05/10/03 11:06:29 m+aNzIm0
自分の肌に合わないSSをThroughできずに
ぐだぐだ言う馬鹿がいるスレはここですか?
早く続き読みたいですよ…
651:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:21:14 9SB48Cuf
一般絵板に神キタ━━━(゚∀゚)━━━!!
652:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:43:06 gNZ1PxPQ
>>473-476、>>485-492、>>506-514、>>550-559、>>565-568、>>586-593
続き
653:二人に捧げるRequiem ◆JSHQKXZ7pE
05/10/03 21:45:26 gNZ1PxPQ
7.Sanctus
ある朝ミーティアは、いつもにも増して塔の周囲が物々しくなっていることに気が付いた。
岬の突端に建てられた塔は三方を断崖に囲まれており、海からの侵入を阻む。さらに激しい潮
流が陸を侵食し、削られた岩が海中に落ち込んでは複雑な地形を形成してますます潮の流れの
予測を難しくしている。陸側には見張りの兵が置かれ、無断で近付くことはできなかった。
ここは昔から海の難所だった。それでも灯台もなく放置された状態であったのはどの定期船の
航路からも外れており、通う人少なだったからである。
(私が死んだ後は灯台になるのかしら)
とミーティアは思っていた。恐らく設計者もそれを考慮したのだろう、三方の海に向かって大
きく窓が取られていた。おかげでミーティアのいる場所には陽光が降り注ぎ、海景を望むこと
ができる。その風景はかつて暮らしたトロデーン城三階テラスからの眺望に似ていた。実際高
さも同じくらいだっただろう。
海側対し、陸側は窓もなくその上深い穴が穿たれているばかりだった。下との行き来はここを
通じてのみ。天井に備え付けられた滑車を使い、日に一度、外界から篭に乗って食事や細々と
した手回り品が届けられる。時には本や衣類に紛れて薬草や毒消し草が届けられた。名乗って
はいなかったがそれが誰からのものであるのかはミーティアにはよく分かっていた。
だが、それらの物が役に立つ日が来るのだろうか。風の噂では、大逆の判決を受けたエイトの
身柄はサザンビークに送られたという。兄の遺児だからといってサザンビーク王が私情を挟む
とは思えなかった。エイトの存在そのものが王位を脅かすのだとすれば、彼は速やかに処刑す
るに違いない。ミーティアは悲しくそう思っていた。
その朝の物々しさの理由は今日の荷物が届いた時に判明した。食事を運んでくれる侍女の腕に
ひっそりと喪章が巻かれていたからである。
「…今日なのね」
独り言のようにミーティアが呟くと彼女ははっと身を硬くし、躊躇った後、
「はい」
と答えた。
654:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:48:08 gNZ1PxPQ
「そう。午前中なの?」
ミーティアの声は平静そのものだった。言葉を詰まらせたのはむしろ侍女の方だった。
「…はい。そのように…聞き及んでおります」
そして恐る恐るといった風に続ける。
「…陛下より、今日から一日中姫様のお側に上がるよう、申し付…」
「いえ、その必要はありません。ありがとう」
侍女の言葉は素早く遮られた。
「ですが」
「帰ってお父様に申し上げてください。私は決して自ら死を選んだりいたしません、と。私の
命は人の手によって助けられたもの、それを粗末に扱うことはできませんから」
「かしこまりました」
侍女は一礼した。
「ですが今日だけは」
「…そうね。分かりました」
ミーティアは頷き、侍女が彼女の身の回りの世話を始める。久々に他人の手で髪を梳られてミー
ティアはふと、旅のことを思い出した。
旅の途中、ミーティアの鬣を結うのはエイトの役目だった。どんなに疲れていても仲間の為に
宿を取った後、必ず戻ってきて身の回りの世話をしてくれる。紐を外し丁寧に梳り、結い直す。
一度
「紐が古くなりましたので…」
と新しいリボンを買ってきてくれた。リボンなんて沢山持っていたけれど木綿製のあのリボン
より大切なものなんてなかった。大事にとって置こうと思っていたのに、呪いが解けて人の姿
に戻った時、どこかへ消えてしまったのだった。
(あれがあったなら…)
