FFの恋する小説スレPart5at FF
FFの恋する小説スレPart5 - 暇つぶし2ch150:エッジ前哨戦【3】
06/02/19 07:35:11 4EXjnasl0
「いい?扉を3回叩くから。」
「ティファ!」
「それ以外は何があっても開けちゃだめよ。」
「ティファ!ティファはどうするの…?」
「大丈夫。ちょっと街の様子を見て来るだけ。」
「やだ!危ないよ!ティファも一緒に…」
「マリン…」
縋り付くマリンの頭を優しく撫でてやると、ティファはウィンクをしてみせる。
「孤児院の様子も見に行きたいの…大丈夫よ。
 私だって、クラウドやバレットにだって負けやしないんだから。」
「でも…」
マリンは大きな瞳に涙をいっぱい溜めてティファを見上げる。
「分かって、マリン…私は、そうしなければいけないの。」
真剣なティファの瞳に、マリンは言葉を失う。
でも、行かせてはならないと必死に言葉を巡らせる。
「大丈夫だよ、ティファ!マリンは俺が守る!」
「デンゼル…」
「マリン、俺と行こう」
「やだ!」
マリンは大きく頭を振る。
「デンゼル、ここを降りると、下水道よ。そこでじっとしていなさい。
 食料と、水と、緊急用に電話があるわ。もし…」
言いかけて、ティファは口を噤んだ。
(いえ、そんな事があってはいけないのだけど…)
言い淀んだティファを察したのか、
「俺、マリンの父ちゃんに連絡するよ!クラウドにも!」
元気にデンゼルが答えた。そして、マリンの手を取ると、
「俺たち、大事な役目があるんだ。行こう!マリン!」
マリンはきゅっと唇を噛んで、ティファを見、そしてデンゼルを見て、漸く頷いたのだった。


151:エッジ前哨戦
06/02/19 23:39:13 4EXjnasl0
すいませんが、どなたかマリンがバレットを
なんて呼んでいたか覚えてられませんか?
「父ちゃん」でよかったかと思うのですが、
ちょっと自信がないです_| ̄|○


152:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/20 00:39:17 2G7AzH6G0
>>132-137
アーヴァインに対する見識を改めさせられました。
彼らしい、気さくな語り口で描写されているものの、
考えてみるとつらい立場だったんですねアーヴァイン。
タイトルと内容がピッタリはまってて良い感じです。GJ!

>>148-150
ACで見せてくれたデンゼルの前向きさが良く現れてるなと思いました。
欲を言えば、ACでマリンはティファ(と、ロッズの)強さを目の当たりにしているので、
その辺もあったらよかったかな、なんて。
(強いと分かってるんだけど、それでも心配するという…なんか矛盾してる気もしてきた)
ついでにDC地上部隊編も書いてくれないかな~とか、どさくさ紛れにリクエストしてみるw

153:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/20 00:42:00 2G7AzH6G0
強いとは分かってるけどそれでも心配なんだよって言う
……なんか書いてて分からなくなってきた。あくまで個人的な意見です。


>>151
以前にも似たような質問をこのスレで見た気がするw

「父ちゃん」で正解だったと思います。
7本編中、ゴールドソーサーでのデートイベント直後
ケット・シー経由での通信でそう言っていた記憶から。
(手元にデータがないので確証はありませんが…。)

154:エッジ前哨戦
06/02/20 00:52:29 td2ow/zj0
>>152-153
>強いとは分かってるけどそれでも心配なんだよって言う

仰りたいこと、分かる気がします。
マリンもティファが強いと分かってるけど、
それでも心配でだだをこねてる…ってつもりで書いたのですが、
やはし難しいですね_| ̄|○

>ついでにDC地上部隊編も書いてくれないかな~とか、どさくさ紛れにリクエストしてみるw

ありがとうございますw
でも、自分、そこまで辿り着いてないんですよ。
もう少し進めてから考えてみますね。

少しずつよりも一気に投下の方が良いみたいなので、
完成したら投下に参ります。
バトル関係とか、分からない事があったら質問に参りますので
その時はまたお願い致します。

特に>>151 、切実です・゜(つД∩)゜・。

155:エッジ前哨戦
06/02/20 00:53:32 td2ow/zj0
すいません、リロってなかった_| ̄|○
>>153
ありがとうございます。
そして、無駄にスレ消費してごめんなさい。

156:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/20 22:57:06 HJ/tzdZu0


157:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/21 14:37:35 Mx2NOc+t0


158:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/22 02:27:07 OY8WUsYt0


159:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/22 08:39:09 oCKOyGK00


160:ドリル装備の名無し ◆Lv.1/MrrYw
06/02/23 01:01:58 prxFVoJV0
性懲りもなくケット・シー(リーブ)ネタです。
色々すみません。謝るようなら書くなと言う感じですが
DCFF7クリアしたてなので、時期的にちょうどいいかな、
なんて。

タイトルに機種依存文字を使用する事をお許し下さい。

161:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅠ(1)
06/02/23 01:05:34 prxFVoJV0
舞台:FF7Disc3(最終決戦前)
    (DCのネタバレはありません。)
設定:DCFF7であったというインスパイア能力保持者※1
    AC公式サイトの小説の設定は依然としてお借りしています。
----------------------------------------

 フロアの床を埋め尽くしているのは、継ぎ接ぎを施してようやく繋がった
おびただしい量の配線コードと、飛び散った窓ガラスや照明の破片、その
上には誰の物とも分からない荷物や書類などが散乱していて、文字通り
足の踏み場もなかった。幸いにも日はまだ高く、メインの電力供給を絶たれた
室内でも作業に充分な光度が保たれていた。
 いまや瓦礫に埋もれてしまったフロアを目の当たりにすれば、多くの者は
愕然と立ち尽くすだろう。こんな状況で何ができるのだろう? と。
 しかし、彼は違った。
 迷うことなく倉庫へ向かい、傾いたドアをくぐって奥にあった自家発電用
バッテリを持ち出すと、それらを手早く機器に接続しはじめた。ものの30分で
必要最低限の動力を得て機能を確保すると、休む間もなく各部署との通信を
試みた。
 足元に散乱するフロアタイルの残骸やガラス片などに混じって、茶色い土が
混じっていたことにも気が付いていた。その正体にも心当たりはあった。それ
でも手を止めず、ひたすら作業を続けた。彼が作業を始めてからもう何時間に
なるだろうか? 処理を終えた書類を投げ落とし、新たに出力された書類を渡す。
鳴り止まない電話を横に置き、とにかく必死に作業をこなした。我々に残された
時間はあまりにも少なかった、休んでいる暇などない。ミッドガルの構造を知り、
あらゆる通信設備を駆使して、一刻も早く全住民にこの危機を知らせなければ
ならない。
 しかも混乱を招かないように、彼らをスラムまで誘導する。与えられた猶予は、
たったの7日。
 完全に成し遂げることなど、とうてい無理な事だとは分かっていた。だから
目標値をあらかじめ設定しておいた。全住民の63パーセント―綿密な計算の
果てに出された数値は、ようやく過半数を上回る程度でしかない。ミッドガルという
都市を知り尽くしているからこそ、誰よりも間近で現実を直視しなければならなかった。

162:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅠ(2)
06/02/23 01:08:24 prxFVoJV0
 出された数値に落胆している暇も、悩んで立ち止まっている暇もない。次々に
送られてくる情報が、彼の手を休める暇を与えなかった。
 猫の手も借りたい状況とはまさにこのことで、幸いなことに彼には手を貸して
くれる猫が存在していた。ケット・シーという名前で、ここにいるのは3号機だった。
『人手が足らへん。……まずは都市開発の人たち、集めてみましょか?』
 しかもこの猫、しゃべるのである。
 それも満面の笑みで。
「無事だといいのですが」
『大丈夫やて。……アンタらの作った街やろ?』
「ははは……確かに、そうですね」
 ケット・シーはいつも、笑顔をくれる。作り笑いさえもしなくなって久しい私に、
いつも微笑んでくれる。
「……」
 ―笑うことなど許されていない、そんな気がしている。なぜなら私は。
「自分で作った街……だったんですよ。……でも、私は。この手で」
 脳裏によみがえるのは7番街の光景。プレート上の平穏と、プレート下の生命を
同時に奪った悪夢。なによりそれを生み出したのは自分自身であった。

163:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅠ(3)
06/02/23 01:10:56 prxFVoJV0
 抗えなかった。抗えずに従うのなら、いっそ身も心も染まってしまえば良かった
のに。中途半端に放り出されてしまった良心は、今でも傷口で膿んだままだった。

 ―……"多少"? 多少って何やねんな!?
    アンタにとっては多少でも、死んでしもた人たちにとっては
    それが全てなんやて!

 あの日。
 それはバレットに向けて放ったはずの言葉だったのに。
「彼の言うとおり、私に彼らを責める資格なんてない……それに」
 現に今だって、37パーセントの人間を切り捨てようとしているのではないのか?
次の句を紡ごうとした私を遮ったのは、彼だった。
『泣きたいなら泣いたらええ。けどな、おっさん』
 主人の事を「おっさん」呼ばわりするのはどうなのかと眉をひそめたが、いかにも
彼らしいと思う。
『アンタがそんな顔したらアカンで。小さくて悪いけど、わいの胸貸すからそこで
泣いとき』
 ケット・シーの表情が変わることはない、人形なのだから当然だ。
 それでも彼は、微笑んでくれる。
「……ありがとう」
 その瞬間、ほんの少しだけ目を閉じて―夢を見たような気がする。とても心地の
良い、夢だった。

164:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅠ(4)
06/02/23 01:16:20 prxFVoJV0


 私の感情を吹き込んだロボット、それがケット・シー。
 神羅に入社して以来、私が捨ててしまった感情を、殺さなければならなかった
思いを、小さな猫のおもちゃに託した。
 ―ありがとう。
 小さく臆病な私に、彼は大きな勇気をくれる。そんなことを考えていたら、
年甲斐もなく……。


 母がいる、この街を。
 救うまでは―


 まだ、この場所を離れるわけにはいかなかった。



                         鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅠ<終>


----------------------------------------
※1設定資料などは全く見てないので、“インスパイア”の解釈は違うと思われます。

165:エッジ前哨戦
06/02/23 01:20:45 Ql9yMn8m0
どなたも投下されないみたいなので、
板の保守に書き溜めた分投下します。


166:エッジ前哨戦
06/02/23 01:42:29 Ql9yMn8m0
すいません、自分、またリロってなかった。
ドリルに貫通されて逝ってきます…_| ̄|○

>>ドリル装備の名無し ◆Lv.1/MrrYwさん
GJです!
最後の決戦前のクラウドとケットの会話を思い出しました。


167:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/23 01:57:08 6UESPphN0
>>161-164
ケット・シーカワイイ!危機的状況でがんばるリーブがいい!GJ!

168:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/24 00:59:50 kS43PtA60
鯖復活記念保守パピポ

169:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/24 01:33:30 x9iujmcS0
一瞬なにが起きたのかと思ったw

>>165
書ける時、書きたいときが投下し時。
気にせずどんどん投下汁!

170:エッジ前哨戦【4】
06/02/24 01:51:04 69UrLjOp0
粗忽者のエッジ前哨戦でございます。

>>169
ありがとうございます。

ドリル装備の名無し ◆Lv.1/MrrYwさんの
余韻を壊してしまって本当にごめんなさい。

お言葉に甘えて投下致します。
ちょっとクラティ入ってるので、お嫌いな方はご注意を。
-----------------------------------------------------------------

 外に飛び出すと、空が真っ赤だ。隣のおばさんが不安げに空を見上げている。
 「おばさん!」
 「あぁ…ティファちゃん…一体何が…」
 「話はあと!早く家へ!」
 ティファは近所の住民を、子ども達が避難した下水道への扉に誘導する。
 「いいですか?扉を叩くのは3回です。敵に見つからない様に…」
 「敵?…敵って誰だい?」
 それはティファが聞きたいくらいだった。

 不安がる住民達をとりあえず下水道に避難させると、2ブロック先にある孤児院に向かう。
 中から子供達の泣き声が聞こえるが、まだ火の手は上がっていない。
 「大丈夫?」
 ティファが入って来たのを見た、二人いた保母はホッとしたように、
 「助かるわ、ティファ。子ども達、みんな泣き出して動けなかったのよ。」
 小さな子供は抱きかかえて、歩ける子は歩かせて、なんとか店の中まで連れて行く事が出来た。
 先に避難させていた住民達に手伝ってもらい、子供達を地下に降ろす。

171:エッジ前哨戦【5】
06/02/24 01:54:40 69UrLjOp0
最後に残ったのは保母の一人でミミという女性だった。
ティファとは歳も近く、7thHeavenにもよく食事に来ていた。
「あなたが最後よ、ミミ。」
「ありがとう、ティファ…でも…一体何が起こったの?たくさんの人がミッドガルで行方不明になったり…」
行方不明者の中にはミミの恋人もいたのだ。
ミミの何気ない言葉がティファの頭の中で何かと何かを結びつけた。
「ティファ…?」
「う…うん、なんでもない…」
「ティファ、早く!」
老人や子供を率先して手助けをしていたデンゼルが顔を出して叫ぶ。
「クラウドや、マリンの父ちゃんにはちゃんと連絡したよ!
クラウドは、こっちに向かってる!2時間くらいかかっちゃうけど。」
「バレットは?」
「シエラ号の館長さんに連絡してから来るって!トレーラーで来るから、みんなを運べるよ!」
無駄のない報告にティファは満足げに頷いた。

ミミが下水道に降りてしまうと同時に、爆音がますます近付いて来た。
マリンも心配そうにデンゼルの横から顔を覗かせる。
「ティファ!クラウドが、ティファも一緒に待ってなさいって!」
「分かったわ、マリン。」
ティファの言葉にマリンも安心したようだ。
二人が先に降り、ティファもそれに続くのだろうと梯子の上を見上げて待っている。
しかし、ティファは降りて来ようとしない。 
「ティファ?」
ティファは少し悲しそうな顔をして、ごめんね、と呟くとゆっくりと扉を閉め、
ポケットに入れてあった鍵で鍵を閉めた。

