05/09/14 14:23:25 EG54dD9j
ガラフはレナにゆっくり歩み寄る。
「一緒に行かせてくれないか?」
「で、でも・・・」
レナは予想外の展開に困っていた。
これは自分の問題で、赤の他人、しかも今出逢ったばかりの記憶喪失の老人を巻き込むなんてありえない。
「頼むっ!」
またしても大きな声。ガラフの瞳はもちろん真剣だ。
その瞳はレナに心境の変化をもたらす。
「・・・そうですね・・・。では一緒に行きましょう」
レナは『自分の問題に他人を巻き込みたくない』と同時にやはり『モンスターへの恐怖、不安』があった。
ひとりよりかはふたりの方がいい。そう感じたのである。
自分の父と再開する前に自分の命が失くなっては全くの意味が無いからだ。
そして今、レナは日常に当たり前に父が居るという事をとても尊く想っている。
それだけになんとしても父を助けたい。また逢いたい。『絶対に父は生きている』と、そう想っている。
一緒に付いて行くと言ったガラフにはガラフなりの事情があるのだろう。レナはそう悟った。
バッツ同様レナもガラフの表情の変化に気付いたからである。
とても強い、透き通った瞳。
バッツもレナもガラフの瞳の力にただならぬ何かを感じ取っていたのかもしれない。
「ではバッツさん、本当にありがとうございました、さようなら・・・」
「助けてもらって感謝する。さらばじゃ!」
51:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/14 14:24:27 EG54dD9j
こうして2人は風の神殿へ向かった。残されたのは自分と、馬鹿でかい岩のみ。
相変わらず風はない。森なのに木が揺れない。
バッツは少し自問自答した。
「(女の子とじいさん・・・大丈夫か?あのまま行かせてよかったのか?)」
心の中を不安が少し襲う。
「(どうする・・・どうする・・・どうする・・・)」
そう心の中で悩みながらも足は相棒のボコの方、つまりこの細道の入り口へ向かっていた。
「(結局あの隕石も謎だな・・・一体なんだったんだ・・・)」
そう悩みながら歩いているといつの間にか目の前に宝箱。そして行き止まり。
「あれっ?」
拍子抜けするバッツ。
そう、どうやらボコの居る場所とは反対方向の道に入ってしまったらしいのだ。
細い道は木々がたくさん生えていて非常に似たような景色が構成されている。
バッツは自問自答と不安な心のまま歩いてた為に、どうやら逆方向に来たのを気付かなかったらしい。
「はぁ・・・」
ため息ひとつ。
宝箱を調べたら『フェニックスの尾』と言う、結構高額なアイテムが手に入った。
「ま、アイテムひとつゲット。迷ったのもありかな・・・」
こうして不安が消えないまま、今度こそボコの居る場所へ戻るべく歩き始めた。
52:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/14 14:42:01 EG54dD9j
前スレで1レスっきりで続いてなかったFF5を書いてみました。
小説なんて書いたことないしFF4、6の作家陣の方々みたく上手く書けませんが・・・
53:299
05/09/14 17:06:56 qexEPk4A
お疲れ様です。
上手く書けないと言っていますが、なかなかいい感じに書けてると
思いますよ。
これからも頑張ってください。
54:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/14 19:04:06 p0cZps0N
>>53
ありがとうございます。
FF4作者様にそう言って頂けるとありがたいです。
ではFF5続き書いたので投稿します。
55:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/14 19:05:45 p0cZps0N
FF5 7
バッツはボコの所へ『やっと』辿り着こうとしていた。
この『やっと』と言うのは反対側へ行ってしまった分、余計な労力を使ってしまったからだ。
ただでさえ足場が悪い道だ。たいした距離じゃなくても足は疲労し、それが全身へ伝わってゆく。
いつものように森で休んでいたら、近くに大きな隕石が落ちてきたと言う非日常。
ゴブリンと戦い、レナと言う父親が行方不明の女の子を助け、さらにガラフと言う記憶喪失の老人まで助けた。
そしてその2人は『風の神殿』へ向かうべく旅立った。
それぞれの事情を胸にして。
隕石が落ちてから今に至るまで時間にして2、3時間と言った所だろうか。
しかしバッツは『もうこれで今日は終わるのではないか?』と言うほどの今までに無い変な疲労感を覚えている。
徐々に入り口が近づく。辺りもだんだん広くなり、足場も良くなる。
遠くの方で『相棒』のバッツを見つけたボコが嬉しそうに鳴いているのが聞こえた。
ボコとバッツは『飼い主』と『ご主人様』ではなく、『相棒』と言う対等で固い信頼関係がある。
このボコと言うチョコボはバッツが一人旅を始めたばかりの頃、
ぽつんと1羽でたたずんでいる所を見つけられたのだ。
何故1羽で居たのかはバッツも知らない。群れから逸れたのだろうか。
そして、1羽で居る所がなんとなく自分の境遇と重なったのだろう。
以来、ずっと離れる事は無い唯一のバッツの良き『相棒』である。
ボコもあの時、独りのバッツと自分の境遇を重ねていたのかもしれない。
56:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/14 19:08:44 p0cZps0N
FF5 8
「うっわ、眩しいなぁ~、まだ夕方にもなってなかったかぁ」
森から抜けだしたら辺りはまだとても明るかった。
地上の、バッツの周りで起こってる事など知りもせずに、ただ、いつもの様に太陽は真上から大地を照らし続けている。
バッツは眩しい辺りを細目で見回しながらボコへ近づく。
「クエッ!クエッ!」
チョコボ特有のちょっと間の抜けたような愛らしい鳴き声がバッツを歓迎した。
「お~、た~だいま~」
「クエッ!」
ボコは嬉しそうである。
一方バッツはボコに笑顔を見せるものの、心の中ではまだレナとガラフの事が引っ掛かっている。
しかしボコにはその事を知らせない。バッツは笑顔を作っていた。
一瞬ボコの顔が曇ったような気がした。
「さ、とりあえずまたどっかフラっと行きますか・・・」
バッツはボコに乗る。
「クエッ」
相棒の返事がいつもより弱い気がした。
ボコが自慢の快速で飛ばして行く。しかしバッツは心の中では相変わらず自問自答。
いつもならボコに乗りながら爽やかな風を感じられる。
しかし、今はそれどころではない。
ただバッツは自問自答の答えを導き出そうとしていた。
と言うより、「(もう答えは見えているだろう?)」
そう感じていた。
―――――レナ。ガラフ。風の神殿。あてのない『旅』――――
57:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/14 19:09:49 p0cZps0N
「うわあああぁっ!」
次の瞬間、いきなりボコが止まった。
バッツは当然、前方に投げ出され、切り立った岩盤に軽くぶつかって止まった。
「・・・いってー・・・」
軽く打った背中を摩る。軽いとは言え、打ったのはごつごつとした岩盤。
その痛みはなかなかのものである。
「っったく、何で急に止まるんだよ!」
バッツは当然ボコを責める。通常ではありえない急ブレーキ。非常に危ないものだ。
「うっ・・・」
しかしボコの顔を見たバッツはその威勢が消え、逆に怯んでしまった。
ボコが珍しく怒っている。鋭い目。乗り物用の鳥とは言え弱いモンスターなら倒せてしまうぐらいの戦闘力はある。
そして、バッツはボコが怒っている理由を容易に理解した。
バッツはすぐに心情が顔に出る。3年の付き合いがあるボコがそれを見破るのは簡単な事。
そこにこの1人と1羽の固い信頼関係が見て取れる。
「わかったよ・・・そりゃ、お前に隠し事するのが野暮ってもんだったなぁ・・・」
バッツは一本獲られたと言う表情でボコを見た。
「ここらは最近モンスターが出やすいし、じいさんと女の子だもんな」
バッツは答えを出した、というより最初から答えはひとつしかなかった事を相棒によって確信した。
「クエッ!」
ボコはまたいつもの優しい顔に戻っている。
「よし!追いかけよう!お前の足なら絶対間に合う!」
そうして2人と再び逢う決心を固めた次の瞬間、不気味な地響きが辺りを包んだ。
58:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/14 19:11:59 p0cZps0N
FF5 9
「!?」
「クエッ!?」
2人はついさっき、隕石落下の時と全く同じように顔を見合わせ黙った。
そして辺りが音とともに激しく揺れ始める。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォッ!』
『ゴーンッ!ガガガッ!』
『ガガガガガッ』
激しく大地が揺れ動く轟音。
「う、うわぁわああ、なな、なんだこっれれれはぁあ!」
「クエェクエックエククェ!」
激しい揺れのせいで上手く喋れない。そして、何が起こっているのかも理解できない。
理解しようとしても、轟音と激しい揺れが思考能力を低下させる。
そんな中、なんと遠くの方から聞き覚えのある声で聞きたくない言葉が聞こえた。
「うわぁーーーーっ」
「キャーーーーッ」
「しまぁったたぁ!!」
「クエエエエッ!」
そう、レナとガラフの悲鳴である。バッツは自分が迷いさえしなければ、一目散にあとを追っていればと一瞬にして後悔した。
全速力のボコ。途中で急に地面が陥没しても決死のジャンプで飛び越える。
そしてまたしても襲ってくるゴブリンはバッツの剣により軽く一蹴。今こんなものに構ってる暇は無い。
「いたっ!あれだ!」
「クエッ!」
すぐに気を失ってるレナとガラフを見つける。またしてもゴブリン。
「何匹も何匹もしつこいぜっ!」
バッツは軽く一蹴、すぐに2人をボコに乗せ安全な場所へ避難した。
59:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/14 19:13:42 p0cZps0N
FF5 10
バッツはさっきとはうって変わって無邪気な少年の顔に戻っている。少し高台へ登り、辺りの様子を見回している。
「あー、なるほどなぁ・・・んー・・・あちゃー・・・」
なにやらブツブツ言いながら周辺の様子を見ている。その顔はいまいち浮かない。
「クエッ!」
看病役のボコが声をあげる。それはどちらかが無事だったと言う証拠だ。
「ぅ・・・うん」
先に気がついたのはレナだった。不幸にも彼女は2回も同じ目に遭ってしまった。
先へ急がなければならないのに、今日に限って異常な事が彼女の周りで起こる。
「ここは・・・」
辺りを見回すレナ。隣にはまだ気を失っているガラフ。目の前にはチョコボ。
状況がいまいち飲みこめない。このチョコボが助けてくれたのか、とも想った。
60:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/14 19:14:42 p0cZps0N
「お、良かった。気が付いたか」
「そいつはボコって言うんだ。俺の良き相棒さ」
レナの元へ歩み寄りながらボコを紹介するバッツ。
疲労の色が見えるものの、その顔は笑っている。
「バッツ!」
驚いたように声をあげるレナ。助けられるのは、今日2回目。
「どうやら隕石が落ちたときのショックで、あちこちで崖崩れや地割れが起きてるみたいだ」
さっき高台で辺りの様子を見回してバッツは周辺の地形が変わった事を知った。
「この先のトゥールに通じていた道も塞がっちまった・・・」
少し残念そうに話すバッツ。
トゥールの村はこの周辺で唯一、武器防具道具宿屋魔法と充実した施設を備えた村だからだ。
その村への移動が出来なくなった事はバッツにとって、そしてレナとガラフにとっても痛手なのは間違いない。
「早く風の神殿へ行かないと・・・」
呟くレナ。
「ああ、親父さんを見つけなきゃな!」
「え?」
バッツはまるで自分達について行くような口調だ。
61:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/14 19:15:54 p0cZps0N
「うっ・・・う・・・」
ガラフが気が付きそうだ。2人はガラフを見つめる。
しかし気が付いて起きるだろうと予想した2人の考えを覆す一言をガラフは言う。
「風の神殿に・・・急がなくては・・・」
意識が完全に戻る前にこの言葉。拍子抜けすると共に、このガラフの強い想いを静かに受け止めた。
「このじいさんも、風の神殿か・・・」
バッツはガラフの言葉を聞いてからあまり間を空けず、こう言う。
「俺も行くぜ」
「えっ?ほんと!!」
バッツは冷静にレナに話す。
強い決意が込められたその言葉はレナにとってありがたくもあり、心強かった。
そして、単純に嬉しかった。
「親父の遺言なんだ。『世界を旅してまわれ・・・』ってね」
「遺言・・・」
レナはそのフレーズに引っ掛かる。バッツの父はこの世に居ない事を意味するものだからだ。
そして自分の父も・・・一瞬最悪のケースを考えてしまい、慌てて振り払う。
その想いとは裏腹に不安がどんどん大きくなっていくのが自分でわかる。
心臓の音が早くなる。
聞かれるわけないのにバッツにもガラフにも聞こえてしまうんじゃないか、
そう思うくらい自分にとってその音は大きく感じられた。
62:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/14 19:21:33 p0cZps0N
「それに・・・ 風が呼んでる」
バッツは柄にも無いキザな台詞で決めてみる。
内心、ちょっと恥ずかしい気もしたが、男なら女の前でカッコ悪いところは見せられない、と彼なりのポリシーがあった。
レナはそんな台詞も真顔で受け止める。というより、正直そんな余裕が無かった。
自分の不安を拭う為。心を落ち着かせるため必死だった。
のちにレナがこの場面を思い出したとしてもこのバッツのキザな台詞までは覚えていないだろう。
もちろん、バッツはそんな事知るわけが無い。
「とかなんとか言って本当は、この娘にホの字じゃないのかい?」
まだ完全に意識が戻ってないはずのガラフが悪戯っぽくそんな事を言う。
驚いてガラフの方を向く2人。
「じいさん、気が付いてたのか!」
「あったりまえよ!」
あぐらをかきながらガラフはバッツをニヤリと見つめ、その後すぐに大笑いした。
図星を突かれたような、突かれてないような。
それにただでさえキザな台詞を吐いてしまった。それがこのじいさんに聞かれてたなんて・・・
バッツは今になって急に顔が熱く、こっ恥ずかしくなってきてちょっと後悔した。
おまけに、このキザな台詞はレナに向けて言ったにも拘らず、当の本人は聞いてても頭には入っていない。
聞かれたのは初老間近の、というより初老にも見えるじいさん1人とチョコボ1羽。
くどいようだが、この事も当然バッツ本人は知らないし、しばらくは知ることも無いだろう。
63:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/14 19:22:26 p0cZps0N
ほこりを払いながらゆっくり立ち上がり、ひょうきんなじいさんがまたしてもあの顔になる。
「(・・・また瞳が変わった・・・)」
「(精悍なお爺さんなんだなぁ)」
2人がまたしてもガラフの『変化』に気付く。当のガラフ本人は気付いてない。
「だが、道は塞がれてしまったぞ・・・」
しばしの沈黙。やはり風の音が弱い。
レナが沈黙に耐え切れないように切り出す。
「でも、行かなくちゃ!」
「そうじゃな」
「よしっ!行こうぜっ!!」
バッツとガラフもその言葉に続く。
こうしてバッツ、レナ、ガラフの3人は風の神殿へ向かう事にした。
レナの父親の無事を心の片隅に常に置いておきながら。
64:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/14 19:26:44 p0cZps0N
以上です。
実際書いてみるとその大変さがわかりますね。
ゲームだったらまだ最初の10分とか、そんぐらいだし。
あと、父親が行方不明ということをレナが初めて話すのは海賊船で捕まってるときでしたね・・・
自分の記憶違いで隕石部分で
その父親探しの経緯を話してると言うような展開にしてしまった事はご了承くださいということで・・・
あとミスタイプや誤変換もご了承お願いしますね。
なるべくミスらない様にしますんで。
ではまた。
65:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 11:11:09 tSxir12d
今日の夕方~夜ぐらいFF5続き投稿予定です。
66:494 ◆yB8ZhdBc2M
05/09/15 17:41:45 TI395SHa
どうも494です。
前スレが落ちてしまったようなので、自前のhtmlファイルを保管サイトにアップしておきました。
それと5の作者さん乙です。
かなりハイペースで進んでいますね。
順次サイトの方にアップしておきます。
ミスタイプや誤変換はこちらで修正しておきますね。
各節のタイトルは無題で良いですか?
67:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:18:42 QxkPoKdR
>>66(494さん)
乙です。修正大変感謝。タイトルは…どうしようかなー。
一応「海賊のアジト篇」とか「風の神殿篇」、ぐらいは付けておいたほうが良いかもしれませんね。
無責任にそちらに任せるなんてのもありでしょうか?
ではFF5続きを投稿していきます。
68:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:21:01 QxkPoKdR
FF5 11
威勢良く元気に出発したものの、やはりトゥールへの道は閉ざされていた。
そしてその代わりになにやら洞窟の入り口らしき穴が開いている。
「こんな所に洞窟?」
レナは不思議そうに言う。遠目から中を見ようと目を凝らすが暗くてよく見えない。
「多分隕石が落ちたショックでこんなふうに穴が開いたんだろう」
バッツは高台でこの周辺の様子もばっちりチェック済だ。3年間の旅で培ったものはこんな所に活かされている。
「入ってみるしかなさそうじゃのう…」
ガラフは落ち着いた口調だ。記憶喪失の彼にとって人生は始まったばかりと言える。
先へ進むしかないという事を覚悟、というより本能的に感じてるようでもあった。
それが『自分』を取り戻す為に繋がると。
「よし、ボコ、お前はここで待ってろ」
「クエッ」
チョコボは広い場所を走る乗り物鳥。狭い洞窟には絶対に向いてない。
そう確信したバッツはとりあえずボコを入り口で待たせる事にした。
「すーぐ帰ってくるから、心配すんな」
「クエッ」
こうしてバッツはボコを「留守番役」にした。
そして3人はいざ洞窟の中へ。
3人を見送るボコの瞳は少しだけ寂しそうだった。
69:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:21:53 QxkPoKdR
FF5 12
洞窟の中は狭く、薄暗い。さらに天然の迷路のように道が、壁がうねっている。
「薄気味悪いのう」
ガラフが辺りを警戒しながら呟く。
レナは無言だ。しかしナイフを手に握り締めたまま離さない。
「うわー、湿っぽいな、なんか」
バッツは旅慣れてることもあって余裕の顔だ。
しばらく進むと左手に泉が見えた。
「天然の水が湧いてるの…?」
あたり一面の綺麗で透き通った泉。
レナは少し感動を覚える。
ここ最近ずっと不安を抱えてた彼女にとってそれは文字通りのオアシスだった。
不気味な洞窟への警戒感も少しだけ和らぐ。
「ちょっと一休みするか…」
バッツが疲れた顔で言う。と言うよりこの言葉を言ってる時にはすでに彼は休んでいた。
3人の中で肉体的に一番しんどかったのが彼であろう。精神的には充分、大丈夫なのだが。
洞窟に入って早くも休憩である。
70:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:22:45 QxkPoKdR
「ちょっと水分補給しないとな。水分補給は大事大事」
ガラフは教訓のように言った後、渇いた喉を潤すべく両手で水を溜めて一気に口元へ流し込む。
「ふー、美味いのう…」
その次の瞬間だ。
「!」
ガラフが何か驚いたように目を見開く。
「おい、ガラフ?どうした?」
バッツは一瞬心配する。天然の湧き水とは言え辺りはとても健康的な風景ではない。
毒が入ってたりしたら…
しかしそんな心配をよそにガラフは水をごくごく飲み始めた。
「お、おい、飲みすぎじゃないか?」
そんなガラフにつられてか、レナも軽く泉の水を飲んだ。
そしてレナも気付いた。
「ねぇ、この泉、ただの水じゃないわ!」
バッツが閃く。
「もしかして、回復の泉…」
もちろんバッツは3年間の旅で回復の泉のことは知っていた。
しかしこんな所から涌いてるとは思ってもみなかったのである。
「まさか、こんな場所にあるなんてなぁ」
こうして3人はこの数時間で起きた怒涛の出来事による疲れを癒した。
71:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:23:48 QxkPoKdR
FF5 13
思わぬ所で回復し、疲れを癒した3人は順調に洞窟の奥深くまで進んでいく。
もちろんモンスターも出てくるのだがバッツを中心に難なく撃破していった。
そしてバッツはガラフの戦闘スタイルを見て思わぬ発見をしていた。
戦っている姿が様になっているのだ。そう言えば体つきもかなりのものである。
「(やはり、このじいさんはただのじいさんじゃない…)」
バッツはそう思わずにはいられなくなっていた。
やがて急な上りに差し掛かる。そこでなんと足音が聞こえた。
「(まずいっ!)」
3人はとっさに壁に張り付くようにして隠れ、様子を窺う。
向こうで1人の男が辺りをキョロキョロ見回してる。
その行動はなにやら怪しげで不審だ。
「(一体何をやってるのかしら…)」
レナが小声で2人に囁く。
そして男が右側の壁の一部分を押す。
それと同時に左側の壁の一部がドアのように開いたのである。
男はそこを通って向こう側へ消えていった。
「(なるほど…隠し扉か…)」
3人は納得する。それと同時に、なにか嫌な予感も感じていた。
「ねぇ、隠し扉って事は何か隠してるって事でしょう?」
「ああ、なんかありそうだな・・・」
やや不安。だが進むしかない。戻っても進めない事はわかっている。
72:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:25:47 QxkPoKdR
FF5 14
さらに奥に進む3人。やがて外の光が差し込むポイントに差し掛かる。
「ん?出口か?」
先頭を歩くバッツが少しの希望を胸に抱く。
「一旦出てみるとするか」
ガラフがバッツに続く。やっと洞窟探検も終わりか、と胸をなでおろしかける。
しばらくぶりの外の光。眩しくて3人とも目を細める。
「…トゥールへは繋がってないわね…」
周りを見回してレナは落胆した。
一刻も早く風の神殿に行きたいのに。こんなところで足止めされてる場合じゃないのに。父に逢いたいのに。
「ふう…まだ洞窟探検は続くのか」
ガラフは精神的な疲労がどっと押し寄せる。
周りは海だった。多分ここも隕石落下のショックで出来たんだろう。そうバッツは思いながら海を眺めていた。
すると1隻の船がこちら側へ向かってどんどん近づいてくる。
「あ、船だ」
バッツは普通に流していた。航海する船。その風景はごくありきたりで自然なものだったからだ。
「え?でも今は…」
レナが気付く。そう、船は風の力を利用して動く。
ところが今は風がほとんど無い。時々微風が吹くぐらいまでに弱くなっている。
「そういや…そうだな…」
バッツは気付いても同じテンションだ。どうやらこの広がる景色に癒されているようだ。
「ささ、また洞窟探検に戻るぞ!」
ガラフはバッツとレナ、そして自分に気合を入れる意味で大きめの声だ。
バッツはまた現実に戻される。このあてのない旅は今までと違うかもしれない。
根拠も無いのにそう思い始めるのは仲間がいるからだろう。
1人旅を続けてきた彼にとってこれほど仲間の存在が心強いという事は初めての経験だった。
73:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:26:38 QxkPoKdR
FF5 15
再び洞窟の中。さっきの場所からたいして離れてないところに次のフロアへの通路があった。
3人は疲れていたのか無言で歩くだけになっている。
しかし飛び込んできた風景がさっきまでのとは違う事にすぐ気付いた。
「…ここは一体?」
レナが久々に声を出す。さっきの『外に出られるかも』と言う希望と『周りは海で行き止まり』と言う現実。
期待しすぎると裏切られた時につらい。レナはそう感じてた。
「(…じゃあ、お父様が生きているという事も?)」
「(…いや、それは大丈夫のはずでしょう?)」
「(…でも、もしそうじゃなかったら…)」
自問自答。『生きている』と確信してるのに何故こんなマイナスなことばかり考えてしまうのだろう。
―――――疲れているから。先が見えないから。風が止まりかけているから。―――――
「(全てが夢ならいいのに…)」
レナはついこの前まであった『いつもの日常』が愛しい。
74:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:28:39 QxkPoKdR
FF5 16
「どうやら、海賊のアジトみたいだな…」
チラチラ中の様子を窺いながらバッツが確信を持った瞳で言う。
如何にも『海賊です!』と言わんばかりのベタな風貌。しかし、見張り番は居眠りをしている。
「…なんか、緊張感無い海賊じゃの…」
ガラフは若干拍子抜けと言った様子だ。
「そうか、あの船は海賊船だったんだ」
再び確信を持つバッツ。
「そう言えばこっちに向かってたなぁ」
「乗せてもらえないかしら?」
いきなりレナの大胆発言。バッツとガラフは文字通り目を丸くしてレナを見る。
「いや、相手は海賊だぜ…いくらなんでもそれは…」
バッツはレナの案を当然却下する。『海賊』である。見つかったら何されるかわからない。
命の保障も、もちろん無い。バッツはとんでもない所に来ちまった、と内心ちょっと焦る。
「ならば、こっそりいただくとするか!」
「ぇええっ!」
レナ以上に大胆な案を出すガラフ。
思わず大き目の声を上げてしまい見張り番が起きてしまうんじゃないかと冷や汗たらたらだ。
しかし、見張り番は起きてない。
「(…ふー、よかったぁ~)」
一安心のバッツ。
「…じいさん、意外と大胆だな」
すぐに平静を取り戻してガラフに冷静なツッコミを入れる。そして、もちろん当然却下。
「しかし、先へ進むにはその方法しか無いぞ?」
ガラフが悪戯っぽくニヤリと笑う。
「(ああ、この顔さっきも見たな…)」
バッツはガラフの何処か飄々とした性格に振り回され、力なく笑うしか無かった。
レナもそんな2人のやりとりを見てクスリと小さく笑った。
75:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:30:06 QxkPoKdR
FF5 17
3人は今まさに海賊船の舵の前に居る。
結局『ガラフ案』が採用になった、というより提案者が言う通りそれしか方法が無かった。
バッツは腹をくくっていた。もうなるようになれ、と。元々あてのない旅なんだからこれでいいじゃないか、と。
3人が乗り込んだ海賊船は驚くほど手入れが行き届いている。
『海賊』と言うイメージからもっとゴチャゴチャしてる事を想像していたからなおさらだ。
ここのリーダーは相当しっかりしてるんだろう。
だから疲れた部下があんな風に居眠りしていたのかもしれない。
バッツはそんな事思いながら舵を手に取った。
「よーし、出発だぁ!行けぇっ!」
舵をぐるぐる左右に動かすバッツ。その顔はまるで子供のように無邪気だ。
「………あれ?」
バッツの想いとは裏腹に船は全く動かない。
「やっぱり風が無いから…」
レナは力なく呟く。またしても『希望』に裏切られた。その顔は暗い。
「いや、でもさっきは確かに動いてたぜ」
バッツは見た事実をありのまま伝える。何故風も無いのに動いてたのかは分からない。
「うーん、これでどん詰まりじゃの…」
ガラフもさすがにこれではどうしよもない。お手上げと言った様子だ。
「なにしてる!」
「「「!!!!」」」
バッツ、レナ、ガラフの3人が驚く。その声は誰のものでもない。向こう側から聞こえたものだった。
76:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:31:02 QxkPoKdR
FF5 18
3人の視線の先には紫の長髪が綺麗な男が立っていた。
周りには5、6人の部下と思われる海賊がいる。
「(…しまった、見つかった…)」
バッツは隣にいるじいさんの案に乗ってしまった事を激しく後悔した。
レナはまたしても無言だ。もうあきらめてしまったのだろうか。
「(…ほう、この男、妙に綺麗じゃの…)」
ガラフはピンチに陥りながらもその男を観察していた。
その瞳はまたあの『強く、透き通った』ものに変わっていた。
「俺の船を盗もうとは、ずいぶんと大胆な奴らだ!」
「(ああ、やっぱ海賊だ…やっべーな、こりゃ)」
バッツは高圧的で敵対心丸出しの相手に対して何も出来ない。
77:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:31:56 QxkPoKdR
そんな中レナがなんとその男に歩み寄っていく。
「おい、レナっ!」
バッツが強く呼び止める。
「(あれ?こんなのもついさっきあったような…)」
そんな事考えてる暇はないのに頭の片隅で思う。
バッツは今日と言う日を一生忘れる事はないだろう。
今までの3年間がなんだったんだと思うほど怒涛の1日を過ごしているのだから。
そして男の前に立ったレナは驚くべき発言をする。
「私はタイクーンの王女レナ。勝手に船を動かそうとした事は謝ります」
「「!!!!!」」
バッツもガラフも度肝を抜かれる。まさか、そんな身分にある女の子とは全く思ってなかったからだ。
「王女…」
「…様?」
2人は顔を見合わせる。口は開きっぱなし。
そんな2人の事も知らず、レナは必死に説得を続ける。
「お願い!船を貸して下さい!風の神殿に行かなければならないの!お父様が危ないの!」
またしても初対面の相手に感情的になるレナ。もちろん父親の事を想っての事だ。
目には涙を浮かべ、その声は擦れている。
78:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:33:57 QxkPoKdR
しかしレナの思いを踏みにじるように弄ぶように男はこう続けた。
「へぇ~、タイクーンのお姫様かい!こりゃあいい金になりそうだぜ!」