とミーティアは思った。
(エイトを偲ぶ縁にもなったでしょうに…)
以前ならそう考えただけでも涙が零れたものだった。けれども最早何も流れ出てはこない。何
もかも遠い現実のようにしか思えなかった。
身支度も済み、食事を、と思った時、急に階下が騒がしくなった。
「何事でしょう」
と二人、顔を見合わせる。侍女も何も知らないようだ。滑車が動く音がして下から誰かが昇っ
てくる。
655:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:49:04 gNZ1PxPQ
「姫様!御前失礼いたします!」
そう言いながら姿を現したのはいつも見張りをしている兵士。かなり慌てている。
「どうしたのです?何かあったのですか?」
侍女の問いにもまだ落ち着きを取り戻せずにいる。
「た、隊長が、じゃなかった、えええ、エイト様、あっ、様付けもよくないんだった、あの、
えと、前の近衛隊長ががが」
「どうしました?あの、水しかありませんけれど、いかが?落ち着いてゆっくり話してくださ
いね」
水差しの水を汲んで渡しながらもミーティアは己の血が冷たくなっていくのを感じた。
「おっ、恐れ入ります」
兵士は差し出された水を一息に飲んで、漸く落ち着きを取り戻した。
「先程サザンビークから急使が。本日処刑されることになっていたエイト隊長が逃亡した由」
「えっ」
「処刑場に竜が現れて暴れ回った隙に顔を隠した三人組に身柄を奪われたとのこと。隊長と三
人組のうち二人が竜に乗って逃げ、残る一人も呪文で行方をくらませたとか」
「まあ、ではまだ行方は分からないのですね」
「そのようです」
侍女と兵士の言葉をミーティアは何も言わずただ聞いていた。傍目にはただ座っているだけに
見えたかもしれない。けれどもその目の中に新たな光が宿ったことに二人は気付いていた。
※ ※ ※
656:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:51:43 gNZ1PxPQ
エイトが逃亡して数カ月、サザンビークの追撃の手は全く緩まなかった。ミーティアの幽閉さ
れている塔の周囲も警備が強化されている。その上、季節の変わり目で毎夜毎夜雷光が閃き霙
混じりの雨が叩き付けるように降り注いでいる。強風に海も荒れて近付くことは困難だろうと
思われた。
その夜も激しい風雨に見舞われ見張りの兵は苦労していた。それでも雨は少しずつ収まり始め、
東の空が白んでくる。
「やれやれ、やっと夜明けだな」
「温かいスープが飲みてえよ。すっかり冷えちまった」
もうすぐ交替の時間だった。何事もなく夜が明け。休息できると思うと気も弛む。風はまだ強
く、崩れた波濤から飛ぶ飛沫が顔にかかって視界を奪うことはあったが、総じてほっとした空
気が流れていたことは事実だった。
だから、目立たぬ服装で西の空に残る夜闇に紛れるようにひっそりと姿を現した男の発見が遅
れたのも無理のないことだったのかもしれない。
「おい、この先は立ち入り禁止だぞ」
漸く一人の兵士が気付いて制止の声を掛ける。が、男はそれに一瞥もくれず真直ぐ塔へと向かっ
た。
「動くな!この先はトロデーン王の御名において禁足となっている。速やかに立ち去られよ。
さもなくば逮捕いたす!」
それでも足を止めない男に兵士たちは槍を向けた。
「止まれ!この槍が目に入らないのか!?ただちに止まるのだ!」
漸く男は立ち止まった。そして被った黒い衣の下から塔を見上げる。
「ここに…いるんだな」
「何をいっている!」
こちらを全く気にしていない様子に兵士は苛立ちを隠せない。
「少しトロデーンの牢で頭を冷やして来い!」
「トロデーンか…でももう二度と帰れない…陛下はお許しにならないだろうから…」
男は悲し気にそう呟くとやっと兵の方に向き直った。
「ここを通してくれ」
「何だと!」
その内容に兵士は目を剥く。
「ふざけるな!そんなに通りたくば、まず我が槍を受けてからにせよ!」
657:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:53:25 gNZ1PxPQ
「…そうか、そうだったな。いつも熱心に槍の稽古を受けていたっけ、お前。大分上達したん
だろうな」
意外な男の言葉に兵士は動揺を隠せない。
「誰だ、貴様は!」
男は衣に手を掛ける。と、黒い衣が翻り、赤い異国の甲冑が未だほの暗い暁の光の元に曝され