172:エッジ前哨戦【6】
06/02/24 01:56:58 69UrLjOp0
マリンは悲鳴を声を上げ、再び梯子を上る。
「ティファ!ティファ!」 
 中から必死に扉をを叩く。すぐに優しい声で返事が返って来た。
 「大丈夫、マリン。ちょっと様子を見て来るだけ。」
 横でデンゼルが宥める声も聞こえてくる。
「ごめんね…」
(でも、行かなきゃならないの…)
 ティファは振り切る様に立ち上がると、床板をはめ、その上に椅子を並べるた。
カウンターのシンクの下に直してあった箱を散り出すと、
中から肘あてと革手袋を取り出し、身に着ける。
そして、とある場所に向かって駆け出した。


クラウドはデンゼルからの連絡を受け、エッジを目指してひたすらフェンリルを走らせていた。
腰のホルダーに入れてある携帯が震えている。着信を見るとバレットだ。
あらかじめ電話を耳から離しておいてから着信ボタンを押す。
案の定、電話の向こうで大声が響く。エンジンの音がやかましいのに、余裕で耳まで届くほどだ。
「クラウドおー!今、どこだぁーっ?」
「エッジに向かっているところだ。」
バレットはマリンやデンゼルから連絡があったこと。マリンがひどく怯えていること。
トレーラーで向かうので避難する人を乗せられることを伝え、
クラウドはそれを耳から遠ざけた状態で聞いた。

「それとよ、シドに聞いたんだがよ。神羅のマークを付けた軍隊があちこちを襲っているらしい。」
「神羅の?」
「おかしいだろ?つかみ所のねぇ奴だが、今のルーファスがそこまでやるとは考えるられねぇ!
 どうもプレジデントが生きてる時代のやっかいな遺産らしい。」
「セフィロスではないんだな。」
「WROの本部も襲われた。リーブとビィンセントが一緒らしい。
 エッジが襲われてるから助っ人に来てくれるとよ。」

173:エッジ前哨戦【7】
06/02/24 01:59:29 69UrLjOp0
言われてみると、昔、そんな噂を聞いたような気もする。
「…バレット!その時の責任者は誰だ?」
「スカーレットと、宝条だっ!」
「宝条…?…それは…」
「面倒な話は後だ!お前の方が先に着くはずだ!マリンを頼んだぜ!」
(やはりな…)
死んだ後もどれだけ災いを引き起こすのだろう…全ての災いの元凶だ。
だが、今は一刻も早くミッドガルに辿り着き、ティファを止めることだ。
(もう、あんな思いはごめんだ…)
あの時は間に合わなかったが、今度は間に合わせてみせる。
そして、ティファを思う一方で、何もかもが一度に動きだしたことに思いを馳せる。
(そう言えば…)
バレットはヴィンセントもこちらに向かっていると言っていた。
(ヴィンセントがあの身体になったのも宝条のせいだったな…)
何か因縁の様な物を感じた。


残された下水道で、デンゼルの声も耳に入らないかの様にマリンが泣いている。
「泣くなよ、マリン…」
デンゼルは途方に暮れていた。
心配なのは自分も同じだか、いつも聞き分けの良いマリンがなぜ…?
「大丈夫だよ、ティファもすっげー強いんだろ?」
デンゼルは戦うティファを見たことがない。
たまに、トレーニングをしているのは知っていたが、あの細腕でサンドバッグが
折れんばかりのパンチを繰り出すのを見ていたからだ。
「知ってるよ!」
マリンの強い口調に、デンゼルはたじろいだ。
だったらどうして…と聞こうとするが、マリンはぎゅっと唇を結んで開こうとしない。
(なんなんだよ、一体…)
途方に暮れて、ポケットに手を突っ込むと、指先に電話が当たった。
(ティファの事を報告しなきゃ…)
デンゼルはそれを取り出し、再びクラウドにかけた。

174:エッジ前哨戦【8】
06/02/24 02:00:31 69UrLjOp0
電話はすぐに繋がった。
「クラウド!ティファが…」
「どうした?」
「様子を見に行くって、出て行っちゃったんだ!」
クラウド、ハンドルを切り損ね、危うく転倒しそうになる。
「クラウド?」
「ああ…」
ひどく動揺している自分がいた。と、同時にティファならそうすると分かっていたのに、
何故注意しなかったのかと自分を責める。
「ティファは…子供の頃からそうだった。いつも自分の事は後回しなんだ。」
「クラウド…?」
クラウドが何を言っているのか分からず、デンゼルは鼻白んだ。
でも、泣いているマリンをどう扱えばいいのか分からない。
泣きたいのは自分も同じだ。クラウドに何か言ってもらいたい。
「クラウド、マリンが泣いてるんだ。ティファを心配して。」
一瞬、自分の思考に沈みかけたが、デンゼルの悲痛な叫びに現実に呼び戻される。
「デンゼル。ティファは俺が連れ戻す。信じろ。」
「分かった!」
はっきりと言い切ったクラウドにホッとして電話を切る。
「マリン!クラウドが大丈夫だって!ティファを連れ戻すって!」
膝を抱え、そこに顔を埋めていたマリンがゆっくりと顔を上げる。
「うそ。」
「マリン?」
「だって、この前、クラウド来なかった…」
「この前って…?」
「教会で…ティファが…やられてるのに、“クラウド!”って呼んだのに、来なかった…」
マリンが言っているのは1年前のセフィロスの復活の時の事らしい。
(それで…)
いつも聞き分けの良いマリンがと不思議だったのが漸く合点がいった。
「分かってるよ。ティファを信じなきゃ。でも…怖かったの。ティファが死んじゃうって。」
マリンは再び、膝を抱えるようにして顔を伏せてしまった。

175:エッジ前哨戦【9】
06/02/24 02:03:49 69UrLjOp0
連れ戻すと言っても、エッジの街はまだ先だ。
とりあえず電話をしようと思うが、ひょっとして今のティファは
自分からの電話に出ないのではないか?
それでも、今はそれしか方法がないのだ。

ティファの番号にかけてみる。が、呼び出し音が空しく耳に響く。
(頼む…出てくれ!)
手に力が入り過ぎて、携帯を握りつぶしそうだ。
不意に呼び出し音が途切れた。
「クラウド…?」
「ティファ!俺だ…今どこにいるんだ!?」
とりあえず出てくれた事にホッとして、安心した反動でつい大声になる。
「エッジの街の、端まで来てるわ。」
「なんでそんな所にいるんだ!」
「ごめんなさい…でも、ミミが気になる事を言ってたの。」
ミミの一言で今回の襲撃は、どうも神羅の何かが関係していると確信したのだと言う。
「だから…神羅ビルを探ってみようと思うの。ミッドガルに向かうわ。」
「ダメだ!」
ティファは小さく溜め息を吐いた。
「そう言って聞く私ではないのは、誰よりあなたが知ってるでしょう?」
「でも!」
その時、ティファの背後から何者かが飛び出して来た。
殺気を感じるそれに対し、ティファは振り向きもせず、
右腕に左手を添え、肘を鋭く後ろ向きに突き出す。
エルボーがきれいに入って、犬とも人間とも思えない
不気味な生物が「ギャン!」と悲鳴を上げて地面に落ちた。
ティファは戦闘不能に陥ったそれを見下ろし、再び携帯を耳に当てた。
「あなたが来るまでに出来る事をしておきたいの。」
「おい!ティファ!」
そこで電話が切れた。


176:エッジ前哨戦【10】
06/02/24 02:05:40 69UrLjOp0
電話が切れたあと、クラウドは電話を叩き付けそうになり、辛うじて思いとどまった。
クラウドはものすごく怒っていた。こんなに腹を立てたのは久しぶりだ。
何に腹を立てているのかというと、自分の言う事を聞かないティファと、
彼女を止めるどころか、まともに話すら出来なかった自分の口下手さと、
家族の危機に側に居ない間の悪い自分にだ。
「くそっ…」
1年前、教会で倒れていた彼女の姿を思い出し、スピードを上げた。

===================================================================

今宵はここまで。
明日から一足早いお休みなので、また書き溜めて投下に来ますね。ノシ

177:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/24 02:15:05 xF6aVu4c0
>>170-176
乙。続き楽しみにしてます。

178:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/25 00:21:56 MohZOVm80
>>170-176
あれか、転送してくれた地図の事か!!
(はやまってたらゴメンナサイ)
ミミの発言がどう繋がっていくのかが予想できませんでした。
続き期待sage。

179:ドリル装備の名無し ◆Lv.1/MrrYw
06/02/25 00:42:11 MohZOVm80
…投下させて頂きます。
もうこうなったら開き直ります、ケット・シーが 大 好 き だ!
今回の投下分は、「エッジ前哨戦」と時間的に重なる部分があります。
混乱させてしまったら、すみません。

勢い任せに妄想まとめを作ってみたので、ついでに置いときます。
URLリンク(www5f.biglobe.ne.jp)

180:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅡ(1)
06/02/25 00:47:38 MohZOVm80
前提に>>161-164
----------


 奥で電話が鳴っている事は分かっていた。彼女はカウンターで洗い物の最中
だった事もあり、受話器は取り上げられないまま電話はしばらく鳴り続けていた。
 ティファは手を休めて様子を伺うように振り返ったが、呼び出し音が収まる様子は
一向にない。よほど緊急の依頼なのだろうかと内心で思いながら、あきらめたように
蛇口を閉めて簡単に手を拭くと、足早に階段を上った。
 受話器を取り上げる前に深呼吸をする。いつもそうしていると言うわけではなかった
が、何かいやな予感がしたのだ。これと言って思い当たる節はなかったのだけれど、
こういう予感は得てして当たるのだと相場が決まっている。
 しかし、鳴り続ける電話を無視することはできなかった。手を伸ばし受話器を取り
上げる。
「……はい、ストライフ・デリバリー・サービスです。当社はなんでも……」
 決まり文句ではあったが、ティファが全てを言い終えないうちに電話の向こうにいる
相手の言葉が重なった。
「1件、ご依頼したい事があるのですが」
 聞こえてきたのは、とても穏やかで落ち着いた口調の男性の声。一言一句ていねいに
発音されていて、なんだか聞いていると安心するような不思議な心地がした。
 受話器を通して声だけを聞けば紳士的だったけれど、それだけに引っかかる。
「……どちら様ですか?」
 相手に姿が見えないことを良いことに、ティファは思いっきり怪訝な表情を作って見せた。
自分が誰かも名乗らずに、話を遮ってまで一方的に依頼内容を話し出そうとするなんて、
電話の向こうにいるのはなんて傲慢な人物なのだろう、と。
「『ボクの事、忘れてしもたんやろか~?』」
 すると急に、緊張感を吹き飛ばすような間延びした声が返ってきた。こんな妙な口調を
する人物に心当たりは1人―いや、1匹?―しかいない。その愛くるしい姿が脳裏に
よぎった途端、ティファの表情は和らいだ。

181:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅡ(2)
06/02/25 00:56:03 MohZOVm80
「……覚えてますよ、部長さん」
 少しあきれたように、だが電話の相手が知っている人物だと分かって内心で胸を
なで下ろしていた。
「……リーブです、お久しぶりです。覚えていてくれたんですね、嬉しいです。
お元気でしたか?」
「ええ。リーブさんもケット・シーもお元気そうで」
「『せやけど、あんま会う機会がなくて淋しいですわぁ~』」
 ほんの少しの間、ふたりは互いの近況について話をしていた。けれどそれは
本当に短い時間だった。先に話を切り出したのはティファだった。なぜ、リーブが
“ここ”に電話をかけて来たのか、やはり引っかかるのだ。
「ずいぶんお急ぎみたいですね?」
「先程はすみません。……では、さっそく本題に入らせていただきます。
今回、私があなた方にご依頼したいのは、ある物をある場所まで届けて頂きたい
のです」
「……“あなた方”って?」
 『ストライフ・デリバリー・サービス』は、名前の示すとおりクラウドが始めた仕事
である。彼が不在の時にこうしてティファが電話応対をすることはあっても、彼女が
荷物を運ぶという訳ではない。手伝いたいとも思うが、この店の切り盛りで手一杯
だったからだ。
 もちろん、それは仲間達の誰もが知っている。当然、連絡を取り合うリーブも
そのはずだった。しかし含みを持たせるような口ぶりに、ティファは首をかしげた。

182:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅡ(3)
06/02/25 00:58:47 MohZOVm80
「ええ、そうです。今回の依頼でお願いする物は、おそらく……クラウドさん
お一人の力では難しいものと思いますので」
 ますます言っている事が分からなくなって、ティファは単刀直入に尋ねた。
「どこに、何を運べば良いんですか?」
 するとリーブはあっさりとこう答える。

「“平和”を、“ミッドガル”まで届けて頂きたいのです。
 ……具体的な内容はまた後ほど。依頼、お受けして頂けると信じています」

 その後リーブは自らの連絡先を告げた後、通話を終えた。受話器を置くと
ティファは大きく息をはき出した。どうやらティファの予感は当たりそうである。
そういえば3年前の旅の時も、こんな風にして半ば一方的に依頼を受けていた
ような気がするな―そんな風に思うと、少しおかしくなった。
(相変わらずなのね)
 隣の部屋まで行きティファは自分の携帯を取り出すと、慣れた手つきで幼馴染みの
アドレスを呼び出した。4回目のコール音で彼とつながる。
「あ、クラウド?」
 もちろん、この依頼を断る理由はなかった。

183:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅡ(4)
06/02/25 01:05:53 MohZOVm80

