06/01/15 02:15:58 XhXrlyif0
まとめサイトの事なんですが、前スレのSSがまだ半分くらい
アップされずに残ってますよね?
Dat落ちしたら読めなくなってしまうので、今のうちに
一時的に避難させておいて、まとめ人さんの時間があるときにでも
ゆっくり更新してもらった方がいいかな?と思ってるんですが、どうでしょう?
特に『お仕置き』が消えるのは哀しいなぁ。
15:まとめ人
06/01/15 06:58:50 u057FrOT0
>>14
遅くなってスミマセン
更新しました~。
16:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/15 13:10:12 XhXrlyif0
うわ?ほんとだ!
まとめ人様いつもお疲れ様です!
催促したみたいでスミマセン。ゴメンナサイ!
これでいつでも読めます!
ありがとうございました!
17:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/15 16:12:30 F56cUJ/G0
1さん、Jbyさん、まとめ人さん乙です!
前スレ最後に書き込んだ者です。容量オーバーなんて初耳だ~
みんなたどり着くといいな。
18:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/15 18:39:39 AA5td1o/0
age
19:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/16 18:38:04 lgjRRnb50
まとめ人様、いつも大変お世話になってます。JbyYzEg8Isです。
こんなスレをまたいでしまう連続物を書けるのも、まとめサイトさんあってのことです。感謝してます。
本当に足向けて寝られません。どちらの方向にお住まいかは存じませんが・・・w
今回もお疲れ様でした。
20:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/16 20:19:44 WbWosLcg0
もしかして、クラッカーはあなたですか?
スレリンク(ff板)
↑このスレです
21:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/17 23:01:33 MBKjIla6O
ほしゅ
22:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/19 10:01:51 3WiwRBrN0
hosh
23:『そして』前編1/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:09:24 LtFCXAn+0
自分でも呆れるほど早かった。ラプソーンを倒してから、ものの五分もかからなかったと思う。
オレが自分を見失うまでの時間のことだ。
レティスの背中に乗りトロデーンに向かう途中、ゼシカが口にした言葉で、オレはわかりきっていたはずのことに、改めて気づかされた。
「ふう・・・。これでやっとポルクとマルクに報告できるわ。あと、サーベルト兄さんにも、ちゃんと報告しなきゃ・・・。私、自分の信じた道を進んで、ここまで来たのって」
ゼシカには故郷があって、旅の目的を果たした今、その大事な故郷に戻るべきなんだってことだ。
急速に自分の中の何かが冷えていくのがわかった。
だけど皆が喜んでるっていうのに、それに水を差すこともできなくて、何とか言葉を振り絞る。
「・・・やれやれ。我ながら、とんでもないところまでつきあわされたもんだな」
スカした口調で、キザったらしく前髪を掻き上げる。
「さすがのおっさんも、ここまでは来られないようでがす!」
ヤンガスの言葉に笑い声をあげる仲間たち。
だけどオレの心だけが取り残されて、一緒に笑うことができなかった。
少しずつ、ゆっくりと剥がしてきたはずの冷たい仮面は、外すためにかけた時間をあざ笑うかのように、あっさりと元に戻ってくれていた。
姫様やトロデ王が元の姿に戻り、城も、城の住人も呪いから無事に解放された。
それは素直に良かったと思えるけど、宴を楽しむ気分にはなれない。
せっかくドニの安酒とは段違いの上等なワインが振る舞われてるっていうのに、城の壁にもたれて、それをグラスの中で遊ばせてるだけだ。
『終わった後の事を考えろ』『それもできるだけ楽しいこと』
偉そうにゼシカに忠告してきたくせに、いざ戦いが終わってみたら自分がこのザマだ。
最後にもう一つ付け足すのを忘れてたのが失敗だった。
『ただし、現実味のあることにしておけ』ってやつをな。
ラプソーンを倒して目的を果たしたら、ゼシカに想いを打ち明けるつもりでいた。そして・・・。
そして? 笑い話だ、その後を考えてなかった。
戦いが終わった時に、ゼシカの頭に真っ先に浮かんだのは故郷のこと、そして兄のサーベルトのこと。そこにオレの入り込む余地なんてない。
本当に筋金入りのブラコンだよな。まあ、だからってゼシカの兄になりたいとも思わんがね。
24:『そして』前編2/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:11:46 LtFCXAn+0
トロデ王は嬉しそうに宴を仕切り、エイトは同僚らしき奴らに、次から次へと話を聞かれてる。ヤンガスはとにかく食いまくり。ミーティア姫は飲み慣れてないのか、顔を赤くしながらワイングラスを傾けている。
そしてゼシカは子供になつかれて、魔法を見せてやってるようだ。
そういえば故郷のリーザス村でも、ずいぶんガキ共に慕われてたみたいだもんな。
ゲルダの家みたいなところで一人で暮らしたいなんて言ってるけど、ゼシカには無理だ。
何だかんだいって、あいつも寂しがりやだからな。オレも同じだからよくわかる。
やっぱりゼシカは故郷に帰るのが一番いいんだ。
「あの・・・」
声のした方に顔を向けると、栗色の髪を後ろで束ねた女性がワインのボトルを持って立っていた。どうやら注いでくれるつもりらしい。
女性の勧めを断るのは失礼だから、とりあえず今グラスに入ってる分は飲み干した。
「私、エイミといいます。このお城の厨房で働いています。・・・あなた、まだこの城が茨に覆われていた時に、エイトと一緒にいらしたことがありませんか?」
ワインを注いでくれながら、その女性が訊ねてきた。
「ああ、ここの図書室に用があったりで、何度か」
「その時、祈ってくださってましたよね?」
「どうして、そのこと・・・」
まさか、あんな姿に変えられながら、この城の人間には意識があったっていうのか?
その可能性に気がついた途端、胃の辺りを何かにつかまれたような気分になった。
苦しいなんてもんじゃなかったろう。一体オレたちは何カ月、時間を無駄にしてきた?
ああ、でも大半はエイトの寄り道のせいだ。いいヤツではあるんだけど、度外れたマイペース野郎なんだよな、あいつ。
「ああ、やっぱりそうでしたか。私、呪われていた間、ずっと夢を見ていたんです。真っ暗な世界で一人で取り残されていました。でも、あなたが祈ってくださった時、世界が急に明るくなったんです。
エイトやお仲間の姿も見えました。そうしたら、自分を助けてくれようとしている人達がいるんだってことが伝わってきて、とても勇気づけられたんです。
すぐにまた真っ暗な世界に戻ってしまいましたけど、そのことはずっと私の支えになってくれました。こうしてお礼を言える日が来るのを信じることが・・・。本当にありがとうございます」
25:『そして』前編3/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:12:40 LtFCXAn+0
あの時のあれは、別にそういうつもりじゃなかった。もちろん助けたいとは思ったさ。でもその手段は戦ってドルマゲスを倒すことであって、祈ることなんか気休めにしかならないと思ってた。神頼みなんか意味がないと思った。
でも・・・ああ、認めるよ。本当は祈ることは、ガキの頃からずっと嫌いじゃなかった。気は休めてくれるんだ、確かに。焦りや恐れは薄めることが出来る。根本の部分は解決されないにしても、その安らぎが必要な時だってあったんだ。
そんな自分のための祈りに、支えられたなんて言われると、正直ちょっと困る。
「少しでも・・・お役に立てたのなら何よりです」
騎士の礼をとって応えた。ラプソーンを倒したら騎士は廃業だと思ってたのに、身に染み付いたものは、なかなか取れない。
目を上げると、エイミさんは何やら様子がおかしくなっていた。何ていうか、オレを見る目がさっきまでとは違う。
「・・・何か?」
声をかけるとエイミさんは驚いたように飛び上がり、持っていたボトルが手を離れた。
下は芝生が生えているから割れはしないと思ったのに、運の悪いことにそのボトルは、剥き出しになっている石畳の上に落ちて砕け散った。
咄嗟にエイミさんの身体を引き寄せ、ガラスの破片から守る。
「す、すみません、大丈夫ですか?」
服のすそに少しワインがかかった程度で、今更ガラスでケガするほどヤワじゃない。慌てるエイミさんに、オレは笑顔を向ける。
「このくらい平気さ。それよりエイミさんは?」
「ええ大丈夫です。あなたがかばってくださったから・・・」
まただ。エイミさんの瞳が熱を持ち、そわそわと落ちつかなげだ。
・・・ああ、そうか。何のことはない。この美貌と、洗練された立ち居振る舞いで魅了しちまっただけのことだ。
このところ、あんまりにも靡いてくれない女のことばっかり考えてたから、これが一般的な反応だってことを忘れてた。
「キミにケガがなくて良かった。美しいレディを守るのが、騎士の務めだからね」
「やだ、そんな、美しいなんて・・・」
その時だった。オレンジ色の火の玉がとんできて、すぐ横の壁に見事な黒焦げを作ってくれたのは。
26:『そして』前編4/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:13:35 LtFCXAn+0
どうしてゼシカは、こう乱暴者なんだろうな。
潔癖なゼシカにしてみりゃあ、女性と見れば誰にでもいい顔するのが気に入らないんだろうが、もう力を合わせなきゃならない戦いは終わったんだ。オレが何しようがゼシカには関係ないはずだ。
「ゼシカ! そうやって簡単に人に向けて・・・」
『魔法なんて放つな』そう言うつもりだった。
だけどゼシカの方を振り返ったオレは、言葉を失った。
気の強い顔で、軽薄な男に嫌悪と怒りを示している姿をオレは予想していた。
だけど今、オレの目に映っているゼシカは、悲しいような恨めしいような目をして、唇を噛み締め、スカートのすそを握り締めている。
今にも泣き出しそうなその姿に、オレはようやく気づいた。
・・・ゼシカ、まさか、オレのことを・・・?
「ごめんなさい! 本当にごめんなさい」
さっきからゼシカはあちこちに謝りまくりだ。
オレやエイミさんはもちろん、城を焦がした件でトロデ王やミーティア姫に。驚かせたからって、周りにいた人たちや子供たちに。
これに懲りて、人間に向けて魔法を放つのは控えるようになってほしい。自分の魔力がシャレにならないレベルだってこと、わかってないんだもんな。
ちなみに、エイトとヤンガスにはオレが怒られた。鈍いのにも限度があるってな。
あいつらに言われるのは腑に落ちないけど、確かにそれはその通りだった。
オレはまだ諦めグセが直ってなかったんだ。
気持ちを伝える前からゼシカの気持ちを決めつけて、拒絶されることを怖れて勝手に諦めた。
つくづく自分の鈍さに呆れる。
ちゃんと意識してゼシカの様子を見ていたら、好きでもない男には絶対しないだろう言動のオンパレードだった。思えば結構前からそうだった気がする。
ゼシカ自身に自覚がないらしいのが、せめてもの救いだ。
・・・今更気づいたところで、もう遅いからな。
27:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/19 19:15:15 bzcAMBXe0
リアル遭遇キター*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!
後で読むの楽しみにしておく。とりあえず連投回避!Jbyさん頑張れ!