た。
「見忘れたのか、この僕を。短い間だったけどよく稽古の相手したよな?」
「たっ、隊長っ!」
「通してくれ。トロデーンの兵に向ける剣はない」
「だっ、駄目です。これは主命故、通せません!」
「そうか」
かつての後輩の言葉にエイトは寂し気に笑った。
「…では仕方ない。力ずくでも罷り通る!」
言葉よりも速く背負われた剣が抜かれる。瞠目する間もなく間合いを詰められ、咄嗟に槍身で
斬撃を受けるのが精一杯。
「言った筈だ、敵から目を離すなって。間合いを詰められても動揺するな。鐓で相手の武器を
叩き落とすんだ」
エイトはそう言いながらも斬撃を加える。兵士にその助言を実行させる暇も与えない。兵士は
必死で回避し、身体が離れた隙を突いて槍を繰り出したが、剣の柄で槍身を殴られて取り落と
す。その途端、エイトの足が槍を蹴り飛ばし、遠くへ転がって行ってしまった。
「…次!」
衝撃に痺れる手を庇って退く兵を後目にエイトが叫ぶ。為す術なく遠巻きに見ているしかなかっ
た兵たちが及び腰になった。
「どうした?僕が兵士になった頃は『次』と言われて出て行かない奴は腰抜け扱いされてたぞ。
呪文は使わない。さあ、かかって来い!」
そこまで言われては兵士たちも立つ瀬がない。エイトよりやや年長の兵士が進み出る。
「久しいな、エイト」
「お久しゅうございます」
エイトも目礼する。かつて先輩だった彼はエイトにとっての目標であった。
「お相手願おう。いざ!」
658:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:54:20 gNZ1PxPQ
互いの剣がぶつかり合う。かつてエイトは三本に一本取れるか取れないかぐらいの腕前だった。
技量の未熟さもさることながら彼の動きは訓練された正規のものだけではなく、我流も混ざっ
ていて次の動きが読み難かったのである。
だがしかし、旅の間鍛え抜かれたエイトの身体は容易くそれを見切っていた。振り下ろされる
剣を切先で受け流し、峯で柄から掌分くらいの場所を殴りつける。剣は高く澄んだ音を立てて
折れ飛んだ。
すると一人では適わないと見て取ったか若い兵士が二人掛かりで左右同時に斬り掛かる。が、
エイトは素早く身を引いた。勢い余った二人の剣が互いの身体を斬らんとしたその時、エイト
の剣が一人の剣を叩き落とし、返す峯がもう一人の胴を薙ぐ。
「二人同時で斬り掛かるのに正対する奴がいるか。躱されたら味方の剣で怪我するって言った
だろう」
語尾に秋水のごとく剣光が閃く。動作は澱みなく、足取り軽く無人の境を行くかのようにエイ
トは塔へと近付いて行った。
659:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:55:02 gNZ1PxPQ
しかし塔内には難問が待ち構えていた。内部はほぼがらんどうで階段や梯子はなく、ミーティ
アのいる最上部へは篭に乗って釣り上げて貰わなければならない。しかしそれはエイト一人で
は無理な話だった。扉を閉ざして追っ手をしばし足止めさせたエイトは考え込んでいたが、滑
車からぶら下がる二本の縄を一緒に掴んでよじ登り始めた。縄を片方だけ持てば滑車から抜け
落ちてしまう。壁面は腕のいい石工が組んだのか手を掛ける隙間もなかったから、これしかな
かったのである。
「エイト!」
騒ぎに気付いたミーティアの声が上から降り注ぎ、エイトの心を勇気づける。ちょっとだけ上
を見遣って、さらに登り続けた。
半分まで登ったところで漸く扉が開かれた。兵たちは皆エイトの姿に唖然としたが、すぐに後
を追ってよじ登り始める。どうしようかとエイトが考えた時、鼻先をかすめて何かが落ちていっ
た。
「うわっ!…げほげほっ!」
下で何か砕ける音がしたかと思うと叫び声と共に咳き込む音が上がる。見下ろせば白い粉のよ
うな物がもうもうと立ち込めていた。
「他の人は登らせないわ!」
見上げればミーティアの手には何か握られている。
「白粉壷よ。お化粧道具なんて使わないもの。これも投げちゃうわ!」
続いて落とされるは頬紅の壷。地に落ちて赤い粉が塔内にぶちまけられる。
「今のうちに!」
「ありがとう、ミーティア!」
その後も香水瓶やら眉墨やらが盛大に投げ落とされる中、エイトはミーティアの待つ最上部へ
と登っていった。
※ ※ ※
660:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:56:58 gNZ1PxPQ
