06/03/04 12:15:19 5sTf3RY20
>>148-150 >>170-176 >>197-198>>216-217>>221-224から続きます。
非常階段に監視カメラはなく、ティファはなんなく地下12階まで降りる事が出来た。
ここまでは楽に来れたが、ここからはそうはいかない。
踊り場からフロアに抜ける重い鉄の扉をほんの少しだけ開き、中の様子を伺う。
やはり、監視カメラがあった。
だが、天井に設置されたそれを破壊する術をティファは持っていない。
飛び蹴りや、何かをぶつけるにしても、音で見つかってしまう。
仕方がないので、カメラが反対側を向いている間に飛び出し、その真下の壁にぴたりと張り付く。
反対側を向いたカメラが戻って来て、今度は180度逆を向いた隙に、
ティファは向かいにある部屋に飛び込んだ。
最初に入った部屋より広いだけでほぼ同じ作りだ。壁一面のモニターと端末。
「ここね…」
ティファはモニタの側に駆け寄ると、片端から指令書を読んで行く。
どれも、最初の部屋で見た物と同じだ。
他のファイルを開こうとしてみたが、パスワードがかかっている。
パスワードを解析したり、いくつものサーバーを経由されているルートを探る技術がティファにはない。
ここまで来て、手詰まりかと思った所で、最後のモニターに見覚えのないファイルが開いている。
おそらく、閉じ忘れたか、見ている途中で席を外したのか…
(やっぱり、ツイてる…)
ティファは携帯電話から薄型の記録メディアを取り出すと、
カードリーダーに差し込んだ。地図のファイルを別名保存して、移す。
データーを移動させている間に、地図を見てみると、
「ディープ・グラウンド…?何かしら?」
端末を操り、地図をどんどん開いていく。
(いくつもエレベーターを乗り継ぐのね。もっとずっと地下…)
データーを移し終えた所で静まり返った室内に携帯の呼び出し音が響いた。
着信を見るまでもない。
良いタイミングで電話をくれたと、ティファは着信ボタンを押した。
229:エッジ前哨戦【30】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/04 12:16:18 5sTf3RY20
話は少し戻って。
怒髪天を衝くとはまさにこの事、状態のクラウド。
ティファを説得する言葉が浮かばず、考えれば考えるほど、
(1)ティファの気持ちは分かる。
(2)でも心配。
(3)心配なのが何故分からないんだ。
(4)いや、ティファの気持ちを理解すべきだ。
(5)でも心配。
を、頭の中で延々繰り返し、自分の怒りに自分で油を注いでしまい、
まるで興奮剤でも飲んだかのようだ。
いつも自分を待っていてくれる者がどれだけ不安を抱えているのか知る由もなく、
それに振り回され、持て余していた。
(何を考えてるんだ…こんな時に!)
クラウドは軽く頭を振り、冷静さを取り戻そうとする。
そして、改めてティファ説得の言葉を考えるのだが、
そうするとまた思考ループに逆戻りしてしまうのだ。
彼の名誉の為に補足させてもらうが、ティファの心配ばかりをして、
決してマリンやデンゼルの事を忘れているわけではない。
子ども達は大人しく避難しているものだと思い込み、
そこから抜け出しているなんて、彼の想像の範疇外の出来事なのだ。
ともあれ、なんとか言葉を整理し、要点をまとめた所でミッドガルの廃墟が見えて来た。
まずはティファの居場所を確認しなくては…と、電話を手に取る。
今度はすぐに繋がった。
230:エッジ前哨戦【31】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/04 12:17:02 5sTf3RY20
「クラウド?私も今かけようと…」
「ティファ…!今どこだ!?」
めったに聞けないクラウドの怒鳴り声に、ティファは少々面食らったものの、
「神羅ビルの地下よ…地下の12階。聞いて、クラウド!
本拠地への地図を手に入れたの。ここの地下が怪しいわ。」
まだ冷静になりきれないクラウド、ティファの言葉は右から左だ。
「ティファ、今、ヴィンセントがこっち向かってる。」
「ヴィンセントが?どうして?」
(どうしてって…)
ティファの返事がクラウドを再びパニックに陥れる。バレットとの会話が洪水となって頭に渦巻く。
自分なりに整理した言葉が浮かばず、どうしてだか、情報を整理して筋立てして話す事が出来ない。
「ティファ、これは彼の戦いなんだ。」
唯一思い出す事の出来たセリフを言う。
「やはり神羅が…宝条が絡んでるのね?奴の研究か何か…」
「そうだ。WROとの総力戦になる。だから…」
「分かったわ。」
ティファの察しの良さのお陰でなんとか伝わったのだが、
ティファが漸く自分の言う事を聞いてくれたことに、クラウドは胸を撫で下ろした。
「あと少しでそっちに着く。だから…」
言いかけた途端、電話の向こうで機銃の音がして、電話が途切れた。
「ティファ?ティファ…っ!」
叫んでも、ツーッという無機質な音しか聞こえてこない。
その時、クラウドの中で何かがプツンと切れる音がした。
231:エッジ前哨戦 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/04 12:23:12 5sTf3RY20
>>227
ありがとうございます。
素直に頷かせようか迷いましたが、マリンならこうかなと
悩んだ末に言わせたのでうれしいです。
ほとんどラストまで書き終えましたが、あと少しと推敲が残ってます。
本日の投下は以上なのですが、明日には完結すると思います。
あと、もう一度だけお付き合い下さいね。ノシ
232:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/04 15:07:24 iD+88q0Y0
乙です!毎回ハラハラさせられっぱなしです(゚∀゚)
いよいよ完結してしまうんですか。早く読みたいけど、終わってしまうのは淋しいですね。
続き、楽しみにお待ちしております。
233:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 03:03:16 /nFJ86tL0
>>エッジ前哨戦
すごく興味深かったのが、ACでバレットはデンゼルに「ここで母ちゃんを守れ!」と
言っていることを受けてのデンゼルの行動描写(>>224)があったと解釈すると、バレットが
すごく良い味出してるなと思います。守るは守でも、人を傷つけずに守る方法があるのだと。
……元テロ組織のリーダーが言う台詞じゃありませんw
(主には)FF7本編でのバレットの経緯(魔晄炉爆破→ダイン再会→最終戦前決意表明)
があっての台詞なんだなとしんみり。
WROの解釈としては、既出のデンゼルの子どもらしい優しさの裏返しっていう解釈と、
ボランティア機構(小説作中にもちらっと登場していた)を踏まえてみてもいいんじゃないかな、
なんて。
そんなわけで、なんか予想外にバレットに萌えたw
GJ!
234:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅢ(1)
06/03/05 03:29:05 /nFJ86tL0
前話:>>180-185
設定:依然としてOn the Way to a Smile(AC公式サイト小説)で描かれるリーブ象をお借りしてます。
舞台:DCFF7第1章@WRO本部かどっか
備考:DCFF7第1章教会前広場へ至るまでの経緯を妄想。
BC未プレイのため、ここでは考慮の対象外になってます。
----------
遠い昔。もうとっくに忘れてしまったはずの、幼い頃の記憶。そんなものが、
ふとした拍子によみがえる事がある。
私の手には今、ライフルが握られている。我々を乗せたトレーラーは敵が
展開するカーム市街の中心へ向けて走行していた。扉を背にし、いま一度
装備を確認する。
『目的地点到達まで、およそ2分30秒。総員、出撃に備えてください』
無線からもたらされる音声に、自然と身が引き締まる。護身用の拳銃なら
まだしも、こんなライフルを手にしたのは神羅勤続時代に訓練と称して持た
されて以来の事だった。
―「モンスターに出会ったら、すぐに逃げましょう。そして大人に知らせ
ましょう。」
それは幼い頃に読んだ本の記述だった。そんなものが、今になって思い
出された。なぜ? よりにもよってこんな時に思い出さなくてもいいものだろうと、
リーブは大きく頭を振った。
カーム市街中心部は、すぐそこに迫っていた。
235:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅢ(2)
06/03/05 03:33:04 /nFJ86tL0
***
「もう少し柔軟性が欲しいな……」
腕立て伏せをしながら彼女は独り言をつぶやく。さすがに息を切らしてはいた
ものの、両腕はしっかりと彼女の身体を支えていた。ことさら左側の腕が気に
かかるらしく、その後も念入りに関節の屈伸運動を何度も繰り返した。
しばらくすると、気になったのか額にうっすらにじんだ汗を右手でぬぐう。そして
僅かに安堵した表情で。
「……発汗機能はまだ正常だな」
確認するようにつぶやいた。
WRO―世界再生機構の技術部門研究室。白衣を身にまとって何をしている
のかと思えば、端から見れば筋トレそのものだった。確かに、彼女の過去をたどれば
根っからの研究者という訳ではないのだが、それにしても、わざわざ研究室で
やるような事ではない。
彼女の名前はシャルア=ルーイ、技術部門きっての天才科学者と名高い女性で、
同時に歴戦の勇士だった。目の前に立ちはだかる敵こそ違えど、ある目的のために
10年以上も戦い続けてきた経歴を持っている。
「……訓練施設や相応の設備を用意しているのですから、研究室でそんなに動き
回らなくても良いと思うのですが」
そんな彼女にまるで愚痴でもこぼすようにして言いながら、男はこの研究室の扉を
くぐった。彼の来訪をシャルアは予期していたとでも言うように立ち上がると、
引き出しの中からキーを取り出し男に手渡しながらこう言った。
「性分なんでしょうね、きっと」
236:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅢ(3)
06/03/05 03:35:52 /nFJ86tL0
「……そうおっしゃるだろうとは思いましたが」
やれやれと言いたげな、けれど悪意のないにこやかな笑顔を向けるのはWRO局長
その人だった。
「ところでお体の具合、いかがですか?」
「相変わらず。生きている、と言ったところです」
素っ気ない返答にもリーブは笑顔を絶やさないままだった。こういう物言いは彼女らしい
と、そんな風に思う。彼女の人柄を表した、いっそ殺風景とも思える室内を一通り見渡した
ところで、彼の表情から笑みは消えた。
机の上に、補給用の弾と拳銃を見たからである。
「……どちらへ?」
「これから派遣される部隊のトレーラーに便乗させてもらおうと考えています」
「…………」
それを聞いて彼女がどこに向かうのかは分かった。彼女が外出する目的も、その理由も
知っている、だからリーブはそれ以上追及することはなかった。正直に言ってしまえば、
追及したくともできないというのが本音だろう。
渡されたキーを懐へしまう。
「あちらの情勢はカーム以上だと聞いています」
「ご心配には及びません。終えたらすぐに戻ります」
直接的な言葉を向けてもすぐ返されてしまうだろうし、かといって口に出さないまま、
と言うわけにもいかない。その葛藤の中でようやく出たのが、この程度の言葉だった。
ため息をつきたい気分だった。そんな彼の姿を見て、シャルアは皮肉混じりに言って
みせた。
「……やっている事はお互い同じようなもの、そうではありませんか?」
中途半端に言葉を向ければ、こんな風に手厳しい指摘を受けるのは最初から予想できた
はずだったのに。
「同じかも知れませんが、方法が違います」
しかも口をついて出たのは子供じみた言い訳だったのが、我ながら情けないと思う。
「それはそうでしょう。同じ方法で見つかるものではないですからね」
「…………」
互いが、互いのことを責めていると言うわけではないのだけれど。どうにもこういう
雰囲気には慣れない。先に切り出したのはシャルアだった。
237:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅢ(4)
06/03/05 03:46:01 /nFJ86tL0
「局長の方はいかがなんですか? 該当のIDは……」
先程手渡したキーは、WRO本部のメインコンピュータが納められている部屋の
ものだった。あれだけの規模でなければ、彼の目的である“捜し物”はできないことを
シャルアは知っている。復興活動の片手間に、彼が密かに取り組んでいた“捜し物”に
手を貸そうと思ったのは、シャルア自身にも覚えがある感情のためだった。もちろん、
それを悪いことだと思いはしないし、たとえ思ったところで自分に彼を責める資格は
ないだろう。
「検知システム自体が壊滅的な被害を受けていますからね。今となってはほとんどが
使い物にはなりません」
「それでも、調査を?」
「性分なんでしょうかね」
そう言って、リーブは自嘲気味に笑った。
当時、管理されていた何万とある住人のIDから探し出そうとしているのは、たった1つ。
しかもミッドガルそのものが破壊され、検知システム自体が機能していない現状で、
そのIDにたどり着ける確率は限りなくゼロに近い。それでも、やらなければ可能性はゼロ
のままである。万に一つでも可能性があるのなら、やらないわけには行かない。
そのIDの所在が分かれば、彼女のいる場所を突き止めることができる。
あるいは「いた」場所が。
だからこそ、リーブはシャルアを追及しようとはしないし、できないのである。手早く
身支度を調えるシャルアの後ろ姿を見ながら、気休めにしかならないかとも思ったが
言葉をかけた。
「カームで彼と合流した後、私たちもエッジへ向かいます。……彼ならきっと、あなたの
力になってくれるかも知れません。ですから……くれぐれも」
最後にシャルアは拳銃をしまうと、珍しく微笑んで見せた。
「ご心配には及びません。局長こそお気を付けて」
短くそれだけ言って、シャルアは部屋を出た。
238:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅢ(5)
06/03/05 03:56:16 /nFJ86tL0
***
(私は今でも、大人にはなりきれていない。そういうことでしょうかね)
誰にも気づかれぬよう俯いて、やはり自嘲するように笑った。
『目的地点到達まで、55秒。現在、市街中心部にはディープグラウンド
ソルジャーが展開中』
無線からもたらされる情報には、どこにも楽観できる要素はなかった。
来るべき戦闘に向けて集中しなければならない、そのはずなのに。
―「モンスターに出会ったら、すぐに逃げましょう。そして大人に知らせ
ましょう。」
『目的地点:カーム教会広場前付近にドラゴンフライヤーGLの機影を確認。
予定進路を変更、目的地点到達まで1分30秒』
その声を聞いて、トレーラー内の隊員に緊張が走る。想像している以上に
事態は深刻だった。
沈黙。
そこには開戦前の、一種の高揚感が満ちていた。衝撃に備え、各々が壁際に
身を寄せ衝撃に備える。予告通りの時間が過ぎると、めいっぱいブレーキを
踏み込んでトレーラーは停車した。同時にそれが扉の開かれる合図でもあった。
一斉にトレーラーから飛び出し、銃弾の雨が降り注ぐ教会前広場へと飛び出
した。その中で、広場に彼の姿を見いだしたリーブは叫んでいた。
「……ヴィンセント!」
その声に分かったと頷いて、彼もまた身を翻すと広場中心部へ向けて走り出した。
彼らの後ろ姿を見ながら、リーブは引き金を引いた。
鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅢ<終>
----------
・へたれとか他力本願とか言うな。…言わないでくださいお願いします。
・ID検知システムネタをどうしても使ってみたかった、今は反s(ry。
・シャルアはどの分野での学者かは不明なので都合解釈。すんません。
239:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 13:18:06 4S9toHaY0
いつも乙&GJです!