28:『そして』前編5/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:15:16 LtFCXAn+0
三日三晩続いた祝宴も終わりを告げ、それぞれが元の生活に戻ることになった。
エイトはもちろんトロデーンの復興に。ヤンガスはエイトと一緒にいるのかと思いきや、パルミドに戻った。もちろんその前にゲルダの所に怒りの鉄球を返しに行くって言ってたけどな。
いい加減観念して、そのまま住み着いちまえばいいのによ。
そして今、オレはゼシカと二人で世界を回ってる。
リブルアーチや聖地ゴルド、焼け落ちてしまったメディばあさんの家。その他にも暗黒神に命を奪われた人達に、敵討ちが終わった報告と墓参りをして回りたいとゼシカが望んだからだ。
ゼシカは全部の場所に花束を供え、オレは一応僧侶として祈りを捧げる。
失われた命は決して戻ってこないけど、ラプソーンを倒す前よりは、静かな気持ちでその場に立つことは出来た。
ゼシカも同じように感じてると思う。悲しみは伝わるけど、救えなかった人達への罪の意識や、それがもたらす痛みは大分薄れてるとわかる。
こんな華奢な女の子が、よくあんな化け物と最後まで戦い抜いたと思う。それどころか、最後の方は間違いなく人類最強だったからな。
・・・こうしてると、自分がラプソーンを倒した後、どうするつもりだったのか、漠然と考えてはいたのに気づく。
きっとこんなふうに二人で世界を旅したかったんだ。墓参りなんかが目的じゃなく、気の向くままに、自由にな。・・・ほんと夢みたいな話だぜ。
移動方法はほとんどルーラだから、三角谷で一泊しただけで、行きたいとこには全部行くことが出来た。
かなりハイペースだったとは思うけど、出来るだけ早く済ませちまいたかったからだ。
ルーラでリーザス村の入り口に着いた時も、まだ陽は落ち切っていなかった。
「ありがとう、いろいろ付き合ってくれて。私、ルーラ使えないから助かったわ。疲れたでしょう? 少しうちで休んでいって」
せっかくのゼシカの勧めだけど、オレは首を横に振った。
「いや、そんな疲れてもないさ。遠慮しとくよ」
今は少しでも早く、この場を離れたい。オレが取り返しのつかない行動に出る前に。
本当は、こんなふうに二人きりになることも避けたかった。
でもゼシカ一人で世界を回らせるなんて出来るわけがなく、オレがお供するって言ったらゼシカも喜んでくれて、他に選択肢なんて無かった。
29:『そして』前編6/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:16:39 LtFCXAn+0
「・・・あの、ククール? だいぶ前になるけど、覚えてる? 敵討ちが終わったら、リーザス村に来ること考えてほしいって約束したの・・・考えておいてくれた?」
・・・この話が切り出される前に、姿を消したかったんだ。
考えたさ、もちろん。この何日か、そのことばかり考えてたって言ってもいいくらいな。
でも何度考えたって答えは変わらなかった。
オレには無理だ。この村で暮らす自分なんて、とてもじゃないが想像つかない。
気づく順番が逆なら良かったんだ。ゼシカの、故郷や兄への思いと、オレへの想い。そうしたらゼシカを離しはしなかった。リーザス村になんて近づきもせずに、二人でゆっくり気ままに世界中を旅して回ってた。
そうしてる間はうまくやっていける自信はある。つまらないことでケンカしたりもするだろうけど、それでも仲良く過ごせただろう。
だけど、そんな時間はいつまでも続かない。いつかはどこかに落ち着きたくなる日が来て、そして思い出すんだ。大事な人が暮らしてる、生まれ育った故郷があったってことを。懐かしんで、帰りたくなる日がきっと来る。
でもきっとそうなっても、オレはこの村では暮らせない。
どうしてなんだか理由はわからないが、ゼシカの母親にも嫌われてるみたいだしな。
いや、理由なんて簡単だ。普通に考えて、母親として娘に近づいてほしくないタイプの筆頭だよな。軽薄な女好きで、なまじ美形なもんだから女の方からも寄ってくる根無し草。
そんなのが、美人で世間知らずで、男に免疫のない良家のお嬢様の相手なんて、どこかの捻りの無い芝居の脚本みたいで、本気だなんて受け取ってもらえるはずがない。
そして板挟みになって辛い思いをするのは、ゼシカだ。そんなことにはさせられない。
「・・・考えてはみたけどさ、やっぱりやめとくよ。こんな酒場も無いような健全な村で、オレが暮らせると思うか? どう考えても無理だろ? 気持ちだけもらっとくよ」
ゼシカもオレの答えは予測してたんだろう。少し寂しげではあるが、ショックを受けた様子はない。
「うん・・・そうよね。でもたまには遊びに来てね。そりゃあ遊ぶところなんて無いけど、私、いつでも待ってるから」
30:『そして』前編7/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:17:57 LtFCXAn+0
このまま何も考えず、何もかも振り切って、どこかにゼシカをさらって行きたい衝動にかられる。
でも、ゼシカの身体越しに教会が目に映り、ふと会ったこともない男のことが頭をよぎる。おかげで頭は冷えてくれた。
思いを馳せたのは、ゼシカの兄のサーベルトのことだ。
仲の良かった妹が、か弱い女性の身で、暗黒神なんてものを倒すために命懸けの戦いに身を投じる。
お嬢様育ちなのに、野宿もザラな旅を続けて、周りにいるのは空気読めない寄り道好きの呑気者と、思考がメルヘンなむさ苦しい悪人顔と、下心のある何やらせても半端な頼りない男。
そして可愛い妹がそんな道を選んだのは、自分が死んでしまったことが発端だなんて、たまったもんじゃなかっただろうな。
つまらないことで嫉妬して、ブラコン呼ばわりしてゼシカをいじめたりして、本当に悪かったと思ってる。
生きて力を貸せたことが、どれほど幸運なことか、わかってなかった。
辛いよな、死んじまったら何もできない。大事な人間が傷ついてても泣いてても、そばにいてやることさえ出来ない。
そんな簡単なことに今になってようやく気付けるほど、オレは勝手な人間なんだ。
・・・ちゃんと返すよ、あんたの大事な妹。
『守る』なんて大口叩いたけど、オレはほとんど上手くやれなくて、それでも何とかなったのは、ゼシカ自身が強かったからだ。逆にオレの方が随分救われてきた。本当に感謝してる。
「サーベルトは・・・死にたくなかっただろうな。可愛いゼシカを残して」
オレがサーベルトの名前なんて出すもんだから、ゼシカは少し驚いてる。
「でも、幸せだったとも思う。その大事な妹が、自分を慕ってくれたこと。・・・その点だけは羨ましいよ。オレもゼシカみたいな妹、欲しかったな」
オレにとっては嘘つくことなんて簡単なことで、自分の本音を晒すことの方がずっと難しかった。でも今は、こんな心にもないことを言うのが、やけに苦しい。
31:『そして』前編8/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:18:57 LtFCXAn+0
まっすぐ見つめてくるゼシカの視線が耐え難くて、逃れるためにゼシカの前髪を掻き上げ、その額にそっと口づけた。
「・・・何?」
ゼシカはとまどったような顔をしている。
「ラプソーンと戦う前、生きて帰ってきたら、キスしていいって言ってただろ? まさか忘れたのか?」
「・・・あれは、キスしていいなんて言ってない。そういう話は帰ってからにしてって言っただけよ・・・」
悲しそうな、困ったような顔。オレの態度に混乱してるのがわかる。
結局オレはこうなんだな。ゼシカを戸惑わせる存在でしかない。オレと一緒にいたってゼシカは幸せにはなれない。
わかってたはずだ、棲む世界が違うって。それなのに、すっかり忘れて勘違いして、一緒に生きていけるもんだと思い込んだ。
・・・でも無かったことにはしたくない。
顔だけが取り柄じゃないと言ってくれたこと。いつも心配してくれてたこと。迷わずに信頼してくれたこと。たくさんの小さな優しさ。そしてこんなふうに誰かを大切に思える気持ち。
ゼシカはオレに大切なものをたくさんくれた。それだけでもう充分だ。オレの全てを捧げると思う気持ちに変わりはない。たとえそばにはいられなくても。
「しばらくはドニの町にいるから、何か困ったことがあったらいつでも来いよ。必ず力になるから。ゼシカはほっとけないからな・・・世話のやける可愛い妹みたいでさ」
数秒しか経ってないのに、さっきよりずっと楽に嘘が言えた。
「ゼシカ姉ちゃ~ん!」
いつも村中走り回ってるガキ共がゼシカの姿に気づいて、走りよってきた。
「ポルク、マルク」
ゼシカもそれに気づいて振り返る。
「じゃあな、ゼシカ」
そのスキにオレは数歩後ろにさがる。もう一度あの真っすぐな瞳に見つめられたら、抑えが効かなくなってバカなマネしちまいそうだ。
「えっ、ちょっと待って・・・」
ゼシカに止める間も与えず、オレはルーラの呪文を唱えた。
お互いのためにこれが一番いいんだと、自分に言い聞かせて。
32:『そして』後編1/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:20:47 LtFCXAn+0
「オレは、姫のしあわせを守るのも、近衛隊長の仕事だと思うんだがな」
ラプソーンを倒し、皆がそれぞれの生活に戻ってから三カ月が経った。
明日は、ミーティア姫と、あのチャゴス王子との結婚式。
ククールは、さっきからエイトに結婚式をぶち壊すようにけしかけている。
でもエイトは首を縦には振らない。ミーティア姫のことだけじゃなく、自分を今まで育ててくれたトロデ王や、トロデーンの人達のことを思ってしまって動けないでいる。エイトはそういう人。
「・・・わかった。お前がどうしても動かないっていうなら、オレがやる。明日、姫様を大聖堂からさらって逃げる」
ククールのその言葉に、私は心臓が止まるかと思った。
「よく考えたら、近衛隊長なんて肩書背負っちまったお前と違って、オレは騎士団を抜けた身軽な体だしな。最初からオレがやるべきだった。じゃあ、そういうことで。無理言って悪かったな」
そう言ってククールは宿屋を出ていってしまう。
唖然としているエイトとヤンガスを残して、私は彼の後を追う。
さっきの言葉を、本気で言っているのかどうか確かめたかった。
ククールはすぐに見つかった。彼はとても目立つから。階段の途中に立って大聖堂を見上げていた。
「ゼシカ? お前、女の子がこんな時間に一人で出歩くなよ。・・・って、何かこういうセリフ、もうそろそろ言い飽きたな」
私の気配に気づいたククールは振り返って、呆れたように言う。
その響きがカンに障った私は、つい声を荒げてしまう。
「だったら、言わなきゃいいじゃない! そうやって保護者ヅラしないでよ。私、ククールのこと兄さんみたいだなんて思ったこと、一度もないんだからね!」
ククールは私の顔をしばらくジッと見つめてて、それからちょっと寂しげに笑った。
「そうだな。ゼシカの兄貴はサーベルト一人で充分だよな。前に言ったあの言葉、取り消すよ。変なこと言って悪かった」
・・・違う。違わないけど、違うの。こんな言い方したいんじゃない。だけど、訂正するよりも先に、訊きたいことがある。
33:『そして』後編2/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:22:24 LtFCXAn+0
「さっきの話、本気で言ってたの?」
今の私には、他のことを考える余裕はない。
「ククールは、ミーティア姫のこと、どう思ってるの?」
「そりゃあ、姫様は美人で可愛くて、健気だからな。幸せになってほしいと思ってるよ。あんなチャゴスなんかにくれてやるのは、もったいなさすぎる」
「愛してる、わけじゃないの?」
「そう訊かれると、違うっていうしかないな」
ククールはあっさりと言い放つ。
「そんな軽い気持ちでよくあんなこと言えたわね。もし捕まったら、きっと死罪よ。あんた一人の問題じゃなくて、いろんな人に迷惑がかかるのよ。同情でそうするんだったら、無責任すぎるわよ」
「同情で何が悪い?」
刺すようなククールの言葉の響きに、私は何も言えなくなった。
「同情でも何でも、助けが必要な時は誰にだってあると思うぜ」
それはわかるわ。でも私が言いたいのはそんなことじゃない。
「それに、捕まるようなヘマはしないさ。ゼシカも知ってるだろうけど、花嫁っていうのは父親にエスコートされて、外から入場する。その時に乱入してルーラを使えばいい。
行き先は、そうだな。レティシアあたりがいいか。普通の奴らは追ってこられないし、あそこの服装はオレ好みでもあるしな」
・・・確かに、そのやり方ならうまくいきそうだわ。
わかってる、ククールは勝てない勝負は決してしない人。成功するとわかってるから、あんなこと言い出したんだって。
「あとは、あの時のパーティーメンバーが見逃してくれれば、それでOKだ。それともゼシカ、オレたちをチャゴスの奴に売ってみるか?」
私は一瞬で頭に血が昇った。
「バカにしないで!」
ククールを殴ろうとするが、あっさりとかわされてしまう。
「危ねえな、こんなところで暴れるなよ。悪かった、冗談だって。そういうことする奴は一人もいないって信じてるよ。そうでなきゃ、こんなにペラペラ喋るかよ」
34:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/19 19:22:28 bzcAMBXe0
ななな長いな・・・もっかい連投回避!(* ゚ー゚)つ
35:『そして』後編3/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:23:31 LtFCXAn+0
冗談だっていうのは、もちろんわかってる。でも私にとっては冗談じゃすまない。私、ミーティア姫に嫉妬してる。旅をしている間、私だけに差し出されていた手が、今度はミーティア姫に伸ばされる。
私と同じだけククールと旅をして、彼が本当に優しい人だってこと、ミーティア姫はきっとちゃんとわかってる。始めはエイトのことを想っていても、いつかはククールの事を愛するようになるかもしれない。そして、ククールはそんなミーティア姫を決して裏切ったりしない。
私は自信がない。そうなった時に、ククールが言ったように、醜い感情にかられてチャゴス王子に二人を売らないなんて言い切れない!
好きなのよ。私はククールを愛してるのに!
私はバカだ。どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。
会えなくなって初めて自分の気持ちに気が付いて、何度もククールに会いに行こうと思った。でもククールが私を守ってくれていたのは、世話の焼ける妹を見るような気持ちだったんだって知らされて、どうしても訪ねてなんていけなかった。
だけど、こうしてミーティア姫の護衛の同行を頼まれて、また会えるんだと思ったら、その前にこの気持ちに決着をつけたいと思った。妹じゃイヤだって。ククールのこと、お兄さんだなんて思えない。男の人として好きなのって、そう伝えたかった。
だから覚悟を決めてドニの町まで会いに行ったのに、その時ククールは出かけていて会えなくて。しかも、それを教えてくれたのが、ククールと今お付き合いしてるっていう踊り子さんで、ククールは今、その人の部屋で寝泊まりしてるってことまで教えてくれた。
確かにショックだったけど、私にそれを、どうこう言う権利はないのはわかってる。
だけど、それならどうして女の人をもう一人連れてきたりするの? それって二人ともに対して失礼じゃないの?
・・・でもそういうククールを最低だと思うのに、どうしても嫌いになれない。やっぱり好き。自分でもバカだと思うけど、どうにもならない。
花嫁強奪。それも一国の王女を一国の王子から奪うなんて危ないこと、してほしくない。
今よりも遠くには行かないでほしい。
でも言えない、どうしても。私は意気地無しだ。拒絶されて傷つくのが怖いのよ。
36:『そして』後編4/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:24:38 LtFCXAn+0
そして運命の夜が明けた。
ククールとヤンガスが起き上がって出て行くのがわかったけど、私はそのまま寝たふりをしていた。何となく、ククールと顔を合わせたくなかったから。
エイトは、まだ目を覚ます気配はない。一晩中ベッドに腰掛けて考えこんでたみたいだから無理ないけど。
でも私なんて横になってても眠れなくて、そのまま朝になっちゃったっていうのに、こうやって最終的に寝てるエイトも、やっぱりよくわかんない。
旅の間は、どこでも、どんな状況でも熟睡してる姿を頼もしいと思うこともあったけど、呑気者なだけなのかも。
そもそも、エイトが自分でミーティア姫をさらってくれれば、ククールが代わりにやろうなんて言い出さなくて済んだのに。その辺り、わかってるのかしら。
・・・ごめんね、エイト。今のは八つ当たり。相手は仕えてるお城のお姫様だもんね。そんなこと簡単にできるはずないよね。
『好き』って一言さえ言えない私に、そんなこと思う資格なかったわ。
そろそろ結婚式が始まってしまう。エイトはまだ眠ってるけど、私もとりあえず宿屋を出た。
大階段の下で、ククールとヤンガスが何か相談してるらしき雰囲気。本当にミーティア姫をさらって逃げるつもりなのかしら。
そう思って見ていたら、いきなりヤンガスがククールの向こう脛を蹴飛ばした。遠目に見ても、すごく痛そう。
「一応これで勘弁してやる。今度はちゃんとやれよ」
私が近づくと、珍しくヤンガスが真面目な口調でククールに言っているのが聞こえた。
「じゃあ、アッシはエイトの兄貴を呼んでくるでげす。あ、ゼシカの姉ちゃん、おはようでがす」
ヤンガスは普通に私に朝の挨拶をして、宿屋へと歩いていった。
「何やってたの?」
私が訊いてもククールは何事もなかったような顔をする。痛む足はおさえてるくせにね。
「いや、別に何も」
そうやって、私はいつも仲間外れ。何よ、いいわよ、もう。
・・・ククールを止めるなら今が最後のチャンスなのよね。でも何て言えばいいの? 私は散々助けてもらっておいて、ミーティア姫を助けるのはやめてって? 言えるわけないじゃない、そんなこと。
37:『そして』後編5/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:25:19 LtFCXAn+0
エイトが起き出してきた。もう結婚式は始まってしまっている。
「あんだけ人が多けりゃよ、どさくさにまぎれて、何かやらかしても大丈夫なんじゃねーかな」
ククールはあっさりと言う。人が多いとか少ないとか、そういう問題じゃないと思うわ。
「ミーティア姫様もガンコよね。いくら先代の約束でも、イヤなら、やめればいいのに・・・」
・・・イヤだ、こんな自分勝手なこと言うの。だけど思っちゃうのよ、どうしても。こんな結婚無かったことにしてくれれば、ククールだって無茶なことしなくて済むのにって。
「一国の姫君ともなると、そういうわけにも、いかないのかな?」
フォローの言葉のつもりで付け足したけど、だからって私の醜い感情が消えてくれるわけじゃない。
「あとオレたちは仲間だ。お前が何かするつもりなら、ちからを貸すぜ」
ククールの言葉に、それまでうつむき加減だったエイトが顔を上げた。その目には輝きが戻っている。
「ほら、行ってこい。姫様が待ってるぜ」
ククールに背を押され、エイトは弾かれたように階段を駆け上がっていった。
「はあ~っ、やっと行ったか。全く世話の焼けるヤツだぜ」
エイトの背中を見送るククールの目は、とっても優しかった。でも何だか、もう自分の役目は全部終わったって感じ。
「・・・ククールは、行かないの?」
「何で、オレが?」
「何でって、昨夜言ってたじゃない。ミーティア姫をさらって逃げるって」
「その時ちゃんと言ったろ? エイトが動かないならオレがやるって。あいつが自分でやるなら、オレの出る幕じゃないさ」
・・・何よ、それ。要するにエイトにハッパかけただけってこと?
