【みわくの眼差し】ククール×ゼシカ 5【愛のムチ】at FF
【みわくの眼差し】ククール×ゼシカ 5【愛のムチ】 - 暇つぶし2ch100:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/14 17:02:43 knFN74Vh0
女性がプレゼントするのは日本くらいとか。
クックルがチョコあげればいいじゃなーい。100

101:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/14 19:35:04 CBkr5wOG0
age

102:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/15 00:34:21 PXsnPTUx0
また投下しに来ました。
バレンタインネタ(日付変わったけど)じゃなくて、すみません。
今回は前後編じゃなくて、1レスごとに語り手交代するので、少し読みにくいかも。
あと、ちょっぴりエロいかも。
15禁以上18禁未満というとこかな?(実は基準がよくわかってませんw)
苦手な方はスルーでお願いします。

103:『月を照らす光』1/6 ◆JbyYzEg8Is
06/02/15 00:36:32 PXsnPTUx0
「ごめんゼシカ。本当はこういう時、もう離れないって言わなくちゃいけないんだろうけど、すぐにそうする訳にはいかないんだ。空が赤くなったことと、ゴルドが崩壊したせいで、マイエラ修道院に巡礼に来る人間が増えてる。
当然ドニの町にも人が多く来るんだけど、あそこの教会はシスター一人しかいないから、オレが手伝わないとちょっと大変なんだ。しばらく寂しい思いさせるけど、わかってほしい」
悲しげに曇るゼシカの顔を見るのは、胸が痛む。
「一段落着いたら、必ずリーザス村へ行く。だからそれまでゼシカには待っててほしい」
三カ月も待たせておいて、ようやく想いを伝えた直後にまた待てなんて、我ながらひどいとは思う。でも先延ばしにすれば、余計に失望を大きくさせるだけだ。
暗黒神ラプソーンのせいで起こった異変は、世界中のほとんどの人間を恐怖に陥れた。
なのに、ラプソーンがもたらす破滅に関してはもう心配いらないと、証明する術が無い。
結果、人は神にすがろうとする。サヴェッラ大聖堂と同じように、マイエラ修道院にも救いを求めた人間が集まってくる。道中には、闇の世界やラプソーンの空飛ぶ城から来た、普通の人間には歯が立たない、凶悪な魔物が待ち構えていることも知らずに。
それは何も、マイエラ地方だけの問題じゃないのはわかってる。
でもやっぱりあそこは、オレにとって特別な場所だ。親代わりになって育ててくれた、オディロ院長が治めていた修道院。自分勝手なことばかりしてたオレを、仕方ないというような顔をしながら、笑って受け入れてくれてた人たちのいるドニの町。
どうしても、この手で守りたい。ラプソーンのせいで現れるようになった魔物だけは、どうにかして根絶やしにしたいんだ。
「できるだけ早く、ゼシカの所に行けるようにする。・・・今は、それしか言えない」
この期に及んで隠し事をしてると思うと、罪悪感でいっぱいになる。
だけど全てを話せば、ゼシカもオレと一緒に戦おうとするだろう。それは絶対にいやだ。
こんないつ終わるかもわからない、最終目的のはっきりしてない擦り減るだけの毎日に、ゼシカを巻き込みたくない。
「うん・・・わかった、待ってる」
スカートのすそを握り締め、寂しさを堪えながらも、真っすぐ顔を上げて答えてくれるゼシカ。
いじらしいその姿に、オレの方が離れがたい気持ちになった。

104:『月を照らす光』2/6 ◆JbyYzEg8Is
06/02/15 00:38:27 PXsnPTUx0
人間て贅沢なものだと、つくづく思う。
つい数時間前まで片思いだと思ってて、ククールも私を好きでいてくれてるとわかっただけで幸せなはずだったのに、また離れ離れにならなきゃいけないと言われて、思いっきり沈み込んでしまった。
「ゼシカ、デートしようぜ。今日一日はゼシカの好きなことに付き合うからさ。何でも言う事きくよ」
なのに、泣きそうな気分はククールのその一言で一瞬にして吹き飛んだ。
我ながら本当に単純にできてると思う。

今の私の望みはたった一つ。一緒にいられれば、それだけでいい。
そう伝えるとククールはルーラでベルガラックにとび、カフェでテイクアウトのお弁当と飲み物を買って、今度はトロデーン城へと移動した。
だけど目的地はお城じゃなくて、少し歩いたところにある湖。あまり大きくはないんだけど、底が見えるほど水が澄んでいる、とても綺麗なところ。
暖かい陽差し中で、柔らかい草花の匂い嗅ぎ、風に揺れる水音を聞く。
三カ月も会わずにいて、言いたいことも訊きたいこともたくさんあったはずなのに、話をするのはもったいないような気までしてしまう。
ただ手をつないだまま地面に寝そべって、ゆっくりと時間を過ごした。
それだけで、泣きたくなるほど幸せだった。

陽が沈みだし、辺りが茜色に染まると、呪いから解けて暗雲が消えたトロデーンの城はオレンジの背景の中で夢のように美しいシルエットを映し出す。まるで絵画の中にいるような錯覚さえおこしてしまう。
そして空の青と夕日の赤が交じり合い、紫色に染まった空は徐々に赤を失っていき、代わりに星たちの煌めきへと変わっていく。
・・・夜になってしまった。
「さすがに夜になると冷えるな。・・・行こうか」
ククールのその言葉は、今の私には刑の執行のように聞こえてしまう。
「イヤ。まだ今日は終わってないもの。私のいうこと、何でもきいてくれるって言ったわ。お願い・・・せめて朝まで、一緒にいたい・・・」
手も声も震えてしまう。ククールは少し驚いたような顔をして私を見ている。
心臓が爆発しそうだけど、このまま離れてしまうのは絶対イヤ。
「・・・意味、わかって言ってるんだよな?」
私だって子供じゃない。意味はもちろんわかってる。でもとても言葉にはできなくて、ただ黙って頷くしかできなかった。


105:『月を照らす光』3/6 ◆JbyYzEg8Is
06/02/15 00:40:47 PXsnPTUx0
正直、少し驚いた。
まあ自然な流れではあるんだけど、まさかゼシカの口から、あんな言葉を聞けるとは思ってなかった。
でも完全に心の準備はできてないんだろうな。その証拠に、バスルームに入ったきり全然出てこない。先に風呂を使ったオレの髪が、もうほとんど乾くほどの時間だ。
急かさずに待つつもりでいたが、ノボせてるか湯冷めしてるかのどっちかだろうから、ドア越しに声をかけてみる。
「ゼシカ、大丈夫か? いつまでもそんなとこにいると身体壊すぞ」
「ま、待って。今出るから」
ひっくりかえったような声が返ってくる。少なくとも溺れてはいないらしい。
少しして、バスローブに身をつつんだゼシカが出てきた。ガッチガチに堅くなってるのがわかる。普段あれだけ露出度の高い格好してるくせに、こういうところがアンバランスだよな。
「長湯したから、喉渇いたろ? そんなとこに突っ立ってないで、こっち来て座れよ」
できる限り、いつもと変わらない調子で声をかけ、ゼシカの手をとりソファに座らせる。グラスにワインを注いで差し出すが、受け取ろうとする手が震えてて、どうにも危なっかしい。
「・・・怖いんなら無理しなくていいんだぞ。そんなことしなくても、今夜はちゃんとそばにいるから。またオディロ院長作のダジャレでも聞かせてやろうか? 未公開のがまだまだあるぜ」
「やだ、やめてよ。あの時は笑い過ぎてお腹痛くなったんだから」
ようやく少し笑ってくれた。ワインをゆっくりと飲み始めてる。
ふと、ゼシカの髪がかなり濡れた状態なのに気づく。バスローブの肩の辺りに、水が落ちて滲んでいる。
「髪の毛、濡れたままだと風邪ひくぞ」
タオルで頭を拭いてやる。今夜はありったけの理性を総動員して、優しく紳士でいよう。今までさせてきた分と、これからしばらくの間させる寂しい思いを、少しでも埋め合わせしたい。
その時は確かに本気でそう思ったんだ。
でも、突然ゼシカがオレの胸に飛びこんで、自分の身体を押し付けてきた。
「私・・・子供じゃないわ」
ありったけ総動員したところで、オレの理性の総量なんてタカがしれてた。
だけど、これで紳士でいられるヤツがいるわけない。もしいたとしたら、そいつは紳士を通り越して男じゃない。
せめてもう一つの方、優しくすることだけは忘れずにいようと、自分に言い聞かせた。


106:『月を照らす光』4/6 ◆JbyYzEg8Is
06/02/15 00:45:47 PXsnPTUx0
頬に手を添えられて顔を上に向けられる。
「本当にいいのか? これ以上先にいったら、もう止まらないぞ」
本当は逃げ出したいくらい怖い。心臓が止まりそう。でも朝になったらまた一緒にいられなくなる。このまま離れたら、絶対に後悔する。
「・・・抱いて」
言い終わると同時に、唇がふさがれた。昼間のような優しいキスじゃなくて、食べられてしまうんじゃないかと思うほどの激しさ。
息が苦しくなるほどの時間それが続いて、ようやく解放されると同時に抱き上げられてベッドへと運ばれ、バスローブの紐が解かれた。
もう私はされるがままになるしかない。
「あ、あの・・・私、初めてだから・・・」
蚊が鳴くようなかすれ声しか出ない。
「わかってる。全部まかせてくれればいい。力抜いて、楽にして」
もう頭の中グチャグチャで、何も考えられない。
ただ時々『大丈夫か?』と問いかけてくるククールの言葉に何のことがわからないままに『大丈夫』と答えるだけ。
怖さも、痛さも、恥ずかしさも、息苦しさも、なにもかもが今まで知らなかった感覚ばかりで、泣きたくなる。
ククールはすごく優しくて、ずっと気遣ってくれて。そのことは嬉しいはずなのにその一方で、私はこんなに緊張してるのに、余裕たっぷりな態度が、にくらしくさえなってしまう。
だけど、ふれあってる肌のぬくもりだけは本当に温かくて。それを感じてる間は、不思議なくらい安らいだ気持ちになれて。
ずっとこのままでいたいと、そう願ってしまった。
だから、全て終わって気が緩んだ時、思わず口走ってしまった。
「離れたくない・・・ずっと一緒にいたい」
困らせるだけだとわかってる。でもどうしても我慢できなくて、涙が溢れてしまう。
ククールは一瞬、辛そうな顔になって、その後すぐに強く抱き締めてくれた。
ヤキモキしたこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、幸せだったことも寂しさも、全然何も整理ができてなくて、自分でも信じられないくらい大声で、小さな子供のように泣きじゃくってしまった。
でもようやく我慢してた言葉を吐き出せて、気持ちはずっと楽になっていった。


107:『月を照らす光』5/6 ◆JbyYzEg8Is
06/02/15 00:50:26 PXsnPTUx0
可哀想なことしてるんだと、つくづく思う。ゼシカにしてみたら、オレが想いを打ち明けたことも、すぐに一緒にいられないことも、突然に押し付けられたことだ。感情の整理がつかなくて当たり前だ。
なのにそれでも、ずっと一緒にいるとは言ってやれない。本当にオレは、どこか感情が欠落してるとしか思えない。

「ごめんね、わがまま言って。泣いたら、なんかちょっとスッキリした」
少しして顔を上げたゼシカの声には、確かにいつもの調子が戻ってきていた。この立ち直りの早さには随分救われる。
オレはテーブルにワインとグラスを取りにいく。
「喉かわいたろ? ゼシカの声ってかわいいよな。何度も抑えが効かなくなりそうになった」
途端にゼシカはうろたえる。
「な、何て言い方するのよ、バカ! どうしてそうやって、いっつも私をからかうの?」
「ムキになるのが可愛いから」
「何よ、意地悪」
そう言ってスネた感じで顔を背けたゼシカは窓の外を見て、こう続けた。
「ククールって、月に似てるよね」
突拍子もないことを言われるのは毎度のことだが、今度は何を思ったんだろう。つられてオレも窓の外を見上げる。
旅の間は不思議と満月ばかりが目についたけど、今日は弓の形に良く似た三日月だった。
「欠けたり満ちたりする気まぐれな所がそっくりよ。さっきまで優しかったと思ったら、急に意地悪になるんだから」
毒舌まで戻ってきた。相変わらず的確にツボを突いた辛辣さだ。
「でもどんな形でもキレイよね。気まぐれでも、いつでも好き。だからあんまり意地悪しないでね。それでも嫌いになれないから、よけいくやしいのよ」
いつでも真っすぐなゼシカは、愛情表現も本当にストレートだ。真っ正面からぶつかってくる。
オレはいつも自分には何かが欠けてると思ってた。強い感情が苦手で、愛情も憎しみも、自分自身で持つことも受け入れることも出来ずにいた。
・・・そうだな。もしオレがゼシカの言ってくれた通り、月に似てるとしたら・・・。
雲に隠れて、光が当たってなかっただけなのかもしれない。
もしゼシカのように真っすぐ正面から、光りを当ててくれる人がそばにいてくれるのなら・・・。
案外そこには、どこも欠けていない自分、なんてものを見つけることが出来るのかもしれないな。


108:『月を照らす光』6/6 ◆JbyYzEg8Is
06/02/15 00:58:38 PXsnPTUx0
ドアの閉まる音で目を覚ます。一瞬、ククールがどこかに行ってしまったんじゃないかと慌てて飛び起きるけど逆だった。
ククールはもう完璧に身支度を整えていて、どこかに行って帰ってきたところだった。
「ごめん、起こしちまったか。服買いに行ってたんだ。昨夜調子に乗りすぎて、ちょっといつもの格好じゃマズいから」
まだちょっと寝ぼけてる私は、言われたままにククールから渡された袋を受けとり、バスルームに移動する。
ククールが買ってきたという服は、私がリーザス村にいた時の普段着のような、窮屈そうな白のブラウスだった。私が動きにくい服は好きじゃないって知ってるのに、どうしてなんだろう。でも、せっかくわざわざ買いに行ってくれたんだから、一応着るけど。
そして、バスローブを脱いで鏡を見て気がついた。首の回りとか胸元が、虫さされみたいに赤くなってることに。
・・・もしかして、これって話だけ聞いたことがある・・・。さっきククールが言ってた『調子にのりすぎた』って
お母さんに見られでもしたら、どうなると思ってんの? しばらくこんな窮屈な服着てなきゃなんないじゃないの。先まで見通してるような顔して、こういうところで考え無しなんだから!