                    ***

 彼の携帯が鳴ったのは、ちょうど同じ頃のことだった。
 油田の採掘現場から戻って一息つこうとしたところに、ちょうどタイミング良く着信が
あったこともあり、別に気にせず通話ボタンを押した。
「……お久しぶりです、バレットさん」
「んっ?!」
 バレットは一度耳から携帯を離すと、彼の手には小さく見える携帯のディスプレイを
まじまじと見つめた。見覚えのある番号―ではない。いや、たとえ見覚えのある番号
だったとしても、彼は番号を登録していなかったのだ。
 しかし、電話の相手は自分のことを知っている。そもそも知らなければこの番号に
かけてくる事もないのだが。
「だ、誰だ!?」
 不信感を隠さず声に出したバレットに対し、電話の向こうの男もまた皮肉を口にする
のだった。
「『かつての宿敵や、覚えとれへんのか?』」
「け、ケット・シー!? ……っつーことはお前、リーブか!」
 反神羅組織アバランチのリーダと、神羅カンパニー都市開発部門統括責任者。かつて
彼らは壱番魔晄炉爆破と7番街プレートの件を巡り、真っ向から対立していた時期も
あった。旅路を共にする中で、反目し時には激論を交わしながらも互いを知り、最終的に
北の大空洞では背中を預けて戦えるまでの信頼関係を築いた。当時のわだかまりは、
シスター・レイがバリアと共に砕いくれたのだ。
 旅が終われば各々が進むべき道を歩き始め、自然と会うことも少なくなった。とはいえ
定期的な連絡を取り続けてはいたものの、何の前触れもなくリーブから唐突に連絡が
来るなんて。バレットにとっては予期せぬ出来事に、嬉しさと戸惑いを覚えたのだった。
「ようやく思い出して頂けた様ですね。改めてお久しぶりですバレットさん、お元気そうで
なによりです」
 淡々と語るリーブに、バレットはくつろいだ体勢になりながら、こう切り出した。
「お前がかけてくるなんて珍しい事もあるもんだな。……どうせ、なんか魂胆でもあるんだろ?」
 くだけた口調で言ってはいたが、わりと本心から出た言葉であることは間違いなかった。
そしてリーブは「ご名答」と、こちらもやはりくだけた口調で返すのだった。

184:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅡ(5)
06/02/25 01:10:24 MohZOVm80
「実は、折り入ってお願いしたいことがありまして……」
 その言葉を境に、リーブの口調は先程までとは明らかに違い、一気に深刻さの度を
増した。バレットは思わず姿勢を正し、リーブが発する次の言葉に意識を集中した。

「……魔晄炉を、破壊して欲しいのです」

 いったい何を言われているのか、理解するのにしばらく時間が必要だった。バレットは
姿勢を正したまま、瞬きすらしなかった。「もしもし?」とリーブの呼びかける声でようやく
我に返ると、素っ頓狂な声で問う。
「お前……今さらオレになに言って……」
「……正直、皮肉な話だとは思いますが」
 小さくため息を吐く音が聞こえたような気がする。バレットが次の言葉を探している間に、
リーブは続けた。
「星のために……もう一度。あなたの力を貸して欲しいのです」

185:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅡ(6)
06/02/25 01:14:09 MohZOVm80
 まるでアバランチとして活動していた頃の様に、壱番魔晄炉を破壊した当時の自分と同じ
事を今になって口にしたリーブの言葉と、その声を聞いた自身の耳を疑った。

「星のために、もう一度いっしょに戦ってもらえませんか?
 ……具体的な内容はまた後ほど。お引き受けして頂けると信じています」

 その後リーブは自らの連絡先を告げた後、通話を終えた。ランプの消えた携帯をぼんやりと
見つめながら、バレットは大きく息をはき出した。
 なぜ、今頃になって魔晄炉を?
 魔晄炉はおろか、ミッドガルそのものが機能を停止してから数年が経つと言うのに。今さら? 
疑問は頭の中をぐるぐると回るだけで、答えが出てくる気配はなかった。
 それが癖なのか、バレットは無意識のうちに頭を掻いていた。しばらく考え込んだ末、意を決した
ように再び携帯の発信履歴を呼び出すと、通話ボタンを必要以上に力一杯押したのだった。
「おう、バレットだ!」
 5回のコールでつながった相手に、これまた必要以上の大声で呼びかける。
 もちろん、彼がこの申し出を断る理由はなかった。



 彼らがミッドガルへと続く荒野に立ったのは、それから間もなくのことである。



                              鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅡ<終>
--------------------
舞台:FF7AC~DCFF7第2章
備考:FF7の飛空艇イベント(ウェポン近辺)を見てから、
    DC12章のムービーを見ると、こんな展開を期待でき…なくもないかなと。

186:エッジ前哨戦
06/02/25 01:22:41 fIyQppQX0
>>180->>185
投下リアルタイムで読めるなんて…
リーブとバレットの会話がすごく(・∀・)イイ!!です。
読んでいて溜め息が出ました。
自分、バレットがかつて魔晄炉を爆破して心に傷を負った事、
二人に確執(?)があったを失念してました。

全くの個人的な話で恐縮ですが、すごく凹んでいた所に
読ませて頂いたので、復活する事が出来ました。
自分も頑張ります。ありがとうございましたm(__)m

187:エッジ前哨戦 ◆BLWP4Wh4Oo
06/02/25 16:20:42 fIyQppQX0
コテ付けました。訂正です。時間軸おかしくなってた_| ̄|○
>>173
× だが、今は一刻も早くミッドガルに辿り着き、ティファを止めることだ。
(もう、あんな思いはごめんだ…)
あの時は間に合わなかったが、今度は間に合わせてみせる。
そして、ティファを思う一方で、何もかもが一度に動きだしたことに思いを馳せる。

○だが、今は一刻も早くエッジに辿り着くことだ。
(もう、あんな思いはごめんだ…)
そして、家族を思う一方で、何もかもが一度に動きだしたことに思いを馳せる。

>>178
「ご名答」

チラシの裏です。DC内でティファを操作して、地図確保とか、バレットを使って街の人を救出…
なんて混ぜてくれたら、うれしかったんだけどなぁ…と思って書いてます。
まだまだ、続きますが、どうぞお付き合い下さいませ。

188:エッジ前哨戦【11】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/02/25 16:21:40 fIyQppQX0
ミッドガルに向かうとなると、まずは乗り物を確保しなくては。
乗り捨てられたトラックがあり、ティファは運転席によじ上る。
中には息絶えた運転手がハンドルに突っ伏していた。
(ひどい…)
ティファは眉を顰めた。足下から怒りが湧いて来る。
運転手をそっと抱き起こし、助手席に横たえてから
エンジンをかけてみるが、キーが空回りするだけだ。
(ダメだわ…エンジンも撃たれたのね)
それにしても、襲撃者は一体何が目的なのだろう?
ミッドガルのすぐ近くにあり、人工も多い街だが、
軍事的拠点というわけではない。
WROの基地ではなく、この街が目的なのは何故だろう。
ティファはここに辿り着くまで、たくさんの亡くなった人たちを見て来た。
大人も子供も関係なく折り重なって倒れていた。
街の制圧が目的ではないようだ。むしろこれはまるで、
(皆殺しが…目的みたい…)
自分の考えにぞっとした。背筋が寒くなる。
(早く…行かなきゃ。)
運転席を降りる前に、助手席を振り返る。
「あなたの…敵はきっと取るから…」
そんな事で、死んだ人間は帰って来ないのだが。
 もう少し早く辿り着いていたらこの人は助かっただろうか。
自分の無力さに崩れ落ちそうになるのを必死で踏みとどまり、
車を探すためにティファはまた駆け出した。

189:エッジ前哨戦【12】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/02/25 16:22:11 fIyQppQX0
次々と光るブルーのラインの入った戦闘服を着た兵士が
ティファに機銃を浴びせる。それを相手の懐に飛び込み、
掌打を浴びせ、足を払い、投げ飛ばし片端から倒して行く。
ふと攻撃の波が途切れた。息が上がるのを、呼吸法で整える。
如何に手練れとは言え数が多過ぎた。しかも、銃を持った相手だと
瞬間にダッシュして相手の胸元に飛び込んで倒さなければならない。
「ちょっと…なまってるかな?」
そう強がったた所に、頭上から何かが落ちて来た。
(な、何…?)
と、思った所で身体ごと何かに引っ張られて宙に浮いた。
(網…?)
落ちて来たのはがっしりとしたワイヤーで出来た捕獲用のネットだった。
振り向くと、蜘蛛の様な足を持った巨大な機械の塊がいた。
頭頂部からマジックハンドが出ていて、その先に自分はぶら下げられているのだ。
(油断した…)
歯痒さに奥歯を噛み締める。
ワイヤーを切ろうともがけばもがく程、身体に絡み付く。
身体の位置が定まらず、気が付けば頭が下に来ている。
(…もう、最悪ねコレ!)
自分の不甲斐なさをとりあえずネットのせいにする。
ふと機械の方を見ると、銃口が伸びて来て、ティファに標準をぴたりと合わせた。
銃口の奥にチラリと炎が見え、ティファは息を飲んだ。
(…クラウド!)

190:エッジ前哨戦【13】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/02/25 17:09:08 fIyQppQX0
頭が下、足が上という不自由な体制で、
ティファは思い切り反動を付ける為に身体を揺する。
ゆらゆらと振り子の様に揺れるネットの中で銃口の火が
まさに飛び出さんとする瞬間を見極める。
(今だ…!)
さらに反動を付け、ネットごとジャンプする。間一髪で炎が足の下を通過する。
高熱で溶けかけた部分に手をかけ、引きちぎり、そこから辛うじて抜け出すと、
自分を捕らえていた忌々しい機械の塊の上に降り立ち、掌打ラッシュを浴びせる。
鉄板が、ティファの拳の形にどんどん凹んでいく。
蜘蛛の様な足の一本ががくん、と崩れた所で足下に飛び降り、
本体を片手で持ち上げると、高々とジャンプし、地面に叩き付けた。
バラバラに砕け散り、火を吹くそれの傍らに降り立つ。
「倍返しよ。」
そううそぶくと、スクラップとなった塊に見向きもせずにまた駆け出したのだった。
それにしても、ピンチの時になると彼の顔が過るのは、以前のままらしい。
彼は今頃、猛スピードでこちらに向かっているはずだ。
(でも、きっと、とても怒ってるだろうけど…)

191:エッジ前哨戦【14】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/02/25 17:10:01 fIyQppQX0
入り組んだ路地を駆け抜け、南側の広場の手前で足を止めた。
物陰から様子を伺うと、『神羅』の文字の入ったカーゴに
たくさんの人が詰め込まれている所だ。周りを兵士が取り囲んでいる。
ティファにも今の神羅がここまでするとは思えなかった。
腹の底こそ分からないが、ルーファスを始めとする残存勢力は
今では『借り』を返す為復旧に全面的に協力していると聞く。
(でも…やっぱり怪しいわ。)
中には奇妙なヘルメットの様な物を被っているが、
ソルジャーの服装の者もいたからだ。
ティファはますます確信を深めた。
そして、現状をどうすべきか頭を巡らせる。
今、飛び出して戦うと、街の人を巻き込んでしまう。
大きなプロペラを付けた巨大なヘリコプターが
街の人を乗せたカーゴを積み込み、どんどん飛び立っていくのを
物陰に隠れて見ているだけだ。
またもや自分の無力さにティファは唇を血がにじむほど噛み締めた。

192:エッジ前哨戦【15】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/02/25 17:12:02 fIyQppQX0
不意にティファのいる反対側の道路からジープが走って来た。
乗っているのは家族連れのようだ。後ろから、さっき倒したのと同じ、
奇妙な生物ービーストソルジャーが追いすがる。
ティファはすぐにこちらに走ってくるジープに向かって駆け出した。
必死で運転していた父親は思わず悲鳴を上げた。
後ろからは得体の知れない獣が追いかけて来て、
正面からは人間が突っ込んできたからだ。
思わず目を閉じ、急ブレーキを踏む、と、正面の人物は
走っている車のフロントにとん…と両手をつくと、
まるで跳び箱でも飛ぶかの様に軽々とジャンプしジープを飛び越えた。
かと思うと、掌拳で一匹目のビーストソルジャーを吹き飛ばした。
掌拳の勢いで身体を回転させると、残り1匹を鮮やかな回転蹴りを喰らわす。
飛ばされたビーストソルジャーは壁に叩き付けられ、ずるずると地面に滑り落ちた。
蹴り飛ばされた方は宙に舞い上がり、即座に地面に叩き付けられた。
着地したティファはすぐにジープに駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
乗っていた家族は父親と母親、そして二人の女の子だった。

193:エッジ前哨戦【16】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/02/25 17:13:11 fIyQppQX0
何が起こったか漸く理解した父親はすぐにティファに礼を言った。
「街の外に逃げようと思ったんだが…周り中、銃を持った兵士ばかりで…」
「私の家に下水道に続く隠し扉があります…
そこに近所の人みんな避難してもらってるんです…そこへ行って下さい。」
ティファはそう言うと、ポケットから鍵を取り出し、父親に渡した。
「入り組んだ路地なので車では行けませんが…
 ここに来るまでの敵は残らず倒しました。だから子供連れでも大丈夫です。」
「倒したって…あんたが一人で…?」
ティファは曖昧に微笑む。
「もうすぐ救援も来ます。でも、急いで。」
ティファは店の場所、隠し扉の位置、3回ノックのルールを伝えた。
「でも…鍵をもらっちゃったら、あんたが入れないんじゃ…」
横にいた母親が心配そうに尋ねる。
「もう一つ鍵を持ってるの。だから心配しないで。」
 それと…私、どうしても行かなきゃいけない所があるの。
 このジープを借りてもいいかしら?」

7th Heavenに向かう家族を見送り、ティファはホッと息を吐いた。
一人でも多く助けられる事が前に進む活力を与えてくれるのだ。
鍵を渡してしまったが、心配ない。
(そう…鍵はもう一つあるの)
もう一つの鍵は、フェンリルのキーにぶらさがっているはずだ。
クラウドはきっと来てくれる。だから、鍵は一つでいいのだ。
ティファはジープに飛び乗ると、エンジンをかけた。
そして、街から臨む魔晄キャノンを一睨みすると、
「首を洗って待ってらっしゃい!」
そう呟いて、アクセルを乱暴に踏み込んだ。

194:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/25 17:51:42 v+Ae9KrE0
おお、いいねえ!

195:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/26 00:18:10 nCaYKv2Y0
ハラハラの展開

196:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/27 00:21:54 s4KsOWwW0
新作いっぱいキタ━━━(゜∀゜)━━━ !!!!!

197:エッジ前哨戦【17】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/02/27 21:01:40 QlxY8ScB0
頭上でノックと、鍵が回される音が聞こえ、マリンはハッと顔を上げた。
「ティファ!」
マリンはすぐに立ち上がって、地上へのはしごに駆け寄り、デンゼルも後に続く。
ティファが戻って来てくれたことと、これでマリンも落ち着くだろうと思い、
少し気が軽くなる。だが、降りて来たのは見知らぬ家族だった。
呆然とする二人に、
「あんたら…あの髪の長い女の人の知り合いかい?」
デンゼルが頷く。マリンは呆然として、それすら出来ない。
「逃げてる途中であの人に助けられてね。ここに来るようにって、鍵をもらったんだ。」
父親の方が鍵をデンゼルに渡す。
「ティファ…は?」
「行かなきゃならないところがあるって…私達のジープを貸してあげたんだよ。」
二人はいかにティファが強かったか、どれだけ感謝しているかわからない、
と語るのがデンゼルには誇らしい。
が、マリンの口がどんどんへの字型になるのが気が気でない。
その時、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
デンゼルは救われた気がして、話が終わらない家族連れと、マリンに、
ご…ごめんなさい…ちょっと見て来ます!」
そう言って、慌ててその場を離れた。

泣いているのはミミが抱いてる赤ん坊だ。
「どうしたの?」
「デンゼル…ミルクはあるんだけど…水が足りないの。」
ティファはちゃんと非常用キットを用意していてくれたのだが、
避難する人数の方が多過ぎた。

198:エッジ前哨戦【18】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/02/27 21:03:42 QlxY8ScB0
「俺、汲んで来るよ!」
「だめ!」
いつの間に側に来たのか、マリンが叫ぶ。
「危ないよ!絶対にだめ!」
でも、泣いてる赤ん坊を放っておけないし、泣き声で見つかってしまうかもしれない。
「すぐ上の、店の厨房だし平気だよ!」
大人達も口々に止めるが、
少しでもクラウド達の役に立ちたい気持ちと、子供らしい冒険心と、
何よりも泣いている赤ん坊を守ってあげたくて、
「大丈夫!俺、こう見えてもWROの隊員なんだ。」
訝しげな大人達の顔をぐるりと見渡し、デンゼルは努めて明るい声で続ける。
「本当だよ!リーブ局長に許可ももらって、訓練だって出てるんだ。
見つからないように…すぐそこだし、大丈夫!」
「確かに、今のところ怪しいやつらはいなかったけどねぇ…」
ティファに助けられた家族の、母親の方が呟く。
「様子を見て、危ないようならすぐに戻ります。」
「デンゼル!」
「マリン…」
デンゼルはマリンの手を取った。
「一緒に行くぞ!」
「え…?」
「怖い?」
びっくりして、まんまるになった目がデンゼルを見つめ返す。
やがてにっこりと笑うと、大きく頷いた。
「うん!待っているのはもうやだ!待つのはきらい…一緒に行く!」
二人はしっかりと手を繋ぐと、心配気な大人達を後目にはしごに向かった。

199:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/27 22:26:22 aZD4ouJNO
おつです!つづきまってます

200:エッジ前哨戦 ◆BLWP4Wh4Oo
06/02/27 23:30:52 QlxY8ScB0
乙コール下さったみなさま、ありがとうございます。
まだまだ続きますが、投稿人、書くのが楽しくて仕方がないので
どうぞもう少しお付き合い下さいませ。

週末DCをクリアして、ぜひミッドガル地上戦も書きたいと思うのですが、
ゲーム内だけだといま一つ背景が分かりにくく、お話が膨らみません。
投稿人としては失格ですが、「この時は誰々はこうしてた」とか、
アイデアや、ヒントを頂けたらと思います。(特にシド)

それをこの場でしてもいいのか、それとも該当スレがあるのか、
それともスレを立てねばならないのか、アドバイスを頂けますでしょうか。

201:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/27 23:55:57 uOtJQs/U0
>>エッジ前哨戦
息絶えたドライバーの描写が重たくて。だから逆に、次に描かれる
戦闘シーンの力強さになってる印象で良かったです。
ただ、デンゼルとリーブが面接(“On the Way to a Smile”の舞台)は
DCから1年後…(…だったと、自分も再読して気づいたクチですがが)

 >>187地上部隊操作できたらDCは自分にとって神ゲーになってたと思うw
 その意味で、前哨戦は読んでてとても楽しいので、続き期待sage。

202:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/28 00:02:27 FyGaVtBU0
【DC】DIRGE of CERBERUS 考察スレ
スレリンク(ff板)

DC内で描写されていない点については完全に
脳内補完で設定をしてしまって良いと思う。
補完に当たっての根拠探しのお手伝いならできるかも知れないけど
上記のスレか、総合スレのが詳しい情報聞けるかも。

203:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/28 03:39:53 JoyRlsaS0
>>200
展開にハラハラドキドキしてすごく面白いです。
続きが楽しみすぎ(0゜・∀・)wktk

204:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/02/28 17:29:10 yWUNqJ0L0


205:エッジ前哨戦 ◆BLWP4Wh4Oo
06/02/28 22:41:50 rzHt13/r0
レス下さったみなさま、ありがとうございますm(__)m

>>201
>地上部隊操作できたらDCは自分にとって神ゲー
ナカーマ(*・∀・)人(・∀・*)
そして、ご指摘ありがとうござます。
慌てて読み直しましたが、3回音読してどこにその記述があるのか
気付かないあほたれですortドコナノー

>>202
誘導ありがとうございます。あちこちのスレを回って、
ヒントがないか探してみます。その前にこちらを終わらせますね。

>>195-196>>199>>203
ありがとうございますm(__)m週末までに書き溜めて、
どどんと投下する予定ですので、それまでどうぞお待ち下さいませ。


206:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/01 00:00:40 NdgamKlaO
>>205
小説の冒頭に

「四年前、ライフストリームが地中からあふれ出した時」

との記述がある。
ACはゲーム本編から二年後、DCはACから一年後(本編から三年後)
つまりOWSデンゼル編はDCから一年後ということになるかと。

207:バッツ
06/03/01 02:16:31 yH/Ysgox0
保守age

208:エッジ前哨戦 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/02 01:12:23 6x+ZZmdn0
>>206
ありがとうございます。
冒頭にあるのに気付かないこの目は節穴…
目玉くりぬいて、代わりに銀紙入れて逝って来ます…ort

209:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/03 00:08:54 Zi1HOhsz0
FF12発売も近いし保守は頻繁にしておきますよ

210:エッジ前哨戦 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/03 01:13:23 aNeo5d/u0
>>148-150 >>170-176 >>198から続きます。

一方、ティファは、物陰から神羅ビルを伺っていた。
アバランチ時代のお陰で迂回路を知っているとはいえ、
発見されずに辿り着けたのは奇跡に近い。
しかも大多数はエッジに進軍中で、人影もまばらだ。
(ツイてる…)
それでも地下から兵士や兵器ロボットが断続的に出て来るので、
侵入は裏からにする事にする。
(こういうの、ユフィの方が得意なんだろうけど…)
クラウドには探って来ると言ったものの、巨大な神羅ビル跡地の
どこを重点的に探ればいいのか見当も付かない。
もう一度ビルを見上げ、上層部は崩壊がひどいし、
大量の行方不明者が出た地下がやはり怪しいだろう…くらいは分かる。
(後は成り行き任せ…かな?)
とりあえず、裏口を前まで来ると、一瞬にして過去がよみがえった。
長い長い階段、ナナキとの出会い、プレジデントの死…
(そして、エアリス…)
ここには、エアリスを助ける為に来たのだ。
(もうあなたに甘えられないんだよね。)
エッジからもミッドガル…特にこの魔晄キャノンはよく見えた。
それは日常の風景の一部となっていたが、
こうしてその足下に立つと、3年前の戦いがまざまざと思い出された。

211:エッジ前哨戦【20】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/03 01:14:01 aNeo5d/u0
でも、それは感傷ではなかった。
彼女の事を思い出すと、自然に力が湧いて来た。
立ち止まらず、前に進まなければと思う。
今なら誰が来ても負ける気がしない。
(安心して、エアリス…私たちが、必ず守るから。)
裏口には兵士が二人立っていた。
ティファが飛び出す。まるで弾丸のようだ。たちまち機銃が火を吹く。
それを軽く身体を捻ってかわし、あっという間に敵の胸元に飛び込む。
一人をドルフィンブロウで倒し、ジャンプした勢いでもう一人を蹴り倒す。
倒れた兵士のポケットからカードキーを取り出し、扉横の端末に差し込んで開けた。

1フロア降りた所に壁一面にいくつものモニターがあり、
そこに指令書らしき物がいくつか表示されていた。
ティファは手前にある端末を操作し、指令書がどこから出てるのかを探る。
(もう…!また間違えた…)
どうにか指令書の出所を突き止めた。
(でも…ここじゃないわ。ここで中継されてるから…)
端末の操作にはあまり慣れていないので、時間がかかる。
「お手上げだわ。」
指令書は出所を探られない様に、いくつかのサーバーを経由しているようだ。
「とりあえず、この中継地点まで降りてみることね。地下12階か…」
エレベーターを使うか、階段を使うか迷う所だ。
(確か…階段にはカメラもついてなかったわよね。)
だが、地上フロアと地下フロアが同じ施設だとは限らない。
迷った末、階段を降りる事にした。
狭いエレベーターの中だと動きが制限されてティファにとっては不利だからだ。
(上るよりマシ…ね。)
帰りの事はあまり考えない様にして、ティファは非常階段を降り始めた。

212:エッジ前哨戦【21】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/03 01:14:38 aNeo5d/u0
マリンとデンゼルはそっと音がしないよう、扉を開けて床下に出た。
床板はしっかりとはめられていて、子供でも屈むくらいのスペースしかない。
「ねぇ、デンゼル、どうするの?こんな大きな板、持ち上げられる?」
「ダメだよ、持ち上げたら上の椅子が倒れて、音で見つかっちゃうよ。」
「そっか…じゃあ、どうやって出るの?」
「前に店の周りを掃除して見つけたんだ。反対側から表に出られる所があるんだ。」
デンゼルが先に立って四つん這いのまま進むのに、マリンも続く。
「そこから一旦外に出て、店の入り口から入るしかないよ。」
外に出ると聞いてマリンが驚く。
「大丈夫なの?」
「ほんの2~3メートルさ。マリンが見張ってくれてる間に、
 俺が走って店に入る。で、水を汲んですぐに戻って来るから。」
うん、とマリンが頷く。
「え~っと…」
現在地のおおよその見当をつけ、デンゼルは更に床下を進み、マリンが後に続く。
「うん、ここだ。」
床下の、湿気を逃がすための通風口がある。
メッシュ状になったそれの内側から外の様子を伺う。
道路、屋根の上…デンゼルは怪しい奴がいないか、何度も確認する。
「大丈夫だ。」

213:エッジ前哨戦【22】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/03 01:15:55 aNeo5d/u0
そして、網戸を外すと、外に出て、もう一度周りを見渡すしてから床下のマリンを手招く。
マリンも頷いて立ち上がると、デンゼルに続く。
二人は忍び足で店の入り口から中に入ると、鍵を閉めた。
「はーっ…」
二人同時に大きく息を吐く。やはりドキドキしたが、無事に中に入れた。
冒険が成功した様な気持ちになって、顔を見合わせて笑った。
「早く水を。」
「うん!」
マリンが床に落ちた割れた食器の中から、プラスチック製の保存用容器を拾うと、
デンゼルがそれを受け取り、蛇口を捻る。が、肝心の水が出ない。
「水が…止まってる…」
ミネラルウォーターを探したがない。汲み置きの水もない。
でも、このままでは戻れない。
(でも…どこに水があるんだよ!)
幼い二人は途方に暮れてしまった。
「デンゼル!地下よ!」
「え…?」
「ボイラーの中なら、お水が残ってるんじゃない?」
以前、お湯が出なくなった事があって、地下室に置いてあるボイラーを
クラウドが直してくれたのをデンゼルも思い出した。
「あのお水を、湧かしてあげたらいいんじゃない?」
避難キットの中に携帯用のコンロがあったはずだ。
「よし!汲みに行こう!」
喜び勇んで二人は駆け出し…そして…つい、いつものクセで
扉をバタン!と強く閉めてしまった。

214:エッジ前哨戦 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/03 01:18:56 aNeo5d/u0
>>210番号が抜けてました。【19】です。
今宵はここまで。

>>209保守乙です。


215:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/03 01:33:57 TjBgcWX10
ドキドキしながら続き待ってます。
デンゼル、マリン、頑張れ!

