FF・DQ千一夜物語 第五百五十二夜の2・5at FF
FF・DQ千一夜物語 第五百五十二夜の2・5 - 暇つぶし2ch563:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/10/13 15:55:00 T3UaQWhR0
щ(゚Д゚щ)カモォォォン

564:ラトーム ◆518LaTOOcM
06/10/13 21:12:00 DSu1kLpM0
ラブラブщ(゚Д゚щ)カモォォォン

最初に作品名(DQ3とかFF5とか)入れておいていただけると
なお嬉しいです。でも、それがオチにつながってるとかなんとか
でしたら、無理はお願いしませんです。


中秋の名月は美しかったですね!
今の目標は「文化の日までに2回更新」です。
すみませんすみませんすみませんーーーー

565:562
06/10/13 22:34:09 FOXZvmKu0
>>563,564
ではお言葉に甘えて、出来てるところまで投下させていただきます。

ラトームさん、お疲れ様です!
中秋の名月、残念ながら悪天候の為、見られませんでしたorz
貴方様の無事が確かめられば、それで十分です。
どうかプレッシャーを感じて、無理をされませんように。

あ、作品はDQ8です。
ネタバレ全開、通常エンドバージョンです(今日はそこまで行きませんが)
よろしくお願いします。

566:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/10/13 22:38:41 FOXZvmKu0
「最近、姫様、あまり泉の水を飲めませんね? お体の調子でも悪いのですか?」
ふしぎな泉で、エイトが首を傾げる。
翡翠色の瞳と目が合って、オレは思わず苦笑する。
ヤバイな。ほどほどにしないと、いくらそっちの方面には鈍感な面子が揃ってるとはいえ、気づかれるのは時間の問題だ。
オレが夜中にこっそりミーティア姫様を連れ出して、この泉で逢い引きしてて、そのせいで彼女が大量の水が飲めない状態になってるなんて知られるのは、絶対にマズい。
だけど内緒の恋っていうのは密の味で、どうにも抑えることが出来ずにいる。

初めて逢った時、彼女は馬の姿だった。
エイトやトロデ王がオディロ院長暗殺未遂の疑いをかけられて、修道院の牢に入れられている時、鉄の処女からの抜け道がちゃんと使えるかどうかを確かめるため、オレは院を抜け出して馬小屋に向かった。
その時に心細そうに修道院の方を見ている白馬を見て、勘のいいオレは、すぐにエイトたちの馬だと見当が付いた。
だけど保護してやろうと近寄ったのに、これがなかなか頑固なレディで、一歩も動こうとしてくれなかった。
仇でも見るような目で睨まれて、あの時は本当にどうしようかと思ったもんだ。
後から聞いた話だけど、外に出られないはずのオレの頼み事が原因で、エイトたちが戻ってこないっていうのに、そのオレがちゃっかり修道院を抜け出してたのを見て、腹が立ったらしい。
あの時は侵入者があったことで監視の目が緩くなって、外に出ることができたんだが、まあ彼女がそう感じたのは当然のことだとも思う。

その時のことが心に残っていて、馬に嫌われるのは騎士としてのプライドが許さないって部分もあり、旅に加わった後は積極的に彼女の世話をするようにした。
エイトもトロデ王も、彼女を大事にしてはいたけど、馬に関しては素人で、世話の仕方が下手すぎて見ていられなかった部分もある。
その内に彼女のオレを見る目も優しくなり、言葉は通じないながらも友情らしきものが芽生えたと思った頃、この泉で彼女の真の姿を見ることになった。

567:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/10/13 22:39:38 FOXZvmKu0
一目で恋に落ちた。

馬は睡眠時間が短い生き物だ。そしてオレの得意分野は夜更かし。
だからどこかの町に泊まる度、オレは宿を抜け出して彼女を泉へと連れ出した。
ほんの数分間だけでも、人間の姿の彼女を独り占めするために。
彼女も、そんなオレのわがままに付き合ってくれた。

自分でも笑ってしまうほどに、清い関係だった。
彼女が人の姿に戻れるのは、ほんの数分だけだ。
姿を見て、声を聞くだけで、あっという間に時間は過ぎてしまう。
それにオレなんかが彼女の純潔を奪ってしまったら、トロデーンとサザンビークの間で戦争が起きかねない。
そんな危険は橋は渡らない。
『君は婚約者のいる相手だから、後腐れが無くていい』と、精一杯の虚勢を張る。
そして彼女にも言う。
『婚約者という安全パイをキープして、オレとの恋を楽しめばいい』
最低なことを言っている自覚はあるが、他にどうしようがある?
彼女だってわかってる。他にどうしようもないことぐらい。
だけど、一生に一度くらい『恋』に溺れたっていいはずだ。
そう、これはあくまでも『恋』だ。『愛』にはならない。
熱しきった後は冷めるだけ。

……それでも、この熱が冷める気配は一向にないことに、少しだけ戸惑っている自分がいる。

568:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/10/13 22:40:39 FOXZvmKu0
世の中は、案外うまく出来ている。
不自然なこと、無理なことは、決して長くは続かない。
煉獄島から脱出して、マルチェロの法皇就任式に乗り込んだ日。
聖地と呼ばれていた場所は崩壊し、たくさんの人が死んだ。
そして、その日にオレの人生は決まったんだ。

空に浮かぶ城に攻め込もうにも、目の前で起こった惨劇を放置することも出来なかった。
急を要するケガ人に回復魔法をかけ、崩壊した建物に閉じ込められた人間を救出した。
後は生き残りの騎士団員と聖職者たちに任せても何とかなりそうだという頃には、魔力は底をついていて、とても暗黒神なんかと一戦交えられる状態には無かったんで、一晩休んで体力を回復させることにした。
一応は暴力行為で煉獄島を脱獄した身なんで、教会関係者のいない三角谷を選んだ。
ここならトロデ王を外で待たせる必要もなく、心配がいらないというのも理由の一つだ。

そしてオレはまた、彼女をふしぎな泉へと連れ出す。
大切な話をするために。

「無事で良かった。この一カ月間、本当に心配していたのよ」
泉の水を飲んで人間の姿に戻った彼女の声と姿に、固めていたはずの決意が一気に崩壊した。
華奢な体を折れてしまいそうな力で抱き締め、唇を奪う。
頭では駄目だとわかってるのに、自分を抑えられない。
「ク、ククールさん?」
驚きと戸惑いを隠せずにオレを見上げている彼女を、強引に草の上に押し倒す。
首筋に下を這わせ、跡が残るほどに強く吸い上げると、上ずった声が落ちてくる。
「どうし、たの? 急にこんな……」
ごめん、オレ最低なことしてる。
君の気持ちも考えずに、一方的に自分の感情をぶつけてる。
呆れてくれて構わない。オレはこういう人間なんだ。

569:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/10/13 22:41:18 FOXZvmKu0
小さな手が、そっとオレの肩にかかる。
そうだ、そのまま押しのけてくれ。そうしたら頭が冷える。
お互いに、棲む世界が違うことは知っていた。
君の呪いが解けるまでの、期限付きの恋だった。
秘密の味が甘すぎて、ほんの少しのめり込んだだけ。
そして予定よりも少しだけ早く、終わりの時が来ただけだ。

だけどその手はオレを拒絶することなく、柔らかく首に巻き付けられた。
そして、耳元で甘く囁かれる声。

「好き……」

……何もかも投げ出してしまおうか?
このまま彼女を奪ってしまったなら、もう後には戻れない。いや、戻らずに済む。
「もしもオレが……」
暗黒神を倒せたなら、望んでもいいだろうか。
世界を守る英雄になれたら、君に釣り合う男と認めてもらえないか?
何もかも捨てたっていい。過去も、約束も、覚悟も、罪も。
「ミーティア、君と……」
一緒に生きていけるなら、その後で地獄に堕ちたってかまわない!

