かなり真面目にFFをノベライズしてみる。その3at FF
かなり真面目にFFをノベライズしてみる。その3 - 暇つぶし2ch243:竜の騎士団
05/10/13 23:58:52 xePae7Cx
 
 東西に広くその身を連ねる、雄大な山脈の山合から差し込む朝日を受けて、その城は目覚める。
積み上げられた石壁は宵闇の黒から本来の灰色へ、やがて輝くような銀に染まり、見惚れるような
美しい城郭の全貌を燦然と見せつける。その変化が終わらないうちに、尖塔の一つから勇ましい
ラッパの音が響き渡り、たちまち静まりきっていた城内に兵士達の波が溢れかえる。諸外国にその
圧倒的なまでの威を誇る、超軍事国家バロンの夜明けである。
 城下は強固な城塞で守られ、さらにその周囲を広大な海と険しい山脈地帯が囲んでおり、天然の
要塞は外敵の侵入を許さない。また同時に豊富な山川は地に実りを与え、湿潤な気候と豊饒な土が
齎してくれる恩恵は、一国の民が享受しきるにはあまりあるほどである。これら全てのおかげで、
バロンの民は今日も安らかな朝を迎えることができるのだ。だが、このような理想的な環境を手に
するまでには、もちろん容易ならざる道のりがあった。
 もともとバロン地方は魔物のはびこる大地であった。そこに多くの勇猛な部族達が決死の覚悟で
入り込んできたのだ。魔物達から土地を奪った後も彼らの争いが終わることはなく、豊かな土地を
巡って次々と戦が繰り返された。長い戦乱の歴史、その果てについに勝ち残った部族こそが、彼ら
バロンの民だった。
 それを「血塗られた歴史だ」と非難する国もあれば、「栄光の軌跡だ」と褒め讃える国もある。
バロンに生きる人々は、そのどちらでもない。そこは祖先が守ってきた土地であり、また彼らが
守るべき土地であるというだけだ。
 魔物達もこの地を諦めたわけではなく、山陰の奥深くに息を潜めながらも、自分達の領地を取り
戻そうと常に目を光らせている。このため例え争いの無い時でも、バロンの軍備が怠られるような
ことは決してない。
 そのバロンの軍隊は主に陸軍、海軍、空軍の三部隊で構成され、各部隊はさらに複数の兵団に
分かれている。比較的弱戦力である海軍は、海兵団や傭兵団。兵士達の大多数を占める陸軍は、
陸兵団、騎兵団、魔道士団、近衛兵団などで組織されている。そして、強大なバロン軍の中でも
ずば抜けた戦力を誇るのが空軍であり、この部隊はたった二つの兵団で構成されている。



244:竜の騎士団
05/10/14 00:02:07 xePae7Cx
 そしてもう一つが、竜騎士団である。

 彼ら竜騎士は、鍛え抜かれた鋭い槍技、そして見上げるような城壁も一飛びに超える驚異的な
脚力を以て戦うが、もうひとつ、飛空艇に勝るともそうは劣らない強力な武器を持っている。
それが彼らを竜騎士と呼ばしめる由縁、空を馳せる王者、飛竜である。彼らは竜と共に戦うのだ。
 実はバロンの祖が生き残れたのも、この飛竜と言う生物のおかげだ。少数民族であったバロンが
この地の征服者になることができたのも、彼らの助けがあってこそであった。
 古の時から変わらず竜と共に生き、死んでゆく誇り高き竜騎士達。そしてその頂点に立つ男こそ
他でもないセシルの親友、カイン=ハイウィンドである。

 ところで、「カイン=ハイウィンド」という名は彼の本名ではない。
 ハイウィンドとは、空を知り、風を知り、そして竜を知る者の証。歴代の竜騎士団団長にのみ
受け継がれてゆく、偉大なる称号なのだ。
 歴代のハイウィンド達は皆その名に恥じぬ素晴らしい騎士で、よく空を知り、よく風にその身を
乗せて、またよく竜を愛した。そして先代のハイウィンド──つまりカインの父親も、もちろん
例外ではなかった。
 彼は長い歴史の中でも抜きん出た英雄と讃えられるほどの人物で、その実力はもちろんのこと、
誰からも慕われる素晴らしい指揮官だった。温厚で仁愛に満ちた人格はいつも周囲を落ち着かせ、
朗らかな顔に染め、それでいてひとたび槍を振るえば、その勢いたるやさながら鬼神のごとき
凄まじいものだというのだから、部下達はいっそう敬服を深めるばかりであった。
 だが世に英雄と呼ばれる人間の多くがそうであるように、彼にも幸福ならざる結末が用意されて
いた。あるとき治安維持のため魔物の討伐の任に赴いた先で、彼は小さなカインを遺したまま、
戦死してしまったのだ。まだ齢三十にも満たない若さである。誰にとっても、早すぎる死だった。

 人間の価値はその人物の葬儀を見れば判ると言う。王も参列した厳かな葬儀では、同列していた
大勢の騎士達が咽び泣いた。彼らの涙の一雫ずつに、団長の高潔な人柄が窺い知れたことだろう。



245:竜の騎士団
05/10/14 00:03:41 xePae7Cx

 もっとも彼の死はある時期まで公にされなかった。当時バロンはまだ開発段階であった飛空艇の
発展に力を入れており、ミスリルとの交易を押し進めている最中だったのだ。優秀な軽金属である
ミスリルはそれだけ扱いが難しく、繊細な技術を持つミスリル人達の協力が不可欠だった。しかし
小心な彼らは軍国であるバロンに警戒を抱いており、交渉はなかなかうまくまとまらず、それでも
慎重に慎重を重ね、王自らも何度か訪問し、ようやく交易の確立にこじつけていた、その折りへの
急報だったのだ。
 この時期に国内のゴタゴタなどが知れて、折角まとまりかけていた交易が延期などということに
なってしまっては元も子もない。王は慚愧の念を飲み込んで、彼の死を伏せることにした。
 治安上の問題もあった。当然その頃の竜騎士団はバロンの最たる戦力であり、団長の急死とも
あればその影響は国の内側だけに留まらない。たちまち周辺の豪族などは活気づき、それに伴って
魔物も騒ぎだすだろう。いずれにせよ、当分は漏らしたくない事実であったということだ。
 結果、このことは竜騎士団と、各兵団の団長にのみ知らされるところとなった。
 そして、もう一つだけ。
 王の念頭には、幼いカインの存在があった。

 七歳を迎えたばかりのカインは、二年前に実の母親を病で亡くしていた。生前の母親は理知的で
穏やかな女性であり、カインもとてもよく懐いていた。それだけに、彼女が死んだときの悲しみも
大きかった。それは五歳の少年にはあまりに受け入れ難い事実で、光に満ち満ちていたカインの
世界は一変してしまった。彼は大好きな槍も捨てて、父親とも口を聞かず、ろくな食事も摂ろうと
せずに、毎日部屋にこもったままベッドの上で泣き伏せるようになった。父親にもどうすることも
できなかった。叱ったり慰めたりしたところでどうにかなるようなことではない。結局、彼自身も
深い悲しみを抱えながら、ただ時の流れに任せるしかなかった。

246:竜の騎士団
05/10/14 00:04:30 5KjLTY+Q
 そんなカインを救ってくれたのは、幼馴染みのローザと、やがて学校で出会ったセシルだった。
ローザは毎日カインを見舞い、懸命に辛抱強く彼の心を癒した。そしてセシルは、彼のやさぐれた
心に再び槍への熱意の火を灯し、離別の悲しみからカインを遠ざけた。
 二年の歳月。時折、かすかな陰りを見せはするものの、ようやくカインの顔に昔の陽気が戻って
きだしていたのだ。
 それなのに。
 そんなカインに父の死を知らせればどうなるか。母の死を乗り越えたばかりの少年は、もう一度
肉親の死を乗り越えることが出来るのだろうか。かつて槍を捨てたように、今度こそ彼は自分の
生すら捨ててしまうのではないだろうか。王は躊躇した。
 既にその頃から大器の片鱗を見せていたカインには将来への期待も高く、できることなら時を
経て、彼が自ら事実を悟ってなおその悲しみに耐えることができるようになるまで待ちたかった。
 以前のバロン王ならば、例えカインを憂う気持ちはあろうとも、仮にも騎士の息子である人間に
そんな甘えは必要ないと思ったかもしれない。だが、セシルというかけがえのない存在を得て、
父親の心を知ったいま、彼にはそれがとても他人事には思えなかったのだ。

 しかし、そんな王よりも、もっとカインの身を案じている人間がひとりいた。


 さて、指導者を失ったとはいえ、依然として竜騎士団はバロンの周辺警備の要である。任務には
それまで以上の気負いであたる必要があり、任務をこなしていく以上、暫定的にでも次の団長を
取り決める必要があった。
 密かに行われた団長の葬儀から数日後。竜騎士団の団員達は騎士団副長の指示のもと、飛竜の
厩舎に集まっていた。厩舎と言っても、牛馬などを養う通常のそれとは規模が比べ物にならない。
何しろ住んでいるのが巨大な飛竜であるから、建物の方も厩舎というにはあまりに立派な代物に
なってしまい、団員達の間では「聖堂」などと呼ばれている。彼らがいかに飛竜を神聖視している
かがわかるというものだ。
 その聖堂の中心には、装飾を施された絢爛な台座が置かれている。飛竜の王座だ。
 玉座には、息をのむような美しい浅葱色の巨体を悠々と構えて、彼らの王が居座っていた。


247:竜の騎士団
05/10/14 00:05:04 5KjLTY+Q
「──では、これより継承の儀を執り行う」
 副長が整列した団員達に向かって宣言する。そう、竜騎士団の長を決めるのは彼ら竜騎士達では
なく、飛竜の王の意志なのだ。すなわち王がその背を許した人間こそハイウィンドの名を冠するに
相応しいということである。この規則のため、騎士団内にはもちろん階級の上下があるものの、
王の心次第で下級団員が団長となった例も過去に何度か見られる。
 副長は静かに王座に進み出た。団員の間に緊迫が走り、気づけば堂内の他の飛竜達も静かに
儀式の様子をうかがっていた。王が首をもたげ、透き通った瞳で彼をじっと見据えた。副長は、
ゆっくりと距離を詰めていった。
 この副長も、実は一角の人物である。寡黙で思慮深い彼は、常に冷静に物事の先を見渡すことの
できる智謀の持ち主で、有能な補佐官としてよく故団長を助けた。補佐官とはいえ、先代の頃には
故団長と同じ階級にあり、彼もまた有望な団長候補の一人と謳われていた。もっとも、彼がその
力を示す前に、王は別の人間を選んでしまったのだが。
 副長はさらに歩を進める。王は先程と変わらず身を横たえたまま微動だにしない。やがて二人の
距離は手を触れられるほどにまで近づいた。団員達は息をするのも忘れて、台上に見入っていた。
触れられれば、それはつまり許されたということである。いよいよという距離まで近づき、副長は
ゆっくりと手を伸ばした。かつては与えられなかった称号。ハイウィンドの名。それが今や目前に
あるのだ。この時ばかりは、冷静な彼の胸も激しく高鳴った。しかし、それはごく数瞬のこと。
彼はすぐに心を静まり返らせた。飛竜は人の心の波を敏感に察する。あくまで安らかに、落ち着き
はらった動作で手を伸ばしてゆく。
 そして彼の指がついに飛竜の身体を撫ぜた──と思われたとき、副長は素早く身を引いた。
一瞬遅れて王の尾が鞭のように撓り、彼のいた場所を叩きつける。後ろの団員達から思わず深い
嘆息がこぼれた。

 王は彼を選ばなかった。



248:竜の騎士団
05/10/14 00:06:27 xePae7Cx

 無理もない。むしろ当然の結果といえた。そもそも飛竜は、一生のうち一人の人間にしか心を
許さない。しかも成長すればするほど彼らは頑になる。そのため、通常は新たな王の誕生と、
主人の認識の儀式をもって竜騎士団長の位を継承することになっていた。それでも副長ならば、
あるいは──という一抹の希望があったのだが。彼ほどの男が認められなかった以上、
他に挑もうとする者もほとんどいなかった。
 結局その後にわずかな数人が挑み、最後の一人は逃げ遅れて尾撃の餌食になるという苦々しい
顛末をもらって、先行きに暗い影を残しながら儀式は中断に終わった。

 翌日から、とりあえず儀式については保留することにして、次期団長の取り決めについての
会議が開かれることになった。
 が、これがいっこうにまとまらなかった。
「ともかく早急に団長を決める必要があります。西方への遠征も控えているのですから」
「そうはいっても、我々の一案だけで裁ききれるほど容易い問題でもありますまい」
「王に決めていただいては如何か? 飛竜の王が裁かぬ以上、我らの王にご決断を仰ぐべきかと」
「王はこの件に関与しないと言われている。騎士団が解決すべき問題だと仰せだ」
「ならば私は副長殿をお立てしたい。副長殿ならば人格、能力ともに申し分無いでしょう」
「お待ちください! 継承の儀は初代の頃から守られてきた鉄の掟!
 それをないがしろにするのは、騎士団の教えに背く振る舞いではありませんか?」
「しかし儀式は行った! だが現に飛竜は主を選ばなかったでしょう」
「今は産卵期で、飛竜も気が立っております。時期を見て再度儀式を行えば……!」
「悠長な話だ! 早急な対処が必要であると申し上げたはずですぞ!」
「それは儀式に挑まなかった貴公の申し上げる所ではないでしょう!」
「そちらこそ、負け惜しみではないのか!?」
「何をッ!!」
 こんな具合である。
 次の日以後も、飽きもせずに毎回同じような議論の応酬の繰り返し。副長は、馬鹿馬鹿しいやら
苛立たしいやらでほとほとうんざりしていた。


249:竜の騎士団
05/10/14 00:07:20 xePae7Cx
 彼の頭を痛ませているのはそれだけではない。このところよく耳にする、団長の死についての
噂がそれだ。団員達が団長は暗殺されたのではないかなどと騒いでいるらしいのである。そんな
話が広まるにしても、良くも悪くも団長は皆に愛されていたということなのだろうが。
 だが、指揮官を失って騎士団に強い結束が必要とされている時期であるだけに、それを内側から
崩すような真似を見過すわけにはいかない。まことしやかな噂の類いを耳にする度に、副長は強く
部下を叱責した。自分が悪意ある噂の標的にされているらしいこともまた気に食わなかったが、
彼が真実案じていたのは、何かのはずみでその誹謗がカインの耳に入ることだった。
 副長は団長の急死以来、実によくカインを気遣った。ほとんど毎日のように、足繁くカインの
もとに赴き、近頃では自宅よりもカインの家にいることの方が多いくらいだった。
 というより、そこはもはや彼の家でもあった。彼は団長の死後すぐに、養う者のいなくなった
カインの後見を王に申し出ていたのだ。

 それは副長という立場にあった彼の忠誠心からの行為だったのだろうか?