その一言は彼が非道な海賊と言う事を決定付けるに充分すぎるものだった。
「やめろっ!」
思わずバッツが間に入る。自分の命が危ない事はわかっていても、レナは守らなきゃならない。
レナと父親を必ず逢わせてやりたい。自分の父が病死したバッツにとって『父』とはかけがえのない大きなものだから。
「??」
そんな時、何かが一瞬だけ光り、男の表情が一瞬動揺した。
バッツとガラフは何故動揺したのかよくわかっていない。
しかしレナだけが気付いた。自分のペンダントを見てこの人は動揺したんだと…
そのペンダントは印象的だ。バッツもレナと初めて逢った時このペンダントに目を奪われている。
それ程、眩しい。
それは彼女の心の清らかさがそのままペンダントにも滲み出てる。そんな風にさえ思える。
「…そのペンダントは…」
男が聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟き、俯く。
しばらく黙る男。部下にも動揺が伝染している。
「…そいつ等を牢屋にぶち込んどけ!」
「へいっ!」
そう言って子分達は3人を取り押さえ船の地下部屋へ無理矢理連れて行く。
3人ともとりあえず命が助かった事でほっとしている。が、気は抜けない。
いつの間にか陽が落ちて辺りが暗くなり始めていた。
79:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:35:36 QxkPoKdR
FF5 19
狭い部屋。3人とも手足を縛られ自由がきかない。部屋の明かりも蝋燭1本で薄暗い。
どんより重い雰囲気の中先陣を切ったのはガラフだった。
「まいったのー、一体誰じゃ!海賊船を盗むなんて言い出した奴は!」
少々声が荒い。こんな状況では仕方ないだろう。
「おいおい、じいさん、アンタだろ?」
バッツは敢えて皮肉っぽく『じいさん』と言ってみせる。
「『じいさん』とは一体どーゆーことじゃっ!」
さらに声を荒げるガラフ。
「じいさんはじいさんだろう?第一『この方法しかない』とか言ってたのもガラフじゃないか!」
「一旦冷静に引き返せばよかったんだよ、ホントにさー」
バッツが捲し立てる。こんな状況になってそんなこといっても遅いのだが。
「うっ…頭が痛い…記憶喪失じゃ」
ガラフは自分が不利になった途端、記憶喪失をネタにして誤魔化した。
「っったく、ずいぶんと都合のいい記憶喪失だな」
少し呆れるバッツ。
それを最後に、しばらくまたどんより重い雰囲気が続く。
80:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:36:23 QxkPoKdR
「それにしても驚いたな…レナがタイクーンの王女だったなんて…」
冷静になったバッツが素直に驚いた事を伝える。
「ごめんなさい。隠すつもりはなかったんだけど言うタイミングも無くて…」
「そういやなんかそんな感じなんじゃないか、ってのはあったよ。『お父様』って言ったりさ」
「ええ…」
バッツはうっかり『父』を思い出させることを言ってしまいしまったなという顔をする。
でもこういう時だから敢えてじっくり聞いてみたいと思ったのも本音だ。
そこでバッツは慎重にレナの父について聞いてみることにした。
「あ、あのさ、レナの親父さんの事、ちょっとだけ教えてくれないかな…」
「うん…」
ここでレナはじっくりと、言葉を選びながら父の事について話した。
一国を治める王の話なんてなかなか聞けるものではない。バッツもガラフもレナの話に目からウロコがたくさん落ちた。
そして今回の事についての話になった…
81:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:37:21 QxkPoKdR
「…で、風の様子がおかしいから神殿へ向かったのか」
「ええ…」
「確かに俺も最近変だとは思ってたんだよ。モンスターは多くなったし」
「風が止まって、何かよくない事が起ころうとしているのかもしれない…」
レナは自らの不安を自らの言葉で大きくしてしまう。
「いや、そ、そんな、考えすぎだってば、さすがにそれはさぁ」
バッツはレナの言葉を慌ててフォローする。
「行けば良かった・・・」
「え?」
バッツは噛みあってない会話に言葉が続かない。
「お父様と一緒に行けば良かった!そうすればこんな事にはならなかった!」
急にぽろぽろと涙を流すレナ。突然の出来事にバッツとガラフは驚いている。
今日1日、レナは弱音を吐いていなかった。よほど父への想いが強いのだろう。
「(…そう言えばレナの弱い面って見てなかったなぁ…)」
バッツは今になって思い返す。レナは今日ずっと強い自分を出していた事に。
その分今になって、溜まっていた裏の感情が一気に溢れ出している。
「親父さん…絶対生きてるよ。泣く事は無い」
「そうじゃ。人間は簡単に死ぬ生き物じゃないぞ」
2人はレナを励ます。もちろん先の事は知らない。でも今はこう言うしか方法が無い。
「…ありがとう。バッツ、ガラフ…」
レナは礼を言う。
3人にとって運命的な1日が終わろうとしていた。
82:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:38:14 QxkPoKdR
FF5 20
一方その頃反対側の部屋では1人の男が俯きながら考え込んでいる。
その男の名はファリス。この海賊団のトップである。
「…なんだって、あのタイクーンのお姫さんが俺と同じペンダントを…」
ついさっきの出来事だ。自分とは全く住む世界が違う人間が自分と同じペンダントを持っている…
そのことにファリスは動揺を隠せなかった。とりあえず今は監禁してる。でも明日になったらどうするか。
ペンダントはキラリと輝く。しかし、レナの物より自分の物の方がくすんでいる様な気がしていた。
一気にワインを飲み干し床にゴロリと寝転ぶ。
「風の神殿に親父がいるとか言ってたな…」
何かを決心してじっくりと朝を待った。いつもよりも夜が長く感じられた。
83:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:39:18 QxkPoKdR
FF5 21
翌朝。
レナは目が覚めていた。今の自分が置かれている状況を再確認して『現実』を認識する。
「(今日は一体どうなるんだろう…)」
それは自分自身で決められる事。それなのに、うまく行かない。
『ガチャッ!!』
乱暴にドアが開く音でようやく目が覚めるバッツとガラフ。
「おい、開放してやるぞ」
「え?ホント?」
予想外の言葉に眠気もすぐに消える。
「…でも、なんで急に?」
ガラフが疑問を投げかける。それもそうだ。昨日はあれだけ敵対心があったのに。
「いや、お頭の命令だからな」
子分の海賊はちょっと不服そうである。
「親分って、あの紫髪の?」
「ああ、そうだ。さあ来い!」
「(やっぱり…)」
レナだけは心の中で確信していた。このペンダントのおかげだと。
84:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:41:24 QxkPoKdR
船上は妙な空気だ。ファリスと対面する3人。子分達はみんな顔が冴えない。
「俺の名前はファリスだ」
何処となくぎこちない自己紹介。
間。微かな、波の音。
「お、俺はバッツ」
「わしはガラフじゃ」
こちらもかなりぎこちない自己紹介。
それもそのはず。昨日は完全に敵同士の関係だったのだから。
それがいきなり面と向かって自己紹介。レナは不思議とこの状況がおかしかった。
昨日まではあんなに切羽詰っていたのに。昨日より少しは余裕が出てきたのかもしれない。
「あのさ、こんな事言うのも変だけど何で急に開放してくれたの?」
バッツがちょっと怪訝そうに投げかける。
「…………………」
ファリスは考える。じっと待つ3人。そして子分たち。
そして誰もが予想だにしない驚きの答えが出る。
「風の神殿へ向かう!」
85:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:43:49 QxkPoKdR
「マジで?」
「本当か!」
「(…良かった…)」
3人は顔を見合わせて大はしゃぎ。思わぬ形で目的地へ辿り着けるのだから。
逆に子分たちは鳩が豆鉄砲どころかバズーカ砲でも食らったかの様な驚きの様子だ。
「お頭、一体どういうことだよ!」
「そうですよ!なんでこいつらの味方になるんすか!」
「ちゃんと俺らに説明してください!」
子分達は非難轟々だ。一気に自分らのお頭を責める。
「うるさぁいっ!!!」
一瞬空気が凍りつく。子分たちは一斉に黙る。
「(…さすがお頭って所かのう…)」
またしてもガラフは冷静に分析、観察。
「俺が行きたいから行くんだ。悪いか?」
そう言って子分を睨みつけるファリス。その瞳はまるで狼のように鋭く、冷たい。
「…は、はい…」
「…そ、そうですよね」
「ハ、ハイ、何処も悪くないです!」
子分たちは観念したようだ。
「…で、でもさ」
バッツが空気を読みつつ慎重に話を続ける。
「今はもう風が失くなってきてるのにどうやって船を動かすんだ?」
「知りたいか?」
急にニヤリと笑って自信に満ちた顔になる。
「シルドラ!こいつらに挨拶しな!」
86:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:45:36 QxkPoKdR
すぐに海面から竜が顔だけ出す。
「ギャーゲェー」
ちょっと甲高い特有の鳴き声で挨拶。
「うわ、凄いのう」
「こいつの上に船が乗ってるのか!?」
「もしかしてこれが?」
3人は驚いた様子でシルドラを見る。
「そうだ!シルドラと俺はガキの頃から一緒に育った。兄弟みたいなもんさ!」
「この海賊船はコイツによって快適な走りが出来るってわけだ」
ファリスはとても嬉しそうな顔で自慢をする。
バッツにはその気持ちが充分わかる。自分にも『相棒』がいるからだ。
「(へー、こいつ案外いい奴なのかもな…)」
バッツは少しファリスに対しての警戒心を解いた。
「さ、野郎ども、まずは準備を整える為にトゥールへ向かうぞ!美味い酒も飲みたいしな!」
「「「「「「「アイアイサー!!!」」」」」」」
すっかり『海の男』なファリスは生き生きして威勢よく子分たちに指示を出す。
しばらくして船が動き出した。揺れも少なく、快適な船旅になる事は確実だ。
「(…あっ!ボコ待たせっぱなしじゃん…)」
バッツは思い出した。洞窟の入り口にボコを待たせている事を。
しかし今はもう海の上。いくら仲間になったとは言えまだファリスにあーだこーだ言うのもちと怖い。
「(うーん、しょうがないか。ボコ、ごめんな…すぐ戻ってくるから…)」
バッツは少しの気がかりを残しながら流れる景色をぼーっと見ていた。
87:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:48:59 QxkPoKdR
FF5 22
タイクーンには商業施設が無い事もあり、トゥールはこの辺り一帯で唯一の充実した施設を備えた村である。
そのせいか小規模な村にも拘らず人々は活気に溢れてる。周辺には自然も多く、過ごし易い環境で有名だ。
村の外に棲み付いているモンスターもみんな大した強さ、凶暴さが無い為治安も安定している。
「まずは情報収集だな。聞き込み聞き込みと…」
そう言ってバッツはどうにかしてレナの父の手がかりを見つけようとする。
しかしタイクーン王はこの村に寄っていなかったらしく、情報が全く無い。
「参ったのう…一番肝心な情報が手に入らん」
ガラフがため息。レナは2人の協力をとてもありがたく感じた分、情報なしと言う結果が申し訳なく思えた。
もちろん、その結果は誰のせいでもないのだが。
「でもその代わりに色々と他の情報が手に入ったのは良かったな」
バッツがレナの少し沈んだ顔を見てすぐさま話題を変える。
クリスタルが人工的な機械によってその能力を高めてる事。
西のカルナック地方にも隕石が落ちたと言う事。
トルナ運河の魔物は女しか狙わないと言う事。
「まさか隕石がもうひとつ落ちてたなんてなぁ…」
やはり3人が驚いたのは隕石落下である。落下の日時はタイクーン近くに落ちたのとほぼ同じらしい。つまり、昨日の朝だ。
2個も隕石が落ちてきた。この事実にバッツもレナもガラフもただならぬ不安を感じた。
「ウォルスの水のクリスタルも危ないのかも…」
クリスタルが人工的な機械によってその能力を高めていたなんて事はタイクーン王女のレナでも知らなかった。
「もしクリスタルが機械に耐え切れなくなったら…」
考えただけでも寒気がする。やはり、大きな何かが動き始めているんじゃないか。不安が大きくなる。
「風のクリスタルももしかしたら機械に耐え切れなくなってるのかもしれないのう」
ガラフは冷静に分析する。やはりダテに年を重ねていない。バッツは心強かった。
「だから風の様子がおかしくなったってわけか…その線はあるな…」
推測が続く。少しでも『どうしてこんなことになったのか』が知りたくて。
88:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:50:00 QxkPoKdR
「疲れたなぁ。ちょっと休むか?ファリスにも情報を教えないといけないし」
「そうじゃな」
「そうね」
バッツの提案に賛同する2人。
昨日と比べればなんて今日は平穏なんだろう。レナは落ち着きを取り戻しつつある。
でも、この平穏はもうすぐ失くなってしまうんじゃないか、そんな想いが消えない。
「(きっとお父様が見つかっていないからなのね…)」
そう決めつけて、不安を拭おうとする。『父が見つかる=不安が消える』と言う法則をレナは勝手に作った。
89:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:51:53 QxkPoKdR
FF5 23
さてついさっき仲間になったファリスは何処に?