DCの世界がますます広がります。
240:エッジ前哨戦【18・訂正】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:47:01 4S9toHaY0
「俺、汲んで来るよ!」
「だめ!」
いつの間に側に来たのか、マリンが叫ぶ。
「危ないよ!絶対にだめ!」
でも、泣いてる赤ん坊を放っておけないし、泣き声で見つかってしまうかもしれない。
「すぐ上の、店の厨房だし平気だよ!」
大人達も口々に止めるが、 少しでもクラウド達の役に立ちたい気持ちと、
子供らしい冒険心と、 何よりも泣いている赤ん坊を守ってあげたくて。
「大丈夫!俺、こう見えてもWROの隊員なんだ。」
訝しげな大人達の顔をぐるりと見渡し、デンゼルは努めて明るい声で続ける。
「本当だよ!訓練だって出てことあるんだ。見つからないように…すぐそこだし、大丈夫!」
実際は何度かボランティアとして参加しただけだった。
だが、これくらい言わないと、大人達が納得しないと思ったのだ。
「確かに、今のところ怪しいやつらはいなかったけどねぇ…」
ティファに助けられた家族の、母親の方が呟く。
>>232
いつも読んで下さってるんですね、ありがとうございます。
終わっても他にもネタがあるので、また投下に来ますね。
>>233
デンゼルを諭すのは、口下手クラウドでは無理かなと思って彼に任せました。
バレットは戦いを通じてと、その後で変わったんじゃないかと思ってます。
デンゼルの件もアドバイスありがとうございました。
どう直そうかテンパってたので、アドバイス下さった皆様(>>233>>219>>206>>201)
ありがとうございます。
では、ラストの投下参ります。10スレ越えちゃいますが、どうぞ最後のお付き合い願います。
241:エッジ前哨戦【32】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:48:21 4S9toHaY0
>>148-150 >>170-176 >>197-198>>216-217>>221-224>>228-230から続きます。
ティファが振り返ると、入口の所に紅い髪と紅い瞳の女が立っていた。
気が付かなかったのは気配を消していたからか。
アーチェリーのような、不思議な武器を持っている。
女は艶然(えんぜん)と微笑んでいるが、瞳はぞっとするほど冷たく、
その身から放つ殺気で、ティファの肌が粟立つほどだ。
電話は壊されてしまったが、カードを入れる前で良かった。
ティファはカードをポケッとにしまうと、ファイティングポーズを取る。
「泥棒猫が入り込んだって聞いて来てみたけど…」
女はティファを値踏みするかの様に見つめ、ふん、と鼻で笑う。
「あなた、強いの?」
「あなたよりはね。」
ティファの答えに女は甲高い声で笑うと、手にした武器をティファに向けた。
「ロッソと呼んで。ディープ・グラウンドでは“朱のロッソ”と呼ばれてるわ。」
ティファはそれ以上答えず、ゆっくりと息を吸い込む。と、床をスライディングして足払いをかける。
と、ロッソは目にも止まらぬスピードで部屋の反対側に移動する。
それを追って、ティファは壁を蹴って、ジャンプし、頭を狙って回し蹴りをする。
ロッソはそれを屈んで躱し、弓形の剣をティファに振りかざす。
紙一重で避け、避けたつもりが、すぐにまた斬りつけられた。
ティファは壁に手をつき、宙返りしてそれを避けた。
「へぇ…やるじゃない…」
ロッソは眉をぴんと跳ね上げ、楽しそうに言う。
「楽しめそうだわ。」
242:エッジ前哨戦【33】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:49:02 4S9toHaY0
何度か組み合うが、連続した攻撃と、長い得物のお陰で
ある程度の距離を保たなければこちらがやらられる。
おまけに、地面を走る真空波は机や柱の影に隠れてもそれを貫いてティファに襲いかかる。
接近戦を得意とするティファには戦い辛い相手だ。
相手もそれを心得ているのか、ティファには決して近付こうとしない。
「もっとゆっくり遊びたいけど…エッジに向かう様に言われてるの。
私達が追っている獲物が来るらしくて。」
(獲物…?)
クラウドが、ヴィンセントがこちらに向かっていると言っていた。
「それって、まさか…!」
問い詰めようとした時、ずん…と地響きがした。
地下だというのに、建物が大きく揺れ、天井からパラパラとホコリが落ちて来た。
地響きと揺れは断続的に続き、ますます激しくなる。床が揺れて立っていられない程だ。
「な…なんなの?」
ロッソも不思議そうに、天井を見上げる。
不思議な事に、地響きの音はどんどん大きくなり、
それがだんだんと近付いて来るのが分かる。
しかも、それはティファの立っている背後の壁の方から聞こえて来る。
そして、ティファは地響きの間に、微かに聞き覚えのあるエンジン音を確かに聞いたのだ。
(クラウドなの!?)
振り返ったティファが見た物は、壁に入った×字型の切り込み、
大音響と共に崩れて行く壁、その瓦礫の中から黒いエナメルの様に光るフェンリルと、
見慣れた大きな剣、その間から見える金色の髪。
「クラウド!」
243:エッジ前哨戦【34】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:49:59 4S9toHaY0
クラウドは剣を右手から左手に持ち代えると、ティファに差し伸べた。
ティファも手を差し出す。が、その手が空しく空を切った。
クラウドは確かに自分を見つけたはずだ。なのに何故?
不思議に思ったその瞬間、伸びたクラウドの手が腰に回って、引き寄せられた。
(え…?)
気が付くと、クラウドの顔がすぐ真上にあった。
ティファは咄嗟にクラウドにしがみついた。
獲物を横取りされたロッソが雄叫びをあげ、真空波を放つ。
クラウドはそれを左手の剣で難なく弾き返すと、
軽く剣を放り上げ、右手に持ち替え、左手をハンドルに置いた。
そして、片手で楽々と前輪を持ち上げ、元来た方に方向転換し、
アクセルを全開にして走り出した。
その時になって、ティファは漸く自分の身に何が起こったか、
クラウドがどうやって地下まで降りて来たのかを知ったのだった。
(あの地響き…やはりあなただったの…)
呆気に取られて、ティファはクラウドを見上げる。
最短距離を進むため、壁と言う壁を破壊し、狭い通路を剣で切り崩しながら来たようだ。
そして自分はと言うと、フェンリルのタンクの上に座らされ、クラウドの胸の中に居る。
このままだと窮屈だし、クラウドも運転しにくいはずだ。
自分を後部座席に移すようにと口を開きかけた時、
目の前を大剣が塞ぎ、同時に弾丸が弾き飛ばされた。
あちこちから機銃を浴びせられるが、全てクラウドの剣が跳ね返す。
(そっか…)
どうやら弾丸を避ける事は出来ても、弾き返す事が出来ないティファを守っているらしい。
(ピンチの時に…来てくれたんだ。)
ティファはうっとりとクラウドを見上げ、地上までこの窮屈さを受け入れることにした。
244:エッジ前哨戦【35】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:51:01 4S9toHaY0
エッジとミッドガルを見下ろせる丘まで来ると、
クラウドは漸くバイクを停めた。
ゴーグルを外すと、やにわにティファの両肩を掴んだ。
「ティファっ!」
やはり…と言おうか、ティファの予想以上にクラウドは怒っていた。
こんなに怒った彼を見るのは初めてではないか。
あまりもの剣幕に、ティファはびくんと肩を竦め、
おそるおそるクラウドを見上げる。
「ごめんなさい…心配をかけて…」
クラウドは眉を顰め、ティファの肩から手を離すと、フェンリルから降りてしまう。
無事だと分かったのに、何故こうもイライラするのだろう。
ティファは慌ててクラウドの後を追う。
しかし、クラウドはティファを振り向きもしない。
イライラと足下の石を蹴飛ばしたりしている。
「でも…私がこうする理由を一番良く知っているのは
クラウド、あなたでしょう?」
ティファの言葉に漸くクラウドが振り返る。
「分かって欲しいの…もし、また何かが起こったら、私は同じ事をするわ。
だって…そうしなきゃならないんだもの…分かるでしょ?」
クラウドは頭を振って、顔を伏せる。
ティファの言いたい事は分かる。分かり過ぎる程だ。
だが、大きな怪我すらないものの、身体中、火傷や擦り傷、
あざだらけの彼女を見ると、自分で自分を抑える事が出来ない。
改めてティファの顔を見ると、真っすぐにクラウドを見つめている。
その瞳はクラウドがどんなに言葉を尽くしても、
その意志を覆す事は出来ないと語っている。
245:エッジ前哨戦【36】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:52:09 4S9toHaY0
「…強いな、ティファは。」
クラウドに言えるのは、それだけだった。
「…行こう。マリンとデンゼルが心配だ。」
声が沈んでいた。納得したというよりは、
打ちひしがれているようだ。
もし、またエアリスの様にティファまで失ってしまったら…
ここに来て、漸くクラウドは気が付いた。
ミッドガルに向かっていた時の焦燥感、あれは、
(また、同じ事が起こるんじゃないかって…俺は怖かったんだ…)
不器用なこの男は、自分の想いにも気付くのにも時間がかかるのだ。
しかしティファに戦うなと言うのは、
彼女の生きていく為の理由を否定する事になる。
誰よりも大切で守っていたいのに、
それを止める資格すら自分にはないのだ。
(…やりきれないな。)
クラウドはフェンリルに跨がると、エンジンをかけた。
一方ティファにもクラウドの気持ちが痛い程分かった。
毎日彼の身を案じて帰りを待っている時の不安…
でも、行かないでとは言ってはいけない。
(それに…私だって、自分だけ安全な所には居られない。)
自分の犯した罪と、死んでしまった大切な友の為に。
お互いを一番大切に思っているのに、
どうすることも出来ないのだ、私たちは。
でも、それだけに捕われてはいけない。
今の彼を放っておいてはいけない。
きっとあの戦いで一番辛かった事を思い出しているはずだ。
「クラウド。」
ティファに呼ばれ、沈み込んでいたクラウドが顔を上げる。
246:エッジ前哨戦【37】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:52:57 4S9toHaY0
「私…頑張ったんだよ。何度も危ない目にあったけど。」
ティファが何を言おうとしているのか分からず、
クラウドはぼんやり彼女を見つめる。
「その度にね…クラウドって、心の中で呼んでたの。だって…」
“約束したよね”そう言いかけて、ティファも口を噤んでしまった。
こんな事を言えば、ますます彼に負担をかけるだけだ。
「ごめん…何言ってるんだろ、私…」
ティファは気まずさを照れ笑いでごまかし、
慌てて後部座席に座ろうとする。
その手を、思わずクラウドの手が掴んだ。
「こっちだ。」
そして、またあの窮屈な燃料タンクの上に座らされてしまった。
「クラウド?」
「…どこから弾が飛んで来るか分からないからな。」
ゴーグルを着けながらそう言うと、
後はティファの顔を見ようもしない。
だが、ティファはよく知っている。
素っ気ない態度の時は照れているだけだ。
あの混乱の最中でも、回された腕はとても優しかった。
「ピンチの時に、来てくれてありがとう、クラウド。」
クラウドは聞こえないふりをして、フェンリルを走らせた。
247:エッジ前哨戦【38】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:53:38 4S9toHaY0
「おっせぇーんだよっ!」
エッジの街の入り口まで戻った所で二人を
真っ先に出迎えたのはバレットの怒声だった。
その横にはバレットの乗って来たトレーラーが停まっている。
運転席からマリンが飛び出して来た。
「ティファ!」
ティファは膝を屈め、駆け寄るマリンを受け止め、強く抱きしめた。
「ごめんね、マリン…心配した?」
「したよ、すごく!」
「ごめん…ごめんね…」
「ティファ、デンゼルがね…」
言いかけたマリンの頭に、バレットが手を乗せる。
「マリン。その話は後で俺がする。」
「デンゼルがどうしたの?」
「心配ない。」
これ以上の質問を許さない、素っ気ない表情だった。
バレットはフェンリルの側に立ち尽くし、
ティファとマリンをぼんやり眺めていたクラウドに詰め寄る。
「クラウドぉー!」
「遅れてすまない。」
「子ども達を置いて、どこへ行ってた?」
「それはティファが…」
「それはいい!」
クラウドは、じゃあ、何を怒っているんだと言いたげな顔だ。
248:エッジ前哨戦【39】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:55:17 4S9toHaY0
「なんで俺に電話の一本も寄越さねぇんだ?