「こんにちはご子息」
「こんにちは、フクチョウ」
 その日も学校帰りのカインを捕まえ、そのまま家路をともにした。
 ご子息、という言葉の意味を解していない様子のカインは初め、私の名はカインです、などと
主張していたものだったが、やがてそのルールに気がついたらしく、素直に彼をフクチョウと
呼ぶようになった。副長はこのやりとりが大好きだった。
「傷だらけのところをみると、どうやら槍の稽古の帰りですかな?」
「うん、またセシルと訓練をしたのです。今日は私の方が負けてしまいました」
 すこし悔しそうに、けれどどこか誇らしそうに語るカインの横顔を見ながら、副長は内心で舌を
巻いた。生まれ持った天賦の才に加え、玩具の代わりに槍を使い続けてきたカインの成長ぶりは、
その幼少の頃から良く見知っている。技だけなら、もはや騎士団の下級団員すら打ち負かせるほど
だろう。
 そのカインを負かすとは……。
 子供というのはまったく末恐ろしい。そう思う自分は随分年をとったものだなと、ふいに何だか
可笑しくなり、笑った。カインも笑った。



250:竜の騎士団
05/10/14 00:07:51 5KjLTY+Q
「でも私もだいぶ上達したと思います。父上にもぜひ見ていただきたいものです。今度の遠征は
随分と長いようですから、お稽古を付けていただくのが待ち遠しいです」
 かりそめの陽気がうすれ、また副長の心にいつもの罪悪感がたちこめだした。
 父はもういない。何度も何度も顔を合わせながら、彼にはどうしてもこの子にその残酷な事実を
告げることができないでいた。

「任せてよいのだな」
 後見を申し出たとき、王は副長にそう尋ねた。くたびれた目尻にいっそう皺を寄せ、王は冷たい
押しつぶすような眼差しを副長にぶつける。静かな威圧が、言葉以上に雄弁に問いかけた。
 時期を得てカインに事実を告げると言う大任。それを委ねてよいのだな、と。
 彼は即座に頷いた。
 だが、実際それはあまりに重い役目だった。第一、事実を告げればその重圧はそのままカインに
のしかかるのだ。副長は隣を歩くカインに目をやる。視線に気づいたカインは、無邪気な笑顔で
それに応えた。この笑顔を曇らすことなど、どうして自分に出来るはずがあろうか。
 彼は本当にカインを良く知っていたのだ。しわくちゃな顔で泣きわめく赤子の頃も、槍を支えに
立ちだした頃も、そして母を失った苦しみに悶えていた頃も、ずっと見ていた。初めてゴブリンを
倒したときも側にいた。入学式に参列した時などは、本当に我が子のような気すらしたものだ。
 けれど、カインは彼の息子などではない。たとえ副長が後見を引き受けようとも、カインが父の
死を知らない以上、彼はカイン=ハイウィンドであり続ける。そしてカインがそれを知ったとき、
彼が何を選ぶかは誰にも分からない。

 まだ早い。
 そうしてまた、彼はいつものいいわけを心の中でつぶやいた。まだ早い、と。
 その言葉が通用しなくなる時期は、すぐに訪れると分かっていながら。
 そして今日も、空っぽのあの家にカインと歩いていくのだ。


251:竜の騎士団
05/10/14 00:08:41 xePae7Cx
「それではご子息、いっそのこと、これを機に父上を追い抜かしてしまってはどうです? 
 お帰りになったお父上がさぞ驚かれることでしょう」
 その提案は、カインの幼心に火をつけたようだった。
「そうだ! 今のうちなんだ!」
 言葉遣いに気をつけるのも忘れ、興奮した様子で槍を振り回しながらカインは駆け出す。
その様子をとても愛おしく思いながら、副長は淋しげなため息を漏らした。
「フクチョウ、お願いします! 稽古を付けてください!」
「もちろん喜んで。ただし、夕食を食べ終わってからですよ」
 にわかに夕日が沈みだし、城下を歩く二人の先に真っ赤な影を引いていた。


「しばしよろしいか? ひとつ気になったことがあるのだが…」
 相も変わらず煮え切らない会議の最中、一人が唐突に口を開いた。
「いったい誰が飛竜の世話をされているのか?」
 同席していた一同ははっと驚き、顔を見合わせた。
 飛竜は恐ろしく誇り高く、そしてまた忠実な生き物である。主人以外の一切の者を受け入れず、
誰も近づけようとしない。であるから、飛竜の世話は当然その主君にしかできない役目である。
そして、子を産み主人に先立たれ、役目を果たした飛竜は食することもせず、ついにはそのまま
息絶えてしまう。本来ならば長命な飛竜が、その気高さゆえに自ら死を選ぶのだ。
 一般にあまり知られていない事実だが、恐ろしいことにバロンにおける飛竜の死因の九分九厘は
「餓死」である。固い鱗に覆われた強靭な肉体は魔物の鋭い爪も通さず、疫病も彼らを蝕むことは
出来ない。飛竜を傷つけられるのは、彼ら自身の内に光る、「誇り」と言う刃だけなのである。
 加うるに、若き王竜にはまだ子がいなかった。王の血縁が絶たれては取り返しがつかない。
 飛竜の身を案じた団員達はすぐに会議を中止し、すぐに聖堂に向かった。ところが、台座に王の
姿はなかった。厩番に尋ねてみても飛竜はどこかに飛び去っていったきり戻ってこないと言う。
そう聞いてとくに焦る様子もなく、騎士達は聖堂を後にした。忠義深い飛竜が、しかもその王が、
わけもなくバロンを遠く離れるようなことはあり得ない。となれば自ずとその行方も絞られる。
副長はよく知っている道を部下を連れて、城外のハイウィンド家に向かった。


252:竜の騎士団
05/10/14 00:11:57 5KjLTY+Q
 夜分、それもだしぬけに騎士団の重鎮達がやってきたものだから、初老の女中はひどく驚き、
すっかり取り乱してしまった。飛竜はどこにいるかと声高に問いつめると、震える声で中庭に
案内された。庭に出た一同は、息をのんだ。
 そこには果実を食みながら静かに横たわる飛竜と、小さな少年の姿があった。

 皆、唖然としていた。カインは自分をみつめる大人たちに気づき、ぺこりと頭を下げてから、
彼らの見守る前で飛竜に果実をあてがった。
「……ご子息、どうやってその飛竜を手なずけたのです」
 副長が代表して聞いた。カインは落ち着きはらって答えた。
「いいえ、手なずけてなどおりません。私は父の帰りを待っておりました。それでどうやら、
父の竜も同じのようでした。ですからこうして二人で待っているだけです」
 カインが飛竜の首筋をなでてやると、竜は穏やかに喉を鳴らした。 
 騎士達はそれでもなお信じがたいという表情で立ち尽くしていた。その中で副長がただひとり、
その身を深く恥に染めていた。
 何ということだろう。自分はいったい何年もの間、竜と共に生きてきたのか……。
 この若々しい竜は知らないのだ。己が主君の死を。未だに主の帰りを待ち続けているのだ。
それを新たな主人に従わせようなどと、屈辱もいい所である。誇り高い飛竜が二心など抱こう
はずもなかった。
 なんと自分は浅はかで、傲慢だったことか。……それなのにこの子は……カインは…。
「──ご子息、とんだ夜分にお邪魔をいたしました。これにて我々は失礼いたします」
 顔を上げた副長が一礼してその場を去ると、呆然としていた男達も我に返り、その後に続いて
ちらほらと引き上げていった。
 カインは黙って飛竜にもたれこんだまま、ぼうっと空を見つめていた。
 不思議と、その瞳は飛竜のそれととてもよく似ていた。



253:竜の騎士団
05/10/14 00:12:40 5KjLTY+Q

 それからひと月ほどがたったある日のこと。
「副長! 外を!!」
 血相を変えた部下が執務室にかけこみ、副長を外に連れ出した。
 まもなく耳に入ってきた巨大な羽ばたきの音で彼は事態を察した。
「ご子息!」
 優雅な白い両翼を広げた飛竜の王が、その背にカインをのせて飛んでいた。
(──信じられない! 飛竜が主人以外の人間を背に乗せるなど!)
 しかし現実にカインは竜の首を撫でて誘導すると、副長のそばまでゆっくりと近づいてきた。
「フクチョウ、父を捜して参ります。どうかご心配なさらないでください」
「カインッ!!」
 思わずその名を呼び止めた時には、既に飛竜は空の彼方を泳いでいた。
 ──言えなかった。あの子に事実を、言えなかった。
 しばし立ち尽くしてから、彼はやっと思い立って自分の飛竜を呼び寄せようとしたが、すぐに
やめた。彼の竜では王に追いつけるはずもなかった。
 

 数日後。

 帰ってきたカインは異様だった。
 

「ご子息……」
 カインは飛び去った時と同じ、訓練場に戻ってきた。既に集まっていた騎士達を押しのけ、
広場の中心にいるカインの姿を見ると副長は思わず声を漏らした。
 ひどい有様だった。たった数日前まで陽気に溢れていた顔は、いまや生気を失った土気色で、
丸みを帯びていた頬は痩せこけて骨が浮き出ている。大きな瞳は落ち窪み、灯火の消えたような
哀しい色に染まっていた。──あの時と同じだ。

254:竜の騎士団
05/10/14 00:13:28 5KjLTY+Q
 だが、ひとつだけ違う。カインはうずくまりながら、一本の槍を抱え込んでいた。その場の
誰一人としてその槍に見覚えのないものはいない。切っ先だけでなくその柄までを黒ずんだ血糊に
染めた長槍は、彼らの団長、カインの父のものだった。
 そんなカインと槍を包み込むように、飛竜がその身を寄せていた。
「………」
 はじめに、途方もない無力感。次に思い出したような責任感が、そして洪水のようにおしよせた
言葉がめまぐるしく副長の頭をかき回した。
 恐れていたことが現実となってしまった。とうとうカインを守ってやることが出来なかった。
 悔いたところで今さらどうにもならないだろう。今はただこの子を救いだせる言葉が欲しい。
 だが何を言ってやればいいのだ。いや、何か言う権利が自分にはあるのだろうか。
 わからない。誰か教えてくれ。私はどうすればいいんだ。どうすればこの子の力になれる……。

 困惑しながら目を伏せていた副長は、ふいに背後で騎士達がざわめくのを感じた。
 顔を上げると、いつのまにかカインは立ち上がっていた。そしてぎこちない手つきで槍を返し、
その切っ先をゆっくりと顔に近づけた。
「よせッ!!」
 危険を感じた副長は槍を取り上げようと駆け寄りかけたが、彼の予想に反してカインは刃先の
血を拭っただけで、すぐに槍を握り直すと、そっと飛竜の首筋に手を這わせた。そして彼の首に
かけられた一条の金色の綱を断ち切った。飛竜の王たる印、そしてその束縛を解き放ったのだ。
 その場の全員が呆気にとられた。王から王へと受け継がれる偉大な勲章を、ほんの七歳の子供が
あっさりと切ってしまったのだ。飛竜自身も戸惑っているようだった。訝しげに首をひねったり、
身をよじったりして、そのうち足下のカインに目を向けた。カインが頷いてやる。すると竜は
勢いよく飛び上がり、雄大な両翼をはためかせて遥か上空を舞い踊った。主人を失った悲しみと、
自由を与えられた歓び、その両方に彼は高々と雄叫びをあげた。


255:竜の騎士団
05/10/14 00:15:16 5KjLTY+Q
 その様子を見上げ、カインはほんの少しだけ笑った。そして副長に向き直った。
「フクチョウ。ご心配をおかけしました……」
「…ご子息……」
「父の………槍です」
 両手で槍を差し出すと、少年は深々と頭を下げた。彼がそうしたまま、しばらくの時が流れた。
副長の心にはまたいくつもの言葉が駆け巡った。慰め、謝罪、賞讃、そしてそれらは全部、やがて
ひとつの想いに溶けていった。何も必要な言葉などない。ただ誇らしかった、なぜなら。
顔を上げたカインは、もう幼子ではない精悍な男子の面構えになっていたから。

 再び羽ばたきが近づき、見上げると飛竜が戻ってきていた。忠臣である飛竜は、自由をその翼に
与えられてなお、迷っているようだった。
 そんな飛竜を後押ししてやるように、カインは淋しげに首を振った。

 だが、彼は飛び去らなかった。じっと宙に浮いたまま、カインを見つめていた。
 カインはもう一度首を振る。そうして手で示した。お前は自由なんだよ。空に帰るんだ。
 けれど、飛竜は深い穏やかな真紅の目にカインを映し続け、やがて再び声を上げた。そして
カインのもとに降り立つと、頭を垂れて双瞼を閉じた。
 

 王は、カインを認めたのだ。



256:竜の騎士団
05/10/14 00:21:26 5KjLTY+Q

 騎士達はうち震えていた。
 ある者は胸に手を当て、ある者は槍を掲げ、またある者は感服の涙を流していた。
 彼らは同じ竜と生きるものとして、幼いカインに対する畏敬の念を隠せなかった。
 そしてこの日、副長の提案と共に、バロン竜騎士団全員の賛をもってある決定が下された。