答えは簡単。子分と一緒に酒場でたむろってるのである。荒くれ者達は酒を水のように飲み騒ぐ。
酒場は実に賑わっている。突然一気に大量の海賊達が押し寄せてマスターは頬が緩みっ放しだ。
舞台の上では艶めかしい姿をした踊り子達が疲れも知らず踊り続ける。
一般客はどうか?
占領されて酒場の外でまだ酔いが醒めないまま愚痴る者、
すっかり意気投合して海賊と語り合ってる老人、構わずカウンターに独りで黙々と飲む女。
そこにはまるで人生の縮図がはっきりと表われているようだ。
そこへ酒場には不似合いな2人と初めて来たのに常連じゃないかと思わせるほど酒場が似合ってる1人が店に入る。
「おう、いらっしゃい!」
マスターはとても期限が良いようだ。明るい声で3人を迎える。
「えっと…えっと…」
バッツはファリスを探す。紫の長髪なんて目立つからすぐ見つかるだろうと辺りを見回す。
しかし、その派手な髪の持ち主は見当たらない。
「いないようじゃの」
「お頭なら2階だぜ!」
3人に気付いた子分が大きい声で教えた。
「2階か」
階段を上り2階へ向かう。
2階は個室になっている。酒場というより酒が飲める宿屋と言った趣もある。
「この部屋かな?」
3人はドアの前に立った。
『コン、コン、コン』
「おーい、ファリス~」
返事がない。
90:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:56:08 QxkPoKdR
「…いないのかな?」
そう言いながらドアノブに手をかけるとなんとカギがかかっておらず、普通に開いた。
「開いてるな… ちょっと、俺が見てくるよ」
そう言っておそるおそる部屋に入るバッツ。
間も無く、部屋の左側でベッドに寝ているファリスを見つけた。
「(…なんだ、寝てたのか…)」
起こしちゃ悪いと思い静かに部屋から出ようとするバッツ。
「う、う~ん…」
『ビクッ』
丁度寝返りを打つファリス。少し驚くバッツ。
そしてファリスの方をおそるおそる見るとバッツは驚いた。
「(うわ!美人だなぁ…)」
そう、そこに寝ていたのは紛れもない美女である。
バッツは少しの間見惚れた後、心臓がバクバク言いながら部屋を出た。
「どうじゃった?」
尋ねるガラフ。
「いや…なんでも……頭がおかしくなっちまったかな?」
バッツはまだ余韻が残っていて、顔がニヤニヤしてる。
「ちょっと、どけっ!」
様子がおかしい事に気付いたガラフは自分も様子を見に行った。
「(…おお、ベッピンさんじゃっ!)…」
ガラフもバッツと同じ状態になった。少し見惚れて、心臓がバクバク言いながら部屋を出る。
「綺麗じゃ…ドキドキするぞい」
「でしょ?」
ニヤニヤしてる2人。はたから見ればかなり怪しい。
不思議そうにその様子を見ているレナは一括。
「2人共何言ってるの!」
ファリスを見に行ったはずの2人がデレデレ。レナは理解できなかった。
91:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 19:57:04 QxkPoKdR
そこへファリスが起きてきた。
「ふわあ…よく寝た」
「?なんでドアが開いてんだ?」
外に出てみるファリス。そこには仲間の姿が。
まだバッツとガラフはニヤついてる。それほどまでに美女だったと言うことだろう。
「お前ら、何やってるんだ?しっかりしろよ!」
寝起きのファリスに一括されてやっと浮かれ気分が抜けた。
「お、お、おうファリス」
顔が赤いバッツ。
「その、あのな、そうだ!実は情ほ…」
しどろもどろのガラフ。てかまだ浮かれ気分抜けてないぞ。
「悪いが、ちょっとひとりになりたいんだ… またな」
そう言ってファリスは一方的にドアを閉めた。
「あ…」
「…一体何しに来たのか分かんないじゃない」
レナは完全に呆れている。
『カチャッ』
3人の耳にカギをかける音が聞こえた。
92:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 20:00:24 QxkPoKdR
FF5 24
「ゾックー?いますかー?」
レナが大きい声で尋ねるが返りが無い。
「どうやら留守みたいだな」
「残念じゃのう」
3人が目の前にしてる家はトゥールの村でも一際大きく、目立つ家だ。
ここにゾックと言う、トルナ運河の水門を作った人物が暮らしているという。
水のクリスタルを管理しているウォルスに海路で行くには運河を通るしかないと言うわけだ。
もちろん風の神殿が先だ。しかしそのあとにもクリスタルに危機が訪れる事も考えられる。
ゾックとも話しておきたかった。しかしゾックは留守のようだ。これで風の神殿に行くしかなくなった。
レナはほっとしたような逃げ出したい様な複雑な気持ちだ。『運命』が、『結果』が、もうすぐわかる事。
それが怖い。
「(…やっぱり表情が固くなってる… 無理も無いか…)」
バッツはレナの心情を僅かながら感じ取っていた。
93:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 20:02:07 QxkPoKdR
FF5 25
この旅が始まって3日目を迎えた。
4人共今日がこの旅で一番の勝負所だと感じているようだ。
いつもより若干硬い表情。
「(…いよいよ神殿か…レナを心配させちゃいけないからなるべくいつも通りに…)」
バッツは何とかして普通を保とうとする。しかしそれは容易な事ではない。やはり緊張してるようだ。
「おい、なんか様子が変だぞ」
ガラフがバッツを気遣う。
「ガ、ガラフは緊張しないのか?」
「緊張なんてとっくの昔に忘れとるわい」
「とっくの昔?」
「そ、3日も前の事じゃ」
意表を突かれたバッツは笑いがこみ上げる。
「…ガラフらしいなぁ」
「わしの人生はついこの前始まったばかり。進む事しか能が無いからのう、いつだってポジティブに考えてるんじゃ」
バッツはガラフに助けられた気がした。自分がしっかりしなくてどうするんだ、と。
自分から選んだあてのない旅で不安になってどうするんだ、と。
「(…ありがとな、ガラフ)」
バッツは心の中で呟く。現実に言ったら恥ずかしいから、心の中で。
94:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 20:03:27 QxkPoKdR
ファリスは黙々と旅の仕度をしている。実に慣れたものだ。
その様子を見てるレナ。顔が硬い。それでも声を振り絞ってファリスに話し掛ける。
「ね、ねぇ、緊張とかしないの?」
精一杯の作り笑顔。声は震えてる。
「知るか」
素っ気無い一言にレナは少し驚いた。
「知るかって…そんな言い方無いんじゃない?」
ファリスから話を引き出そうと続ける。
「第一、先の事なんて知らんからな」
当たり前でもっともな事をまたも素っ気無く言い放つ。そしてこう続けた。
「結局不安や失望なんて自分で勝手に造ってるだけだからな、くだらない」
レナはその言葉の意味が分かったような、分からないような。
ただその言葉からファリスの優しさを感じた気がした。
95:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 20:04:12 QxkPoKdR
FF5 26
「よーし、みんな準備は出来たかー?」
「ええ」
「ばっちりじゃ!」
「大丈夫だ」
旅の仕度も済み、いよいよ出発の時。風の神殿へ向かう時。
そこで一体どんな事が起こるのか。誰も知らない。
レナは得体の知れない大きなものを感じていた。
「(…この不安はもしかしたら私のものじゃないのかもしれない…)」
風は相変わらず止まりそうなほど、弱い…
96:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/15 20:05:12 QxkPoKdR
はい、今日はこんな感じです。
多分これからも書く時はこの時間帯になると思います。
では。
97:494 ◆yB8ZhdBc2M
05/09/15 21:19:53 crxc11as
>>67
乙です。
実は私5は殆どやった事が無いので、出来ればタイトルは67さんの方で考えて頂きたいのですが・・・。
宜しくお願いします。
98:299
05/09/16 00:56:05 rYHl8TOo
>>96
お疲れ様です。
月並みですが、続けて頑張ってください。
>>97
まとめサイト更新お疲れ様です。相変わらずの丁寧に
作られてますね。
99:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/16 11:53:30 6gQViIGj
5の人GJ!
4、5、6完全に始まってるなー。
時に作者の人たち、番号だけだとそろそろ分かりにくい……と思うのは俺だけか。
100:100
05/09/17 09:02:07 8GHzIlKn
5の人、名前は入れないの?
とりあえず乙でした。
101:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/17 14:54:05 acD3GAei
>>97
分かりました。タイトル考えておきますね。
>>99 >>100
リクエストにお答えしてて分かりやすい名前付けておきました。
では今夜FF5続き更新予定です。では。
102:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/17 14:55:20 acD3GAei
しまった、タイプミスった。「お答えして」だね。1文字多かった。
103:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/17 19:28:21 3aLS+W6C
FF5 27 風の神殿1
「風の様子があきらかにおかしい!」
タイクーン王は急ぎ足で息を切らしながらクリスタルルームへ向かう。
この世界は4つのクリスタルによって維持されており、
そのうちのひとつ、風のクリスタルはタイクーンのはるか北に位置する風の神殿に祀られている。
愛娘、レナの静止を振り切ってからすでに丸1日が経過していた。
「ハァ…ハァ…やっと着いたか…」
全速力で階段を駆け上がり息を激しく切らしながら王はやっとクリスタルルーム前のドアまで辿り着いていた。
『ゴゴゴゴゴゴ…』
厳重で、重々しい扉を一気に開く。
「クリスタルは!」
王は真っ先に祭壇に目を向ける。
「…ほ、無事だったか…」
胸をなでおろした次の瞬間、信じ難い現実が王の目に飛び込んできた。
「…!!!な、なに!!!」
そう、クリスタルが異常なほど輝きだしたかと思うとあっという間に粉々に砕け散ったのだ。
その一瞬の出来事に王は我が目を疑い、何度も目を見開いた。しかし、これが現実ということを認識する。
「……………………………………」
王は呆気に取られて言葉が出ない。この世界を維持するクリスタルが、失くなった。
それは風が失くなる事を意味する。
「…こ、これは一体…な、なんということだぁっ!」
絶望とはまさにこの事を指すのだろう。王はその場で叫ぶしかなかった。
「…な、なんだ?今度は黒い影……一体、一体どういうことなのだぁっ…!!!」
そして王は目の前に出来た謎の黒い影に飲み込まれてしまった。
この部屋に残されたのはクリスタルのかけらのみ。しかし、かけらになっても眩しい輝きは変わっていない。
バッツ、レナ、ガラフが運命的な出会いをする数時間前の出来事だった。
104:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/17 19:29:04 3aLS+W6C
FF5 28 風の神殿2
「よーし、着いたぞー」
ファリスが舵に手をかけながら他の3人に伝える。
神殿に着いたのだ。船の操縦に慣れているファリスのおかげで大した時間はかかっていない。
「いよいよだな…」
バッツが今までにないこわばった表情をしている。
『あてのない旅』から『あてのある旅』への変わり目。そう意識せざるをえない状況。
「ほう、これが風の神殿か…」
ガラフはやっとの事で目的地へ辿り着いた事に安心している。
しかしまだこれからが気を引き締めていかなければいけない。
「(お父様…)」
レナの心は揺れている。『もうすぐ父に逢える』と言う楽観的な思いと『もしかしたら…』の絶望的な思い。
全ては風のせい。そう思わないと自分をコントロールできなくなってしまうんじゃないか、そう感じていた。
105:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/17 19:30:44 3aLS+W6C
FF5 29 風の神殿3
4人が神殿に入って間も無く、レナが見覚えのある顔を見つけた。
「だ、大臣!」
「レ、レナ様!無事だったのですね!突然城を抜け出したものだから心配で心配で…」
大臣はレナが無事であった事に心からほっとしている。
「ええ、どうしてもお父様が心配で…抜け出した事については申し訳ないと思ってます」
「(…へ~、王女様、か…)」
このやりとりを見ていたバッツは内心そう想う。今までレナが王女とは言え、それを立証する人間がいなかった。
しかし、こうして『大臣』とのやりとりでレナが本当に王女だと納得したのである。
それと同時に、なんだかレナが少しだけ遠くなったような気もしていた。
「一体どうしたのですか?」
「はい、レナ様もお気づきでしょうが、風の様子がおかしい事に気付いた我々は王の後を追ってこの神殿に向かっていました。
しかしこの神殿に着く直前、風が止まり大量の魔物がこの神殿に入っていったのです!」
大臣は興奮気味に伝える。レナは顔が青ざめた。
「お父様は!?」
「はい、王は最上階に登られたと思われますが…一向に帰って来る気配がないのです…」
「きっと、何かあったに違いありません!」
レナの気持ちも知らず大臣と一緒に神殿に来た学者が告げる。しかし、こうなった以上、そう言うしかない。
それはレナも分かっていた。
「…よし、そのクリスタルのある最上階に行くか」
ファリスがボソッと呟くように3人に伝える。
「ファリス… ええ!」
レナはファリスの言葉を嬉しく思った。
「ふむ、決まりじゃな。他に情報はあるかね?」
ガラフが尋ねる。
「どうやらこのフロアには魔物はいないようです。ただ2階より上は…」
「クリスタルは最上階に祀られています。力を増幅させる機械と共に」
「どうやら急に機械がエラーを起こしてコントロール不能になってしまったらしいのです」
何人かの学者から情報を集めたあと、4人はクリスタルルームを目指した。
106:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/17 19:31:47 3aLS+W6C
FF5 30 風の神殿4
「やっぱり魔物は大した事ないな」
バッツは威勢が良い。
神殿の2階。確かに大臣の言うとおり、魔物が多い。しかし、やはり強くはない。
所詮、この地域の魔物が神殿で凶暴化した程度だ。もうある程度『戦い慣れ』した4人は順調に進んで行く。
そして3階も順調に進んで行ったのだが…
「お、おい、あの鳥やたらでかくないか?」
「ふむ。初めて見る顔じゃのう」
「なんか、やっかいそうだな」
「…でもあの鳥の後ろに階段があるわ…」
4人の決心は固まった。
「おい、そこのでかい鳥!ちょっとさ、どいてくれないか?」
一応交渉するバッツ。しかしその巨大な鳥は鋭い目と巨大な毒々しい赤い羽根を広げて今にもこっちに迫ってきそうだ。
「ちっ、やっぱ交渉は無駄か…」
「シャァァァァ…」
不気味で静かな鳴き声を上げながらどんどん迫ってくる巨大な鳥。
「来るぞっ!」
こうしてその巨大な鳥との戦いが始まった。その名は、ウイングラプター。
107:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/17 19:33:57 3aLS+W6C
「どうする…」
「とりあえず、殴れ!て言うか、俺たちにはそれしかないだろ!」
「そうじゃの!」
「やるしかないわ!」
そう言って4人は一気にウイングラプターに斬りかかる。もう、手段も何もあったもんじゃない。
バッツの言うとおり、今の4人が攻撃する方法は非常に限られていたのだから。
バッツたちが攻撃を続けてる中、
集中攻撃に耐えかねたウイングラプターが羽根を大きく、激しく動かし始めた。
「一体何…」
『バサ、バサ、バサ、バサ、バサ、バサ、バサバサ、バサバサバサバサ…』
その翼から放たれる風はやがて強力な突風を巻き起こし、バッツたちを襲った。
「う、うわぁ!!!」
「な、なんじゃこの風は!」
うねるような突風。風の神殿に棲む魔物だけあって、風を使った攻撃。
「さすがにでかいだけあるな…」
「息が出来ないほどの風だったわ…」
今までにない強力な攻撃に少し引く4人。様子を窺おうとしての事だ。
しかし、ウイングラプターもさっきまで激しく動かしていた翼を使い、身を守り始めた。
「防御姿勢?」
「いや、なにかの罠…」
そうガラフが言い残す前にバッツはチャンスだと言わんばかりに勢い良く剣を振りかざそうとしていた。
「あっ!バッツ!」
「ほーら、攻撃は最大の防御ってね!守ってても勝ちはやって来ないぜ!」
『ズシャッ!』
調子よくウイングラプターを斬り付けるバッツ。勝負あったか。
「おい、こりゃチャンスだぞ!もうさっさと倒そ…」
バッツが余裕の顔で敵に背を向けたその時だった。
「バッツ、危ないっ!」
108:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/17 19:35:37 3aLS+W6C
『ドガッ!』
「ぐわっ!」
なんとウイングラプターの爪がバッツの腹にまともにヒットしたのである。
「ゲホッ!ゲホッ!ゲホッッ!…きっついな…今の一撃は…」
「だから言わんこっちゃない、どんな相手でも舐めてはいかんぞ」
「うっさいなー、さっさと倒した方がいいだろ!…ゲホッ…いやー、いってーわ…」
「ふ、まぁお主はもうそこで休んどけ!あとはわしがやる」
その瞬間、ガラフがあの瞳になった。強く、鋭い瞳。
それはいつものとぼけたものとはあきらかに違う、百戦錬磨の戦士が乗り移ったかのような変貌ぶりだ。
「(…また、変わった…)」
バッツは痛みを気にしながらガラフの変化も見逃してはいなかった。
ガラフはウイングラプターが翼を広げるタイミングをじっと待った。
「(…奴は一瞬の隙が出てくるはず…)」
そしてようやく翼を開きかけたその時!