216:エッジ前哨戦【23】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/03 14:41:55 aNeo5d/u0
地下室には保存のきく食料や、酒や飲み物の瓶がきちんと整理して置かれている。
ボイラーは高さ2m程の筒状の物で、下の方に中の水を抜く為の蛇口が付いている。
二人はすぐにそこに取り付き、捻ろうとすると、錆び付いて動かない。
(クラウドは簡単そうに開いてたのに…)
デンゼルはポケットから花柄のハンカチを取り出すと、蛇口にかけ、力一杯捻る。
「だめだ…」
「デンゼル!」
マリンがクラウドの工具箱を持って来た。
自分が守ってあげなくてはいけないのに、さっきからマリンにフォローして貰ってばかりだ。
(しっかりしなくちゃ…!)
「ありがとう。」
デンゼルはそれを受け取ると、蓋を開ける。色々な形の工具がきちんと収められている。
バイクの整備をいつも横で見ていたので、工具の使い方なら分かる。
錆(さび)を落とすスプレーをかけ、ペンチで挟んで動かすと、勢いよく水が出て来た。
それを、マリンがタイミング良く容器を差し出し、溢れない様に入れる。
8分目くらいで蛇口を止めると、しっかりと蓋をした。
「よし、行こう!」
工具を直しかけて、ふと金づちが目に入った。
大丈夫だと思う。けど、
(何かあった時のために持って行こう。)
その“何か”が何なのか深く考えず、軽い気持ちでポケットに入れた。

217:エッジ前哨戦【24】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/03 14:43:01 aNeo5d/u0
が、それを使う機会はすぐに訪れる事になった。
地下室を出て、店と住居スペースの間の扉を開けた途端、
腕がニュッと伸びて来て、首に巻き付いた。
「やはり居たぞ!」
「デンゼル!!」
後に続いたマリンが悲鳴を上げる。
首を締め付けられ、息が苦しい。必死でもがきながら周りを見ると、
店の中に4~5人ほどの銃を持った兵士がいた。

“デンゼル、扉は静かに閉めなさい!”

こんな時に、ティファのお小言が思い出された。
残りの兵士達が銃口をマリンに向け、じわじわと距離を詰める。
デンゼルの頭にも銃口が押し付けられている。
身体が震えて、歯がガチガチする。息が苦しい。怖い。
マリンは少しずつ後ずさるが、すぐに背中が扉に当たって、動けなくなる。
(マリン…!)
守らなきゃ!デンゼルは歯を食いしばると、ポケットから金槌を取り出し、
自分を抱えてる兵士めがけて思い切り振り上げた。
「ぎゃっ!」
と、悲鳴がし、同時に手に“ぐしゃり”と嫌な感触が伝わった。
それが、骨が砕けた時の物だと理解した途端、恐怖が身体中を駆け抜けた。
兵士は倒れ、デンゼルも自由になったが、腰が抜けて立てない。寒気がする。
「うわああああああ!」
デンゼルは思わず金槌を放り出し、叫んだ。
(ほっ…骨が…っ…ひ…ヒトが壊れた…っ!)
マリンに向かっていた兵士達が一斉にデンゼルの方を向き、銃口を向ける。
自分に向けられた、直径3センチ程の筒が、デンゼルにはまるで大砲の様に見えた。

218:エッジ前哨戦 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/03 14:44:59 aNeo5d/u0
ちょっと時間が空いたので保守がてらの投下です。
デンゼルのWRO隊員の件は訂正しようと思ってますので、暫くお待ち下さいませ。
どう直そうか、辻褄合わせ中です。ご指摘下さったのに、対応が遅れてごめんなさい。


219:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/03 18:24:42 Yic+iMKZ0
>>218
乙!
すごくハラハラしてしまった…
ラストのデンゼルの動揺がいいね。

デンゼルのWRO隊員はみんなを安心させるためについた
その場しのぎの嘘だよね?
デンゼルは面接の時には既にリーブを知ってたから面識はあるはず。
最初に会ったのがDC後か前か分からないけど。

220:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/03 18:37:01 mQnblHqkO
保守

221:エッジ前哨戦【25】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/03 21:57:24 aNeo5d/u0
>>148-150 >>170-176 >>197-198>>216-217から続きます。

「マリン、逃げろ!」
それだけ叫ぶのが精一杯だった。
マリンが駆け出す。銃口がマリンに向かう。
デンゼルは兵士の一人に体当たりするが、軽く払われてしまい、
床に倒れ、後頭部を思い切り打ち付けた。
鈍い痛みで気が遠くなりかけた。それでも必死に目はマリンを追う。
逃げたと思ったマリンは、なんとデンゼルが放り出した金槌を拾っている。
「マリン、やめろ…!」
叫んだつもりが、声は微かなものだった。
兵士を殴った時のあの感触…あれはとてつもなく恐ろしく、嫌な物だった。
だから、マリンにあんな事をさせてはいけない。
起き上がって止めたいのに、身体が言う事を聞かない。
クラウドはティファの所だ。ここにはいない。
マリンは金槌を拾い上げると、兵士達を睨み付けている。
今にも飛びかかりそうだ。危ない。
(誰か…!)
その時、ガトリング銃が店の中に撃ち込まれた。
カウンターの後ろの棚に無数の弾痕が出来る。
と、同時に赤いしなやかな体躯の者が、割れた窓から飛び込んで来た。
店の中に降り立ったその者は、デンゼルも良く知る、
赤い、豹の様な、虎の様な不思議な生き物だった。


222:エッジ前哨戦【26】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/03 21:58:12 aNeo5d/u0
(な…ナナキ…?)
ナナキはマリンを狙う兵士達に飛びかかると、その喉笛にかぶり付く。
と、同時に店の扉が乱暴に開き、飛び込んで来た
バレットが右手の銃で残りの兵士を一掃する。
飛び込んで来たナナキに気を取られていた兵士達が
次々と倒され、7th Heavenに静寂が戻った。
「大丈夫か!?」
マリンは金槌を取り落とし、バレットにしがみ付く。
バレットはマリンを軽々と抱き上げると、しっかりと抱きしめる。
「父ちゃん…!」
「もう、大丈夫だ。怖かったか?」
マリンは気丈にも首を横に振る。が、瞳にいっぱい涙を溜めている。
「よく、頑張ったな。」
そして倒れてるデンゼルに歩み寄る。
「デンゼル…?」
「頭を打ってる。しばらく動かさない方がいいな。」
鼻先をデンゼルの顔に押しつけ、容態を診ていたナナキが答える。
「分かった。」
助かったんだ…そう思うと、力が抜け、
デンゼルはあっとうい間に意識を手放した。

223:エッジ前哨戦【27】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/03 21:59:31 aNeo5d/u0
ザワザワとした人の気配がして、デンゼルは目を覚ました。
下水道から、避難していた人が次々と出て来ているのだ。
思わず跳ね起きた途端、ずきん、と頭が痛んだ。
「デンゼル、大丈夫?」
マリンが心配そうに覗き込む。ずっと側にいてくれたらしい。
「起き上がるなら、ゆっくり。頭を打ってるんだ。急に動いちゃいけないよ。」
不意にナナキが顔を覗き込んだので、デンゼルはびっくりして後ろ向きに
倒れかかったのを、なんとか肘を着いて堪えた。
「驚かせたかい?」
デンゼルはふるふると頭を振る、と、余計に頭がずきずきと痛んだ。
「もう暫く、大人しくしているんだ。気分が悪くなったり、吐き気がしたらすぐに言うんだよ。」
「分かった…ありがとう、ナナキ。」
すると、ナナキは頭を少し傾げ、
「覚えていてくれてうれしいよ。それに、その名前で呼ばれるのも好きなんだ。」
そう言い残して、バレットを手伝うために表に出て行った。
入れ違いにバレットが入って来た。
「マリン、先に車に乗ってろ。」
マリンは不満げにバレットを見上げる。
「大丈夫だ。デンゼルを怒るワケじゃねぇ。少し、話しておきたい事があるだけだ。」
「本当に叱らない?」
「俺がマリンとの約束を破ったことがあるか?」
バレットは義手でない方の手を、マリンの小さな頭に乗せながら言う。
「たくさん、あるよ!」
バレットはがっはっはと豪快に笑うと、
「そうだったか?でも、デンゼルを叱ったりしない。男同士の大事な話だ。」
マリンはぷぅっと頬を膨らませたが、しぶしぶ立ち上がると表に出て行った。


224:エッジ前哨戦【28】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/03 22:00:53 aNeo5d/u0
「…ごめんなさい。」
バレットの顔がまともに見れなかった。
「俺…俺も何かしたかったんだ。役に立ちたかったんだ。みんなを守りたくて…」
バレットは口を挟まない。
「マリンが…ずっとティファを心配して泣いてるから…ずっと泣いてたんだ… 
だから、なんとかしてやりたくて…でも、俺…俺のせいでマリンを危ない目に
合わせちゃった…俺、頑張ったけど、全然敵わなくて…」
「一人、やっつけたじゃねぇか。」
その言葉に、デンゼルはびくんと身体を震わせ、
自分を自分で抱きしめる様にして身体を縮こませた。
「やっつけても、ちっともうれしかねぇだろ。」
デンゼルはハッとなって、バレットの顔を見る。怒ってはいない。
「戦うってのは、そういう事だ。血が吹き出して、骨が砕ける。キレイごとじゃねぇ。」
デンゼルは黙って頷く。
「それが分かれば、十分だ。いいか、デンゼル、自分より強いヤツと戦うな。それは、卑怯な事じゃねぇ。」
デンゼルはまた頷く。今ならバレットの言っている事がいやという程、理解出来た。
「よし、もう“お痛”はするなよ?」
「…ごめんなさい。」
バレットはデンゼルをそっと抱え上げると、デンゼルに笑いかけた。
「謝ってもらわなきゃなんねぇのは、クラウドとティファだ。アイツら、マリンを置いてどこに行ったんだ?」
「ティファは…様子を見に行くって。」
「どこへだ?」
「分からない…クラウドはティファを連れ戻すって。」
「それっきりか?」
うん、と頷くデンゼルに、バレットは思わず掌で顔を覆ってしまった。
「ナニやってんだ、アイツらは…。」


225:エッジ前哨戦 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/03 22:09:29 aNeo5d/u0
>>215
ありがとうございます。この二人のエピソードは
>>152-153さんのお言葉で思い付いたんですよ。
>>152-153さんにも感謝。

>>219さん
フォローありがとうございます・゜(つД∩)゜・。
いくら正当防衛でも、人を傷つけたら動揺しますよね。
子供ならなおさら…と思って。

226:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/04 02:20:40 JMolVYSp0
わくてか保守

227:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/04 09:16:24 OxnOo6Px0
うわ本気でハラハラしながら読んでたよ…GJ!
バレットたち来てくれてよかった。
たくさん、あるよ!ってマリンらしくていいなw

228:エッジ前哨戦【29】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/04 12:15:19 5sTf3RY20
>>148-150 >>170-176 >>197-198>>216-217>>221-224から続きます。

非常階段に監視カメラはなく、ティファはなんなく地下12階まで降りる事が出来た。
ここまでは楽に来れたが、ここからはそうはいかない。
踊り場からフロアに抜ける重い鉄の扉をほんの少しだけ開き、中の様子を伺う。
やはり、監視カメラがあった。
だが、天井に設置されたそれを破壊する術をティファは持っていない。
飛び蹴りや、何かをぶつけるにしても、音で見つかってしまう。
仕方がないので、カメラが反対側を向いている間に飛び出し、その真下の壁にぴたりと張り付く。
反対側を向いたカメラが戻って来て、今度は180度逆を向いた隙に、
ティファは向かいにある部屋に飛び込んだ。

最初に入った部屋より広いだけでほぼ同じ作りだ。壁一面のモニターと端末。
「ここね…」
ティファはモニタの側に駆け寄ると、片端から指令書を読んで行く。
どれも、最初の部屋で見た物と同じだ。
他のファイルを開こうとしてみたが、パスワードがかかっている。
パスワードを解析したり、いくつものサーバーを経由されているルートを探る技術がティファにはない。
ここまで来て、手詰まりかと思った所で、最後のモニターに見覚えのないファイルが開いている。
おそらく、閉じ忘れたか、見ている途中で席を外したのか…
(やっぱり、ツイてる…)
ティファは携帯電話から薄型の記録メディアを取り出すと、
カードリーダーに差し込んだ。地図のファイルを別名保存して、移す。
データーを移動させている間に、地図を見てみると、
「ディープ・グラウンド…?何かしら?」
端末を操り、地図をどんどん開いていく。
(いくつもエレベーターを乗り継ぐのね。もっとずっと地下…)
データーを移し終えた所で静まり返った室内に携帯の呼び出し音が響いた。
 着信を見るまでもない。
良いタイミングで電話をくれたと、ティファは着信ボタンを押した。


229:エッジ前哨戦【30】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/04 12:16:18 5sTf3RY20
話は少し戻って。
怒髪天を衝くとはまさにこの事、状態のクラウド。
ティファを説得する言葉が浮かばず、考えれば考えるほど、
(1)ティファの気持ちは分かる。
(2)でも心配。
(3)心配なのが何故分からないんだ。
(4)いや、ティファの気持ちを理解すべきだ。
(5)でも心配。
を、頭の中で延々繰り返し、自分の怒りに自分で油を注いでしまい、
まるで興奮剤でも飲んだかのようだ。
いつも自分を待っていてくれる者がどれだけ不安を抱えているのか知る由もなく、
それに振り回され、持て余していた。
(何を考えてるんだ…こんな時に!)
クラウドは軽く頭を振り、冷静さを取り戻そうとする。
そして、改めてティファ説得の言葉を考えるのだが、
そうするとまた思考ループに逆戻りしてしまうのだ。
彼の名誉の為に補足させてもらうが、ティファの心配ばかりをして、
決してマリンやデンゼルの事を忘れているわけではない。
子ども達は大人しく避難しているものだと思い込み、
そこから抜け出しているなんて、彼の想像の範疇外の出来事なのだ。
ともあれ、なんとか言葉を整理し、要点をまとめた所でミッドガルの廃墟が見えて来た。
まずはティファの居場所を確認しなくては…と、電話を手に取る。
今度はすぐに繋がった。