リーザス村の入り口まで、ククールがルーラで送ってくれた。
またしばらく離れ離れだけど、三カ月前とは違う。あんなに悲しい別れじゃない。
「・・・ほんと、ごめん。寂しい思いさせる」
「いいのよ。それより無理しないでね。私、ちゃんと待ってるから」
「ああ・・・じゃあ、また」
ククールが意識を集中してルーラの呪文を唱える。
・・・と、思ったのに、呪文は中断され、ククールはいきなり私の肩をつかんだ。
「一カ月だ。それ以上は待たせない。っていうか、オレの方が我慢できない。一カ月後の今日、必ずここに来るから、それまでの間だけ待っててくれ」
そして、そのまま私の返事も聞かずにルーラでとんでいってしまった。
・・・ククールって、あんなに慌ただしい人だったっけ?
何か本当に、忙しく変わる人だから、今だに掴みきれないわ。
でも約束してくれた。一ヶ月だけ待てばいいって。
一緒にいられないのが寂しいのは私だけじゃなかったんだって。
そう言ってくれたのと同じなのよね、きっと。
<終>


109:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/15 07:41:30 1SQhuWSO0
お疲れ様でした!(・∀・)
ちょっとどきどきしますた。

110:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/15 20:26:00 QQTj1jVO0
乙です!微エロもたまにはいいですね(´Д`*)

111:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/15 21:07:59 8/WMaOgc0
ハァハァ(´Д`;)ハァハァありがとうありがとう

112:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/16 12:16:46 qjQu7npe0
わあああああああああ(萌・悶
これ微エロ?エロとの境界線、よくわからないけど。
妹扱いされて傷付いてたゼシカならではの台詞ですね>私、子供じゃないわ
一ヶ月後も、書いてくれるんだよね?Jbyさん!!

113:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/16 19:31:25 Fo9So+It0
いつも応援してくれて、ありがとうございます。
微エロ認定してもらえて、ホッとしました。どこまでOKなのか、ほんとにわからなかったんでw
えーと、これの一ヶ月後の話が前スレで書いた『味方』なんです。
(まとめサイトで見てみたら五ヶ月も前だったw こんな書き方が出来るのも、まとめ人さんのおかげです。しつこいようだけど、ありがとう)

なので、次は更にその三ヶ月後の話を書かせてもらいます。その時もよろしくお願いします。

114:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/17 08:17:26 kir13iYl0
( ´ー`)フゥー...

115:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/17 12:07:15 imczPmsE0
参考までに…

某過去スレでの「このスレで性描写はどこまでOKか」談義を一部転載

292 :名前が無い@ただの名無しのようだ :05/03/15 22:37:10 ID:y3Re5NPn
性描写を飛ばして次シーンへワープ
やっちゃったことだけを前後の文章で匂わせる>15禁

性描写あり・性器の名称はぼかす>18禁

バリバリの性描写ありで放送禁止用語垂れ流し>21禁

…だそうです。
ここは全年齢板なのでせいぜい15禁(=朝チュン程度)まで。
◆JbyYzEg8Is さんのssはOKだと思いますよ。

116:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/17 22:26:17 9kzpoxotO
突然お邪魔します。
いつもは別のところで書いているのですが(こちらも読ませていただいてます)
ククゼシ要素が強くなりすぎてしまったのでこちらに投下させていただきたいのです。

以上の事情から、ククゼシ以外に主姫要素も含んでいます。
ご注意ください。

117:手綱 ◆JSHQKXZ7pE
06/02/17 22:27:57 9kzpoxotO
外は嫌味なまでにいい天気。
「ゼシカ、出ていらっしゃい。今日の主役がそれでは皆困ってしまいますよ」
閉ざした扉の向こうからお母さんの声が聞こえる。でもそんなこと知らないわ。だってもう、
行かないって決めたんだもの。
「ゼシカお嬢様、どうかお部屋に入れてくださいまし。お仕度させてくださいまし」
メイドたちの声もするけど、知らんふり。行かないんだから仕度する必要なんてないんですも
の。
がっちり閉ざした扉に私の決意の強さを分かってくれたのか、漸く静かになってくれた。けど
今度は外の方の物音が気になりだす。誰かこの村に着いたのかも。あの声はポルクとマルクか
しら?え?
「ゼシカお姉ちゃんが出てこない」
ですって?嫌だわ、そんなこと大きな声で言わないでよ。
玄関が開く音がする。階段を昇ってくる足音は二つ。軽やかで華奢なものとちょっと重い、しっ
かりしたもの。お母さんと何か話し合っているみたい。でも部屋からは一歩だって動かないわ。
「ゼシカ、あなたにお客様よ。出てこなくてもいいから、ご挨拶はなさい」
お母さんが静かに、でもきっぱりと言う。…仕方ないわ、お客様なら。自分の口から事情を話
して帰っていただかないと。
そう考えて閂を上げ─連れ出されそうになったらすぐ呪文を唱えて逃げる心積もりをして─扉
を開けた。
「ゼシカ、久しぶりだね」
「ゼシカさん、こんにちは。まあ、綺麗なドレス!」
エイトとミーティア姫様だった。二人ともにこにこしつつも有無を言わせず部屋に入ってくる。
「二人とも久しぶりね…ってどうしてここに?」
唖然としている私に二人は顔を見合わせ、エイトが口を開いた。
「あれ?だってそういう予定だったんじゃないの?」
「ええ。約束の物、持ってきたのよ」
隣でミーティア姫様がにっこりする。ああ、そう言えばそうだったっけ。
「トロデーンに伝わる装身具のセットよ。『何か借りた物』の」
「ああ、そうよね、そうだったわよね。どうもありがとう。…でももういいの」
持ってきてくれたことは嬉しかったんだけど、でももうそれは必要ない。私は二人の前を離れ、
部屋の奥の鏡台の前へ移動した。

118:手綱 ◆JSHQKXZ7pE
06/02/17 22:29:22 9kzpoxotO
「え?何で?」
エイトがとぼけた声を出す。ああもう、ニブいんだから!準備の済んでいないこの様子を見れ
ば分かるでしょう!
「もう行かないって決めたの」
「え。だってみんな集まって集まっているよ。義父上は代父だっていうんでやけに張り切って
いるし。ほら、ヤンガスなんてばっちり礼装しているんだよ」
「…」
ぷい、とそっぽを向く。何でそんな子供を宥めるようなこと言うのよ。それにヤンガスの礼装
なんてエイトの結婚式の時に見ているわ。
「ゼシカさん」
と、急に横で黙ってやり取りを聞いていた姫様が話し掛けてきた。
「行きたくないのならここでおしゃべりでもしませんか?」
予想外の言葉に私もだけどエイトも眼を剥いた。
「ミーティア」
「エイトは先に行っていて。女同士の会話なんですもの」
「…うん、分かった」
姫様のきっぱりとした態度にエイトは渋々頷いて部屋を出て行く。が、その後姫様が扉に鍵を
かけたのに気付いた。
「え?」
「さっ、これでゆっくり話せるわ」
にこにこしながら言うんだけど、何だか怖いわ。
「ゆっくり?だってもうお客様も揃っていて、式が始まるんでしょ?」
「あら、主役の一人がいないのでは式は始められないわ」
あれ、連れ出しに来たんじゃないの?
「女の方のお仕度は時間が掛かるものなんですもの。皆様もそれは分かっていてよ。だって一
生に一度のことなんですもの」
「一生に一度、ね…」
その言葉に深く溜息を吐いた。
「そのつもりだったんだけどね…」
「あら、そうでしたの?てっきりまだ心を決めかねているのでは、と思っていましたのに」
何て言うか…似たもの夫婦よね、エイトとミーティア姫様って。きょとんとした顔がそっくり
だわ。

119:手綱 ◆JSHQKXZ7pE
06/02/17 22:30:49 9kzpoxotO
「私も決心していたし、あいつもそうだったと思うのよ。少なくとも早くこの村に馴染むため、
ってことで式の大分前にここに来た当初は」
首を傾げるばかりで姫様は何も言わない。仕方がないから何となく場つなぎ程度にぽつぽつと
話し出す。
「でも…」
「でも?」
何だか話しているうちに怒りが戻ってきたわ。
「あいつったら村の女の人を片っ端から口説いているのよ。お年寄りから子供まで。昨日なん
て宿屋のおばちゃんに『あなたの向日葵のような笑顔を見ると一日頑張ろうという気持ちにな
れる』なんて言っていたの!」
あ、もう駄目。腹の底から怒りがふつふつと煮えたぎってきたわ。
「それにお母様だって!『お二人も子供をお産みになられたとは思えない程若々しくていらっ
しゃる』とか口説いているし!それってどこのメロドラマよ、そんな泥沼真っ平だわ!」
私の剣幕に驚いて何も言えずにいたミーティア姫様だったけど、急に吹き出した。
「何よ、姫様。笑い事じゃないわ」
「ご、ごめんなさい。あ、あまりにゼシカさんがヤキモチ焼きだから…」
ぷるぷると身を震わせて笑いを堪えている。そんなに笑うことじゃないわ、それにヤキモチ焼
きって。
「そんなんじゃないわ。分かってはいたけど、そんな女ったらしとは一生を誓えないわよ。だ
から」
「だから式に出ない、ってことなのね」
漸く笑いを収めて言った言葉に深く頷いた。
「お客様には申し訳ないんだけど、この式はなかったことに…」
「あら、それは駄目よ」
にこやかに、でもきっぱりと遮られる。
「自分の気持ちに嘘吐いては駄目」
「う、嘘じゃないわ」
「うふふ、ではどうしてドレスを着ているの?」
びしっと突っ込まれ、返す言葉に詰まる。
「これは、その」
しどろもどろの私にそれ以上の追求はなく、話題が変わった。

120:手綱 ◆JSHQKXZ7pE
06/02/17 22:32:26 9kzpoxotO
「ゼシカさん…リーザス村っていいところね」
「え?あ、そ、そうね」
突然のことに我ながら間抜けな相槌を打つ。何が言いたいのかしら。まあいい村だと言われる
と嬉しいけど。自分の故郷なんだし。
「世界中を旅して、色んな街や村を見てきたけれど、ここは本当に穏やかないい村だと思うわ」
私は黙って頷いた。旅が終わってこの村に帰ってきた時、どんなに嬉しかったか、ほっとした
か、今も覚えている。家に帰るって素敵なことだった。
なんてことを思っていたから、次の言葉は唐突に聞こえた。
「だからこそ、一生懸命なのではないかしら」
「え?」
「この静かな村に馴染もうとしていたのではないかしら、あの方なりに」
と、姫様が私の眼を覗き込んでくる。
「だ、だって、だからって何で片っ端から口説かなきゃならないの。別にそんなことしなくたっ
てこの村の人たちはみんないい人よ。ちゃんと受け入れてくれるわ」
必死に反論を試みる。が、
「そうね…この村で生まれて育っていらしたゼシカさんはそう思うかもしれない…」
と軽く流されてしまった。その上、
「ね、ゼシカさん。エイトの子供の頃の話って聞いたことあるかしら?」
また話を変えられた。
「えっと…愛想のない、痩せこけた子供だった、って話?」
「そう。城に来た当初はそうだったの。愛想がないだけじゃなくて、感情も表に出せなかった
の。だから中々馴染めなくて、疑われたり疎まれたこともあったって言っていたわ」
そんなこともあったのね。今のエイトからは全く想像できないけど。
「あの頃、もうちょっと愛嬌のある子供だったら、ってエイトは言うの。もう少し楽に城の生
活に溶け込めたんじゃないか、って」
「…それと同じことをしているってこと?」
何だか話の筋が見えてきたわ。
「ええ」
「だからって何で美辞麗句の大安売りになるの。それも女の人にばかり」
「あら、女の人の噂話の威力って強いのよ。それに一度嫌われてしまったら挽回するのは大変
だわ」
「そうなのかしら…」

121:手綱 ◆JSHQKXZ7pE
06/02/17 22:34:26 9kzpoxotO
正直、そういう噂話って好きじゃなかったからよく分からない。でもそういうものなのかしら。
「それに女の人に人気のある方だって分かっていらしたでしょ?」
「まあ、それはそうなんだけど…」
肩を竦める私に、内緒話でもするようにミーティア姫様が語りかけてくる。
「あのね、お城ではエイトはとっても人気があるの」
「そうなの?」
それはそうかもしれない。だってあの城を救った英雄だもんね。
「エイトは皆に優しいのよ。時々メイドさんたちから贈り物を貰ったりしているの」
「ええっ、そんなことされて姫様は平気なの?!」
あの物固そうなエイトもそうだなんて。ああもう誰も信じられないわ!
「うふふ、平気、って言ったら嘘になるのかしら」
平気じゃないのならどうしてそんなに穏やかに微笑んでいられるの。私だったらちやほやされ
て鼻の下伸ばしているあいつを見たら即メラゾーマ、だと確信しているわ。
「平気ではないわ。心がちょっと波立つ感じ」
そう言って自分の胸に手を当てる。
「でも、優しくすることと愛することの間には大きな隔たりがあるわ。ゼシカさんは村の皆様
がお好きでしょう?」
優し気な問いかけに私は素直に頷いた。
「ええ。…そうね、皆大好きよ」
「ではその方々とあの方とは同じようにお好きなのかしら?」
一瞬息が詰まる。同じ?そうかしら?同じ言葉で括ってはいるけど。でも。
「…そうね」
自分の中に答えはあった。なぜあいつのことになるとむきになって怒ってしまうのか。
「そうだわ。違う、全然違うわ。他の人だったらこんなに腹が立ったりしない。だって…」
好きだから。それは言葉にできなかったけど、伝わったのだろう。私の眼を見返して深く頷い
た。
「それにね」
ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべて姫様が言う。
「人気があるって悪いことじゃないわ。それだけ好かれているってことですもの。いいことだ
と思いません?」
「うふふ、それもそうね」