「ここじゃあああぁぁぁっ!」
『ジャッ!』
ガラフが高く舞った。そして、一気に剣を振り下ろす。翼と翼の僅かな隙間に剣を通すかのように、斬った。
「ギャャャャゥアアゥアアァァァ!!!」
ウイングラプターから大量の血が噴出す。体の真ん中をやられちゃ誰だって生きていられない。
「(…すげぇ…やっぱ只者じゃないとは思ってたけど…)」
「(…すごい!!!うちの兵士にもこんなに腕の立つ人はいないかも…)」
「(一体、ガラフは何者なんだ?)」
3人ともガラフの剣さばきに言葉がない。それほどまでに、鮮やかで、強い。
「ふーぅ、まぁ、たいした事はなかったのう」
当の本人はやりきった充実感と倒せた安心感で笑顔だ。
「ん?みんなどうした?さっさと上へ行くぞ」
3人の思いなんて知らず、またいつものガラフに戻った。一体、彼は何者なのであろう。
109:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/17 19:37:07 3aLS+W6C
FF5 31 風の神殿5
巨大な鳥、ウイングラプターとの戦いも比較的余裕を持って終われたことにより一行は少しの希望を持ち始めていた。
しかし、やはり結局何があるのかも、未来の事も、知る手立てが無い。
単なる気休めにならなければいいが。そうどこかで思っていたのも本音だった。
そしていよいよクリスタルルームまで辿り着いた…
「やっと着いたな…」
「まぁ、やっとって程長くも無かったがのう」
「よし、行くぞ」
レナは無言だ。
「(きっと、この先には明るい『希望』が待っている)」
そう信じながらも、やはり『不安』はずっと消えず、続いていた。もはや、誰のものなのかわからなくなった『不安』。
「扉が開いてる…」
先頭のバッツが一言。それはつい最近先に誰かがここに来たという事を意味する。
それは、タイクーン王しかいない。
「お父様…お父様ーー!」
レナが堪らずクリスタルルームに駆け込んだ。
しかし、そこで見たものはレナの不安をより一層強くしてしまう残酷なものしか無かった。
「!」
レナは驚きに体が震え、膝から崩れ落ちた。全身の力が一気に抜けていくのが自分で分かった。
「レナ!どうしたん…」
後から入って来た3人もレナを気遣おうとしたが、目の前の光景にその事を一瞬、忘れた。
「クリスタルが…」
「く、砕け散っておる…なんて事だ…」
「………」
「く、砕け散っているなんて…これは…」
レナは必死に言葉を探そうとしている。しかしこの絶望的な状況に言葉など見つかるはずも無かった。
110:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/17 19:38:15 3aLS+W6C
そこへ突然、眩い光が辺り一面を包んだ。
「ま、眩しいな、何の光だ?こりゃぁ」
その光は赤、青、黄色、そして水色と次々と変化していく。
その場にいた4人の心を包み込むかのようにあたたかく、やわらかい光。
「なんだか、あったかいのう…」
ガラフがその見た目に合った口調でしみじみと言う。
「この光は一体?」
さっきからあまり表情を変えないファリス。
「もしかして…クリスタルの…心?」
「ク、クリスタルに心なんてあるのか?」
レナの突飛な発言に対してバッツは至極当然な疑問をぶつける。
「わからない…けどこの光はまるで、私達を歓迎しているよう…」
「…レ…ナ……」
「!」
謎の光について話していた時、レナが非常に聞き覚えのある声がクリスタルルームに響いた。
111:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/17 19:39:34 3aLS+W6C
FF5 32 風の神殿6
「お父様!!」
「なに、親父さんの声か!」
そう、レナの父、タイクーン王の声。しかし、声だけ。姿が見えない。
「お父様!!何処にいるの!!」
レナは必死で父を探そうと辺りを見回すが当然姿は見当たらない。
「…レ…ナ……」
やがてクリスタルがあった祭壇に王の姿が浮かび上がった。
「!?」
ファリスはその王の姿を見て、一瞬動揺する。何処かで見覚えがあるような、運命的な何かを感じたようだった。
「お父様!生きてたのね…」
レナは安堵の表情を浮かべる。やっと、捜し求めた父が見つかったのだから…
しかし、残酷にもその安息は長く続かない。
「よく聞くのだ。お前達は、選ばれし4人の戦士…4つの心が宿る者」
「え?…お父様!どういうことですか?」
レナは奇妙に感じた。父がこちらの問いかけに答えようとはせず、一方的に話し始めたことを。
「風のクリスタルは砕け散った。そして、他の3つのクリスタルも、砕けようとしている。お前達は、それを守るのだ」
「だから、お父様、ちゃんと説明してください!!」
レナは涙目だ。まったく話が飲み込めない。父は自分の意思ではなく、まるで言わされてるかのようだ。
そんな違和感を感じ取っている。
「邪悪な心が、蘇ろうとしている…全てを闇に変える者…」
その言葉を最後に王は黒い影に包まれ始めた…
「お父様!!」
「行け!4人の戦士よ。クリスタルを守るのだ…」
王はその言葉を最後に完全に影に包まれ、消えた。跡形も無く。
と言うより、王は最初からそこにはいなかったのかもしれない。
「そんな…やっと、逢えたのに…」
レナは目に涙を浮かべて俯いた。バッツもガラフもファリスもさすがに掛ける言葉が無い。
112:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/17 19:41:54 3aLS+W6C
「!!」
その時、またも辺りがあの光に包まれた。
そして砕け散ったクリスタルのかけらが輝きながらバッツたちに向かって動き始めた…
「うわ、かけらが勝手に動いてるぞ!」
「これはどういうことじゃ…」
「…………」
黙ってかけらのひとつを手にとるファリス。その瞬間、ファリスの姿が黒魔導士の姿に変わったのだ。
「これは…かけらに色々な力が封じ込められてるって言うのか?」
そう言いながらバッツはかけらを拾い上げる。するとナイトの姿に変化した。
「…どうやら、そのようじゃの」
ガラフは確信をもってかけらを手にとる。モンクの姿に変化。
「この力を使って、残されたクリスタルを守れと言うの…」
レナはさっき父が残していった言葉をようやく理解し始める。
レナはクリスタルの力によって白魔導士の姿に変わった。
「このかけらは俺たちの力になってくれるみたいだな…」
「ああ、そのようじゃな…」
「とりあえずトゥールに戻るか」
「ええ……(…お父様…)」
レナはクリスタルのかけらに少しだけ励まされていた。
何故なら、そのかけらに僅かな『希望』を感じ取る事が出来たから。
「(お父様は…きっと生きている…)」
こうして風の神殿での運命を彼らは受け入れた。
影に包まれ消えたタイクーン王。砕け散った風のクリスタル。
4人それぞれ、この旅が徐々に自分の思っていたものより遥かに大きくなりそうな事を感じ始めていた。
113:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/17 19:44:14 3aLS+W6C
FF5今日はこんな感じです。
で、全部書き終わって名無しだったことに気付くと言う…
ゲームで言えばまだ1時間も経ってないかなぁ。
114:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/18 04:04:35 1s9FMJGX
5書きさん乙です。ペース早いですね。
299氏も新作待ってますよ。
297氏とかHHOM0氏とか433氏はいなくなっちゃったかな・・。
115:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 13:37:24 b8NtcMRN
今日も夜更新予定です。
>>114
書く意欲があるうちにがーっと書こうかなと思いまして。
まとめサイト管理人さんへ。各題考えておきましたのでよろしくお願いします。
2 隕石が導く出逢い
3 隕石が導く出逢い2
4 隕石が導く出逢い3
5 隕石が導く出逢い4
6 隕石が導く出逢い5
7 あてのない旅
8 あてのない旅2
9 あてのない旅3
10 あてのない旅4
11 洞窟探検
12 洞窟探検2
13 洞窟探検3
14 洞窟探検4
15 洞窟探検5
16 海賊
17 海賊2
18 ペンダント
19 今日の終わりに
20 ペンダント2
21 シルドラ
22 トゥールにて
23 酒場にて
24 ゾック
25 風の神殿へ
26 風の神殿へ2
116:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:15:11 MmLUBC8j
FF5 33 運河の鍵
4人は1階に待機していた大臣達にクリスタルルームで起きた事を報告した後、トゥールに戻った。
「こりゃ、とりあえずウォルスへ行くしかなさそうだな…」
「ふむ。タイクーン王にああ言われてしまった以上、なんとしてでもクリスタルを守らねばなるまい」
「しかし、ウォルスへ向かうには?」
「ええ、それならゾックを尋ねましょう。この前は留守だったけど…」
4人は酒場で今後について話し合っていた。もはや後戻りは出来ない。
こうなったら残りの3つを守るしかない。タイクーン王の所在ももちろん大事な事だが、
それよりもっと大きななにかがある予感は、クリスタルが砕け散ると言う異常な事態によってさらに現実味を増している。
『コン、コン、コン』
「ゾックー?いますかー?」
レナが大きい声で呼びかけた。
「はい、どちら様…!!」
今度はその呼びかけに反応がある。ゾックは呼び出した主を確認して驚いた。
「おお、レナ様ではないか!お久しぶりでございます。レナ様がお城を抜け出したと聞いて心配していたんですよ」
ゾックはレナが城を抜け出して以来、ずっと心配していた。
さっき留守だった理由も、レナの事について少しでも情報を知るべく、自らの足で情報収集に励んでいた為だ。
ゾックは昔、レナが生まれる前にタイクーンの大臣として城に仕えていた。
その為、タイクーン王家と非常に親しい付き合いがある。トルナ運河の鍵の管理を任されているのもそういったことからだ。
現在はここトゥールの大きい一軒家で静かに暮らしている。
「ゾック…心配をかけて本当にごめんなさい」
「いやいや、こうして無事だったんだから何よりです」
そう言ってレナを優しく見た。その顔は安心感でいっぱいだ。
「ささ、皆さん、上がってください」
ゾックは一行をリビングへ案内した。
117:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:17:09 MmLUBC8j
「…ふむ。ウォルスへ向かう為にトルナ運河の鍵を貸して欲しいと…」
「ええ、一刻も早くこの事を伝えなければいけないのです」
レナが今までにあった出来事を要所を抑え、簡潔に話した。
「しかし、風のクリスタルが無いとなると運河の反対側から魔物が入り込んでる可能性が非常に高いと思われますが…」
ゾックは困ったようにそう切り出した。
トルナ運河はかつての戦争で、ウォルスがタイクーンへ侵攻しようとした際に自然の地形を利用して人工的に作ったものだ。
その為厳重な門はタイクーン側にしか設置されていない。
タイクーン側が侵攻されない様にする為、ウォルス側に気付かれないように急遽作った物。
片方にしか門が無い特殊なものになっているのは、かつての戦争の名残なのだ。
「でも、もうそうも言ってられないんだ。他のクリスタルまで砕けたらそれこそ世界が終わる」
ファリスは冷静な口調でゾックに迫る。表情もあまり変えない所が返ってゾックにプレッシャーとなった。
「そうじゃ。こうしている間にもクリスタルが砕け散るかもしれんのだぞ!」
「お願い、ゾック。もうこれは私達だけの問題じゃないの!」
「現に、もう風のクリスタルはこの世に無い。これだけでも異常な事なんだから」
ファリスがきっかけでガラフは強い口調で、レナは頼み込むように、バッツは現実を強調した。
ゾックはしばらく考え込んでいたが、
「…分かりました。私も皆さんと同じ意見です。運河の鍵をお渡しいたしましょう」
「ありがとう!ゾック!」
結局折れた。と言うより渡さなければどうにもならない事をこの4人の顔から悟ったのである。
「ですが、今日はもう遅いです。今夜は我が家にお泊り下さい…」
「え?もうそんな時間か?」
バッツはその言葉に少し驚き窓の外を見る。もうすっかり辺りは暗くなっていた。
118:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:18:31 MmLUBC8j
FF5 34 真夜中に
その日の真夜中。バッツは独り、ゾックの家の前にある小さな川の前で俯きながら昔を思い出していた。
「クリスタルか…そう言えば、親父が昔…」
「クリスタルだけは、守らねばならん…」
「私にもしものことがあっても、バッツにはクリスタルの事は言わないでくれ…」
「あいつには…背負わせたくない…」
「あなた!そんな事言わないで!!」
バッツが幼い頃に父ドルガンと母ステラが何気無くしていた会話である。
幼いバッツにはその意味が分からないまま言葉だけを覚えていた。
父の「私にもしもの事があっても」と言う部分とそれに対する母の強い口調が妙に印象に残ってしまったからである。
今になってバッツはその意味を感じている。そして、クリスタルの事を背負っている。
「もしかしたら、これも必然だったのかもな…」
バッツは小川に自分の顔を映しながらそっと呟いた。その顔は少し泣いているように見えた。
家に戻るとゾックもまた独りで考えていた。それに気付いたバッツが話し掛ける。
「ゾック?どうしたんだ?」
「おお、バッツか…私はレナ様の事が心配なんじゃ…」