俺はてっきりお前の方が先に着いてると思ってたぜ。」
そう言われて、クラウドは自分の失態に気が付いた。
最初の電話でお互いにエッジに急行する事になっていた。
なのに、デンゼルからの電話で戦火に見舞われている街を放って、
ティファ一人の為にミッドガルに向かったのだ。
「俺は…!」
言いかけて、クラウドは叱られた子供の様な顔になり、黙ってしまった。
(なんだよ、調子狂うじゃねぇかよ。)
バレットはやれやれと溜め息を吐く。
「バレット…私がいけないの。私が勝手な事をしたから…」
ただならぬ様子を察してやって来たティファが
必死にクラウドをフォローする。
「おい、お前ら…勘違いするなよ。
お前らがいた所で、街が救えたなんて思うな。」
バレットは乱暴にクラウドの背中を叩く。
「俺はただの石油掘削業者で、お前もただの配達屋だ。
自分の女房助けに行ったって、誰も責めたりしねぇ。
だがな、今からまた俺達のリーダーをやってもらわなきゃなんねぇんだ。
こんなくだらねぇ連絡ミス、やってもらってちゃ困るんだよ。」
「リーダー…?」
クラウドが訝しげな顔で聞き返す。
「あちこちでWROの基地や街が襲われてる。
リーブの野郎が残存勢力を集めて、ミッドガルに再結集させてくれと言ってきた。
前にも言ったが、俺はその器じゃねぇ。
シドは飛空艇を束ねてるし、リーブはWROから動けねぇ。お前しかいねぇだろ。」
バレットはニヤリと笑うと、再びクラウドの背中を叩く。
「空はシド、地上はお前だ。どうだ?」
249:エッジ前哨戦【40】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:56:10 4S9toHaY0
「ただの配達屋にリーダーをさせるのか?」
クラウドが呆れて言うと、バレットは大声で笑う。
「お前は断れねぇよ。なぁ、ティファ?」
「もちろん引き受けるわよ。ねぇ、クラウド。」
がさつで、乱暴なバレットの心遣いだった。
クラウドはお手上げだ、という風に肩を竦める。
「…分かった。」
ティファとバレットは顔を見合わせて笑う。
「ところで、私はただの居酒屋経営者だけど、
もちろん連れて行ってくれるわよね?」
ティファの笑顔が眩しくて、クラウドは目を細めた。
「もちろんだ。」
ティファは満足げに頷いた。
「じゃあ、早速リーダーに報告といくか。」
バレットは少し離れた所で様子を見ていたマリンを呼び寄せる。
「マリン、奴を呼んで来てくれ。」
マリンは頷くと、トレーラーに向けて駆け出した。
トレーラーの扉を開け、中に何やら声を掛けると、ナナキが降りて来た。
ナナキはうれしそうにクラウドとティファの元に駈けて来る。
「久しぶりね、ナナキ。」
ティファは屈むと、ナナキの顔を覗き込む。
「こんな時だけど、会えてうれしいよ、ティファ。」
意外な仲間の登場にクラウドの顔も綻ぶ。
250:エッジ前哨戦【41】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:57:30 4S9toHaY0
「街の人たちに話を聞いてみたんだけど、
街外れの大きな倉庫にたくさんの人が集められてるらしい。
WR0の部隊が救助に向かっている。オイラ達が頼まれているのは、
残存勢力をまとめること、避難した人を安全な所まで運ぶことだ。」
クラウドは膝を折って屈み、ティファと同じ様にナナキの目線に合わせる。
「安全な場所…どこか心当たりがあるか?」
「コスモキャニオンがいいと思う。」
「あそこは、学者連中が知恵を寄せ合って、
ちょっとした要塞みたいになってるらしい。
地の利もいいし、マリンやデンゼルを預けるのにちょうどいい。」
バレットが口を挟む。
「WROの基地は、あちこち走り回ってるお前の方が詳しいだろ。」
クラウドは頷くと、フェンリルに置いてある地図を持って来て、
それぞれがどこへ向かうか指示を出した。
バレットとナナキが子ども達を避難民を連れてコスモキャニオンに向かう。
ナナキはそのままコスモキャニオンの守りに就き、バレットはそのまま
大陸の北側の基地を周る。クラウドとティファはその反対側だ。
「出発前に、お前らに言っておく事がある。」
バレットはデンゼルとマリンの身に起こった事を二人に話した。
ティファは気絶せんばかりに驚き、クラウドも青ざめ、言葉を失った。
「あいつらには、俺がお灸を据えておいた。だから気にすんな。」
「デンゼルは今、眠っているよ。大丈夫、オイラがついてる。」
251:エッジ前哨戦【42】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 16:00:09 4S9toHaY0
出発前に会いたいという二人の言葉を、バレットは撥ね付けた。
「マリンの側に居なかったのは、俺も同じだ。
勝手に飛び出したデンゼルには帰ったらお尻でも叩いてやれ。」
男の子にはよくある事だからな、と言われても二人はいたたまれない。
「おら、さっさと行くぞ!」
ろくなフォローもないまま、バレットは
さっさとトレーラーに戻ってしまった。
途方に暮れる二人をレッドは見上げ、
なんと声を掛けたものかと考える。
「クラウド…オイラ、今、身体が二つあればって思うんだ。
でも、一つしかない。」
二人は黙ってナナキの言葉に耳を傾ける。
「一人で出来る事には限界がある。
だから、仲間がいるんだろ?バレットは、
二人共、一人でなんとかしようとするから、
水臭いって怒っているんだと思うよ。」
バレットは少し変わったよね、ナナキはそう付け足した。
確かに、以前の彼ならマリンを置いていったというだけで
怒鳴り散らされていただろう。
相変わらず義理人情に厚いが、直情直行なだけではない。
クラウドはもう一度膝を折り、ナナキの頭に手を置いた。
「ありがとう、ナナキ。子ども達を頼む。」
ナナキが頷く。
トレーラーから バレットがさっさと行けと叫んでいる。
「オイラも行くよ。ヴィンセントに気を付けてって。」
二人の顔に漸く笑顔が戻り、手を振ってくれるのを確認すると、
ナナキはトレーラーに向かって駆け出した。バレットがやかましく
叫んでいる運転席の横にするりと身体を滑り込ませる。
252:エッジ前哨戦【43】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 16:01:16 4S9toHaY0
「何を話してたんだ?」
「うん、少しね。」
「余計なこと、言ってんじゃねーぞ。」
バレットはキーを回し、エンジンをかける。
「父ちゃん、ティファとお話出来ないの?」
マリンは不満そうだ。
「いいかぁ、マリン。アイツらはああやってすぐ飛び出しちまう。
飛び出しちまうもんはしょうがねぇ。
だがな、飛び出しても帰って来るのは、マリンやデンゼルが居るからだ。」
「でも…待つのは嫌い。」
沈んだ声だ。
マリンは隣に座るナナキの頭を抱き寄せ、柔らかい毛に顔を埋める。
バレットは慎重にアクセルを踏む。
後ろで眠るデンゼルや大勢の避難民を思っての事だ。
「待つ方が、飛び出してくよりキツいからな。
だがな、待ってやれ。そうでなきゃあいつら、どこへ行っちまうか分かんねーぞ。
まったく、子供におんぶされてるなんざ、情けねぇやつらだ。」
乱暴な言い方に、マリンはくすりと笑う。
「そうなの!マリンがついてなきゃ、ティファもクラウドもダメなの!」
バレットは目を細めて愛娘の顔を見て、
「まったくだ!」
そうして、また豪快に笑うのだった。
253:エッジ前哨戦【44】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 16:02:24 4S9toHaY0
フェンリルの後部座席に跨がったティファが重大な事を思い出し、
それを伝える為にクラウドの背中を叩いた。
「私もリーダーに報告したいことがあるの。」
ティファは神羅ビルで出会ったロッソの事をクラウドに話した。
「理由は分からないけど、“獲物”と言っていたのは
ヴィンセントの事じゃないかしら。」
「そいつが何故ヴィンセントを狙うんだ?」
「そうね…今展開しているWROの部隊の事かも。
でも、ロッソはエッジに向かうとも言ってたし、
手強い相手だから知らせておいた方がいいわ。
とても…嫌な感じだったわ。
人を傷つけるのを楽しんでる…そんな感じ。
ヴィンセントなら大丈夫だと思うけど。」
確かに…とクラウドが電話を取り出し、ヴィンセントにかける。
「近付いちゃダメなの。離れて攻撃した方がいいって。
やっかいな真空波の事も伝えて。」
クラウドは頷き、ヴィンセントが電話に出るのを待つ。
「だめだ…出ない。」
「そう…」
「WROの隊員に伝言を頼もう。」
「携帯も調達してもらえる?」
ポツン、と頬に何かが当たり、クラウドは空を見上げた。
「雨…」
「急ぎましょう。」
しかし、この後エッジのWROの部隊は全滅。
彼らの伝言がヴィンセントに伝わる事はなかった。
そして、彼らが再びミッドガルに終結するのは、まだもう少し先の事だった。
おわり。
254:エッジ前哨戦 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 16:03:06 4S9toHaY0
クラウドがティファをバイクに乗せるシーンは、投稿人が夢見がち故です。
あんな狭い所にティファが座れるかとか、熱くてとても座ってらんねーぞとか、
そういうツッこみは、ここに関してだけはどうかスルーよろしこです。
乙コールや感想下さった方のお陰で最後まで書けました。ありがとう。
もっとあらすじみたいにざくざく書くつもりでしたが、
>>152-153さんのお言葉で、いい意味で火が点きました。
その分、長くなってしまいましたが、最後までお付き合いありがとうございました。
お気に召して頂けたかは分かりませんが、書いている方はとても楽しかったです。
ミッドガル地上戦は書けるかどうか分かりませんが、また何か投下に参りますね。
255:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 16:48:55 72tJ79dp0
>>254
最高でした。
ありがとう。
256:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 19:39:06 4K6UcQstO
>>254
乙です!
本当に最高でした。
読んでてこんなに引き込まれてしまったのは久しぶりです。
257:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 19:46:53 ixLkY+/a0
>>254
すごく面白かったです。
この作品に出会えて良かったです。どうもありがとうございます。
258:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 20:12:49 EpWmIGpzO
>>254
乙です。読みながらハラハラしたり楽しかった。
デンゼルやマリンの様子も描かれててばっちり補完できました。
バレットもクラウドもティファも味がでていて良かったです。
259:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 21:19:56 SnTvFDUT0
>>234-238も◆BLWP4Wh4Ooも乙。
DCの行間を補完してくれるような話が読めて良かった。
260:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/06 00:51:50 rf+M4WthO
相変わらず文章が巧いよね
261:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/06 02:08:38 WW8MSfTH0
>>254
乙です、おもしろかったです。
戦闘描写もよかったと思います。読めてよかった、ありがとう。
>>234サンのリーブさんのお話の続きも楽しみにしてます。
262:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/06 13:25:44 QXByAnGQ0
>>254
乙です!
最高でした。
263:エッジ前哨戦 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/07 01:02:01 XO9GmIKi0
たくさんの乙コールありがとうございます。
『クラウドはティファの王子様』願望炸裂だったので、
引かれてしまったらどうしようかとヒヤヒヤしておりました。
もうすぐ12発売ですが、そうなるとスレは落ち易くなると聞きました。
こまめに投下した方がいいのかな?
264:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/07 02:48:51 JHaFSSIJO
保守
>>263
投下してくれると嬉しい!
265:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/07 20:11:02 /QSHokwqO
保守ついでに。
7好きとしては作品大量でかなり楽しませてもらってます。作者さんたち乙です。
それから前スレ未完の作品も続き待ってます。
266: ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/07 23:37:47 XO9GmIKi0
仕事忙しくなった_| ̄|○週末に投下に参りますね。
267:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/08 01:22:27 IYLX3iAY0
>>エッジ前哨戦
乙、そしてGJ! 最後まで読んでてすごく楽しかった。
何より嬉しいのがナナキ。DCにはほとんど登場しなかった彼の根拠をちゃんと
埋めてくれているのが嬉しくてうれしくて。クラウドがバイクで登場するシーンは
本編のビル脱出を彷彿とさせるし、剣で弾をはじく描写も格好よかった。ちゃんと
約束を意識しているところも素晴らしい!
あえて注文をつけるなら(この辺は7好き者のわがままと言うことで許して欲しいw)
>>252の「どこへ行っちまうか分かんねーぞ。」は「帰ってくる場所が分からない」
って方を強調した方が良かったかも知れないかな、なんて思ったり。(決戦前夜の
ティファの台詞・状況と対比させる意味でも)読んだ一個人の意見ということで、
聞いていただければ幸いです。
長々すんません。新作にも期待。
268:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ(1)
06/03/08 01:57:31 IYLX3iAY0
前話:>>234-238
舞台:DCFF7第7章@シエラ号艇内
備考:ネタバレ有り(6章のアレが前提)なので、
DC未プレイの方は読まない事をおすすめします。
----------
彼女にとってそれは10年ぶりに向けられた笑顔、あるいは純粋な微笑みだった
のかも知れない。そしてその微笑みは、彼女の心の奥に閉ざされた大切な何かに、
ほんの少し。だが、確かに触れた。
(これは、……"誰の"記憶の断片……ですか?)