122:手綱 ◆JSHQKXZ7pE
06/02/17 22:36:15 9kzpoxotO
「その分しっかり見張っておけばいいの。あのね、エイトは気を遣って贈り物を貰ったことは
話してくれないのよ。でもそのことはちゃんと知っているわ」
「ええっ、そうなの?!」
あのほんわかした雰囲気のミーティア姫様とは思えないような言葉。
「だってそうでしょう?変な方向に行ってしまったら困りますもの。人気者でいられるように、
でも決して手綱は離さない」
澄ました顔の姫様につい笑いが零れる。そっか、じゃ、今は姫様が手綱を握っているのね。
「エイトは多分このことを知らないわ。それにこういうことは男の方には知らせない方がいい
ように思うの」
「だから女同士、って言ったのね」
漸く納得した。そういうことだったのね。
「ええ。それにこれって結構楽しいのよ。人気のある男の方程楽しいのではないかしら。私は
エイト一人でもう充分ですけど」
これって惚気?どこか得意気に言われて何だかちょっと悔しい。
「素敵な方なのでしょう?」
「…ええ」
頷いた時、ふと対抗心に火が着いた。
「姫様のエイトより、ちょっと上かしら」
「まあ、うふふ」
「うふふ」
二人で顔を見合わせ、どちらともなく笑い出す。
「…さあ、お仕度しなくては」
           ※          ※          ※


123:手綱 ◆JSHQKXZ7pE
06/02/18 00:20:19 56o3VhNKO
外に出ると眩い光が目を射す。
「本当にいい天気」
教会まで姫様が一緒に行ってくれるという。お母様は一足先に出ているらしい。二人で並んで
歩いて行くと、だんだん晴れがましい気持ちになってきた。
「おーい」
向こうでエイトが手を振っている。その隣にはトロデ王様。
「行ってらっしゃい、ゼシカさん。一人で行く道より二人で行く方が数倍楽しいわ」
ちょっと足を竦ませた私に囁いてくれる。
「そうそう、この日の為にあの方も相応しい礼装を整えてきたのよ、錬金釜を使って。見てあ
げてね」
「えっ」
何だか嫌な予感。
「まさかダンシングメイルにファントムマスクじゃないでしょうね。そんな格好していたりし
たら逃げるわよ」
「うふふ、さあ、それは後のお楽しみよ」
…今更気付いたんだけど、姫様って人が悪いわ。
「先に入らせていただきますわね。楽しんでいらして、ゼシカさん。一生にたった一度きりの
ことなんですもの」
もう教会の扉の前まで来ていた。待っていたエイトとミーティア姫様は私に手を振ると先に中
へ入って行く。
「覚悟はよいかの?」
冗談めかして問いかけるトロデ王様に私は晴れやかに笑ってみせる。
「ええ、もちろんよ」
そう、扉の向こうには新しい世界が開けている。私とあの人、二人で行く世界が。
行きましょう、二人で。喜びも、悲しみも分け合うために。しっかりと手綱を握って、ね。
                      (終)


代父:婚礼、洗礼の時に父親代わりになる人。日本なら烏帽子親みたいなもの。


124:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/18 00:22:08 56o3VhNKO
変なところで切れてしまってすみません。
これで終わりです。では巣に戻ります。お邪魔しました。

125:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/18 13:36:51 jeyg/gSx0
?

126:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/18 13:53:07 amtHCZLu0
>>117>>123
いいなぁ・・・ゼシカがすんごい女の子ってかんじがする。
ダンシングメイルにファントムマスクワロスww

127:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/18 22:16:28 rEMM8vc70
ククゼシというより姫様の印象がすごい強かったけど面白かったw
姫様GJ!天然っぽく見せかけて実はしたたかな女って
世界最強の女だと私は思う。
柔和な笑顔の下の芯の強さがほの見えて
さすがは時期女王ですね。
(何となくハプスブルグ家のマリア・テレジアを思い出した)

JSHさん乙です!&GJです!

128:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/18 22:21:35 KePDd/Ie0
悪魔姫や・・‥(´Д`|||)

のびたの結婚前夜思い出しますた。GJ!!

129:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/18 22:29:11 vFQDLl210
向うのスレのお話もいつも読ませてもらってます。
負担にならないのであれば、これからこっちにも書いてくださいな。

130:124
06/02/19 17:23:55 gRz4ndggO
感想どうもありがとうございました。

構成の都合上ククールは名前すら出て来ないのに分かっていただけてありがたいです。
(ダンシングメイル~の台詞はその為に入れたものです。)

それにしてもゼシカの口調って難しいですね。
こちらで書いていらっしゃる皆さんを尊敬します。

131:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/21 15:53:23 zEkboR3j0
ククールがフィギュアスケーターだったら。

132:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/21 16:43:24 mc2YpWR20
魅惑のまなざしを放ちながら四回転トゥループを決め、会場の女性ファンを釘付けにw
ゼシカはスーパーG(アルペン)をがしがし滑っている感じ

133:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/21 21:42:58 GIpvY+5i0
間違っても開会前に変なラップを披露しないでね


134:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/22 07:30:33 s8Gzi8PIO
かう

135:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/23 14:40:57 k++TAjfBO
ペアで滑ってほしい妄想。

136:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/23 15:36:09 wGgYlV+i0
ゼシカは神秘のビスチェで是非。
危ないビスチェだと規定違反になるぞw
ククールはデフォ服かなあ。鎧系だとリフトした後危ないし。

137:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/24 23:18:39 BuX8Zi+V0
オンリー行く人ー

138:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/26 00:19:17 3tsblwMR0
ロンリーか……。

139:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/26 02:40:14 c5jdkW3wO
グローリーだ

140:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/26 09:53:15 cn81iWX00
>136
誰か絵板に描いてよ

141:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/26 22:21:36 7oDDAwlu0
つぎいってみよ~!

142:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/28 01:08:14 W34LO3Fm0
この二人はお互い相手を他人にどう説明するんだろう?

143:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/28 07:23:59 mdFbFKf90
>>142
意味がよく分からない。馴れ初め?相手の性格?

144:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/28 19:04:06 p/j185tX0
この二人の場合、初めの方と最後の方の互いの評価は全然違うだろうから、どの段階でのことかも重要だよね。

さて、去年の9月に投下した話の続き(しかもまた長いの)を投下させていただきます。

145:『祝福の瞳』1/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:05:36 p/j185tX0
「ゼシカはこのアルバート家の大切な跡取りです。その結婚相手には、この家を一緒に守っていけるしっかりした方を望むのは当然のこと。何度いらしても無駄です、お引き取りください」
ゼシカとの付き合いの許可を求めて、こうしてアルバート家に訪れるようになってから三カ月になる。
オレを嫌ってるアローザさんの神経を逆なでしないように、リーザス村には住まずにベルガラックのギャリング邸に住み込んで用心棒のマネごとをしてる。
ゼシカにはずっと寂しい思いをさせてたから、三日と開けずに会いに来るようにしてるけど、アローザさんはなかなか態度を緩めてはくれない。

「ごめんね、頭の固いお母さんで。本当にわからずやなんだから」
そして、こんな風に憤慨してるゼシカの頭を冷やすために、ポルトリンクとの間にある海辺を一緒に歩くのも、もう何十回目になるか。
「二言めには『アルバート家、アルバート家』って。お母さんは私自身よりも、アルバート家の方が大事なのよ。跡取りとしての私しか必要じゃないんだわ。もうたくさんよ」
初めから覚悟してたこととはいえ、オレが原因でゼシカをこんなふうに苦しめてることは、結構辛い。
「そんなことないさ。ゼシカ自身を大事に思ってるに決まってるだろ。考えすぎだ」
「だったら、少しは私の意志を尊重してくれたっていいじゃない。ククールは頭に来ないの? こんな風に追い返されるの37回目なのよ?」
「ゼシカ、そんなの数えてんのか。だったら30回目あたりで言ってくれりゃあ良かったのに。そしたら記念ディナーにでも、お誘いしたのにな」
「何バカなこと言ってんのよ。私は少しは怒りなさいって言ってるの。これだけ足しげく通ってるんだから、少しは話を聞いてくれたっていいじゃない。いつも家訓がどうのってうるさいくせに、こんな失礼な事ってないわよ」
ゼシカがいつもこうやって怒ってるから、オレまで怒ると収拾つかなくなりそうで、却って頭が冷える・・・なんて言ったら、ますます怒るんだろうな。
「失礼だと思ったことはないんだよ。追い返されるにしても、とりあえず会ってはくれるし。ゼシカの意志だって、それなりに尊重されてると思うぜ? その証拠に今だってこうして二人きりでいられるだろ? 会うこと自体、邪魔されてるわけじゃないんだからな」


146:『祝福の瞳』2/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:06:29 p/j185tX0
これはゼシカの頭にますます血が昇るだろうから言わないけど、オレにはどうしても貴族や金持ちへの偏見があって、『財産目当て』とか『手切れ金いくら欲しい』とかの類いの言葉を一度くらいは浴びせられるんじゃないかと覚悟してた。
でもアローザさんはただ『気に入らないから認めない』としか言わない。
はっきりしてて、気持ちいいくらいだ。そういう所はゼシカとそっくりだと思う。似た者同士だから、ぶつかっちまってケンカになるんだろうな、この母娘は。
「私が誰と会おうと、お母さんに止める権利なんてないわよ。これ以上わからずやでいるつもりなら、いつでも家を出てやるわ」
「だから、それはダメだって。オレは何だかんだ言っても、母親が心配で家に戻っちまうようなゼシカが好きなんだから、無理すんなよ」
「無理してんのは、そっちじゃない。どうしてそうやって我慢するの?」
そう言われても、オレは無理や我慢をしてるつもりはないんだよな。
駆け落ちみたいな形で連れ出したりしたら、ゼシカはもう家には戻れなくなる。
オレにはもう親はいない。生まれた家だって残ってない。
だからこそ、それをゼシカから奪うようなマネだけは絶対にしたくないんだ。
それにリーザス村にとっても、ゼシカは大事な存在だ。村の中を歩いてる時でも、行き交う人たちは皆が笑顔でゼシカに挨拶していく。
ついでにオレにも『あんたも懲りないね』とか『頑張れよ』とか『しっかりやれ』とか声をかけてくれる。おまけに『うまくいかないからって浮気するなよ』なんて、よけいなお世話だと思うことまで言ってくれるヤツもいる。
それを思うと、どうして自分がリーザス村で暮らすなんて無理だと思い込んだのかと、笑えてくる。
ドニの町でもベルガラックでも、リーザス村でだって、付き合ってみたら住んでる人間なんて、どこでもたいして変わらない。修道院みたいな特殊なところでさえ暮らせてたのに、リーザス村では無理だなんて、そんなことバカなことあるわけないのにな。
でも・・・。
どうしてなんだろう。こうして真っすぐにオレを見てくれるゼシカが好きなはずなのに。
時々・・・本当に時々なんだけど、その瞳から目をそらしたくなってしまうのは。
そうしなきゃならないような後ろめたいことなんて、もう何一つないはずなのに。


147:『祝福の瞳』3/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:07:27 p/j185tX0
リーザス村に戻ると、今日も見回りに励んでるポルクとマルクが走ってきた。
「ククール兄ちゃん、今日もまたダメだったのか?」
「おう、どうやらこれで37回目らしい。そうだな、これが50回目になったら、記念にお前らもベルガラックに遊びに連れてってやるよ。カジノは十年早いけど、にぎやかな街だからそれなりに楽しいぞ。それともオークニスで雪遊びの方がいいか?」
「・・・ククール兄ちゃん、そうやって平気なふりしなくていいんだぞ。少なくともオイラたちはゼシカ姉ちゃんとククール兄ちゃんの味方だからさ」
「うん。無理することないと思う」
「バーカ。お前らみたいなガキに心配してもらわなきゃならないほど落ちぶれちゃいねえよ。それより今日は時間があるから、稽古つけてやるよ。抜きな」
二人とも毎日、村中走り回ってて足腰は鍛えられてるし、サーベルトに基礎は教わってたおかげで筋はいいから、こうして剣を教えてやるのは結構楽しい。
それにしても、こいつらに『ククール兄ちゃん』て呼ばれると、自分でもおかしくなるくらい胸がときめくんだよな。
親がまだ生きてた頃、遊び相手がいなかったオレは弟が欲しいと思ってたことを思い出す。でもそう言うと母さんは困ったような顔をしてたっけ。
あの頃の何も知らなかったオレには、その表情の意味なんてわからなかった。ちょっと悪いことしたと思う。そりゃあ困るよな、『兄ならいる』なんて言うわけにもいかなかっただろうしな。

陽が落ちかかり暗くなるギリギリ前に、ゼシカを屋敷まで送っていく。アルバート家は夜になると家人でも出入り禁止になるから、その辺りは気をつけないと面倒なことになる。
ゼシカが家の中に入るのを見届け、ベルガラックに戻ろうとルーラの呪文を唱えようとした時、目の端に何かおかしな光が映った。
東の方角、リーザス像の塔がある方だ。
気のせいだろうとは思う。たぶん木が揺れた時の光の加減だ。この村の中から、あの塔を見ることは出来ない。距離がありすぎるし、木が邪魔にもなってる。
でも何だ? 何かが起こる前のような、この胸騒ぎは。こういう感覚になる時は、たいていロクなことにならない。面倒に巻き込まれる前兆だ。
・・・違う方向からなら、絶対無視するんだがな。世話になったリーザス像様の様子を見にいかないってわけにはいかないよな。


148:『祝福の瞳』4/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:08:22 p/j185tX0
この塔には何度も昇ってるし、出てくる魔物も雑魚ばかりだけど、賊が潜んでないかと全部のフロアを確認しながらだと、それなりに時間はかかる。最上階のリーザス像まで着く頃にはすっかり夜も更けていた。
とりあえずどこにも異常はなかった。あの極悪宝漁りコンビ、エイトとヤンガスの通った跡に、めぼしい宝なんて残ってるはずないし、リーザス像の瞳に埋め込められてたクラン・スピネルも、今はもう無い。像本体を盗んでいく根性のある盗賊もいないだろう。
気の迷いだってわかってたはずなのに、とんだむだ足だ。オレらしくもない。
・・・やっぱりゼシカたちが言ってたように、少しはまいってんだろうか。
アローザさんに嫌われてるのは、初めからわかってた。そのことでゼシカを板挟みにしてしまうことも、予想はできてた。何もかも覚悟した上で、ゼシカと一緒にリーザス村で生きていくと決めたはずだった。
でも一つだけ、全く予測できなかったことがあった。
オレの死んだクソ親父が昔、未亡人になりたてのアローザさんをしつこく口説いて怒らせてたってことだ。その親父の面影を強く残してるってことが、オレを嫌う理由の一つにもなっている。
もちろんオレ自身の悪い評判と相俟ってのことではあるけど、あれだけはどうしても少しキツくなる。
オレを通して、もうこの世にはいない親父を憎む目。あの目がどうしても思い出させる。
十年以上もの間、ずっと向けられていた瞳。
最後まで向き合えないままに別れてしまい、今どうしているのかもわからない、あいつのことを・・・。