『バロン竜騎士団団長は不在とする!
 カイン=ハイウィンドが竜騎士となるその時まで!』


 当然ながら前例のないのことであったが、騎士団全員のたっての願いともあり、王もこれを
認めた。彼もまた王である前にひとりの騎士だった。
 また、もちろんこの決定はカインに知らされることはなかった。慢心かあるいは重圧か、その
どちらにしてもカインに与える理由はなかったし、カインならば必ず自ずから相応しい騎士に
なるだろうと誰もが確信していた。
 そのカインだが、このことがあってから彼は少しばかり無口になり、昔ほど感情を外に出さない
ようになった。もっとも彼と親しい人間からしてみれば、中身はちっとも変わってなどいないと
いうことらしかったが。
 それからハイウィンド家はそのまま残された。副長はカインに後見の旨を告げ、自分の邸宅に
移住することもできると話したが、カインは家に残りたいと言った。副長もその方がいいと思った
らしく、カインはまた空っぽの家に帰る日々を送った。それでも彼らはたびたびお互いの邸宅を
行き来したし、カインはすっかり彼を父親として受け入れていた。傍目にも、二人は本当の親子の
ように見えた。
 副長は事実上の団長という地位にありながら、長きにわたって補佐という名目を守り続けた。
彼はことあるごとに団長と言う言葉を口にし、常に自分の上に指揮官がいるように振るまった。
はじめそれはひどく奇妙に見えたが、いつのまにか団員達も見えない指揮官を信頼するように
なっていった。騎士団は不思議な結束で力強く保たれていた。
 そしてカインが竜騎士となったその日、架空の指揮官は現実となったのだ。



257:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 00:40:10 Yyy4taEY
・ゲーム中で描写の無かった、登場人物の過去等についての短編
ってやつですね。
>>297
カインかっこいいよ
Gj

258:297
05/10/14 00:42:27 5KjLTY+Q
ごめん、回線不調。まだ終わってない……。

あと>>244投稿ミスしました。


 一つは言わずと知れた飛空艇団、通称「赤い翼」だ。空を覆い尽くす鋼鉄の船団から落とされる
爆撃はいかなる堅固な城塞もたちどころに粉砕し、暗黒騎士セシルが率いる精鋭騎士団は無敵を誇る。
 そしてもう一つが、竜騎士団である。



ではもう少し続きを。

259:297
05/10/14 00:43:19 5KjLTY+Q

 竜騎士団の入団式。
 この年の式はバロンの歴史に刻まれる一日となった。

 若き見習い騎士達はひとりずつのその名を呼ばれ、彼らの所属を申し伝えられる。名を呼ばれた
青年達は次々と壇上に上がり、騎士勲章を受け取ると、まだ幼さの残る顔を誇らしげに輝かせて、
各々の隊の列に散っていった。
 ところが、カインの名だけが呼ばれない。
 そして、
「続いて騎士団長任命の式典を行う」
 途端に会場内の騎士達が一斉に立ち上がった。どうやら事情を聞いていたらしい新人騎士も
すぐに立ち上がり、何も知らない者だけが慌ててそれに習った。式典進行の騎士は、再び声を
張り上げる。
「竜騎士カイン=ハイウィンド、前へ!!」
 驚きながらも前に進み出るカインの目に、壇上で待つ副長の姿が映った。そうして壇に上がった
カインが礼をしようとした時、それを遮るように副長は深く跪いた。 
「副長……! これは……!?」
「お待ちしておりました、団長」
 驚くカインに、副長は優しく事実を告げる。
「団長? まさか…!?」
「そうです。我々はあの日から、ずっと貴方をお待ちしていたのです。
 ………長い間でした。これでようやく肩の荷が降りた思いです」
「お待ちください! そんなっ、私はそのような器では!」
「いいえ、貴方は長として必要な資質を全て備えられている。それでも足りぬと言うのなら、
どうか我々に貴方をお支えさせていただきたい」
「ですが……副長…」
「さあ、この槍をお返ししましょう。これは貴方が持つべきものです」
 副長は一本の槍を差し出す。忘れるはずもない、幼い日の彼自身が見つけ出した槍だ。
 彼の手はあの時よりもずっと大きくなったのに、槍はなおいっそう長く重々しく感じられた。



260:竜の騎士団
05/10/14 00:44:44 5KjLTY+Q

「団長、後ろをご覧なさい」
 振り返ると、背後には整然と立ち並ぶ騎士達の姿があった。よく知った顔も、嫌いな顔もあり、
幼い頃に憧れた者の顔もあった。誰一人として彼より若いものなどいない。その全員が、自分に
敬礼をしているのだ。カインは身震いした。
「副長……彼らが私などを認めるはずがありません。私には……」
「ご子息」
 副長は、彼ら二人だけの間の暖かい口調で囁いた。
「貴方はご自分の名をお忘れか?」

 そうして彼は、カインの持つ槍の柄をゆっくりとなぞった。槍は美しく磨き上げられており、
そして、かつては血糊で見えなかった、柄に刻まれているその文字をカインは見た。

 ハイウィンド。

 胸が震えた。先程の震えとは違う。身体の底から、突き上げるような震え。
 血が騒いでいるのだ。カインは悟った。そして槍を強く握りしめると、ふいにその重みは風の
ように消え失せた。
 ハイウィンドの血が、カインの右腕を高々と押し上げた。
「──騎士団に栄光あれ!!!」
『騎士団に栄光あれ!!!』
 騎士達は沸いた。若き騎士達はその威容に見惚れ、往年の団員達は懐古に胸を焦がした。
 誰もが確信していた。竜騎士団は不滅だ。誇り高き騎士団に、栄光あれ。

 王を失った竜達は、あらたな王の帰還に雄々しく吼えた。




261:竜の騎士団
05/10/14 00:47:20 5KjLTY+Q
 式典が終わり、にぎやかな祝宴の幕が開いた。街中の酒屋から集めてきた酒樽をひっくり返し、
一同浴びるように飲みまくる。厳正な規律を重んじる騎士団とはいえ、この日だけは無礼講だ。
熟練の隊長も、青臭い見習い騎士も、まるで百年の友のように肩を組んで酒を飲み交わす。
 そのうち壇上に人が集まりだした。宴会恒例の時間が訪れたのである。竜騎士団の入団式では、
新人騎士達が練習仕合を披露することになっているのだ。もちろん既にかなり酔いが回った頃合に
行われるから、素面なら見れたものじゃない泥仕合がほとんどになってしまうのだが、祝酒の肴と
しては十分というものだ。
 もっとも今年はカインがいたため、かなり一方的な展開が繰り広げられた。同年代どころか、
城内を探してもほとんど無双の腕前を持つカインである。多少酔っていても、その凄まじい槍技は
粗を見せない。流石は団長よ、と観衆も大いに沸き立っていた。
 そして、最後に壇上に上がった一人によって、観客はさらに盛り上がる。
「……胸をお借りしてよろしいですかな、団長?」
「望むところです、副長……!」
 一礼を交わし、副長とカインは向き合う。槍を構えたまま彼らは微動だにしない。お互いが機を
窺いあっているのだ。いつしか騒いでいた一同もぐっと壇上に釘付けになっていた。
 勝負は一瞬で終わった。
 目にも止まらぬ速さで突き出された槍は、互いの武器を寸分無く捉え、キインと鋭い音を立てて
頭上高く二本の槍が舞った。相打ちだ。
「とうとう追いつかれてしまいましたな」副長が悔しげな顔をつくり、頭をかいてみせる。
「酒のおかげでしょう」
 笑いあい、二人は握手を交わした。
 素晴らしい試合に一同惜しみない喝采を贈り、後はもう日が暮れるまでひたすら飲んだ。
 副長も彼にしては本当に珍しく、どっぷりと酔っていた。彼に付き合わされていたカインは、
後ろの方で伸びている。やがて宴は全員での団歌熱唱で幕を引き、皆千鳥足で夜道を引き上げ、
残りのものはその場で泥のように眠った。
 空では星がひときわ美しく光っていた。


 そしてその夜。


 副長は自決した。

262:竜の騎士団
05/10/14 00:48:20 5KjLTY+Q

 彼は「ご子息へ」と記した短い手紙を書き残して、寝室で自ら腹を切った。手紙には淡々と
彼の葛藤が刻まれていた。
 ずっと先からカインの母を愛していたこと。母が父と結ばれてからも、その想いは断ち切れず、
むしろいっそう募るばかりであったこと。そして父がその母をむざむざ死なせてしまったこと。
どれだけ鍛錬を積んでも父を超えることができなかったこと。殺したいほど父を憎んでいたこと。
しかし、心の底では彼への尊敬の念を拭いきれなかったこと。孤独であった自分が、母の面影を
強く残していたカインをどれだけ大切に思っていたかということ。
 そして、父が死んだ日のこと。


 その日、竜騎士団はバロン南方の山脈に魔物の討伐に出ていた。飛竜達は産卵期を迎えて気が
立っていたため、騎士達だけでの遠征であったが、空を駆ける彼らに山道など物の数でもない。
魔物をたやすく退けながら、彼らは着々と任務を進め、やがて夜を迎えて山中に陣を張った。
 最前線に構えた天幕の中で、団長と副長は戦況を話し合っていた。 
「兵の状況は?」
「今のところ負傷者はおりません。魔物どもは窪地の周辺に逃げ込んだようです」
「順調だな。この分なら、明日には引き上げられそうだ」
「嬉しそうですね、団長」
「いや、そうでもないさ。家ではおそらく、カインの奴が槍を構えて待っていることだろう。
稽古をせがむつもりでな。まったくあいつと来たら、魔物の相手の方が何十倍も楽だよ」
 団長は苦笑しながら肩をすくめてみせる。副長も微笑を返したが、彼の幸福に満ちた愚痴に、
その心中は煮えくり返っていた。
(──なぜ貴方にはカインがいる)
(──あのひとを見殺しにしたというのに)
(──いつか貴方はカインをも傷つけてしまうんじゃないか)

263:竜の騎士団
05/10/14 00:49:21 5KjLTY+Q
 団長の口からカインという言葉を耳にするたび、孤独な彼の胸は憎悪の火に燃えるのだった。
 だがその一方で、彼は心から団長のことを敬っていた。そしてまた、彼には団長しか友と呼べる
ような人間がいなかった。
 そのため、相反する想いはいっそう膨れ上がり、彼の胸を震わせた。あまり胸がざわめくので、
彼はそれを抑えようと手をあてがった。だが、それでも何かがまだ妙だった。
 ようやくそのことに気づいて副長が顔を上げると、団長は既に槍を握っていた。戦いに身を置く
者なら嫌でも感じ取ってしまう、あの魔物特有のおぞましい気配がそこら中に漂っていたのだ。
 天幕の外に出て、二人は目を見開いた。
 山が黒くうねっていた。窪地から、おびただしい数の魔物が駆け上がってきている。木々が
なぎ倒されていく音がここまで響いてきていた。
「全軍に知らせろ、ここで食い止める!!」
「団長!」
 横の林から飛び出してきたフロータイボールを、団長が一振りで切り伏せる。
「急げ!!!」
 副長は後陣に走った。既に異変を察知していた数名が外に出ており、副長のただならぬ様子に
血相を変えて詰め寄ってきた。
「副長、何事です!?」
「急襲だ! 大群がすぐそこまで来ている!!」
「副長! ご指示を!」
「団長はなんとご命令を!? 副長!」
「命令は……!」
 そのとき、彼の頭をひとすじの光が過った。
 彼の運命を曲げてしまう、声が聞こえたのだ。



 ──カインが待っている──


264:竜の騎士団
05/10/14 00:49:58 5KjLTY+Q


「……撤退だ」
「は?」
「聞こえただろう、撤退だ。団長も既に場を離れられた、総員退避だ!!」
「はっ! おい、撤退だ!! 全軍撤退!!」

 騎士団は素早く陣営を引き上げた。魔物の追撃をかわしながら山道を走り抜け、夜明け前には
全軍が安全な山麓にたどり着くことが出来た。──ただ一人を除いて。

 彼は団長を置き去りにしたのだ。


 皮肉な事に、結果としてこの時の副長の指示は正しかった。魔物の数は彼らの数十倍にも及び、
飛竜なしに勝てるような相手ではなかった。その場に留まれば、全滅は避けられなかっただろう。
このため彼の言葉が疑われるようなことはなく、団長は不運の死を遂げたとされた。
 帰還後すぐに彼らは全軍を率いて引き返してきたが、団長の遺骸も、その槍も、ついに見つから
ないまま失われてしまった。やがて小さなカインが見つけるまで。
 
 ・
 ・


265:竜の騎士団
05/10/14 00:50:39 5KjLTY+Q

 副長の死は、やはり騎士団に少なからず波紋を及ぼした。長きにわたって騎士団を守ってきた
人間の穴は簡単には埋まらず、彼を敬愛する多くの者が哀しみに暮れた。折しも飛空艇の完成が
騒がれていた時期であり、竜騎士団は落ち目であるような空気がバロン内に漂った。
 だがこの時期、カインは信じられないほどの働きを見せる。その最たる偉業の一つが、飛竜達の
救済だった。彼は主を失った後に命を絶とうとする飛竜達を軒並み救っていった。もちろん誇り
高い飛竜達に新たな主人をあてがうような真似はせず、カインは王の許しを得て、周辺の山脈に
飛竜の地を築いたのだ。主を亡くした竜達が、自由に生きることの出来るようにと。
 その最初の救済者は、他でもない副長の竜だった。主人の死を悟り、自らもその後を追おうと
していたかの飛竜は、カインに心を開くことで救われた。決して新しい主を受け入れようとは
しなかったが、彼女は騎士団に仕え続け、やがて王の子を宿すことになる。
 この効果はめざましい結果となって現れた。バロン付近の魔物が激減したのだ。王はこれを
褒めたたえ、自信を失いかけていた騎士団は活気を取り戻していった。またこの一件で、年若き
団長を侮っていた一部の連中も、すっかりその影を潜めた。
 一方。とうに忘れ去られていたはずの噂も、再び広まりだした。副長は、団長を暗殺した罪過に
耐えられず、その命を絶ったのではないかと。
 カインはそれらについてまったく介入しなかった。何一つ言及せず、否定も肯定もしなかった。 手紙の内容についても同様に、決して誰にも口外しなかった。親友のセシルや、ローザにすら。
当の手紙もカインがその場で破り捨ててしまっていたため、副長の名誉が汚されるようなことは
なかった。やがて噂は消え、後には栄光のみが残る。かつて素晴らしい騎士がおり、そして死んだと。


 カインは彼を許したのだろうか。心の底は誰にも分からない。時には本人にさえも。


 けれど、



266:竜の騎士団
05/10/14 00:51:48 5KjLTY+Q

 バロン城の地下深く、歴代の名将達を弔う墓室。そこに団長と副長の墓碑がある。
 団長の墓前には、たゆまぬ敬意と栄誉を誓って、そう記されたカインの槍が捧げられている。
 そして隣の副長の墓には、勇猛な竜騎士団団長ハイウィンドの名が刻まれた偉大な槍が手向け
られている。この者の不屈の騎士道を称えて、と。


