05/09/29 01:51:42 NlBQxUB3
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「わたしを捨てないで!」とヅラは云った
氷川は何も云わずにヅラを捨てた
何か云いたげに頭皮はひくつくが
ため息ひとつも出さないで
黙ってヅラを捨てたのだ
ヅラは育毛剤の海に転がった
未練げに氷川を見上げてる
水浸しになったヅラは
涙を流していたとしても
それと判別できなかった
氷川は別れ際の口づけを
買ってきたブラシで拭う
新しいブラシにはヅラの残した黒い跡
それは水たまりに投げ捨てられた
ヅラに被さるように…
そんな悲しい結末を
生まれたての髪は眺めていた
毛根のかげから人知れず
まだ幼い己の体を揺らしながら眺めていた
自分の命も長くない事を知らずに…
そしてこんな別れを見るたび
頭皮は涙を流すのだ