ゾックは神妙な面持ちで静かに話す。
「お主こそこんな真夜中に何を?」
「いや、ちょっと昔のことを思い出してたんだ…」
バッツの顔が少し曇る。ゾックはそれに気付いたようで、
「頼む!レナ様を守ってやってくれ…」
バッツに願うようにそう言うと、静かに自分の部屋に戻っていった。
「ゾック…」
バッツも静かに寝室へ戻った。
119:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:21:51 MmLUBC8j
FF5 35 ファリスの決意
翌朝。船旅日和の快晴に恵まれた。朝日がさんさんと降り注ぐ。
「レナ様!!どうか、くれぐれもお気をつけて!!運河の魔物はおそらく、雷に弱いと思われますぞ」
「ええ。わかったわ!本当にありがとう!」
そう言って一行は貴重な情報と運河の鍵を貰い、ゾックと別れ、旅支度をする。
クリスタルのかけらの力によって魔法が使えるようになった為、魔法も購入した。
こうして、一行がトゥールの村を出ようとした時だった。
120:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:23:58 MmLUBC8j
「お頭ー!待ってくれー!!」
「あっしらも行きますよー」
ファリスの子分達が続々と酒場から出てきた。みんな顔が紅い。
こうして子分が勢ぞろいした所でファリスは切り出した。
「お前達は置いていく!」
冷たい口調で言い放つ。
「ええっ!?」
「どうしてだい!?」
「あっしらはお頭に付いて行きますぜ!」
子分達は一気に酔いが醒め、ファリスに詰め寄る。
「いや、お前達はアジトで待ってろ」
「「「「「「「お頭!!!」」」」」」」
子分の声が一斉に揃う。
「いや、この旅はとても長い旅になりそうなんだ…お前達は俺がいない間、アジトを守ってくれ!頼む…」
ファリスがさっきとは違う、力強く、熱のこもった口調になる。
しばしの沈黙の後、子分達がファリスに伝える。
「分かりやした!必ずアジトを守って行きます!お頭もお気をつけて!」
親分の想いを受け止めたのである。
「…ありがとう。じゃあ行ってくる。アジトには必ず戻ってくるからな」
「はい!お気をつけて!」
ファリスは子分達へ、感謝の気持ちでいっぱいだ。
「ファリス…本当に良いのか?」
「ああ、あんなにたくさんは連れて行けないだろう?」
「ま、まあな…」
バッツはファリスの顔が今までと違うような気がした。
121:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:25:33 MmLUBC8j
FF5 36 クリスタル
一行は運河に向かって順調に航行していた。この内海に魔物が全く居ないのも運河の門のおかげだ。
甲板では穏やかな潮風が吹いている。バッツが甲板に出ると、レナが暗い顔をしていた。
「レナ、どうしたんだ?」
何気無く軽く話し掛けるバッツ。
「風のクリスタルは砕け散ってしまった…」
バッツはその言葉に少し顔が硬くなる。
「今は風の力が弱まっているだけ。でもしばらくすれば風は完全に止まってしまう。
そして何年かすれば、空は完全に澱み、鳥たちは飛ぶ場所を失う…」
レナは淡々と数年先に迫っているであろう未来を予言する。
風のクリスタルが失くなったのだから、この予言は確実に的中してしまう事をレナもバッツも分かっていた。
「そ、そりゃ酷いな…でももうどうする事も出来ない…」
バッツはやり場のない怒りを覚える。クリスタルが砕けた理由は謎のままだからだ。
「お父様は、他の3つのクリスタルを守れと言っていたわ」
「他の3つって…水と、あと2つは?」
「火と土。あわせて残り3つ」
「もし全部砕け散ったら…」
バッツがあってはならない事を尋ねる。もちろん、そうならないように今、ウォルスへ向かっているのだが。
「多分暫くは何も起こらない。でも…徐々に大地は腐り、水は澱み、流れを止め、火の力が止まる」
「それって…」
「人の住めない世界になってしまう…」
レナはさらに表情が重くなる。
「そりゃ、本格的にまずいな。どうにかしてクリスタルを守らないと…」
バッツはあれこれ考え始める。
しかしまだ何も分かってないのだから考えても分からない。余計焦る想いが大きくなってしまう。
122:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:27:26 MmLUBC8j
「クリスタルを守るぞい!」
そこへガラフが威勢よく言ってきた。
「ガラフ!記憶、戻ったのか?」
「いいや、もうわしの記憶とか言ってられる状況じゃなくなってきておる。なんとしてもクリスタルを守る!」
ガラフは窮めて明るく、元気よく決意を口にする。
「俺も行くぜ」
さらにこの会話の輪にファリスまで入って来た。
「レナの親父さんを捜すってのもあるしな」
「ファリス…」
レナはファリスの思いがけない言葉に胸が熱くなる。
「黒い影に包まれて消えたんだよな…」
「大丈夫だ。レナの親父さんは生きてるだろう。絶対に死んではいない」
ファリスはいつもの口調で語る。しかし、その裏にはしっかりとした想いが込められている事をレナは分かっていた。
「バッツ…一緒に来てくれる…?」
レナは改めてバッツに尋ねる。
「俺は、ただ旅をしていただけだ…ただ、こいつを見てると…」
そう言ってバッツはポケットからクリスタルのかけらを取り出して手の平に乗せた。
かけらは初めて見た時から全く変わらない輝きを放ち続けている。
「クリスタルのかけら…」
レナがそのかけらをじっと見つめる。何処までも透き通った、汚れのない輝き。
「もうこのかけらはこれだけで充分だ。残り3つ、なんとしても守らなきゃならないな!」
バッツはかけらを握り締めながら気合を入れる。
「よーし!行くぞい!」
ガラフがそれに続く。もうすぐ船が運河に着こうとしていた。
123:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:28:38 MmLUBC8j
FF5 37 トルナ運河
「こ、これが運河の門か…さすがにでかいなぁ」
バッツは見上げながら呆気にとられていた。
「ほら、ぼーっとしてる場合じゃないぞ。さっさと進もう」
ファリスがそう言って門の鍵穴に鍵を差し込み、ぐるりと回す。
『ゴゴゴゴゴゴゴ・・・』
重厚な音がして門がゆっくり開く。
「よし…こっからは魔物が出てくるらしいからな、気を引き締めて行こう」
「そうじゃの!」
「ええ…」
運河は如何にも人工的に作った様な形状だった。
川の両側には切り立った岩盤がかなり高い所まで続いており、圧迫感を感じさせる。
そして運河を進んで行くと、早くも魔物が現れた。
10本の足が不気味なサッカーと言う大きい烏賊と、紫色の体が不気味なオクトラーケンと言う大きい蛸だった。
「イかもタコも食うには大きすぎるんじゃないかっ!」
バッツがそう言いながら剣に手をし、すぐさまオクトラーケンを斬りつける。
ガラフは独特の構えで魔物を威嚇する。モンクは自らの体が武器なのだ。
「(…ここはわしらは大丈夫じゃろう。レナさえ気にしておけば…)」
ガラフはトゥールで得たある情報を思い出していた。
それは、この運河に出る魔物は女しか狙わないと言う事。
この4人の内女性はレナ1人だけ。つまり、あとの3人は無傷でここを通過できると踏んでいた。
124:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:30:22 MmLUBC8j
「きゃあっ!」
オクトラーケンがその蠢く足でレナに襲い掛かる。しかし、威力はたいしたことがない。
「(…ふむ。やはり情報は正しいようじゃのう…)」
ガラフは心の中で確認した後、一気にオクトラーケンに襲い掛かった。
「これでも喰らうのじゃあっ!はっ!」
拳がオクトラーケンを襲う。元々体が軟らかい魔物にとって固い拳での攻撃はひとたまりもなかった。
オクトラーケンはそこら辺をのた打ち回ったあげく、息絶えた。
残るサッカーもファリスの魔法『サンダー』であっさり一蹴。海に出る魔物は雷に弱いとゾックに教わっていたからだ。
こんな感じで順調に進みながら、次々と襲い掛かるサッカーとオクトラーケンを倒してゆく一行。
しかしそんな中、ガラフの目を疑う事態が起こった。
「うわあっ!」
「(なに!?)」
そう、今までレナばかり襲っていた魔物が突然ファリスを襲いだしたのである。
「(…女しか狙わないはずじゃが…情報は間違っていた?…いや、今までわしとバッツは全く攻撃されていない…)」
ガラフは混乱する。情報は確かに正しい。しかし、ファリスが攻撃された。
あとの3人はこの情報を忘れてしまっているようだ。
「(…もしかして、ファリスは…)」
ガラフの心にあるひとつの疑惑が持ち上がっていた。
125:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:31:41 MmLUBC8j
FF5 38 運河に封じられし魔物
「もうすぐ運河も終わりそうだな」
「やっとウォルスへ行けるな」
徐々に景色が開けてきて一行は少し安心していた。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…』
突然の轟音。それと共に大きな渦巻きがあっという間に出来上がった。
「うわ!一体なんじゃ?」
ガラフが突然の事態に驚く。
「まさか…運河に封じられし魔物…」
レナが意味深に呟く。当たって欲しくなかったが、その願いも空しく、渦の中心から大きい海老の魔物が姿を現した。
「おい、ファリス、もう構わずに進めよう!運河も終わりだから強行突破だ!」
バッツは一気に逃げる事を伝える。一刻も早くウォルスに着きたい。水のクリスタルの元へ行かなければならない。
「ああ、そうしたい所だが、舵が聞かないんだ!」
「なにぃぃぃぃっ!」
ファリスは今までに見せた事のない必死の形相で舵を目いっぱい動かしていた。
しかし魔物の作り出す渦に一隻の船は成す術が無かった。
「吸い寄せられてるぞっ!」
「くっそ、こうなったらあいつも倒すしかない!」
そう言っている間に、船は魔物の元へ引き寄せられていった。
126:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:33:07 MmLUBC8j
FF5 39 運河に封じられし魔物2
毒々しい赤色が目に痛い大きい海老の魔物、カーラボス。
「ったくここの魔物はイカとかタコとかエビとか、そんなんばっかだな!」
バッツが忌まわしそうに吐き捨てる。もうすぐ運河を抜けられそうと言う所でこの事態だ。
かなりイライラしている。
「ロブスターにして食ってやる!うりゃぁ!」
『ガシュッ!』
カーラボスは幾分ダメージを受けたようだが、やはりその固い皮膚に守られており、防御力は高い。
そしてそのお返しだと言わんばかりに自慢の尾の先でバッツを襲う。
『ザクッ!』
「ぐあっ!」
バッツはその痛みに思わず声をあげる。しかし、この程度で倒れるほど弱くはない。しかし…
「バッツ?どうしたの?」
「…いや…しび…れて、動けな…」
そう、あの尾の先には攻撃したものを痺れさせる毒素が蓄えられているのだ。
「早くも1人脱落じゃ!ファリス!とにかくサンダーじゃ!」
「わーってるって!サンダー!」
空から雷を落とす黒魔法がサンダーだ。海に棲む魔物は水を通し易い事から雷に弱い。
『ゴロゴロゴロ… ピシャーッ! ドガゴッ!』
さすがにカーラボスもこの攻撃は効いてるようで足をじたばたさせている。
「よーし、手ごたえありだな」
ファリスが手ごたえを感じたその時、頭上に大きい竜巻が発生した。
「うわぁ!なんだぁっ!うわあああああああああっ!」
竜巻はたちまちファリスを飲み込んだ。
127:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:35:01 MmLUBC8j
「「ファリス!」」
レナとガラフが声を揃える。
「ちぃ、足をじたばたさせてるのはこれを狙っていたからか!」
ガラフが吐き捨てながら固い拳で3、4回殴りつけた。
そのダメージで竜巻が消えファリスが甲板に叩き付けられる。
『バタッ!』
「ぐっ!」
「ケアル!」
レナはすぐさま回復の白魔法をファリスにかける。
ファリスの周辺がやわらかい光に包まれ、ファリスは何とか回復した。
「…ふぅ、さすがに危なかった。あいつ案外頭も良いな…」
「でもあいつの攻撃はこの2パターンしかないようじゃ!」
ガラフは攻撃を見切っては固い拳で殴りつけ、ファリスはサンダーでひたすら攻撃した。
「…しぶといわね」
「ああ、さすがにこっちがしんどくなってきたわい」
「もう魔力が残ってない…」
3人もなかなか倒れないカーラボスに対してだんだん疲労の色が見えてきたようだ。
「おい、俺を忘れてないか?」
「「「あっ」」」
そう、一撃喰らわせただけで麻痺したバッツである。
「やっと動けるようになったぜ…全然戦ってないからなぁ」
そう言うとおもむろに剣を握り締めカーラボスに突進していった。
「このやろーっ!ロブスターにして食ってやるって言っただろっ!」
『ガシュッ!』
バッツの渾身の一撃がカーラボスを斬りつける。
カーラボスはのた打ち回り口からは泡を吹き始めた。
「よし、今度こそ倒せたみたいじゃ。ファリス!早く船をここから出せ!」
ガラフがそういう前にファリスは舵を握っていた。船を飲み込んだ渦も次第に弱まっていき、何とかここからの脱出に成功した。
128:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:36:25 MmLUBC8j
FF5 40 運河に封じられし魔物3
「ふう…手強いエビだったな…」
バッツがやりきった明るい表情で呟いた時、ファリスが気付いた。
「シルドラが居ない!」
「「「えっ!」」」
