05/10/31 23:56:46 bWWxFgLK
「政宗・・・?」
はたと目を開けると、何時の間にか目の前にいつきが立っていた。
「ただいま」
「・・・・・・」
押し黙ったまま返事をしない政宗に、いつきは眉をひそめた。
「政宗、怖い顔してるだ。狐が化けて出てきた、みたいな顔してるだよ」
「・・・そういう可能性もあるな」
そんなことはない、と分かってはいる。
だが今の政宗には、いつきを笑顔で迎えてやることに抵抗があった。
櫓の上のいつきを見つめていた時と似た気持ちが、政宗の胸中に渦巻いていた。
いつきはそんな政宗の心中を知る由も無い。ただただ不機嫌な様子の政宗に困っている。
しばらく黙って何事か思案していたが、良い考えが浮かんだ時するように、ぽん、と手を打ち鳴らした。
「そんなら狐の嫌いな煙草の煙でもふかしてみればいいべ。もしおらが化けた狐なら跳んで逃げるだよ」
「Cigarette?生憎持ち合わせちゃいねえな。城を出る前には吸ってたがね」
城で一服したことは事実だったが、持っていないというのは、咄嗟に口をついて出た嘘だった。
(何で意地張ってんだ俺は・・・it's nonsense!)
自嘲の笑いが口元に浮かびかけたその時、いつきが一歩前に歩み寄る足音を聞いた。
「吸ったばっかりだか。そんなら」
不意にいつきの手が政宗の肩に置かれ、ぐいと下に引っ張られた。
何をする、と言いかけた政宗は、その言葉を飲み込んだ。
ほんのわずかに動けば唇が触れそうな位置に、いつきの顔があった。
動けば触れてしまう。政宗は微動だにできない。
いつきは目を瞑り、じっとしていたが、やがて片目だけそろりと開けて政宗を見た。
「・・・な、大丈夫だべ」
いつきの意図を図りかね、政宗が戸惑いの表情を見せると、すう、と目の前のいつきが息を吸い込んでみせた。
「煙草の匂い」
「・・・ああ」
政宗の体には、煙草の残り香があった。
その残り香を吸い込んでも平気でいられるのは、自らが狐でないことの証明だと。
「まだ疑ってるだか?政宗は疑りぶかいな」
いつきがさらに顔を近づけようとつま先立ちになったので、政宗が慌てて止めた。
「Wait!分かったよ。お前は正真正銘、いつきだ」
その声を聞いて、肩にかけていた手をそっと下ろし、政宗から体を離したいつきは淋しげに微笑んだ。
「・・・もう見間違えないでけろ」
今だけのことではない、祭りの時の事も咎められているようで、政宗は心がちくりと痛んだ。
「Sorry,悪かった」
政宗は手を伸ばし、いつきの頭をそっと撫でた。
「もう間違えねぇ」
その言葉を聞くといつきは嬉しげに頷いた。