいつは湯船に足を踏み入れる。
クリフトが腰のタオルに手をかけるのを見かけたあたしは、
急いでその場を離れ、あいつが湯船に入るのを待った。
チャポン、と小さな水音をたて、クリフトが湯船につかった。
あたしはおそるおそる近づき、湯船を眺めてみた。
濃い乳白色の温泉だったため、上半身から下は全く見えないみたい。
よかった。これなら近くで様子を見ていられるわ。
…やーね、クリフトったら鼻歌なんか歌っちゃって。よっぽど気持ちがいいのね。
そういえば、クリフトが鼻歌歌ってるの、あたし初めて聴いたわ。
そうだ、あたしも足だけつかっちゃおうかな。
桶で湯をすくって両足を洗ったあと、右足を上げて湯船に入ろうとしたら、
あたしは床で足を滑らせ、よろめいてしまった。
「きゃあっ!」
あたしはバランスを崩し、大きなしぶきとともに湯船へと落っこちた。
深さはそれほどでもなかったのに、あたしの全身は湯船へと沈んでいく。
938:アネイルお湯物語7/8 ◆ByK7Tencho
07/02/13 00:17:11 BLUerzU+0
クリフトがすかさずあたしを抱え、水面へと上げてくれたけど、もう遅いわ。
あーあ、全身ずぶ濡れになっちゃった。髪の毛もびしょびしょになってる。
「ご無事ですか?」と問いかけるクリフトのそばに、折りたたまれた白い布が。
あれって、もしかして…さっきまで腰に巻いてたタオルなんじゃ。
今のクリフトは、何も身につけてない。ということは――
「きゃーっ、きゃーっ、あっち行ってー」
パニックに陥ったあたしは、湯船から上がり、岩の上にぺたりと座り込んだ。
あれ?クリフトの様子がおかしい。顔がまた赤くなって、両手で鼻を押さえてる。
白い温泉があいつの周辺だけ赤いわ。たぶん鼻血ね。のぼせちゃったのかしら?
その理由は、あたしにもすぐにわかった。
さっき湯船に落ちたせいで、あたしの服は濡れてしまった。そのせいで服が透けて、
つまり…あたしの出っ張ってるところが、丸見えになっちゃったのよね。
「やだーっ。見ないでよ、バカっ」
あたしが両手でふくらみを隠し、水面で足を強くばたつかせていた時、
聞き覚えのある声が、湯気の奥から聞こえてきた。
「大丈夫かい?悲鳴が聞こえたから、様子を見に来たんだが…
お取り込み中だったのかい。こりゃ、お邪魔だったかねえ。いひひひ」
「おや、兄ちゃん。あんた鼻血出してるじゃないか。でかい図体して、意外とうぶなんだねえ」
湯気の中から現れたのは、入り口にいた番台のおばさんだった。
あたしは着替えを受け取り、いつも以上に素早く袖を通した。
クリフトは気を失っているらしく、おばさんが湯船から上げ、着替えさせたみたい。
もう、世話が焼けるんだから。
ようやく心が落ち着いたあたしは、離れにある休憩所で、意識が戻ったクリフトの顔を眺めてた。
939:アネイルお湯物語8/8 ◆ByK7Tencho
07/02/13 00:24:20 BLUerzU+0
もういいわ、って何度も言ってんのに、クリフトは「申し訳ありません」の一点張り。
しょうがないから、「恥ずかしかったけど、本当は楽しかったよ」って本音を言っちゃった。
そしたら、クリフトは「実は……私も…です」だって。
どちらからともなく、あたしたちは大きな声で笑い合った。
こんなに笑ったのは久しぶり。それに、クリフトが笑うのを見たのは、もっと久しぶりだわ。
「あ~ら、お二人さん。ずいぶんとまあ、仲睦まじいことで」
「よう、クリフト。また鼻血なんか出して、何かやましいことでもしたのか?」
やだ、マーニャにソロ!…まずいわ。よりによって、この二人に見つかっちゃうなんて。
「何だよ、その嫌そうな顔は。俺は町の娘とのデートを中断してまで、捜しに来たってのに」
「そうよぉ。あたしだって、お化粧の時間を削って捜してたのよ。感謝してほしいわ」
だったら、自分の用事しててよ。他の人に頼めば済むことじゃない。