塔を出ようと踵を返した時、ここに来たのはこれに呼ばれてたんだってことがわかった。
塔の上から流れ落ちてくる水が、窓枠のようなものを形作って、階段の横に見覚えのあるものを浮かび上がらせていた。
月影の窓。願いの丘とトロデーン城で見たのと同じものだ。
・・・開けるしかねぇんだろうな。今までの経験で、こういう現象には逆らっても無駄だってことは学習済みだ。少なくともイシュマウリは敵じゃないことはわかってるしな。
そう思って扉に手を触れようとした瞬間、向こう側から目を開けていられないような眩い光が溢れ出す。そしてようやく光が収まり目を開けると、初めからそこにいたかのように、月影のハープを手にしたイシュマウリがすました顔して立っていた。


149:『祝福の瞳』5/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:09:22 p/j185tX0
いろんな事態を想定して、どんな場面に出くわしてもなるべく動揺を見せないようにと努めてきたが、世の中は本当に予想もつかないことに満ちている。この入り口が向こうから開くなんて、アリなのかよ。
「・・・久しぶり。その節はいろいろ世話になったな。船は有効に使わせてもらったよ」
イシュマウリが何も言ってこないもんだから間がもたなくて、とりあえず挨拶しておく。
「でも、何でまたオレの前に現れたりしたんだ? 願いを叶えてくれるのは一度限りなんだろ? 二度でも特例だろうに、三度目なんてのは反則なんじゃねえの? 第一、それ以前にオレには叶えてほしい願い事なんてないぜ」
イシュマウリはハープをつま弾き始める。
「確かに、この月影の窓が人の子の願いを叶える為に開くのは、生涯にただ一度きり。それを二度開き、願いを叶えたのは全てこの時のため。月の世界より願いを運び、この私の手で扉を開くため。古の時代よりこの地を見守りし美しい像。どうかその願いを聞き届けておくれ」
ハープが奏でる曲が次第に大きくなっていく。ラリホーとメダパニを一度にかけられたように意識が遠のき、頭の働きが鈍って上下の区別もつかなくなる。
ああ、絶対こうなるとは思ってたよ。面倒に巻き込まれてロクなことにならないってな。わかってたのに油断した。
せめてイシュマウリに『お前の演奏、モグラ以下』と一言くらい悪態吐いてやりたかったが、そんな猶予は与えてもらえず、ハープの音が一際大きくなったのを感じた直後、完全に目の前が真っ暗になった。

あー、気持ちわりぃ。
頭いてぇし、耳鳴りするし、吐き気もする。口の中がジョリジョリいってるし、波音らしきものも聞こえるから、海岸ってとこだな。世界がグルグル回ってる気がして、目を開ける気にならない。
イシュマウリのヤロウ、有無を言わさずやってくれるもんだぜ。
あいつの言葉を要約すると、こういうことか。
『一回だけなら願いをタダで叶えてやるけど、二回目からは有料。その時の分の取り立てに来た』と。
いいさ、それは。タダより高いもんは無い。世の中はギブアンドテイク。アスカンタの王に恩を売れたことも、船が手に入ったことも、無駄じゃなかった。返せというなら借りは返す。ただそれだけのことだ。
だけど何をすればいいかを教えてもらうぐらいは、当然の権利だと思うんだがな。


150:『祝福の瞳』6/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:10:14 p/j185tX0
地面が揺れるような爆音が響き、慌てて飛び起きる。いざ起き上がってみると、頭痛も吐き気も耳鳴りも無くなってた。
イシュマウリに文句つけてる場合じゃなかった。ちょっと呑気に生きてると、すぐに緊張感がなくなる。我ながら困ったもんだな。
爆音がした方に目を向けると、月明かりの中、数十匹の魔物と、岩を背にそれを一人で迎えうってる人影が目に入った。
再び爆音。襲われてる人間の方が、イオナズンを放った音だ。加勢しようにも、迂闊に近づけばオレまでふっとばされそうだ。
だけどこの最高位の爆発呪文でも、魔物たちの数は全く減ってない。それどころかその中の何匹かが、反撃のイオナズンを放った。その呪文は光のカベに反射し、呪文を唱えた相手に跳ね返される。マホカンタの効果だ。
こんな高度な呪文の応酬の中でオレの出る幕があるのかどうか怪しいが、見ぬフリするわけにもいかない。とりあえず自分にマホカンタをかけておく。
魔法は無効だと知った魔物たちが、武器を振り上げるのが見えた。ここから一気に詰めるのは、無理な距離だ。
「バギクロス!」
風の呪文の中では最高位の呪文だが、これだけの数の魔物を一度に切り裂くのは無理だ。
でも新手の存在が牽制にはなったようで、魔物は再び少し遠巻きになる。そのスキにオレは襲われてた人間の隣に駆け寄った。
「大丈夫か? オレは回復呪文なら大抵使える。必要があるなら言ってくれ」
「あ、ありがとう。助かるわ」
その声を聞いて思わず敵から目をそらし、声の主の顔を見てしまう。
女!? 男装してるが間違いなく、うら若き乙女。それもかなりの美女だ。
だけど驚いてる場合でもない。魔物の種族を確認すると、アークデーモンやデスプリースト、リザードファッツなんていう、力も体力も有り余ってるようなヤツばかりだ。ほとんど無傷なヤツも結構いる。
防具と言えるものも身につけず、レイピア一本でやり合うにはキツい相手だが、レディのピンチとなると、やる気は五割増しくらいにはなる。
「バイキルト!」
隣の美女が筋力増強の呪文をオレに唱えてくれる。だけどマホカンタがかかった状態だから当然のごとく、その呪文は術者本人に跳ね返った。
「あいたた、いたたたた!」
攻撃魔法が跳ね返ったわけでもないのに、その女性はいきなり腹をおさえて苦しみだした。


151:『祝福の瞳』7/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:10:57 p/j185tX0
だけど今は治してやってる余裕はない。魔物たちが距離を詰めだし、襲いかかるタイミングを見計らってる。
ここは大技使って、最短時間で仕留めるしかない。
意識を集中して剣先に魔力を送り込み、地面に突き立てた。
魔法の力を呼び水に、雷が地面を這い上がり、突き立てた剣に到達する。沸き上がった地獄の雷、ジゴスパークを解放した。
さすがに、この顔触れを一発では仕留められない。間髪入れずに、もう一発放つ。それでようやく、残ってた魔物もあらかた倒すことができた。
だけど一匹残しちまった。この輪郭としぶとさはボストロールか。
頭上にこんぼうが振り上げられる。剣を地面に突き立てたままのこの状態じゃあ、とどめはさせない。死なないように防御するしかない。
だが、その必要はなかった。その次の瞬間、ボストロールの首は胴体とキレイにお別れしたからだ。
ついさっきまで苦しそうにうずくまっていた女性が、晴れやかな顔で剣を鞘に収めた。伝説の剣、人間世界最強の剣とも言われてるメタルキングの剣だった。
「危ないところをありがとう。今の技すごいわね。初めて見たわ、あんなの」
「いや、こちらこそ。おかげで無傷で済んだ。それより、どこかケガしてたんじゃないのか?」
「ああ、違うのよ。バイキルトのせいで、お腹の子がビックリしちゃったみたい。あなたも人が悪いわね。マホカンタかけてあるならあるって言ってよ」
思いっきり背中を叩かれた。思わずムセそうになる。信じられねぇバカ力。ボストロールの首を一撃で切り落とした剣の腕といい、女にしとくのがもったいない。
・・・それよりお腹の子って・・・妊婦!? 思わず腹の辺りをマジマジと見てしまう。
「まだ五カ月だから、そんなに目立たないわよ。でもさっきは本当に死ぬかと思ったわ。あ、私のことはリズって呼んで」
死ぬなんて、少しも思ってなかったとしか思えない調子で、高らかに笑ってる。
ゼシカのことも逞しいとは思ってたけど、この女性は更に上を行ってるな。
ゼシカ並の魔法に、オレより強いかもしれない剣技。大体、あれだけ大量の魔物が一度に現れるのを見たのは初めてだった。この女性を狙ってのことだとしたら、ただごとじゃない。
でも、オレの心をより大きく占めていたのは別のことだった。
「オレはククールだ。・・・あんた、一度どこかで会ったことなかったか?」


152:『祝福の瞳』8/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:11:46 p/j185tX0
夜中だけど月明かりがやけに明るいせいで、彼女の姿がはっきりと見てとれる。流れるような稲穂色の髪と春の若葉のような明るい碧の瞳。どうも見覚えがある気がする。こんな美人に会ったことがあるなら忘れるはずがないんだけど、どうしても思い出せない。
「やだ、それって口説き文句?」
言われてみて、ちょっと恥ずかしくなる。確かにベタな口説き文句に聞こえなくもない。
「ないわよ、会ったことなんて。こんな絶世の美男子に、一度でも会ったことがあるなら忘れたりするわけないじゃない」
もう一発、バカ力で叩かれた。やっぱり声にも聞き覚えがあるような気がするんだけどな。

当面の魔物は全部倒したとはいえ、こんな時間に妊婦を一人で放り出すわけにもいかないんで、家まで送っていくことにした。
切り立った崖を左手、海岸線を右手に見ながら、道らしきもののない草の上を歩く。この辺りにはリズとその旦那以外の人間は誰も住んでないから、道なんてものは無いらしい。当然店屋もないから、全てを自給自足で賄ってる。
こんな時間に外をうろついてたのは、まんげつ草を詰むためだそうだ。まんげつ草は普段は雑草と見分けがつかないが、満月の夜にだけ花を咲かせるから、自生してるのを集めるには、こういう夜に探す方が効率がいいからだ。
何でも彼女の遠いご先祖とやらが、魔物の恨みを買うようなことをして、そのせいで魔物に狙われることも少なくないから、今夜のようなことは慣れっこなんだと、笑い話にならない話を笑いながら口にする。
「今のうちに少しでも多くああいう魔物を倒しておけば、それだけ私の子供たちを狙う魔物の数は減るでしょう? 出来ることなら、この子が生まれる前に全滅させたいくらいよ」
魔物の恨みを買うってことは、ご先祖とやらのしたことはむしろ善行なんだろうけど、オレだったらきっと、とばっちりくらわせやがってって恨むだろうな。

開けた草原に出たところで、進路を右に取る。
何だろう。辺りの風景に見覚えはないのに、道も目印もないこの場所で曲がることが自然に感じる。
今日はいろいろと、おかしいなことばかりだ。
やたらとマルチェロのことを思い出したり、ゼシカたちがやけに心配してきたり、知らないはずの人物や場所に覚えがあったり。
イシュマウリに問答無用で飛ばされたってのが、何よりも極めつけだけどな。


153:『祝福の瞳』9/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:12:32 p/j185tX0
リズに案内されたのは、子供が生まれたら狭いんじゃないかと思うような、簡単な造りの小さな家だった。
そのすぐそばには、大量の木材や石材が家を何十軒も建てられそうなほど山積みになっていて、男が一人、地道に土台らしきものをを積み上げている。
「ただいま、あなた!」
結構な大声で呼びかけても、リズの旦那は気づきもしない。いるんだよな、こういうヤツ。何かにのめり込むと、何も見えない聞こえないってタイプ。
「もう、マリウスったら」
リズは足元の土を拾い上げ、器用に泥団子を造って、旦那の頭に投げ付けた。見事に命中、ナイスコントロール。って、いいのか? これ。
「やあ、おかえり、リズ。そちらの方は?」
旦那の方も動じずにこっちに歩いてくる。この二人の間では普通のことなんだろう。
「ナンパされちゃったの。というのは冗談で、魔物と戦ってる時に助けてもらったの。夫のマリウスよ。それで、こちらはククールさん」
おい、変な冗談やめてくれよ。一瞬、旦那の発する空気が怖くなったぞ。こういう、一見おとなしくて人の良さそうな顔したヤツほど、情け容赦なかったりするんだからな。
「そうだったんですか。妻が大変お世話になりました。ありがとうございます」
魔物に襲われたって方はスルーかよ。まあ、こんなところで二人だけで暮らしてる辺り、その辺はお互いに納得済みなんだろうな。夫婦の間に、よけいな口出しはしないさ。
「ちょっと待ってて、ククール。あなたに渡したいものがあるの」
そう言ってリズは家の中に入っていく。渡したいものって何だ? マリウスも訳知り顔でその姿を見送っている。まあ、貰えるものはとりあえず貰っとくけどさ。
「乱雑にしててすみません。これでも建築家の端くれでして、ここに大きな塔を建てようと思ってるんですよ。そしてリズの彫った像をその最上階に飾って、いろんな人が見に来てくれるような場所にしたいと思ってるんです。彼女は見事な腕の彫刻家なんですよ」

物事っていうのは、わからない時はいくら考えてもわからないが、逆に何げない一言で全てのことがしっくりはまるように出来てるもんだ。
強力な魔法と剣、彫刻家。そして魔物の恨みを買うほどのことをした先祖を持つ女性。このフレーズから導き出される答えは一つだ。


154:『祝福の瞳』10/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:14:07 p/j185tX0
「お待たせ。いきなりこんなもの渡されても困るだろうけど、何も言わずに受け取ってくれない?」
戻ってきたリズが布包みを差し出してくるが、今はそれどころじゃない。
「リズ、あんたリーザス・・・リーザス=クランバートルだったのか・・・」
身体が覚えていた。ポルトリンクとの間の海岸線から、リーザス像の塔へと続く道。何度もゼシカと二人で歩いた、その距離感を。
マリウスが建てた塔の最上階に、リズが彫った像が飾られている。年に一度の聖なる日に、リーザス村の皆が昇るのを楽しみにしている場所。
今立っているのはオレがいた時代から、遥か昔の同じ場所。
「あら、もうクランバートルじゃなくて、アルバートよ。リーザス=アルバート。間違えてもらっちゃ困るわ」
リーザス嬢は人差し指を立てて横に振る。
「やっぱりこれを渡す相手は、あなたで間違いないみたいね。あのね、私と同じように魔物の恨みを買ったご先祖を持った人の中に、予言の力を持った人がいるの。
ちょっと悩んでることがあって、その人に見てもらったら『満月の夜に出会う、風の魔法の使い手』にこれを渡せば、全てうまくいくって」
リーザス嬢が手にしていた布包みを解く。そこには強い魔法の力を宿した血のような色の二つの宝石。
クランバートル家に代々受け継がれてたという、クラン・スピネルだ。

