05/08/14 01:41:01 j3CNpcPR
>>223の続きでつ
空の彼方で積乱雲が見えた。夏の柔らかい風が頬を撫でる感覚が心地よく、光秀はやや目を細める。ふいに視界を横切ったものがあった、蝶だ。どういう仕組みで飛んでいるのか分からない、ひらり、ひらりと木の葉が落ちるように舞う。
ガサリと草がすれる音がした。帰蝶は猫の子のように蝶を捕えようと小袖の裾を膝の辺りでくくり、あっちこっちをぱたぱたと走りまわっていた。
光秀はかわらず木陰でその様子を子供だ、とあぐらをかいていた足に肘をのせ、溜め息をついた。だが帰蝶の黒い瞳とパチリと視線があった瞬間だった「光秀、捕まえて!」とよく通る声が響いた、それがスイッチとなる
「駄目だ帰蝶、騒いでは蝶は逃げてしまう!」
少年は袖をまくり走り出した。
二人の子供が蝶を追い掛ける。少年を知る人間の誰がこんな少年らしい少年の姿を思い浮かべるだろうか、それは何よりも無邪気で優しい光景だった。
蝶は帰蝶の鼻の頭に瑠璃色の羽を静かに閉じとまった。二人は顔を見合わせて微笑みあう、光秀は帰蝶の鼻に静かに手を伸ばし蝶の羽を摘んだ。
「帰蝶は子供だ、蝶なんかに夢中になって」
光秀は少し頬を赤くして帰蝶に蝶を手渡した。それが少年に出来る唯一の照れ隠しだった。帰蝶はそんな光秀の顔を見ると「ありがとう」と綺麗に微笑んだ