懐かしいエイトの手が現れる。続いて腕が。兜に覆われた頭が覘き、勢いを付けて上半身が一
気に姿を現した。片足が床に乗り、もう一方もしかと最上階に辿り着く。
その様子をミーティアは何か恐ろしい物でも見るかのように呆然と見ていた。一目なりとも逢
いたい、伝えたいこともたくさんあった筈だった。なのに言葉は身体の中を巡るばかりで表に
出ては来られない。
「エ、イ、ト…?」
漸く振り絞るようにして出された声に、登ってきた縄を下に落としていたエイトが振り返る。
「ミーティア」
「エイト」
これは本当に起こりつつある出来事なのだろうか。目の前にいる者は本当にエイトなのだろう
か、と。が、その途端エイトは片膝を突いた。
「エイト?」
「申し訳ございませんでした」
「えっ」
「あなたの輝かしい人生を奪い、汚した罪は重く、一生掛けても償い切れないものです。赦し
を乞うことすらおこがましいことだと承知しております」
頭を横に振り続けるミーティアだったが、それには構わずエイトは続けた。
「どうすればいいのか、ずっと考えてきました。でも僕の乏しい知識ではこれ以上のことは思
い付かなかった。
僕の身を、あなたに委ねます。どうかその手で裁いてください」
エイトの目は真剣だった。
「では」
長い沈黙の後、ミーティアが口を開く。
「その身を以て私に教えてください、愛というものを。いつまでも私の傍にいてください。死
が私たち二人を分かつその日まで」
重々しく告げられるその言葉の内容にエイトは目を見開いた。
「ミーティア」
「もう二度と、自分一人で何もかも背負おうとしないで。私もその半分を分かちます。
これが私の裁きです」
「ミーティア!」
661:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:57:57 gNZ1PxPQ
「立って」
信じられないといった顔でエイトが立ち上がる。
「私の半身となって私と共に在ってください。私に等しい者はエイト、あなたしかおりません」
「…僕は」
エイトが一歩近付く。
「トロデーン王女であり続けるよりもあなたの妻として生きていきたい。エイト、あなたが私
を助けてくれたように私もあなたを助けます。だから」
言葉の最後はエイトの胸の中に消えた。硬い甲冑の下に息づくエイトの身体から鼓動が伝わる。
「あなたの存在そのものが僕の希望だった。これから先もそう在り続けてくれるんだね」
「ええ、そうよ」
「もう二度とトロデーンに帰れないよ」
「エイトのいるところがミーティアの居場所よ」
「サザンビークからも追われているんだよ」
「一緒に逃げるわ。言ったことあったでしょ?『どこまででも乗せて行くわ』って」
「ミーティア」
ミーティアが顔を挙げると真摯で優しい目をしたエイトがあった。
「私エイトは病める時も健やかなる時もいついかなる時もあなたの良き夫であり続けることを
誓います」
エイトがミーティアの目をひたと見詰めながら誓う。
「私ミーティアは富める時も貧しき時もいついかなる時もあなたの良き妻であり続けることを
誓います」
エイトの目を見詰めその言葉を発しているうちにミーティアはふと、自分の魂がエイトの魂と
一つに重なっていくように感じた。奥深いどこかで何かが強く結び合った、と。
引き合う心に導かれるかのように二人の顔が近付き、唇が重なる。魂を強く結び合わせるかの
ように。
※ ※ ※
662:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:59:16 gNZ1PxPQ
長い口づけの後どちらともなく唇を離すと冷たい外の空気が流れ込む。同時に階下の物音も二
人の耳に届き始めた。
「何かしら。縄を落としたらもう昇れない筈よね」
「梯子でも渡すつもりじゃないかな」
確かに塔内は何もないが、上手く梯子は渡せば踊り羽となるように小さな足場が所々に設けら
れているのにエイトは気付いていた。
「…いきましょう」
「…そうだね。行こう、二人で」
もう一度唇を重ね合う。離れた時、エイトは既に戦う顔になっていた。
「もう一回足止めしてもらえるかな。僕は窓を開けるから」
ミーティアは頷き、連絡孔に走って行った。エイトは窓に近付く。鎧戸がないので嵐にも耐え
得るよう分厚いガラスが嵌殺しになっていた。けれども窓の上部三分の一は突出しになってい