少女は心の中で誰にとも分からないまま問うのだった。
***
彼が去ってしばらくしてから再び背後でドアが開く音がしたが、彼女は振り返ろう
ともしなかった。こちらに敵意や悪意が向けられていないことは、気配だけで大凡の
見当はついた。だから振り返る必要はないと判断して、ひたすら目の前のディスプレイに
流れる文字を追いかけながら、手元に並んだキーボードの上でせわしなく指を動かし
ている。タイピングの音と、機械から出る僅かなノイズだけが、この小さな空間を満たし
ていた。
269:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ(2)
06/03/08 02:02:33 IYLX3iAY0
飛空艇シエラ号の艇内で、そこは姉妹に割り当てられた部屋だった。所狭しと
壁際に並んだ計器類やディスプレイに加え、納められたたくさんの機械類を
一手に引き受けているのは、まだ外見は幼く見える妹のシェルクだった。
姉はと言えば、彼女の後ろで静かに身を横たえている。
(…………)
流れていく文字の速度が徐々に緩やかになり始めた頃、少女は顔を上げると
ようやくディスプレイから視線を離した。静かに息を吸い込むと瞼を閉じる。彼女は
無意識のうちに、酷使していた視覚神経を少しでも休ませようとしていたのだろう。
目の前にある端末にSND―センシティブ・ネット・ダイブ―を実装するための
処理にはもう少し手を施さなければならないが、とりあえず山場は超えた。常人から
すればとてつもない作業量と、理解を超える処理だったが、少女にとってはこの
10年間の「日常」だった。
正確には「日常」を維持するための手段―過酷な環境の中で生き残る術に
他ならない。できれば二度と思い出したくない地底での記憶は、それでも脳や精神は
おろか身体をも蝕んで、この先もずっとついて回るのだろう。
―データとして削除できるのならば、いっそのこと消し去ってしまいたい。
目を閉じたまま少女の指はゆっくりとキーボードの上をたどった。入力されることの
ない文字列は、プログラムコマンド“削除”の意味を表している。
(…………)
自分のとった全く意味のない行動に、少女は目を開けて自身の指を見つめながら
心の中でつぶやいた。
(バカみたい)
270:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ(3)
06/03/08 02:09:10 IYLX3iAY0
『ほんまにスゴイんやな~……』
「!」
唐突に足下から聞こえてきた声に、最小限の動作と最短の時間で少女は驚き
を表そうとしたが、どうやら相手にそれは伝わっていなかったようだ。
『邪魔してもうたかな?』
そこに立っていたのは、誰かと同じように赤いマントを靡かせ、頭に小さな王冠を
乗せた“猫”だった。しかも二足歩行の。少女の知る限り、猫という動物は四足歩行の
はずだ。いやそれ以前に、猫は人語をしゃべらない。それにこの妙なしゃべり方は
一体なんだ?
そんなことを考えてしまい、少女は思わずその“猫”見つめた。視覚から得た
その姿と、少女が知識として持っていたデータに合致するものが見つかった。
(ケット・シー)
だが、あくまでもデータだ。そのもの自体と接触するのは今回が初めてだった。
観察するように、それをじっと見つめる。動作を見ていても敏捷性や機動性に長けて
いるとも思えないし、攻撃力や防御力があるようにも見えない。貧弱というよりは
非効率的だというのが、ケット・シーに対する第一印象だった。
『や~、そんなん見つめられたら照れてまうわ』
そう言って、ケット・シーは首を傾げ、しっぽを大きく振って微笑んだ。
(!)
しかしその姿を見ていると妙な、とても妙な感じがする。―これは、どういうこと
だろう? 不可解、奇妙、怪訝、不審―少女の中で、まるでデータベース化された
ように並ぶ感情の中から検索を試みた。しかし合致するデータが見つからない。
271:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ(4)
06/03/08 02:12:50 IYLX3iAY0
こうして少女がケット・シーを食い入るように見つめていると、今度は頭上から
声がした。
「作業の片手間で結構ですので、少しお尋ねしてもよろしいですか?」
「構いません」
この男は知っている。リーブ=トゥエスティ。元神羅カンパニー都市部門統括に
して、現在はWRO<世界再生機構>の局長たる人物。そして……。
(ケット・シーの操縦者)
つまり彼女にとって「ケット・シー」は単なるロボットだった。もちろん、その認識が
外れているわけではない。しかしこの妙な感覚は何だろう?
迷走を続ける少女の思考をよそに、リーブは話を始めていた。
「これから行われる作戦会議の際、ケット・シーの見た内容もこちらから併せて
転送したいのですが、可能でしょうか?」
「…………」
予想外の質問に、少女は男を無言で見上げた。何を言っているんですかこの人は?
と、彼女の目が言っている。
「私、なにか妙なことを言ってますか?」
すると声に出していないはずなのに、男は少女の問いに適切な返答を寄越してきた。
そのことに僅かばかり驚きもしたが、気にせず話を進めた。
「ネットワークを介さずとも、直接あなたの口から説明した方が早いのではないですか?」
「そうですね……ですが、私の口では説明できない部分があります。それを、
データとして転送して頂きたいのです」
「それは?」
「…………」
272:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ(5)
06/03/08 02:18:38 IYLX3iAY0
黙り込むリーブを、少女はじっと見つめていた。少し待ってみたが、今度は
返答がなかった。
『おっさん、口ベタやねん』
かわりに答えたのは、足下にいたケット・シーだった。
このふたり―1人と1匹?―を見ていると、とても効率が悪い。そう思って
少女は視線をそらす。
(なぜ、リーブ=トゥエスティは自らの口を動かして語らない?)
そのことが少女には理解できなかった。だからかも知れない、珍しく苛立って
いるような気がした。
『けどな、わいの口からも説明でけへんねん。……あんな、シェルクはん』
「なんですか?」
名前を呼ばれて少女が再びケット・シーに視線を戻す。
『想いを伝えられるのは、言葉だけやないねん……いんや、言葉じゃ伝わらん
モンもあるねんで?』
ケット・シーはしっぽを振ることをやめ、じっとこちらを見つめていた。相変わらず
にこやかな笑みを貼り付けたままではいたけれど。
「それがたとえ、どんなに強い想いでも。……そして、どんなに辛い記憶でも」
ケット・シーの言葉を引き継ぐように今度はリーブが語り出す。ひとつひとつの
言葉を噛みしめるように、ゆっくりと。
273:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ(6)
06/03/08 02:30:59 IYLX3iAY0
「もともとケット・シーは遠隔操作のできる偵察用ロボットとして開発された技術を
搭載しています」
『せや、わいはオモチャやさかい』
対照的にケット・シーはおどけた口調で相づちを打つ。
「ですが、ケット・シーにはふつうのロボットには搭載されていないものが積み
込んであります」
「それは?」
彼らに誘導されている様な気はしたが、それでも少女は尋ねた。
「……“感情”です」
リーブがそう言ったとき、初めてシェルクは彼と真正面から向き合った。思っていた
より、ずっと穏やかな表情をしていた事に気づく。
シェルクは視線を足下におろすとケット・シーを見つめた。最初は人工知能の類だ
ろうかと考えた。少女の思考に重なるようにして、リーブの声は続く。
「ケット・シーに蓄えられたデータは私の記憶を介して蓄積されています。ですから
……ここにいる前のケット・シーのデータも、彼はちゃんと引き継いでいるんですよ」
『今でも占い、できるんやで~』
ふたりの視線を受けて、ケット・シーが手をかざして自慢げに胸を張って見せる。
「しかし、ケット・シーを通して私が見たものを、私から他の方に伝えるには限界が
あります。それが言葉です」
他者にものを伝達する手段であるはずの言葉が、それを阻害するというのはどう
いうことだろうか?
「言っていることの意味が、よく分かりませんが」
突き放すようにして少女は問い返すと、再びディスプレイと向き合った。よく分からない
ことを、これ以上だらだらと聞かされたくなかったからだ。
274:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ(7)
06/03/08 02:36:37 IYLX3iAY0
「……あなたも」
背を向けた少女にリーブの姿は見えなかった。ただ、耳に届く声の反響で、
彼が後ろを向いたことは分かった。
少女の座る後ろで、姉はカプセルの中に横たえられている。彼女がいつ
目覚めるのかは分からない。目覚める時が訪れるのかすら分からなかったが。
姉は―シャルアは、それでもそこにいた。そして彼女をここへ運んだのは、
他ならぬこの男だった。
アスールから逃げ延びた後、あの場所へ戻ったこの男は、シャルアを回収した。
閉ざされた扉の向こうで、どんな酷い姿をしていただろう? 考えたくもなかった。
自らの危険も顧みずに、しかも生死の定かでないものを回収してきたこの男の
行動が、シェルクには理解できなかった。
理解できない行動をとった男の話など、いくら聞いても分かる訳がない。そう
思っていても、話は続く。
「あの場所で……見たことを説明はできるでしょう。しかし……」
そっと、リーブはカプセルに手を伸ばす。両者を分かつ、今となっては決して
超えることのできない隔たりに触れながら、
「あそこで感じた想いを……どれだけ人に伝えられますか? どんな言葉を使って、
どう語れば、全てを伝えられますか?」
絞り出すように、リーブは言葉を発した。
―「遅くなって、ごめんね。」
「残念ながら、私にはその方法が分からないのです」
あのとき“見ている”事しかできなかった自分の感じたものは、伝えなくても良い
のだろうと。しかし、妹との再会をひたすら願っていた彼女の姿を、この目で見て
いたはずなのに、それを伝えることもできなかった。そして。
―「今でも、大好き……。」
彼女を、失った。
かけがえのない仲間を、目の前で。
----------
275:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/08 12:38:06 f+0f/bcuO
>>268
乙!深みがあってひきこまれた。
リーブ(ケットシー)がかなり良いっす。
276:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/08 15:28:14 3G4XtJEd0
>>268
乙です!
素敵なおじさまと、ひょうきんな猫の対比がいい!
シェルクとケットのコンビ(?)も好きだ。
この二人(?)でのWROの任務遂行…とか見たいな。
あげておきますね。
277:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/09 11:15:19 0FJU8+6h0
>268-274
乙!いい話だー。
278:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/10 01:59:52 T033R2EMO
保守
279:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/10 03:17:30 kMDft2p90
職人さん達本当乙です。
>>268-274
リーブいいよリーブw
シャルアとシェルクの姉妹愛にはDCでもグッときたので
こうしてまた補完できて嬉しいです。
280:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/11 00:35:50 cWC5zdF40
ほ
281:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/11 19:50:21 0FxBONTo0
hosyu
282:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/12 13:19:20 HvrcBREkO
ほーしゅー
283:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/13 08:38:09 /bkvjqbg0
保守します
284:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/13 19:20:13 nBFjiuvU0
hosyu
285:ミッドガル空戦【1】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/14 01:39:11 GR9+wlEZ0
どんどん出力が落ちて来るのが舵を通して伝わって来る。
様子を見に行くと言っていたシェルクも戻って来ない。
(こりゃあ…やべぇな)
「おい!」
シドはレーダー要員を呼ぶ。
「なんでしょう、艦長!」
きちんと敬礼する彼の肩をシドはぽん!と叩く。
「ちぃーっとな、様子見てくるからよ。これ、持っててくれ。」
「そ…そんな…自分はまだ見習い…」
いい終わらない内に、レーダー要員の手を取って、舵を掴ませる。
「とにかく落ちない様に、真っすぐ飛ばしておけよ。」
そう言い残すが早いか、どたどたとブリッヂを出て行ってしまった。
286:ミッドガル空戦【2】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/14 01:40:21 GR9+wlEZ0
動力室に向かう途中、艦橋にいるはずのシドを見て、
クルー達が驚いて振り返り、声を掛ける。
皆、出力の低下や被弾で大わらわなのだ。
そこに艦長がやって来たものだから、みな不安をぶつけてくる。
シドはそれを笑い飛ばし、励ましながら動力室に向かう。
中に飛び込むと、炎が上がっており、ひどい煙だ。
シドは口元を押さえ、煙の中に目を凝らす。
「おい!シェルク!」
咳き込みながら見つけたのは、床に転がるケット・シーだけだった。
「おい!ケット!」
抱き上げたそれはぐにゃりとして、反応がない。
(人形に戻ってる…)
シドはケット・シーを抱えたまま、外に飛び出した。
ケット・シーにダメージがある時、リーブは無事だったろうか?
「リーブ!」
リーブの待機しているキャビンに飛び込むと、
そこにはぐったりと椅子にもたれかかっているリーブがいた。
287:ミッドガル空戦 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/14 01:48:46 GR9+wlEZ0
>>285
ごめんなさい、前説を入れ忘れましたort
※DCの第8章『ミッドガル総攻撃』の辺りです。
ネタバレを含みますので、未プレイの方はご注意願います。
また投稿ミス…艦長に怒鳴られて逝って来ます…
>268-274 の影響か、ステキなおじさまと、
やかましいおじさんを書きたくなりまた。
続きは週末になりますが、またお付き合いよろしくお願い致します。ノシ
288:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/14 03:29:39 Q9rYk3d90
>>285-286
作戦会議の時の様子も、シドとリーブは対照的ですよね。
彼らが地上へ脱出する様子が見られるのでしょうか?