そう、その宝石をオレが受け取るのは間違いじゃない。ゼシカをラプソーンの杖の呪いから解放するための結界の材料に、どうしてもなくてはならないものだった。
でも、だからこそ、今のオレが受け取るわけにはいかない。世界に二つしかないこの宝石は、リーザス像に埋め込まれた状態で塔に収まってなきゃいけなかったんだ。
「だから、人助けと思って持っていって」
リズに手を取られ、クラン・スピネルを握らされそうになって、慌てちまう。
「ダメなんだ。今オレがこれを持っていっちまったら、ゼシカがっ・・・」
ここでゼシカの名前なんて出してどうすんだ。動揺しすぎて、うまい言葉が出てこない。
・・・でも、何だかこのクラン・スピネルは、オレの記憶の中にあるのと比べて、随分デカい気がする。倍くらいはあるような・・・。それに形も違う。リーザス像に埋め込まれてたのは片方だけが尖ってて、もう片方は平らだったはず。でもこれは、両側とも鋭く尖っている。


155:『祝福の瞳』11/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:15:03 p/j185tX0
「・・・ゼシカ・・・。そうそう、リズ、言わなきゃいけない一言を忘れてるよ」
それまで傍観を決め込んでたマリウスが口を開いた。
「こう言えば全部わかるはずだって言われたじゃないか。『ゼシカをよろしく頼む』って」
それはまるで魔法のようだった。マリウスのその言葉と同時に、二つのクラン・スピネルの中心に亀裂が入り、鋭い刃で切断されたように綺麗に半分に別れる。リズの手に二つ。そしてオレの手にも二つ。そう、リーザス像に収まっていたのは、確かにこの形だった。
「あらら、すごいわね、言葉の魔力ってやつかしら」
こうなっても、リズは全く動じない。本当に肝が座ってる。
「そうだった、すっかり忘れてたわ。最近ちょっと熟睡できなかったもんだから、ついうっかり。この子を身ごもってから、時々変な夢見るのよ。誰かが泣いてるんだけど、顔は見えないの。ただ泣き声が聞こえてくるだけ。『私のせいで瞳が無くなっちゃった』って。
何のことかサッパリわかんないんだけど、どうしても気になっちゃって、予言者の友人に相談したってわけ」
・・・瞳が無くなったって、リーザス像のことか?
「そういえば、女の子の声だったわね。・・・そのコがゼシカなの?」
バカだな、あいつ。そんなこと気に病んでたのかよ。
オレはもう、クラン・スピネルを握り締めて頷くしかない。
「・・・お言葉に甘えて、こっちはありがたく貰ってくよ。そっちはあんた達が預かっててくれ、いつか必ず貰いに来るから」
遠くから、月影のハープの音が聞こえた気がした。
「その時はさ、できればキレイなドレスとか着て、ちょっとでいいからネコかぶってくれるとありがたいな。もちろん、そのままのキミの方がステキだけど、その頃のオレにとっては、場の雰囲気っていうか、イメージっていうのは結構重要なんだよ」
「・・・何かよくわからないけど、検討しておくわ。それに今のセリフは、また会えるって意味だと受け取っていいのよね?」
これはちょっと返事に困る。次に会う時はきっと、彼女は生ある人間ではないから。


156:『祝福の瞳』12/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:16:20 p/j185tX0
「きっとずっと先のことになると思う。そうだな、マリウスがこの塔を完成させて、そこにリズの最高傑作の像が置かれるようになって。その後くらいになるかな」
「それは困ったな。この塔が完成したら、今度はちゃんとした家を建てようと思ってるんだよ。子供が十人できても大丈夫なような大きな家をね。
そんなに遠くには行かないつもりだけど、ここに訪ねてもらってもボクたちはいないかもしれない。どこかに印でもつけておこうか・・・」
マリウスは真剣に考え込んでる。人の良さそうな顔して、本当に人がいいらしい。
「そうだ! キミは風の呪文を使うんだから、塔のてっぺんに風車をつけておこう。次にここに来た時は、魔法でそれを回してくれればいい。それが見えたらすぐにここへ駆けつけるから」
ハープの音が少し大きくなった気がする。もう時間切れってことか。元の世界に戻りたい気持ちに変わりはないけど、妙に名残惜しい気はする。
あんまり余計なことは言わない方がいいんだろうけど、これだけは言っておいてもバチは当たらないだろう。
「リズ、いつになるかはオレにもわからないけど、あんたの子孫が魔物に狙われずに済む日は必ず来る。そんなことがあったことさえ忘れられて、誰も彼もが呑気に生きてるような未来が待ってる。だから、あんたはそのまま、自分の信じた道を進んでいってくれ」
空間が歪むような感覚。目眩と耳鳴りが一気に襲ってきた。
「もちろん、いつだって自分の信じた道を進むわよ。ククールこそ、忘れないで。ゼシカのことは、よろしく頼むわよ。今度また、あのコが泣いてる夢なんか見させたら、テンション溜めてメラゾーマだからね」
意識が遠のいていく。このまま目の前からいきなり消えたりしたら、オレは幽霊扱いにでもなるんだろうか。でも二人とも、案外ケロッとしてそうだな。
オレともあろうものが、こんな美女を見忘れるなんて、ありえなかったけど仕方がない。リーザス嬢がこんなはっちゃけたレディだったなんて、誰が思う? でも不思議と納得はいく。なんてったって、あのゼシカのご先祖だもんな。


157:『祝福の瞳』13/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:17:05 p/j185tX0
「ククール! ねえ、しっかりしてよ。ククールってば!」
目を開けると、ゼシカが泣きそうな顔でオレのことを覗き込んでいた。
「ゼシカ・・・どうして、こんなとこに?」
何とか上体を起こすが、頭痛と吐き気と耳鳴りがする。それなのに妙にフワフワしてて、これが自分の身体だって実感がしない。
「それはこっちのセリフよ。ポルクたちが教えに来てくれたのよ。ククールが普通じゃない様子でこの塔の方に行くのを見たって。それで心配になって来てみたら、こうやって倒れてるんだもの。死んじゃったのかと思ったじゃないの!」
最後の方は涙声になってしがみついてきた。そういえばサーベルトは、ここでドルマゲスに殺されたんだったっけ。ちょっと刺激が強すぎたか。
それにしても、やっぱりゼシカは抱き心地いいなぁ。極上の柔らかさと弾力に、一気に現実感が戻ってくる。でも、さっきまでのことが夢じゃないことは、手の中にあるものが証明してくれている。
「心配かけてゴメン。ほら、ちゃんとお詫びの品もあるから、元気出せよ」
「・・・お詫びの品?」
ゼシカの手の平に、二つのクラン・スピネルを乗せる。二つの宝石と同じ色の瞳が、大きく見開かれた。
「これ・・・クラン・スピネル!? どうして? だってこれはもう・・・」
「その件は後でゆっくり説明するとして・・・。そのことよりも、オレの知らないところで、一人で気に病んで泣いてたっていう、このお嬢様をどうしてやろうかと思ってんだけどな。何で言ってくれなかったんだよ」
長い間ほったらかしにしてたのはオレの方だってことは、この際棚上げだ。
「えっ、だって、そんなずっと気にしてたってわけじゃないし・・・。ただ、みんな毎年聖なる日を楽しみにしてるのに、リーザス像の瞳が無かったら、やっぱりガッカリするんじゃないかと思うと・・・」
「そのことは、もう村中みんな納得してんだろ? ガッカリなんてするわけないだろ、バカ」
「バカって何よ。この像は、村が出来る前からずっとあったものなのよ? その瞳が私のために無くなったんだから、気にするのが当たり前じゃないの」


158:『祝福の瞳』14/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:18:25 p/j185tX0
ヤバイ、泣かしちまった。リズに泣かすなって言われたばっかりなのに、メラゾーマくらうな、これは。
「あのな、家宝だか三大宝石だか知らないけど、結局はこんなもん、ただの石ころなんだよ。ゼシカ自身に代えられるもんじゃない。このクラン・スピネルは、ゼシカが泣いてるのが辛いって、リーザス嬢が渡してくれたものなんだ。
お前、百年以上前のご先祖からまで愛されてんだからさ、そのことだけは忘れるなよ」
そしてオレも忘れない。その大切なゼシカを『よろしく頼む』と言ってもらえたことを。何にも持ってないオレでも、ゼシカのためにしてやれることはあるんだってことをな。

ゼシカが落ち着いてから、二人でリーザス像にクラン・スピネルをはめ込んだ。
元の姿に戻っただけのはずなのに、初めて見た時よりも像が優しい顔をしているような気がする。
「ありがとう、ククール。もう一度、この姿を見られるなんて思ってなかった。本当に嬉しい。夢みたい」
クラン・スピネルのような瞳が、真っすぐにオレを見つめてくる。まるで魔力を持っているように、心の中の深いところまで入り込んでくる瞳。
本当は自分でもわかってた。この瞳から目を逸らしたくなるのは、奥底に隠して見ないフリしてた本心が、全部さらけ出されてしまいそうになるからだってことは。
今までずっと、オレの勝手な都合でゼシカを振り回してきた。もうこれ以上、ゼシカに寂しい思いはさせたくない。だけど・・・。
この気持ちから目を背けたままじゃあ、いつまでもゼシカの視線から逃げ続けてしまう。
「ごめんゼシカ。今度こそ幸せにするって・・・ゼシカだけ見て、そばで守ってくって約束しなきゃいけないはずなのに。オレ、マルチェロを・・・兄貴を捜したい。居場所の心当たりなんてないけど、どうしても、もう一度あいつに会いたいんだ」
そこからやり直さないと、オレはきっとこの先、どこかで前に進めなくなる。
「会ってどうしたいわけじゃない。だけど、オレは決めたはずだったんだ。憎しみだろうが何だろうが、真っ正面から受け止めるって。それなのにオレはゴルドで、あいつの目を見て話せなかった。最後の最後で、背を向けて逃げたんだ。
一度でいい。ちゃんとあいつと向き合って、目を見て話したい」


159:『祝福の瞳』15/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:19:27 p/j185tX0
「うん、わかった。いってらっしゃい」
また悲しませると思ってたのに、あんまりアッサリした調子で言われて、一気に肩の力が抜けた。
「そんなにまくしたてなくても大丈夫よ。マルチェロのことに関しては、いつかそう言い出すんじゃないかと思ってたから。ものすご~くイヤだけど、ククールのお兄さんてことは、私にとってもお兄さんになるってことだし、このままにはしておけないわよね」
「・・・それって、プロポーズ?」
何て言っていいのかわからず、つい茶化したようなことを言っちまう。
「それはちょっとイヤ」
「うん、オレもイヤだ」
ゼシカは呆れたような溜め息を吐く。
「しょうがないわよ。私は何だかんだ言っても、お兄さんを心配して捜しちゃうようなククールが好きなんだから、気の済むようにすればいいわ」
・・・何か、どっかで聞いたようなセリフだな。
「それにね、私は一度だって『私だけ見て』とか『私だけ守って』なんて言った覚えはないわよ。私一人のことで精一杯なんて器の小さい男、こっちから願い下げだわ。自分のためには生きられないような不器用さんだから好きになっちゃったんだもの。
後回しにされるのは、それだけ近い存在になれたんだって思うとイヤじゃないし。幸せにしてもらおうなんて、初めから思ってないわよ」
そうだな、それはわかってる。ゼシカは何でも自分で選んで、自分で決める。オレなんかより、ずっと強い人間だ。
「だからククールのことも、私が幸せにしてあげる。心配で、とてもじゃないけど、ほっとけないんだもの。・・・こっちはプロポーズと受け取ってくれてもいいわよ」
「・・・ゼシカ、男らしいなぁ」
思わず口をついた。本当に、オレなんて足元にも及ばない。
「・・・念のために訊いておくけど、それは褒めてるのよね?」
「もちろん、最大級に」
「何かスッキリしないけど、まあいいわ。あ、でも私だけ見なくてもいいって言ったけど、浮気はダメよ。それだけはイヤよ、絶対許さないからね。本来待つタイプじゃない私が、こんなに何度も待つなんて特別なんだからね。それは忘れないでよ」
ゼシカは真剣だ。オレって、そういう点では信用ねぇんだな。
「ああ,もちろん。・・・今夜はこのまま、一緒にいよう」
瞳の戻ったリーザス像の前では、キスより先にはいけないけどな。


160:『祝福の瞳』16/16 ◆JbyYzEg8Is
06/02/28 19:21:04 p/j185tX0
思えば、イシュマウリは初めから言ってたんだよな。『美しい像』の願いを聞き届けてくれって。
リズが見た夢はリーザス像の感じていたものなんだろう。何も見えないのに声だけが聞こえたのは、像が瞳を失っていたから。
ラプソーンを倒したオレたちが、手下の魔物に狙われることもなく呑気に暮らしていけてるのは、リズのように子孫のために戦ってくれてた人たちがいたからなんだよな。
クラン・スピネルが戻ったことで、またリーザス像はこの地を、そして子孫を見守ることが出来るようになった。このことでゼシカが泣くことも、もう無い。
願いっていうのは、これで叶ったって、そう思っていいんだよな?

夜の外出を止めに入った用心棒に、ラリホーかけて飛び出してきたとゼシカから聞かされ、一緒に謝るために、朝一番で塔を出た。これでまた、アローザさんの心証が悪くなってんだろうな。
でも、村の名前の由来にまでなったご先祖は認めてくれてるんだと思えば、どれだけかかっても認めてもらうことを諦めずにいられる。
随分時間は経ったけど、マリウスとの約束通り塔のてっぺんの風車をバギマで回す。結構これが難しい。それに自然の風でいつでも回ってるから、目印の意味なんてほとんどねぇし。もう少し風の制御を練習してみるか。
そういえば、リーザス村の入り口にも同じように風車があったっけ。
「何かさ、急にリーザス村が、オレにとっても故郷みたいに思えてきた。イヤミな兄貴を捜す旅でも、帰るところがあるんだって思うと、少しは気持ちが軽くなるもんなんだな」
「うん・・・。辛くなったら、いつでも戻ってきてね。私はずっと、待ってるから」
「ああ。必ず戻るよ。ゼシカのところに。そうしたら今度こそ、どこにも行かない」
ゼシカはまるで世界中の全てから祝福されてるようだった。大事にされて、愛されて。だから、こんなにまっすぐで強い人間になれたんだと思う。
それに比べてオレは、生まれてきたことが元凶だの、疫病神だの、散々言われてきた。
だけど、こうしてゼシカの瞳に映ってる自分の姿を見ると。
オレだってちゃんと祝福されて生きてるんだって、そう思うことができる。
・・・オレは幸せだ。
    <終> 


161:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/28 20:55:53 rlvHQlSk0
いつまでつづくんや。

162:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/01 00:55:36 EXFwao1zO
まぁ
ろくに書き込む人もいないスレだし
いいんじゃないか?

163:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/01 00:58:32 Ro5IEgH70
>>145-160
…ただただため息です。本当に乙!
ゼシカ、本当に強いなぁ…感服です。

164:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/01 14:33:24 jrCPsK1s0
>>162
個人的には続けて欲しい。無理のない程度に。
今職人さんがいなくなったら落ちるよなぁ…このスレ。

165:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/01 20:20:17 Zpe18u5C0
毎度毎度乙です!
「幸せにするよ」ってセリフ、ゼシカがククールに言う方が
しっくり来るよなーって、私も思ってたw

私もJbyさんのSS好きだから投下されてるとそれだけで嬉しい。
ってか、それを目当てにこのスレを巡回コースに入れてる。
だからなくなると悲しいし、スレ自体落ちるよ。
職人さんがいっぱいいて賑わってる訳じゃないからねー。

166:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/01 20:20:52 Aes98JQxO
Jbyさん、またしてもGJです!
冒険以外の事やそれからの事もこんなにも自然に表現できるなんて、ただただ感服です。
ゼシカがいて今のククールがいる。逆もまたしかり。
しかもリーザス嬢とククールが出会う事で、なんだかククゼシに運命的なものを感じて嬉しいです。
是非これからも無理のない範囲で続けて下さい!楽しみにしてます。

167:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/01 21:40:23 v5+qMpEBO
GJすぎて何ていったらいいか分かりません…!!
泣き声だけ聞こえる理由とか、塔とかイシュマウリとか全てがGJ。
何度でも読み返したい、そう思えるSSでした。
あああ本当GJ。ネ申。

168:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/01 22:09:23 xU/emGzH0
ワードからコピペするだけで疲れるような長話をしっかり読んでもらえて、丁寧な感想までもらえて、本当に感謝以外の気持ち以外、何も返せません。
実はこの話は半年前から温めてました。
ヤンガスはゲルダにビーナスの涙。エイトがミーティア姫にアルゴンリング。
となったら、ククールはゼシカにクラン・スピネル贈るしかない! 三大宝石コンプリート!
・・・それだけのことが半年かけて、こんなに膨らんじゃいましたorz
すぐに書かなかったのは、これ書いちゃうと、くっつくまでの過程の話に気持ちが入れられなくなりそうだったからです。

一応、続き物としては次回で完結予定です。
そろそろ二人には試練を与えずに、のんびりと平和に暮らしてほしいので。
でもペースは落ちると思うけど、保守代わりに小ネタは投下したいと思ってます。
FF12発売後の荒波を頑張って乗り越え、スレを守りましょう。

169:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/01 23:31:00 Qea4mP8E0
がんばって2行くらいはよんでみたかった。

170:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/02 02:02:45 H9Mfld/KO
三代宝石コンプリート!
そんな野望が隠されていたとは流石です。
次で連載が終わるなんて寂しすぎる・・・感動をありがとう。
小ネタも楽しみにしてます。
自分もFF12の波に巻き込まれない様にスレ保守頑張りたいです。
Jbyさん、GJでした!!

171:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/02 16:59:41 xf7HrNRx0
あ、3大宝石コンプリートを目指してたのか!
そこまでは気づかなかったっす。

そういや、もうすぐFF12が発売になるのか・・・。
スレ乱立&圧縮が続きそうだもんね。
落ちないように保守したいけどhoshとだけ書かれたレスが
ズラーっと並んだスレも悲しいような。
自分でもネタ投下できればいいんだけどなー。
文章書ける人ってちょっと尊敬する。

172:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/03 18:58:29 QzmYLwvy0
>>171
おまえさんならかけるよ!!

173:171
06/03/04 00:40:02 x+KUTwRO0
>>172
誰だか知らんが根拠のない励ましをどうもありがとうw
それでもなんかうれしいよ


174:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/04 01:00:38 U7RAYEMW0
( ´_ゝ`)フーン

175:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/04 18:36:07 T8LzG5Vk0
腐女子同士仲良く。

176:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 00:41:49 6/c7L/AN0
イッショニシテクレルナヨ(゚∀゚)アヒャヒャヒャヒャ

177:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 01:45:40 Ny6IaccYO
三大宝石コンプリートって…

なんかなあ

178:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 12:28:26 CbXGCZN90
主姫スレ落ちたね。
24時間もたないとは恐ろしい事態だ。


179:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 14:51:52 wCsahK0F0
ここ一ヶ月がダット落ち攻防期間ってとこでしょうかね。

180:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 19:35:05 kLpdmAVB0
はっやいなあ。
例のあれはまだ発売されてないでしょ。なのに

181:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/06 00:51:20 oNrS6/2I0
頑張って落とさないようにしないとね。
という訳でホシュ

182:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/06 16:42:13 Zca3SlYp0
高校の卒業式終わったし、暇な人が増えたんでしょう。
気をつけていかないと危ないね。

183:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/06 22:51:32 SwNIlcUF0
そんなにしんぱいならあげれ。

184:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/06 22:57:05 Y5oJve1G0

   ,.〃彡ミヽ
  〈((((/(~!》   >>1も読めねーのか お前は……
   ヾ巛.-_-ノ"|\
.   /~"i!づ!}つ  )
  ん、_」"Y!i |/       .      i\j
    i†=|=|!                 | ∧_∧
     |ー |-|             と⌒⌒つ."Д")つ>>183
      ̄  ̄

185:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/06 23:59:03 W1v4cBff0
>>184
可愛すぎる!ゼシカとペアのAAなんてのも見て見たいものだ。
絵描き職人さん(最近少なくてテラサビシス!)や小説職人さんがいるのだから
AA職人さんてのも欲しいなあ。

186:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/07 01:43:46 8jXJvTnjO
そういえば絵の方もカキコミがないとそろそろ落ちるんじゃ・・・

187:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/07 07:30:59 /UtnJgf/0
ククール単独スレも少し前に落ちたみたいだし…あれで2回目

188:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/07 12:55:12 X6qKmUeK0
>>184
うわー、ほんとにかわいい。
弓ククもいいけど、剣ククでもいいかも。

189:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/07 21:45:21 PPlUb2Ch0
ゼシカへ愛の矢を射って欲しい。

190:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/08 09:31:39 fTeAFzro0
愛のさみだれうち?w

191:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/08 19:12:27 4hmHgB5O0
でもメラで焼いてしまいそうだなww

192:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/08 20:14:34 L2ScrZ6L0
羽の生えたミニククール(アンジェロ?)が2人に矢を放つ

…全然違う物のはずのキューピッドと混同してる罠。


193:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/08 21:34:14 9S3RhJ6F0
>>184
こんな腐女子の巣窟スレ頭から読む価値なんぞねーからじゃねーの。

194:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/08 21:47:09 PJJBXXk80
ゼシカは結局ククールの事を気に入っているのか?

195:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/08 22:37:35 ZvgEgtCU0
どっちかと言えば嫌い

無口リーダー、山賊くずれ、わがまま王と同じ扱い

196:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/09 09:31:53 Qs5OaBLl0
嫌い嫌いも好きのうち

197:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/09 11:03:14 5lwrTHbN0
嫌いから好きに変わっていく過程が良いんじゃないか。最初は印象悪くなくちゃ!

嫌い→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→好き
気に入らない奴→なんとなく気になる→なぜか意識しちゃう→好きかも

198:『ずっと二人で』前編1/8 ◆JbyYzEg8Is
06/03/09 22:15:57 8hExe+4m0
いったい、何が起こってるんだ?
マルチェロを捜す旅から戻ってみると、リーザス村はもぬけの空になっていた。
武器屋にも、防具屋にも、宿屋にも、教会にさえ人っ子一人いない。
いつも村を巡回してるポルクとマルクの姿もない。
旅に出てたのは、二カ月ちょっとだ。だけど一月前に様子を見にきた時には、何か起こるような気配は無かったのに・・・。
アルバート家に向けて足を速める。
ゼシカはどうなった? 仮に何かが襲ってきたんだとしても、あいつだったら必ず抵抗するはずだ。それなのに争ったような跡はどこにもない。静かすぎて、かえって不気味だ。
頼むから、どうか無事でいてくれ・・・!

「ゼシカ!! どこにいるんだ!? いたら返事してくれ! ゼシカ!」
アルバート家の屋敷中探しても、やっぱり誰もいない。
ゼシカも、アローザさんも、使用人たちも、影も形も見えない。
一体、何がどうなってやがるんだ。
この村を離れるべきじゃなかったのか? もしオレがそばにいたら、少しはマシなことになってたんだろうか。
・・・落ち着け。
まだ何があったかもわかってないんだ。サザンビークの大臣の家の鏡みたいに、異世界に通じる何かがあって、村中全員がそこに迷い込んだのかもしれない。少なくとも一カ月前までは無事だったんだ。今からでも助けられる可能性は十分ある。
最悪の事態ばかり考えるのは、オレの悪いクセだ。
まずはもう一度村の中を見て回って、何か変わったことが無いかをチェックして、ポルトリンクの様子も確かめて、それでも何もわからないようだったら、トロデーン城に応援を頼もう。
動揺も後悔も、やれることを全部やってからだ。
まずはアルバート家の中を探索する。村中の人間が消えてしまうなんて現象の原因になりそうなのは、こういう名家に伝わる魔法のアイテムなんてもんに、ありがちだ。
・・・そうだ、魔法の力といえば、リーザス像と何か関係してるのかもしれない。
一度そう思いつくと、もう他の可能性は考えられなくなり、オレはアルバートの屋敷を飛びだした。


199:『ずっと二人で』前編2/8 ◆JbyYzEg8Is
06/03/09 22:17:44 8hExe+4m0
それは不幸な事故だった。出合い頭の一発ってヤツだ。
リーザス像の塔に向かおうと勢いよく開けた扉が、向こう側から同じように扉を開こうとしていた、この屋敷の用心棒に直撃した。
「わ、悪い! 大丈夫か?」
とりあえずホイミをかける。運の悪いヤツ。いや、本当に悪いのはオレなんだけど。
・・・人がいる。
用心棒だけじゃなく、メイドやコック、そしてアローザさんも。
「無事だったのか・・・」
思わず口にしてしまった言葉に、アローザさんが怪訝な顔をする。
「何の話をしてるんです?」
「いや、あの・・・ゼシカは?」
これじゃあ、返事になってねぇし。
「まだリーザス像の塔にいますよ。まったくあの娘ときたら、聖なる日に塔の中庭でお祭りなんて何を考えてるのかしら。先祖の加護に感謝して、厳かに過ごすべき日だというのに、困ったものだわ」
・・・聖なる日・・・。
一気に身体の力が抜けた。
そういえば、この前会った時にゼシカが言ってたよな、聖なる日が近いって。年に一度だけ塔の中に魔物が出ないその日に、村の皆でリーザス像にお参りするんだって。
でも皆って、本当に村中全員、総出でなのかよ! 留守番くらい残してけよ、いつか盗賊団とかに狙われるぞ! さっきまでのオレの焦りは何なんだよ、恥ずかしくてやってらんねえよ!
・・・誰も見てなかったのが、せめてもの救いか・・・。
「どうかしました?」
アローザさんは、完全にオレをうさん臭いものとして見てる。そりゃあ、そうか。
「すいません、あの・・・よけいなことだけど、戸締まりくらいはした方がいいですよ?」
自分で自分のセリフのマヌケさに呆れる。まだ動揺さめやらぬといったところだから、どうにもならない。
だけどまた怒らせると思ったのに、アローザさんはちょっと大きく目を見開いて、それからクスクスと笑い出した。
「そうね、こんなふうに勝手に入り込む人もいることだしね。・・・忠告のお礼にお茶でもいかが? だいぶお疲れのようですわね」


200:『ずっと二人で』前編3/8 ◆JbyYzEg8Is
06/03/09 22:19:46 8hExe+4m0
オレ、何やってんだろう?
オレを毛嫌いしてるはずのアローザさんに誘われるままに、二階の居間で差し向かいで茶を飲んでる。まさか毒を入れたりしてはこないとは思うけど、真意はつかめない。
でも不思議なもんだな。嫌われるってのは、やっぱり少し辛くて、アローザさんのことは正直少し苦手だった。だけど今は、そうは感じない。
この人がいなければ、ゼシカは生まれてきてなかった。もしゼシカに逢えてなかったら、オレは一体どうなっていただろう。そう思うと、感謝の気持ち以外を抱くことなんてできない。
「さっきあなたが言っていた戸締まりですけどね、したくても出来ないのよ。初めから扉には鍵がついていないの」
アローザさんの言葉で、衝撃の事実を初めて知った。
「私も他所から嫁いできた身ですからね、初めは驚いたものですよ。これだけの屋敷に鍵がついてないなんて、思いもしなかったわ。だけどこのアルバート家は、代々魔法剣士の力を受け継がれている家系ですから、悪意を持って侵入する者などいないのよ」
なるほど、侵入者の方が痛い思いをするだけだと。
「だからあなたが、無人になってしまった村を見て慌てふためくのも、わからなくはないわ。来年以降はポルトリンクからでも、留守番役を寄越してもらった方が良さそうね」
・・・バレバレだし。あー、みっともねえ。
「いつも私が何を言おうと眉一つ動かさないあなたが、あれだけ顔色を変えるとは思わなかったわ。どうやら本当に、ゼシカのことを大事に想ってはくれてるようね」
言葉面だけ捕らえると認めてくれたように聞こえるけど、その声は今までの中でも一番冷たい響きだった。
「それなのにどうしてこんなに何度も、あの娘を放っておくことが出来るの? 残される者の気持ちを、少しでも考えてみたことがあるの? 勝手なのにも程があるわ」
今のはきいた。言葉に詰まる。
「兄のサーベルトの仇を討つという目的を果たして、気持ちの整理をつけて元気に戻ってきてくれると思いきや、毎日毎日物思いにふけって溜め息ばかり。ろくに外にも出ず、食事もまともに取らない有り様。
大事な娘にそんな思いをさせ続けた男を、どうして母親の私が認める気持ちになどなれると思うの? たとえあなたが悪い評判など何もない人だったとしても、そのことを許すつもりはないわ」