て開くことができる。部屋のこちら側に倒すように金具が付いていた。
「外せば何とか出られるかな」
そう呟くとエイトは金具に指を掛けた。釘がしっかり打ち込まれていて苦労したが、引き剥が
す。窓枠ごと外すと強い潮風が部屋に流れ込んだ。
椅子を窓枠に押し付けてエイトは上に乗った。何とか外に出ることができそうだ。が、風が強
く、さらに波も高い。時折やって来る高い波がここまで届きそうだった。
「ミーティア」
手招きして胴を留める紐を解く。
「もう上がって来るわ」
ミーティアの言葉に頷き、身体を椅子の上に引き上げた。抱き寄せて紐で互いを繋ぎ合う。
「エイト?」
「離れ離れになりたくないから…塔から出ないと移動呪文、使えないんだ」
怯えさせないよう極力穏やかな口調で言う。が、言外の意味をミーティアは汲み取った。
「分かったわ…信じています」
そう言ってエイトの頚に腕を廻す。ミーティアの言葉を胸に刻み、エイトは窓の外に身を乗り
出した。
663:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 22:01:56 gNZ1PxPQ
「待て!動くな!」
丁度最上階に着いた兵士が慌てて二人に駆け寄ろうとした。が、その瞬間突風が吹き付けて平
衡を失ったかのように窓の外に落ちる。そこへ一際高い波が打ち寄せ二人を飲み込んだ。
「落ちた!」
「落ちたぞ!」
「引き上げろ!まだ間に合う筈だ!」
塔外の兵士たちもうろたえ騒ぐ。海中に没したと思われる二人を探るべく竿を差す。
懸命の捜索が続けられた。だがしかし、二人の遺体はついに上がらなかった。
(続く)
664:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 22:06:42 gNZ1PxPQ
お待たせしてしまって申し訳ありません。
PCがフリーズして完成したのがアボーンしたり、どうも気に喰わなくて全面書き直ししたりして遅くなってしまいました。
残り後一回ですのでお付き合いください。
665:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 22:08:46 y0xrJ6fD
ここにきてエイトが急激にかっこよくなった!
666:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 22:09:14 9SB48Cuf
リアルタイムでキタ━━━(゚∀゚)━━━!!
うわ。むっちゃドキドキしました。
ここで竜神装備が来るとは!!大興奮です。
そしてトロデーン兵士との邂逅シーンが最高にかっこよかった。
続きを超絶楽しみにしています。
667:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 22:25:07 HCjyy/P7
婦女子にありがちな、お耽美で美化15100%なアナザーストーリーだなあ……。
まあそういう話が好きな人もいるようだからいいけど。
最終回までこのスレ落とさず待つから、無理せずがんばってーな。
それから、このレスにいちいちレスはいらんからな。
668:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 22:31:07 PVOu6TeH
>>667
じゃあSS書いて
669:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 22:50:54 2AxTdq6p
>>667
書き込んだ以上は「レスはいらん」という言葉は通用せんよ。
670:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/04 03:10:14 fdnanpg7
旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦
旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦
旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦
旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦
茶でも飲みませんか
>664乙です!続き楽しみにしてます。がんがれ!
671:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/04 03:26:50 3eN+j/Pg
>>670
ありがとういただきます つ旦
>>664
禿乙です
いよいよあと1回ですか~、楽しみに待ってます!
672:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/04 10:57:43 8bVfazij
gj!!
673:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/04 21:03:40 4rD5CPKh
感想どうもありがとうございました。
いつもにも増して誤字脱字の嵐…_| ̄|〇オドリ「羽」ッテナニサ…
本当に申し訳ありません。メモ帳ではちゃんとなってたのに…
最後までしっかり頑張ります。
>670
ありがとうございます。いただきます。
つ旦
674:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/04 23:27:34 nJ5cTG5X
あと1回、楽しみですな。
>>670つ旦
675:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/05 21:02:15 vFBvplf1
つ旦
秋の夜長にお茶が旨いのぅ~
676:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/05 21:35:05 gBVj0mfh
+ +
+ + + +
∧_∧ +
(0゜・∀・) ドキドキワクワクテッカテカ
(0゜つ旦C + +
と__)__) +
677:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/05 21:59:24 nQIQNdv3
いただきます~つ旦
次回がいよいよ最終回か…。
楽しみなような、寂しいような。
678:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:35:22 CSuhLvnR
>>473-476、>>485-492、>>506-514、>>550-559、>>565-568、>>586-593、>>653-663
続き
679:二人に捧げるRequiem ◆JSHQKXZ7pE
05/10/06 21:36:46 CSuhLvnR
8.Agnus Dei
月日は流れた。
塔から落ちたエイトとミーティアの行方は依然不明のままである。あのまま海中に没したとし
て、遺体を引き上げることは難しい問題だった。サザンビークなどは何としても行方を掴もう
と潜水夫を雇おうとしたが、皆場所を聞くなり拒絶する。どんな手馴れであっても逆巻く潮に
飲み込まれ岩に叩き付けられて命すら危ういからであった。
並の場所ならばいつかは遺体が岸に打ち上げられることもあるものを、ここはそれもない。と
言うのは落ち込んだ岩によって海底は複雑な地形を成し、沈んだ物は岩に引っ掛かって二度と
浮き上がることはなかったからである。
エイトは移動呪文を使うことができたことから、波に飲まれる直前にどこかへ逃げた可能性も
考えられていた。しかし、世界中のどの街、どの村にも二人のいた形跡はない。各地の有力者
が匿っていることもあり得たが、それにしても気配すらないのである。
トロデーンはすっぱりと捜索を諦め、ミーティアを幽閉していた塔を灯台へと作り替えた。元
よりミーティアは王位継承権を失っており、何の問題もない。先々代の王妹が嫁いだというど
こだかの公爵家当主が新たな王位継承者となって決着していた。
問題なのはサザンビークの方だった。身分を明らかにして裁かれたため、国民の誰もがエイト
が現王の兄の遺児であることを知っている。今はいい、クラビウスは国を富ませ善政を布いて
国民の信頼も篤く、変わることは全く望まれていない。だが次の世代はどうなのか。
さすがのチャゴスもそこには気付いたらしい。エイトが逃亡し、ミーティア姫を奪還した揚句
生死不明という事態に狼狽え、周囲の人々を手当り次第捜索に派遣した。けれども皆、手掛か
りすら掴めずに帰ってくる。
業を煮やしたチャゴスにある夜、マルチェロが囁いた。