「ま、エイトが最後まで渋るようなら、姫様をさらった後にエイトのヤツもぶん殴って、レティシアに強制連行するつもりだったけどな」
・・・やりかねないわ、この人なら。でもこんなこと言ったって、多分ククールは信じてたと思う。エイトが自分の意志でミーティア姫を迎えに行くこと。
だけどどっちにしても、エイトとミーティア姫を結び付けるつもりだったってことで、自分が姫と暮らすつもりは無かったってことよね。私一人でヤキモキしてバカみたい。
38:『そして』後編6/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:26:12 LtFCXAn+0
「でも退路は確保してやらないとな。大聖堂の警護の騎士団員は腕の立つヤツが揃ってそうだしな」
そうね。私、自分のことばかりで、エイトのこともミーティア姫のこともちゃんと心配してあげられなかった。そのお詫びをしなくちゃ。
それに、煉獄島に押し込められたお返しをするチャンスでもあるんだわ。
「ゼシカ、手加減て言葉知ってるよな?」
またククールが見透かしたようなことを言ってきた。
「失礼ね、当たり前でしょ」
・・・ベギラマくらいはいいかなって思ってたけど、メラで勘弁してあげるわ。
エイトが大聖堂に乗り込むより先に、ミーティア姫とトロデ王は式場から逃げ出していた。
一国の主としては間違った行動かもしれないけど何だか嬉しい。土壇場で自分の気持ちに正直になってくれたミーティア姫も、王であることよりも娘の幸せを願う父親であってくれたトロデ王も。
騎士団員たちを蹴散らした私たちは、エイトたちが乗っている馬車が見えなくなるまで、その姿を見送った。
また私たちは解散して、それぞれの生活に戻る。そして・・・。
そして? それでいいの? エイトたちは国同士の結婚をぶち壊してまで、自分たちの想いを貫いたのよ? 私には失うものなんて何もないのに、何をためらってるの?
「ククール~! 見てたわよ、すごくカッコ良かったー!」
私がやっとの思いで絞り出そうとした声は、バニーさんの声であっさり遮られた。
「エイトさんに会わせてくれてありがと。でもお姫様と駆け落ちしちゃうんだもの、つまんない。ねえ、そっちの丸くてワイルドなお兄さん。あたしのヤケ酒に付き合ってくれない? 一人で飲むのは寂しいの。でも飲むだけよ、パフパフとかはナシよ」
「アッシの場合はヤケ酒じゃなくて祝い酒でがすが、それで良ければ付き合うでがす」
意外なほとアッサリとお誘いを受けたヤンガスは、ククールを上目使いで睨んで言った。
「さっきの話、覚えてるな? これ以上ゴチャゴチャしてると・・・」
「わかってるって。今度は大丈夫だ、ちゃんと言う。もう蹴られるのはゴメンだしな」
何? 言わないと蹴られる言葉?
ヤンガスは今度は私の方を向く。
39:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/19 19:27:32 bzcAMBXe0
うぅ・・・これって最終回?終わるのイヤだぁ。゚(゚´Д`゚)゚。
でもがんがれってことで、もっかい合いの手。読むの緊張するよ、なんか・・・
40:『そして』後編7/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:27:43 LtFCXAn+0
「いいでがすか、ゼシカの姉ちゃん。ククールに泣かされるようなことがあったら、すぐにアッシに言ってくるでげすよ」
「うるせえよ、いいからサッサと行け」
ククールが追い払うような仕草を見せる。私は全然ついていけない。
「じゃあね~、ククール~」
ヤンガスとバニーさんは、キメラのつばさを使ってどこかへ飛んでいってしまった。
「ほんとにそのお嬢様、強いんだ」
今度は踊り子さんが声をかけてきた。
・・・この二人は今、一緒に暮らしてるのよね。ってことは、この場のお邪魔虫は私ってことで、私がどこかに消えた方がいいのよね。
「いいよ。もうこれで許してあげる。お嬢様、ククールのことよろしくね。ククール、このコのことまで泣かせたら、承知しないんだから」
・・・えっ?
ククールが申し訳なさそうにうなだれる。
「ああ、わかってる。本当に・・・」
「ゴメンなんて言ったら、別れてやらないよ」
「・・・ありがとう」
「そう、それでいいの。じゃあね、二人とも、お幸せに」
そう言って踊り子さんも、キメラのつばさでとんでいってしまう。
「とりあえず、オレたちも移動しよう。騎士団員たちが追ってきたら面倒だ」
そしてククールはルーラの呪文を唱えた。
着いたのはリーザス村の入り口。私の頭は本当に置いてけぼりで、何がおこってるのか考えが追いつかない。
「ゼシカ・・・」
ククールの手が、私の前髪を掻き上げる。そこまでは三カ月前の別れの時と同じ。
でも、今ククールの唇が重なっているのは額じゃなくて、私の唇。
「・・・愛してる」
今、何がおきてるの?
「今までごめん。オレは本当に意気地無しで、ゼシカに悲しい思いさせてきた。でももう逃げない、約束する。ようやく勇気が持てた、自分の気持ちに嘘はつかない。許してくれるのなら、ゼシカとずっと一緒に生きていきたい」
ククールの目はとても真剣で・・・でも、私はすぐには信じられない。
「だって・・・じゃあ、なんで女のひと二人も連れてきたりするの? それでそんなこと言われたって、信じられないわよ」
ククールはちょっと目を泳がせて、それからようやく聞き取れるような声でボソリと呟いた。
「断れなかったんだ・・・」
・・・何だか、急に納得いってしまった。
41:『そして』後編8/8 ◆JbyYzEg8Is
06/01/19 19:29:12 LtFCXAn+0
「・・・そうよね。ククールって、意外と押しに弱くて、頼まれたらイヤって言えないところあるわよね」
エイトの寄り道も、文句言いながら全部付き合わされてたものね。
「ん、まあ、そうなんだけど・・・。ほんとゴメン。なんていうか、こんな情けないヤツで。多分この先、いろいろガッカリさせることあると思うけど、出来るだけ直すようにするから」
「・・・知ってるわ。他の人の為だと大胆だけど、自分のことになると結構臆病なところあるのよね」
でもそれは誰でも同じ。私だってそうだったもの。
「嘘つきなのも、見えっ張りなのも、意地悪なのも、単純なところあるのも、お調子者だったりするのも、全部知ってるわ」
それをうまく隠せてると思ってるあたりが、またマヌケなのよ。
「クールぶってるのがカッコいいって勘違いしてるところや、見た目は大人っぽいけど中身は子供なところも、全部知ってるわよ。今さら何を見たってガッカリなんてするわけないじゃない」
ククールはガックリと肩を落としてしまった。
「前からそうじゃないかと思ってたけど、ゼシカ、男の趣味悪いんじゃないか? どこがいいんだよ、こんなヤツ」
もうダメ、なんてカワイイ人なの! 好きになる以外、どうしようもないじゃないの。
「そういうとこ、全部よ!」
いろいろ言いたいこともあるけど、今はいいわ、全部許せちゃう。
我慢できなくて、ククールに抱き着いた。ククールもちゃんと抱き返してくれる。
「信じられないかもしれないけど、ほんとにずっとゼシカだけ見てた」
「知ってたわ・・・ずっと」
そうよ、気づいてなかってけど知っていた。ククールがどんなに私を優しく見ていてくれたか。だから私は自分の信じた道を進むことが出来た。
「愛してる」
声と身体の振動で二重に伝わる言葉。今度こそ本当に信じられる。
「私も、愛してる」
ようやく素直に伝えられた言葉。幸せすぎて怖いくらい。
また仲間たちは解散して、それぞれの暮らしに戻って、そして・・・。
そしてその後はこう続くのよ。
二人はいつまでも、仲良く幸せに暮らしましたって!
<終>
42:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/19 19:33:16 LtFCXAn+0
>>39
可愛すぎ! 抱きしめたくなるじゃないですか。
でも、鳥山先生風に言うと『もうちょっとだけ続くんじゃ』(DB知らない人ゴメン。年バレちゃう)
あと、この話の隙間も埋めます。彼にどういう心境の変化があったか、ちゃんと説明します。
しかし、ホントに今回長い・・・。読んでくださった方、お疲れ様でした。
43:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/19 20:04:08 bzcAMBXe0
スーパー乙です!回避ちゃんです。可愛いだなんて!(つω`*)テヘ
早速読んだよぉ~。一番乗り?すごーーーーーーーーい良かった!!
場面が場面だというのもあるけど、今までで一番かも。萌えた・・・。
完全に終わりじゃないんだね、ヤターー!!ほんと好きなんですよJbyさんのお話。
読みやすいし適度に面白いし感情も物凄く伝わってくる。正直感激しました。
イバラにされてた人達に意識があって・・・という設定、泣けますた。
今日はなんか具合悪くてローだったのに、おかげでハイになれそうですよ!
実は私もサイトでSS書いてる端くれなんですが、書く側の立場から見ても
Jbyさんはやっぱりスゴイんだよね。いやいやほんと、自信持ってください。
そしてククゼシ万歳!おめでとう、お二人さん!
いつまでも、仲良く幸せに暮らしてくれー!!(*^o^)乂(^-^*)
44:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/19 20:31:46 H7UzgEH60
ありがとう、すばらしいものを見せてもらったよ。
GJ!
45:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/19 22:05:05 8IqhIFsa0
.。::+。゚:゜゚。・::。. .。::・。゚:゜゚。*::。.
.。:*:゚:。:+゚*:゚。:+。・::。゚+:。 。:*゚。::・。*:。゚:+゚*:。:゚:+:。.
ウェ━.:・゚:。:*゚:+゚・。*:゚━━゚(ノД`)゚━━゚:*。・゚+:゚*:。:゚・:.━ン!!
。+゜:*゜:・゜。:+゜ ゜+:。゜・:゜+:゜*。 オボレル
.:*::+。゜・:+::* *::+:・゜。+::*:.´Д`;)ノ
・ ゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+*・ ゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+*・ ゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+*・ ゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+*
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*+:。。.。。:+*・ ゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+*・ ゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+*・ ゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+*・ ゚ ゜゚ ・
あまりの素晴らしさに言葉もよく出ません。
本当にお疲れ様でした。…もうちょっとだけホニャララ…も楽しみしてたりして。
あとそれから2人がケコってうわなんだおまえrやめrくぁwせdrftgyふじこlp;@
46:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/19 23:47:16 M1TmnaUf0
ィィ!(・∀・)
Jbyさん毎度乙です!
47:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/20 05:00:23 NGKMidCdO
GJ!
…よくGJとか神とかネ申とか言うけど、心からのGJとネ申を初めて感じた。
あんたすげぇよ。
48:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/20 13:34:40 +AQ3SvcP0
(m’∀’*)ホワ~~~ン
あんまり恋愛経験なさそうなのにククールを叱り付けるヤンガスも、
潔く身を引いてくれた踊り子さんも、
ヤンガスと飲みに行っちゃうお姉さんも
そしてもちろん、やっと気持ちに正直になれた二人も
みんな良かったよ~~~゚(ノД`)゚
Jbyさんって以前にも結婚式のシーンは書いてたから
もう書かないんじゃないかと思ってたけど
また結婚式シーンが読めてめちゃくちゃ嬉しい!
もうちょっとだけ、と言わずにまだまだ続けてください!
いつもすごい神SSうpしてくれてありがとう!
49:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/20 20:57:33 1xi/wg5Y0
みんな、心広いなあ。
私なんて今回の話、自分で書いてるくせして、何度かククールに対して殺意芽生えたのにw
事実上最終回と言ってもOKなハッピーエンド、気にいってもらえて何よりです。
でも、今回の話はハラハラヤキモキして読んでほしい話なのに、随分前からハッピーエンドにすると公言していた自分が憎いorz
確かに以前、城での祝宴も結婚式も書いてたんですが、あれは別解釈のククゼシで、キャラの性格等、ちょっと違ってます。
『とまどい』より前に書いてて、今の設定のククゼシは『約束』と『味方』だけです。(まとめ人さん、本当にありがとう)
『味方』には、その後編に当たる話を書く予定なので、良ければ頭の片隅に入れておいてください。
個人的には裏ダンクリア後エンドより、ノーマルエンドの方が好きなので、今回こっちにしました。
50:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/21 09:42:33 yV92GnMx0
うん、踊り子と同棲までさせることはなかったんじゃないか、とは思う。
51:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/21 09:55:55 qZ7NmJf+0
(*´д`*)モット激しく!!
52:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/21 12:32:33 682DpM9A0
>>23
あー、とうとう終わってしまったのですね。まだ幾つかネタがあるということですが、
寂しい気持ちでいっぱいです。
最後の最後で幸せいっぱいの二人。でも甘すぎないさわやかなやり取りが彼ららしいです。
そしてククの「ずっとゼシカだけ見てた」の台詞には、
ずっと綴られてきた彼の行動とか会話なんかが思い出されて、ジンと来てしまいました。
わたしJbyさんのククール、ほんと好きなんですよ。
最後に1つ。物事を始めるのは簡単。でもそれを最後まで完了させるのは努力と強い意志が必要。
だから連載小説を完成なさったこと十分誇って良いと思います。お疲れ様でした。
53:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/22 13:36:37 vjvVwOLC0
何様www
54:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/22 17:54:31 4g6JAYFg0
SSの書き手さんによって微妙にキャラの性格とか
設定が違ったりするけど、Jbyさんのキャラってみんな
無理がない感じで、すごい読みやすかったなぁ。
あえて言うならククールがかっこよすぎ&ゼシカがかわいすぎってところくらいw
本来のアホさとワガママさが薄められて、めちゃくちゃかっこよかったし
かわいかった。(*´Д`)
また小ネタが来る日を夢見てお待ちしております(・∀・)
個人的には「整っているようでいてブサイクすれすれの男」との
縁談をゼシカが断るところが見たいかも。
あ、でもそれじゃククゼシじゃなくなるのか。スンマソ。
55:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/25 08:27:47 bFMmjZes0
hosh
56:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/25 22:17:44 GMGX/9eP0
そして 拝見しました。うおおおおおおおJbyさんありがとうハァハァ(´Д`;)ハァハァ
ゼシカから見て、ククールがカワイイというのがめきめき伝わってきてこっちもにやにやし通し。
ククゼシの、ひとつの終わりを見ますた゚(ノД`)゚
57:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/27 22:57:23 Lbwoo8Vz0
58:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/30 21:04:54 bj9Igipn0
保守
59:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/31 13:01:19 /DfognO40
あ!
60:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/01/31 22:02:00 Aek7jR0L0
Σ(・A ・;)
61:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/01 12:59:10 m0IcwICw0
DQ8三週目始めた。ククールがかっこよすぎることに気付いた。遅すぎ。
指輪を渡されて、テレながら怒るゼシカが、ほんといいねえー。
62:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/02 10:55:57 /B2k8UlK0
>61
あれ、同じような状況w
ククール単独スレってまた落ちちゃった?
63:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/02 13:02:06 LkzpRRwR0
>62
落ちた。
最近スレが乱立傾向にあるようで、週二回は圧縮かかる(総スレ数670前後で圧縮)。
こまめに保守しないと落ちるよ。
64:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/03 09:45:11 2juwsHpJ0
hosh
>>61
いいなぁ。2週目したくなってきた。
でも時間がないから指輪のシーンだけ見ようかな。
次にやるときは弓と格闘技あげまくっていろんな特技がみたい。
65:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/04 09:36:29 1pifetCdO
>>64
禿同。
色んなククールが見たい!
66:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/04 20:11:02 SyLoTkBK0
( ´_ゝ`)フーン
67:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/05 19:59:06 TyZgrsev0
たくさんの労いのお言葉ありがとうございました。
もうちょっとだけと言っておいて、また長いの書いちゃいました。
『そして』の前編と後編の間の時系列の話ですが、ククール編の方、前スレの『秘密』を読んでない方には意味わからない話になっちゃいました。
すみません、予めご了承ください。
68:『暖かい世界』ゼシカ編1/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:03:15 TyZgrsev0
ラプソーンを倒し、リーザス村に戻ってきてから、もう一カ月。
本を読んだり、刺繍なんかしたりして、一日のほとんどを家の中で過ごしている。
ただ心だけが世界を飛び回っていた頃に戻る。たった一カ月しか経っていないのに、もう何年も前のことのような気がしてしまう。
痛いことや辛いこともたくさんあったけど、生きてるって実感できた日々。毎日が楽しかった。
だけど、懐かしく思い出したいのに、どうしてなのか悲しい気持ちになってしまう。
ラプソーンを倒せば、もう悲しいことはなくなるって思ってたのに、どうしてこんな気持ちになるんだろう。
ドルマゲスを倒した時、仇を討ったって兄さんが戻ってくるわけじゃないという当たり前のことを再確認させられて、虚しさに負けてしまった。
それに懲りたから、ラプソーンを倒した時はそうならないようにしようと決めていたのに、結局私は何も成長していない。
ククールが今の私を見たら、どう思うかしら。
あんなに何度も『戦いが終わった後のことを考えろ』って忠告してくれてたのに、私ったら全然それを活かせてないんだものね。
そりゃあ、子供扱いもされるわよね。
それなのに『心配でほっとけないからリーザス村で暮らさない?』なんて傲慢だわ。本当にバカみたい。
『ゼシカはほっとけないからな・・・世話のやける可愛い妹みたいでさ』
別れ際のククールの言葉が耳を離れない。
額にキスされたのはイヤじゃなかった。だってすごく優しかったから。
それなのに思い出すたびに、胸が締め付けられるような苦しさを感じる。
大事に思ってくれてるのは伝わってきたのに、どうしてなんだろう。
・・・とうとう最後まで対等な仲間になれずに、一方的に守られる存在でしかいられなかったんだとわかって、悲しかったのかもしれないわね。
「どうしたの、ゼシカ。あなたも熱が出たんじゃなくて?」
お母さんが心配そうに訊ねてきた。
いつの間にか額に手を当てていたから、そう見えたのかもしれない。
「ううん、何でもないわ。ちょっと考え事してただけ」
私が家に帰ってすぐ、お母さんは心労が祟って倒れてしまった。
ずっと一人で家を守ろうと気を張り詰めていたのが、緩んでしまったらしい。
要するに精神的なものなんだけど、やっぱり放っとけないので、こうして看病はしてる。
69:『暖かい世界』ゼシカ編2/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:04:21 TyZgrsev0
「少し外を歩いてきたら? 家の中にずっといたんじゃあ、気が滅入るでしょう?」
サーベルト兄さんが生きていた頃、家の中でジッとしてるのが大嫌いだった私に『少しは女らしく、家で花嫁修業しなさい』って言い続けてたお母さんの口から、こんな言葉を聞ける日が来るとは思わなかった。
この一カ月、私とお母さんは、今までに無いほど良好な関係を保っている。少なくとも一度も怒鳴りあってはいない。
お母さんの気が弱くなってるっていうのと、私も病人相手にケンカするつもりはないっていうだけなのかもしれないけど。
でも少し考えないといけないとは思う。
以前はサーベルト兄さんが仲裁してくれていたけど、その兄さんはもういないんだもの。
「私もそろそろ起きようかと思ってるのよ。今日の夕食は食堂で一緒に摂りましょう。最近あまり食べてないって聞いたわよ。少し動いて、お腹を空かせてらっしゃい」
せっかくお母さんが心配して勧めてくれるので、少し外の風に当たりにいくことにした。
教会までゆっくりと歩き、サーベルト兄さんの墓に参る。
兄さんのお墓を守りたいというのも、私がこの村に留まる理由の一つ。
旅が終わって仲間と離れるのが寂しくて、ずっと皆で旅を続けられたらいいなって思ってたけど、それは夢みたいな話で、皆それぞれの人生がある。
私はこうしてリーザス村で暮らしていくのが、やっぱり一番自然なことなのかしら。
「ゼシカお姉ちゃん、見て見て! 私、本当にモシャスが使えるようになったの!」
陽が落ちかかり家へ向かう道の途中、魔法使いを目指す村の女の子、ミーナが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ほら、スライムにモシャス!」
・・・ミーナは見事に変化した。
「あれー! 変だな、動けない。それにゼシカお姉ちゃんが大きく見える」
スライムピアスに。
「あーあ、つまんない。今度こそって思ったのに」
元の姿に戻ったミーナはボヤいている。
「ほら、だからメラから練習しなさいって何度も言ってるでしょう? 基本が出来てないからそうなるのよ」
それでも一応変化は出来てるんだから、才能はあるのよ。ちゃんと伸ばさないともったいないわ。
70:『暖かい世界』ゼシカ編3/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:05:59 TyZgrsev0
「ねえ、ゼシカお姉ちゃん、『コイワズライ』って何?」
この年頃の子の無邪気な言葉には、時々ドキッとさせられる。以前も『ボンッキュッボーン』て何? なんて訊かれて、返事に困ったことがあるもの。しかもそれ、村の人が私のことをそう言ってるんだっていうんだから、どう答えろっていうのよね。
「う~ん。恋煩いっていうのはね。好きな人がいるんだけど、その人とうまく仲良くできなくて病気みたいになっちゃうことよ」
「病気になっちゃうの? それなら仲良くすればいいのに、どうして?」
これは難しいわ。私だって造形が深いわけじゃないのよ。
「だってね、好きな人が同じように、その人を好きになってくれるとは限らないのよ。二人ともが同じくらい好きじゃないと、仲良くはできないの」
ミーナが泣きそうな顔になってしまう。
「病気になっちゃヤダ・・・」
「ああ、違うのよ、本当に病気になるわけじゃないの。あくまで『病気みたい』になるだけ。だから大丈夫よ」
「ほんと?」
「うん、本当」
何度も頷いてしまう。苦手分野の話の途中で泣かれるのは辛いわ。
「じゃあ、ゼシカお姉ちゃんも大丈夫なの?」
「・・・私?」
「お父さんとお母さんが話してたの。ゼシカお姉ちゃんが帰ってきてから元気がないのは『こいわずらい』してるからだって」
それからの数時間、私の頭は考えるということを拒否したようだった。
普通にミーナと別れ、家に帰ってお母さんと夕食を食べ、お風呂に入って部屋に戻った。
だけどドアを閉めた途端、洪水のようにいろんな感情が溢れ出した。
あんな小さな子供に言われるまで気が付かなかった鈍い自分への腹立たしさ。村の人達に知られてしまっている恥ずかしさ。相談できる人が誰もいない寂しさ。そして気づいてしまった気持ち。
「ククール・・・」
名前を口にしただけで、涙が抑えられなくなった。
そばにいる時は、名前を呼ぶのが嬉しかった。私を見てくれる瞳も、返事をしてくれる声も、差し出してくれる手も、全部嬉しかった。きっとずっと好きだったから。
『世話のやける可愛い妹』
この言葉が頭を離れなかったのは、恋愛相手としては対象外だと言われたのと同じだったから。それがずっと悲しかったんだ。
だけど今さら気づいたってもう遅いのよ。私はもう一カ月も前に失恋してしまってるんだもの。
71:『暖かい世界』ゼシカ編4/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:07:02 TyZgrsev0
一晩中泣き続け、それでも明け方少し微睡んで、目を覚まして起き上がり鏡を見た時には、自分の顔のひどさにショックを受けた。
瞼は腫れ上がって、目の下には隈ができてて、とても人前には出られない。
こんな風になったのは、サーベルト兄さんが殺された時以来だわ。
・・・でも旅の間にだって、眠れずに泣いた夜は何度もあった。
だけどチェルスを死なせてしまった時も、メディおばあさんを助けられなかった時も、こんな顔にはならなかったのに。
そして私は、また気が付く。
こんな風に泣きあかした夜、明け方にやっぱり少し微睡んでいる時、緑色の柔らかい光を感じることがあった。今思うと、あれはホイミの魔法。きっとククールが、私が眠っている時を見計らってかけてくれてたんだ。
・・・私、本当に何もわかってなかった。
ククールが優しい人だってこと、知ってるつもりだった。いっぱい助けてもらって、守ってくれてたこと、ちゃんとわかってるつもりでいた。でもきっと他にもたくさんあったはず。私が気づかない間にしてくれていた優しさが。
・・・でもそれは全部『妹みたい』な私に向けられていたものだった。
そう思うとまた悲しくなって、一日中部屋に閉じこもって泣き続けた。
だけど不思議なもので、その後の私は、それまでの一カ月よりはずっと元気になった。
原因のわからない悲しさよりも、理由がはっきりしてる悲しさの方が幾分マシだったみたい。ポルトリンクへ定期船の様子を見に行ったり、リーザス像の塔の見回りをしたりと身体を動かし、食事も普通の量を摂るようになった。
私は面と向かってフラれたわけじゃない。少なくとも大事に思ってくれてはいたんだもの。今は『妹』でも、私が好きだと打ち明けたら女性として見てくれるようになるかもしれないんだし。
でもそう思う一方で、あれだけ勘のいい人が私の気持ちに気づいてないとは考えにくくて、遠回しに拒絶するつもりで、あんなこと言ったのかもしれないとも思ってしまう。
ククールはいつでも来いって言ってくれたんだから、ドニの町に行って確かめればいいんだってわかってるんだけど。
迷っている間に時間だけがどんどん過ぎていき、更に二カ月近くも時間を消費してしまった。
72:『暖かい世界』ゼシカ編5/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:08:08 TyZgrsev0
そしてリーザス村に、トロデーン城からの使いの人がやってきた。
使いの人に渡された手紙はエイトからのもので、ミーティア姫とチャゴス王子の結婚式の日取りが決まり、一週間後にサヴェッラ大聖堂へ向けて出発するので、その道程の護衛に付き添ってほしいという内容だった。
そして、ヤンガスとククールにも同じ内容の手紙を出したから、久しぶりに皆で会おうとも書かれてあった。
返事は口頭で構わないということだったので、もちろん護衛を引き受けると使いの人に告げ、お母さんにも許しをもらった。
久しぶりに皆に会えることはもちろん嬉しい。
だけど同時に怖くなる。どんな顔してククールに会えばいいんだろうって。
自分の感情を隠しておく自信なんて私には無い。たとえ自分では隠せてると思っても、ククールには絶対見抜かれてしまう。いつだって見透かされてきたんだもの。
もう臆病になってる場合じゃないんだわ。自分の気持ちに決着をつけないと。
キメラのつばさを使ってドニの町にとぶ。
だけどククールを探そうとして、彼がこの町でどういうふうに過ごしているのか、何も知らないことに気づく。住んでる所もわからない。
とりあえず酒場に行って訊いてみることしか思いつかない。
「ねえ、ちょっとそこのお嬢様、もしかしてククールに会いに来たの?」
町の入り口で客引きをしていた踊り子さんに、声をかけられた。
「えっ、あ、はい、そうです。・・・でも、どうしてわかったんですか?」
この町には何度も来てるけど、この人は初めて見る顔だわ。すごくキレイな人だから、会ったことがあるなら忘れたりしない。
「その胸見ればわかるよ。ククールから聞いてた通りだもん」
・・・ククール。一体私のこと、どんなふうに話してるの?
