05/08/16 16:14:31 aZ+k81J5
深い森の緑に包まれて、人の目に隠れた隠れ里。
夜の丘にたつ不思議の塔は、あたかも月光にゆらめく幻のようである。
ここに妖魔の王子デスピサロ様は、黒い鳥の姿を借りて飛来された。
ぼんやりと白んだ春の月に、王子は心に染み渡るばかりに笛を遊ばし、
魔法の入り口の封印をお解きになった。
階上の部屋にひとり住まう妖精の姫は、王子の姿をご覧になり、
「まあ、デス様」
とお迎えなさった。
「今日は魔界王子ではなく、ひとりの男として参りました。
ただピサロ、とお呼びください」
ところが姫は、花のかんばせをにわかに曇らせ、困惑したご様子になられた。
「いつもお着けになっている、あの仮面はどうされたのですか。
黒羽をあしらった黒金の細工、泣きぬれたような宝石の仮面は」
王子は言葉を尽してお慰めなさったが、姫はただ首を振り、むやみに怯えたご様子なので、
なすすべもなく手をつかねて、ただ呆然となさる。
妖精の姫の目にあふれ、こぼれた涙は、落ちてきらめく宝石になった。
そうこうするうちに、緑の甲冑の宿直騎士が戸の前に参り来て、
「もう夜も更けました。姫様にはご就寝の時間でございます」
と告げたので、王子は、
「これはもう、なんともはや」
とその夜はお帰りになられたのも、あわれに優雅なことであった。