230:エッジ前哨戦【31】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/04 12:17:02 5sTf3RY20
「クラウド?私も今かけようと…」
「ティファ…!今どこだ!?」
めったに聞けないクラウドの怒鳴り声に、ティファは少々面食らったものの、
「神羅ビルの地下よ…地下の12階。聞いて、クラウド!
本拠地への地図を手に入れたの。ここの地下が怪しいわ。」
まだ冷静になりきれないクラウド、ティファの言葉は右から左だ。
「ティファ、今、ヴィンセントがこっち向かってる。」
「ヴィンセントが?どうして?」
(どうしてって…)
ティファの返事がクラウドを再びパニックに陥れる。バレットとの会話が洪水となって頭に渦巻く。
自分なりに整理した言葉が浮かばず、どうしてだか、情報を整理して筋立てして話す事が出来ない。
「ティファ、これは彼の戦いなんだ。」
唯一思い出す事の出来たセリフを言う。
「やはり神羅が…宝条が絡んでるのね?奴の研究か何か…」
「そうだ。WROとの総力戦になる。だから…」
「分かったわ。」
ティファの察しの良さのお陰でなんとか伝わったのだが、
ティファが漸く自分の言う事を聞いてくれたことに、クラウドは胸を撫で下ろした。
「あと少しでそっちに着く。だから…」
言いかけた途端、電話の向こうで機銃の音がして、電話が途切れた。
「ティファ?ティファ…っ!」
叫んでも、ツーッという無機質な音しか聞こえてこない。
その時、クラウドの中で何かがプツンと切れる音がした。


231:エッジ前哨戦 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/04 12:23:12 5sTf3RY20
>>227
ありがとうございます。
素直に頷かせようか迷いましたが、マリンならこうかなと
悩んだ末に言わせたのでうれしいです。

ほとんどラストまで書き終えましたが、あと少しと推敲が残ってます。
本日の投下は以上なのですが、明日には完結すると思います。
あと、もう一度だけお付き合い下さいね。ノシ


232:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/04 15:07:24 iD+88q0Y0
乙です!毎回ハラハラさせられっぱなしです(゚∀゚)
いよいよ完結してしまうんですか。早く読みたいけど、終わってしまうのは淋しいですね。
続き、楽しみにお待ちしております。

233:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 03:03:16 /nFJ86tL0
>>エッジ前哨戦
すごく興味深かったのが、ACでバレットはデンゼルに「ここで母ちゃんを守れ!」と
言っていることを受けてのデンゼルの行動描写(>>224)があったと解釈すると、バレットが
すごく良い味出してるなと思います。守るは守でも、人を傷つけずに守る方法があるのだと。
……元テロ組織のリーダーが言う台詞じゃありませんw
(主には)FF7本編でのバレットの経緯(魔晄炉爆破→ダイン再会→最終戦前決意表明)
があっての台詞なんだなとしんみり。
 WROの解釈としては、既出のデンゼルの子どもらしい優しさの裏返しっていう解釈と、
 ボランティア機構(小説作中にもちらっと登場していた)を踏まえてみてもいいんじゃないかな、
 なんて。
そんなわけで、なんか予想外にバレットに萌えたw
GJ!

234:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅢ(1)
06/03/05 03:29:05 /nFJ86tL0
前話:>>180-185
設定:依然としてOn the Way to a Smile(AC公式サイト小説)で描かれるリーブ象をお借りしてます。
舞台:DCFF7第1章@WRO本部かどっか
備考:DCFF7第1章教会前広場へ至るまでの経緯を妄想。
    BC未プレイのため、ここでは考慮の対象外になってます。
----------




 遠い昔。もうとっくに忘れてしまったはずの、幼い頃の記憶。そんなものが、
ふとした拍子によみがえる事がある。
 私の手には今、ライフルが握られている。我々を乗せたトレーラーは敵が
展開するカーム市街の中心へ向けて走行していた。扉を背にし、いま一度
装備を確認する。
『目的地点到達まで、およそ2分30秒。総員、出撃に備えてください』
 無線からもたらされる音声に、自然と身が引き締まる。護身用の拳銃なら
まだしも、こんなライフルを手にしたのは神羅勤続時代に訓練と称して持た
されて以来の事だった。

 ―「モンスターに出会ったら、すぐに逃げましょう。そして大人に知らせ
    ましょう。」

 それは幼い頃に読んだ本の記述だった。そんなものが、今になって思い
出された。なぜ? よりにもよってこんな時に思い出さなくてもいいものだろうと、
リーブは大きく頭を振った。
 カーム市街中心部は、すぐそこに迫っていた。

235:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅢ(2)
06/03/05 03:33:04 /nFJ86tL0

                    ***

「もう少し柔軟性が欲しいな……」
 腕立て伏せをしながら彼女は独り言をつぶやく。さすがに息を切らしてはいた
ものの、両腕はしっかりと彼女の身体を支えていた。ことさら左側の腕が気に
かかるらしく、その後も念入りに関節の屈伸運動を何度も繰り返した。
 しばらくすると、気になったのか額にうっすらにじんだ汗を右手でぬぐう。そして
僅かに安堵した表情で。
「……発汗機能はまだ正常だな」
 確認するようにつぶやいた。
 WRO―世界再生機構の技術部門研究室。白衣を身にまとって何をしている
のかと思えば、端から見れば筋トレそのものだった。確かに、彼女の過去をたどれば
根っからの研究者という訳ではないのだが、それにしても、わざわざ研究室で
やるような事ではない。
 彼女の名前はシャルア=ルーイ、技術部門きっての天才科学者と名高い女性で、
同時に歴戦の勇士だった。目の前に立ちはだかる敵こそ違えど、ある目的のために
10年以上も戦い続けてきた経歴を持っている。
「……訓練施設や相応の設備を用意しているのですから、研究室でそんなに動き
回らなくても良いと思うのですが」
 そんな彼女にまるで愚痴でもこぼすようにして言いながら、男はこの研究室の扉を
くぐった。彼の来訪をシャルアは予期していたとでも言うように立ち上がると、
引き出しの中からキーを取り出し男に手渡しながらこう言った。
「性分なんでしょうね、きっと」

236:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅢ(3)
06/03/05 03:35:52 /nFJ86tL0
「……そうおっしゃるだろうとは思いましたが」
 やれやれと言いたげな、けれど悪意のないにこやかな笑顔を向けるのはWRO局長
その人だった。
「ところでお体の具合、いかがですか?」
「相変わらず。生きている、と言ったところです」
 素っ気ない返答にもリーブは笑顔を絶やさないままだった。こういう物言いは彼女らしい
と、そんな風に思う。彼女の人柄を表した、いっそ殺風景とも思える室内を一通り見渡した
ところで、彼の表情から笑みは消えた。
 机の上に、補給用の弾と拳銃を見たからである。
「……どちらへ?」
「これから派遣される部隊のトレーラーに便乗させてもらおうと考えています」
「…………」
 それを聞いて彼女がどこに向かうのかは分かった。彼女が外出する目的も、その理由も
知っている、だからリーブはそれ以上追及することはなかった。正直に言ってしまえば、
追及したくともできないというのが本音だろう。
 渡されたキーを懐へしまう。
「あちらの情勢はカーム以上だと聞いています」
「ご心配には及びません。終えたらすぐに戻ります」
 直接的な言葉を向けてもすぐ返されてしまうだろうし、かといって口に出さないまま、
と言うわけにもいかない。その葛藤の中でようやく出たのが、この程度の言葉だった。
 ため息をつきたい気分だった。そんな彼の姿を見て、シャルアは皮肉混じりに言って
みせた。
「……やっている事はお互い同じようなもの、そうではありませんか?」
 中途半端に言葉を向ければ、こんな風に手厳しい指摘を受けるのは最初から予想できた
はずだったのに。
「同じかも知れませんが、方法が違います」
 しかも口をついて出たのは子供じみた言い訳だったのが、我ながら情けないと思う。
「それはそうでしょう。同じ方法で見つかるものではないですからね」
「…………」
 互いが、互いのことを責めていると言うわけではないのだけれど。どうにもこういう
雰囲気には慣れない。先に切り出したのはシャルアだった。

237:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅢ(4)
06/03/05 03:46:01 /nFJ86tL0
「局長の方はいかがなんですか? 該当のIDは……」
 先程手渡したキーは、WRO本部のメインコンピュータが納められている部屋の
ものだった。あれだけの規模でなければ、彼の目的である“捜し物”はできないことを
シャルアは知っている。復興活動の片手間に、彼が密かに取り組んでいた“捜し物”に
手を貸そうと思ったのは、シャルア自身にも覚えがある感情のためだった。もちろん、
それを悪いことだと思いはしないし、たとえ思ったところで自分に彼を責める資格は
ないだろう。
「検知システム自体が壊滅的な被害を受けていますからね。今となってはほとんどが
使い物にはなりません」
「それでも、調査を?」
「性分なんでしょうかね」
 そう言って、リーブは自嘲気味に笑った。
 当時、管理されていた何万とある住人のIDから探し出そうとしているのは、たった1つ。
しかもミッドガルそのものが破壊され、検知システム自体が機能していない現状で、
そのIDにたどり着ける確率は限りなくゼロに近い。それでも、やらなければ可能性はゼロ
のままである。万に一つでも可能性があるのなら、やらないわけには行かない。
 そのIDの所在が分かれば、彼女のいる場所を突き止めることができる。
 あるいは「いた」場所が。
 だからこそ、リーブはシャルアを追及しようとはしないし、できないのである。手早く
身支度を調えるシャルアの後ろ姿を見ながら、気休めにしかならないかとも思ったが
言葉をかけた。
「カームで彼と合流した後、私たちもエッジへ向かいます。……彼ならきっと、あなたの
力になってくれるかも知れません。ですから……くれぐれも」
 最後にシャルアは拳銃をしまうと、珍しく微笑んで見せた。
「ご心配には及びません。局長こそお気を付けて」
 短くそれだけ言って、シャルアは部屋を出た。

238:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅢ(5)
06/03/05 03:56:16 /nFJ86tL0

                    ***

(私は今でも、大人にはなりきれていない。そういうことでしょうかね)
 誰にも気づかれぬよう俯いて、やはり自嘲するように笑った。
『目的地点到達まで、55秒。現在、市街中心部にはディープグラウンド
ソルジャーが展開中』
 無線からもたらされる情報には、どこにも楽観できる要素はなかった。
 来るべき戦闘に向けて集中しなければならない、そのはずなのに。

 ―「モンスターに出会ったら、すぐに逃げましょう。そして大人に知らせ
    ましょう。」

『目的地点:カーム教会広場前付近にドラゴンフライヤーGLの機影を確認。
予定進路を変更、目的地点到達まで1分30秒』
 その声を聞いて、トレーラー内の隊員に緊張が走る。想像している以上に
事態は深刻だった。
 沈黙。
 そこには開戦前の、一種の高揚感が満ちていた。衝撃に備え、各々が壁際に
身を寄せ衝撃に備える。予告通りの時間が過ぎると、めいっぱいブレーキを
踏み込んでトレーラーは停車した。同時にそれが扉の開かれる合図でもあった。
 一斉にトレーラーから飛び出し、銃弾の雨が降り注ぐ教会前広場へと飛び出
した。その中で、広場に彼の姿を見いだしたリーブは叫んでいた。
「……ヴィンセント!」
 その声に分かったと頷いて、彼もまた身を翻すと広場中心部へ向けて走り出した。
 彼らの後ろ姿を見ながら、リーブは引き金を引いた。

                              鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅢ<終>
----------
・へたれとか他力本願とか言うな。…言わないでくださいお願いします。
・ID検知システムネタをどうしても使ってみたかった、今は反s(ry。
・シャルアはどの分野での学者かは不明なので都合解釈。すんません。

239:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 13:18:06 4S9toHaY0
いつも乙&GJです!
DCの世界がますます広がります。


240:エッジ前哨戦【18・訂正】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:47:01 4S9toHaY0
「俺、汲んで来るよ!」
「だめ!」
いつの間に側に来たのか、マリンが叫ぶ。
「危ないよ!絶対にだめ!」
でも、泣いてる赤ん坊を放っておけないし、泣き声で見つかってしまうかもしれない。
「すぐ上の、店の厨房だし平気だよ!」
大人達も口々に止めるが、 少しでもクラウド達の役に立ちたい気持ちと、
子供らしい冒険心と、 何よりも泣いている赤ん坊を守ってあげたくて。
「大丈夫!俺、こう見えてもWROの隊員なんだ。」
訝しげな大人達の顔をぐるりと見渡し、デンゼルは努めて明るい声で続ける。
「本当だよ!訓練だって出てことあるんだ。見つからないように…すぐそこだし、大丈夫!」
実際は何度かボランティアとして参加しただけだった。
だが、これくらい言わないと、大人達が納得しないと思ったのだ。
「確かに、今のところ怪しいやつらはいなかったけどねぇ…」
ティファに助けられた家族の、母親の方が呟く。

>>232
いつも読んで下さってるんですね、ありがとうございます。
終わっても他にもネタがあるので、また投下に来ますね。

>>233
デンゼルを諭すのは、口下手クラウドでは無理かなと思って彼に任せました。
バレットは戦いを通じてと、その後で変わったんじゃないかと思ってます。
デンゼルの件もアドバイスありがとうございました。
どう直そうかテンパってたので、アドバイス下さった皆様(>>233>>219>>206>>201
ありがとうございます。

では、ラストの投下参ります。10スレ越えちゃいますが、どうぞ最後のお付き合い願います。


241:エッジ前哨戦【32】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:48:21 4S9toHaY0
>>148-150 >>170-176 >>197-198>>216-217>>221-224>>228-230から続きます。

