06/03/14 04:11:36 Q9rYk3d90
>>268-274より
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リーブが言葉を止めると、室内には静寂が広がった。周囲を埋め尽くす機械達も、
まるで息を止めてしまったかのように沈黙する。
この静寂の中で、シェルクの脳裏では先ほど刻み込まれたばかりの記憶が再生
されていた。
自分たちの意志に反して閉ざされようとする扉の隙間から、限られた時間の中で
シャルアは自分の気持ちを、思いを、妹に伝えようとした。彼女はその場に立ちつくす
シェルクの腕を強く引くと、何のためらいもなく閉じかけた扉に自らの左腕を挟み込んで
退路を確保し、妹を出口へと導きながらこう叫んだのだった。
―「私たちは、これから10年を取り戻すんだ」
腕をつかまれさらに強く引っ張られた。痛みに思わず見上げれば、シャルアの真剣な
まなざしがあった。ぼんやりと、姉の力はこれほど強かったのかとシェルクは思った。
そのときの感覚が、まだ残っているような気がする。まるで今でも、腕を引かれている
ような―
錯覚。
「……!?」
脳裏によみがえったビジョンを打ち消すように、シェルクは目を見開いた。瞼を閉じれば
また同じ闇の中に記憶が再生されるのではないか? 不安になって、瞬きすらためらった。
そんな自分を否定するように、あるいは隠すように言葉を発した。
「自分の感じた感情を全て伝えることなど、不可能でしょう。たとえ血を分けた家族だろうと、
同じものを見た人間だろうと。その精神構造や思考過程には個人差がありますから……
それに」
キーボードをたたきながら、少女は淡々と答えた。もともと起伏のない話し方しかできないが、
今は違う。とても不愉快だった。