「あら、アリーナの髪の毛濡れてる…そうか。あんた、クリフトと一緒に入ったんでしょ!」
「へえ。よかったな、クリフト。そのうちお前も『あれ』から卒業できるぞ」
ち、違うわ。これはあたしが足を滑らせて、って……あたしの話、全然聞いてない。
それに、『あれ』って何よ。クリフトが卒業したのは、神官学校だけなんだけど。
いい加減からかうのも飽きたのか、二人は「もうすぐ昼飯だからな」と言い残して去っていった。
そっか、もうお昼なんだ。あたしたちもそろそろ帰らなきゃ。
帰り道の途中、あたしはクリフトの肩や背中をじっと見つめていた。
小さい頃は、あたしより痩せっぽちで弱々しかったのに、
いつの間に、こんなにたくましくなったんだろう。全然気がつかなかったわ。
今日は、あたしがまだ知らないクリフトを見つけられた、大切な思い出の日。
クリフトにとっては、どんな日になったんだろう……いつか、こっそり聞いてみよっかな。
940: ◆ByK7Tencho
07/02/13 00:25:37 BLUerzU+0
これで終了です。
ではこれにて落ちますノシ
941:名前が無い@ただの名無しのようだ
07/02/13 18:06:49 DykKceg/0
てんちょさんお疲れ!
他の導かれしメンバーが手伝ってくれなかったのはきっと
2人がどうなるか見たかったからだとオモタ
942:名前が無い@ただの名無しのようだ
07/02/13 21:14:11 SIJCOqsYO
お、てんちょひさしぶり~SS乙!
途中まで良い話しや~とホロリとしてたけどクリフトがポロリしちゃったのねw
息子を見れたおばさんウラヤマシ-
943:スーパー1
07/02/13 21:44:23 /yUj8FzQ0
ほしゅあげわっしょい
944:ペギー ◆XJ3Ut0uuQQ
07/02/13 22:32:52 DvI5PgJ10
わああああああぁぁぁぁ!
店長さん、初めましてです!そして、お帰りなさいませ!!
店長さんの、アリーナを守って傷だらけのクリフトに、ぐっと来ました。
オタオタしているアリーナも、めちゃ可愛いかったです。
…そして、実はけっこう番台のおばさんがツボだったりしました(笑)。
切なくて、ギャクで、最後ちょっとほのぼのなクリアリ、こういうの大好きです!
また、是非是非よろしくお願いしますm(__)m
945:名前が無い@ただの名無しのようだ
07/02/14 13:37:47 kLercApN0
店長GJ!なんだかドキドキしつつほんわかするSSでした。
実はみんなわざと二人きりにさせようとしてた感じですよね~
サントハイム王が知ったらどんな顔すんだろ?
とか思いながら読んでました。w
今日はバレンタインだから料理苦手そうなアリーナも
一生懸命チョコ作ってクリフトに渡してそうだな。
946:ペギー ◆XJ3Ut0uuQQ
07/02/14 18:04:38 QVgloC+a0
店長に引き続き、私も投下させていただきます。
まだ、スレの容量は大丈夫なんでしょうか。
バレンタインデーネタ……になってるのかな?
よろしくお願いします。
947:HappyValentine?1/5 ◆XJ3Ut0uuQQ
07/02/14 18:06:03 QVgloC+a0
「大好きなのに…ひどい…。」
「…俺も……好き…んだ…、アリーナ。」
――風にのって途切れ途切れに聞こえてきたのは。
想い人と、勇者の声だった――。
なぜ、昼寝などしてしまったのだろう。クリフトは心から後悔した。
一行は、朝早く街を出発すると、昼過ぎ、森の近くにある泉のほとりで小休止を取った。
クリフトは、前日、教会から借りた本を徹夜で読み切ったため、頭が重く、
気持ちの良い木陰を見つけると、軽く睡眠をとるつもりで横になった。
うとうととしている最中に、ふと、愛しの姫様の声が聞こえた気がして、
クリフトは起き上がった。
そして、アリーナと勇者の上記の会話を聞いてしまったのである。
姫様が…ソロさんを…?