そう続けようとした言葉は、声にならなかった。

時間切れだった。
泉の水の効力は切れ、ミーティアは馬の姿に戻ってしまった。

570:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/10/13 22:42:24 FOXZvmKu0
……ああ、そうだな。許されるはずがなかった、そんなこと。
この時ばかりは、ラプソーンの呪いに感謝せずにはいられない。おかげで婦女暴行魔にならずに済んだ。
何を言うためにここに来たかも、ようやく思い出した。
頭も冷やしてくれたことだし、暗黒神君には今まで散々コケにしてくれた分と合わせて、しっかりお礼をしないとな。

「エイトってさ、いいヤツだよな」
我ながら回りくどい話の切り出し方だとは思うが、いきなり核心を突いた話をする度胸が無い。
ミーティアは少し戸惑った様子を見せるが、静かにオレの話に耳を傾けてくれる。
いつだってそうだった。
彼女が人の姿でいられるのは、ほんの数分。たわいの無い言葉を交わした後は、一方的にオレが話すだけ。
口説き文句だったり、聖書の暗誦だったり、修道院でしでかした悪事の数々だったり、内容は様々だ。
だけどそれに対していつもミーティアは、静かな優しい瞳を向けてくれていた。

「オレとエイトってさ、境遇だけは似てるんだよ。十歳になる前には親はいなくなってて、親代わりに育ててくれた人は親切でユニークだけど、その集団の中で一番偉い人だったから、甘えるってわけにもいかなくて。
それでも自分の居場所を護るために、武器を取って戦う人生選んだっていうのに、ドルマゲスの中の暗黒神にそれをメチャクチャにされた時には、手も足も出なかった」
それなのに、オレとあいつは似ても似つかない。あいつには、自分の心を守るための、嘘も、ごまかしも、諦めも無い。
お人よしのおせっかいで、変なところでは頑固者で、とんでもなく呑気なヤツで。
でも、あいつとなら、どんなことでも何とかなると思わせてくれる、器の大きさを持っている。
どこで違ってしまったんだろうと考えた。
もちろん、持って生まれた資質ってのがあるんだろうけど、その他にも決定的な違いが一つだけあった。

571:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/10/13 22:44:07 FOXZvmKu0
「君は直接会ったことは無いはずだけど、オレに兄貴がいるのは知ってるだろう? そしてそいつが、オレを憎んで毛嫌いしてるってことも」
空を仰いで、大きく一つ息を吸った。
今までずっと、目を背けてきたことから、逃げられない時がやってきた。
「オレの兄貴も君と同じように、夜の静けさをたたえた黒髪と、深い森のような緑の瞳。そして、ちょっとばかり立派なデコの持ち主なんだ」
ミーティアと初めて会った日、あいつと同じ色の瞳が、あいつと同じようにオレを睨むのを見て、自分でも驚くほどに胸が痛んだ。
「兄貴がオレを憎むのは、無理もないことだって思ってた。お互い、他に行くとこも無いんだし、諦める以外どうしようもないって、気にしないようにして受け流してきた。
……だけど、やっぱり辛かったよ。たった一人の肉親が、冷たい憎しみの目しか向けてくれないっていうのは」
喉の奥が鈍く痛む。上を向いたまま固く目を閉じ、言葉を続ける。
「だからエイトを羨ましく思った。オレの人生の一番近い所にいる人間が、自分を憎む兄貴じゃなくて、自分を慕ってくれる可愛い女の子だったら、オレだってもう少しマシな人間になれたんじゃないかと、思わずにはいられなかった。
だから、君があいつと同じ色の瞳で、オレを優しく見てくれるのが嬉しかった。自分が何かに許されたような気持ちになれたんだ」
頬に、ザラリとした舌の感触。
……反則だ。
これが人間の女の子だったら、どんなことしてでも見栄を張るのに、馬が相手だと、どうしても気が緩む。
艶やかな鬣の中に顔を埋めて、目から出る液体を隠しても、震える声も体も抑えることが出来ない。
だけど最後まで言い切らないといけない。どんなにみっともなくたって。
「もう、終わりにしよう。いや、元から始まってさえいなかったんだ。オレは君自身のことなんて、初めから見ていない。オレは君に、兄貴を重ねていただけなんだから」
目を拭って顔を上げると、そこにはやっぱり兄貴と同じ色の瞳。
そこには憎しみも怒りもなく、ただ悲しそうに潤んでいる。
彼女にこんな顔をさせているのは、他ならぬオレ自身。

「今までゴメン。さようなら……姫様」
許してくれとは言わない。だからせめて暗黒神は必ず倒して君の呪いを解く。
それ以外にオレに出来ることは、もう何も残っていないんだから。



572:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/10/16 23:45:23 NM7wClOK0
保守

573:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/10/17 08:27:11 nq4lytGe0
最下層age

574:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/10/18 10:52:36 wa+X35pw0
>>566-571
続きが気になる。
基本的にはエイト&姫が好きだけどうまく行くといいなぁ。
ありえないカップリングでもハッピーエンドを望んでしまう。
ガンガって!

575:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/10/19 23:30:32 Zey2Fje90
>566-571の続きになります。


暗黒神は消滅し、トロデーン城にかけられていた呪いは無事に解けた。
城の中庭で祝宴が開かれてるが、正直あまりめでたい気分にはなれない。
オレにとっては、やらなきゃならない事の一つが終わっただけでしかない。
それどころか、青いマントにかかる黒髪の後ろ姿を、目で追ってしまいそうになる自分の未練がましさに、嫌気がさす。
ちょっと見渡せば、レディたちが城を救った美貌の騎士を、熱い眼差しで見つめてきてるっていうのに、知らん顔をするのは礼儀に反する。
彼女たちの夢を壊さないように、魅力たっぷりに紳士的な態度で、笑顔をふりまく。

ただそれだけのことだったのに、いきなり火の玉が飛んできた。

ゼシカのメラは普通の倍の威力だけど、今のオレにとっては、ちょっと熱いってだけだ。
だけど、オレって被害者だよな?
なのに何でゼシカに怒られながら、城の裏まで引っ張ってこられなきゃならないんだ?
理不尽さを感じながらも、初めて会った時のこと思い出して、ちょっと懐かしい気持ちになる。
あの時は、オレの方がゼシカを外に連れ出したんだけど、口よりも先にメラが出るところは変わってない。
ちょっとは淑やかにならないと、嫁の貰い手ないぞ?