ティファが振り返ると、入口の所に紅い髪と紅い瞳の女が立っていた。
気が付かなかったのは気配を消していたからか。
アーチェリーのような、不思議な武器を持っている。
女は艶然(えんぜん)と微笑んでいるが、瞳はぞっとするほど冷たく、
その身から放つ殺気で、ティファの肌が粟立つほどだ。
電話は壊されてしまったが、カードを入れる前で良かった。
ティファはカードをポケッとにしまうと、ファイティングポーズを取る。
「泥棒猫が入り込んだって聞いて来てみたけど…」
女はティファを値踏みするかの様に見つめ、ふん、と鼻で笑う。
「あなた、強いの?」
「あなたよりはね。」
ティファの答えに女は甲高い声で笑うと、手にした武器をティファに向けた。
「ロッソと呼んで。ディープ・グラウンドでは“朱のロッソ”と呼ばれてるわ。」
ティファはそれ以上答えず、ゆっくりと息を吸い込む。と、床をスライディングして足払いをかける。
と、ロッソは目にも止まらぬスピードで部屋の反対側に移動する。
それを追って、ティファは壁を蹴って、ジャンプし、頭を狙って回し蹴りをする。
ロッソはそれを屈んで躱し、弓形の剣をティファに振りかざす。
紙一重で避け、避けたつもりが、すぐにまた斬りつけられた。
ティファは壁に手をつき、宙返りしてそれを避けた。
「へぇ…やるじゃない…」
ロッソは眉をぴんと跳ね上げ、楽しそうに言う。
「楽しめそうだわ。」

242:エッジ前哨戦【33】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:49:02 4S9toHaY0
何度か組み合うが、連続した攻撃と、長い得物のお陰で
ある程度の距離を保たなければこちらがやらられる。
おまけに、地面を走る真空波は机や柱の影に隠れてもそれを貫いてティファに襲いかかる。
接近戦を得意とするティファには戦い辛い相手だ。
相手もそれを心得ているのか、ティファには決して近付こうとしない。
「もっとゆっくり遊びたいけど…エッジに向かう様に言われてるの。
私達が追っている獲物が来るらしくて。」
(獲物…?)
クラウドが、ヴィンセントがこちらに向かっていると言っていた。
「それって、まさか…!」
問い詰めようとした時、ずん…と地響きがした。
地下だというのに、建物が大きく揺れ、天井からパラパラとホコリが落ちて来た。
地響きと揺れは断続的に続き、ますます激しくなる。床が揺れて立っていられない程だ。
「な…なんなの?」
ロッソも不思議そうに、天井を見上げる。
不思議な事に、地響きの音はどんどん大きくなり、
それがだんだんと近付いて来るのが分かる。
しかも、それはティファの立っている背後の壁の方から聞こえて来る。
そして、ティファは地響きの間に、微かに聞き覚えのあるエンジン音を確かに聞いたのだ。
(クラウドなの!?)
振り返ったティファが見た物は、壁に入った×字型の切り込み、
大音響と共に崩れて行く壁、その瓦礫の中から黒いエナメルの様に光るフェンリルと、
見慣れた大きな剣、その間から見える金色の髪。
「クラウド!」


243:エッジ前哨戦【34】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:49:59 4S9toHaY0
クラウドは剣を右手から左手に持ち代えると、ティファに差し伸べた。
ティファも手を差し出す。が、その手が空しく空を切った。
クラウドは確かに自分を見つけたはずだ。なのに何故?
不思議に思ったその瞬間、伸びたクラウドの手が腰に回って、引き寄せられた。
(え…?)
気が付くと、クラウドの顔がすぐ真上にあった。
ティファは咄嗟にクラウドにしがみついた。
獲物を横取りされたロッソが雄叫びをあげ、真空波を放つ。
クラウドはそれを左手の剣で難なく弾き返すと、
軽く剣を放り上げ、右手に持ち替え、左手をハンドルに置いた。
そして、片手で楽々と前輪を持ち上げ、元来た方に方向転換し、
アクセルを全開にして走り出した。
その時になって、ティファは漸く自分の身に何が起こったか、
クラウドがどうやって地下まで降りて来たのかを知ったのだった。
(あの地響き…やはりあなただったの…)
呆気に取られて、ティファはクラウドを見上げる。
最短距離を進むため、壁と言う壁を破壊し、狭い通路を剣で切り崩しながら来たようだ。
そして自分はと言うと、フェンリルのタンクの上に座らされ、クラウドの胸の中に居る。
このままだと窮屈だし、クラウドも運転しにくいはずだ。
自分を後部座席に移すようにと口を開きかけた時、
目の前を大剣が塞ぎ、同時に弾丸が弾き飛ばされた。
あちこちから機銃を浴びせられるが、全てクラウドの剣が跳ね返す。
(そっか…)
どうやら弾丸を避ける事は出来ても、弾き返す事が出来ないティファを守っているらしい。
(ピンチの時に…来てくれたんだ。)
ティファはうっとりとクラウドを見上げ、地上までこの窮屈さを受け入れることにした。

244:エッジ前哨戦【35】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:51:01 4S9toHaY0
エッジとミッドガルを見下ろせる丘まで来ると、
クラウドは漸くバイクを停めた。
ゴーグルを外すと、やにわにティファの両肩を掴んだ。
「ティファっ!」
やはり…と言おうか、ティファの予想以上にクラウドは怒っていた。
こんなに怒った彼を見るのは初めてではないか。
あまりもの剣幕に、ティファはびくんと肩を竦め、
おそるおそるクラウドを見上げる。
「ごめんなさい…心配をかけて…」
クラウドは眉を顰め、ティファの肩から手を離すと、フェンリルから降りてしまう。
無事だと分かったのに、何故こうもイライラするのだろう。
ティファは慌ててクラウドの後を追う。
しかし、クラウドはティファを振り向きもしない。
イライラと足下の石を蹴飛ばしたりしている。
「でも…私がこうする理由を一番良く知っているのは
クラウド、あなたでしょう?」
ティファの言葉に漸くクラウドが振り返る。
「分かって欲しいの…もし、また何かが起こったら、私は同じ事をするわ。
だって…そうしなきゃならないんだもの…分かるでしょ?」
クラウドは頭を振って、顔を伏せる。
ティファの言いたい事は分かる。分かり過ぎる程だ。
だが、大きな怪我すらないものの、身体中、火傷や擦り傷、
あざだらけの彼女を見ると、自分で自分を抑える事が出来ない。
改めてティファの顔を見ると、真っすぐにクラウドを見つめている。
その瞳はクラウドがどんなに言葉を尽くしても、
その意志を覆す事は出来ないと語っている。

245:エッジ前哨戦【36】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:52:09 4S9toHaY0
「…強いな、ティファは。」
クラウドに言えるのは、それだけだった。
「…行こう。マリンとデンゼルが心配だ。」
声が沈んでいた。納得したというよりは、
打ちひしがれているようだ。
もし、またエアリスの様にティファまで失ってしまったら…
ここに来て、漸くクラウドは気が付いた。
ミッドガルに向かっていた時の焦燥感、あれは、
(また、同じ事が起こるんじゃないかって…俺は怖かったんだ…)
不器用なこの男は、自分の想いにも気付くのにも時間がかかるのだ。
しかしティファに戦うなと言うのは、
彼女の生きていく為の理由を否定する事になる。
誰よりも大切で守っていたいのに、
それを止める資格すら自分にはないのだ。
(…やりきれないな。)
クラウドはフェンリルに跨がると、エンジンをかけた。
一方ティファにもクラウドの気持ちが痛い程分かった。
毎日彼の身を案じて帰りを待っている時の不安…
でも、行かないでとは言ってはいけない。
(それに…私だって、自分だけ安全な所には居られない。)
自分の犯した罪と、死んでしまった大切な友の為に。
お互いを一番大切に思っているのに、
どうすることも出来ないのだ、私たちは。
でも、それだけに捕われてはいけない。
今の彼を放っておいてはいけない。
きっとあの戦いで一番辛かった事を思い出しているはずだ。
「クラウド。」
ティファに呼ばれ、沈み込んでいたクラウドが顔を上げる。


246:エッジ前哨戦【37】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:52:57 4S9toHaY0
「私…頑張ったんだよ。何度も危ない目にあったけど。」
ティファが何を言おうとしているのか分からず、
クラウドはぼんやり彼女を見つめる。
「その度にね…クラウドって、心の中で呼んでたの。だって…」
“約束したよね”そう言いかけて、ティファも口を噤んでしまった。
こんな事を言えば、ますます彼に負担をかけるだけだ。
「ごめん…何言ってるんだろ、私…」
ティファは気まずさを照れ笑いでごまかし、
慌てて後部座席に座ろうとする。
その手を、思わずクラウドの手が掴んだ。
「こっちだ。」
そして、またあの窮屈な燃料タンクの上に座らされてしまった。
「クラウド?」
「…どこから弾が飛んで来るか分からないからな。」
ゴーグルを着けながらそう言うと、
後はティファの顔を見ようもしない。
だが、ティファはよく知っている。
素っ気ない態度の時は照れているだけだ。
あの混乱の最中でも、回された腕はとても優しかった。
「ピンチの時に、来てくれてありがとう、クラウド。」
クラウドは聞こえないふりをして、フェンリルを走らせた。

247:エッジ前哨戦【38】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:53:38 4S9toHaY0
「おっせぇーんだよっ!」
エッジの街の入り口まで戻った所で二人を
真っ先に出迎えたのはバレットの怒声だった。
その横にはバレットの乗って来たトレーラーが停まっている。
運転席からマリンが飛び出して来た。
「ティファ!」
ティファは膝を屈め、駆け寄るマリンを受け止め、強く抱きしめた。
「ごめんね、マリン…心配した?」
「したよ、すごく!」
「ごめん…ごめんね…」
「ティファ、デンゼルがね…」
言いかけたマリンの頭に、バレットが手を乗せる。
「マリン。その話は後で俺がする。」
「デンゼルがどうしたの?」
「心配ない。」
これ以上の質問を許さない、素っ気ない表情だった。
バレットはフェンリルの側に立ち尽くし、
ティファとマリンをぼんやり眺めていたクラウドに詰め寄る。
「クラウドぉー!」
「遅れてすまない。」
「子ども達を置いて、どこへ行ってた?」
「それはティファが…」
「それはいい!」
クラウドは、じゃあ、何を怒っているんだと言いたげな顔だ。

248:エッジ前哨戦【39】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:55:17 4S9toHaY0
「なんで俺に電話の一本も寄越さねぇんだ?
俺はてっきりお前の方が先に着いてると思ってたぜ。」
そう言われて、クラウドは自分の失態に気が付いた。
最初の電話でお互いにエッジに急行する事になっていた。
なのに、デンゼルからの電話で戦火に見舞われている街を放って、
ティファ一人の為にミッドガルに向かったのだ。
「俺は…!」
言いかけて、クラウドは叱られた子供の様な顔になり、黙ってしまった。
(なんだよ、調子狂うじゃねぇかよ。)
バレットはやれやれと溜め息を吐く。
「バレット…私がいけないの。私が勝手な事をしたから…」
ただならぬ様子を察してやって来たティファが
必死にクラウドをフォローする。
「おい、お前ら…勘違いするなよ。
お前らがいた所で、街が救えたなんて思うな。」
バレットは乱暴にクラウドの背中を叩く。
「俺はただの石油掘削業者で、お前もただの配達屋だ。
自分の女房助けに行ったって、誰も責めたりしねぇ。
だがな、今からまた俺達のリーダーをやってもらわなきゃなんねぇんだ。
こんなくだらねぇ連絡ミス、やってもらってちゃ困るんだよ。」
「リーダー…?」
クラウドが訝しげな顔で聞き返す。
「あちこちでWROの基地や街が襲われてる。
リーブの野郎が残存勢力を集めて、ミッドガルに再結集させてくれと言ってきた。
前にも言ったが、俺はその器じゃねぇ。
シドは飛空艇を束ねてるし、リーブはWROから動けねぇ。お前しかいねぇだろ。」
バレットはニヤリと笑うと、再びクラウドの背中を叩く。
「空はシド、地上はお前だ。どうだ?」

249:エッジ前哨戦【40】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:56:10 4S9toHaY0
「ただの配達屋にリーダーをさせるのか?」
クラウドが呆れて言うと、バレットは大声で笑う。
「お前は断れねぇよ。なぁ、ティファ?」
「もちろん引き受けるわよ。ねぇ、クラウド。」
がさつで、乱暴なバレットの心遣いだった。
クラウドはお手上げだ、という風に肩を竦める。
「…分かった。」
ティファとバレットは顔を見合わせて笑う。
「ところで、私はただの居酒屋経営者だけど、
もちろん連れて行ってくれるわよね?」
ティファの笑顔が眩しくて、クラウドは目を細めた。
「もちろんだ。」
ティファは満足げに頷いた。
「じゃあ、早速リーダーに報告といくか。」
バレットは少し離れた所で様子を見ていたマリンを呼び寄せる。
「マリン、奴を呼んで来てくれ。」
マリンは頷くと、トレーラーに向けて駆け出した。
トレーラーの扉を開け、中に何やら声を掛けると、ナナキが降りて来た。
ナナキはうれしそうにクラウドとティファの元に駈けて来る。
「久しぶりね、ナナキ。」
ティファは屈むと、ナナキの顔を覗き込む。
「こんな時だけど、会えてうれしいよ、ティファ。」
意外な仲間の登場にクラウドの顔も綻ぶ。