そう、この船の命でもあるシルドラがいなくなっているのだ。
「あっ!あそこよ!」
レナがシルドラを見つけて指差した先はついさっきカーラボスと戦っていた渦の中心だった。
「あいつ、まだ生きてるぞ!シルドラを道連れにする気だ!」
バッツがそう叫ぶ。
その言葉と同時にファリスは海に飛び込もうとした。
「シルドラーーーーッ!!!」
「ファリス、何をする気だ!」
「そうじゃ、幾らなんでも海に飛び込むなど死を選んでいるようなものじゃぞ!」
バッツとガラフが慌ててファリスを止めに入る。
「離せ!離せよ!!」
「駄目じゃ!」
「シルドラーーーーッ!」
そんなやりとりの目の前でシルドラはカーラボスと一緒に海の中へ消えていった…
やがて渦も消え、静かで穏やかな運河が戻ってきた。
129:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:37:17 MmLUBC8j
FF5 41 漂流
さっきの戦いから1、2時間が経ち、辺りは暗くなり、海は鮮やかな青から漆黒の闇のように変わっていた。
主を失った船はただその波の流れに身を委ねるしかなかった。
「ファリスは……」
「ふむ。今は、そっとして置いてやるのが良いじゃろう…」
バッツはシルドラを紹介するファリスの生き生きとした顔を思い出していた。
もし自分があんな状況になったら?自分も良き『相棒』がいる。
ボコを待たせっぱなしにしている事を後悔し、反省し、何事もないよう祈るしかなかった。
ファリスはただ黙って俯いていた。自分の『兄弟』同然のシルドラが目の前で、いなくなった。
波に飲み込まれてゆくシルドラの悲しそうな瞳をファリスはただ見ているしかなかった。
「ファリス…」
レナはそんなファリスを前にしてどう声をかけてやればいいか分からなかった。
そんな時、ふとファリスのある言葉を思い出し、それに倣ってファリスに声をかける。
「大丈夫よ…シルドラは、きっと生きてる…。絶対に死んではいないわ…」
ファリスはただ下を向いて黙っていた。
130:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:39:54 MmLUBC8j
FF5 42 船の墓場
一夜が明け、バッツ達が目を覚ました。ここがたまたまウォルスだったら良いのにな、なんて期待してみる。
甲板に出てみると向こう側まであたり一面、船の山。しかも、どれも完全に朽ちている。
当たり前だが、淡い期待は外れた。
「船の墓場か…」
「なんだ?その物騒な名前は?」
ファリスは海賊をやっていただけあって知っていた。
「漂流した船が集まって出来たアンデットの巣窟だ」
「うわ、そりゃめんどくさいなぁ」
トゥールを経ってかなりの時間が経過している。バッツはもうそろそろ町や村で休みたかった。
突然のアクシデントにより、ウォルスにいるどころか、よく分からない場所に来ている。
バッツはテンションが下がるのを感じ、気を引き締めなおした。
「とにかく、ここを脱出だな」
レナはファリスがいつも通りのファリスになって安心していた。
シルドラを一時的にでも失った彼のショックは大きいはずなのに。
スケルトン、カルキュルスル、アンデットラスク、サイコへッズと
得体の知れない不気味な魔物もバッツ達は労せずサクサク倒してゆく。
昨日のカーラボスと比べたら当然の事だ。
そうして順調に進んで行くと、途中からどっぷりと海水に浸かっている部分に差し掛かった。
「あ、こりゃここ通らないと駄目っぽいなぁ」
「仕方ないのう」
「じゃあ、行きましょう」
「ぬ、濡れちまうなぁ……」
4人は濡れるのは嫌だが、ここを抜ける為にはしょうがないとしぶしぶ自分に言い聞かせていた。
「(…ファリスは動揺が大きいのう…なんでじゃろう?)」
ガラフはファリスだけが目がやたらと泳いでいるのを見逃さなかった。
「(…もしかして、やっぱり…)」
ガラフのあるひとつの疑惑は核心に迫りつつあった。
131:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:41:20 MmLUBC8j
FF5 43 ファリスの秘密
「お、やっと休めそうな所に来たようじゃ」
ガラフの顔が明るくなる。今までの朽ちていてボロボロだった場所に比べ、ここは比較的しっかりしていた。
「じゃあ服を乾かすか。ずぶ濡れだもんな」
かなりの間海水に浸かった所を歩いてきた為、全身が濡れている。
「私は隣の部屋で乾かすわ。見ちゃ駄目よ!」
レナが言葉を強める。
「だ~いじょうぶだって。覗きやしないよ」
バッツが少し苦笑しながらそう答えた。
「火が必要だなぁ。ファリス、ファイアの魔法をしてくれ」
しかしファリスは黙って立っているだけだ。
「おい、ファリス?どうした?」
バッツは不思議そうに尋ねる。
「え?あ、ああ、ファイアね、はいはい、………ファイア!」
そうしてあたたかい火がバッツとガラフを照らす。
「おー、あたたかいのう…」
「ファリスも早く乾かせよ!そのままでいると風邪引くぞ!」
バッツが当然のようにファリスに呼びかける。
さっきからファリスは積極的に服を乾かそうとしていない。
「い、いや、俺はこのままでいいよ…」
ファリスがあきらかに動揺しながら答える。声の調子もいつものファリスじゃない。
「(…やはり…)」
トルナ運河の戦いから続いたガラフの疑惑は確信に変わる。
「な~に言ってんだよ!裸になるのが恥ずかしいとか?そんな事言ってらんないだろう?」
バッツが調子よくそう言いながらファリスの服を脱がそうとする。
「だから、良いってば!」
ファリスは言葉を強くする。
「良くは無いっての!さっさと脱げって!」
「いいからさぁっ!」
押し問答が続いていた。
132:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:42:01 MmLUBC8j
FF5 44 ファリスの秘密2
バッツとファリスの押し問答が続いている中、ガラフが切り出した。
「もういいじゃろう?ファリス…」
ガラフが優しくファリスに問い掛ける。バッツは一体何のことか分からない。
ファリスは目を合わそうとしない。バッツは不思議そうにファリスを見る。
「何言ってんだ?ガラフ?」
「ああ、バッツ…これはわしの勘じゃがな…」
ガラフはゆっくりとした調子で静かに語る。
「ファリスは、多分…」
「女じゃ」
133:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:43:16 MmLUBC8j
「ええええぇえぇぇぇえええぇぇぇぇええぇぇえっっ!!!!!」
バッツが今までに無いぐらい驚く。
それも当然の事だ。ファリスは男だと思っていたからだ。
「どうしたの?」
服を乾かし終えたレナも戻ってきた。
当の本人はさっきからずっと一点を見つめ、動かない。
「自分の口から話してくれ…どうしてお主がそんな風になったのかは、わしにも分からん」
ガラフは相変わらず優しい口調だ。
暫く間をおいてファリスが話し始めた…
「確かに、俺は女だ。でも小さい頃海賊に拾われたから、男のフリをしてたんだ…」
「なんでまた?」
「だって、海賊は男の世界だ。いくら拾われたとは言え女じゃ、馬鹿にされるに決まってるからな…」
ファリスは初めて自分を語りだした。
「(今まで素っ気無い風だったのは、隠し事があったから…?)」
レナはそう思った。それとも、本当の性格なのか。それは、これから分かる事。
「ま、まぁ別にいいよ、どっちでもさぁ。ファリスがファリスである事に変わりないだろう?」
かなりの驚きを見せたバッツが慌ててフォローの言葉をファリスにかける。
「でもなあ!女だからって馬鹿にすんなよ!」
「大丈夫だって。女だからって馬鹿にすること事態無いよ」
バッツはフォローの言葉を続ける。
「よし、もう寝るぞ!」
そう言ってファリスは部屋の隅にあるベットに寝転んだ。
134:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:43:56 MmLUBC8j
「でもさ、ガラフは何でファリスが女って分かったんだ?」
バッツがファリスに聞こえないように小さく話す。
「よく考えてみぃ。今までの事を」
「今までの事?」
「そうじゃ。トゥールで酒場に居るファリスに情報を伝えようとしたら…」
「そう言えば…」
バッツは思い当たる節があった。あの時ときめいた女性はファリスだったと言う事だ。
「それに、運河の魔物は女しか狙わないと言う情報もあったしのう…」
「え?そんな情報あったっけ?」
やはり、バッツはすっかり忘れていた。そのことにガラフは少々呆れ気味だった。
135:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:45:52 MmLUBC8j
FF5 45 船の墓場2
ファリスが女だったと言う事実発覚から一夜。
また、いつもの様に変わらない4人の変わらない旅が始まった。
途中、海賊が遺していったと思われる、貴重な世界地図を手に入れるなど、収穫もあった。
そして、やっと出口が見えてきたと言う所で辺りに不穏な空気が立ち込める。
「なんか、嫌な感じだな…」
辺りが暗くなると、そこに突然1人の女性が現れた。
「バッツ…こっちへおいで…」
それはバッツの母だった。バッツは何も言わず母の前へゆっくり移動していった。
「おい!バッツ!あきらかにおかしいぞ!バッツ!」
ガラフの呼びかけにもバッツは応じない。
そしてさらにタイクーン王まで現れた。
「こっちへ来なさい…」
レナはその言葉に誘われるように父の前に移動してゆく。
ファリスもレナを気にかけついていってしまう。
「おい、バッツ!レナ!ファリス!おかしいと思わんのか!」
ガラフは3人に大声で呼びかけるが反応が無い。
そこへ金髪の女の子が現れた。
「おじいちゃん、こっちに来て…」
「誰じゃ…?思いだせん…」
ガラフは記憶喪失の為、目の前の女の子を誰か認識する事が出来なかったのだ。
そこへ、青いドレスに身を包んだ謎の女が現れた。
136:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:46:42 MmLUBC8j
「命を吸い取られるがいい…私達の仲間になるのだ!」
「くそっ!やはり罠だったか!おぬし、何者だ!」
「ほう…私の術にかからぬとは…」
その女は少し意外といった表情でガラフを見る。
しかし、すぐに余裕の笑みを浮かべて自己紹介した。
「私はセイレーン。3人の命は貰った。邪魔をしなければ、お前は返してやろう」
「そうはいかん!」
冷静にとんでもない事を言い放つ。ガラフはセイレーンと戦う決意をした。
「何故、その3人を守る?」
セイレーンがガラフの気持ちを弄ぶかのように嘲笑いながら尋ねる。
「わしの…仲間だからじゃ!」
ガラフはセイレーンに力強く言い放った。
「惑わされるな!みんな目を覚ませ!」
そう言ってガラフは3人の頬を強く叩き、文字通り叩き起こした。
気がついた3人はガラフの方へ歩み寄る。
「「「ガラフ!」」」
「礼は後じゃ、奴が来るぞ!」
「おのれっ!覚悟!」
137:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:47:41 MmLUBC8j
FF5 46 船の墓場3
「スロウ!」
戦闘に入ると突然、セイレーンが魔法を唱えた。
「うっ?体が重たい…」
魔法をかけられたファリスがそう呟く。
「どうやらその名の通りの魔法の様じゃな」
「とりあえず、攻撃しまっせ!うりゃっ!」
『ズシャァ!』
またもバッツが最初の一撃を放つ。まさに、猪突猛進。後先を全く考えてない。
「うっ!」
セイレーンがよろめく。
昨日のカーラボスとの戦いでは得られなかった手ごたえにバッツは意外な感じを受けた。
「ガラフ、一気に行くぞ!」
「ああ、分かっておる!」
ガラフはすばやい動きで拳をお見舞いする。
『ドガガガガッ!』
「うぅ!」
またもよろめくセイレーン。ガラフはこの勝負が案外早く決着する事を予想した。
138:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:48:45 MmLUBC8j
「…ファイア!」
動きが鈍ったファリスがようやく魔法を唱えた。
『ボウゥ!』
しかし、全く効いていない様だ。
「ふっ、私に魔法は効かないよ!」
挑発するセイレーン。しかし、直接攻撃は効いており、その顔に余裕は無かった。
「せっかく、唱えたのに…」
ファリスは落胆した。次の攻撃も、いつもの倍以上の時間がかかってしまうからだ。
「えいっ!」
『ボカッ!』
戦闘向けじゃない白魔導士のレナでさえ、フレイルでの攻撃は中々の威力を見せた。
「おのれ…やはりこのままではキツイか…」
セイレーンはそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。
「バッツ!あれは!」
「な、なんだ!?」
セイレーンの体の色が見る見るうちに変化していったのである。
またしても、毒々しい赤色だった。
139:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:49:37 MmLUBC8j
FF5 47 船の墓場4
赤い肌へと変貌したセイレーンはガラフに近づき、ぎゅうっと抱きしめた。
「うっ?ぐぁぁっ!」
「ガラフ!大丈夫か?」
ガラフはかなりの傷を負い、さらに毒にかかってしまった。
「う、わしを気にかけるぐらいなら早く奴を…倒すのじゃ…」
ガラフは今にも倒れてしまいそうだったが、
モンクの特徴でもある体力の多さに助けられていた。
「くっそー、さっさと倒れろ!」
バッツが気合を入れて斬りかかる。
『ザシュ』
しかし、さっきより手ごたえが無い。姿が変わり強さも増したのか。
バッツはそう感じた。