「あんたはどうして、女とみれば見境なく口説くわけ? ホンットに、初めて会った時から全然成長してないんだから!」
うわ、こいつにだけは『成長してない』とか言われたくねえ。
オレはかなり変わったはずだ。
以前だったら、『ヤキモチか?』とか『オレの本命は君一人だよ』とか言ってただろうが、ゼシカに対しては冗談で済まないから、言わないだけの分別はついた。
初めて会った頃は、世界最高峰のダイナマイトバディの持ち主のゼシカを、何とか口説き落とそうとも思ったもんだが、本当に残念なことに、今はゼシカを異性として意識出来ない。
男らしすぎるんだよな。いい意味でだけど。

576:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/10/19 23:31:33 Zey2Fje90
「あんなの、口説いた内に入るかよ。長い間呪いで苦しんでたレディだちに、甘い夢を見せてやることの、何が悪いんだよ。美形ってのは、全世界の共有財産なの。奉仕するのがオレの義務。
あ、きわどい格好して男たちの目を楽しませてるゼシカも、ちゃんと美形の義務を果たしてるから、安心していいぜ」
「ふざけないでよ、バカ! ミーティア姫が可哀想じゃないの!」

……驚いた。心底驚いて、声が出ない。
「姫様は本当に本物の箱入りお姫様なんだから、あんたが女の人を口説くのは挨拶代わりだなんて、きっとわからないわよ? 誤解を招くようなことして、本気で愛想つかされても知らないんだからね」
「ゼシカ、お前……どうして? いつから?」
「見てればわかるわよ。ククールって、自分のことクールなポーカーフェイスだと勘違いしてるみたいだけど、メチャクチャ顔に出やすいタイプだってこと、自覚した方がいいわよ」

まいった。
女の勘は侮れないって知ってたはずなのに、油断した。
ブラコンゼシカは恋愛には疎いと思い込んでたけど、よく考えてみたら『アスカンタのパヴァン王とキラは怪しい』とか言って、一人で盛り上がってたこともあったっけ。
基本的に女は、こういう話には興味津々な生き物だ。
あんまりにも男らしいから、ゼシカが女だってことすら忘れかけてた。大失敗だ。

「今は気づいてるのは私だけだけど、エイトやトロデ王が知ったら、タダじゃ済まないわよ。『こんな女たらしに姫は任せられん!』って言われて、ミーティア姫のそばにも寄れなくなるのがオチね。そうなりたくなかったら、ちょっと生活態度を改めなさい」
だけど、オレたちがとっくに別れていることには、さすがに気づいていないらしい。

577:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/10/19 23:33:21 Zey2Fje90
オレは基本が嘘つきだから、嘘を吐くことの難しさはよく心得てる。
予め起こる事態を想定して、周到に用意しておいた嘘じゃない限り、どこかでボロが出るだけだ。
ましてゼシカは勘が鋭い。ごまかせるとは思わない方がいい。
そう判断したオレは、ゴルドが崩壊した夜の、不思議な泉であったことの全てをゼシカに話した。

「……だから、何よ」
ゼシカは真っすぐな目を向けて、詰め寄ってくる。
「自分のたった一人の肉親の面影を重ねて好きになることの、何が悪いのよ。あんたの場合、逆に憎んだっておかしくなかったのを思うと、むしろ健全じゃない。
誰かを好きになるのに間違いなんて無いし、立派な理由なんかも必要無いわよ。大事なのは今の気持ちでしょう?
それに、それじゃああんまり一方的すぎて、ミーティア姫の気持ちは完全に無視してるじゃないの。ようやく姫様の呪いも解けたんだから、ちゃんと時間をかけて話し合わなくちゃダメよ」

こうなったら、ゼシカは絶対に引き下がってはくれない。
一度決めたことは、絶対にそうしないと気が済まない性分で、自分の信じた道を進むってのがゼシカの信条だ。
そしてそれは、いつでも自分が正しい道を選べるっていう自信から来てるもの。
だから、オレのように正しくないとわかってる道を選んでしまう人間の気持ちなんて、ゼシカにはわからない。
そのことに苛立ちを感じる気持ちと、いつまでもそのままでいてほしいという、憧れにも似た気持ちが絡み合う。
オレの本当の気持ちをゼシカに話そうと決めたのが、曇りの無い心に影を落としてやりたくなったからなのか、心配してくれる気持ちに対する精一杯の誠意なのか、オレ自身にも判断できなかった。

578:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/10/19 23:36:38 Zey2Fje90
「ゴルドでマルチェロが行っちまうって時、ゼシカ言ってたよな。『このまま行かせていいの?』って。もちろん良くないさ。あいつは人殺しの大罪人だ。野放しにしていいはずがない」
「……っ! 違う! 私、そんな意味で言ったんじゃない!」
わかってる。ゼシカが、マルチェロのケガを治してやれって意味で言ったことぐらい。
「それにあれはマルチェロ一人のせいってわけじゃ……。暗黒神の杖の魔力のせいで……」
ゼシカは本当に正直者だ。わかりやすすぎる程に、語尾が曖昧になってる。
「無理に庇おうとしなくていい」
一応は血の繋がった兄弟で、十年も同じ修道院で暮らしてたんだ。少なくともオレたちと戦ってた時、あいつが自分の意志を保ってたことくらいわかってる。
杖の魔力に支配されたことのあるゼシカにも、それは感じられたはずだ。自分の時とは明らかに違うってことが。
あの杖がどんな物かわかってて、それを手放そうとせずに、暗黒神の力を手に入れようなんてバカな考え起こした。
ゴルドが崩壊したのは、間違いなく、マルチェロのせいだ。
それなのにあの時、俺は『好き勝手やって死ぬなんて許さない』なんて言って、あいつを生かした。
それこそ、勝手な言い分だ。
死にたくないのに、一方的に命を奪われた人間からしてみれば、あいつが生きていることの方が許せないだろう。
「ゼシカだって、兄の仇を討つために旅に出たんだから、わかるだろ? オディロ院長が殺された時、マルチェロはオレに敵討ちを命じ、オレはそれを遂行した。ドルマゲスに、生きて罪を償わせようなんて気持ちは、これっぽっちも無かった。
それなのに、あれだけ多くの人間の仇になってしまったあいつを死なせたくないなんて、どのツラさげて言えるっていうんだ。本当は、このオレの手で斬り殺さなくちゃならないくらいだったんだ」

579:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/10/19 23:38:05 Zey2Fje90
谷底に落ちていくあいつの腕を、最初に掴んだ時は迷っていた。
引き上げるべきか、手を離して死なせるべきか。
だけど腕を振り払われた時、体は正直な答えを出していた。
間に合うはずのないタイミングで、奇跡のように再び腕を掴めた時、オレは覚悟を決めたんだ。
「オレは、またあいつが何かやらかそうとした時は、必ず止めに行かなきゃならない。それが、あいつを生かしたオレの責任だからだ。
その時は、全てを捨てて行かなきゃならないかもしれないのに、大事な人を作るなんて、オレには出来ない。オレには誰かと一緒に生きる人生なんてものは無いんだよ。それは相手がミーティア…姫様じゃなくても同じだ」

気がつくと、ゼシカは大きな瞳から、ポロポロ涙をこぼしていた。
「あんた……バカよ。罪滅ぼししたいっていうなら、命懸けで戦って暗黒神を倒しただけでも充分じゃない。どうしてマルチェロの為に、あんたが自分の人生、犠牲にしなきゃならないの? そんなこと、誰も望んでないわよ。
死んでしまった人たちの分まで、ちゃんと生きて幸せになろうとしなきゃダメよ。少なくとも私は絶対そうするんだから!」
……ゼシカは本当に強いな。
そういえば、もう一つケジメをつけなきゃいけないことがあったんだ。
オレは、自分の騎士団の指輪を外す。
「ごめんな。『君だけを守る騎士になる』なんて、出来もしないこと軽々しく言って。さっき言ったように、オレには誰かと生きるなんて人生なんて無い。だから『片時も離れず守る』って言った言葉、無かったことにしてくれ」
「……そんなの、初めから本気になんてしてなかったわよ、バカ」
ほんとに最低だな、オレ。
こんなふうにゼシカを泣かせて、いつか天罰が下るだろうと思う。

580:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/10/20 00:05:50 QJu1mb8Z0
「だけどゼシカのことは、大事な仲間で親友だと思ってる。そばで守ることは出来ないけど、お前が困ってることがあったら、その時は必ず助けに行く」
ゼシカの手を取り、騎士団の指輪を渡す。
「オレはもう騎士じゃないけど、この指輪にかけて、それだけは約束する」
女性に指輪を渡すっていうのは、本来もっと違う場面なんだろうけど、オレがその時を迎えることは一生ない。
だから勝手だけど、この行き場の無い想いを、ゼシカに預かっていてほしいと思った。
「オレ、ゼシカには結構救われてんだぜ? もしマルチェロを行かせた時、最初に聞いた言葉が『あんなヤツ野放しにするな』だったら、絶対立ち直れなかった。あいつのケガの心配してくれたこと、本当に感謝してる」
ゼシカは指輪を、固く握り締めて泣いている。
「あんたバカよ。ほんとにどうしようもないバカ……」
「お前、さっきからバカバカ言い過ぎ」
口は悪いけど、ゼシカは本当にオレのことを心配してくれてる。
こんな話をしたら悲しませるってわかってたのに、きっとどこかで甘えてたんだな。

「私には、できること無いの?」
「……幸せに……なってほしい」
旅の間も誰ひとり助けられなくて、兄貴の言う通りに、自分が本当に疫病神なんじゃないかと思ってしまうそうなこともあった。
だから、ゼシカが幸せになってくれたら、オレはきっとかなり嬉しいだろうと思う。
オレと深く関わった人間全てが不幸になるわけじゃないと、そう信じさせてほしい。
まっすぐに強いゼシカは、きっと自分の力で悲しみや辛さを乗り越えて、堂々と明るい道を進んでくれるだろう。

選んだ生き方を後悔はしない。
兄貴が何度、同じようなことを繰り返しても、きっとオレがあいつを殺せる日は来ない。
だから何度でも止めに行く。
そう決めた時、不思議なほど気が楽になったオレは、もしかして何かに呪われてるのかもしれないな。

581:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/10/20 22:07:24 yojFGBQo0
GJ だがいつの間にか兄弟ネタになってる件

582: ◆2CDckY/JG6
06/10/24 09:11:00 CHYAvN1I0
4日に1レス。これ応用。

583: ◆2CDckY/JG6
06/10/27 13:53:06 A4FWhS4w0
3日に1レス。これ基本。

584:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/10/28 17:49:33 NYSyUBa+0
◆uWt7kdGYAcさん面白いですねー

585:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/10/29 22:10:20 pT/DIKLc0
久々にこのスレ来たが、やっぱり色々読めていいな

586:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/10/31 17:08:18 MsE2bFDv0
良かったよ~

◆uWt7kdGYAcさん、GJ!

587:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/10/31 21:22:49 kJQMLxnJ0
落ちちゃったみたいです…

FFの恋する小説スレPart5
スレリンク(ff板)

588:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/10/31 23:58:11 qhKT3wQ/0
>>587
それは1スレ前で、ずいぶん前に使い切ったはず。
今はPart6で、使い切ったから新スレ立ったよ。

FFの恋する小説スレPart7
スレリンク(ff板)

589: ◆2CDckY/JG6
06/11/03 12:44:05 p3gEqaC80
3日に1レス。これ基本。

590:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/11/03 12:44:36 Ry7rAsH30
4日に1レス。これ応用。

591: ◆2CDckY/JG6
06/11/06 10:15:12 CgblJ8nc0
3日に1レス。これ基本。

592:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/11/07 20:42:36 OwkEbcmk0
メテオスウォームとワードオブカーズってどちらの方が使用頻度高い?
レベル7魔法は回数余りがちだから結構気軽に使えるけれども

593:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/11/07 21:04:31 OwkEbcmk0
誤爆してた。すみません

594:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/11/09 13:32:32 3fi2G6dM0
>566-571 >575-580 の続きです。


暗黒神を倒してから、早数カ月。
オレはベルガラックを拠点にして、観光ガイドみたいなことをして生計を立てている。
まずはカジノのオーナー兄妹と契約して、世界中の町でカジノの宣伝をし、興味のある人間はそのままルーラでご案内する。
更に『サザン湖でピクニックツアー』とか『オークニスで雪と戯れるツアー』とか、平和極まりない企画の添乗員までやってる。
魔物と戦えて、回復魔法も使えて、どうしてもヤバくなったらルーラで逃げられるオレは、確かに適任ではあると思う。
旅の間は、自分のことを器用貧乏で中途半端だと思って、密かに仲間に対してコンプレックスを抱いたりもしたけど、平和になった時に意外に潰しの効く能力が多かったことは、素直にラッキーだと思っておくことにしよう。

そんな生活にもすっかり慣れた頃、トロデーン城、近衛隊長エイト殿から手紙が届いた。
それを見て、オレは少し迷っている。
手紙の内容は、近日、サザンビークのチャゴス王子とトロデーンのミーティア姫の結婚式が執り行われることが決まり、式場であるサヴェッラ大聖堂まで、トロデーン王女殿下の護衛を頼みたいという内容だった。
エイトのヤツも、何考えてんだか。
花嫁の護衛に同年代の独身男、ましてやオレのような絶世の美男子を選ぶなんて、非常識にも程がある。
世紀のロイヤルウェディングだってのに、サザンビーク側からつっこまれそうな人選してんじゃねえよ。
ヤンガスとゼシカにも同じ内容の手紙を送ったっていうから、久しぶりに顔を合わせようって意味なんだろう。完全な公私混同だ。
オレはもう二度と、彼女の前に姿を現すつもりは無い。
オレが行かなきゃ困るほど、トロデーンが人手不足ってことはないはずだ。断っても問題無いだろう。

……でも、相手があのチャゴスってのが、問題だよな。
娘を溺愛してるトロデ王が、婚約解消しなかったってことは、あの王子も少しはマシになったのかもしれないけど、どうにも不安は拭い切れない。

595:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/11/09 13:33:37 3fi2G6dM0
心配してた通りだ。
久しぶりに会ったチャゴスは、王家の谷の時よりも更に性根の腐り具合が進行してるようで、自分が口出しできる立場じゃないとわかってはいても、あんな男に彼女が嫁ぐと思うと、どうにも我慢が出来なかった。

「オレは、姫の幸せを守るのも、近衛隊長の仕事だと思うんだがな」
結婚式をぶち壊すようにけしかけても、エイトは困ったような顔をするだけだ。
臣下の立場で、君主のやることに口出しできないっていうのは、わからなくもない。
だけどオレは、エイトなら大事な姫を守ってくれると信じてた。
トロデのおっさんにしたって、いくら国同士の約束だからって、愛娘を最低な男に嫁がせるようなマネはしないと思ってた。
だからあの時、別れる決心もついたっていうのに、これじゃあ何の意味も無い。


おまけに何なんだ、あのエイトのマイペースぶりは
普通、主君の姫君の結婚式の朝に寝坊するか?
今考えると、旅の間も、さりげなく一番のねぼすけ野郎だったっけな。

「やっと一人になったわね」
大階段の下から大聖堂を見ていたオレの所に、ゼシカがやってきた。
いろいろ考えてたせいで、気づくのが遅れた。
「一人じゃあ、皆の前に顔を出せない程のヘタレだとは思わなかったわ。保護者付きだなんて、恥ずかしくないの?」
ゼシカは、相変わらず辛辣だ。
オレも皮肉やイヤミは苦手じゃないが、この毒舌ぶりには、足元にも及ばない。
しかも、当たらずとも遠からずってとこだから、反論も出来ない。
「わかってんなら、よけいなことは言うなよ」
ゼシカに面倒なこと言われて、詰め寄られるのが嫌だったから、馴染みの女たちに同伴してもらって牽制してたって部分は、確かにあるからな。

596:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/11/09 13:35:14 3fi2G6dM0
だけどゼシカは、おかまいなしだ。
「私ね、出発前、トロデーン城でミーティア姫と話したのよ。チャゴス王子なんかと結婚するの、止めようと思ったの」
……何か、ちょっとホッとした。
少なくとも、この結婚に反対なのはオレだけじゃないんだってわかって、安心した。
「だけどミーティア姫は、王族として生まれたからには、義務は果たさなくちゃいけないんだって、その一点張りだった。正直、彼女があそこまで頑固だとは思わなかったわ」
頑固、か。
本人は自分で言ってたんだよな。わがままで頑固で、いざという時は、絶対に譲らないんだって。
そして、その被害者の八割がエイトだってことも言ってたっけ。

噂をすればってわけじゃないけど、ようやくエイトが起きてきた。
「きのうオレが言ったこと、覚えてるか? 姫の幸せを守るのも近衛隊長の仕事だって」
だから、守ってやってくれ。彼女が不幸になるってわかってる結婚なんて止めてくれ。
「あと、オレたちは仲間だ。お前が何かするつもりなら力を貸すぜ」
新しい錬金のレシピが欲しいっていうなら、世界中から集めてくる。
昔の記憶を取り戻したいっていうなら、どんな協力もする。
親を捜したいっていうなら、どこまでだって付き合う。
だから今回だけは、お前の力を貸してくれ。

エイトが階段を駆け上がっていった後、何か言いたげにオレを見ているゼシカに向き直る。
「いいぜ、文句があるなら言えよ」
エイトの前で余計なことを言わずにいてくれたからな。どんな悪態でも、甘んじて受けるさ。
「文句なんか無いわよ。ここであんたが出てったら、駆け落ちにしか見えないじゃない。そんなことしたら、ミーティア姫はトロデーンには帰れなくなっちゃう。
近衛隊長のエイトなら、その点は問題無いでしょう? 国際問題にはなるかもしれないけど、姫様のことを第一に考えるなら、その方がいいわ」
確かにこれは、暗黒神を倒して平和になったはずの世界に、波風立てようとしてるってことだ。
でも、いつでも正しい道を選ぶゼシカがそう言うなら、これは間違ったことじゃないって、信じてもいいんだよな?

597:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/11/09 13:37:57 3fi2G6dM0
階段を上がっていくと、エイトは入り口の所で騎士団員と押し問答をしていた。
「あー、もう! 騎士団のヤツなんて殴り倒しちゃえばいいのに、何やってるのよ、エイトは!」
気の短いゼシカが、物騒な言葉を口にする。
そして、その言葉をヤンガスが実践した。
そういえばこの二人は、初めて会った時からケンカっ早かったっけ。
ようやくエイトが大聖堂の中へ入っていくが、それを見た周辺警護の騎士団員たちが、大聖堂の方へ集まっていく。
「ほら、早く助けにいくわよ。あれだけエイトをけしかけといて、自分は何もせずにいるつもり?」
確かにゼシカの言う通りだ。退路の確保は、責任を持って引き受けなきゃならない。
そう思って、大聖堂から飛び出してきたエイトと合流するために、人込みをかき分けている時、視界の端に映ったものに、オレの足は止まった。

純白のウエディングドレスと、ベールから覗く漆黒の髪……。

トロデ王がミーティア姫の手を引いて、大聖堂の陰から四阿の横を通り抜け、大階段まで回り込んでいた。
大聖堂前の騒ぎで、それに気づいている人間はいない。
だけど、そこまでだった。
いくら聖堂騎士団の目を盗んでも、階段の下では、サヴェッラの衛兵が警護をしてる。
二人はすぐに取り囲まれてしまった。
思わず助けに行こうとしてしまう自分を、何とか押し止どめる。
「おーい! 大変だ! 急いできてくれ、エイト」
さっきゼシカが言ってた通りだ。ここでオレが出て行けば、かえって面倒なことになる。
「下で、トロデ王とミーティア姫様が兵士どもに囲まれているぞ!」

オレが指さした先で、純白のベールが翻った。
深緑の瞳と、視線が交わる。
……いや、これは錯覚だ。目が合うとか、そういう距離じゃない。
階段から離れ、聖堂騎士団と対峙してるエイトたちに合流する。
「ここはオレたちに任せろ。エイトは姫様とトロデ王を頼む」
ここから先は、トロデーンの人間が彼女を守っていくべきだ。オレの出る幕じゃないってことぐらい、承知してるさ。

598:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/11/09 13:39:22 3fi2G6dM0
元来、聖堂騎士団は家督を継げない、貴族の次男三男や庶子が、体裁を保ちつつ厄介払いされる先として創設された、お飾りの騎馬衛兵だ。
それが、泣く子も黙るスパルタ騎士団長殿の手腕で、実戦的な戦闘集団に作り替えられていたはずだった。
なのに、その騎士団長が行方不明になった途端、このザマか。
オレは旅の間は、ほとんど弓を使ってて、修道院にいた頃から剣の腕は大して上がってないのに、手ごたえが無さ過ぎるにも程がある。
あんまり手ごわいのも、この場面では嬉しくないが、こうも情けないヤツらばかりだっていうのも、元聖堂騎士としては複雑な気分だ。
思わず感傷にふけって、ヤンガスとゼシカに置いてけぼりにされそうになった。
まあ、オレは逃げ足は速いから、そうなってもどうってこと無いけどな。

結婚式から花嫁を奪い、手を取り合って逃げる男女。
エイトの方に少しばかり華が足りないが、それなりに絵にはなってる。
いつの間にか先回りしてたトロデ王が御者を務める馬車に乗り込み、サヴェッラを離れていく。
それを追いかけようとしたヤンガスの襟首を、ゼシカが掴んで止めた。
そうそう、ここで邪魔をするのは野暮ってもんだ。
元々、仲の良い幼なじみで、旅の間も夢の中で会うくらいには、心が通い合ってる。
これがきっかけで二人の距離が縮まって、いつか結ばれてくれれば、それが一番いい。
トロデーンにとっても、彼女にとっても。
オレも、エイトが相手なら、何の心配もせずにいられる。

嫁いだはずの姫様が花嫁姿のままで戻ってきたら、城の人間も混乱するだろうと、ルーラで先回りしてトロデーン城へ行き、事の次第を説明する。
チャゴスの人となりを知らない城の連中は、突然の破談に驚いてはいたが、大切な姫が城に戻ってくるというのは喜ばしいことだって結論に落ち着き、出迎えの準備で慌ただしくなった。
そしてオレは、エイトたちが城に帰ってくるのを待たずに、トロデーンを離れた。
同伴してた女たちを送ってかなきゃいけないって理由をつけたから、誰も無理に引き留めてこようとはしなかった。

599:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/11/09 13:40:42 3fi2G6dM0
ベルガラックに戻り、付き添ってくれた女たちには改めて礼をすると約束して別れ、フォーグとユッケに明日からまた仕事に復帰出来ることを報告に行く。
こっちにはまだ、サヴェッラでの花嫁奪還劇の情報は伝わってなくて、新ツアー、『サザンビーク王家の花嫁を一目見るツアー』なんてのが企画されてた。
ちょっとばかり胸が痛む。
下手したら今度のことで、お尋ね者になるかもしれないんで、サヴェッラでやらかしたことは正直に話しておいた。
もしサザンビークや教会関係者に追及されることがあったら、すぐにクビにして、無関係だと主張する心の準備をしといてくれないと、余計な迷惑をかけることになるからな。
だけどチャゴスはベルガラックでも評判が悪いらしくて、二人とも妙に喜んでた。
あの王子、本当にどうしようもねえな。むしろ、気の毒になってきた。

ユッケにせがまれて詳しく話をさせられたせいで、ギャリング邸を出た時には、もう陽が落ち掛かっていた。
赤く染まる町並みの中、よく知った人間の姿に気づき、オレは自分の目を疑った。
裾の長い青いチュニックを着て、赤いバンダナを頭に巻いた人物が、興味深そうに賢者の像を見上げていた。
その瞳の色は、緑色。