「残念だったね。ククールは人に会うって言って出かけてったよ。だけど、そんなに長居はしないって言ってたから、待ってればすぐ戻ってくると思うけど。良ければあたいたちの部屋で待つかい? 狭いとこだけど、座る場所ぐらいはあるよ」
せっかくの親切だけど、初対面の人の部屋にいきなりお邪魔するのは気がひける。
・・・ちょっと待って。
「・・・あたい、たち?」
「そ、ククールは今、あたいの部屋で一緒に住んでるの」
踊り子さんは、実にあっけらかんとした口調で教えてくれた。
73:『暖かい世界』ゼシカ編6/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:09:27 TyZgrsev0
来なければ良かったのか、トロデーン城で会う前に知っておいて良かったのか。
よく考えればククールは女の人には大人気で、お付き合いしてる人がいてもおかしくないのに、全くこういう事態を予想してなかった。
ショックが大きすぎて、案内されるままに町の外れにある家に入る。
「酒場のおかみの家の二階を、あたいたち踊り子やバニーの住まいに貸してくれてるの。本当は男を連れ込んじゃいけないことになってるんだけど、おかみさんもククールだったらって、特別に許してくれてるんだ」
一番奥の部屋に通された。
「本当に狭いけど勘弁してね。どうぞ座って、楽にしてよ」
私は勧めてくれた椅子に腰をおろす。
「何か飲む? って言っても安ワインしかないけど。昼間っからお酒なんて飲まない?」
「いえ、いただきます」
辛い時にお酒に逃げるのは最低の人間だと思ってたけど、今はそういう人の気持ちが少しわかる。飲まなきゃやってられない時ってあるのね。
「潔癖で真面目なお嬢様だってククールから聞いてたのに、結構イケるじゃない」
三度目のおかわりをした私に、踊り子さんは感心した声を上げる。
「ククールは、この町ではどんなことしてるんですか?」
忘れるためにお酒飲んでるのに、思考能力が落ちてくると、逆にククールのことしか考えられなくなる。
「ククール? そうねえ、外で魔物と戦ったり、教会でケガ人の治療したりしてる。結構忙しいみたいで、ここには寝るために帰ってくるだけ。ちょっと寂しいかな」
忙しい・・・。そうよね、私みたいに帰る家があった人間と違って、ククールは何もない状態から新しい生き方を始めなくちゃいけなかったんだものね。
「あたいとククールは、別に何ともないよ。まあね、こうやって男と女が一つの部屋に寝泊まりしてれば、何もないとは言わないけど、でもそういうんじゃないの」
あまりにも唐突に意外なことを言われて、ほろ酔い加減も吹き飛んだ。
「あたいね、出戻りなの。結婚して引退してたんだけど、たった二年でダンナに死なれたもんだから、最近復帰したってわけ。だからククールのことも昔から知ってる。あいつは寂しい未亡人を慰めてくれてるだけで、お互いに本気なわけじゃないの」
「・・・いいんですか? それで」
時々思い知らされることがある。ククールには、私には全く理解できない部分があるって。
74:『暖かい世界』ゼシカ編7/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:12:20 TyZgrsev0
「いいの。だってククール、昔からそうだったから。あいつ寂しがり屋だから、女と見たら誰にでもいい顔するの。本当に誰にでも変わらないから、あたいたちみたいな場末の女でも、お姫様みたいに大事にしてくれる。
気分いいよ、あんな王子様みたいなキレイな男に優しくされるのは」
「でも、そんなの本当に優しいっていうのとは違うわ」
ククールはそんなまやかしみたいなものじゃない、本当の優しさだって、ちゃんと持ってるのに。
「本当に優しいよ、ククールは」
静かだけど、はっきりとした言葉で返された。
「初めは誰もククールのこと、本気では相手しないの。本気になっても意味ないってわかってるから。でも、いつの間にかすっかりノボせ上がっちゃう。それでもやっぱりククールだけは変わらないから、すぐに冷めちゃって別れることになる。
だけどキライにまではなれないんだ。むしろイイ関係になれる。一緒にいる間だけは本当に大事にしてくれてたって、わかるからなんだよね。だから、あたいとククールは今、調度そういうイイ関係の状態なの。
それにあたい、亭主に死なれてまだ半年だよ。もう少し感傷に浸ってたいよ」
「・・・でも、好きなんですよね? ククールのこと本気で」
そうでなければ、こんなに優しい顔、優しい声では話せない。
「・・・驚いた。鋭いね、お嬢様。・・・ほんとに罪な男だよね、ククールは。本気になるもんかって、何度思ってもダメ。気がついた時には手遅れになってる。
でもククールが悪いわけじゃないの。前みたいに、こっちに期待を持たせるようなこと言わなかった。それどころか『オレは誰にも本気になれない理由がある』って念押しされたのに、こっちが勝手に本気になったんだから」
「本気になれない理由って・・・?」
「う~ん、そこまでは訊かったんだよね。多分アレと関係あると思うけど。お嬢様知ってる? ククールが首から下げてる指輪。時々その指輪をジッと見て物思いにふけってるの。サイズから見て女のものじゃないから不思議なんだよね」
・・・それはきっと、マルチェロの指輪。
そうよね、あんな形でお兄さんと戦って別れて、今どうしているのかもわからないのに、恋愛なんてしてる心の余裕はないのかもしれない。
でもきっと一人で思い出すのは辛い時があって・・・誰かにそばにいてほしいと思う気持ちを責める権利なんて私にはない。
75:『暖かい世界』ゼシカ編8/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:13:53 TyZgrsev0
「私・・・帰ります」
「どうして? ククールだったらもうすぐ帰ってくるよ」
踊り子さんが引き留めてくれるけど、ここはやっぱり私のいる場所じゃない。
「いいんです、多分またすぐ会うことになると思うから。・・・あの、私がこんなこと言うの変なんですけど・・・」
私は立ち上がって、踊り子さんに頭を下げた。
「ククールのこと、よろしくお願いします」
ククールはいつも優しくて人に気を遣っていて、だからいつも心配になった。
自分のことは後回しにしてしまう人だから、せめて私だけでも心配してあげたいなんて思ってしまった。私の方がずっと子供なのに。
この人はとても大人で、ククールのこともよく理解してくれていて。いつか彼が自分の気持ちの整理をつけたいと思う日が来た時、きっと力になってくれる。
「・・・あんたが訪ねてきたって言ったら、きっとククール喜ぶよ」
「ワイン、ごちそうさまでした。失礼します」
もう一度頭を下げて部屋を出た。そして建物を出たところで気がつく。あの人の名前も聞いてなかったことに。
・・・また来よう。ちゃんと気持ちの整理をつけて、今日のお礼をしに。あの人とはお友達になりたい。
私は、ただアルバート家に生まれたっていうだけで『お嬢様』なんて呼ばれて、苦労もなく育ってきた。何もしなくても暖かく迎えてくれる世界で生きてきた。それに甘えて、人に好かれる努力をしてこなかったから、今度のことでも誰も相談できる人がいなかった。
それに比べてククールは、全て自分で努力して手に入れてきたんだ。心配してくれる人たちの気持ちを。
私も負けたくない。
・・・なんて思ったのよ。トロデーン城でククールたちに再会するまでは。
ククールはあの踊り子さんの他にもう一人バニーさんまで連れてきていた。
「ククールのいくとこなら、どこだってついてくって、決めたんだからさ」
聞こえよがしの大声で踊り子さんが言う。一週間前は大人の女性だって思ってたのに、何なのこれ。遊びに来てるんじゃないのよ、お姫様の護衛の仕事なのよ? 信じらんないわ。
あっさりエイトと離れて暮らしてるヤンガスも、チャゴス王子なんかと結婚するミーティア姫も、それを止めないトロデ王もエイトも、皆信じられない。
そして、あんなククールのことなんかを、まだ好きだと思う自分のことが、何より一番信じられない!
76:『暖かい世界』ククール編1/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:16:59 TyZgrsev0
ラプソーンを倒し、ドニの町に落ち着いてから二カ月近く経つ。
いや、落ち着いてっていう表現は正しくないかもな。そんなヒマなんてまるで無かったから。
ラプソーンを倒しても、全てが解決するほど、世の中甘くなかった。
マイエラ修道院とドニの町の周辺は、もうメチャクチャというしかない状態になっていた。オレが余計なことをしたのも原因の一つだ。
三大巡礼地の一つである聖地ゴルドが崩壊し、神頼みが好きな連中は救いを求めるように、サヴェッラ大聖堂とマイエラ修道院へ殺到した。
だけどマイエラ修道院では、騎士団員たちが毎日飲んだくれてて、まともな運営がされてなく、かろうじて修道士によって支えられてた。
それなのに、オレが下手に教会のお偉方にゴルドへの救援要請なんかしたもんだから、マイエラに残っていたまともな聖職者たちのほとんどが、ゴルドへと派遣されちまった。
マイエラ修道院は機能停止状態になった。
修道院の回りを警護する騎士団は役目を放棄し、巡礼者たちを魔物から守るヤツは誰もいない。それでも何とか逃げ延びて、ようやく修道院に辿り着いた巡礼者たちの傷の治療を出来る聖職者も、ほとんど残っていない。
だけど、巡礼者たちにそんなことが事前にわかるはずがない。巡礼をやめさせる手段なんてものも無い。
おまけにラプソーンのせいで、闇の世界から出て来た強い魔物たちがまだ残ってて、この辺をウロウロしてるもんだから、死人ケガ人、続出の状態だった。
そんな中でオレに出来ることは、人を襲ってる魔物を退治することと、ケガ人をドニの教会に誘導して治療することぐらい。
毎日修道院の周りを巡回し、魔物を倒して、巡礼者たちを死なせないようにはしてる。
大分慣れてはきたけど、一人で戦闘能力の無い人間を守りながら魔物と戦うことは、正直かなりキツい。
ラプソーンと戦う方が楽だったような気がするくらいだ。
今思うと、あのラプソーンも、ほんとに小者だぜ。
普通だったら、暗黒神なんてものを倒せば、魔物が人を襲うことなんて無くなって、世界は平和になるって話は決まってるだろうに、そんな気配はほとんど無い。
もう心配なくなったっていうのに、空が赤く染まったことを不安に思い続ける連中が、神にすがろうとすることも変わらない。
ゴルドの女神像が暗黒神だったなんて皮肉すら、何も変えることが出来てないんだからな。
77:『暖かい世界』ククール編2/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:18:02 TyZgrsev0
一人で生きていきたいと何度も口にしたことがあるけど、実際にはなかなか難しい。
今も、ドニの町の人間を巻き込んで、迷惑かけてる。
特にシスターには申し訳ない。自分で誘導したケガ人は、自分で治療するようにはしてるけど、それでも傍観してられない優しい人で、手伝おうとしてくれるもんだから、ただでさえ一人できりもりしてる教会なのに、負担がデカくなってる。
それと、居候させてもらってる踊り子のリンダにも迷惑かけてるとは思う。
言葉遣いは少し粗いが、昔から細かいことにこだわらないサッパリしたアネゴ肌で、面倒見のいい女だった。
魔物退治とケガ人の治療に追われて、教会で仮眠を取るだけのオレを見かねたんだろう。二週間ほど前にいきなり教会にやってきて、ケガ人の治療を終えたオレの腕をつかんで有無を言わさず部屋に引きずり込み、自分のベッドに寝かせてくれた。
そしてオレはそのまま住みついちまった。
初めの一カ月は闇雲に魔物退治に一日のほとんどを費やし、何も考える余裕がなかったけど、最近は大分慣れてきたせいで、部屋に戻るといろんな事を考えちまう。
首から下げている、騎士団長の指輪を取り出す。
オレが今ここでやってることは、自己満足の範囲を出てないことはわかってる。
本当にこの土地で起こってることを解決したいなら、この指輪を使って団長命令とでも何でも得意の嘘を吐いて、騎士団員たちに修道院の周りの警護をさせればいい。
でもオレがサヴェッラで打った芝居が元で、修道院が機能しなくなった。今度もまたどこかに無理が生じるんじゃないかと思うと、二の足を踏んじまう。
つくづく中途半端な自分に呆れる。
そして、視線は指輪を通している鎖へと移る。
指には嵌められないブカブカな指輪を失くさないようにと、ゼシカがくれたもの。
旅の間に集めた武器も防具も、全部トロデーンに置いてきたから、これだけが唯一の旅の記念にもなる。
・・・あんな別れ方をしたけど、そのままにしておくつもりじゃなかった。
自分の気持ちにもっとはっきり区切りをつけて、もう少しマシな態度で接することができるようになったら、様子を見に行こうと思ってた。
なのに日々にただ追われて、二カ月も放ったらかしにしちまってる。
78:『暖かい世界』ククール編3/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:20:16 TyZgrsev0
・・・オレは本当に何もない人間なんだと思う。
何やらせても中途半端なうえに、まともな感情も持ち合わせていない。
あんなに別れが辛かったはずのゼシカとも、会わなけりゃ会わないで何ともない。
それどころか、他の女の部屋に住みついて、平気でその女を抱いてる。
親代わりの院長の仇さえ、まともに憎めなかった。暗黒神なんて名乗っちゃいるが、滅ぼされるために復活させられた、哀れな化け物としか思えなかった。
マルチェロのことだって、一応気にはなってるが、本当に心配してるんだかどうだか自信がない。
きっと、オレはどこか感情が欠けてるんだろうな。
人間、必要に迫られれば、何でもできるようになるもんだ。
レイピア一本で魔物退治するのはかなりキツくて、もう少し切れ味のいい剣を貰っとけば良かったと後悔もしたもんだが、おかげで剣の腕はあがって、武器の性能に頼らなくてもいい大技も習得できた。
だいぶ落ち着いた状態になったのか、ゴルドにいた騎士団員や派遣されてた修道士が戻り始め、修道院の周辺も落ち着きを取り戻しつつある。
ようやく少し身体を空ける余裕が出来たので、オレは時間を見つけてルーラでベルガラックへととんだ。
カジノのオーナーの、フォーグとユッケに呼ばれてたからだ。
先代のギャリングは、オレの死んだ親父がここのカジノで負け込んだカタに、領地を没収したっていう、それだけ聞くと険悪になりそうな関係なんだが、ガキだったオレにいろいろ良くしてくれて、養子縁組の話までもちかけてくれた恩人だ。
イカサマカードを初め、ロクでもないことばかり教えてくれた師匠でもある。
だから、ここの兄妹が困ってる時はいつでも力になると約束した。それが少しでも恩返しになってくれればと思いながら。
「久しぶり、クク兄。元気だった?」
ユッケの出迎えの言葉を聞いて、思いっきり脱力した。
「ユッケ、頼むから『クク兄』はやめてくれ。力が抜ける」
「えー。でもお兄ちゃんだと、フォーグお兄ちゃんと区別つかないし」
「だから、無理に兄呼ばわりしないでいいから。ククールでいい」
「だって、せっかく背が高くて顔のキレイなお兄ちゃんが出来たんだもん。自慢したいじゃない」
「背も高くなくて、顔もキレイじゃなくて悪かったね」