「ちッ…何か奴に弱点はあるのか…」
「…姿が変わったのなら、もう一回やってみるか…」
ファリスは呟く。さっきは魔法が効かなかった。もしかしたら、今回はいけるかもと思ったのである。
スロウで動きを鈍らされてる分、考える時間がたくさんあった。
しかし、まだ動きが鈍いままだ。
「…もうちょっとだな…」
ファリスは歯がゆい思い出自らの体を動かしている。
140:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:50:59 MmLUBC8j
「ぐあっ!」
「きゃぁ!」
一方、残りの3人はレナの回復魔法でしのぎながらも防御力の高まった相手に打開策を見つけられないでいた。
「キリが無いな…」
「しかし、奴の体力も無限なわけあるまい…」
ガラフはまだ毒に犯されたままだ。それでも、セイレーンを倒すべく攻撃の手を緩める事は無い。
「ホラホラ、どうしたい?さっきまでの威勢は何処へいったんだい?」
打つ手無しのバッツ達を笑い飛ばすセイレーン。
「…ファイア!」
そこへまたしてもセイレーンへ炎が飛んでいった。
「ファリス!炎は効かな…」
レナがそう忠告しようとしたその時だった。
「ぐわあああぁっ!」
「え?」
そう、さっきは全く効かなかったファイアが今回はまともに効いたのである。
「…よっしゃ!…どうやら、、、変化して、、、弱点が見えた、、、ようだな、、、」
ファリスはスローなままそう言ってしてやったりの笑みを浮かべる。
「いいぞ!ファリス!」
バッツはファリスに威勢のいい言葉をかける。
そして、さらにレナが閃く。
「(…もしかして…)」
そして閃いた後すぐに魔法をかける。
「ケアル!」
それは、回復魔法だった。しかし、味方にではなくセイレーンに向けてかけていた。
「お、おい、相手を回復させんなよっ!」
バッツが慌てて止めに入る。
「いや、これで良いはずよ…」
レナが慎重に成り行きを見守る。
「う?力が、吸い取られていく…?」
セイレーンは一気に大量の体力を奪われて焦った。
「まさか、あいつ、アンデッドなのか?」
「ええ、赤い時は、そのようね」
141:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:51:36 MmLUBC8j
FF5 48 船の墓場5
「ばれてしまったか…やむをえん!」
セイレーンはまた元の姿に戻った。アンデットと言う事がばれてしまったからに他ならない。
「もとの姿に戻った!チャンスだ!」
バッツはすかさず剣で斬りつける。
『ザシュッ!』
「ぐあああああっ!」
どんどんセイレーンの体力が無くなってゆく。もう、こうなれば勝負は決まった。
「ふー、お主、今までで一番手強い相手じゃったぞ… だが、これで終わりじゃあっ!」
『ドカドカドカドカッ!』
毒に犯されたままのガラフが渾身の拳を喰らわす。
「ぐあああああああああっ!こんな事が…!!!」
その言葉を最後にセイレーンは息絶え、消え去った。
142:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:53:06 MmLUBC8j
FF5 49 船の墓場6
「はぁー、やっと倒したかぁ…」
バッツは喜ぶ気力もなくなっていた。それほど強い相手だったからだ。
「でも、回復魔法で体力が奪われるなんて…」
アンデットの皮肉さをレナは感じていた。
「それにしても、あの幻から目を覚ましてくれたガラフに感謝しなきゃ、だな」
「なーに、たいしたことは…しと、らん…」
そう言いかけてガラフは倒れた。まだ彼の体には毒が残っている。
「ガラフ!」
「大丈夫か!」
ガラフを心配するレナとファリス。
「あ、そうだ」
思いだしたかのようにポケットから毒消しを取り出し、ガラフに与えるバッツ。
ガラフはすぐに毒が消え、元気を取り戻した。
「ふー、やっと楽になった…と言うより、なんで戦闘中に毒消しを使わなかったんじゃ!?」
「え、だって『わしの事よりあいつを倒せ』とか何とか言ってたじゃない」
「そりゃ、そうじゃが…仲間がピンチなら真っ先に助けんかい!」
ガラフは捲し立てる。さっきまで毒に犯されていたとは思えないほど、元気な口調だ。
「まぁまぁ、今回はガラフのおかげって事で… ありがとうな」
バッツから出た意外な言葉にガラフは動きが止まり、照れくさそうに笑みを浮かべた。
「あ、照れてるのか?」
「いや、照れてなんかないわい!」
ガラフはそう言って照れてることを隠した。
それが返って照れていることを強調してしまい、バッツ、レナ、ファリスは自然と笑った。
「お、おい、笑うな!もうそこが出口じゃ。さっさとこんな所抜けるぞ!」
こうして一行はやっと船の墓場を脱出した…
143:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/18 20:53:40 MmLUBC8j
はい、今日は以上です。かなり多い…
144:評
05/09/19 12:19:55 MFVaZqkR
平坦で単調。
盛り上がりに欠ける。
もっとメリハリをつけるといい。
ストーリーをダラダラと追っかけてるだけでは駄目。
大胆な割愛や逆順、回想など、時系列に拘らない工夫が必要。
視点がぶれすぎ。
キャラを等しく扱ってるせいで、キャラ立ちが弱く、ぼんやりした印象。
特定のキャラの視点を貫くなどした方が読者を引き込みやすい。
誰がどこまで知っているのか、どんな情報・感情を共有してるのか、
相関図を作ってハッキリさせると良い。
ともかく乙。
続きを期待している。
145:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/19 14:20:14 EWHcgQJV
なんだか手厳しい…
>>FF5書きさん、お疲れ様!
うーん、見方を変えると、>>144の意見も確かにそうなのかも
しれないけど、「特定のキャラへの思い入れが」が見えないのは、
書き手としてはいいことなのかもしれない。
(前スレ最後で>>433のFF6で荒れたのも、多分、これが原因かと思う。
私は、別に>>433がそうだったって言ってるわけじゃないけど)
でも、なさ過ぎると、確かに流れるように読んでしまうかな。
あとは、>>144の言うとおり、もう少し、メリハリがあれば、いいかな?
割愛・逆順・回想など。
(>>144、きつい事書いてるなあと思いつつ、指摘自体は的を射てるなあ)
でも、お疲れ様。
続き楽しみにしてます。
146:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/19 17:35:53 yQrKwAFX
まあ厳しい感じはするけど俺も>>144に同意かな。
とにかく、量を沢山書くことより練りこまれたストーリーを作った方がいいかと思われ。
147:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/19 18:00:10 WuFSwQYA
キャラへの思い入れは必要だろう。要は物語のバランスの問題だろうけど。
なんにせよFF5書きさんには頑張ってもらいたい。ここはまったり進行だし。
148:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/19 22:39:19 qwnqRUuK
一人で書いている分、粗が目立ちやすいというのはあるな。
149:144
05/09/20 10:44:20 zVmScoaX
申し訳ない。
自分は創作文芸板の住人で、あちらの板のノリでコメントしてしまった。
あっちの板は作家志望が集まって、作品を発表&互いに批評しあうというスタイルなんだけど、
その雰囲気をこちらに持ち込んでしまったのはこちらのミスだ。
荒らす意図はさらさらないが、結果として荒らしてしまった。
重ねて謝る、本当に申し訳ない。
150:FF5書き ◆ujT2O/oVh6
05/09/20 13:35:57 D/StrHTN
>>149
ご指摘どうもです。
駄目な所は自分じゃ分からないですし・・・
メリハリがないのは流れを把握する為、ゲームと同時進行で書いていたからかもしれません。
あと、別に荒れていないですよ。
ただ、正直、自分が今まで書いて来た以上のものをこれから書くってのも難しいです。
今まで書いてきた感じのものが自分の精一杯なもので・・・
なので、無責任かもしれませんが、他の書き手さん募集します。
一応このスレはリレー形式でやるってのもありますし。
なんか自分勝手で、読んでくれてる方には大変申し訳ないです。
いままでちょっとでも読んでくださった方、大変感謝です。
では。
151:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/20 18:34:49 viZzpjSV
>>149
別に問題ないと思う。このスレだって「真面目」に創作していくコンセプトなんだから
質を追求するのはむしろ必要なはずだ。
いや、偉そうでごめんなさい。作者陣乙です。
152:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/20 19:36:35 Vhs/OY+L
>>150
てゆーかゲームまんまのセリフ回し変えて擬音無くせばかなり化けると思うよ
諦めないで頑張って
いやマジで
153:299
05/09/22 01:23:03 ZO284M9O
FINAL FANTASY IV #0235 4章 3節 山間(20)
「何者だ!」
テラはその影に向けて疑問を言い放った。
急遽。姿を現した影は、一見すると粗末なローブを来た男の様に見えた。
いや、男とは言い切れないかったかもしれない。
何故なら、対峙したこの男からは生きている感じがまったく感じられなかった。
まるで冷たい死体が突然動き出したかのように冷徹な雰囲気であった。
「いかにも……私はゴルベーザ様に使える四天王の一人、土のスカルミリョーネ。
暗黒騎士とその仲間達よ……貴様達の息の根を止めに来てやったぞ!」
テラの疑問を悟ったかの様なタイミングでその男―スカルミリョーネは丁重に自己紹介を始めた。
「ゴルベーザ……」
やはり自分を……狙っているのか。でもどうして?
もしかするとファブールに自らが出陣してきたのも指揮をとる為でなく、セシルに会いにきたのかもしれない。
バロンを手にするだけなら、一介の暗黒騎士―それも国を追われたものなどを
いちいち相手にするのは何故だろう? ここまで固執するのには理由があるはず……
「おい、いいからそこをどけろよ! おいら達は急いでるんだぞ」
思考に浸るセシルをよそにパロムはローブの男へ抗議をする。
「ふふふ……パラディンの試練を受けるつもりだろ。だが、そうはさせんぞ。
ふふふ……」
「無視すんなよ! 何が可笑しいんだよ」
高笑いを続けるスカルミリョーネに頭に来たのかパロムが声を荒げる。
「ふふふ……ははははは……」
「くーーー何なんだよ!」
「パロム! 危ない」
地団駄を踏むパロムに突如、側面から何者かが飛びかかってきた。
154:299
05/09/22 01:24:19 ZO284M9O
FINAL FANTASY IV #0236 4章 3節 山間(21)
「え……わっ!」
襲いかかってきたのはアンデットであった。腐食し、今にも崩れ落ちそうな腕をパロムに叩きつけてくる。
咄嗟に横に飛に回避しようとするが、振り下ろされたではポロムの脇腹をかすめた。
そのままパロムはドサッと勢いよく地面に倒れ込んだ。
「大丈夫!」
「ああ……何とか。くっ!」
慌てて駆け寄るポロムを安心させるかのように口を開く。だが、ダメージを負った脇から血が流れ始めている。
「じっとしてて、結構な傷よ」
ポロムは直ぐにでも立ち上がろうとする彼の体を押さえ白魔法の詠唱に入る。
「はははーーーっ! 思ったよりも素早いのだな」
「あったりめーだよ! いつも長老に追い回されていたからな。逃げ足だけは誰にも負けねえ……ぜ…」
勇んで言葉を返すパロムだが、最後の方は言葉にならなかった。顔は青く、かなりの無茶をしている事がうかがえる。
「じっとしてるんだ、パロム。こいつは僕らで何とかする」
155:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/22 01:25:08 ZO284M9O
FINAL FANTASY IV #0237 4章 3節 山間(22)
「さて……まだこんなものではないぞ」
そう言ってスカルミリョーネが指を鳴らす。途端、音を待ってましたといわんばかりに岩陰からさらに数人のアンデットが現れる。
「パロムを襲ったのはそいつらか!」
視点の定まらぬ虚空の目をみやりセシルは確信めいた様子で呟く。
「ふふ……察しがいい」
「でも……何故?」
道中、セシル達は何度もこの山の霊気に取り憑かれたアンデット達と戦ってきた。
そのモノ達の動作はいずれも緩慢で特に苦戦する事もなかったのだ。
しかし、先程パロムを襲ったアンデットの動きは目を疑うかのような速さであった。
「教えてやろうか。このアンデット達は私が直接指示を出している。本能だけで行動する
唯のアンデット達と一緒にすると痛い目をみるぞ」
セシルの疑問を感じ取ったのかスカルミリョーネは説明する。そして一息ついて、最後にこう付け加える。
「さて、暗黒騎士よ……その剣では私のアンデット達は倒せないよ。どうするかな?」
「!」
今まで心の何処かに置き去りにしていたものを暴かれた気分になった。
セシルは鞘に納められ、静かに佇む相棒を見やった。
巨鳥をも一太刀で息の根を止めてしまうデスブリンガーだが、やはり暗黒剣である。
生なきものたちには全くと言っていいほど効果がない。
「ふふ……どうするかな……」
ローブの奥、誰も伺い知る事のできない口が密かに緩んだ。