「ミーティア!? ……っじゃなくて、姫様!?」
思わず呼び捨てにしてしまい、慌てて『姫様』を付け足し、そっちの方がよっぽどヤバいことに気づいて、自分で自分の口を塞いだ。
ミーティア姫はこっちを向きはしたけど、全く動じずに、その場に立っている。
オレは慌てて彼女に駆け寄り、無言で手を引いてその場を離れる。
オレが大声出したせいもあるけど、すっかり回りの注目を浴びてしまってる。
こんなポワンとした美少女が、男装なんてしてる時点で目立ってた。初めから目立つオレと一緒になんていたら、尚更だ。
人目につかない場所を他に思いつかなくて、とりあえず間借りして住んでる部屋に、彼女を案内した。

600:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/11/09 13:41:40 3fi2G6dM0
すれ違う知り合いに色々言われたけど、全部無視して部屋に入り鍵をかけ、ようやく一息吐く。
「一人で来たのか?」
色々言いたいことはあったけど、まずはこの確認だ。
「はい。馬の姿だった時は町の中に入れなかったので、道がわからなくて戸惑ったけれど、町の人に訊ねたら親切に教えてくれました。ククールさんが目立つ人で良かったわ。すぐに居場所がわかったもの」
「何……やってんだよ」
これは彼女だけに言ってる言葉じゃない。
深層のお姫様に、こんな歓楽街を一人で歩くことを許した人間、全部に言いたい。
「そんな格好してるってことは、エイトは承知してるのか?」
「ええ、ミーティアの持ってるドレスでは、目立ちすぎるだろうからって。本当はゼシカさんの服を借りようと思ったんだけど、どうしても……その……胸の部分が余って、着られなかったものですから」
その格好も十分目立ってるよ。美人だから何着ても似合うって意味では似合ってるけど、男装ってのは違和感ありすぎる。
それにゼシカの服なんて、問題外だ。
あれは、不埒な考え起こす奴の方が気の毒な目に遇うゼシカだから出来るんで、あんな格好で歩いてたら、いつ襲われたって文句言えない。

いや、今はそういうことを問題にしてるんじゃない。
「何しに来た?」
自分を訪ねてきてくれたレディに対して、こんなことは言いたくない。
だけどここでハッキリした態度を取らないと、お互いの為にならない。
「……ゼシカさんが、ちゃんと話をしないとダメだって……」
そんなことだろうと思った。
「サヴェッラへ出発する直前に、話してくれたの。あなたがどういう気持ちで一人で生きようと決めたかということ」
やっぱり余計な話、するんじゃなかったな。ま、自分で話すと決めたんだし、ゼシカに文句を言う筋合いじゃない。

601:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/11/09 13:45:06 3fi2G6dM0
「だったらわかったろ? オレには『助けたこと、後悔するぞ』なんて、涙が出そうにありがたい捨てゼリフ吐いて行方不明になってくれた兄貴がいる。そんなヤツを見逃して野放しにしちまった責任は取らないといけない」
あの無駄に精力的な兄貴が、このままおとなしくしててくれるなんて思えないからな。
「君はトロデーンの王女様で、いつかは王位を継いで国を守っていく立場になる。その時、オレは側にいられるかどうか、わからない。オレには、一緒にトロデーンを守っていくことは出来ないんだ」
だからエイトならって思ったんだけど、こうやって服まで貸して姫を送り出すあたり、脈は薄いな。
「オレの親父はマイエラ一帯の領主だったけど、領民のことを顧みないで豪遊しまくって、最後は無一文になって流行り病で死んじまった。
あの辺り、昔はもう少し栄えてたんだけど、領地を手当たり次第、適当に抵当に入れて借金しまくったせいで、債権者に土地をバラバラに差し押さえられて、町として残れたのはドニだけだった。
バカな人間が治める土地の末路は悲惨なもんだ。……オレは、君にそんな君主には、なってほしくない。トロデーンを守ってくれるヤツと一緒になって、しっかりと国を守ってほしい」

「……わかりました」
少しの間の後、ミーティアはしっかりとした声でそう言った。
「わかってはいたの。本当は、ミーティアにはここに来る資格は無かったってこと。だって、私が結婚式から逃げたのは、あなたが好きだったからじゃない。
もしそうだったなら、サヴェッラに発つ前、ゼシカさんから話を聞いた時に、チャゴス王子と結婚するのはイヤだって言ってたはずだもの」
いつもの柔らかい口調じゃなく、どこか怒りを含んでいるような声で、ミーティアは続ける。
「国同士の約束を守って結婚するのが、王族として生まれた者の義務だと思って諦めていた。それがどうしても我慢出来なくなったのは、王子があの時、みんなを侮辱したから……。
トロデーンを呪いから救ってくれた、大切な仲間たちを貶めるような事を言ったあの人を、どうしても許すことが出来なかった。あなたと結ばれたかったからじゃない。わかってるわ、今更、何を言う資格も無いことぐらい」

602:『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
06/11/09 13:49:48 3fi2G6dM0
『そんなことない』と思わず言ってしまいそうになる。
でも言えるわけがない。
「ただ、一言お礼が言いたかっただけなの。色々と心配してくれてありがとうって。……もう帰りますね。ほんのちょっとだけって、無理を言って抜け出してきたんですもの。あんまり遅くなると、お父様やエイトが心配するから。突然訪ねてきたりして、ごめんなさい」
部屋を出て行こうとするミーティアの腕を、思わず掴んでしまっていた。
翡翠色の瞳が、驚いたように見上げてくる。
「いや、あの……送ってくよ」
「一人で大丈夫。外に出てキメラの翼を使うだけですもの。一人で何も出来ないようでは、国を守っていくなんて出来ないわ。あまり過保護にしないで」
自分から別れを切り出したくせに、いつまでも未練がましいのはオレの方。
手を離すとミーティアは、迷う様子もなく、ドアを開けて出て行った。


サヴェッラでの花嫁奪還劇から一カ月。
トロデーンとサザンビークの間では、何度も使者を遣り取りしての話し合いが行われ、和解が成立した。
トロデーン側は、全ての非は自分たちの方にあると認め、サザンビークに対し十年間、毎年、百万Gの慰謝料を払い続けることになった。
更に、花嫁を逃がした主犯であるトロデ王は責任を取り、ミーティア姫に王位を譲って引退することを表明した。
公式には破談の理由は、トロデーン王家の唯一の直系であるミーティア王女が、他国に嫁ぐのは自国の統治に支障をきたす恐れがあったからってことになった。
花婿の人間性が最低だからなんて本当のことが理由として通用するはずもなく、発表できるはずもなかったからだ。
だけどこれで、国家間の戦争なんてものに発展することは無さそうで、まずは一安心だ。
これで本当に、オレが心配しなきゃいけないとこは何も無い。そう思った。

ヤンガスが、パルミドの情報屋から仕入れて来た、『戴冠式の日にミーティア姫の暗殺が企てられているようだ』なんて話を聞くまではな。

603:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/11/11 16:44:02 yPcV3DhmO
最下層なんでageます

604:ギコガード
06/11/11 16:57:13 naXIezhQ0
チラッ・・・・
懐かしい

605:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/11/11 21:51:11 ztg+yxwb0
>>603
まったく意味がないのでやめてください

606: ◆2CDckY/JG6
06/11/14 09:28:00 051lYuTf0
3日に1レス。これ基本。

607:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/11/15 01:49:38 PE1tSnvL0
>>『覚悟』 ◆uWt7kdGYAc
DQ8プレイして感じた印象や、なかま会話で聞けるセリフや場面が
がうまく作中に反映されていて、読んでて違和感がないどころか
説得力があって引き込まれました。
言われてみれば主人公、最後に起きるの多かったかもw
続き楽しみにしてます。