フォーグがちょっとスネたような声で抗議した。
79:『暖かい世界』ククール編4/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:21:22 TyZgrsev0
「今日来てもらったのは他でもない。三カ月前の大王イカの件なんだ。うちの用心棒たちが不甲斐ないばかりに、キミの手をわずらわせたそうだね」
・・・ああ、あったな。そういうこと。ラプソーンとの最後の戦いの前、大当たりしそうな予感があってカジノに立ち寄った時に、水遊びしてる大王イカを退治したんだ。せっかく黙っててやったのに、バレたのか。
「こんなことでは、彼らに身辺警護を任せるのは心もとない。そこでキミに彼らを少し鍛え直してもらいたいんだよ。引き受けてもらえないか? よければそのまま、この街に残ってもらいたいとも思ってるんだ」
フォーグの誘いに、正直少し心は動いた。
マイエラの周辺は落ち着いてきたし、いつまでもドニの町の人間の好意に甘えてるわけにはいかない。それにベルガラックの街はオレには合ってると思う。・・・少なくとも、リーザス村よりは。
「少し考えさせてほしい。引き受けるにしても、今いる所をすぐに離れるわけにはいかないんだ。ちょっといろいろ立て込んでてさ」
「何、クク兄? 暗黒神とやらを倒しても、まだ何か大変なことあるの?」
「だから『クク兄』はやめろって・・・ユッケ、お前何で暗黒神なんて?」
フォーグとユッケは顔を見合わせて呆れ顔をする。
【世界一のカジノのオーナーの情報網をナメないでほしいね】
兄妹仲のいいこった。見事にハモって答えてくれた。
・・・またオレは、助けられてたんだ。
大王イカを退治した日、オレは100コインスロットで二時間の間に『777』を三回出した。隣で見てたエイトは、イカサマしたと勝手に決めつけてたけど、無理に決まってるだろ、そんな芸当。
あれはこの二人が、裏で手を回してくれてたんだと気づく。オレたちが暗黒神なんてものと戦ってるのを知って、武器や鎧を遠回しに差し入れてくれたってことか。
「あと、父の遺品を整理してたら、こんなものが出てきたんだ」
フォーグが見せてくれたものは、一枚の書類。土地の権利書だった。
今は何もない、ただの荒れ地になっているこの土地は、かつてオレの生まれた家があった場所・・・。そして名義人の欄には、オレの名前があった。
「その権利書の名義が書き換えられたのは、父が亡くなる前の日なんだよ。そういうことを決して口にする人ではなかったけど、何か予感めいたものがあったのかもしれないな」
80:『暖かい世界』ククール編5/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:22:27 TyZgrsev0
「それとこれ、多分一緒に書いたと思うんだけど、クク兄あてだと思う。中は見てないからわかんないんだけど、多分ね」
ユッケが封がされた手紙を渡してくれる。宛て名には『デカくなったチビスケへ』と書かれてある。予感めいたものがあった人の書く言葉とは、とても思えなくて、思わず苦笑しちまった。
オレは権利書をフォーグに返す。
「これは、受け取れねえよ。もらう理由がない」
「そう言われても、こっちだって困る。父がどんな気持ちでこうしたのか、わからないわけじゃあるまい? はい、そうですかと引き下がるわけにはいかないよ」
「・・・それはそうだよな。・・・正直、ちょっと動揺しててさ。悪いけど、とりあえずは預かっといてくれ。あと、こっちの手紙はもらってっていいんだよな?」
ユッケが黙って頷く。
「悪いな、今日はこれで帰らせてもらうよ。近いうちにまた来る。さっきの話もそれまでに考えとく。・・・ほんとに、いろいろありがとな」
ギャリングの屋敷を出てすぐ、オレはルーラの呪文を唱えた。
移動した先は、ふしぎな泉。他に一人になれる場所を思いつかなかった。
我ながら取り乱しっぷりがすごい。指先が震えて、手紙の封を切るのにも苦労するくらいだ。
なのに、ようやく取り出した便せんに書かれていたのは、あっけないほど短い言葉。
『幸せになれ』
「なんっ、だよ、これ・・・」
宛て名より短いじゃねえかよ。こんなもん、わざわざ封筒に入れてんじゃねぇよ。
何なんだよ、ほんとに・・・。ちくしょう、不意打ちくらわせやがって。目からヨダレが止まんねえじゃねぇかよ。
「師匠っ・・・」
あんた、ほんとにずっとオレのこと忘れずにいてくれてたんだな。なのにゴメン、オレはすっかり忘れてた。
あんたが教えてくれた、たくさんのこと。いつか巡り会える本物も、諦めるなと言ってくれた言葉も。そして何よりオレにだって、幸せを願って心配してくれる人がいるんだってことを・・・。
オレはいつだって誰かに助けられてた。勝手にスネて諦めて、そのことから目を背けてただけだったんだ。
ありがとう、思い出させてくれて。もう少しで、気づかずに生きていくところだった。オレを取り巻く世界は、いつだってこんなに暖かかったんだってことを・・・。
81:『暖かい世界』ククール編6/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:23:55 TyZgrsev0
「ゼシカ・・・」
口にしただけで、胸に柔らかな光が差す名前。オレが手に入れることのできる『幸せ』なんてものがあるのなら、それは彼女のところにしかない。
「・・・愛してる」
・・・ゼシカのことはずっと心配してたんだよな。あいつ、絶対ロクでもない男に騙されるって。まさかそれがオレのことだとは思わなかった。
練習しなくちゃ愛の告白もできないほど情けない男だとは、思ってないだろうな。本性知られて『だまされた』って言われても文句は言えない。
でも、それで愛想つかすかどうかは、ゼシカに決めてもらえばいい。
母親との板挟みになる心配なんかも、オレの空回りだった。
ゼシカはどんなことだって、自分で決めた道をまっすぐに進んできたんだ。オレはそれに従えばいい。
知ってたはずなのに、すぐ忘れる。ほんとにオレは忘れっぽいんだ。
ドニの町に戻ると、教会の前に人だかりが出来ていた。何でもトロデーン城からの使者が来てたとかで、王家とか城に縁のない町の人間たちには、ちょっとした話の種になってたらしい。シスターが預かっててくれた、エイトからの手紙を受け取る。
内容は、一週間後にサヴェッラへ出発するミーティア姫様の護衛の付き添いを頼みたいというもの。
おい、一週間後って何だよ! 話が急すぎるっつーの!
こっちにだって予定とか事情とかあるって、考えろよ。人が良さそうな顔して、相変わらず呑気者のマイペース野郎だぜ。
だいぶ落ち着いてきたとはいえ、今この土地で、闇の世界の魔物を相手できるやつは他にいない。その状態で何日も、留守にするわけにはいかないんだ。
「使いの方にはお引き受けすると、お返事しておきましたから」
シスターにあっさり言われて、オレは面食らった。
「返事したって、引き受けるって、でもオレは・・・」
「いい加減に一人で何でも背負い込もうとするのは、おやめなさい。あなた一人がいないくらいで、この地方が滅ぶわけでもないでしょう? それよりも大事なお友達が困っているのなら、助けてあげなくてはいけませんよ」
言われて初めて思い至る。いくら一緒に世界を旅した仲間だからって、オレたちみたいな馬の骨を姫様の護衛につけなきゃならない程、トロデーンが人手不足とも思えない。エイトはエイトなりに悩んでて、自分でも気づかないうちに助けを求めてきたのかもしれないんだと。
82:『暖かい世界』ククール編7/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:24:59 TyZgrsev0
「ねえ、ちょっと話変わるんだけど、ククール。あんたが留守の間に、胸の大きなお嬢様がも訪ねてきてたよ。ほんとにタイミングの悪い男だね」
リンダが呆れたような声で教えてくれた。
胸の大きなお嬢様って・・・。
「ゼシカが?」
「そう、一目でわかったよ。ほんとに水風船みたいな胸してたから。あんたが今、あたいの部屋に寝泊まりしてるって言ったら結構ショック受けてたよ。ちょっと悪いことした」
うっわ、最悪だな、おい。我ながら、我ながら本当にタイミングが悪い。でも事実だし、口止めしてたわけじゃないし、リンダを恨むわけにもいかない。
「ふ~ん・・・大層な慌てっぷりだね。なーにが『オレは誰にも本気にならない』さ。『本気の相手がちゃんといる』だけじゃないか、この大嘘つき!」
返す言葉もないとは、このことだ。
「あんた、何やってんの? あのコの気持ちに気づいてないわけじゃないんでしょ? あたいに『ククールをお願いします』って頭下げてったよ。それ聞いた時、あんたのこと殴ってやりたくなったね」
・・・そうだ。本当に、オレは今まで何をやってたんだろう。
オレは誰の気持ちも受け入れなかった。どうせ誰も本気じゃない、女たちだって見た目の良さにつられてるだけだと決めつけて、二股かけるのだって毎度のことだった。
でも今ならわかる。オレがどれだけの本当の気持ちを踏みにじってきたのか。今だってそうだ。リンダだって、寂しさや同情からだけでオレと一緒にいるわけじゃない。人の心なんて、そんなに器用にできてない。
彼女たちがオレを想ってくれていた気持ちに不足があったわけじゃない。・・・だけど、今さら悔いてもどうにもならない。
「ごめん、リンダ。今までのいろんな事、全部含めて申し訳なく思ってる。世話になりっぱなしで勝手だけど、オレはもうキミとは暮らせない。別れてほしい」
オレの心はもう決まってしまった。たった一人の相手を見つけてしまったんだから。
「甘いね。それで許されるとでも思ってんの?」
「・・・え?」
「決めた。あんたはちょっとこらしめてやんないとね。お姫様の護衛とやら、あたいもついてく。それで思いっきりベタベタして、あのお嬢様に見せつけてやる」
・・・何で、そういう話になるんだ?
83:『暖かい世界』ククール編8/8 ◆JbyYzEg8Is
06/02/05 20:26:41 TyZgrsev0
「それで愛想つかされるようなら、自分の今までの行いが悪かったって諦めるんだね。今まであんたに弄ばれてきた女たちの分、まとめてお返しさせてもらうよ。せいぜい覚悟しな」
「ちょ、ちょっと待て。お返しはこの際いいとして、これは遊びで行くんじゃなくて、王女様の護衛なんだから、ついてくとか言われてもダメだって」
いや、そもそもオレ、行くって決めたわけでもないし。
「あ、それならアタシも行く~。手紙くれたエイトさんて、お城の近衛隊長さんなんでしょう? 会ってみたい、連れてってぇ」
ドニの町でも一番のミーハーバニー、エレナが話をこじらせてくる。
「だから、遊びじゃないんだって。無理に決まってんだろ」
「もし連れてかないって言うんなら、あんたのちょっと言えないような話、あのお嬢様に全部吹き込むよ。それがイヤなら観念するんだね」
リンダ、こえーよ。っていうか、ちょっと言えない話って、心当たりありすぎてシャレにならん。
「そのお嬢様に嫌われたくないんでしょ? リンダと二人きりなら完璧カップルになっちゃうけど、アタシも一緒ならただの連れですむじゃない? だから連れてって。エイトさんに紹介して」
エレナの言葉に、つい納得しそうになり、慌ててその考えを振り払う。
「ほんとに勘弁してくれ。他のことなら何でもするから、これだけは絶対無理だって!」
・・・オレはほんとに情けない。結局押し切られ、二人ともトロデーンに連れてくるハメになった。
ゼシカはかなり怒ってる。城の中庭で再会した時も、サヴェッラへ向かう船の中でも、ほとんど口をきいてくれない。リンダが宣言通り、見せつけるようにベタベタしてくれるからってのもある。
だけどゼシカの怒り方を見て、少し安心もしてる。脈ありな怒り方っていうのかな。
ごめん、ゼシカ。ずっと寂しい思いさせてきた。そしてこれからも、しばらくそれが続くと思う。
オレはこの護衛が終わったらまたドニに戻る。闇の世界や空飛ぶ城から来た魔物だけは、何とかしてマイエラ地方から一掃したい。それだけはどうしても譲れないんだ。
面倒なヤツですまないとは思うけど、選んだ相手が悪かったと思って諦めてくれ。
そのかわりオレはもう二度と諦めたりしない。この先に何があったって、ゼシカと一緒に生きることだけは、決して諦めないことを約束するから。
<終>
84:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/06 00:26:34 0Pa2jkYM0
人 人 人 人 人 人 人 人
(゚∀゚)(゚∀゚)(゚∀゚)(゚∀゚)(゚∀゚)(゚∀゚)(゚∀゚)(゚∀゚)
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人
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人 人 人 人 人 人 人
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人
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人
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// 人
人 (゚∀゚)人 人 人
(゚∀゚)(゚∀゚)(゚∀゚)(゚∀゚)(゚∀゚)
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85:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/06 00:31:09 0Pa2jkYM0
人
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(゚∀゚)(゚∀゚)
(( (゚∀゚)(゚∀゚)(゚∀゚) ))
(゚∀゚)(゚∀゚)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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| ! ! ○ \____/ ○ |
キタ━━━━━.| ! j \ / .|━━━━━!!
| \/ |
'i ノ'
`''─ _________ ─''´
お待ちしてました!夜更かししてよかった!!(´∀`*)
JbyさんのSSが終わって寂しかった。
全てが終わってショボーンのゼシカの気持ちがよく分かった。
いや、私は読むだけで何も大仕事が終わったわけじゃないんだけども。
ところで、やっぱり踊り子さんとククールは何もなかった訳じゃないんですね。
大人の男と女が一緒に寝るわけだから、そりゃそうか。
ゼシカ、がんばれよ・・・。
86:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/06 00:37:03 rOxX3/ZU0
せ、切ない・・・・・。゚(゚´Д`゚)゚。
87:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/07 18:55:46 3Eszzlea0
キタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!