201:『ずっと二人で』前編4/8 ◆JbyYzEg8Is
06/03/09 22:22:18 8hExe+4m0
「・・・返す言葉もありません」
ゼシカはずっとアローザさんのオレに対する態度に怒ってたけど、オレはそのことを理不尽だと感じたことは一度も無かった。
死んだオレの親父の面影や、世間の評判で嫌ってた部分も確かにあったんだろうけど、言い訳しようのないオレ自身の行いが一番大きな怒りの理由だってことに、自分でも知らない間に気づいてたのかもしれない。
「だけどゼシカは私の言うことなど聞くつもりは無いようだし、このまま反対しつづけたら、また家出でもされかねないし・・・だからククールさん、もしどうしてもゼシカとの仲を認めてほしいというのなら、この先もう二度と剣をとらないと約束してちょうだい」
「・・・剣を?」
想像もつかなかった条件を出され、少しとまどった。
「ポルトリンクから出ている定期船のお客様の中には、マイエラ修道院への巡礼者も多いのよ。半年ほど前に、よく耳にする噂があったわ。
それまで修道院の周りにはいなかった凶悪な魔物が出るということと、その魔物から一人で巡礼者を守っている、真っ赤な服を着た銀髪の剣士さんの話をね」
さすがに定期船のオーナーは、耳が早い。
確かに、オレがあの頃ゼシカを放ったらかしにしてた理由の一つは、グダグダになってた聖堂騎士団の代わりに巡礼者たちを守るためだった。
でもそれを、ゼシカに寂しい思いさせ続けたことの言い訳には出来ない。
「息子のサーベルトが、リーザス像の様子を一人で見に行ったために殺されてしまったのは、ご存じよね? サーベルトとゼシカの父親も子供たちがまだ小さい頃、定期船を襲う凶悪な魔物を一人で退治しに行き、相打ちになって還らぬ人になりました」
父親が死んだ時にはゼシカはまだ小さすぎて、ほとんど何も覚えてないと言ってたから、魔物と戦って死んだという話は初めて聞いた。
「夫も息子も、いつもあなたのように剣を身体から離さない人でした。危険なことはやめてほしいと頼んでも、『自分には力があるから責任もある』と何でも自分でやろうとして、結局は二人とも還ってきてはくれなかった。私はただ残されるだけ・・・。
ゼシカには私と同じ思いはさせたくないの。だからあの娘の結婚相手には、武器なんて扱えない人がいい、そう思ったのよ。これ以上ゼシカを悲しませたくないのなら、危険なことはせずに、あの娘のそばにずっといてやってちょうだい」


202:『ずっと二人で』前編5/8 ◆JbyYzEg8Is
06/03/09 22:24:44 8hExe+4m0
・・・何だよ、ゼシカ。お前、メチャメチャ愛されてんじゃねえかよ。
アルバート家がどうとかじゃなくて、ただゼシカに幸せになってほしいだけ。寂しい思い、悲しい思いをさせたくない。だからオレみたいにいつ死ぬかわからない生き方してた人間は、認めたくない。
大事な人間に先立たれる悲しみを、二度も味わってしまってるからこその想いだ。
でも・・・。
「すみませんけど、それはできません」
ゼシカはずっと、この村を懐かしいとは思えないと言っていた。贅沢言ってるとは思ったけど、ラプソーンが復活した後で寄ったこの村の様子を見ていて、何となく理由もわかるような気はした。
村の住人はほとんどが、ゼシカが家族と最期の時を迎えるために帰ってきたなんて言ってたよな。それは普通の反応で、空を赤く染めるようなヤツと戦おうなんて考える人間はほんの一握りだ。
だけどゼシカの父親や兄は、大切なものを守るために自分で武器を取って戦うっていう考え方で、そういう人間が一番身近な存在だったゼシカにとっては、自分の力で戦って大事なものを勝ち取ることが当たり前のことだった。
そんなゼシカにとって、何かあった時に一緒に戦ってくれる人間はいないってことは、結構寂しいことなのかもしれない。ポルクとマルクは違うけど、あいつらはまだガキだしな。
「何かあった時は、ゼシカは真っ先に飛び出して先頭に立って戦うはずです。その時に隣に並んで戦えない人間にはなりたくありません」
そんなオレがずっとそばにいたって、ゼシカにとってはやっぱり寂しいはずだ。
「あなたは、ゼシカを危ない目に遇わせても平気なの? あの娘を幸せにしたいとは思わないの?」
『幸せにしたい』か、もちろんそう思ってはいるけど、肝心のゼシカがそれを望んでない。いや、望んでないっていうより、あてにされてないってのが正しいか。
「ゼシカは本当に強くて、オレなんかが彼女の幸せをどうにかするのは無理です。それどころか『あんた頼りないから私が幸せにしてやる』なんて言われる次第で。あの逞しさの1/10でいいから分けてほしいと思ってるけど、足元にも及ばなくて・・・。
でも逆にオレなんかに、ゼシカを不幸にすることも絶対できないと思うから、そういう意味では安心してもらえると思います」


203:『ずっと二人で』前編6/8 ◆JbyYzEg8Is
06/03/09 22:26:51 8hExe+4m0
アローザさんは大きな溜め息を吐き、カップをソーサーに置いた。
「いいえ、あなたも立派に逞しくて図太いわ。付き合いを反対してる母親の前で、よくそんなしまりのない顔してノロケられるものね。普通の神経じゃないわよ」
・・・今、ノロケてたっけ? それにしまりのない顔って、どんな顔してたんだ?
「もういいわ。サッサとゼシカの所にでも行ってくださいな。もうその顔を見ていたくありません。ゼシカの顔も見たくないから、今日は帰ってこなくて結構って伝えておいてちょうだい」
・・・ゼシカ、アローザさん、頭固くねぇよ。話がわかりすぎ。外泊OKだってさ。
「これで認めたと思ったら大間違いよ。そうそう思い通りにはさせません。結局最後には私の方が折れるハメになるんだから、尚更です」
苦労してるんだな、この人も。オレとの仲を反対する本当の理由を言うわけにもいかなくて、憎まれ役をしなきゃいけないのは辛かっただろう。思わずアローザさんの方の味方したくなる。
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。ゼシカを家出させるようなことは絶対にしませんから、それだけは心配しないでください。それと彼女を残していくようなことも、もう無いと思います。・・・今日はお話できて良かった。ありがとうございました」
オレも知ってる、置いていかれることの痛み。自分が味わうことも、誰かに味あわせることも、確かにもうたくさんだよな。
「これからのあてはあるの? 住む所や仕事のことだけど」
唐突に現実的な質問をされてしまった。
確かに今のオレは、住所不定無職状態だ。ルーラが使えるおかげでどこに住んでもリーザス村との距離はゼロに等しい分、選択肢が多すぎる。
「ゼシカが、西の大陸に定期船を出したいと計画してるのよ。もっと安全な方法で世界を旅できる人が増えるようにしたいと言ってね。だけど安全な航路を探すのには、海の魔物に強い護衛がいないと現実には難しいわ。
腕に覚えがあるのなら、引き受けてくださらない? ポルトリンクで良ければ、お部屋の手配もさせてもらうわ。返事は明日で結構よ。夕食にご招待するから、その時までに考えておいてくださいな」
・・・どうにも、まいったな。ありがたいような、怖いような。
アローザさんはオレより数段、役者が上らしい。これから先どうあっても、この親心を裏切ることは出来ないようだ。


204:『ずっと二人で』前編7/8 ◆JbyYzEg8Is
06/03/09 22:29:54 8hExe+4m0
リーザス像の塔から、音楽や村の人たちの楽しそうな声が聞こえてくる。ご先祖たちに楽しく生きてる姿を見てほしいと、ゼシカが計画したそうだ。定期船を西の大陸まで運行することといい、ゼシカもいろいろ考えて頑張ってたんだな。
ゼシカとオレだけが知っている目印、塔のてっぺんにある風車を魔法で回す。初めて試した時よりも、風の制御はうまくなったと思う。もっと訓練重ねていけば、空を飛ぶとこも出来るかもしれない。
ゼシカは気づいてくれただろうか? オレの方から塔に入っていってもいいんだけど、再会の抱擁やキスを村の人間に見せつけるのは、ゼシカが嫌がるだろうしな。
「ククール!」
背後からの声に振り返る。
ああ、そういえばこの塔は、リレミトで出ると随分離れたところに出るんだったっけ。
気品は漂うのに、おてんばぶりは相変わらずで、スカートのすそを跳ね上げて駆けてくる。
今日のゼシカは白いブラウスの普段着姿だ。やっぱり旅の間に着てた服より、こっちの格好の方が可愛いよな。目が赤くて、ツインテールが耳みたいで、ぴょんぴょん撥ねてくるウサギみたいだ。
態勢を整えて、飛びついてくるゼシカを抱きとめた。ゼシカのタックルは結構強力で、油断してると受け止めきれずに引っ繰り返るハメになる。
でも頬を上気させて、喜びを全面に表してくるその姿に、たまらない愛しさが込み上げてくる。
なのに・・・。
「お酒くさっ!!!」
おい! 再会の第一声は、これかよ!?
いや待て。確かに酒臭くて当たり前な量を飲んだんだ。
「・・・そんなに?」
「すごいわよ。だいぶ前に二日酔いになってた時よりひどいかも」
よくアローザさん、そんな奴に文句も言わず、夕食に招待までしてくれたよな。
「ホントまいったんだよな。あいつ、そっちの方では堅物だったから、酒なんてほとんど飲んだことないはずなのに、つえーの何のって。親父が大酒飲みだったから、血筋なのかもな」
「・・・会えたの? マルチェロに?」
ゼシカが心配そうな顔で訊ねてきた。
「それがさ、聞いてくれよ。あのクソ兄貴、会うなりいきなり斬りつけてきやがって、反射神経のいいオレじゃなかったら死んでたぞ、絶対。
おまけに『貴様のようなヤツと素面で話など出来るか』なんて言いやがって『だから酒飲みながら話すぞ』ってことになって。しかも酒代は全部オレ持ち」


205:『ずっと二人で』前編8/8 ◆JbyYzEg8Is
06/03/09 22:35:46 8hExe+4m0
「それで出た結論は『しがらみとか血の繋がりとか因縁なんて一切関係なく、やっぱりお互いソリが合わない』だった。だけど仲の悪い兄弟なんて、世の中には溢れる程いるだろうし、オレとしてはもう充分スッキリしたんだけど・・・これって変か?」
ゼシカはさっきから、異世界の話でも聞いてるような顔をしてる。
まっとうな兄弟だったことが一度もないから、標準がどういうもんかわからねぇんだよな。だけどいい年した男同士の兄弟って、意外とそんなもんかとも思ってるんだけど、やっぱりちょっとは不安になる。
この期に及んで、実は気持ちの整理はついてませんってオチは目も当てられない。
ゼシカはちょっとだけ呆れたような顔をして、だけどすぐに柔らかく微笑みかけてくれた。
「ううん、変じゃない。・・・良かったね」
心の中にゆっくりと染みてくる言葉。
そうだな、良かったんだ。その証拠に、ゼシカの瞳を真っすぐに見つめ返せる。心の奥まで見透かされるのが怖くて、今まで何度も逃げ続けてきた瞳。でももう、心の中全部見られても、何一つ後ろめたいことはない。
「ああ、ありがとう。ずっと待たせてごめん。今度こそ、もうどこにも行かない」
そこまで言った後に、とりあえず付けたしといた。
「多分」
何となく、オレはそう簡単に平穏な暮らしは出来ないような予感がしたからだ。あと一回ぐらいは、揉め事に巻き込まれそうな気がする。
「何よ、その多分って! 普段嘘つきなくせに、どうしてこういう時だけバカ正直なの!?」
やっぱり怒られた。
「だけど、もうゼシカを残してはいかない。何かあった時は力を貸してほしい。・・・酒臭くて悪いけど、キスしていいか?」
「・・・そういうことは、いちいち訊かないでちょうだい」
ちょっとテレたように怒る顔が可愛くて、つい笑ってしまう。
「相変わらずイジワルなんだから。でも変わってないから、ホッとした。おかえりなさい」
「・・・ただいま」
ずいぶん遠回りして、ようやく辿り着くことが出来た。真っすぐにゼシカと向き合える自分に。
今度こそ本当に大丈夫だ。
これからは何があっても、ずっと二人で生きていける。


206:『ずっと二人で』後編1/8 ◆JbyYzEg8Is
06/03/09 22:38:09 8hExe+4m0
「良かったね、ミーティア。ずっとこの日が来るのを待ってたんだものね。二人ともよく我慢できたと思う。本当に立派だったわ」
サヴェッラ大聖堂から、エイトとミーティアが手を取り合って、結婚式を脱走してから丸二年。
一方的に婚約破棄したチャゴス王子に対してのせめてものお詫びとケジメのためと、王子の赦しが得られるまでは、二人は決して結ばれようとはしなかった。
私もククールも、ヤンガスやトロデ王も、チャゴス王子にそんな気持ちが通じるわけがない、赦しが出るのを待っていたら一生結婚なんて出来ないと説得したわ。
だけど二人は、クラビウス王が王位をチャゴス王子に譲った時に、争いの火種になるようなことにはなりたくないと、頑ななまでに王女と臣下という関係を守り通した。
それが三カ月前、何とあのチャゴス王子が結婚し、しかもそのお相手が、ダメダメ王子の首根っこを押さえ付けて叱ってくれるしっかりした女性で、正式にトロデーンに使者を寄越し、二つの国の間の友好と平和を約束してくれた。
ようやく二人は明日、このトロデーンの城で結婚式を挙げることになった。

ついさっきまで、東屋で一緒に旅した六人でお酒を飲んでたんだけど、男性陣は残して私とミーティアは二階のテラスで酔いを覚ましてる。
私は二人きりの時だけ、ミーティアから『姫様』を取って呼んでる。私もずっとリーザス村では『お嬢様』って着けて呼ばれてて、お互いに呼び捨て出来る女友達を持ったのは初めてだった。
「ほんとに私、何にもしてあげられなかったね。ようやく呪いが解けた後も、なかなか幸せになれないのを見てるのは辛かったわ」
「何にもできなかったなんて、そんなことありませんわ。ゼシカたちが暗黒神を倒してくれたからこそ、私もお父様も、そしてこの城の人たち全員が呪いから解放されたんですもの。それにサヴェッラ大聖堂で、聖堂騎士団の方たちと戦ってくださったこと、絶対に忘れませんわ」
サヴェッラでの話をされると、ちょっと胸が痛むわ。あの時はククールがエイトにハッパかけるために『オレが姫様さらって逃げる』なんて言ったもんだから、私そっちの方で頭が一杯で、ミーティアの心配してあげてなかったのよね。
そういうことを黙ってるのは得意じゃないし、そろそろ時効だとも思うので、その時のことをミーティアに打ち明けた。


