05/10/27 20:18:37 tLXZpVcy
5.
「そろそろ帰らないと」
広場は明るい午後の光に満ち溢れていましたが、城壁が作る影は長くなりつつありました。
「ええ。でもこの劇が終わるまで」
ミーティア姫は手回しオルガンとそれに合わせて踊るからくり人形の劇がすっかり気に入って
動こうとしません。
「…」
しょうがないなあ、といった顔でエイトは溜息を吐きました。でもまだ日は高いし、門を出て
道を真直ぐ行けばトロデーンです。迷うことはありません。
「これ終わったら帰るからね」
「ええ、分かったわ」
姫は上の空でしたが、エイトはその返事を貰ってほっとしました。そして自分も人形劇に目を
遣ります。本当はエイトも観たかったのですから。
広場はますます賑わいを見せていました。大人たちは手に手にワインのグラスやビールのジョッ
キを握り、笑い声や歌声に酔いが混じります。
「もう少しいたかったわ」
「うん。でも最近日が暮れるの早くなったし」
喧噪を避けながら門の方へ歩く二人はそんな会話を交わしていました。
「うーぃ、ヒック、お、おう、ビールもう一杯だ」
「駄目ですよ、そんなに飲んじゃ。ほら、お嬢さんが困っているじゃないですか」
ビールの樽の横で飲むの飲まないのの押し問答がされています。
「金ならあるんだぞー、いいからもう一杯くれ」
「あんな当たらない占いに金出す物好きがいたんですねぇ」
「何か言ったか?」
「いーえ、何でもありません。…はいはい、注ぎますよ。全く、お嬢さんが気の毒ったらありゃ
しない」
「…近寄らないようにしよう」
「ええ」
酔っぱらいを見ないようにして二人は門の前に立ちました。
「おや、随分早く帰るんだねぇ」
門番も一杯機嫌です。