 そしてカインの手には──





「俺には竜騎士が性に合っている。いつも父を感じられる気がするからな」






 終


267:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 01:12:02 Yyy4taEY
割り込んじゃってすまん。
上手いな。
副長の葛藤が後のカインの行動は暗示してる気がする。
理性で対処できる問題じゃないよな

268:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 01:56:25 XD0xXPCT
>297氏
乙です。
短編…にしては凄い完成度と深さですね。
副長の横恋愛は狙ったのかそうじゃないのか…

と、俺も今からAC投下します。

269:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 01:57:52 XD0xXPCT

クラウドが異変に気づいたのは、ヤズーとロッズが彼を追跡し始めてからすぐのことだった。

背後からの刺すような殺気。眼光。数百メートル離れているにも関わらず感じられる凶暴性。
肩越しに後方を振り返ると、2台のバイクが猛烈な勢いで迫ってきている。
ただならぬ気配を察知したクラウドは再び前方を向き、バイクの速度を上げて振り切ろうとした。
後ろの2台も加速して追いすがる。スピードは互角だった。

クラウドはこのままでは逃げきれないと判断し、平坦な荒野から敢えて走り辛い岩山の方へと逃げこむ。
悪路に逃げ込む事で、追跡の速度を減少させ、あわよくば追跡を断念させようとしたのだ。
尖った岩にタイヤが噛みつき、あまり減速することなくごつごつした地面を進んでいく。
彼が駆っている黒塗りの大型バイク、フェンリルは、もともと荷物配達の仕事を始めるにあたって特注した代物だ。
これしきの悪路は難なく走破できる。
再度、後ろを振り返ると、どうやらクラウドの計算は図に当たったようだった。
謎のバイクは目に見えて速度が下がり、こちらを追うのに難儀している。
振りきれる―そう思った途端、奇妙な事が起こった。
どこからともなく、モンスターが湧いて出てくるように出現したのだ。

270:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 01:59:07 XD0xXPCT

(なんだ!?)
声を出さずに驚愕するクラウド。
その暇も充分に与えず、狼のような、しかし狼と言うにはあまりにも醜悪な外見の獣が群れて襲いかかってくる。
すかさず応戦の準備に入る。ハンドルの根元の方に手を伸ばし、指先に触れたスイッチを押す。
瞬間、それまで前輪を支えていたカウルが勢いよく開き、その中に収納されていた6本の剣が出現する。
そのうちの1本を取りだし、一番接近して来ていたモンスターの胴体を両断した。
体を真っ二つにされた獣は、断末魔の吼え声を上げながら黒い煙となって霧散した。
が、その頃には既に20体を超えるモンスターに囲まれてしまっていた。
彼らは全速力で悪路を走るクラウドと並ぶように走り、機会を捉えては跳びかかるという戦法を繰り返す。
その度にクラウドは剣を一閃させて返り討ちにするが、
いかんせん思い剣を振りまわしながら片手で、しかも悪路の上でバイクを駆っていては不利だった。
たまらず岩山地帯から離れ、もとの平坦な荒野へと戻る。

それを見計らっていたように、バイクの2人組が急接近して来た。


2台の大型バイクはクラウドの後方2,30メートルにまで接近する。
クラウドはまだ、彼等が呼び出したモンスターに気を取られている。
それを認めたヤズーとロッズは、またも不敵に笑って顔を見合わせると、更に加速。
モンスターの群れを縫う様にすり抜け、あっという間にクラウドと並ぶ形になった。

271:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 02:00:38 XD0xXPCT

まずい。
クラウドの今の心情を表現するとしたなら、この一言だった。
尋常ではない殺気を放つ2人組に追いまわされ、逃げきれたと思ったところへ間が悪い事にモンスターの群れが襲来し、
それに乗じて謎の追手は完全に追いついてきた。すぐ近くまで来ている。
そう、その声が聞こえるほど、近くに。

「母さんはどこだぁ?」
謎の襲撃者の片割れがクラウドの隣まで来て並走し始めた時、はっきりとそう問いかけてくるのが聞こえた。
重く低い、どこかで聞いたことがあるような声だ。
見ると、バイクに乗っているのは屈強な体つきの男で、左腕に鍵爪のような武器―スタンクロー―を装着している。
彼がその左腕を振り上げると同時に剣で防御体勢をとり、クローの一撃を受け止める。
剣と爪とが触れ合って火花を散らし、クラウドは振り払うように剣を一閃させて引き離す。
と、同時に、逆の方向からもう一人が大型の短銃―ナイトメア―で銃撃してきた。
今度はバイクの車体を倒してなんとか回避するが、その隙に更に接近される。
「兄さんが隠してるんだろ?」
語りかけてくる。
先程の声と比べて、こちらは冷たく、鋭い。だがやはり何処かで聞いたような気がする声だ。
銃を持った追手は、クラウドが車体を起こしたところを狙って銃身で殴りつけてくる。
クラウドは剣で受け止めるが、爪を装着したほうの追手が逆側から迫って来た。
挟み撃ちの状態から脱け出すため、一瞬だけ減速する。
こうすることで2人からの攻撃は回避できたが、今度はモンスターが攻撃してくる。
クラウドが跳びかかってくる獣を斬り捨てる間に、またも2人の追手が彼に並んだ。

彼らの戦いを、カダ―ジュは丘の上から見物していた。
彼はしばらくの間楽しそうに荒野の追走劇を眺めていたが、やがて手に持っていた携帯で誰かを呼び出し始めた。
「ああ、あんたか。いきなりごめんね。ちょっと話したい事があるんだけどさぁ」
相手に繋がるや否や、勢いよく話し出す。
「彼、なんだか母さんのことを知っすらいなさそうなんだけど、どういうことかな?」

272:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 02:02:06 XD0xXPCT

「もしかして…僕を騙した?」
相変わらず悠然と戦いの様子を並べながら、カダージュは会話を続ける。
「やっぱり母さんはそっちなんだろう?」
バイクから降り、落ちつかなげに辺りをうろうろ歩き回りながら言う。
「怒鳴るなよぉ」
立てかけたバイクに寄りかかりながら、茶化すように言う。
「あんたとは話したくない。…社長に代わって」
暫しの沈黙。
「…社長?これ、どういうことなのか説明してもらいたいなぁ」
危険なほど甘い笑みを浮かべながら、脅しをきかせる響きを伴って言い放つと、また荒野の方に目をやる。
まだ戦いが続いていた。

もう何度目かわからないクローの一撃を、クラウドは相変わらず剣で受け止める。
しかし、その拍子に、ハンドルを握る左腕に激痛が走った。
その痛みは頭にも及び、偏頭痛のような感覚に一瞬目が廻る。
一年と半年以上、彼をずっと苛み、苦しめつづけてきた苦痛だった。
焼石が冷めるのを待たず、ロッズはスタンクローを器用に剣に引っ掻け、
クラウドの握力が落ちていた一瞬の内に、彼のファースト剣を投げ飛ばしてしまった。
すかさずヤズーが逆側から接近し、車体を叩きつけてバイク同士を密着させる。ロッズも同じようにしていた。
これでクラウドから全ての反撃の手段が奪われた。
剣は失われ、バイクは挟まれて身動きが取れない。さらに40匹以上のモンスターが周囲を並走している。
そしてヤズーが勝ち誇った表情で鼻を鳴らし、短銃をクラウドの側頭部につきつけた時、
――彼等を取り囲んでいたモンスターの群れが、一瞬にして消え去った。
それを見たロッズはまたも笑いながらクラウドから離れ、ヤズーもロッズに一拍遅れて去っていった。
カダージュがモンスターを消し去り、2人に引き上げの合図を出したのだった。

クラウドはバイクを停め、彼らが去っていったほうを呆然と眺めていた。
あれほど執念深く追って来たと思ったら、いきなり退いていった。
…レノからの電話と関係があるのだろうか?
ぼんやりと思考をめぐらす。そうだ。あいつから何か聞き出せるかもしれない。
そう考えたクラウドは、地面に投げ捨てられた剣を探し出し、回収してから、彼が待つというヒーリンへ急いだ。

273:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 02:03:33 XD0xXPCT
>>271
×「彼、なんだか母さんのことを知っすらいなさそうなんだけど、どういうことかな?」
○「彼、なんだか母さんのことを知ってすらいなさそうなんだけど、どういうことかな?」

274:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 02:05:35 Yyy4taEY
乙。
限られてるのかどうかわかんないけど、
戦闘描写いいと思う。

275:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 12:00:33 wrfmIzWB
発売されて間もないACを早くもノベライズって、
未プレイの人も多くいる掲示板でする事じゃないだろ。

276:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 12:49:52 WXrIn5eQ
>>275
未プレイっていってもACはゲームじゃなくてムービーらしいから、
別にいいんじゃないかな。


277:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 23:00:36 XD0xXPCT
間もないっていってもかれこれもう1ヶ月たってるし
そりゃゲームが発売されてから1ヶ月じゃ短いかもしれないけど
ACみたいな正味一時間半のDVDとなるとそれほどでもないんじゃないかな

そもそもネタバレを嫌うなら読まなければいいだけの話だし
意識して読もうとしないかぎり「見る前から展開わかっちゃった」なことはありえない

な考え方で書いてますが、やはりダメでしょうか…?

278:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 23:42:47 yQUTWMHN
とりあえずタイトルを書けば安心じゃない?

279:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/15 00:44:19 WSzXIGBq
>>297
短編というかまんま本編クオリティだな・・。
でも流石に七歳のガキが騎士団長に任命ってのは話出来過ぎな希ガス。
そこがいいのか?

280:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/15 01:46:44 JkQiyRfG
任命はされて無いだろ。

281:433
05/10/15 15:42:53 XLUwwu+Y
読んでいる方々を不愉快にするものを投下してしまったことをお詫びいたします。
前スレ627様、お気遣いありがとうございました(わざわざ出てきてくださってすみません…)。
既に新しいスレになって話も盛り上がっている中、
こんな遅いレスをして申し訳ありません。
失礼します。

282:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/15 22:27:03 WSzXIGBq
>>280
そうだな、すまん。
ところで、こういうのを短編として扱っていいのかって話だったみたいだけど、(>>215
この作品に限って言えば、サイドストーリー扱いにして本編に組み込んじゃった方がいいと思う。
FF4ノベラの「継承者の旅立ち」みたいな感じに。
時代背景とかの設定がしっかりしすぎてるから、なんつうかもったいない。

・・と感じたんだが、どうだろう。


>>433氏、おかえりー。何気に続き待ってるよ。

283:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/15 23:24:23 pLHJ2VgK
>>433
>読んでいる方々を不愉快
過去ログちょっと読み返したけどけど(管理人さん乙)、
不愉快に思ってた人はせいぜい一人か二人じゃないかな?
他の人は支持してたじゃん。
てか人減っちゃったかな。

284:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/16 21:53:22 RWpoE9eI

ピー。
「おう、バレットだ!
 俺はやったぞ!新しい油田だ!ゆ・で・んー!すげえデカイやつだ!
 でなあ、帰る目処がついたんで、マリンに会いに行くからな!伝えとけよ!じゃあな!!」

バレットの声はいつ聞いてもうるさい。
が、いつでも力強い声だった。
あいつが荒廃したミッドガルから旅出ったのは、あの戦いが終わってからしばらくのことだったか。
その時も、どこまでも強い声だったな。
バイクに乗りながら携帯から聞こえる声を聞いている時、クラウドはそんなことを呟いた。
もちろん、携帯は簡易留守録モードのままなので、その声にクラウドは応えない。
謎の二人組に襲われてすでに数時間ほどたっていた。時計は見ていないが、おそらく正午ごろだろう。
クラウドはヒーリンに来ていた。
車道の左右には木々が生い茂り、淡い川が静かに流れている。
確かに、ゆっくり暮らすにはこんなところもいいだろうなと、思った。
その時、また電話がかかってきた。ティファからだ。

「レノからまた電話です。とにかく急いでくれだって。
 なんだか様子が変だったけど…気をつけてね」

通話が切れる頃には、クラウドは森の中心に一つだけ建てられている建物の前に停車していた。
壁に他でもない神羅カンパニーのロゴがペイントされている。わかりやすい目印だ。
神羅カンパニー。2年前まで世界のほぼ全てを掌握し、
同時に星の生命を削り、世界が荒廃する原因を作った超巨大企業。
現在はその事業を復興支援に絞り、それによって神羅を頼りにしている人間は未だに多いらしい。
ミッドガルを囲むようにして建設されている復興都市エッジは神羅の援助による部分が大半を占めているし、
そのエッジには神羅が建立した記念碑まであるほどだ。
しかし、その神羅が何故今になってこちらと接触しようとするのか解せない。
しかもクラウド達とは2年前には敵対していた関係だったというのに。
だが、なんにせよ、あの謎の襲撃者について、神羅の人間であるレノから聞き出せそうな情報は山ほどありそうだ。
クラウドは頭の中でそう呟き、後腰の皮製の鞘から剣を抜きながら、ドアを開けた。

285:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/16 21:55:01 RWpoE9eI

剣を手に持った状態でドアを開けたのが正しい判断だったとわかったのは、それから約1・5秒後だった。
ドアのすぐ向こうにレノその人が待ち構えており、挨拶代わりに金属製の警棒を振り下ろしてきたのだ。
クラウドは剣で受け止め、甲高い金属音が響いた。
レノは一度じりっと後ずさりすると、「うぉりゃ~」と少し間抜けな声を上げて突進する。
身をかわすクラウド。止まりきれず、山荘の外へと出ていってしまうレノ。
彼が「あっ」とまたも間抜けな声を出して走り寄ろうとする前に、クラウドはドアを閉めた。
部屋の中を見渡す。壁に神羅のロゴが飾られている以外は、特に何も無い。