608: ◆Vlst9Z/R.A
06/11/15 03:41:37 AA2LX9cy0
お久しぶりです
現在FFDQ板恋スレのスレッドログ保管と、エロパロ板FF7総合スレのSS編集中です
一応ご連絡までですが、よろしくお願いします

恋スレに関しては作品の長編化が進んでおりますので、長期連載のモノに関しては
個人保管をお願いしているのですが、これに関してはいかがしましょうか?
スレ単位でログの保管は続けますので、作品を切り捨ててしまうことにはならないと
思うのですが……

609: ◆2CDckY/JG6
06/11/18 06:23:27 +rtBQcew0
3日に1レス。これ基本。


610:ラトーム ◆518LaTOOcM
06/11/19 01:13:23 Vr69Qbyv0
>608
ありがとうございます!
個人保管ってのは、読んでいる側の個人保管っていうことですよね?
それに準じると、千一夜のサイトでもログ保管だけするということになるので
ご不満は出るかと思いますが……。
長期連載ものを保管するのはかなり大変な事になるので、個人的には、
それで良いのではないかなと思います。
作者の方が後日まとめたものを渡してくださったりできれば、それが
一番嬉しいですが(千一夜の掲示板でデータのやり取りをしていただいても
構いません)。それを強要するのもどうかと思いますし。

以上、取り急ぎご連絡まで。

611: ◆2CDckY/JG6
06/11/22 09:03:29 MXJ1SRrY0
3日に1レス。これ基本。

612:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/11/25 02:47:43 sZqtGLce0
ほじゅう

613: ◆2CDckY/JG6
06/11/28 09:12:23 XRqs0sgm0
3日に1レス。これ基本。

614: ◆2CDckY/JG6
06/12/01 09:08:57 /+6HexjW0
3日に1レス。これ基本。

615: ◆2CDckY/JG6
06/12/04 08:02:09 QqqmmdxZ0
3日に1レス。これ基本。

616:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/05 14:19:21 3W3TbOFT0
ここは自作のDQ小説を投下するスレ?8以外でも落として良いのかな?
ずーっと昔に書いたアルマリSSが一本あるんだけど…

617:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/05 18:02:56 9G6b0CSS0
>>616
基本的にどんな話でもオッケーだよ。
ドラクエだけでなくFFでも。
ただし、過疎スレだから専用のSSOKなスレがある場合は、
そっちに落とした方が反応は多くもらえると思う。

618:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/05 18:03:36 9G6b0CSS0
×基本的にどんな話でもオッケーだよ。
○基本的にローカルルールに違反しない限りどんな話でもオッケーだよ。

619:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/06 11:07:04 iXprJodU0
ここはクロスオーバーにも向いてる。

620:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/07 14:53:07 nv8xmwa60
じゃあ、すみません、ちょこっと落とさせてもらいます。
初SSであんまり大勢に見せるほどのものでもないので(エロもないし)こっちで。
スレを覗いた方にサラっと流し読んでいただけると嬉しいです。

DQ7、アルマリで、一度パーティから抜けたマリベルを再び迎えに行くところです。

621:『光』 1/4
06/12/07 14:54:59 nv8xmwa60
 世界は闇に包まれていた。
 大いなる暗黒がぽっかりと口をあけ、全てをその口に飲み込んでしまおうと、虎視眈々と狙っている。
 穏やかな波も白い砂浜もすべて暗雲に飲み込まれ、今や天と地の境すら定かでなくなってしまった故郷の様子に、少年は、すっと目を細めた。

 年のころは16歳ほど。泥と埃にまみれた衣服に身を包み、表情はどこかやつれているが、その目は濁り無く透きとおっている。

「ここが、アルスの生まれた村か?」
 傍らに立つ、小柄な、それでいて全身に活気のみなぎった少年に問われ、アルスは頷いた。
「フィッシュベル。僕とマリベルの育った村だよ」
 全てはここから始まった。少し前までは、ここだけが世界の全てだと思っていた。
「海の側だからかな?魚の良い匂いがするぞ!うまそうだ」
「ガボったら」
 空腹なのか、小さな鼻をひくひくと動かして魚の匂いを追っているガボを見て、アイラが微笑む。その後、彼女はアルスへと視線を寄越した。
「マリベル、元気かしらね?さあ、早く行ってあげなきゃ、アルス」
「その間、わしらは村を散策させていただくでござるよ。アルス殿のご両親にもご挨拶させていただきたいでござるし、薬草や武器も補充しておかねばなるまいて」

 ――最後の闘いに向けて。

 メルビンの言葉に、アルスは俯く。だが、さあ、とアイラに背中を押され、仕方なく重い足を動かした。
 さく、さく、と砂を踏み、船着場を越えてアミットの屋敷に向かう。
 自分は、果たして、生きてまたこの故郷の土を踏むことができるだろうか。

 鉛色の海にはいくつもの小さな船が漂っている。ふいに雷鳴がとどろき、空の一部を明るくした。
 禍々しい巨大な城が、一瞬だけその姿を表す。

 ダークパレス。

 胸の奥が、ちり、と熱くなった。足を止めて、既に再び姿を隠してしまったそれを睨みつける。
 世界を食いつくそうとする卑しい魔物の巣食う城。自分達の死に場所となるかもしれぬ場所である。

 万感をこめて拳を握り締めると、アルスは再び力強く歩き出した。

622:『光』 2/4
06/12/07 14:58:03 nv8xmwa60
「……まあ!まあまあ……アルス?」
 屋敷に入ると、アミット夫妻が出迎えてくれた。茶色い髪を高く結い上げた上品な婦人が、アルスの姿を見るなり駆け寄って来る。
「お久しぶりです。あの……アミットさんの具合はいかがですか?」
「ありがとう。もうすっかり良いのよ。……ああ、それよりもっとよく顔を見せて頂戴!こんなに男らしくなって……ずいぶん背も伸びたのね?」
 アミット夫人は、まるで自分の実の息子であるかのように、嬉しそうにまじまじと見つめてくる。照れくさくなって、アルスは俯いた。
「あの小さくて大人しかった貴方が、今や伝説の勇者様だなんてね。大変な旅をしているんでしょうね……」
 白く優美な手をそっと少年の頬にあて、わずかに声を落として囁くように言う。
「……あの子を、迎えに来たんでしょう?」
 驚いて顔を上げると、夫人のどこか寂しげな視線とかちあった。隣には、主人のアミットが佇んでいる。
 アルスから視線を逸らしてはいるが、その横顔は全てを悟り、覚悟を決めているように見えた。
「……アミットさん。僕は……」
「何も言うな」
 強い声でアミットは遮った。アルスの目を見て、困ったように微笑む。
「何も言わんで良い、アルス。もう十分じゃよ。この数ヶ月で、十分、親孝行はしてもらった。親想いのあの子につけこむようなことをして、長い間この村に留めてしまって……悪いことをしたと思っている。あの子にも、君にも」
「……そんな。僕は、ただ」
「じゃが、あの跳ねっかえりを引き止めておくのもどうやら限界なようじゃ。……連れて行っておくれ。あの子は二階に居るよ」
 胸が詰まって声が出ない。思いを込めて一礼すると、アルスは二階へと続く階段へ足をかけた。