わくわくしながら続きお待ちしてます。
289:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ(8)
06/03/14 04:11:36 Q9rYk3d90
>>268-274より
----------
リーブが言葉を止めると、室内には静寂が広がった。周囲を埋め尽くす機械達も、
まるで息を止めてしまったかのように沈黙する。
この静寂の中で、シェルクの脳裏では先ほど刻み込まれたばかりの記憶が再生
されていた。
自分たちの意志に反して閉ざされようとする扉の隙間から、限られた時間の中で
シャルアは自分の気持ちを、思いを、妹に伝えようとした。彼女はその場に立ちつくす
シェルクの腕を強く引くと、何のためらいもなく閉じかけた扉に自らの左腕を挟み込んで
退路を確保し、妹を出口へと導きながらこう叫んだのだった。
―「私たちは、これから10年を取り戻すんだ」
腕をつかまれさらに強く引っ張られた。痛みに思わず見上げれば、シャルアの真剣な
まなざしがあった。ぼんやりと、姉の力はこれほど強かったのかとシェルクは思った。
そのときの感覚が、まだ残っているような気がする。まるで今でも、腕を引かれている
ような―
錯覚。
「……!?」
脳裏によみがえったビジョンを打ち消すように、シェルクは目を見開いた。瞼を閉じれば
また同じ闇の中に記憶が再生されるのではないか? 不安になって、瞬きすらためらった。
そんな自分を否定するように、あるいは隠すように言葉を発した。
「自分の感じた感情を全て伝えることなど、不可能でしょう。たとえ血を分けた家族だろうと、
同じものを見た人間だろうと。その精神構造や思考過程には個人差がありますから……
それに」
キーボードをたたきながら、少女は淡々と答えた。もともと起伏のない話し方しかできないが、
今は違う。とても不愉快だった。
290:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ(9)
06/03/14 04:18:22 Q9rYk3d90
「感情を伝えるという行為に、一体どんな意味があるのです? 情報として事実を
共有することの重要性は分かりますが、一個人の主観でしかない感情を共有する
ことがそれほど重要とは考えられません」
正直、自分の口からこんなに言葉が出てくるとは彼女自身思っていなかった。
話すことに気を取られ、キー入力する手を止めそうになる。
恐怖と苦痛に満ちた日常、しかしこの10年間で腹が立った事など一度もない。
たとえ腹を立てたところで力でねじ伏せられた。絶対的な命令と、服従。それが
少女にとっての日常だった。
地底世界から解放されたとはいえ、少女には今さら腹を立てる理由はないはず
だった。
けれど、とにかく腹立たしいのだ。あの日―WROの本部で相対した、あの時から。
シャルア=ルーイもヴィンセント=ヴァレンタインもそうしたように、けれどこの男だけは、
敵であると認識し、さらに武器を向けられながらも最後までシェルクに銃口を向けよう
とはしなかった。
それでいて……。
(……干……渉? ……違う。"彼女"のデータでもない……)
少女自身ですら把握しきれないこの感情は、一体なんだろうか? 自身の内で
わき始めた思考と感情の奔流を鎮めようと、キーボードに置いた指に意識を集中
する。しようとした。
「重要性に対する答えであるとすれば……動機、でしょうかね」
しかしそれを阻んだのは男の声だった。
「人間はコンピュータと違いプログラムを打ち込めば素直に動くと言うわけでは
ありません。コンピュータにも動力が必要なように、人間が動くためにも理由が
必要です。大きな動きをしようとすれば、それに見合うだけの大きな動機が必要に
なります。まして、自分の生命を危険にさらそうとする状況なら尚のこと」
291:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ(10)
06/03/14 04:23:52 Q9rYk3d90
それを担うにはお金や名誉ではとても足りない。しかし“大切な誰かのため”
というそれだけで、彼らが動く理由には充分なのだ。
―大切じゃないものなんか、ない。
そういって剣を振るった男がいる。彼もまた、かけがえのない仲間のひとりだ。
ちょうど1年ほど前、この飛空艇から見ていた戦いの光景が重なる。
リーブは「当時も今も、この船に乗り込んだ人たちの多くは、皆お人好しなのだ」
と付け加える。その言葉を聞いて、そういえば先程ここへ来た男も同じようなことを
言っていたなと少女は思い出す。
「……もっとも、私にそれを教えてくれたのは、他でもない彼らなんですけれどね」
それこそ口では伝えづらいのだと苦笑したリーブの後を引き継いだのは、やはり
絶妙なタイミングでもたらされる足下からの声だった。
『せやから、わいらの出番なんやて』
「!」
その声に再び視線を足下へ戻すと、ケット・シーが手を掲げている。
『わいが見たことを、直接みんなに見せてやりたいんや! したら納得してくれる。
確かに感じ方は違うかもしれへんけど、み~んな、この船に乗ってるんやで?』
懸命にしゃべり続けるケット・シーを見ていると、少女の指は止まった。その姿を
見ていると、腹立たしさはどこかへ消えてしまう気がした。
自分自身でも抑えることに必死だった内の奔流を、ケット・シーは意図もたやすく
鎮めることができた。そう考えると少し悔しいような気もするが、今は考えないことにした。
「……分かりました。できる限りのことはやってみます。ですが、どこまで実現できるかは
保証できません。それでも、よろしいですね?」
後ろを振り返ることはしなかった。振り返ればまた、不愉快な腹立たしさが戻ってくる
ような気がしたからだ。
「構いません。ありがとうございます」
それでは後ほど。と短く告げて、リーブは部屋を出て行った。
292:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ(11)
06/03/14 04:27:27 Q9rYk3d90
残された少女は再びディスプレイに向かうと作業を再開した。思わぬ追加注文に
対応するべく、再びせわしなく指を動かしながら、それでも考えた。
自身の中にあるこの不快感の正体は一体なんだろう? と。
***
断片化された彼女の記憶、想い。喜びや悲しみ、痛み、感情……。
それらの補完と復元が少女の内で何度も繰り返されている。知るはずのない事実、
持つはずのない記憶。そんなものまで抱え込んでしまった。
けれど、それとは別の何かが確かに存在する。先程の男―リーブ=トゥエスティ
が言っていた言葉が引っかかる。
……動機。
すなわち理由だ。彼の言っていることは間違ってはいない。理由がなければ行動と
いう結果は存在しない。そうだ、間違いではない。
間違ってはいないはずなのに、分からない。
『ほな、行きますわ』
その声に意識が現実へと戻って来る。頭部を装置ですっぽり覆われたケット・シーが
手を振っていた。その姿に、SNDを促すようにとシェルクはうなずく。どこまで投影が
実現できるかは、賭でしかなかった。
293:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ(12)
06/03/14 04:36:32 Q9rYk3d90
すると、音が聞こえてきた。
ビジョンはなく、闇の中にはただ音だけが聞こえる。
人、それもたくさんの声。不鮮明ではあったが、それは確かに人の声だった。
捕らわれ、連行された人々は、檻もろとも魔晄炉の深層部へと放り込まれる。
暗闇に閉じこめられた苦しみ、突然連れ去られて理不尽な苦痛を与えられる
事への怒りや、恐怖。死に瀕した人々の悲鳴は、生への執着。
……闇の中に流れる声と、それを見た彼の記憶が投影される。
『な、なんちゅーことを!?』
見ていることしかできない彼の―叫び。
その声を残して、回線は切断された。
彼はここで事切れたのだ。
その声を聞いて、少女は思う。
断片化されたデータの中には、少なからず自分の記憶や感情も混じっているのだ
と言うことを。
まぶたを閉じて見ることすらしなかった、だから叫ぶこともできない。
叫ぶことも泣くことも忘れてしまっている自分は今も、闇の中にいるのだと
……ようやく気づいた。
鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ<終>
----------
・敵側から味方に加わる/インスパイアとSND
……FF7のケット・シー(リーブ)とDCFF7のシェルクって立場や心境が似てる気がします。
・7章作戦会議でケット・シーがSNDする意味はこういう事だったんじゃないか?
・ここでのリーブは単なる説教おじさんw
・上手く書けませんでしたが、きっとシェルクはケット・シーに萌えていたんだよ。>7章SND
色々すみません。お読み下さった皆様ありがとうございます。
294:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/14 19:05:58 skSIU4ie0
>293
GJ!
295:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/15 08:44:56 WfAxso010
>>285>>289乙です!
296:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/15 14:58:28 u/Y//O2l0
あげときますね。
297:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/15 19:53:57 XsX1CGqj0
>289-293
(・∀・)イイ!!GJです!
298:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/16 01:34:28 eI3dkq020
FF12いよいよ発売ですかね?
作品投下とスレ落ち回避の保守
299:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/16 08:37:41 fAJTn6Mk0
保全
300:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/16 12:31:24 NB5hjEe70
保守
301:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/16 15:09:08 NgVpYGwg0
保守
302:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/16 18:05:50 WmaNWmdL0
保守
303:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/16 20:15:13 bMMNTuRa0
保守
304:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/16 23:02:13 5qEsDWkxO
さらに保守
305:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/16 23:56:03 ruTbWxAd0
保守
306:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/17 03:53:22 SpXOU87kO
保守
307:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/17 08:30:03 51VRXC5k0
ほ
308:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/17 08:42:21 5k+407Xg0
保守
309:The Kids Aren't Alright 1/4
06/03/17 11:22:44 r7K9eQEr0
保守ついでに故ダインスレの作品改訂版
「よぉダイン、エレノア!見舞いにきたぜ!」
筋肉質な腕に瑞々しい果物の乗った籠を抱えた男、バレットが病室に入る。
「おいおい……もう少し静かにドア開けろって、娘が起きちまう」
「おお、すまねぇな」
「バレット、いつもありがとうね」
「良いってことよ」
「そういえば、ミーナは?」
「ああ、ちょっと急な仕事が入っちまって、来れなくなっちまった」
「そっか……残念ね、ダイン」
「ん、何がだよ?」
バレットが不思議そうに尋ねると、エレノアは俺と目を合わせクスクスと笑い出した。
「おいおい何だよ、気になるじゃねぇか!」
「いや、てっきり手でも繋いで入ってくるんじゃねぇかと思ってさ」
「幸せそうな新婚さんの、微笑ましい姿を見たかったな~、って」
「な!……う、うるせぇよ!」
「ハハ、照れんなって」
バレットは真っ赤な顔でひとつ咳払いをして、エレノアのベッドの横の、小さなベッドを覗きこむ。
「可愛らしい子だな……名前、決まったのか?」
「ええ……マリンっていうの」
「マリン、か……良い名前じゃねぇか」
「ダインが、昨日の晩までずーーっと悩んで考えてた名前よ」
「ガハハ、お前らしいな!」
「うるせぇよ、お前だってずーーっと悩むに決まってらぁ!」
「ぬ……言い返せねぇじゃねぇか」
ダインが大声で笑うと、マリンが起きて泣き出した。
「ああ!もう、ダイン!何やってるのよ!」
陽だまりの様な日々だった。エレノアが、バレットが、ミーナが、マリンが居て。
こんな毎日が、ずっと続いて欲しいと願ってた。心の底から、そう願っていた。
310:The Kids Aren't Alright 2/4
06/03/17 11:43:02 r7K9eQEr0
「……胸糞悪い夢だな、畜生」
うな垂れるような暑さの中で、ダインは目を覚ます。
首を鳴らし、不自由な片足を引き摺りコンテナから外に出る。
途端に、サルの様なモンスター……バンディットが、彼に襲いかかる。
ダインは左腕の銃で、それをいとも容易く撃ち落とす。
バンディットは悲鳴と嗚咽を上げ、地面に伏している。
ダインはそれを撃つ。悲鳴が止んでも撃つ。それが、ピクリとも動かなくても撃つ。撃ち続ける。
カシュッ カシュッ
弾が切れ、ダインが興味を無くすまで撃たれたそれは、もはや原型も留めてなかった。
「壊れてしまえ……こんな世界も、何もかも」
虚無な狂気が、晴れすぎた空に一筋の線を引いた。
「……ダイン。……お前なのか?」
バレットは、闇雲に銃を撃ち放つ男に声を掛ける。
「懐かしい声だな……忘れようにも忘れられない声だ……」
間違いなく、それはダインだった。あちこち傷だらけになり、目は死んだ魚の様ではあったが。
「いつか会えると信じていた……。オレと同じ手術を受け、何処かで生きていると……」
バレットは、半ば泣きそうになりながら歩み寄る。その足元を、銃弾が掠めていった。
「俺はな、壊してしまいたいんだよ。この街の人間を、この街のすべてを、この世界のすべてを!」
「マリンは……マリンは生きている。ミッドガルにいるんだ。一緒に会いに行こう、な?」
ダインは幾分驚いた顔をした。少しの沈黙の後、口を開いた。
「そうか……生きているのか……わかったよ、バレット」
バレットは、安堵した。ようやく、俺達は元に戻れる
「やはりお前とは戦わなくてはならないな。」
安堵は、一瞬で砕け散った。
「エレノアがひとりで寂しがっている。マリンも連れていってやらないとな」
そして、陽の傾きかけたコレルに2つの銃声が響き渡った。
311:The Kids Aren't Alright 3/4
06/03/17 11:59:26 r7K9eQEr0
勝負が決まったのは、一瞬だった。
たった一発だけ放ったバレットの弾丸が、ダインの左肩を撃ち抜いた。
「ダイン!!」
「来るな!」
バレットはダインに駆け寄る。しかし、ダインの一喝がそれを止めた。
「……俺はあの時片腕と……一緒に、かけがえのない物を失った……。
何処で……食い違っちまったのかな……」
「……わからねえよ。オレ達……こういうやり方でしか決着をつけられなかったのか?」
「言った筈だ…… 俺は……壊してしまいたかったんだよ……何もかも。
この狂った世界も……俺自身も……」
「マリンは! マリンはどうなるんだ!」
「……考えてみろ……バレット……あの時マリンは幾つだった……?