クリフトは、足元が沈み込むような感覚を覚えた。
それ以上2人の会話を聞くことに耐えられず、クリフトは立ち上がった。
と、足の下で枯れ枝がぽきりと音を立てた。
青ざめたクリフトの視線の先には、驚いた顔をして、こちらを振り向いた勇者とアリーナ。
勇者の手には、ファンシーな柄の、チョコレートの小箱が握られていた。
948:HappyValentine?2/5 ◆XJ3Ut0uuQQ
07/02/14 18:06:50 QVgloC+a0
「…っ!すいません、立ち聞きするつもりでは…!」
クリフトは叫ぶと、身を翻してその場を走り去った。
後ろの方でアリーナが何か叫んでいるのが聞こえたが、クリフトは振り返らなかった。
走って走って、森の奥まで来ると、クリフトは地面に膝をついた。
そのまま、苦しそうに荒い息をつく。
心臓が、痛い。しかし、この痛みは走ったせいではなかった。
アリーナから想いを込めて勇者に渡されたのであろう、チョコレートの小箱の
鮮やかな色彩が、目に焼きついて離れない。
自分が、決して超えることのできなかった一線。
しかし、アリーナと勇者は互いに手を差し伸べ、軽くその線を越えて見せた。
クリフトは、震える手で顔を覆った。
勇者は、大切な友人だ。
この命を、危ういところでつなぎとめてくれたのは、勇者だった。
禁断の呪文に慄く自分を叱咤し励ましてくれたのも、勇者だった。
勇者はクリフトに、同世代の男友達はお前が初めてだと言って笑ったが、
それはクリフトも同じだった。
…ソロさんならば、姫様のお相手として、申し分ないじゃないか…。
自分にとって大切な人同士が結ばれる。これ以上喜ばしいことはない。
そう自分に言い聞かせながらも、体中の血がそこから流れ出ているかのような
するどい胸の痛みは、消えなかった。
949:HappyValentine?3/5 ◆XJ3Ut0uuQQ
07/02/14 18:07:32 QVgloC+a0
どれくらい、その場でうずくまっていたのか分からない。
がさがさと音がして、茂みの向こうから青いとんがり帽子が表れた。
「あー、クリフト、やっと見つけたー!」
「…姫様…。」
今、一番会いたくなかった人。…それでいて、一番会いたかった人。
クリフトは、思わずアリーナの顔から目をそらした。
アリーナは、そんなクリフトの様子を見て、うつむいた。
「…クリフト、さっきの話、聞いてたんでしょ…なんで何も言わないの?」
ずきり、と、胸がうずく。
分かっていても、愛する人の口から残酷な事実を伝えられるのは辛かった。
しかし、クリフトは、何とか笑顔を作って見せた。
「…姫様、私は…姫様がお幸せなら…何もいうことはございません。」
「じゃあ、クリフトは、私とソロのこと、怒ったりしてないの…?」
アリーナの言葉に、クリフトの笑顔がこわばった。
まさか。
長い間、隠し続けてきたと思っていた、この胸の想い。
もしかして、この想いは、アリーナに伝わってしまっていたのだろうか…?
蒼白な顔でアリーナを見つめるクリフトに、アリーナは言った。
「だって、私たち、クリフトの分まで、チョコレート食べちゃったのに。」
…は?
なんですと?
950:HappyValentine?4/5 ◆XJ3Ut0uuQQ
07/02/14 18:08:49 QVgloC+a0
口をぽかんと開けたクリフトに、アリーナは慌てた顔をして一気にまくし立てた。
「ち、違うの!私は、ちゃんとクリフトにもあげようって言ってたのよ!