心理描写が上手くて感激です。
88:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/07 20:04:55 NTD8pHaz0
キングスライムちゃん、スライムのかんむり落としてー!
じゃなくて・・・。
読んでくださってありがとうございます。
今回ちょっとククもゼシも可哀想(ゼシカは純粋にククールは株が下がるようなこと書かれ)すぎたので、次は仲良くする話に挑戦してみようと思います。
(ダジャレに逃げずに)
・・・書けるかな?
89:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/07 21:21:14 8Qf0LZDJO
乗り遅れましたがGJです!!!!
良いククゼシでした…!
次回も楽しみにしてます!
90:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/07 21:40:29 mBX1Lqsu0
おー!まだ続きがあるのですね。楽しみにしてますよ。
>あたいに『ククールをお願いします』って頭下げてったよ。
>それ聞いた時、あんたのこと殴ってやりたくなったね
ってとこが、もうね、きてる。泣かせるなぁ・・・。
そんなゼシカの姿、そして心情を思い浮かべると、胸が痛いよ。
でもさ、ククールが普通におとなしくなるわけないってのはわかるんで、
ちょっと紆余曲折もってきたってわけなんだよね?仕方ないか。
あーでもあたいもククールぶん殴ってやりたくなったねw
91:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/07 21:51:28 ENM8AJcM0
なんなんだ。この人たち。
92:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/07 22:08:46 9qRSyftSO
>>91
ククゼシに燃える人達です
93:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/07 22:38:38 voNgxhTU0
怖いですよ
94:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/08 00:04:21 BaZKbqo0O
ダジャレとか勘弁してほしい。これだからオヴァは嫌いだ。
95:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/09 18:34:40 hvj6eg9t0
ぜったいに、つづきかいてよ!
96:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/10 08:20:58 DiWSL/z20
妄想すいっちお~ん!!!
97:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/12 00:39:35 KF9Dj9mn0
ほしゅ
北米版やりたいなぁ。
98:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/13 12:04:12 hLZyumKd0
hosh
99:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/14 16:01:25 eJJQmT7W0
バレンタインだというのに静かですな。
この二人、どっちがどっちに贈るんだろう?
100:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/14 17:02:43 knFN74Vh0
女性がプレゼントするのは日本くらいとか。
クックルがチョコあげればいいじゃなーい。100
101:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/14 19:35:04 CBkr5wOG0
age
102:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/15 00:34:21 PXsnPTUx0
また投下しに来ました。
バレンタインネタ(日付変わったけど)じゃなくて、すみません。
今回は前後編じゃなくて、1レスごとに語り手交代するので、少し読みにくいかも。
あと、ちょっぴりエロいかも。
15禁以上18禁未満というとこかな?(実は基準がよくわかってませんw)
苦手な方はスルーでお願いします。
103:『月を照らす光』1/6 ◆JbyYzEg8Is
06/02/15 00:36:32 PXsnPTUx0
「ごめんゼシカ。本当はこういう時、もう離れないって言わなくちゃいけないんだろうけど、すぐにそうする訳にはいかないんだ。空が赤くなったことと、ゴルドが崩壊したせいで、マイエラ修道院に巡礼に来る人間が増えてる。
当然ドニの町にも人が多く来るんだけど、あそこの教会はシスター一人しかいないから、オレが手伝わないとちょっと大変なんだ。しばらく寂しい思いさせるけど、わかってほしい」
悲しげに曇るゼシカの顔を見るのは、胸が痛む。
「一段落着いたら、必ずリーザス村へ行く。だからそれまでゼシカには待っててほしい」
三カ月も待たせておいて、ようやく想いを伝えた直後にまた待てなんて、我ながらひどいとは思う。でも先延ばしにすれば、余計に失望を大きくさせるだけだ。
暗黒神ラプソーンのせいで起こった異変は、世界中のほとんどの人間を恐怖に陥れた。
なのに、ラプソーンがもたらす破滅に関してはもう心配いらないと、証明する術が無い。
結果、人は神にすがろうとする。サヴェッラ大聖堂と同じように、マイエラ修道院にも救いを求めた人間が集まってくる。道中には、闇の世界やラプソーンの空飛ぶ城から来た、普通の人間には歯が立たない、凶悪な魔物が待ち構えていることも知らずに。
それは何も、マイエラ地方だけの問題じゃないのはわかってる。
でもやっぱりあそこは、オレにとって特別な場所だ。親代わりになって育ててくれた、オディロ院長が治めていた修道院。自分勝手なことばかりしてたオレを、仕方ないというような顔をしながら、笑って受け入れてくれてた人たちのいるドニの町。
どうしても、この手で守りたい。ラプソーンのせいで現れるようになった魔物だけは、どうにかして根絶やしにしたいんだ。
「できるだけ早く、ゼシカの所に行けるようにする。・・・今は、それしか言えない」
この期に及んで隠し事をしてると思うと、罪悪感でいっぱいになる。
だけど全てを話せば、ゼシカもオレと一緒に戦おうとするだろう。それは絶対にいやだ。
こんないつ終わるかもわからない、最終目的のはっきりしてない擦り減るだけの毎日に、ゼシカを巻き込みたくない。
「うん・・・わかった、待ってる」
スカートのすそを握り締め、寂しさを堪えながらも、真っすぐ顔を上げて答えてくれるゼシカ。
いじらしいその姿に、オレの方が離れがたい気持ちになった。
104:『月を照らす光』2/6 ◆JbyYzEg8Is
06/02/15 00:38:27 PXsnPTUx0
人間て贅沢なものだと、つくづく思う。
つい数時間前まで片思いだと思ってて、ククールも私を好きでいてくれてるとわかっただけで幸せなはずだったのに、また離れ離れにならなきゃいけないと言われて、思いっきり沈み込んでしまった。
「ゼシカ、デートしようぜ。今日一日はゼシカの好きなことに付き合うからさ。何でも言う事きくよ」
なのに、泣きそうな気分はククールのその一言で一瞬にして吹き飛んだ。
我ながら本当に単純にできてると思う。
今の私の望みはたった一つ。一緒にいられれば、それだけでいい。
そう伝えるとククールはルーラでベルガラックにとび、カフェでテイクアウトのお弁当と飲み物を買って、今度はトロデーン城へと移動した。
だけど目的地はお城じゃなくて、少し歩いたところにある湖。あまり大きくはないんだけど、底が見えるほど水が澄んでいる、とても綺麗なところ。
暖かい陽差し中で、柔らかい草花の匂い嗅ぎ、風に揺れる水音を聞く。
三カ月も会わずにいて、言いたいことも訊きたいこともたくさんあったはずなのに、話をするのはもったいないような気までしてしまう。
ただ手をつないだまま地面に寝そべって、ゆっくりと時間を過ごした。
それだけで、泣きたくなるほど幸せだった。
陽が沈みだし、辺りが茜色に染まると、呪いから解けて暗雲が消えたトロデーンの城はオレンジの背景の中で夢のように美しいシルエットを映し出す。まるで絵画の中にいるような錯覚さえおこしてしまう。
そして空の青と夕日の赤が交じり合い、紫色に染まった空は徐々に赤を失っていき、代わりに星たちの煌めきへと変わっていく。
・・・夜になってしまった。
「さすがに夜になると冷えるな。・・・行こうか」
ククールのその言葉は、今の私には刑の執行のように聞こえてしまう。
「イヤ。まだ今日は終わってないもの。私のいうこと、何でもきいてくれるって言ったわ。お願い・・・せめて朝まで、一緒にいたい・・・」
手も声も震えてしまう。ククールは少し驚いたような顔をして私を見ている。
心臓が爆発しそうだけど、このまま離れてしまうのは絶対イヤ。
「・・・意味、わかって言ってるんだよな?」
私だって子供じゃない。意味はもちろんわかってる。でもとても言葉にはできなくて、ただ黙って頷くしかできなかった。
105:『月を照らす光』3/6 ◆JbyYzEg8Is
06/02/15 00:40:47 PXsnPTUx0
正直、少し驚いた。
まあ自然な流れではあるんだけど、まさかゼシカの口から、あんな言葉を聞けるとは思ってなかった。
でも完全に心の準備はできてないんだろうな。その証拠に、バスルームに入ったきり全然出てこない。先に風呂を使ったオレの髪が、もうほとんど乾くほどの時間だ。
急かさずに待つつもりでいたが、ノボせてるか湯冷めしてるかのどっちかだろうから、ドア越しに声をかけてみる。
「ゼシカ、大丈夫か? いつまでもそんなとこにいると身体壊すぞ」
「ま、待って。今出るから」
ひっくりかえったような声が返ってくる。少なくとも溺れてはいないらしい。
少しして、バスローブに身をつつんだゼシカが出てきた。ガッチガチに堅くなってるのがわかる。普段あれだけ露出度の高い格好してるくせに、こういうところがアンバランスだよな。
「長湯したから、喉渇いたろ? そんなとこに突っ立ってないで、こっち来て座れよ」
できる限り、いつもと変わらない調子で声をかけ、ゼシカの手をとりソファに座らせる。グラスにワインを注いで差し出すが、受け取ろうとする手が震えてて、どうにも危なっかしい。
「・・・怖いんなら無理しなくていいんだぞ。そんなことしなくても、今夜はちゃんとそばにいるから。またオディロ院長作のダジャレでも聞かせてやろうか? 未公開のがまだまだあるぜ」
「やだ、やめてよ。あの時は笑い過ぎてお腹痛くなったんだから」
ようやく少し笑ってくれた。ワインをゆっくりと飲み始めてる。
ふと、ゼシカの髪がかなり濡れた状態なのに気づく。バスローブの肩の辺りに、水が落ちて滲んでいる。
「髪の毛、濡れたままだと風邪ひくぞ」
タオルで頭を拭いてやる。今夜はありったけの理性を総動員して、優しく紳士でいよう。今までさせてきた分と、これからしばらくの間させる寂しい思いを、少しでも埋め合わせしたい。
その時は確かに本気でそう思ったんだ。
でも、突然ゼシカがオレの胸に飛びこんで、自分の身体を押し付けてきた。
「私・・・子供じゃないわ」
ありったけ総動員したところで、オレの理性の総量なんてタカがしれてた。
だけど、これで紳士でいられるヤツがいるわけない。もしいたとしたら、そいつは紳士を通り越して男じゃない。
せめてもう一つの方、優しくすることだけは忘れずにいようと、自分に言い聞かせた。
106:『月を照らす光』4/6 ◆JbyYzEg8Is
06/02/15 00:45:47 PXsnPTUx0
頬に手を添えられて顔を上に向けられる。
「本当にいいのか? これ以上先にいったら、もう止まらないぞ」
本当は逃げ出したいくらい怖い。心臓が止まりそう。でも朝になったらまた一緒にいられなくなる。このまま離れたら、絶対に後悔する。
「・・・抱いて」
言い終わると同時に、唇がふさがれた。昼間のような優しいキスじゃなくて、食べられてしまうんじゃないかと思うほどの激しさ。
息が苦しくなるほどの時間それが続いて、ようやく解放されると同時に抱き上げられてベッドへと運ばれ、バスローブの紐が解かれた。
もう私はされるがままになるしかない。
「あ、あの・・・私、初めてだから・・・」
蚊が鳴くようなかすれ声しか出ない。
「わかってる。全部まかせてくれればいい。力抜いて、楽にして」
もう頭の中グチャグチャで、何も考えられない。
ただ時々『大丈夫か?』と問いかけてくるククールの言葉に何のことがわからないままに『大丈夫』と答えるだけ。
怖さも、痛さも、恥ずかしさも、息苦しさも、なにもかもが今まで知らなかった感覚ばかりで、泣きたくなる。
ククールはすごく優しくて、ずっと気遣ってくれて。そのことは嬉しいはずなのにその一方で、私はこんなに緊張してるのに、余裕たっぷりな態度が、にくらしくさえなってしまう。
だけど、ふれあってる肌のぬくもりだけは本当に温かくて。それを感じてる間は、不思議なくらい安らいだ気持ちになれて。
ずっとこのままでいたいと、そう願ってしまった。
だから、全て終わって気が緩んだ時、思わず口走ってしまった。
「離れたくない・・・ずっと一緒にいたい」
困らせるだけだとわかってる。でもどうしても我慢できなくて、涙が溢れてしまう。
ククールは一瞬、辛そうな顔になって、その後すぐに強く抱き締めてくれた。
ヤキモキしたこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、幸せだったことも寂しさも、全然何も整理ができてなくて、自分でも信じられないくらい大声で、小さな子供のように泣きじゃくってしまった。
でもようやく我慢してた言葉を吐き出せて、気持ちはずっと楽になっていった。
107:『月を照らす光』5/6 ◆JbyYzEg8Is
06/02/15 00:50:26 PXsnPTUx0
可哀想なことしてるんだと、つくづく思う。ゼシカにしてみたら、オレが想いを打ち明けたことも、すぐに一緒にいられないことも、突然に押し付けられたことだ。感情の整理がつかなくて当たり前だ。
なのにそれでも、ずっと一緒にいるとは言ってやれない。本当にオレは、どこか感情が欠落してるとしか思えない。
「ごめんね、わがまま言って。泣いたら、なんかちょっとスッキリした」
少しして顔を上げたゼシカの声には、確かにいつもの調子が戻ってきていた。この立ち直りの早さには随分救われる。
オレはテーブルにワインとグラスを取りにいく。
「喉かわいたろ? ゼシカの声ってかわいいよな。何度も抑えが効かなくなりそうになった」
途端にゼシカはうろたえる。
「な、何て言い方するのよ、バカ! どうしてそうやって、いっつも私をからかうの?」
「ムキになるのが可愛いから」
「何よ、意地悪」
そう言ってスネた感じで顔を背けたゼシカは窓の外を見て、こう続けた。
「ククールって、月に似てるよね」
突拍子もないことを言われるのは毎度のことだが、今度は何を思ったんだろう。つられてオレも窓の外を見上げる。
旅の間は不思議と満月ばかりが目についたけど、今日は弓の形に良く似た三日月だった。
「欠けたり満ちたりする気まぐれな所がそっくりよ。さっきまで優しかったと思ったら、急に意地悪になるんだから」
毒舌まで戻ってきた。相変わらず的確にツボを突いた辛辣さだ。
「でもどんな形でもキレイよね。気まぐれでも、いつでも好き。だからあんまり意地悪しないでね。それでも嫌いになれないから、よけいくやしいのよ」
いつでも真っすぐなゼシカは、愛情表現も本当にストレートだ。真っ正面からぶつかってくる。
オレはいつも自分には何かが欠けてると思ってた。強い感情が苦手で、愛情も憎しみも、自分自身で持つことも受け入れることも出来ずにいた。
・・・そうだな。もしオレがゼシカの言ってくれた通り、月に似てるとしたら・・・。
雲に隠れて、光が当たってなかっただけなのかもしれない。
もしゼシカのように真っすぐ正面から、光りを当ててくれる人がそばにいてくれるのなら・・・。
案外そこには、どこも欠けていない自分、なんてものを見つけることが出来るのかもしれないな。
108:『月を照らす光』6/6 ◆JbyYzEg8Is
06/02/15 00:58:38 PXsnPTUx0
ドアの閉まる音で目を覚ます。一瞬、ククールがどこかに行ってしまったんじゃないかと慌てて飛び起きるけど逆だった。
ククールはもう完璧に身支度を整えていて、どこかに行って帰ってきたところだった。
「ごめん、起こしちまったか。服買いに行ってたんだ。昨夜調子に乗りすぎて、ちょっといつもの格好じゃマズいから」
まだちょっと寝ぼけてる私は、言われたままにククールから渡された袋を受けとり、バスルームに移動する。
ククールが買ってきたという服は、私がリーザス村にいた時の普段着のような、窮屈そうな白のブラウスだった。私が動きにくい服は好きじゃないって知ってるのに、どうしてなんだろう。でも、せっかくわざわざ買いに行ってくれたんだから、一応着るけど。
そして、バスローブを脱いで鏡を見て気がついた。首の回りとか胸元が、虫さされみたいに赤くなってることに。
・・・もしかして、これって話だけ聞いたことがある・・・。さっきククールが言ってた『調子にのりすぎた』って
お母さんに見られでもしたら、どうなると思ってんの? しばらくこんな窮屈な服着てなきゃなんないじゃないの。先まで見通してるような顔して、こういうところで考え無しなんだから!