207:『ずっと二人で』後編2/8 ◆JbyYzEg8Is
06/03/09 22:40:09 8hExe+4m0
「まあ、ゼシカって本当に鈍いわ。ククールさんがずっとゼシカを大事に想ってたことなんて、あのエイトやヤンガスさんでさえ丸分かりでしたのに」
私って鈍い? カンはいい方だと思うんだけど。それにエイトとヤンガスにさえ丸分かりって、そんなにわかりやすくなかったわよ。確かに優しくはあったけど、同じくらい意地悪もされてたもの。
「エイトもね、その時のことは一生忘れないって言ってましたわ。
ミーティアをさらって逃げるなんて言葉は、どうせハッパかけてるだけだっていうのはわかりきってたので、何とも思わなかったらしいんだけれど、大階段の下で『仲間だから力を貸す』って背中を押してもらった時、何も怖いものなんて無くなったんですって」
私もその時のことは覚えてる。それまでちょっと俯き加減だったエイトが、急に力を取り戻したように階段を駆け上がっていったのを。
「あれだけツンツンしてて、ひねくれたことばっかり言ってて、気まぐれで気難しくて素直じゃなかったククールさんに、面と向かって『仲間』だって言ってもらえる日がくるとは思ってなかったんですって。
その言葉を言ってもらうことに比べたら、結婚式の邪魔をすることなんて、大変でも何ともない。そう思ったって言ってましたわ」
・・・それ、ほめてないわよね?
でもエイトの気持ちはわかる気がする。確かに初めの頃のククールはひどかったわ。特にエイトに対して八つ当たりしすぎて、よくシメられてたものね。
そんなククールに認めてもらえたと思うと嬉しいよね。
・・・あれ?
今思い返して見ると私、もしかして一度もククールに『仲間』って言ってもらったこと無いんじゃないかしら・・・。

「お前の話なんかまともに聞こうとしたオレがバカだったよ。だいたい、ムサ苦しい野郎ばかりのとこで酒飲んだってうまくねえや。オレはレディたちに交ぜてもらうぜ」
ククールが何やら怒りながらテラスにやって来た。エイトが一生懸命、宥めようとしながら着いてきてる。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもねえよ。珍しくひとのこと褒めてんのかと思いきや、ツンツンしてたの、ひねくれ者だの、きまぐれで気難しくて素直じゃねえだの、言いたい放題言いやがって。
このおとなしい顔に騙されるけど、こいつとんでもなく毒舌で容赦なくて、腹ん中は真っ黒だぞ」


208:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/09 22:40:38 BJzNys5yO
なげーよW

209:『ずっと二人で』後編3/8 ◆JbyYzEg8Is
06/03/09 22:41:42 8hExe+4m0
・・・もしかして、さっきミーティアが言ってたのと、全く同じことを言ったのかしら。
ミーティアと顔を見合わせて笑ってしまう。
多分エイトはお礼を言ったつもりなんだろうけど、ククールじゃなくたってそうは思えないわよ。エイト、思ったままを正直に言い過ぎよ。

新郎新婦が結婚式の場でお酒臭いのは問題ありなので、いろいろ話は尽きないけれど、早めにそれぞれの部屋に引き取った。
誰が部屋割りしたのかは知らないけど、私とククールは当たり前のように同じ部屋をあてがわれてしまった。もちろん今更、そのことに抵抗はないけれど。
「なあ、エイトのやつ、少し元気なかったと思わなかったか?」
ククールがいきなり深刻そうに言い出すから、私はドキッする。
「ううん、気が付かなかった。元気ないってどんな風に?」
「初めはマリッジブルーかとも思ったけど、あの呑気者にそんなのあるわけねぇし、どっちかっていうと精神的な問題じゃなくて、身体の方が弱ってるような感じなんだよな。でもヤンガスも気づかなかったって言ってたから、オレの思い過ごしだな」
そんなこと言われても、ちょっと不安にはなる。だって、ククールのそういう感覚って怖いくらい外れないから。
「そんな顔するなよ。多分、結婚式の準備なんかで疲れてたんだろ。エイトがそういうのに向いてるとは思えないからな」
ククールの声は真面目なのに、手の方は私の服を脱がせはじめてる。
「何やってるの?」
「何って、こうやって二人きりでゆっくりできるの久しぶりなんだから、有意義に過ごそうとしてるだけ」
お母さんが自分の手でサーベルト兄さんの部屋を片付けて、そこをククールの為にあけてくれてから、もう半年。
だけど結婚はおろか、つきあいすら認めてないと言い張ってる。
なまじ同じ家に住んでるのに、家長の目が光ってるという微妙な状態だから、確かにゆっくり二人きりにはなりにくい。
お母さんたら、私よりもククールとの方が気が合うみたいなのに、本当に何がいつまでも気にいらないのかしら。
ここまで来るともう、ただ意固地になってるとしか思えないわ。


210:『ずっと二人で』後編4/8 ◆JbyYzEg8Is
06/03/09 22:43:31 8hExe+4m0
結婚式はトロデーン城の中庭で行われた。
サザンビークへの遠慮もあって、招待されたのは少数の親しい人たちだけなんだけど、二人の晴れの姿を一目見たいと多くの人が集まってくれることは予測できていたので、
自分たちの幸せな姿を見てもらうために、教会の建物の中ではなく、こうして外に面した場所で永遠の愛を誓うことを選んだんだとミーティアが教えてくれた。
広大なお城よりも更に広い面積を誇る中庭は、国中から集まった人たちで溢れかえり、高価なものや豪華なものなんて何もなかったけど、喜びや幸せ、祝福と感謝が一杯で、何よりも素敵な時間だった。

結婚式から一週間後。明日はエイトとミーティアが新婚旅行に出発し、私たちもそれぞれの生活に戻るという日、おかしな夢を見た。
星空がとても近い、高いところにある祭壇のような場所。大きな竜の石像が、何も記されていない石碑を守るかのようにたたずんでいる。やがて炎に照らされたその石碑の中央に、何か紋章のようなものが浮かびあがる。神秘的な光景のようで、何か恐ろしい程の力を感じた。
目を覚ました時、それがどこかで見た覚えのある場所だと気づく。
確かあれは、ベルガラックからサザンビークへ続く街道の途中にある高台の上の遺跡。
空を飛ばなきゃ行けないような所に、どうしてこんな巨大な建造物があるのかと思った場所だったはず。
何でこんな変な夢を見たりしたのかしら?

朝になって、エイトが高熱を出して起きあがることさえ出来ないほどに弱った状態になっていると知らされた。
病気に対しては回復魔法は効かず、出来ることといえばオークニスのグラッドさんの所へ行って、良く効く解熱薬を貰ってくることぐらい。
さすがにグラッドさんの調合した薬の効き目はすごくて、熱だけは程なく下がったけど、何かに生気を吸い取られているように感じて、力が入らないらしい。
ねずみのトーポも、飼い主の不調に同調してしまったように、力無く横たわってしまっている。
ミーティアの話によると、私が見たのと全く同じ、祭壇の遺跡をミーティアもエイトも見たらしい。そしてその直後に、エイトは熱を出して寝込んでしまった。
ククールとヤンガス、トロデ王も同じ夢を見たという。この事とエイトの異変が無関係だとはとても思えない。


211:『ずっと二人で』後編5/8 ◆JbyYzEg8Is
06/03/09 22:44:50 8hExe+4m0
「だけど、もう神鳥のたましいは親のレティスとどっかへ行っちまったでがす。確かめに行こうにもお手上げでがすよ」
ヤンガスの言葉に、ククールが答える。
「いや、様子を見に行くぐらいなら、多分何とかなるぜ。あそこは街道からは離れてないから、二日あれば行って戻って来れると思う」
ククールはずっとバギの魔法を、切り裂くだけじゃなくて、物を動かしたり持ち上げたりするのに使えるんじゃないかって、風の制御の練習をしていた。
亡くなったオディロ院長がそういう風の使い方をしていたらしく、そのご先祖の予言者エジェウスも、空を飛ばなきゃいけないような所に石碑を残していたことから、使いようによっては空ぐらい飛べるんじゃないかって思ったんだって。
実際に、鳥のように飛ぶことは出来てないけど、真上にだったら、かなりの高さまで浮きあがることが出来るようになってる。

ヤンガスも一緒に行きたがったけど、『その体重を抱えて飛ぶ自信は無い』というククールの言葉で、おとなしく留守番することになった。
そして私とククールの二人だけで、謎の石碑の様子を確かめにいく。
そこには夢で見たのと同じ光景があった。初めて見た時には確かに何も記されていなかったのに、今は翼を広げた竜のような紋章が浮かび上がっている。
そしてその紋章に手を触れると辺りの風景が変わり、洞窟のような場所に出る。だけど、ほんの少し進んだだけで、すぐに引き返すことになった。
出現する魔物の強さが半端じゃないんだもの。何があるかわからないから、一応武装はしてあったけど、ラプソーンの空飛ぶ城にいたのより、更に強い魔物がゴロゴロしていた。
二人だけで先に進むのは、諦めるしかなかった。

トロデーンに戻ると、エイトは大分元気を取り戻して、起き上がれるようにはなっていた。
だけど何かに体力を奪われてるような感覚が完全に無くなったわけでもなくて、本人曰く『慣れた』らしい。
あと嘘みたいな話だけど、ヤンガスのアドバイス通り、とにかく食べまくったら少しはマシになったそうだ。トーポにも大好物のチーズをたくさんあげたら、ちょっとだけ元気になったって。
その辺りは、いろんな意味で『さすがエイト』っていうしか無いわよね。


212:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/09 22:46:16 BJzNys5yO
あげときますね

213:『ずっと二人で』後編6/8 ◆JbyYzEg8Is
06/03/09 22:47:38 8hExe+4m0
トロデ王を含めた六人で、この後どうするべきかを相談した。
やっぱりあの石碑が無関係じゃないっていうのは、全員一致した意見なんだけど、簡単に『行けるとこまで行こう』というわけにもいかない。
出てくる魔物が普通の強さじゃなくて、エイトもいつまた倒れるかわからない状態。ククールも石碑までは一人ずつ運ぶので精一杯で、体重が二人分は軽くあるヤンガスは最悪残ってもらって、ルーラ可能な町があるようなら、そこから合流ってことになる。
あんまりにも戦力が心もとなさすぎる。
それにエイトはこのトロデーンの近衛隊長であると同時に、世継ぎの王女の夫でもあるんだもの。どれだけかかるかわからない旅に出るなんて簡単には出来るわけがない。
「では、新婚旅行はそこにしましょう」
そんなことを色々考えていたのにミーティアは、その辺の湖にピクニックでも行くような調子でそう言ってきた。
「もう馬車を引いてお手伝いすることは出来ませんけど、ご一緒させてください。今度はミーティアがエイトの為に力になりたいんです。自分のことは自分で守れるようにしますから、どうか連れていってください」
ククールとヤンガスは慌てて止めようとするけど、トロデ王はアッサリ賛成した。
「そうじゃな、それがいいかもしれん。二年もの間、我慢を続けてきたのじゃから、新婚旅行が少しぐらい長くなっても、異を唱える者はおらんじゃろう」
二人を一番近くで見守り続けていたトロデ王は反対しない。
ドルマゲスがこの城から杖を強奪した日、賊が潜んでいるかもしれない場所に愛娘のミーティアを同行させた話を聞いた時は、少し驚いた。旅の間は、ミーティアを危険な場所に連れていくのを何より嫌がっていたトロデ王だから。
でもトロデ王は知ってるんだ。それが必要な時はどんな危険な場所でも、ミーティアは必ず行く人だってことを。まして今度はエイトのことだもの。お城で留守番なんて絶対しないわよね。
そして私はこれも知っている。実はミーティアが、とっても力持ちだということ。
馬に姿を変えられて、旅の間引き続けていた馬車は錬金大好きエイトのせいで、使わない武器防具も捨てられずに荷物が増える一方だった。そうしてる内に自然に足腰は鍛えられていき、腕も足と同じだけの力に持つに至ったことを。
確かに自分の身ぐらいは自分で守れるかもしれない。

214:『ずっと二人で』後編7/8 ◆JbyYzEg8Is
06/03/09 22:49:32 8hExe+4m0
出発は三日後に決まり、準備のために一旦それぞれの住まいに帰ることになった。
「ククールさん、あなた一体いつになったら落ち着いてくれるの? おまけに今度はゼシカまで連れていくのね。それなら許されると思ってるわけ?」
事情を説明して家を開けることを伝えると、お母さんは深い溜め息を吐いてククールに文句を言う。
「すみません。でもほら、もう残してはいかないっていうのは嘘じゃなかったっていうことで」
それに対してククールは全く悪びれない。私には今一つ意味がわからないんだけど、二人には通じてるみたいで、お母さんはククールを睨みながら、更に大きな溜め息を吐いた。
「・・・三カ月だけですよ。三カ月経ったら絶対に戻ってきなさい。私はその間、ウエディングドレスでも縫いながら待ってることにしますから」
お母さんにしては、ずいぶん諦めが早いわ。って・・・ウエディングドレス?
「いつまでも独り身でいるから、フラフラするのかもしれないわね。あなたたちも、いつまでも若くないんだから、いい加減に家庭を持ってしっかりしてちょうだい」
自分で反対しまくってたくせに、よくそんなセリフが口から出てくるもんだと思う。だけどあんまり突然のことで、声の出し方を思い出せない。
「ありがとう、ございます・・・」
いつもは冷静なククールも、それだけ言うのがやっとみたい。
「いいから、早くお行きなさい。そして忘れないで、三カ月だけですよ。三カ月経ったら、どこにいようとどんな状況だろうと、必ず戻ってらっしゃい。あなたたちが帰ってくる場所はここなんですからね」

支度を終え、トロデーン城へルーラするために家の外に出た時、ククールが呟いた。
「三カ月か・・・」
お母さんがとうとう認めてくれたことで頭がいっぱいだった私は、ククールのその言葉で三カ月という期限をつけられたことを思い出す。
あんなふうに言ってくれたお母さんの気持ちを裏切ることは出来ない。だけど三カ月経ってもまだ問題が解決してなかったとしたら、エイトをそのままにして戻るなんて、もっと出来ない。
何とか三カ月の間に、エイトの体調不良の原因を突き止めて、それを取り除けるように頑張らなくちゃ・・・。



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