05/10/29 18:24:23 WfU4Wf+3
櫓の上に立つ巫女装束の少女は、唇に薄くさした紅のせいか大人びて見えた。
穏やかな表情で、祭りで賑わう人々を見下ろしている。その手には、一束の稲穂が握られていた。
それがいつきだと分からなかったのは、その装束と一つに結わえた髪型のせいだけではない。
人々を見るあたたかみのあるまなざしは、何か近寄り難い神々しさすら含んでいた。
(初穂を・・・神に捧げると言ったな)
いつきが手にした稲穂の先が、その実の重みでゆらゆらと揺れていた。
政宗には、それがいつき自身に捧げられたものであるように思えた。
(ウカノメからの神託だけじゃねえ、shaman・・・その身に神を宿すとでも?Ha・・・冗談)
その考えを振り切るようにいつきに声をかけようとするが、櫓を見上げた政宗は口をつぐんだ。
もしもあんな表情で振り返られたら。
あんな慈愛に満ちた――彼女自身が大地母神でもあるかのような表情で微笑まれたら。
(お前は・・・その身が神のものだとでも言うのか)
迷い、声をかけそびれている政宗に、不意にいつきが視線を落とす。
目線が合った瞬間政宗はどきりとした。が、さらに次の瞬間も驚くこととなる。
いつきが櫓からふわりと飛び降りたのである。
櫓はそう高いものではなかったが、小さないつきからすれば結構な高さだ。
うまく着地したものの、そこから大きくバランスを崩し政宗の方に数歩よろめいた。
政宗がいつきの体を受け止め抱き上げると、その掌に子供らしいあたたかな体温を感じた。
「・・・Are you all right? 大丈夫か」
その声を聞いたいつきが、政宗の胸に伏していた顔を上げた。
「政宗」
ぎゅっと政宗の腕にしがみつき、花のように笑う。政宗のよく知るいつきがそこにいた。
政宗の胸の内に、じわりと安堵感が広がった。