リーザス村の入り口まで、ククールがルーラで送ってくれた。
またしばらく離れ離れだけど、三カ月前とは違う。あんなに悲しい別れじゃない。
「・・・ほんと、ごめん。寂しい思いさせる」
「いいのよ。それより無理しないでね。私、ちゃんと待ってるから」
「ああ・・・じゃあ、また」
ククールが意識を集中してルーラの呪文を唱える。
・・・と、思ったのに、呪文は中断され、ククールはいきなり私の肩をつかんだ。
「一カ月だ。それ以上は待たせない。っていうか、オレの方が我慢できない。一カ月後の今日、必ずここに来るから、それまでの間だけ待っててくれ」
そして、そのまま私の返事も聞かずにルーラでとんでいってしまった。
・・・ククールって、あんなに慌ただしい人だったっけ?
何か本当に、忙しく変わる人だから、今だに掴みきれないわ。
でも約束してくれた。一ヶ月だけ待てばいいって。
一緒にいられないのが寂しいのは私だけじゃなかったんだって。
そう言ってくれたのと同じなのよね、きっと。
<終>
109:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/15 07:41:30 1SQhuWSO0
お疲れ様でした!(・∀・)
ちょっとどきどきしますた。
110:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/15 20:26:00 QQTj1jVO0
乙です!微エロもたまにはいいですね(´Д`*)
111:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/15 21:07:59 8/WMaOgc0
ハァハァ(´Д`;)ハァハァありがとうありがとう
112:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/16 12:16:46 qjQu7npe0
わあああああああああ(萌・悶
これ微エロ?エロとの境界線、よくわからないけど。
妹扱いされて傷付いてたゼシカならではの台詞ですね>私、子供じゃないわ
一ヶ月後も、書いてくれるんだよね?Jbyさん!!
113:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/16 19:31:25 Fo9So+It0
いつも応援してくれて、ありがとうございます。
微エロ認定してもらえて、ホッとしました。どこまでOKなのか、ほんとにわからなかったんでw
えーと、これの一ヶ月後の話が前スレで書いた『味方』なんです。
(まとめサイトで見てみたら五ヶ月も前だったw こんな書き方が出来るのも、まとめ人さんのおかげです。しつこいようだけど、ありがとう)
なので、次は更にその三ヶ月後の話を書かせてもらいます。その時もよろしくお願いします。
114:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/17 08:17:26 kir13iYl0
( ´ー`)フゥー...
115:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/17 12:07:15 imczPmsE0
参考までに…
某過去スレでの「このスレで性描写はどこまでOKか」談義を一部転載
292 :名前が無い@ただの名無しのようだ :05/03/15 22:37:10 ID:y3Re5NPn
性描写を飛ばして次シーンへワープ
やっちゃったことだけを前後の文章で匂わせる>15禁
性描写あり・性器の名称はぼかす>18禁
バリバリの性描写ありで放送禁止用語垂れ流し>21禁
…だそうです。
ここは全年齢板なのでせいぜい15禁(=朝チュン程度)まで。
◆JbyYzEg8Is さんのssはOKだと思いますよ。
116:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/17 22:26:17 9kzpoxotO
突然お邪魔します。
いつもは別のところで書いているのですが(こちらも読ませていただいてます)
ククゼシ要素が強くなりすぎてしまったのでこちらに投下させていただきたいのです。
以上の事情から、ククゼシ以外に主姫要素も含んでいます。
ご注意ください。
117:手綱 ◆JSHQKXZ7pE
06/02/17 22:27:57 9kzpoxotO
外は嫌味なまでにいい天気。
「ゼシカ、出ていらっしゃい。今日の主役がそれでは皆困ってしまいますよ」
閉ざした扉の向こうからお母さんの声が聞こえる。でもそんなこと知らないわ。だってもう、
行かないって決めたんだもの。
「ゼシカお嬢様、どうかお部屋に入れてくださいまし。お仕度させてくださいまし」
メイドたちの声もするけど、知らんふり。行かないんだから仕度する必要なんてないんですも
の。
がっちり閉ざした扉に私の決意の強さを分かってくれたのか、漸く静かになってくれた。けど
今度は外の方の物音が気になりだす。誰かこの村に着いたのかも。あの声はポルクとマルクか
しら?え?
「ゼシカお姉ちゃんが出てこない」
ですって?嫌だわ、そんなこと大きな声で言わないでよ。
玄関が開く音がする。階段を昇ってくる足音は二つ。軽やかで華奢なものとちょっと重い、しっ
かりしたもの。お母さんと何か話し合っているみたい。でも部屋からは一歩だって動かないわ。
「ゼシカ、あなたにお客様よ。出てこなくてもいいから、ご挨拶はなさい」
お母さんが静かに、でもきっぱりと言う。…仕方ないわ、お客様なら。自分の口から事情を話
して帰っていただかないと。
そう考えて閂を上げ─連れ出されそうになったらすぐ呪文を唱えて逃げる心積もりをして─扉
を開けた。
「ゼシカ、久しぶりだね」
「ゼシカさん、こんにちは。まあ、綺麗なドレス!」
エイトとミーティア姫様だった。二人ともにこにこしつつも有無を言わせず部屋に入ってくる。
「二人とも久しぶりね…ってどうしてここに?」
唖然としている私に二人は顔を見合わせ、エイトが口を開いた。
「あれ?だってそういう予定だったんじゃないの?」
「ええ。約束の物、持ってきたのよ」
隣でミーティア姫様がにっこりする。ああ、そう言えばそうだったっけ。
「トロデーンに伝わる装身具のセットよ。『何か借りた物』の」
「ああ、そうよね、そうだったわよね。どうもありがとう。…でももういいの」
持ってきてくれたことは嬉しかったんだけど、でももうそれは必要ない。私は二人の前を離れ、
部屋の奥の鏡台の前へ移動した。
118:手綱 ◆JSHQKXZ7pE
06/02/17 22:29:22 9kzpoxotO
「え?何で?」
エイトがとぼけた声を出す。ああもう、ニブいんだから!準備の済んでいないこの様子を見れ
ば分かるでしょう!
「もう行かないって決めたの」
「え。だってみんな集まって集まっているよ。義父上は代父だっていうんでやけに張り切って
いるし。ほら、ヤンガスなんてばっちり礼装しているんだよ」
「…」
ぷい、とそっぽを向く。何でそんな子供を宥めるようなこと言うのよ。それにヤンガスの礼装
なんてエイトの結婚式の時に見ているわ。
「ゼシカさん」
と、急に横で黙ってやり取りを聞いていた姫様が話し掛けてきた。
「行きたくないのならここでおしゃべりでもしませんか?」
予想外の言葉に私もだけどエイトも眼を剥いた。
「ミーティア」
「エイトは先に行っていて。女同士の会話なんですもの」
「…うん、分かった」
姫様のきっぱりとした態度にエイトは渋々頷いて部屋を出て行く。が、その後姫様が扉に鍵を
かけたのに気付いた。
「え?」
「さっ、これでゆっくり話せるわ」
にこにこしながら言うんだけど、何だか怖いわ。
「ゆっくり?だってもうお客様も揃っていて、式が始まるんでしょ?」
「あら、主役の一人がいないのでは式は始められないわ」
あれ、連れ出しに来たんじゃないの?
「女の方のお仕度は時間が掛かるものなんですもの。皆様もそれは分かっていてよ。だって一
生に一度のことなんですもの」
「一生に一度、ね…」
その言葉に深く溜息を吐いた。
「そのつもりだったんだけどね…」
「あら、そうでしたの?てっきりまだ心を決めかねているのでは、と思っていましたのに」
何て言うか…似たもの夫婦よね、エイトとミーティア姫様って。きょとんとした顔がそっくり
だわ。
119:手綱 ◆JSHQKXZ7pE
06/02/17 22:30:49 9kzpoxotO
「私も決心していたし、あいつもそうだったと思うのよ。少なくとも早くこの村に馴染むため、
ってことで式の大分前にここに来た当初は」
首を傾げるばかりで姫様は何も言わない。仕方がないから何となく場つなぎ程度にぽつぽつと
話し出す。
「でも…」
「でも?」
何だか話しているうちに怒りが戻ってきたわ。
「あいつったら村の女の人を片っ端から口説いているのよ。お年寄りから子供まで。昨日なん
て宿屋のおばちゃんに『あなたの向日葵のような笑顔を見ると一日頑張ろうという気持ちにな
れる』なんて言っていたの!」
あ、もう駄目。腹の底から怒りがふつふつと煮えたぎってきたわ。
「それにお母様だって!『お二人も子供をお産みになられたとは思えない程若々しくていらっ
しゃる』とか口説いているし!それってどこのメロドラマよ、そんな泥沼真っ平だわ!」
私の剣幕に驚いて何も言えずにいたミーティア姫様だったけど、急に吹き出した。
「何よ、姫様。笑い事じゃないわ」
「ご、ごめんなさい。あ、あまりにゼシカさんがヤキモチ焼きだから…」
ぷるぷると身を震わせて笑いを堪えている。そんなに笑うことじゃないわ、それにヤキモチ焼
きって。
「そんなんじゃないわ。分かってはいたけど、そんな女ったらしとは一生を誓えないわよ。だ
から」
「だから式に出ない、ってことなのね」
漸く笑いを収めて言った言葉に深く頷いた。
「お客様には申し訳ないんだけど、この式はなかったことに…」
「あら、それは駄目よ」
にこやかに、でもきっぱりと遮られる。
「自分の気持ちに嘘吐いては駄目」
「う、嘘じゃないわ」
「うふふ、ではどうしてドレスを着ているの?」
びしっと突っ込まれ、返す言葉に詰まる。
「これは、その」
しどろもどろの私にそれ以上の追求はなく、話題が変わった。
120:手綱 ◆JSHQKXZ7pE
06/02/17 22:32:26 9kzpoxotO
「ゼシカさん…リーザス村っていいところね」
「え?あ、そ、そうね」
突然のことに我ながら間抜けな相槌を打つ。何が言いたいのかしら。まあいい村だと言われる
と嬉しいけど。自分の故郷なんだし。
「世界中を旅して、色んな街や村を見てきたけれど、ここは本当に穏やかないい村だと思うわ」
私は黙って頷いた。旅が終わってこの村に帰ってきた時、どんなに嬉しかったか、ほっとした
か、今も覚えている。家に帰るって素敵なことだった。
なんてことを思っていたから、次の言葉は唐突に聞こえた。
「だからこそ、一生懸命なのではないかしら」
「え?」
「この静かな村に馴染もうとしていたのではないかしら、あの方なりに」
と、姫様が私の眼を覗き込んでくる。
「だ、だって、だからって何で片っ端から口説かなきゃならないの。別にそんなことしなくたっ
てこの村の人たちはみんないい人よ。ちゃんと受け入れてくれるわ」
必死に反論を試みる。が、
「そうね…この村で生まれて育っていらしたゼシカさんはそう思うかもしれない…」
と軽く流されてしまった。その上、
「ね、ゼシカさん。エイトの子供の頃の話って聞いたことあるかしら?」
また話を変えられた。
「えっと…愛想のない、痩せこけた子供だった、って話?」
「そう。城に来た当初はそうだったの。愛想がないだけじゃなくて、感情も表に出せなかった
の。だから中々馴染めなくて、疑われたり疎まれたこともあったって言っていたわ」
そんなこともあったのね。今のエイトからは全く想像できないけど。
「あの頃、もうちょっと愛嬌のある子供だったら、ってエイトは言うの。もう少し楽に城の生
活に溶け込めたんじゃないか、って」
「…それと同じことをしているってこと?」
何だか話の筋が見えてきたわ。
「ええ」
「だからって何で美辞麗句の大安売りになるの。それも女の人にばかり」
「あら、女の人の噂話の威力って強いのよ。それに一度嫌われてしまったら挽回するのは大変
だわ」
「そうなのかしら…」