05/11/18 19:27:56 zNaOPPvSO
1.
私が初めてお城の舞踏会に出たのは十四の時でした。
大臣だった父は
「世継の王子でいらっしゃるエルトリオ様はまだ定まった妃がおられぬ。もしかしたら我が家
から王妃を出せるかもしれん」
と私に強い期待をかけていたようです。ですが幼稚だった私はただ、新調の美しいドレスを身
に纏ってダンスができるという喜びの方が大きくてそんな可能性は思ってもおりませんでした。
初お目見え、ということで父もかなりこだわって衣装を誂えてくださいました。慣例となって
いる白のドレスは柔らかな絹のタフタ地に真珠で刺繍が施され、大きく開いた胸元はリボンで
飾られています。髪に冬薔薇を挿し、首には代々伝わる首飾りを巻き、衣装や飾りの重さで立っ
ているのもやっとでした。
「おお、我が娘ながら何と美しい。これならば必ずや王子様のお目にも留まろう」
と父は言ったものです。
「お父様、私は舞踏会に行くのでございます。そんな王子様のお気を引こうなどということは
考えておりません」
生意気にもそんな口答えをいたしましたが、
「よいよい、おぬしにも今に分かる。エルトリオ様が駄目でもクラビウス様もいらっしゃるか
らな。くれぐれも無礼な真似だけはせんでくれよ」
上機嫌な父には通じませんでした。きっとその時既に王妃の父として、そして次代の王の外祖
父として権勢を誇る姿を脳裏に描いていたのでしょう。
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