「さすがだぞ、と」
ドアの外から、レノ。
「俺に何の用だ?」
ドアの鍵を閉めながら、クラウド。
「あ、おい、閉めるなよ。…仕事の依頼だぞ、と」
「仕事だと?俺に?
 それより、俺を襲った奴らはなんだ?」
レノが答える前に、部屋の別のドアが荒々しく開かれた。
その向こうから、ゴツ、ゴツ、と大袈裟な足音を立てて誰かが現れる。
大柄な体をレノと同じ紺のスーツに身を包み、サングラスをどんな時でも外さないスキンヘッドの男。ルードだ。
「ルードぉ、カッコいい!」
ドアを隔ててレノがはやしたてた。睨み合うクラウドとルード。
出し抜けに、ルードが袖に仕込んだ警棒を素早く取り出す。しかしクラウドはもっと速い。
彼が警棒を振り上げようとした時には、剣の切っ先がその頚に突きつけられていた。
またしばらく硬直した後、ルードは曖昧な唸り声を上げて後ろに下がった。
「さすがだ、自称元ソルジャー」
ルードが現れたドアの方向から、感嘆したような声が聞こえた。
見ると、電気式車椅子に座った男が部屋に入り、クラウドと向き合って止まった。ルードがその脇に控える。
「腕は鈍っていないようだな」
車椅子に座った男は、白いスーツに身を包み、さらに右手と顔の右下以外を白い布ですっぽりと覆っていた。
手首の辺りに火傷のような傷があり、露出した右頬はケロイド状に歪んでいたが、クラウドはその人物に見覚えがあった。
「ルーファウス…なのか?」
そこにいたのは2年前に死んだはずの人物、ルーファウス神羅だった。

286:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/16 21:57:05 RWpoE9eI

「まだ神羅の社長をやってるのか?」
「まあそんなところだな」
ルーファウスの答えは淡々としている。
「あの日私は…」
少し沈黙した後、再び口を開く。
「俺になんの用だ」
レノにぶつけたのと同じ質問をするクラウド。
「ビルが崩れ落ちる直前に…」
無視するルーファウス。
「俺を襲った奴らは?」
また訊く。これも先程レノに訊こうとした事だ。
「なんとか…」「帰るぞ」
無視しようとするルーファウスに、クラウドはピシャリと言い放った。またも沈黙。

「…おまえの力を貸して欲しい」
暫くして、ルーファウスは単刀直入に言う。
「興味無いね」
下らない、とばかりに吐き捨てるクラウド。
「我ら神羅カンパニーは、世界に対して大きな借りがある」
少し声を大きくして、ルーファウスは遮るように言う。
「世界をこのような惨めな状態にした責任は、我々にあるといっても過言ではない。
 よって、この負債はなんとしても返さねばならんのだ」
事実だ。もうクラウドも遮ろうとせず、静かに聞いている。
「その第一歩として、我々はセフィロスが残した影響の調査を始めた」
「北の大空洞だぞ、と」
レノが外から口を挟んだが、全員が無視した。
「何があったと思う?…何も、何も無かった。安心していい。しかし予期せぬ事が起こった」
続ける。クラウドは話がだんだん核心に迫っているのを感じた。
「邪魔が入ったのだ。…お前を襲った奴ら…カダ―ジュの一味だ」
「カダ―ジュ…」
ルーファウスが告げた敵の名前を、クラウドは復唱した。

287:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/16 21:59:01 RWpoE9eI

「我々の計画を邪魔するのが目的らしい。
 まったく…わけがわからん」
右手の爪で車椅子の手すりをコツコツと叩き、お手上げだと言う風に言った。
「…どうして俺が襲われるんだ?」
「お前俺達の仲間だろ?」
クラウドが訊くとレノがまた口を挟む。
ふざけるな。お前らとつるんだ覚えはない。クラウドはステンレス製のドアをしたたかに蹴って黙らせた。
「…カダージュ達は若く凶暴だ。危険極まりない」
レノの声とドアが蹴られる音が全く聞こえなかったかのように、ルーファウスは話しつづける。
「そこで我々は、腕の立つボディーガードを雇おうという結論に達した」
「俺の仕事は荷物の配達だ」
「おまえしかいない」
お断りだとばかり返答するクラウドに、ルーファウスがすかさず続ける。
「頼む。元ソルジャー、クラウド」
「…自称な」
冷たく言い捨て、ドアへと引き帰すクラウド。だが、鍵を開け、ドアノブに手をかけた時、別の事が頭に浮かんだ。
それは、襲撃を受けている最中に聞いた言葉。
「”母さん”って…なんのことだ?」

「カダ―ジュが何か言ったのか?」
ルーファウスの返答は笑い混じりだった。
「まあ気にするな。こんな世の中だ。母親を恋しがっている子供は沢山いるさ」
言ってからルーファウスは、クラウドを別な方向から引きこもうとした。
「おまえは孤児達と済んでいるそうだな」
これは確かに効いたようだ。クラウドはドアノブから手を放した。
「…その子たちに、笑顔を取り戻してやりたくはないか?」 畳みかけるように、続ける。
「我々の最終目的は、世界の再建だ。クラウド」
右腕を宙に泳がしながら締めくくるルーファウス。傍らでは、ルードが相槌を打つように頷いている。
ルーファウスのこの説得は、確かに効き目があった。あと一押しだ。ルーファウスはそう思った。
クラウドはルーファウスに向き直り、「俺は…」と何かをいいかけた時に、レノがまた口を挟んだ。
「頼むクラウド。神羅カンパニーの再建だぞ、と」

288:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/16 22:00:00 RWpoE9eI

レノのこの余計な一言で、クラウドは全ての興味を失ったようだった。
彼は「興味ないね」と冷たく言い残すと、ドアを蹴り開けてさっさと行ってしまった。
「「レノ!」」
ルーファウスとルードが、同時に鋭く声を上げるが、ドアは重い音を立てて閉まってしまった。
その後部屋に残された二人が聞いたのは、
レノがクラウドを引きとめようとする声、彼が派手に殴り飛ばされる音、遠ざかって行くバイクのエンジン音だった。

暫くして、左頬をしたたかに殴られたレノが、顔を押さえながら入ってきた。
「…この、馬鹿が」
痛そうな表情をしているレノを、ルーファウスは冷たくなじった。
「すまねえ、社長」
「…まあいい、どの道、真実を教えないまま奴を味方にするのは難しかった」
車椅子を回転させ、窓辺に移動させながら、ルーファウス。
「しかし少しまずいな…これでは奴が来た時にどうしようもないぞ」
言って、小気味よく細い窓から外の風景を眺める。
実を言うと、クラウドにルーファウスが言った事の半分ほどは、真っ赤な大嘘だ。
彼らがカダ―ジュに襲われるには立派すぎるほど立派な理由があった。
大空洞を調査して何も見つからなかったと言うのも嘘。カダ―ジュ達の言う「母さん」の正体も知っている。
ついでに言えば、クラウドがカダ―ジュ達に襲撃されたのも、ほとんど彼らのせいだ。
カダ―ジュ達はここに来た事がある。
その際に、カダ―ジュ達が探している「母さん」はクラウドに預けた、と、その場凌ぎの言い逃れをしたのだ。
もう一度彼らが現れた時のために、クラウドを味方に引きこんで盾にしようとしたのだが、
その企みはたった今失敗した。

ルーファウスは黙ったまま外を眺めていたが、やがて、あるものがこちらに近づいてくるのを見て、ため息をついた。
「噂をすれば影だ。来たぞ」

289:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 22:02:49 RWpoE9eI
>>278
そうですね。
これからは名前欄にタイトルを入れておきます。

まだACを未見の人、読みたくない人は、NGワードに「AD」と登録してください。

290:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/17 21:21:21 bXeLW/LR
また6ノベライズスレが落ちた……

291:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/17 21:25:36 eKjM0P3Q
うわ、すごい!
05/10/17(月) 21:21:21 ID:bXeLW/LR!
キリ番みたいだ!そしてエルアール。

292:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/17 21:28:41 QbFcxRu7
どうでもよすぎてワロス。
しかしほんとに職人さんたち減って来たな。
最近頻繁なACの人には是非頑張っていただきたい。

>>433氏、続き楽しみにしてますよ。4、5書きの人たちも。

293:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/17 21:34:09 eKjM0P3Q
すんません、一人で盛り上がって。
たしかにどうでもよすぎるな。

ところで、433氏の書き込み、もう書き込まない」って言う意味なのかと
思ってた。違うんだ?
それならよかったよ。

294:299
05/10/18 00:57:57 bDM7GAlx
FINAL FANTASY IV #0241 4章 3節 山間(26)

「じゃあ、いくわよ?」
「おう。まかせとけ」
どんっと胸を叩き高らかに宣言する。その態度はついさっきまで怪我を負っていた人間には思えない。
(二人とも何をするつもりなんだ?)
この兄弟の事だ。なにやら尋常でない事を企んでるかのようであるが……
「何処を見ておる!」
だが、考える間もなく背後からアンデット達が襲いかかってきた。
慌てて振り返り、攻撃を受け止める。
「テラ! ちょっといいか?」
セシルは傍らで魔法を撃ち込み続けるテラを見やる。
「何じゃ! こんな時に?」
追いつめられたせいかその声は少しばかり怒りがちであった。
この状況に少なくとも危機感を抱いているのであろう。
「パロムとポロムに何か策が有るようなんだ」
「何じゃと! 本当か?」
「うん。だから、僕たちに時間を稼いで欲しいらしいんだ」
「よしっ! そう言うことなら任せておけ」
途端、元気を取り戻したかのように声を張り上げ、今まで
以上に激しく魔法を連打する。
「ちょっと、テラ。これは―」
だが、セシルの問いも爆音とテラの叫びに空しくかき消される。
「はははは。撃って撃って撃ちまくるぞ。どうじぁああーーーー」
「…………」
その威勢よさにセシルは見つめることしかできなかった。

295:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/18 00:59:14 bDM7GAlx
FINAL FANTASY IV #0242 4章 3節 山間(27)

「む、むう……」
だが、一見してがむしゃらな攻撃であるが、意外に効果があったようだ。
スカルミリョーネはこ少なからず戸惑い、どうアンデット達に
指示を仰げばいいかを悩んでいる。
(チャンスだ!)
意外ではあったが、この機会を逃すわけにはいかないだろう。
そう思い、セシルは背後の二人を見やった。
「!」
背後にいる二人の様子にセシルは驚きを隠せなかった。
二人はなにやら、声を合わせ、何かを呟いている。
「あれが、とっておきの策……」
「おいっ! セシル。手伝わんか」
テラの叱咤が、セシルを現実へと引き戻す。まだ戦いは続いている。
「分かってます」
あれだけの魔法を一気に撃ち込んだにもかかわらず、アンデット達はさしてダメージを受けた様子は
無かった。
「今度はお前の暗黒を打ち込め。何としても近づけさせるな!」
言いも終わらぬ内に魔法を打ち始める。セシルもそれに従う。
炎と黒い衝撃が何度もアンデット達の行く手を阻むかのように襲いかかる。
しかし、すでに生なき彼らはその倒れてもなお此方への侵攻を止めようとはしない。
「何を思ったのかは知らんが、とうとう自暴自棄に陥ったか。いいだろう……もうそろそろ
終わりにしてやるか」
そう言って一息つき、新たな指令を出そうとしたスカルミリョーネの動きが突如止まった。

296:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/18 01:02:00 bDM7GAlx
FINAL FANTASY IV #0243 4章 3節 山間(28)

「何だこの揺れは……」
地面が揺れている。最初は錯覚に思えたが、直ぐにそれが真実だと気づく。
そして、セシル達にも揺れは伝わった。
揺れは、どんどんと強くなり、やがては立っていることすらも困難になる。
さすがのアンデット達もこれには侵攻を一時止めるしかなかった。
「これは……」
後ろを振り向くと詠唱を続ける二人を中心に白い光が輝いていた。
さらに二人を守るかのように強風は吹き付け、誰も近づく事ができない。
「あの子ども達か! 全く、やりおるわい」
強風と揺れから体を守りつつ、テラはまるで自分の子供を見るかのような口調で言う。
「よしっ、一気にいけ!」
「ああ」
「はい」
二人は重なるかのような声を返した。そして―
轟音が響き、急に辺りを大きな影が覆った。
「上だ!」
空を見上げたセシルは思わず目を丸くせざるを得なかった。
小ぶりであるが岩石が今まさに降り注ごうとしていた。それも一つだけでなく、同じくらい大きさの
ものが連続してだ。

297:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/18 01:02:42 bDM7GAlx
FINAL FANTASY IV #0244 4章 3節 山間(29)

「まずい離れないと。このままでは僕たちまで巻き込まれてしまう」
立ちつくすテラの腕を反射的に引き、慌てて近くの岩陰まで走る。
「この辺りなら大丈夫だろう。テラ……」
振り返った先にあるテラの顔は何か信じられないものを見たような表情であった。
「これはメテオ……」
「え!」
その言葉につられるかのように、セシルは今目前で繰り広げられている光景を顧みる。
「否、断言するには早計すぎるだろう。だが、完全な形ではないにしろ間違いなくメテオ
又はそれに近いものであろう」
「そうなのか……」
ミシディアから一緒にこの山を共にしてから幾度と無く二人には助けられた。
その戦果は長老に紹介された時点での第一印象を払符する為には充分すぎるといってよいものであった。
だが、それでもセシルは二人に対し何処か子どもだからという認識があった。まさかここまで力を隠し持って
いようとは予想だにしなかった。
「全く持って……末恐ろしい子ども達だ」
苦笑混じりについそんな言葉が口からこぼれた。

298:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/18 01:03:31 bDM7GAlx
FINAL FANTASY IV #0245 4章 3節 山間(30)

降り注いだ岩石は巨大な音と共に、その場にいたアンデット達もろとも地面を穿ち、
窪んだクレーターが幾つも残すだけとなった。
「お……の…れぇぇ……!」
アンデットを残さず倒されたスカルミリョーネはローブに付着した土を払いつつ、
全身をわなわなと振るわせ、怒りを露わにしている。
「さあて、残ったのはあんただけだぜ」
「形勢逆転ですわね」
「かくしてはこの私が相手をしてやろう。今のお前らなど!」
ふらりといった様子で一歩ずつ歩み寄る。
「私だけでも十分だ!」
そう言った後、二人に向けて呪文を放つ。
普段の二人ならば容易く避けるだろうが、先程の呪文が相当に
体力を消耗させたようだ。
何とか攻撃を避けるものの、いずれは限界がくるだろう。
顔からは疲れが見て取れる。
「セシル! 助けるぞ」
テラが岩陰から飛び出した。次いで、セシルは剣を抜き、勢いよく前に躍り出る。
「まだ、私達がいるぞ」
「終わりだ」
テラの放った魔法に続けるかのように距離を縮め、一気に剣を振るう。
確かな手応えがある。
「くっ! 体が崩れていく」
呻きを上げるとスケルミリョーネはがっくりと崩れ去るように地面に伏した。
そのまま黒い液体を体中から噴出し、二度と起きあがることはなかった。

299:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/18 01:05:20 bDM7GAlx
FINAL FANTASY IV #0246 4章 3節 山間(31)

「終わったのか?」
数秒間、液体、おそらくは血を流し続けて地面に転がるスカルミリョーネを見ていたセシルであったが、
その奇妙な姿に今だ勝利を確信できず、ついそんな疑問を口からこぼす。
だが、その様子からはもう生きてはいないという結論に達し、納得するかのように剣を納める。
「取りあえずは退けたのか……」
テラも少し疑念を抱いているかのような口調であった。
「ま、いいじゃねえか。そんなに深く考えなくてもさきっと大丈夫さ」
そう言った後、行く先に見える建物を指さす。
「ほらあれがパラディンの試練を受ける所だろ。ささっといかないと日が暮れちまうぜ」
指さす方向には確かに何かの建物が見えた。特殊な材質で作られたかの様な外装は既に傾きつつある
太陽の日を直に受け光り輝いていた。
あれが試練の間……あそこに行けば今の自分とも決別できるのか。
この忌まわしき暗黒騎士の烙印そして、崩れてしまった友や愛する者との関係も。
「そうすれば君ともお別れか」
セシルは先程まで身を友にした剣に目を落とした。
戦いが終わってまだ少ししかたってない為か、鞘に納められた今でも黒き波動を微量ながら漏らしている。
「感傷に浸るのはもうちょっとばかり後だ。早く行こうぜ」
セシルを現実に引き戻したのは背中を押しながら催促する様な声を上げるパロムだ。
「分かった」
もう少しだけ一緒に戦おう。剣を見てそう誓うとセシルは皆の待つ場所へと―
「!」
歩き出そうとしたところで後ろから何かの気配を感じ振り返る。
だが、そこには二人の魔法で削れた地面が広がっているだけであった。
「どうしました?」
少しばかり心配した様子でポロムが顔を覗き込むかのように訪ねる。
「いや、何でもないよ。先を急ごうか」
確かに何かの気配を感じたような気がした。唯の思い過ごしであればよいのだが……
そんな嫌な考えを払うかのように、セシルは歩き出した。

300:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/18 01:25:42 b47JAJXc
>>299氏GJ!
スカルミリョーネ復活クルー((((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
どんな描写になるのか楽しみ。

301:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/18 01:35:28 NJrkhVRV
acの人も299も乙


302:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/18 01:48:10 vMEoVWVD

ティファとマリンはミッドガル5番街スラム跡地にある、もとは教会だった廃墟を訪れていた。
星痕に苦しむデンゼルを置いてくるのは気が引けたが、ティファにはどうしてもここで確かめたい事があった。
マリンはというと、教会の奥のほうにある花畑に嬉しそうに走りよっていった。
スラム街の跡地にある花畑。それがこの教会を、特別な場所にしている由縁だった。
ミッドガルのやせ細った大地に、10年以上も前から花が咲いていると言う事自体がすでにこの上なく珍しいことだ。
それに、2年前のあの日、メテオの直撃でミッドガルが崩壊した時も、この花畑は生き延びていた。
しかし、復興に奔る人々の目には、この小さな奇跡は映っていない。
ティファ自身、この教会に来たのはほぼ2年ぶりだった。

ティファはざっと教会の中を見渡し、探していたものをすぐに見つけた。
それは、花畑の傍らに散らばっている、人がそこで寝起きしたという痕跡。
それは、自分達の許を去ったクラウドがここを寝床にしていたという痕跡。
クラウドがここに来ていると、ティファは以前から人づてに聞いていた。
でも、こんなに近くにいただなんて、思いもしなかった。
ティファがそれに歩み寄ると、マリンもついてきた。
「クラウドはここに住んでるの?」
彼女もティファと同じ事を考えたらしい。
「そう…みたい、だね」
しかしティファは、これがとても「住んでいる」とは言えなかった。
荒れた床に、申し訳程度に敷かれた寝藁。小奇麗に巻かれた寝袋。
その傍らには金属製の箱―中身は恐らく、彼がユフィから預かったマテリアだろう。
マリンが箱を指差して「何?」と訊いたが、ティファは曖昧に微笑んで開けさせなかった―と、
これまた申し訳程度に置かれた木箱。その上には欠けた食器が数個置かれていた。
ここに垣間見られる、クラウドの素朴で孤独な暮らしを思うと、ティファは胸が痛くなった。

しかも、それだけではなかった。
マリンが、木箱の近くに落ちていた、使い古された包帯を見つけたからだ。
「デンゼルと同じ!クラウドも病気なの?」
黒い膿の跡が残された包帯を見て、マリンが叫ぶ。
それは、紛れもなく、クラウドが星痕症候群に冒されている証拠だった。

303:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/18 01:49:45 vMEoVWVD

「言ってくれればいいのに…」
不安げなマリンの視線を受け止めながら、ティファは切なげにそれだけ言う。
これについても、なんとなく察しはついていた。
言ってさえくれれば、私やマリンが支えられたのに。
なのに、クラウドは独りで重病を患った体を引きずって出ていってしまった…
「病気だから、出ていったの?」
そう訊いてくるマリンの声は、どうしようもなく悲しそうだった。
「ひとりで、戦う気なんだよ…」
「戦う?」「違う」
ティファは曖昧な答えをマリンに返したが、すぐに訂正する。
あることに思い至ったからだ。
「戦う気なんか無いんだ…」
彼は戦っているのではない。逃げているのだ。

「…ティファ?」
ふとティファが我に返ると、マリンが心配そうに見ていた。
そんな彼女に、ティファは無理に明るい笑顔を作り、言った。
「マリン、帰ろう?」
「やだ!クラウドに会いたい!」
しかし、少女は拗ねるように言った。
そう、マリンもまた、ティファやデンゼルと同じように、押しつぶされそうな毎日に耐えているのだ。
ティファはそれをまた切なく思って、「そうだよね…」と頭を垂れた。
「…会いたいよね?」「うん」
帰ってきたのは、どこまでも素直な声。
「ね、会ったらどうしようか?」
私が弱気じゃいけない。そう思ったティファは、また笑顔を作って、明るい話題を振った。
「一緒に帰る!」「その前に」
ティファはいたずらっぽく微笑んだ。
「お説教だね」
「賛成!」
マリンの朗らかな声が、辺りに響いた。

304:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/18 01:51:21 vMEoVWVD

カダージュはドアを荒々しく開けると、正面に待ち構えていたレノを蹴り飛ばした。
レノはそのままもんどりって反対側の壁に激突し、苦しげに呻いた。
部屋に入る。瞬間、真横から大男が肉薄してくる。ルード。
しかしカダージュは彼のほうを見ようともせず、こともなげに右腕を伸ばし、彼の頭を鷲掴みにした。
ルードはその腕を払いのけようとしたが、出来なかった。
彼の頭を掴んだ右手に、とんでもない握力が加わったからだ。
頭蓋骨が砕けるのではないかと思われるほどの圧力。ちなみに、カダージュは左利きだ。
苦痛を訴えるルードの声が次第に甲高くなり、サングラスにヒビが入った頃、レノの真上へその巨体を投げ捨てる。
そして、部屋の中央で、微動だにせず鎮座していたルーファウスに向き直った。

「ウソは嫌いだな」
甘く、シニカルな声。しかしどこまでも危険な声。
「悪かった。今度こそ正直に話そう」
赤子の手を捻るかのごとく倒されたタークスの二人のほうをみながら、ルーファウス。
「あれはお前達から逃げる途中、ヘリから落としたらしい。…全く…間の抜けた話だ。」
「 本 当 に ? 」
声色に脅しをきかせるカダージュ。
「…誓って」
即座に、ルーファウスが答える。
「じゃあ、これに誓ってよ」
言うとカダージュは、ルーファウスに背を向け、ある物を彼に投げ渡した。
足下に落ちたものを見た瞬間、布の下で無表情を決めこんでいたルーファウスの顔が、怒りで僅かにひきつる。
それは、レノとルード以外の、あと2人のタークスの、血に染まったIDカードだった。
「…目的はなんだ?」声を少し太くして、ルーファウス。
「母さんの力が必要なんだ…」彼に背を向けたまま、カダージュ。
「リユニオンには、どーしても」
「リユニオン…」
ルーファウスが復唱する。
リユニオン(再結合)。それは人間に、いやこの星にとって最も忌むべき言葉の一つ。
遥か昔に空からきた厄災、その最も象徴的な言葉だ。

305:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/18 01:58:16 vMEoVWVD

「母さんの細胞を貰った仲間が一箇所に集まるんだ。そして星に復讐するんだよ」
うろうろとルーファウスの前を右往左往しながら、カダージュは週末の楽しい計画でも話すようだった。
「準備は着々と進んでるけど…ほら、誰かさんが母さんを隠しちゃったからさぁ」
一旦言葉を切り、まだ動けないでいるレノとルードに目をやる。
「準備だと?」
ルーファウスはカダージュの言葉の端を鋭く取り上げる。彼らの目的をさらに深く知るためだ。
「星痕…社長もよく知ってるよね?」
カダージュは短く答えて、ルーファウスの右腕に軽く手を添える。それだけで彼は腕に激痛を感じた。
クラウドが火傷だと思った右腕の痣は、実は火傷ではない。
ルーファウスもまた、星痕を抱えていたのだった。
「ライフストリームの中で、母さんの遺伝子念が頑張ってるおかげなんだ」
誇らしげに語るカダージュ。しかし、ここから先はその声が少し震えた。
「それなのに…それなのに僕達は母さんの居場所すら知らない」
嘆くカダージュを見据え、ルーファウスはまだ痛みの残る右手の指がピクリと動くのを押さえられなかった。
―おまえの目は節穴か。馬鹿め―
カダージュのこの一言の面白さときたら、無表情を保ちつづけるのが大変だったほどだ。
だが、幸いにもそのどれにも彼は気がつかなかったようだ。
「情けないけど、仕方がないんだよ。僕達は思念体だからさぁ。
 母さんを見つけて細胞をわけてもらわない限り、元通りにはなれない」
ルーファウスの眼前に詰め寄り、続ける。
「思念と星痕だけじゃたりないんだ。本当の、リユニオンにはね」
話がすこしばかり飛躍し過ぎて、、ルーファウスは混乱した。
思念体とは?本当のリユニオンとはなんだ?お前達は何を企んでいる?
「…なんの話だ」
もっと深い所へ話を持って行こうと、ルーファウスが訊いた。

306:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/18 01:59:16 vMEoVWVD

すると、一瞬だけ、本当に一瞬だけ、それまでカダージュの顔に張りついていた甘い笑顔の仮面が剥がれた。
そこにあったのは凶暴性を向き出しにした顔。世界の全てを憎んでいるような、邪悪な顔。
「社長…気づいてるんだろ?」
言うと、彼は突然ルーファウスの目の前に跪いた。まるで忠誠を誓う騎士の様に。
そして、視線を上目使いでルーファウスと目を合わす。その時、ルーファウスは彼の目が、なぜか蒼色に見えた。
瞬間、ルーファウスは右腕に、先ほどとは比較にならない痛みを感じた。
同時に、こちらを見るカダージュの顔が、彼以外の誰かの顔の面影と重なる。
長い銀髪、冷たく蒼い、刺すような眼。それは紛れもなく――

ドスッ。
クラウドは、倒されていたザックスの墓標を地面に刺しなおした。
「お前の分まで生きよう。そう決めたんだけどな」
そして、彼の形見のバスターソードに、誰にも聞かれない呟きを漏らした。いつものことだった。
もう、俺は長くないかもしれない。
そんなことをぼんやりと考え始めたのは、どのくらい前からだったか。
左腕を蝕む星痕は日に日に大きくなっていくし、それに伴って心はだんだん空虚になっていく。
もう1年と半年以上もみんなには会ってない。このまま死んで霧のように消えてしまうのも、それはそれでいいかもな。
最近では、そんな自虐的な考えも芽生え始めた。
自分勝手なのはわかっていた。だが、彼は今更どうすればいいのかわからなかった。
着実に体を蝕む不治の病、2年近くも絶縁状態になっている仲間、かつての罪。
彼もまた、苦しんでいた。

307:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/18 02:00:31 vMEoVWVD

ふと、目を閉じ、旧友との思い出に思考を巡らせる。
ザックス。クラウドが神羅カンパニーの兵士だった頃に、唯一人、親友と呼べた人物。
(ソルジャーになりたい?がんばれよ!)
力強く励ましてくれた、彼の横顔が目に浮かぶ。
(おい、気分はどうだ?)
…これは輸送トラックの中で乗り物酔いした時だったか。
(なあ、ミッドガルについたら…)
この時、奇妙な事が起こった。
思い出に浸っているクラウドの脳裏に、なにか、全く知らない映像が割り込んできたのだ。
誰かが眼前に跪き、上目使いでこちらを見ている。淡いグリーンのその人物の瞳が、次の瞬間、深い蒼色に変わった。
(トモダチ、だろ?)
ザックスの思い出と謎のヴィジョンがごちゃ混ぜになる。
左腕が灼けるように痛む。足がふらつく。なんとか立っていようとする。無駄な努力に終わった。
見知らぬ誰かの顔が他の誰かの顔と重なる。それは忘れもしない、あいつの顔。
―セフィ(クラウド、逃げろ!)
ザックスの叫び声が脳内に響く。クラウドは目を開けた。天地が逆転していた。
その風景を見たのを最後に、頭の中が真っ白になった。

同じ頃。
マリンは上機嫌で、鼻歌を歌いながら花をいじっていた。
ティファの方は少し不機嫌で、壁に寄りかかって腕を組んでいた。
教会を訪れてから早一時間。クラウドが現れる気配はない。バーにほったらかしにしたデンゼルの事も心配になってきた。
もう今日は諦めよう。そう思ったティファがマリンにそろそろ帰ろうと声をかけようとした、その時。
教会の扉が、バタンと荒々しい音を立てて、乱暴に開かれた。
「あっ!」と声を上げ、開け放たれた扉に駆け寄る。が、ティファが途中で制した。
現れた人物は、クラウドではなかったからだ。

308:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/18 02:03:06 vMEoVWVD

入ってきたのは大柄な男だった。
銀の髪を角刈りにし、左腕になにやら危険そうな武器を装備している。
ドスン、ドスンと大袈裟な足音を響かせながらやってくる男に対し、
ティファとマリンは、寄り添うようにして後退した。
しばらくして、男は膝を折り、視線の高さをマリンと同じにしてから、言った。

「遊ぼうか」
マリンは怖がるような目つきを男に投げつけた。
「…そうか、嫌か」
残念そうに呟くと、今度は「母さんは?」と訊いてきた。
ティファには男が何を言っているのか全くわからない。当然といえば当然だ。
一方で男の方は、足下に広がる花畑をなにやら厭そうな目つきで見ていた。
何だろうかと訝っていると、やがて「くせぇ!」と吐き捨てるように言い放った。
それからティファ達に向き直り、もう一度訊いた。
「なあ、母さんは?」
「誰もいないわよ!」
今度はティファが即座に言い返す。
すると男はなぜか泣きそうな顔をした後で、「じゃあ、遊ぼう」と、今度はティファに向かって言ってきた。
…どうも話が通じる相手ではないらしい。それに、何やら危険だ。
そう感じたティファは、マリンに何処かへ隠れているよう耳打ちし。
ハーフパンツのポケットから、黒いレザーグローブを取り出して填めると、ファイティングポーズを取った。
バーに強盗や盗人が現れた時は、ティファはいつもこうする。
「こりゃあ楽しみだ」
それを見た銀髪の男、ロッズも、格闘の構えに入る。

ティファは深く息を吸った。
一瞬の沈黙。静寂。そして、戦いの火蓋は唐突に切って落とされた。

309:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/18 10:01:55 1fGHm0a9
なんか冗長になってきてるな。
量より質を求めたい。

310:久々にFF5
05/10/18 17:04:41 8iqkv18T
FF5 58  北の山1

カーウェンから北へ向かい、鬱葱とした森を抜けた先にその山はあった。
「ここが北の山か・・・」
バッツは入り口からだんだん視線を上にやった。
頂上に行けば行くほど濃い霧が立ち込めている。
一見して入り口は静かで物音もしない。
しかし4人にとってそれが逆に得体の知れない不気味さとなっている。

「よし、さっさと行こうぜ」
ファリスが仲間、そして自分に気合を入れるかのように大きく声を出す。

北の山――
なんとも単純で無機質な名前をつけられた山は怪物の巣窟と化し、
今や人が登山を出来る環境ではない事は4人の目に明らかだった。

「一応、道は整備されてるようじゃのう」
ガラフが恐る恐る辺りを探っている。薄暗く、土や草の独特な匂いが立ち込めている。
「とにかく急ぎましょう!」
レナは飛竜の事を思うと一刻も早く頂上に辿り着きたかった。

311:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/18 17:07:34 8iqkv18T
FF5 59 北の山2

山の探索を開始したさっきより緊張感から開放されていた。
襲ってくるモンスターを順調に退けていったからである。
ここに辿り着くまで様々な場所を探検し、戦闘のスキルも自然と上がっている。
「俺たちって結構やるじゃん!」
バッツは浮かれ気分だ。
「おい、気は抜くんじゃないぞ」
「わかってるって」
ファリスがお調子者に釘を刺す。海賊としての経験はこの冒険にしっかりと活きている。

そして山の中腹に差し掛かった時だった。
「・・・!あれは?」
ガラフの視界になにやら花らしきものが見える。
「もしかして飛竜草か!」
そう言いながらバッツは花の方へ向かって走り出した。
「あっ!バッツ!それは・・・」
レナが慌てて止めようとしても遅かった。その花はすでにバッツの手の中に収まっていた。
「ん~、なんか傷を治す草にしては色が変だし・・・それになんか・・・あ、れ・・・?」
だんだんバッツの様子がおかしくなる。呂律が回っていない。指先が麻痺しだした。
「おいバッツ!」
3人が慌てて駆け寄る。バッツの顔が花の色と同じように変色していき、倒れた。

312:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/18 17:08:30 8iqkv18T
「バッツ、これは毒草よ!」
レナがやっとバッツにこの草の正体を伝える。毒々しい紫色をしている。
「第一、まだ頂上じゃないし、どう見ても色がおかしいだろう?」
ファリスがお調子者に釘を刺す。しかし、『ぬかに釘』である事を感じてる。
「ほれ、毒消しじゃ」
ガラフが半分呆れたようにバッツを治癒する。

「・・・よし、ぐずぐずしてらんないな!さっさと行こう!」
バッツは回復してすぐ何事も無かったかのように先へ進もうとする。
しかしその顔は少し赤く、バツが悪そうだ。
「ふぅ、調子の良いやつじゃ・・・」
ガラフが苦笑しながら呟く。しかし不思議とこの無鉄砲さに心が和んでいた。

313:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/18 17:09:34 8iqkv18T
FF5  60  北の山3

「だいぶ上の方まで来たな」
ファリスが辺りの景色を見回している。
もう地上は遥か下。ここへ来る為に抜けてきた森も雲に覆われて見えない。
山の上のせいか、風は地上よりかは吹いていた。

「ん?あれ、なんだ?なんか落ちてる」
バッツが目ざとく前方に落ちてる物を確認した。
「どうやら兜のようじゃが・・・」
「!」
「あっ!レナ!」
レナがとっさに兜に駆け寄る。
「これは・・・お父様の兜?何でこんな所に・・・」
レナが手にした兜には確かに見慣れたタイクーンの紋章がはっきりと刻まれていた。
間違いなく父の物と分かる。
父の兜がここにあると言う事は、父が最近までここに居たという事。
レナはそう信じたかった。

「きゃっ!!」
「「「レナッ!」」」
兜を抱え感傷に浸っていたレナに非常の毒矢が襲い掛かった。
3人は慌てて駆け寄る。
「ほら、毒消しじゃ!」
ガラフは急いでレナに毒消しを含ませる。
「罠だったのか?」
バッツは急いで剣を手に持ち戦闘体制に入る。
「ああ、しかもタチが悪そうだな・・・」
ファリスはこちらにゆっくり向かってくる人影を確認していた。

314:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/18 17:12:10 8iqkv18T
あっさりしすぎたかな。書き方は相変わらず下手です。

315:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/18 19:21:01 vMEoVWVD
>>309
どうもです。
冗長…ですか。やっぱりあれやこれや詰め込もうとしすぎたかな…?
今後は気をつけます。

316:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/18 20:27:26 ySF2g1d6
盛り上がって参った!
みんないいですよー、フオー。

317:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/18 23:39:39 JgqN5fwf
良スレ(・∀・)ハケーン
職人さんたちに期待sage

318:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 00:17:50 Fh8peCqV
>>299
プチメテオキターーーーーー!!
奮い立ちました!GJ!
パラディンの儀式イベント、めっさ楽しみにしています!

ちなみに自分はスカルミリョーネ(第1、第2形態)は無意味に強がりまくって最大化力のファイラで
焼き付くしますた。

319:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 00:26:34 Co/87GAs
昨日このスレを久々に覗いたらいつの間にかノベライズ作品が増えてて(・∀・)イイ!


ところでFF6のノベライズで、オープニング部分(ビックスとウェッジと??????の場面)が
抜けているようなので、僭越ながらそこを補うような文章を投下させて頂こうと思います。
スレとして「リレーになってないよ」等、問題があればご指摘いただければ幸いです。

320:FF6オープニング:ナルシェ行軍
05/10/21 00:28:47 Co/87GAs



 Command to the Empire Force in particular.
 Commence to launch the attack on Narche,
 the coal mines city.

 帝国軍特別指令
 炭鉱都市「ナルシェ」への侵攻作戦開始

                    ***

 魔大戦の記憶など、とうに失くしてしまった人間達が犯す過ちの始まりにして、
終焉へ向けた死の行進。あるいは、神々の呪縛からこの世界が解放されるための
戦の始まりか。
 どちらにしても、その記念すべき第一歩を踏み出そうとする三人の者達が、雪原に
立つ。魔導アーマーに搭乗した彼らの前には、延々と広がる白い大地の先に小さく
揺れる灯火が見えた―炭鉱都市・ナルシェの灯りだ。

 大地を埋め尽くす屍。どす黒く濁ったその色は、生命の持つ本来の輝きを覆い
隠し人々に恐怖と絶望をもたらす色。
 空から降り注ぐ粉雪が、大地を真っ白に染め上げる。長い時間をかけてゆっくりと、
その陰惨な光景を白一色に変えていく。目映いほどの白に埋め尽くされてしまえば、
その後にはまるで何事もなかったかの様に静寂が訪れる。その色は人々に忘却と
かりそめの平穏をもたらす色。
 空を見上げれば、どんよりと灰色の雲が広がっている。地上に差し込もうとする光を
遮り、空を支配する色。それは見えない未来への不安を煽り人々を混乱へ導く色。
 灰色の雲の隙間から、遠くに雷光が見えた。降りしきる雪に飲み込まれ、音は
届かない。

 炭鉱都市・ナルシェ。
 そこは忘却と繁栄に彩られた都市。

321:FF6オープニング:ナルシェ行軍
05/10/21 00:31:00 Co/87GAs

    魔大戦
    すべてを焼きつくした、その戦いが
    終わった時、世界から
    「魔法」という力が消え去った

    そして1000年…
    鉄、火薬、蒸気機関
    人々は機械の力を使い、世界を
    よみがえらせた

 ナルシェの大地に積もった雪がごとく、1000年という時間は人々の記憶の上に
降り積もり、あの大きな惨劇を覆い隠してしまったのだ。
 人々が忘却と引き替えに得たのは、繁栄。
 裏返せば、忘却の上に成り立つのが繁栄。
 だから忘れることが罪なのではない。

    今またここに、伝説となった
    「魔法」の力を復活させ
    その強大な武力によって
    世界を支配しようとする者がいる…

    人はまた
    そのあやまちを
    くり返そうとしているのか…

                    ***


322:FF6オープニング:ナルシェ行軍
05/10/21 00:35:24 Co/87GAs
「あの都市か?」
 装備したゴーグルとマスクをはずして、魔導アーマーに搭乗している男の一人が
問う。足元は覆われているものの、上半身は直接外気に晒されているため、吐き
出した言葉が一瞬にして白く凍り付く。
「魔大戦で氷づけになった1000年前の幻獣か……」
 問われた方の男が答える。あくまでも任務遂行上、必要な知識としてしか知らされ
ていない言葉を口にしながら。今、自分たちが触れようとしているものの正体を、
このときの彼らが知る由もない。
 そして自分たちがやろうとしている事の意味もまた、彼らが知ることはなかったの
だった。
「またガセじゃねえのか?」
 そう言って男は鼻で笑うと、瞬く間に白い息が広がる。「こんなの別になんでもな
い、いつもの任務だ。そんなに力むなよ」と、長年チームを組んできた相棒に向けて
助言してやった。
 その言葉に男は素直に頷いた。
「……だが、あれの使用許可が出るくらいだ。かなり、たしかな情報だろう」
 言いながら足元のペダルを踏み込み、アーマーごと方向転換して後ろにいた
“少女”と正面から向き合った。
「生まれながらに魔導の力を持つ娘か……。魔導アーマーに乗った兵士50人を、
たった3分で倒したとか。……恐ろしい」
 しかし男が“少女”に向ける視線は人間に向けられるそれとは明らかに違う色を
帯びていた。巨大な力への恐れ、殺戮を繰り返すだけの存在に対する侮蔑―
戦地に立てば、一瞬でかき消えてしまうほどの小さな感情だったが、自分たちが
搭乗する魔導アーマーに向けるそれと似ている。
 隠せないほどの不安が男の表情を曇らせた。顔面を覆う装備を外してはいな
かったが、そこは長年チームを組んで来た経験で表情など見なくても分かるのだ。
 不安がる相棒に、男は豪快に一笑したあとで言い放った。

323:FF6オープニング:ナルシェ行軍
05/10/21 00:41:42 Co/87GAs
「大丈夫。頭のかざりの力で思考は止まっているはずだ。俺達の命令で思い通り
に動く」
 自分たちにとって目の前に存在する“少女”は、ヒトの形をした兵器に過ぎない。
男はそんな風に言い切って、不安の色を浮かべる相棒に笑いかけたのだった。
 そうして、彼は外していた装備を装着し直すと、腕を振り上げた。
「東からまわりこむ。行くぞ!」

 静寂に沈む雪原に、魔導アーマーの稼働音が響き渡った。
 三体の魔導アーマーが目指すのは、炭鉱都市ナルシェ。
 二度と還れなくなるとも知らず、男達は軍部の命に従い任務へと赴く。
 一世一代の戦いの場へと、死の行軍を続ける。彼らの歩みを止められる者は、
誰もいない。




----------
その後自分はユミール戦でタイミングが合わず全滅しました。
…投下しておいてなんですが、中途半端ですみません。

324:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 03:11:23 1nfm7X2s
おお~クオリティ高ぇなぁ
まず思ったのが、6のOPって地の文でも全く色褪せてないんだな。
ビッグスウェッジの会話も少ない量で読み手の好奇心をそそるようになってるし
ゲーム然としてないとでもいうんだろうか
けどそう思えるのは確実に作者さんの引き立てがあるからなんだよ
セリフそのままが逆に嬉しかった

ってわけで文句なしのGJだ。なんかもうありがとう

325:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 03:15:12 eJ50sJn+
すげえ並行して連載してるな!
作者陣ハゲ乙です!

326:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 10:20:45 e5IksQgR
おい、FF6を頭から書き始めた馬鹿!
>>5にあるまとめサイト見て来いや。
すでに途中まで進行してる物語をまた初めから書く奴があるか。
やりたきゃ先達に敬意を表して、続きから始めろや。


327:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 14:50:17 V97UFe5m
よく知らないが抜けてるとこかいたんじゃないのか?

328:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 17:48:49 7tCXLOyt
ごめん、釣り糸が見えてる

329:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 18:10:39 jTTnIcAv
クマー

330:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 18:11:50 fqzsEtE3
スレGJ

331:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 19:49:43 co/4sB1z
>>319で断りを入れてるんだしそんなに怒らなくても。

332:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 22:11:08 YiyRqXI6
いくらなんでもオープニングまるごと端折るのはどうかと思うけどなw

> ストーリーの最初から最後まで完全小説化

なんだし。

333:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/22 13:06:06 e7dbnGxE
細かいことは正直どうでもいいと言ってみる
クマー

334:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/22 13:17:46 70Cr/Gvt
同意
クマー


335:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/22 15:00:02 ZahsFhC2
全くゲームと同じ展開をなぞるのも嫌だと言う意見も
あるので大きく本編を逸脱した展開にならなければ多少の
改変も有っても良いと思う。
今まで書かれた1、4、5も書き手のオリジナル部分が好評を博している
事も珍しくはない。

336:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/22 17:40:15 +HERIgWL
つうかそういうのの判定のためにも297氏が短編書いてくれてんじゃん。
オリジナル要素マンセー。

337:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/23 14:24:21 QHnV4Pkj
FF8書こうかと思ったけど、よく考えたらストーリー把握し切れてないからやめとく

338:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/24 00:46:45 nrEHS00s

先に仕掛けたのはティファだ。
ロッズの懐に目にも止まらない素早さで飛びこみ、ニヤニヤ笑いつづける顔面に右ストレートを繰り出したのだ。
しかし、先読みされていたらしく、左腕のシールド状の武器で楽々と受け止められてしまう。
右腕と左腕で取っ組み合ったまま2秒間硬直するが、ロッズが力任せに振り解いた。

そこに僅かな隙が生じた。

瞬間、ティファは左の掌をロッズの頬めがけて叩きつける。
ぐぉ、という呻き声を上げて怯む大男に、間髪を入れず右、左と連続して掌底を浴びせた。掌打ラッシュ。
たまらず後退したロッズに走って詰め寄り、今度はハイキックを出す。避けられた。
ロッズが反撃に転じる。一瞬だけ隙だらけになったティファの顔を狙って左腕のパイルバンカーを突き出してきた。
顔面を捉える寸前でその先端を掴んで受け止めるが、その瞬間、彼女の全身に電流が流れた。

思わぬ衝撃に、後ろへと吹き飛ばされるティファ。
体勢を整えられず、花畑の真ん中に落下する。
立ちあがって前を睨むと、ロッズが左腕のクローを顔の前に掲げて笑っていた。
デュアル・ハウンド。
金属製の手甲の両端に、伸縮する2本のロケットのようなトゲが装着されているという外見で、
シールドとパイルバンカーの両方の役割を果たすその武器は、スタンガンのような機能も備えている。
足を前に突き出した格好でロッズの少し手前に着地してそのまま滑り、足払いするが、彼は大きく跳んで回避した。
すかさず床に手をついて立ちあがり、追う。
ロッズが着地し、背後を振り返ったとき、ティファの左拳がミリ単位の距離に迫っていた。

したたかに殴り飛ばされたロッズが、そのまま教会の端の壁に激突する。
彼は、追撃してくるティファと間合いを取ろうとバックステップした。
が、ティファは壁や柱を蹴って跳び、彼よりも遥かに速い動きで詰め寄り、あっという間に肉薄する。
ロッズが迎え撃つ暇も与えず、
右脚で顎を蹴り上げ、そのまま顔面に踵落とし、さらに流れるような動作でサマーソルト・キックを浴びせた。

339:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/24 00:47:48 nrEHS00s

怯み、顔を押さえながら後ずさるロッズ。
ティファがさらに追い討ちをかけようとする。
が、ロッズはティファが叩きつけてくる肘鉄を左腕で受け止め、また取っ組み合いになる。
ロッズは今度は振り払わずに、かわりに左腕のデュアル・ハウンドを放電させた。
予想していなかった攻撃に仰け反るティファ。その隙を逃さず、ロッズは彼女のわき腹に強烈な蹴りをいれ、壁に叩きつけた。
次いで、横殴り気味にデュアル・ハウンドを繰り出すが、ティファは危うい所でしゃがみ、避けた。
パイルバンカー状の2本のトゲが、派手な音を立てて壁に突き刺さった。
間髪入れずに、ティファはロッズの首筋を引っ掴み、背にしていた壁を右脚で蹴りつけ、彼もろとも低く跳躍する。
そのまま、空中でロッズの胸の辺りに左足を押しつけ、
――教会の中央辺りの床に、思いきり叩きつけた。
だが、ロッズも負けてはいない。
彼を叩きつけた反動で跳び去ろうとするティファの脚を右腕で掴むと、
そのまま豪快に振り回して2,3度礼拝客用の長椅子に叩きつけ、さらに教会の奥のほうへとぶん投げたのだ。
派手なジャイアントスイングで投げ飛ばされたティファは、今度は空中で体勢を整え。
花畑のすぐ後ろの石壁に、しっかり足と手をついて「着地」した。
花が、旋風で舞い散った。
睨み合う2人。
ロッズはまた笑っていた。

ティファは壁に脚を突っ張り、ロッズ目掛けて再び跳んだ。
電光石火。
ロッズが迎撃のパイルバンカーを放った。間に合わない。
ジャンプした次の瞬間には、ティファはロッズの顔面を右手で鷲掴みにしていた。
「―いやーーーーーーーっっ!!」
一声叫び、大男を掴んで引きずりながら教会を疾走するティファ。
出入り口の扉の辺りまで来ると、ティファは彼を放り投げ、自分も追うように跳躍。
空中で再びロッズの顔を鷲掴みにすると、目についた柱の根元を狙って投げ飛ばした。
悲鳴を上げながら、ロッズはその柱に激突し、倒壊する柱の瓦礫に埋められていった。
メテオストライク。
瓦礫の山と化した柱のなれの果てを背に、ティファは華麗に着地した。

340:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/24 00:49:01 nrEHS00s

勝った。
崩れ去った柱を一瞥し、ティファはそう思った。
マリンも同じ考えだったようで、「ティファ!」と叫び、笑いながらこちらへ走り寄ってくる。
ティファも微笑み、膝と腰を曲げてマリンと視線の高さを同じにしたその時、場違いな音が辺りに響いた。

パン パパパパーパーパーパッパパー♪

あまりに場違いすぎて、ティファもマリンも一瞬、動きが止まった。
周囲を見まわす。また鳴った。
その時、ティファはこの音の正体がやっとわかった。
…携帯電話の着信音。
そして、その着信音が聞こえてくる方向は――
ティファが慌てて振り返るのとほぼ同時に、ロッズが瓦礫を吹き飛ばして再び現れた。

3,4回目のコールでやっと携帯の通話ボタンを押した。
「…ここじゃねえなぁ」
携帯を耳に押し当て、暫くしてから、ロッズ。
「泣いてねぇよ!!」
今度は怒鳴りだした。その後、何故かティファとマリンを拗ねた表情で睨みつける。
「…わかった」
心なしか、声も拗ねていた。
そして、「連れてく」と短く告げて電話を切った。

ティファは脈絡が全くわからない会話に少し面食らっていたが、それ以前に大男の健在ぶりに驚いていた。
リミット技をしこたま叩きこんだのに、ダメージを受けた様子はおろか、傷一つみられないからだ。
ロッズは気だるげに首をコキコキと回している。
「…続きだ」
これまた気だるげに言うと、再び格闘の構えに入った。

341:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/24 00:50:01 nrEHS00s

また睨み合う、ティファとロッズ。
今度はロッズが先手を打った。
丁度足下にあった長椅子の残骸を、ティファとマリン目掛けて思いきり蹴り飛ばしたのだ。
マリンが悲鳴を上げ、頭を押さえてその場にしゃがんだ。
弾丸のような速度で迫る長椅子を、ティファは裏拳で弾き飛ばす。
が、跳ね返した長椅子の先からは、ロッズの姿が消えていた。
訝る間もなく、当のロッズがティファの背後に回り込んでいた。
速すぎる。
それまでとは明らかに違う動き。
ティファは何が起こったのかよくわからなかった。
ただはっきりしているのは、背中に彼のデュアル・ハウンドが押し当てられている事だけだ。

放電。

あまりに突然だった攻撃に対処できず、前につんのめるようにして倒れるティファ。
しかし、ロッズは彼女が床に倒れこむ前に、その首筋を引っ掴み、さらに掴んだまま手近な柱に押しつける。
また放電。
首をしっかり掴まれているため、今度はそれまでのように吹き飛ばされなかったが、変わりに後ろの柱が粉々に砕けた。
そのまま乱暴にティファを投げ捨てるロッズ。
すでに反撃どころか抵抗の余力すら奪われていたティファは、力なく花畑の中心あたりに倒れこんだ。
うう、と倒れたまま呻き声をあげるティファにロッズが歩み寄り、馬乗りになる。
そしてとどめを刺そうと、その端正な顔にパイルバンカーを押し当てたその時、彼の頭に何かが投げつけられた。

マリンだった。
訝しげな声をあげて振りかえると、彼女は唇をぎゅっと結び、敢然とした眼でロッズを睨みつけていた。
ロッズはそのあまりにもささやかな抵抗に笑ったが、少女の背後にあるものと、
自分に何が投げつけられたのかを知った時、もっと邪悪な笑みを浮かべた。
マリンの背後で、金属製の箱に詰められている物。
それは、紛れも無く、マテリア。星の力を秘めた結晶。
ロッズはティファを放し、危険な笑みを浮かべたまま、マリンの方へとゆっくり歩み寄った

342:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/24 00:51:36 nrEHS00s

たちまち、マリンの顔が恐怖に染まる。
ロッズの筋肉質な体は、彼女と比べるとあまりにも大きい。
ゴツ、ゴツ、という大袈裟な足音が、余計に恐怖感を煽る。
ティファは起き上がろうとしているが、出来ない。
「…逃げて!!」
叫んだが、どうしようもなかった。

同じ頃。
復興都市エッジのある路地で、デンゼルが額に鋭い痛みを覚えた。

たまらず、額を押さえてその場にうずくまった。
暫くそうしていると、痛の波がひいた。
ティファとマリンが「ちょっと出かけてくる」と言い残してセブンスへブンを出てから、2時間も経っていた頃だ。
デンゼルは2人とも店を空けるとき、こうしてこっそり外を出歩いていた。
出歩くと言っても、これといった目的があるわけではない。ただうろうろと歩き回るだけだ。
たった独りでバーの子供部屋に取り残されるのが、怖くてしかたなかったからだ。
マリンもティファも傍にいてくれない時にベッドでじっとしていると、額の星痕が体力を徐々に奪っていくのがわかる。
暗い、じめじめした、厭な重圧が、小さく弱い身体の全体にのしかかるのを感じる。
デンゼルはその着々と忍び寄ってくる死の足音が怖くて、街に出て、人々が行き交う足音で耳を塞いでいるのだった。

額を指でなぞってみる。まだちくちくと痛む。
顔をしかめて座り込み、そろそろ帰ろうかなどと考えていると、目の前に誰かが現れた。
女の子だった。歳はデンゼルとあまり変わらないだろうか。
「…君も星痕だよね?」
出し抜けに訊いてきた。見ると彼女も、モーグリのぬいぐるみを持った右腕から首筋にかけて、星痕の黒い痣を持っていた。
「行こ。治してくれるんだって」
デンゼルが口を開く前に言うと、少女は彼の手を引いて、強引にどこかへと連れ去ってしまった。

343:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/24 00:52:51 nrEHS00s

連れて行かれた先には、一台のトラックがあった。
その荷台には、デンゼルとほぼ同年代の子供達が、次々と乗りこんでいる。
ぬいぐるみの少女もデンゼルを一瞥すると、さっさと乗りこんでしまう。
星痕を、治してくれる。
この苦痛を、取り除いてくれる。
苦しみつづける彼らにとって、それは耐えがたい魅力だった。デンゼルも例外ではなかった。
ティファやマリンのことは、何故だか、気にならなかった。
彼はその場に立ち尽くしていたが、暫くすると、トラックの方へとまっすぐ歩み寄って行った。

これが、リユニオンの力か。
トラックから少し離れた所から、子供達が次々と集まってくる光景を眺めながら、ぼんやり考えた。
街に溢れる孤児の一人に声をかけたら、それが噂になって火のように伝播していき、
1時間もしない内にトラックに乗りきれないほどの人数が集まった。
星痕を宿しているという事は、つまり”母さん”の思念を宿しているという事。
やはり、本能的なレベルで働きかけるのだろう。
いまや集まった子供達は、数十人ほどが押し合いへし合いしながらやっと荷台に収まっている状態だ。
フン、と短く鼻を鳴らすと、ヤズーはトラックの運転席に滑り込んでエンジンをかけ、アクセルを踏んだ。

344:FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN
05/10/24 00:54:32 nrEHS00s

クラウドが教会に現れたのは、それからだいぶ時間がたった頃だった。
破壊し尽くされた教会を訝しげに見まわした彼は、教会の中に茂る花畑の上に倒れている人影を見つける。
ティファだった。
慌てて駆けより、彼女を抱き起こすクラウド。意識がない。
「…ティファ?」
呼びかけてみる。応えない。
「ティファ!!」
強く呼びかける。すると、閉じていた目がうっすらと開かれ、黒い瞳にクラウドの顔が映った。
「遅いよ…」
それだけ言う。弱りきり、かすれた声だった。
「誰にやられた?」「…知らない奴」
相変わらず弱りきった声で、短く答えるティファ。だが、次の瞬間に「マリン!?」と叫び、勢いよく体を起こした。
そして、また気を失ってしまった。
すかさず辺りを見まわすクラウド。
だが、教会のどこにもマリンの姿はない。ついでに、マテリアを入れておいた箱も消えている。

「くそっ!」
毒づいたが、その直後、クラウドの左腕に激しく鋭い痛みが走った。
とっさに右手で左腕を押さえる。と、左腕を包む布から、黒い膿が滲んだ。
黒く汚い膿はそのまま腕を伝って落ち、花を汚した。
同時に、先程のサブリミナルのような光景が頭の中に閃いては消える。しかし、今度は少し違った。見覚えのある光景だ。
それは、炎につつまれているあいつの姿。
不気味で危険な笑みを浮かべて、炎の中に消えて行くあいつの姿。
「―セ―フィ…」
その名が、口をついて出てくる。
一瞬だけ、全く別なイメージが割りこんだ。これまでとは全く違う、清らかな湖の光景が。
目を閉じていた事に気づき、開くクラウド。
クラウドとティファは、花畑の中に倒れていた。
花畑と言っても、教会の花畑ではない。どこか、全く違う場所。
クラウドは、再び目を閉じた。
狼が、見ていた……


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