今更俺が出ていったところであの子には……わかる筈もない……」
「けど……けどよぉ!!」
「それにな、バレット……。マリンを抱いてやるには俺の手は……少々汚れ過ぎちまったのさ……」
絶句し立ち尽くすバレットに、ダインはペンダントを投げ渡す。それは、見覚えのあるペンダントだった。
「そのペンダントをマリンに……エレノアの……形見……」
「わかった……」
「バレット……マリンを…………泣かせる……な……よ……」
ダインは崖の方へと歩み寄った。
「ダイン……やめろ!死ぬな、ダイン!!」
バレットは傷だらけの足でダインの元へと駆け寄る。しかし、ダインは一瞬だけ、笑顔を見せて
……そして、崖の底へと落ちていった。
「ダイーーーーーン!!」
バレットは絶叫し、その場に跪き、嗚咽を上げる。
「……ダイン。お前と同じなんだ……オレだって……オレの手だって……汚れちまってる……」
バレットは右腕の銃を見つめる。何人もの命を奪った、血まみれの右腕だ。
「うぉおおおおおおおおおーーーーーーー!!」
バレットの叫び声だけが、燃える様な赤に染まったコレルの空に響き渡った。
312:The Kids Aren't Alright 4/4
06/03/17 12:11:50 r7K9eQEr0
身体は、重力のままにひたすらに落ちていく。
もうじき俺の身体は砕けたハンバーグになってしまい、コレルの土に返るだろう。
俺のこころは、星へと還れるかな?
エレノア。どうかお前だけは、俺の事、温かく出迎えてくれよ。
ミーナ。お前の愛した男は、今も生きている。どうか、護ってやってくれ。
マリン。強く生きろよ、それと、悪い男にだまされるなよ。……優しい娘に、育ってくれよ。
遠い崖の上から、バレットの叫び声が聞こえた気がする。
思えば、本当にこいつとは喧嘩ばかりしていたな。ガキの頃から、今の今まで。
けれど、その後はまた、笑い合えていた。……今回ばかりは、無しだけどな。
そういえば、エレノアとの結婚を後押ししてくれたのも、お前だったよな。
お前には、世話になりっぱなしだったよな、バレット……。
けど、もう少しだけ世話になるぜ。マリンが大人になって、ひとりで生きて行けるまで
絶対死ぬな。そして、あのペンダントを渡してやってくれ。あと、あんまり心配かけさすな。
それと……最後にこれだけ言わせてくれよ。
…………ありがとう。お前は俺の、一番誇れる親友だったぜ。
313:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/17 12:29:43 D6iAyYur0
ダインキタ━━━(゜∀゜)━━━ !!!!!テラセツナス。
幸せな前半と切ない独白のコントラストがGJ!
314:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/17 16:34:32 N7DDJ4190
>>309-312
ダイン! とにかくGJだ、GJを贈らせてほしい!!
ダインが何よりも壊したかったのは、自分自身なのかな。プレイ当時はそんなこと
思いませんでしたが、これ読んでいたらそう思った。バレットの前で自決したのも
そういう意図が? と。
そして保守。
315:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/17 21:02:18 9Is6GtwNO
>>309
乙です!
316:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/18 01:22:09 BTfnD1Fo0
>>313-315
ありがとうございます(つд`)続編も投下させていただきます。
ジェノバ戦役から10年、かつてコレルプリズンと呼ばれた荒野に1組の父娘が訪れていた。
そこには、風化してしまったような2本の十字架と、それよりは新しい十字架が1本立っていた。
「これが、母さんと、父さんの奥さんと……」
マリンが言葉を選べずに視線を彷徨わせていると、バレットはその大きな掌をマリンの頭に乗せた。
「お前の、本当の父ちゃんの墓だ」
ダインとの約束を果たすのは、随分遅くなってしまった。幼い頃のマリンには厳しい話であったが
それでも、少し先延ばしにし過ぎてしまったのかもしれない。
しかし、マリンは事実をしっかりと受け止めてくれた。そして、バレットにこう言ったのだ。
「母さんと、父さんに会いに行きたい」
「ねえ父さん……私の母さんって、どんな人だった?」
バレットが朽ちてしまった十字架を、ちゃんとした物と取り替える作業をしているとマリンが尋ねた。
「そうだな……エレノアは、本ッ当に綺麗な人だった。もちろん、見た目だけじゃねぇぞ。
気立ても良くて、明るくって……本当はな、父ちゃんの初恋の相手だったんだぞ」
「そうなんだ……。じゃあ、父さんの奥さんは?」
「ミーナは、とにっかく気の強い女だったな。結婚してからも、よく怒られたよ。
けど、笑顔がすごく可愛かった。その笑顔に、やられちまったのさ」
「じゃあ……ダイン……さんは?」
「ダインは……村一番の悪ガキだったな。けど、誰よりも人を思いやれるヤツだった。
俺とは、赤ん坊の頃からの仲だったけどよ……毎日毎日、馬鹿ばっかやってたなぁ」
バレットは、14年前に造られたワインのコルクを抜き、十字架に注いだ。
最後に3つの墓それぞれに花束を添えると、2人は目を瞑り手を合わせた。
― ダイン、随分時間がかかっちまったが、これで約束は果たしたぜ。
エレノア、お前の自慢の娘は、こんなに綺麗な子になったんだ。お前そっくりさ。
ミーナ、今はまだ無理だけどよ、いつか俺が星に還ったら、また手を繋いで歩こうぜ。
……俺は、お前等と会えて本当に良かった―
317:題 :いつかの空の下2/2
06/03/18 01:43:45 BTfnD1Fo0
sage忘れスマソ_| ̄|○ >>316の続きです。
2人はゴールドソーサーのホテルに戻り、夕食を取ることにした。
「ねぇ、父さん」
「ん?」
「母さんも、父さんも、ミーナさんも、きっと幸せだったと思うよ。
何でかはわかんないけど……父さんの嬉しそうな顔見てると、そう思った」
「……そうか」
バレットは涙が溢れそうになるのを、ウイスキーを一気に飲み干す事で無理矢理抑えた。
「私も、父さん達みたいになりたいな。大切な友達がいて、大切な人がいて……」
「お前にも大切な友達がいるだろう?デンゼルに、シェルクに……。ああ、でもあれだぞ。
付き合うなら、ちゃーんとした男と付き合うんだぞ?悪いヤツに騙されるなよ」
「もう、子ども扱いしないでくださーい!」
「お前は、まだまだ子どもだっての!」
「……ねぇ父ちゃん。私も、お酒飲んでいい?」
「だーかーら、お前は子どもなんだから、ダメだ!」
「父ちゃんは、子どもの頃から飲んでたんでしょ?」
「う……そりゃあまあ、そうだけどよ……」
「なら、いいでしょ」
マリンはバレットのグラスを掠め取り、一気に煽った。
「あ、コラ馬鹿!」
「うぅ……美味しくなぁい……」
バレットは、日に日にミーナにもエレノアにも似ていく娘に、ため息をついた。
「結局、酔い潰れちまって……」
マリンを背負い、客室へと戻る。思えば、こうしておんぶするのは随分と久しぶりだ。
「……父ちゃん、何があっても、私の父ちゃんは、父ちゃんだけだよ……」
背中のマリンがそう呟くと、バレットはもう涙を止めることが出来なかった。
318:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/18 02:34:57 1H6BepRU0
>>316-317
DCFF7-2があったら、その中で描かれるダインの墓参りイベントってこんな感じで
ありそうだな、と(ふくらむ妄想)。
人が死んで肉体は滅んでも、ライフストリームに還るっていうFF7の世界観の中で、
それでもバレットは「けど会える訳じゃない」って、ハイウィンドの中で言ってるぐらい
死に対して真摯に向き合ってる姿が、ここでも良く描かれてるなと思いました。
(>>316の下4行)
とりあえずFF12関連の勢いが凄いので、分割投下を試みてみます。
圧縮の頻度はどのぐらいなんだろう…。
319:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅤ(1)
06/03/18 02:47:09 1H6BepRU0
前話:>>289-293
舞台:DCFF7第9章@シエラ号艇内(回想はFF7/DCFF7第7章~8章)
備考:DCFF7本編で描かれるシーンが前提で進みます、未プレイの方すみません。
シエラ号の構造に多少のねつ造があるのはご愛敬と言うことで。
----------
―「がんばって、ケット・シー」
そう言って微笑んでくれた彼女の笑顔を、今でも鮮明に覚えている。
彼女はスパイだった自分を信じてくれただけではなく、励まそうと微笑んでくれた。
(忘れへんで……絶対。忘れへん)
だから今度は、わいが頑張らなアカン。先に壊れてしもた1号機のことも、わいの
事も。たまにでええ、思い出してくれたら嬉しい。
ケット・シーは来た道を振り返り、閑散としたフロアに向けて勢いよく手を振った。
見ている者もなければ、振り返してくれる者もいない。少しだけ淋しくなって振っていた
手をゆっくりと下ろした。
誰にも見送られることなく、ケット・シーはエンジンルームへと続く扉を静かに開けた。
***
320:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅤ(2)
06/03/18 02:51:06 1H6BepRU0
それはつい数分前の出来事である。
『アカン! アカンで~。戻るんや、戻らんかい!! コラ、聞いとるんか!?
……も・ど・ら・ん・か・い!!』
幅の狭い通路の先から、いまいち深刻さに欠ける叫び声が聞こえて来た。
巡回中だった隊員があわてて駆けつけてみれば。
「こらこら、離しなさい」
WRO局長が、珍しく困った顔で後ろを振り返り、視線を足下へ向けている。
つられて隊員も視線を下げてみれば。
『アカン、行ったらアカンのや!』
猫がいた。
「…………」
小さな猫―型の人形? ぬいぐるみ? ロボット?―が、必死に裾に
しがみついて、リーブの歩行を阻害している。深刻さに欠けるどころか、滑稽。
いや、それはいっそ微笑ましい光景だった。
WRO<世界再生機構>の人間であれば、その猫を知らない者はいないだろう。
ケット・シー―それはジェノバ戦役の英雄のひとり、正確に言えば分身だった。
なぜこんな狭い通路で押し問答を繰り広げているのかと言えば、出力低下の
警報音を聞き駆けつけたリーブが、自分が操っているはずのケット・シーに進路を
阻まれ立ち往生していたのだ。考えてみれば奇妙な現象である。
321:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅤ(3)
06/03/18 03:00:01 1H6BepRU0
『そこの兄ちゃん、ちょっと頼まれてくれへんか?』
ケット・シーは裾を引っ張る手を離さずに振り返ると、この光景を呆然と見つめて
いる隊員に向けてこう言ったのだ。
『異常事態なんや。急いで助っ人……いや、シドはん呼んで来てくれへんか?