250:エッジ前哨戦【41】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 15:57:30 4S9toHaY0
「街の人たちに話を聞いてみたんだけど、
街外れの大きな倉庫にたくさんの人が集められてるらしい。
WR0の部隊が救助に向かっている。オイラ達が頼まれているのは、
残存勢力をまとめること、避難した人を安全な所まで運ぶことだ。」
クラウドは膝を折って屈み、ティファと同じ様にナナキの目線に合わせる。
「安全な場所…どこか心当たりがあるか?」
「コスモキャニオンがいいと思う。」
「あそこは、学者連中が知恵を寄せ合って、
ちょっとした要塞みたいになってるらしい。
地の利もいいし、マリンやデンゼルを預けるのにちょうどいい。」
バレットが口を挟む。
「WROの基地は、あちこち走り回ってるお前の方が詳しいだろ。」
クラウドは頷くと、フェンリルに置いてある地図を持って来て、
それぞれがどこへ向かうか指示を出した。

バレットとナナキが子ども達を避難民を連れてコスモキャニオンに向かう。
ナナキはそのままコスモキャニオンの守りに就き、バレットはそのまま
大陸の北側の基地を周る。クラウドとティファはその反対側だ。

「出発前に、お前らに言っておく事がある。」
バレットはデンゼルとマリンの身に起こった事を二人に話した。
ティファは気絶せんばかりに驚き、クラウドも青ざめ、言葉を失った。
「あいつらには、俺がお灸を据えておいた。だから気にすんな。」
「デンゼルは今、眠っているよ。大丈夫、オイラがついてる。」


251:エッジ前哨戦【42】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 16:00:09 4S9toHaY0
出発前に会いたいという二人の言葉を、バレットは撥ね付けた。
「マリンの側に居なかったのは、俺も同じだ。
勝手に飛び出したデンゼルには帰ったらお尻でも叩いてやれ。」
男の子にはよくある事だからな、と言われても二人はいたたまれない。
「おら、さっさと行くぞ!」
ろくなフォローもないまま、バレットは
さっさとトレーラーに戻ってしまった。
途方に暮れる二人をレッドは見上げ、
なんと声を掛けたものかと考える。
「クラウド…オイラ、今、身体が二つあればって思うんだ。
でも、一つしかない。」
二人は黙ってナナキの言葉に耳を傾ける。
「一人で出来る事には限界がある。
だから、仲間がいるんだろ?バレットは、
二人共、一人でなんとかしようとするから、
水臭いって怒っているんだと思うよ。」
バレットは少し変わったよね、ナナキはそう付け足した。
確かに、以前の彼ならマリンを置いていったというだけで
怒鳴り散らされていただろう。
相変わらず義理人情に厚いが、直情直行なだけではない。
クラウドはもう一度膝を折り、ナナキの頭に手を置いた。
「ありがとう、ナナキ。子ども達を頼む。」
ナナキが頷く。
トレーラーから バレットがさっさと行けと叫んでいる。
「オイラも行くよ。ヴィンセントに気を付けてって。」
二人の顔に漸く笑顔が戻り、手を振ってくれるのを確認すると、
ナナキはトレーラーに向かって駆け出した。バレットがやかましく
叫んでいる運転席の横にするりと身体を滑り込ませる。

252:エッジ前哨戦【43】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 16:01:16 4S9toHaY0
「何を話してたんだ?」
「うん、少しね。」
「余計なこと、言ってんじゃねーぞ。」
バレットはキーを回し、エンジンをかける。
「父ちゃん、ティファとお話出来ないの?」
マリンは不満そうだ。
「いいかぁ、マリン。アイツらはああやってすぐ飛び出しちまう。
飛び出しちまうもんはしょうがねぇ。
だがな、飛び出しても帰って来るのは、マリンやデンゼルが居るからだ。」
「でも…待つのは嫌い。」
沈んだ声だ。
マリンは隣に座るナナキの頭を抱き寄せ、柔らかい毛に顔を埋める。
バレットは慎重にアクセルを踏む。
後ろで眠るデンゼルや大勢の避難民を思っての事だ。
「待つ方が、飛び出してくよりキツいからな。
だがな、待ってやれ。そうでなきゃあいつら、どこへ行っちまうか分かんねーぞ。
まったく、子供におんぶされてるなんざ、情けねぇやつらだ。」
乱暴な言い方に、マリンはくすりと笑う。
「そうなの!マリンがついてなきゃ、ティファもクラウドもダメなの!」
バレットは目を細めて愛娘の顔を見て、
「まったくだ!」
そうして、また豪快に笑うのだった。


253:エッジ前哨戦【44】 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 16:02:24 4S9toHaY0
フェンリルの後部座席に跨がったティファが重大な事を思い出し、
それを伝える為にクラウドの背中を叩いた。
「私もリーダーに報告したいことがあるの。」
ティファは神羅ビルで出会ったロッソの事をクラウドに話した。
「理由は分からないけど、“獲物”と言っていたのは
ヴィンセントの事じゃないかしら。」
「そいつが何故ヴィンセントを狙うんだ?」
「そうね…今展開しているWROの部隊の事かも。
でも、ロッソはエッジに向かうとも言ってたし、
手強い相手だから知らせておいた方がいいわ。
とても…嫌な感じだったわ。
人を傷つけるのを楽しんでる…そんな感じ。
ヴィンセントなら大丈夫だと思うけど。」
確かに…とクラウドが電話を取り出し、ヴィンセントにかける。
「近付いちゃダメなの。離れて攻撃した方がいいって。
やっかいな真空波の事も伝えて。」
クラウドは頷き、ヴィンセントが電話に出るのを待つ。
「だめだ…出ない。」
「そう…」
「WROの隊員に伝言を頼もう。」
「携帯も調達してもらえる?」
ポツン、と頬に何かが当たり、クラウドは空を見上げた。
「雨…」
「急ぎましょう。」

しかし、この後エッジのWROの部隊は全滅。
彼らの伝言がヴィンセントに伝わる事はなかった。
そして、彼らが再びミッドガルに終結するのは、まだもう少し先の事だった。

おわり。

254:エッジ前哨戦 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/05 16:03:06 4S9toHaY0
クラウドがティファをバイクに乗せるシーンは、投稿人が夢見がち故です。
あんな狭い所にティファが座れるかとか、熱くてとても座ってらんねーぞとか、
そういうツッこみは、ここに関してだけはどうかスルーよろしこです。

乙コールや感想下さった方のお陰で最後まで書けました。ありがとう。
もっとあらすじみたいにざくざく書くつもりでしたが、
>>152-153さんのお言葉で、いい意味で火が点きました。
その分、長くなってしまいましたが、最後までお付き合いありがとうございました。
お気に召して頂けたかは分かりませんが、書いている方はとても楽しかったです。
ミッドガル地上戦は書けるかどうか分かりませんが、また何か投下に参りますね。

255:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 16:48:55 72tJ79dp0
>>254
最高でした。
ありがとう。

256:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 19:39:06 4K6UcQstO
>>254
乙です!
本当に最高でした。
読んでてこんなに引き込まれてしまったのは久しぶりです。

257:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 19:46:53 ixLkY+/a0
>>254
すごく面白かったです。
この作品に出会えて良かったです。どうもありがとうございます。

258:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 20:12:49 EpWmIGpzO
>>254
乙です。読みながらハラハラしたり楽しかった。
デンゼルやマリンの様子も描かれててばっちり補完できました。
バレットもクラウドもティファも味がでていて良かったです。

259:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/05 21:19:56 SnTvFDUT0
>>234-238も◆BLWP4Wh4Ooも乙。
DCの行間を補完してくれるような話が読めて良かった。

260:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/06 00:51:50 rf+M4WthO
相変わらず文章が巧いよね

261:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/06 02:08:38 WW8MSfTH0
>>254
乙です、おもしろかったです。
戦闘描写もよかったと思います。読めてよかった、ありがとう。

>>234サンのリーブさんのお話の続きも楽しみにしてます。

262:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/06 13:25:44 QXByAnGQ0
>>254
乙です!
最高でした。

263:エッジ前哨戦 ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/07 01:02:01 XO9GmIKi0
たくさんの乙コールありがとうございます。
『クラウドはティファの王子様』願望炸裂だったので、
引かれてしまったらどうしようかとヒヤヒヤしておりました。

もうすぐ12発売ですが、そうなるとスレは落ち易くなると聞きました。
こまめに投下した方がいいのかな?

264:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/07 02:48:51 JHaFSSIJO
保守
>>263
投下してくれると嬉しい!

265:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/07 20:11:02 /QSHokwqO
保守ついでに。

7好きとしては作品大量でかなり楽しませてもらってます。作者さんたち乙です。
それから前スレ未完の作品も続き待ってます。

266: ◆BLWP4Wh4Oo
06/03/07 23:37:47 XO9GmIKi0
仕事忙しくなった_| ̄|○週末に投下に参りますね。



267:名前が無い@ただの名無しのようだ
06/03/08 01:22:27 IYLX3iAY0
>>エッジ前哨戦
乙、そしてGJ! 最後まで読んでてすごく楽しかった。
何より嬉しいのがナナキ。DCにはほとんど登場しなかった彼の根拠をちゃんと
埋めてくれているのが嬉しくてうれしくて。クラウドがバイクで登場するシーンは
本編のビル脱出を彷彿とさせるし、剣で弾をはじく描写も格好よかった。ちゃんと
約束を意識しているところも素晴らしい!
あえて注文をつけるなら(この辺は7好き者のわがままと言うことで許して欲しいw)
>>252の「どこへ行っちまうか分かんねーぞ。」は「帰ってくる場所が分からない」
って方を強調した方が良かったかも知れないかな、なんて思ったり。(決戦前夜の
ティファの台詞・状況と対比させる意味でも)読んだ一個人の意見ということで、
聞いていただければ幸いです。

長々すんません。新作にも期待。

268:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ(1)
06/03/08 01:57:31 IYLX3iAY0
前話:>>234-238
舞台:DCFF7第7章@シエラ号艇内
備考:ネタバレ有り(6章のアレが前提)なので、
    DC未プレイの方は読まない事をおすすめします。
----------




 彼女にとってそれは10年ぶりに向けられた笑顔、あるいは純粋な微笑みだった
のかも知れない。そしてその微笑みは、彼女の心の奥に閉ざされた大切な何かに、
ほんの少し。だが、確かに触れた。
(これは、……"誰の"記憶の断片……ですか?)
 少女は心の中で誰にとも分からないまま問うのだった。

                    ***

 彼が去ってしばらくしてから再び背後でドアが開く音がしたが、彼女は振り返ろう
ともしなかった。こちらに敵意や悪意が向けられていないことは、気配だけで大凡の
見当はついた。だから振り返る必要はないと判断して、ひたすら目の前のディスプレイに
流れる文字を追いかけながら、手元に並んだキーボードの上でせわしなく指を動かし
ている。タイピングの音と、機械から出る僅かなノイズだけが、この小さな空間を満たし
ていた。

269:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ(2)
06/03/08 02:02:33 IYLX3iAY0
 飛空艇シエラ号の艇内で、そこは姉妹に割り当てられた部屋だった。所狭しと
壁際に並んだ計器類やディスプレイに加え、納められたたくさんの機械類を
一手に引き受けているのは、まだ外見は幼く見える妹のシェルクだった。
 姉はと言えば、彼女の後ろで静かに身を横たえている。
(…………)
 流れていく文字の速度が徐々に緩やかになり始めた頃、少女は顔を上げると
ようやくディスプレイから視線を離した。静かに息を吸い込むと瞼を閉じる。彼女は
無意識のうちに、酷使していた視覚神経を少しでも休ませようとしていたのだろう。
 目の前にある端末にSND―センシティブ・ネット・ダイブ―を実装するための
処理にはもう少し手を施さなければならないが、とりあえず山場は超えた。常人から
すればとてつもない作業量と、理解を超える処理だったが、少女にとってはこの
10年間の「日常」だった。
 正確には「日常」を維持するための手段―過酷な環境の中で生き残る術に
他ならない。できれば二度と思い出したくない地底での記憶は、それでも脳や精神は
おろか身体をも蝕んで、この先もずっとついて回るのだろう。
 ―データとして削除できるのならば、いっそのこと消し去ってしまいたい。
 目を閉じたまま少女の指はゆっくりとキーボードの上をたどった。入力されることの
ない文字列は、プログラムコマンド“削除”の意味を表している。
(…………)
 自分のとった全く意味のない行動に、少女は目を開けて自身の指を見つめながら
心の中でつぶやいた。
(バカみたい)

270:鼓吹士、リーブ=トゥエスティⅣ(3)
06/03/08 02:09:10 IYLX3iAY0
『ほんまにスゴイんやな~……』
「!」
 唐突に足下から聞こえてきた声に、最小限の動作と最短の時間で少女は驚き
を表そうとしたが、どうやら相手にそれは伝わっていなかったようだ。
『邪魔してもうたかな?』
 そこに立っていたのは、誰かと同じように赤いマントを靡かせ、頭に小さな王冠を
乗せた“猫”だった。しかも二足歩行の。少女の知る限り、猫という動物は四足歩行の
はずだ。いやそれ以前に、猫は人語をしゃべらない。それにこの妙なしゃべり方は
一体なんだ?
 そんなことを考えてしまい、少女は思わずその“猫”見つめた。視覚から得た
その姿と、少女が知識として持っていたデータに合致するものが見つかった。
(ケット・シー)
 だが、あくまでもデータだ。そのもの自体と接触するのは今回が初めてだった。
観察するように、それをじっと見つめる。動作を見ていても敏捷性や機動性に長けて
いるとも思えないし、攻撃力や防御力があるようにも見えない。貧弱というよりは
非効率的だというのが、ケット・シーに対する第一印象だった。
『や~、そんなん見つめられたら照れてまうわ』
 そう言って、ケット・シーは首を傾げ、しっぽを大きく振って微笑んだ。
(!)
 しかしその姿を見ていると妙な、とても妙な感じがする。―これは、どういうこと
だろう? 不可解、奇妙、怪訝、不審―少女の中で、まるでデータベース化された
ように並ぶ感情の中から検索を試みた。しかし合致するデータが見つからない。


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