623:『光』 3/4
06/12/07 15:00:42 nv8xmwa60
 廊下を一歩進むごとに、鼓動が早くなっている気がした。僅かに震える手でそっとドアを開けると、見覚えのある茶色い髪が目に入った。
 マリベルはそこに居た。アルスに背中を向ける格好で、椅子に座って何か手を動かしている。よく見るとそれはレースだった。
 細く美しい糸を操り、繊細なモチーフを編んでいっている。微かに聞こえる歌声に、胸が痛くなった。
 自分はこれから、この少女を恐ろしい世界へいざなおうとしている。血と死肉にまみれた、死と恐怖の闘いへ。
 一瞬、このまま黙って帰ってしまおうかと考えた。声をかけて、振り向いた彼女に自分は告げられるのだろうか?
 絹のドレスを脱いで闇の衣を身に付けろと。レースを捨てて鞭を持てと。歌う代わりに呪いの呪文を口にしろと……言えるのだろうか?そんな、残酷なことを。
「……マリベル」
 ぴくり、と薄い肩が動いた。栗色の髪を揺らしながら、彼女は立ち上がってゆっくりと振り向く。正面から向き合って、アルスは愕然とした。
 そこに居たのは、良く知った幼馴染の少女ではなかった。
 甘く、白い花のような、可憐な一人の女性だった。
「……アルス?」
 自分が彼女を見るのと同じように、縫い付けられたように自分を見ていたマリベルは、しばらくすると、近寄ってきて微笑んだ。鼓動が早くなる。目が、逸らせない。
「戻ってきたのね」
「うん……元気だった?」
「あたしは元気よ。決まってる。あんたこそ、無事だったんでしょうね?」
 勝気な物の言い方は相変わらずで、なんだか懐かしくて、アルスは笑った。
「うん、大丈夫。……マリベル、なんだか小さくなっちゃったみたいだ」
「馬鹿ね、あんたが大きくなったのよ。……すごく背が伸びたのね」
 先ほど、彼女の母親にも同じことを言われた。旅をしていると鏡を見る暇もろくにないものだから自分ではよくはわからないのだが、数ヶ月前までは彼女と同じだった目線が、今はだいぶずれている。
「髪も伸びた」
 白い指に触れられそうになって、瞬間、びくりと体が逃げてしまった。マリベルは少し意表をつかれたように自分を見る。
「……ごめん」
 触れさせるわけにはいかないと思った。

624:『光』 4/4
06/12/07 15:01:59 nv8xmwa60
 闘いから離れて久しい彼女とは違い、自分はもう体の隅々まで血に濡れている。何度もマメができては潰れることを繰り返した手は、岩のようにごつごつと硬くなり、どれほどのモンスターを剣で突き刺し、首を跳ねて殺したのだろうかと、自分でも薄ら寒い。
 こんな手で彼女には触れられない。彼女にも、触れさせられない。
 だが、彼女はその手を取った。驚いて見つめると、怒ったように睨んでくる。
「あんた、まさかあたしを置いていくつもりじゃないでしょうね?」
 ぎくりとする。マリベルはやっぱり、という風に眉を吊り上げた。
「ここには挨拶に来ただけだって言うの?あんまりふざけたこと言うとぶつわよ!」
「……でも」
「何が、でも、よ」
「死ぬかもしれないんだ。君はもともと戦士でもなんでもないし」
「そんなのあんただって一緒でしょう!あたしはただの網元の娘だけど、あんただってただの漁師の息子だわ。違う?」
「僕は大丈夫だから……だから、」
「ああ、もう!」
 やってられない、とばかりにマリベルは頭をかきむしった。綺麗に櫛を通されていたであろう髪の毛が、くしゃくしゃになる。
「あんたって本っ当!本当に馬鹿ね、アルス。あたしが居なかったら、まともに呪文の使える人間なんて居ないじゃないの!魔王相手にどうやって戦おうっていうの?」
「……」
「大丈夫、なんて言葉は傷を受けないようになってから言いなさいよ!そんなぼろぼろの姿で言われたって、これっぽっちも説得力が無いんだから!」
「……」
 もともと口下手であるアルスは、ひとたびマリベルに火がついたらそれを治めることができない。口答えなど、もってのほか。黙って、困ったように彼女を見つめていると、マリベルはもう一度しっかりとアルスの手を握った。燃えるような瞳でアルスをねめつける。
「一人で闘ってたなんて思ってんじゃないわよ。側に居なくても、あたしはずっと一緒に闘ってた。あんたの手はあたしの手だわ。あんたの罪はあたしの罪よ」
「……マリベル」
「あの日、石版を最初の台座にはめた時から。あたし達は共犯者なのよ」

625:『光』 追加
06/12/07 15:03:38 nv8xmwa60
 力強い声だった。暗闇にぱっと明かりがともるように、温かな。アルスは泣きたくなって、代わりに笑う。
 この声さえ聞ければ、と思う。
「……マリベル」
 しっかりと握りこまれた手を離し、アルスは、今度は自分からマリベルに手を差し伸べた。
 まっすぐと。迷うことなく。
「一緒に闘ってくれる?……最後まで。君が必要なんだ、マリベル」
「……それで良いのよ」
 マリベルは満足そうに頷くと、明るく笑って、その手を取った。
「行こう。……ダークパレスへ」

 血に飢えた魔物の吼えたける搭。恐怖と腐臭に満ちた邪悪な洞窟。
 どんな暗闇でも、君がいてくれるなら。君の声さえ聞けたなら。


 君は、僕の光。


【END】

626:ラトーム ◆518LaTOOcM
06/12/09 01:57:00 IsND50V30
青春、って感じですね。
いいなあ。
この後の戦いは長くて辛くて大変ですが、だからこそ、いいなあ、と。
良い話でした。乙ですー。

up用掲示板がまたどうにもならない状態になってしまいました。
ああいうのって、目をつけられた時にすぐに対処しないと駄目なんでしょうね。

627:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/09 01:58:14 C6Txqp7k0
おおっ、ラトームさんだ!
お元気そうで何よりです。

628:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/11 13:07:59 Lk8QQfau0
保守

629:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/12 09:53:04 e0bRe0Hf0
ホシュ

630:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/12 21:44:45 4ds7v/TY0
DQ9発表期待保守

631:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/13 07:27:55 pZ011uXk0
板がえらいことになってるな。

632:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/13 10:37:12 nbfKahcd0
いま746位だなあ。いくつまでスレたてられるんだっけ、この板。
このスレの下には3つしかないが。
上げなくても保守はできるからいいか。

633:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/13 10:42:27 LTE/kX2g0
本当なら680前後には来てる所で、なんで来ないのか謎。

634:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/13 13:01:53 Iz0ksK7c0
保守

635:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/13 20:02:08 nbfKahcd0
お、760だ。

636:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/13 23:52:15 /BXZxvOS0
>>625
文章読みやすい。面白かった!GJ!

637:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/14 01:30:46 HbsHYN8t0
hoshu

638:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/15 16:14:28 VZ9kImcu0
一日1回くらいレスないとやばそう?

639:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/15 16:20:48 9pEY13to0
冬休みに入ると厨が増えてスレ乱立する可能性も高いから
そこそこageとかないとレスだけでは一気に落ちる可能性も高い

640:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/16 19:18:01 +fE0IB2z0
もしかしたら、ageると一見さんが見に来るかもしれないよ?
いわゆる「冬厨」と一くくりにされがちだけど、実家に帰省しないと2ちゃんねるに書き込めない環境の人もいるし。俺みたく。

641:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/16 19:53:00 O2QcpYt30
何が言いたいんだ

642:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/17 08:25:48 e/KnWmdZ0
つまり、たまにはageてもいいんじゃないかと。それじゃあまた春休みに来るわ。

643:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/18 22:36:02 mmWga75x0
冬休みはいつから? 保守

644:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/12/20 00:30:23 3pxnv/Ws0
下がりすぎあげ


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