……このまま、このおっさん行かせるわけにはイカンのや』
地上部隊のクラウド達はもちろん、ユフィやヴィンセント、他の隊員達もミッドガルに
向けて降下している。先の本部戦で受けた被害もあり、今この飛空艇には最低限
必要な人数しか残っていない。ケット・シーが言わんとしている事の重大さは、彼にも
分かっている。
「はっ!」
律儀に敬礼する隊員に、ケット・シーは相変わらずおどけた口調で返した。
『……すんませんけど、頼んます』
隊員は背を向け、来た道を全速力で駆け出していった。
***
ミッドガル総攻撃開始を目前に控えたシエラ号艇内は、各所で隊員がせわしなく
行き来し、来るべき出撃に備えてに活気づいていた。
そんな飛空艇内で唯一、上層部の一番奥に設けられたメディカルルームだけは
その喧噪から隔絶されていた。少女はここへ戻ってくることをほんの少しだけ、ためらって
いた。しかしつい今し方、SNDを実装したばかりの専用端末はこの部屋にしかない。
だから戻って来ないわけには行かなかった。
今やめる訳にはいかない。自分の身に託された"彼女"の思いを……願いを、知って
しまったから。
それに。
―「それでは、シェルクさん。頼みましたよ。」
そう言って目の前を去っていったリーブ=トゥエスティは、笑顔だった。シェルク自身が
動く理由はないはずなのに、彼の申し出を拒めなかった。まんまとあの男の言いなりに
なっている様で、そんな自分が腹立たしく思えた。
322:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅤ(4)
06/03/18 03:13:27 1H6BepRU0
『シェルクはん』
扉の前で名前を呼ばれた時、我に返った。通路脇に備え付けられた小型
ディスプレイに表示された数字は刻々と減少を続けている。ミッドガル総攻撃
開始までのカウントダウンは既に始まっていた。WROの侵攻部隊降下と
合わせて、シェルクもSNDで援護する手はずになっている。それは彼女自身の
提案により、急きょ決まったことだった。そのための最終調整をしていたはず
なのだが、どうやら別のところに気をとられていたようだ。気を取り直してパネルを
操作すると、室内へ通じる1つ目の扉を開いた。
考えてみればケット・シーはリーブが操縦しているロボットのはずなのに、なぜか
これには腹立たしさを感じない。なぜだろう? 考えても答えは出て来そうにも
なかった。2つ目の扉の前で立ち止まったシェルクは、ちらりと視線だけを動かして
足元を見た。
「なにか?」
ケット・シーはじっとこちらを見つめている。シェルクは視界の隅でその姿を確認
すると、視線を前方の扉へと戻した。
『さっきは……すんません』
2つ目の扉はすでに自動で開いていたが中へは入らずに、シェルク横についた
小型ディスプレイを見つめていた。画面の中ではカウントダウンが続いている。一方で
耳ではケット・シーの話す言葉を正確にとらえていた。
しかし唐突に謝られたのはいいが、何に対して謝られているのか心当たりがまるでない。
「なぜ謝るのですか?」
画面に触れ、何度か表示を切り替えながら、シェルクは短く言葉を発した。別に見なくても
いいはずの飛行航路表示を呼び出して、すぐその画面を閉じる。
『……その。えらそうな事、言ってしもて』
「気にしていません」
シェルクにしてみれば、ケット・シーに偉そうな事を言われた覚えがなかった。だから
そう返答したのだ。
323:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅤ(5)
06/03/18 03:16:43 1H6BepRU0
ここで会話が途切れた。画面上で確認できる情報には一通り目を通してしまった
シェルクは、仕方なしにメディカルルームへと足を踏み入れた。相変わらず整然と
並んだ機械類は、呼吸でもするように僅かなノイズ音を規則的に発していた。
姉が横たえられているカプセルに視線を向けることはせずに、そのまま奥の席に
座ろうとしたシェルクは、いつもは自動で閉まるはずの扉が閉まらないのを不審に
思って振り返った。
だが、異常は見られない。
視線を下へ向けると、ケット・シーが入り口で立ったまま俯いている事にはじめて
気がついた。
「…………」
落ち込んでいるような姿に、なんと声をかければ良いのかが分からずシェルクは
戸惑う。そのまま放っておけば良いような気はするのだが、そこにも妥当性を見い
だせずにまた戸惑った。とりあえず、ケット・シーの傍まで歩み寄る。
しかし、けっきょく見下ろすだけで何もできなかった。
『3年前の、話なんやけど……』
そんなシェルクに助け船でも出すように、ケット・シーがおずおずと顔を上げて
語り始める。
324:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅤ(6)
06/03/18 03:23:34 1H6BepRU0
『わいな、最初はスパイやったんや。知っての通り神羅の人間やったから……。
せやけど、みんなと一緒におったら考え方、変わってしもたんや』
最初は戸惑ったと言う。自分が派遣された本来の目的は監視、内偵、そして
ある物を神羅に渡す事だったから。しかし、それを決定的に覆したのが彼女の
言葉だった。
『……“がんばって”ってな……そう言って、わいの名前呼んでくれたんや。なんや、
アホくさい思うかもしれへんけど、ホンマに嬉しかったんや……』
誰かに頼ってもらえること。
誰かが必要としてくれること。
それは、自分と同じボディの1号機の記憶だったけれど。
『せやから……“言葉で伝える”っちゅーことも大切なんやて……思うんや』
照れたように頭に手をやって、いつものように戯けて見せようとした。けれど
上手くいかなかったのか、またすぐに俯いてしまう。
一方それを聞いてシェルクは、出ないと思っていた答えの一部分が見えた様な
気がしたのだった。
―「それでは、シェルクさん。頼みましたよ。」
なぜ、あの男の申し出を拒めなかったのか。その答えが。
「私も、同じ……ような気がします」
そう言って、シェルクはひとつ息を吐き出した。「呆れました」とでも言いたげな
表情で。
「よく……分かりませんが、誰かに何かを依頼されるという行為には……慣れて
いません」
シェルクはぎこちない動作で膝を少しだけ曲げると、前屈みになってケット・シーに
顔を近づけようとした。
325:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅤ(7)
06/03/18 03:26:12 1H6BepRU0
するとケット・シーは突然、シェルクの視線の高さまで高く飛び上がると、こう言い
放った。驚いたシェルクは呆然とその様子を眺めていた。
『よっしゃ! そんじゃもう一踏ん張りや! わいもサポートさせてもらいまっせ~。
一緒にがんばりましょ』
ぴょんぴょんと、やけに嬉しそうに飛び上がるケット・シーを見ていると、シェルクは
これまでに見せたことのない表情を浮かべた。戸惑っているような困ったよな、そんな
小さな笑顔。
「……そうですね」
そう言って、彼女は再び扉の横に設置された小型ディスプレイに視線を落とした。
画面端の表示は、残り3分を切っていた。
シェルクはキーボードをたたいて画面を操作し、SNDの態勢へと移行する。
かつての都ミッドガル―地上と空とを舞台にしたディープグラウンドとの激戦が幕を開ける前、
それはつかの間の平穏であった。
----------
分割もクソも行数規制で結局同じでした…orz
326:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/18 07:25:57 ZBtSm+5+0
hosyu
327:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/18 12:34:06 zUSs+YUHO
ほしゅ
328:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/18 18:24:44 zUSs+YUHO
保守
329:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/18 21:49:47 htKGFiBF0
>>316
>>319
乙です!
7って魅力的な人多いなーって読んでたら思いました。
みんな12プレイ中かな?
330:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/18 21:56:24 Uevt/GX60
>>319->>325
GJ!(n’∀’)η毎度毎度、楽しませてもらってます!
昨日に続き、もういっちょ妄想投下です。
331:Butterfly 1/2
06/03/18 22:29:49 Uevt/GX60
「お邪魔しま~す♪」
シャワーを浴び、ストレッチを済ませて眠りにつこうとしていたクラウドの部屋に
訪れたのは、顔を赤くし、酒の甘い匂いを漂わせたエアリスだった。
「……何のようだ」
「ねぇクラウド、一緒にお酒のも?」
「断る」
「え~、だって、まだ出発はしないんでしょ~?」
クラウド達は、ミッドガルを脱出して、東大陸を出るまでぶっ通しで旅をしていた。
メンバーの疲労も相当なものだったので、ここコスタ・デル・ソルでしばしの休息を
取る事にしていたのだ。みなそれぞれ、気ままに休暇を楽しんでいた。
しかし、クラウドは今ひとつ休めていなかったのだ。
今日の日中は、ずっと女性陣の買い物に付き合わされていたからだ。
何処にあれほどの体力が残っていたのか、不思議であった。
「……ティファやユフィと飲んだらどうだ?」
「ティファ、ジョニーさんの所に行ってるの。ユフィはもう寝ちゃったの。
大体、ユフィ、未成年でしょ!」
「バレットは?」
「バーで飲んでたみたいで、もうイビキかいて寝ちゃってる」
「レッドは?」
「お酒飲めないの、知ってるでしょ!?ねぇクラウド、そんなにわたしと、お酒飲むの嫌?」
「そういう訳じゃないが、今日は疲れたんだ。早く寝たい」
「へぇ~、そうですか。クラウドは、女の子よりも疲れちゃって、お酒も飲めないんだ」
「……わかった。上がれよ」
「やった~!改めて、お邪魔しま~す!」
エアリスは、ここ数週間の旅の間でクラウドに関するひとつの法則を発見していた。
ちょっと喧嘩を売ると、必ず買ってしまうのだ。おかげで、バレットとの口喧嘩も絶えない。
まんまとエアリスの策略に嵌ってしまったクラウド。夜はまだ、これからだ。
332:Butterfly 2/3
06/03/18 23:01:19 Uevt/GX60
「へぇ~、ここがクラウドの部屋か~。もっと、散らかしてると思った」
「……悪かったな」
「も~、すぐ拗ねちゃ、ダメ!」
「拗ねてない。それより、勝手に人の部屋の冷蔵庫を開けるな」
「だって、お酒、ぬるくなっちゃうもの。……クラウド、ビールで良いよね?」
「ん、ああ」
「はい、かんぱ~い!」
エアリスは、クラウドの缶ビールに自分の缶カクテルを打ちつけた。
「さっきまで、一人で飲んでたのか?」
「ううん、ティファと一緒に、ジョニーさんの所で飲んでたの」
「ならそこで飲み続けていれば良かったじゃないか」
「うーん、わたし、ちょっとお邪魔だったみたいだったから」
クラウドには、ジョニーとティファの関係なんてわからない。親友なのかもしれないし
それ以上の関係だったのかもしれない。ティファは、子どもの頃から誰にでも好かれたから。
どちらにしても、何故かクラウドは、少しだけ寂しくなった。
(……馬鹿馬鹿しい)
「クラウド、どうしたの?」
「ん、なんでもない」
「へ~。ねぇ、クラウド。クラウドって子どもの頃どんな子だったの?」
「どんなって……別にいいだろ」
「気になる~!」
エアリスの質問攻めは延々と続いた。好きな食べ物は?好きな動物は?趣味とかあるの?
クラウドは濁らすこともままならず、答え続けた。その内、時計の針も2時を回った。
333:Butterfly 3/3
06/03/18 23:12:55 Uevt/GX60
「なぁエアリス。もう時間も時間だ。そろそろ部屋に戻らないか?」
「え~!もっと、クラウドと一緒にいたいな~」
クラウドはもう、ため息をつくしか無かった。ビールはもう、5本目に達していた。
ふと、エアリスがクラウドの隣に座り、上半身を預けてきた。
「おい、何してるんだ」
「クラウドって、好きな人とかいないの?」
一体この女は何を言っているのだろう。そう思った刹那、クラウドは彼女の異変に気付いた。
「……寝てる?」
質問するだけ質問して、エアリスは眠ってしまった。クラウドは何度目かわからないため息をつき
エアリスをベッドに運んでやった。クラウド自身も、そうとう酔ってしまっていた。
すっかりペースを崩されたクラウドは、ソファーに横たわり、眠りに落ちて行った。
翌朝は、やはり散々だった。2人揃って、二日酔いだ。
「う~……色々ごめんね、クラウド」
「別にかまわないさ」
「それじゃ、また、ね」
エアリスを見送ると、背後に気配を感じた。
「昨夜は随分とお楽しみのようでしたね」
思わず振り返ると、ニヤケっ面のユフィが立っていた。
「マテリア6個でどう?」
「おい、どういうことだ」
「あーあ、昨夜の事を赤裸々に話しちゃおうかな~」
やられた。ユフィは、クラウドの隣の部屋だったのだ。仮にもニンジャである彼女なら、隣室の会話くらい
筒抜けだ。更に都合が悪いことに、昨夜の記憶はいまいち曖昧だ。
もし何かの間違いがあったとしたら、それを話されるのはまずい。
「わかったよ……」
「イェ~イ!ティファには内緒にしておいてあげるね!」
二日酔いの頭を抑え、クラウドは部屋に戻り不貞寝を決め込む事にした。
ビーチで宝条と出会ったのは、その日の午後の事だった。
ひたすら振り回されるクラウドを書きたかっただけだった。今は反省しているor2
334:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/19 02:01:06 M9P+X8wh0
ほ
335:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/19 09:35:08 rBez1kqn0
保守
336:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/19 14:52:43 JQ80SPFu0
ほ
337:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/19 20:05:02 aOnhNo/L0
ぼ
338:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/20 01:05:31 RpF7qpsX0
ま
339:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/20 02:32:17 VtOLUHaK0
ぬぉ
340:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/20 08:28:39 c9Cwo/Ys0
り
341:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/20 11:01:06 P4efolaf0
保守
342:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/20 19:32:32 ODk6WueU0
保全
343:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/21 01:57:01 Ge9wXlkG0
>>331-333
> 「昨夜は随分とお楽しみのようでしたね」
宿屋の名言(@DQ)をさらっと言ってのけるユフィにワロタw
344:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/21 10:29:18 0JpfcKP30
ho
345:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/21 19:26:26 yUsJ6CZZO
保守
346:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/21 23:32:56 Mylcw6oq0
保守
347: ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/22 01:51:34 gK9d8eMC0
DC後、ヴィンセントが戻って来るまでの仲間達のお話です。
プレイされてない方はネタバレになるのでご注意願います。
カップリング要素はありませんがシェルクがオリジナルメンバーに
どういう風に受け入れられていったかという話なので、彼女が苦手だったり、
オリジナルメンバーと絡むのがお嫌いな方はご遠慮下さい。
348:DC後 【1】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/22 01:52:17 gK9d8eMC0
「さてと、奴を迎えに行くか。おい、リーブ!」
タバコの吸い殻を放り投げようとして、
慌ててポケットから携帯用の吸い殻を取り出したシドが言う。
「なんでしょう?」
「あの野郎は俺達で探す。お前は残りの後始末を頼まぁ。」
「分かりました。…と、シェルクさん。」
呆然と空を見上げ、どこか遠くで男達の話を
聞いていたシェルクは驚いてリーブを見上げる。
「あなたはしばらくはゆっくり休まれた方がいいかと思います。」
休むと言っても帰る場所のない自分にどうしろと言うのだろう。
それに、シド艦長はヴィンセントを探しに行くと言っていた。
出来ればそれに加わりたい。
「エッジにWROの宿舎があります。とりあえずそこに…」
「待って!」
「なんでしょう、ティファさん?」
「そんな味気のない所より、家に来ない?ヴィンセントが
お世話になったお礼がしたいわ。ね、クラウド、いいでしょう?」
「あぁ、大歓迎だ。」
「なるほど…それは名案ですね。」
「でしょ?」
そう言われても、初対面、しかも日常と隔絶された地下の住人だった自分に、
いきなり他人との共同生活が可能なのだろうか?