でもね、チョコレート、開けてみたら、可愛いんだけど少ししか入ってなくて…。
ソロが、3人で分けたら、いくらにもならないって言い始めて…。」
「ええと…姫様…?」
クリフトは、どこかで魔物がメダパニを唱えたのかと思ったが、その様子はない。
混乱した頭を片手で支えると、何とか話を整理しようと努力しながら尋ねた。
「どうも、その、話が見えないんですが…。」
「だから、今朝、宿のおじさんが、バレンタインデーだからってチョコレートくれたの。
そのとき、私とソロしかいなかったから、あとでクリフトにも分けてあげようね、って
言ってたのに、クリフトどっか行っちゃうんだもの。」
「…それでは、先ほどの、姫様とソロさんの会話は…?」
クリフトは、おそるおそる聞いてみる。
「わ、やっぱり聞いてたんじゃない。」
アリーナは赤くなった。
「ソロが、お前そんなに言うんだったら、お前の分をクリフトに分けろっていうから、
私はチョコレート大好きなのに、そんなのひどいって言ったの。そしたら、ソロも、
俺だってチョコレート好きなんだって言うから………結局、2人で全部食べちゃったの!」
本当にごめんなさい!と上目使いで手を合わせるアリーナを前に、
「~~~~。」
クリフトは、がっくりと頭をたれた。
951:HappyValentine?5/5 ◆XJ3Ut0uuQQ
07/02/14 18:09:47 QVgloC+a0
自分は、よっぽど間の悪い星のもとに生まれて来たに違いない。
一体どういうタイミングで聞けば、その会話の流れの、あの部分だけ、
ピンポイントで耳にすることができるんだろう。
「クリフト、…やっぱり怒ってる?」
アリーナは、膝の間に顔をうずめてしまったクリフトをおろおろ見ていたが、
クリフトはいつまでたっても顔を上げようとしない。
しばし無言の時間が流れた後、アリーナは思い切ったように口をきっと引き結ぶと、
クリフトの顔を両手でがしっと挟み、無理矢理上を向かせた。
突然のアリーナの行動に、驚いたように目をしばたかせたクリフトに、
アリーナはゆっくりと顔を近づけた。
「!?!?☆※★△×!!!!」
クリフトの頭の中は真っ白になった。
しばらくして顔を離すと、アリーナは、えへっと笑った。
「ソロがね、食べちゃったものは仕方ないから、クリフトには香りだけでも味見させてやれって。
ね、どうだった?おいしかった?」
「…………勘弁、してください…。」
「え、何、きゃー!クリフト、しっかりして!」
そのままクリフトはずるずると倒れ込み、気を失った。
――その後、クリフトが、「味見」の口止料として、
勇者に山ほどチョコレートを買わされたのはいうまでもない――。
952:ペギー ◆XJ3Ut0uuQQ
07/02/14 18:11:09 QVgloC+a0
お付き合いいただき、どうもありがとうございました。
しかし、クリフト、気を失ってばっかだな(^_^.)
もしかして、そろそろ次スレ立てないと、まずい…?
953:名前が無い@ただの名無しのようだ
07/02/14 18:59:30 3+sgA8EDO
ペギーGJ!!
香りだけ?香りだけなの!?もうちょっとイっちまえYo!!
954:名前が無い@ただの名無しのようだ
07/02/14 20:50:52 BHtUqJroO
ペギーさんGJ!!
無邪気な姫様テラモエスwww
クリフトは姫にもチョコをあげてくれw
955:名前が無い@ただの名無しのようだ
07/02/15 12:28:25 u9hwOQxuO
ペギーたんGJです!
鈍感というか純粋すぎる姫が可愛かった!
クリフトは間が悪いというかなんというか‥w
でもアリーナとキスできて良かったね!w
密かにバレンタインネタ希望だったので嬉しかったです!
956:名前が無い@ただの名無しのようだ
07/02/15 23:10:22 FiGiwaVOO
>>955
キスはしてないと思う。
だがそれがいい
957:名前が無い@ただの名無しのようだ
07/02/15 23:52:44 zpRVp0nRO
>>956
激しく同意