349:DC後 【2】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/22 01:52:53 gK9d8eMC0
「俺と、バレットとユフィは残ってヴィンセントを探す。先に戻っていてくれ。」
クラウドの言葉にティファは頷いて、優しくシェルクの肩に手を置く。
「え~!?アタシもぉ~?」
「探すのは得意だろ?」
不満の悲鳴を上げるユフィの頭に、シドの親父拳骨が落ちて来る。
「アタシだって女の子なのにぃ!差別!さべーつ!」
「ティファは子ども達が待ってんだよ。」
と、シドはにべもない。
シェルクは困惑を隠しきれない。
この中で自分の生い立ちを一番よく知るリーブを縋るように見上げる。
だが、リーブはにこにこと笑うだけだ。
「ご心配な気持ちは分かります。でも、あなたが滞在されるのに、
7th Heavenより最適な場所を思い付きませんよ。」
なんたろう、この人達は。
ヴィンセントが行方不明なのに心配する素振りも見せず、
かつての敵だった自分の心配ばかりしている。
「あなた方は彼の事が心配ではないのですか?」
不躾な質問にティファは小首を傾げてじっとシェルクを見つめる。
「あなた方はおかしいです。私のことよりも、彼の心配を…」
言いかけて、シェルクはハッと口を噤んだ。
350:DC後 【3】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/22 01:53:26 gK9d8eMC0
『なぜか私の周りには、理屈抜きで飛び出して、誰かを助けるお人好しばかりだ。』
彼の言葉を思い出し、目の前にいるこの連中こそがその“お人好し”なのだ。
困惑の次に湧いて来たのは好奇心だった。
一緒に行動していたら彼らの行動の根源にある物が見つかるだろうか?
考え込んでしまったシェルクをリーブは穏やかに見つめている。
この人は曲者だとシェルクは思う。
柔らかな物腰で、そのくせ嫌とは言わせないのだから。
「…分かりました。」
リーブは大きく頷き、バレットとシドも満足げだ。
「よろしくね、シェルク…私はティファ。
シドは…もう知っているのよね。こちらがクラウドとバレット。
みんな…仲間なの。ヴィンセントのね。」
クラウドは軽く頭を下げ、バレットはシェルクに握手を求める。
「バレットだ!ヴィンセントが世話になったみたいだな。」
大きな身体に大きな声だが、アスールの様に冷たい感じはしない。
シェルクがおずおずと手を出すと、バレットはその小さな手をそっと握る。
(暖かい…)
誰かの手を握るなんて久しぶりだった。
「ティファの所には俺の娘も居るんだ。
マリンっていってな。仲良くしてやってくれ。」
「男の子も居る。」
クラウドが短く言葉を挟む。
「デンゼルというんだ。」
子供の存在が再びシェルクを困惑させる。
「二人ともいい子よ。大丈夫。」
まるでシェルクの心配を察したかの様にティファの手が優しく肩を抱く
351:DC後 【4】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/22 01:55:19 gK9d8eMC0
「ところで、シェルクさん。」
「なんでしょう?」
「落ち着かれたら…WROに来ませんか?」
「え?」
「今回の戦いのせいもあるのですが…うちは慢性的に人手不足です。
あなたはネットワークのスペシャリストだ。是非、お手伝い願いたい。」
シェルクがどう返事しようか頭を巡らせていると、シドが割り込んで来た。
「待てよ!リーブ、何もこんな時に言わなくったっていいじゃねぇか。」
「それもそうですね、失礼しました、シェルクさん。」
リーブは大仰に両手を上げて、冗談めかして答える。
「大体シェルクはなぁ、俺んとこに来て、飛空艇団員になるんだよ。」
シドの言葉に一同が、そして誰よりもシェルクが目を丸くする。
「シ…シドぉ?」
呆れたユフィが肘で彼を突いても、シドは気にする風でもない。
「うっせぇな!俺だってちゃんと考えあってのことなんだよ!
あんたは大した力の持ち主だ。俺と一緒に飛空艇の謎を解き明かしてみねぇか?」
最後の言葉に、ちゃんと理由があったことに驚きつつも、
シェルクを除く一同はなんとなく納得した気分になる。
「物探しが得意ならなら油脈探しはどうだ?」
どういう対抗意識か、バレットまでそんな事を言い出す。
「バレット、彼女はネットワークのスペシャリストで、
ダウンジングが得意というわけではないのですよ。」
呆れたリーブが横やりを入れる。
「なんだ、その…ダウ…なんとかは?」
「ダウンジング…な。」
「クラウドぉ!てめぇはまた俺の間違いを小声で訂正したな。」
ティファがくすくす笑っているが、シェルクは笑うどころではない。
自分の行き先を巡って、親父三人が言い争うのを呆然と見ているだけだ。
352:DC後 【5】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/22 01:56:36 gK9d8eMC0
「だーっ!もぉ!親父ども、うるさあああい!」
ユフィが叫んで、親父三人が黙る。
「シェルクはね!アタシと一緒にウータイに行くの!
あそこならのんびり出来るし、最近温泉も湧いたの!
そこでゆっくり身体を癒すの。」
そして、シェルクの前に立つと、気まずそうに、
「あん時は…ひっぱたいたりして悪かったよ。」
シェルクの目が驚きで見開かれる。
別に気にしてません。そう言えばいいだけなのに、
胸の中にくすぐったい何かがわき上がって来て、言葉が出ないのだ。
「みんな…もういいでしょ?」
笑っていたティファが助け舟を出し、シド、バレット、リーブ、ユフィが黙る。
「私をシェルクは店で連絡を待っているわ。早くヴィンセントを見つけて来てね。」
「いけね!そうだった!」
「リーブ、お前が余計な事を言い出すからだぞ。」
「私のせいなんですか?」
親父連中がワイワイ言いながらそれぞれの持ち場に向う。
特に打ち合わせをする風でもないのがシェルクにはまた不思議だった。
「気を付けてね、クラウド。」
「あぁ。子ども達を頼む。」
クラウドは軽く手を振ると、バレットの後に続く。
「あ~あ、もう、ヴィンセントのヤツぅ~面倒かけるんだから…」
ブツブツ言いながら、更にユフィが従う。
「頼んだわよ、ユフィ!」
ティファの言葉に、ユフィは思い切り顔をしかめて見せたのだった。
353:DC後 【6】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/22 01:59:07 gK9d8eMC0
「ごめんなさい、びっくりしたでしょう?」
事実なので、素直にはい、と答える。
ティファとシェルクはエッジに怪我人を運ぶ車に便乗させてもらっている。
黙って座っているシェルクに、ティファも余計な事は言わない。
ただ、一言だけ、
「大丈夫。きっと彼は生きてるわ。彼が特別な身体だっていうことを別にしてもね。」
「どういう意味ですか?」
「ヴィンセントはね、私達には想像もつかない重荷を背負ってるけど、
そのことで弱音を吐いたり、愚痴を言ってるのをを聞いたことがないの。
そんな人があれくらいの事で死んでしまうわけないわ。」
分かったような、分からないような。
「彼のことも、私たちのことも、外の世界も、ゆっくり知っていけばいいわ。」
そう言って微笑むティファに、姉の顔が重なる。
「あなたは…リーブ・トゥエスティに何を聞いたのですか?」
「何をって…あなたのこと?」
「はい。」
ティファはシェルクをじっと見つめる。
さっき、“はい”と答えても、顔が動かなかった。
(普通、返事をすると自然に頷いたりするのに…)
まるで昔のクラウドのようだとティファは思う。
「あなたが閉ざされた世界の住人だったこと。
それと、ヴィンセントを助けてくれたこと。それだけよ。」
354:DC後 【7】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/22 01:59:40 gK9d8eMC0
「私が滞在するのに、あなたの所より最適な場所を
思い付かないと彼は言いました。その理由は?」
「ティファでいいのよ、シェルク…」
「答えて下さい。」
「あなたが”ティファ”って呼んでくれたらね。」
「問題をすり替えないで下さい。」
機械的な返事を返すシェルクが痛々しい。
急いではいけない…とティファは思い直し、
「そんなつもりはないわ。気に障ったらごめんなさい。
家が最適なのは、おいしくて栄養のある食事が摂れること。」
そんな理由で…と呆れるシェルクにティファは笑って答える。
「あら、大事なことよ。もう一つは…そうね、やっぱり
”ティファ”って呼んでくれるまでは秘密にしておくわ。」
これ以上の会話は無意味と判断し、シェルクは黙り込んだ。
ティファも何も言わない。
車の揺れに身を任せている内に頭がとろんとして来て、
いつの間にか眠ってしまった。
つづく。
355: ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/22 02:01:07 gK9d8eMC0
お久しぶりのエッジ前哨戦です。
書きかけの物(>>285>>286)を放り出して、こちらを始めてしまいました。
あちらも書きたいのですが、話は出来上がってるのものの
飛空艇内の資料がなくて、うまく話が進みません。
いいかげんな事をしてごめんなさいですが、
>>288さんをはじめ、皆様どうかお待ち下さい。
(誰も待ってないかもですがort)
遅レスですが、>>267さん。
投稿人同士のなれ合いになってしまうかと思って
お返事迷ってましたが、ドリルさん…ですよね?
>「帰ってくる場所が分からない」って方を強調した方が良かったかも知れない
のご指摘、仰る通りです。
クラウドもティファも、子供達がいるからこそ
“家”という場所に帰って来られるんですよね。
気付かず、書き損じてすごく悔しい…ort
いつも、的確な感想とアドバイスありがとございます。
お話も、推敲された丁寧な文章と深い洞察で
うっとりしながら読んでいます。新作お待ちしております。
356:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/22 06:55:13 DaIqr8Gh0
GJ!
357:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/22 12:46:25 9GBGR8Qf0
保守あげ。
358:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/22 18:55:00 2cPRCJs2O
>>355
GJ!読みやすかった。
359:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/23 03:12:01 pGpRCrJM0
>>348-354
呼び名についてはDC本編同様に、この先にあるイベントの伏線になってるのかな? とか。
最終的に私服で登場したシェルクとのいきさつが描かれると楽しそうだな、とか。
色々想像するとこの先の展開が楽しみです。
リーブとシェルクのやり取り(349-350)が個人的に萌えた。くせ者とか言いながら
不安からちょっと頼りにしちゃったりする辺り、戦闘に離れていても日常生活初心者
っていうか…反抗期?みたいでw
360:DC後 【8】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/23 10:47:16 QwiSbOEP0
>>348-354 の続きです。
「…ク…シェルク…」
何か、夢を見ていたような気がする。切ない夢だったと思う。
胸の辺りがざわざわと落ち着かない。
人間の感情を司るのは心臓ではなくて頭のはずなのに、
彼らと出会って以来、なんだか自分がおかしい。
「起こしちゃってごめんなさい。」
シェルクはぼんやりと間近にあるティファの顔をぼんやりと見つめる。
いつの間にかティファにもたれかかって眠ってしまっていたのだ。
状況に気付くと、シェルクは跳ね起きた。
「す…すみません…」
「疲れていたのね。」
ティファは先に立ってトレーラーから降りると、大きく伸びをした。
「いいお天気よ。」
振り返って、シェルクを手招く。
後に続いたシェルクも空を見上げる。
確かにいい天気だ。
(でも…なんだか落ちて来そう。)
吸い込まれそうな青空が、シェルクには不安だった。
361:DC後 【9】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/23 10:48:02 QwiSbOEP0
「ここから20分ほど歩くの。大丈夫?」
シェルクは空を見るのを止め、ティファを見て頷く。
「そう。じゃあこれを。」
ティファは毛布をシェルクを包み込む様にしてかける。
「寒くありません。」
「そうね…でも、家に着くまではこうしててね。」
「理由を説明して下さい。」
ティファは少し首を傾げ困った表情をする。
小首を傾げるのが彼女の癖らしい。
「…この街は、ディープグラウンド・ソルジャー達に襲われたの。」
それだけで十分だった。シェルクは目を伏せてしまう。
ティファは彼女がこれから向き合わなければいけない現実を思うと胸が痛んだ。
しかし、甘やかしても解決しない。答えは自分で見つけなければいけないのだ。
その一方で、彼女も被害者なのだ。
彼女だけでなく、長い間地下に閉じ込められていた人達が
この社会に戻る事が出来るのだろうか。それは途方もなく長い道のりだ
362:DC後 【10】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/23 10:48:32 QwiSbOEP0
「こっちよ。」
ティファは自分自身を奮い立たせるつもりで元気良く声を掛ける。
先に立って歩き出したティファの後に続く。
まだ煙が燻っていたり、あちこち壊れた家が目立つが、
金槌の音が響き、街は活気に溢れていて、
シェルクは物珍しげにその様子を眺めていた。
が、不意に泣き声がして、そちらに目をやる。
見ると、縦長の木の棺が家の中から出て来た所だった。
家を直していた人々が手を止め、帽子を取って黙礼して見送る。
棺に、小さな男の子が取りすがって泣いている。
「息子を庇って撃たれたらしい…」
「ちくしょう…ひでぇことしやがる。」
そんな会話が耳に入って来て、シェルクは途端に身体から血の気が一気に引くのを感じた。
身体が震えて、この陽気に毛布まで被っているのに寒くてたまらない。
黙礼していたティファはシェルクの様子に気付くと、
背中にそっと手を回し、その場を立ち去った