「何としても対抗する者はなく、ただ一人の王位継承者であることを明らかにしませんと。そ
う、何としても」
「う、うむ」
チャゴスの目が不安に歪む。そこをマルチェロは一押ししようとする。
「ですが王子の身分では制約が多く、思うように捜索もできません。もし殿下が…」
680:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:37:48 CSuhLvnR
「そうだ!」
が、「王位に就けばあらゆる権力を用いて捜索できるでしょうに」という誘惑の言葉はかき消
された。言おうと思っていたことを急に遮られてぽかんとしている様子にまるで気付かず、チャ
ゴスは続けた。
「お前、探して来い。うん、そうだ。お前ならすぐに見付けられるだろ」
チャゴスの巨体が迫り、マルチェロはたじたじとなった。
「で、ですが」
「見付けるまでいちいち報告に帰って来ることはないからな。一刻も早く見付けてくれよ」
「……は」
マルチェロは呆然として声も出ず、ただ命令に従わざるを得なかったのであった。
そうやって図らずもマルチェロを追い出したチャゴスは、また弛んだ生活に戻ってしまった。
今までの勤勉さはどうやらマルチェロの態度に刺激されたものであり(この点は評価されて然
るべきかもしれない)、いなくなれば元の木阿弥、といったところであろうか。
クラビウスはその点には落胆していたものの、また元のような悪意のない、平和な横着者に戻っ
てしまったチャゴスに一面安堵していた。以前の息子は何かに取り憑かれたかのようにどこか
不自然で、親として不安だったからである。
それにこの結末にもある程度納得していた。エイトの生死が不明であるが故に政局は安定し難
いかもしれない。けれどもそれ以上にその存在がチャゴスにとって鏡となり続けるだろうと考
えていた。甚だしい愚行を繰り返せば「エイトを探し出して新たな王に」という声が高まる。
自らの地位を守りたくば常にそつのない為政者であらねばならぬ。それは結果としてサザンビー
クの国益となっていくのだ。
そして私人としてはできればどこかで生きていて欲しかった。親子で暮らすというささやかな
願いすら叶わなかった兄のためにも。
※ ※ ※
681:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:39:24 CSuhLvnR
パルミド、牢獄亭。
「あいっかわらず怪し気な街よね」
そう言って隅のテーブルに腰掛けたのはゼシカだった。リーザス村に帰り、アルバート家の女
当主となっている筈だったが、相変わらず挑発的な服を着ている。
「そう言うゼシカの姉ちゃんも変わってねえでがすよ。まあ、こういう街だからこそ、あっし
が紛れていても誰にも怪しまれないんでげす」
答えるはヤンガス。彼もあまり変わっていない。
「そうよね…一番ヤンガスが危なかったんだものね」
エイトを処刑する時は黒い覆面を被っていたものの、サザンビークに処刑人として雇われる時
に顔を見られている。当時は頬の傷を上手く隠していたが、最も捕まる危険が高い役回りだっ
た。
「へっ、これくらい、大したことはねえでがす。兄貴のためなら例え火の中水の中」
ヤンガスは誇らし気だった。
「ところでククールは?まさかカジノでイカサマしているんじゃないでしょうね?」
「いや、ほら、…トロデーンに」
ゼシカの問いにややぼかした答えをする。ここの客はみな自分の会話に夢中になっていて誰も
他人の話などには興味を示さないが、念には念をいれたのだろう。
「ああ、あれね。…王様っていうのも大変だわ」
納得したように頷くと一つ嘆息した。
「全くでがすよ。この前なんて『おぬし、たまにはおっさん呼びするのじゃ』ってあっしに言っ
たんでげす」
「ぷぷっ。トロデーンから飛んでくるつもりなのかしら」
「たまには息抜きさせてやろうってんで牢獄亭に誘ってみたんでげすがね、『絶対嫌じゃ』っ
てそっぽ向かれたんでがす」
「全く、トロデ王らしいわ」
笑い声に酒場の楽し気な音楽が重なる。
「そのうちトロデーンに顔出さなくっちゃ。あの帽子使えばすぐだしね」
「本当に便利でがすよ。みんな兄貴のおかげでがす」
そう言ってヤンガスはポケットの帽子をそっと撫でる。
682:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:40:48 CSuhLvnR
「ほら、珍しい物を集めにあの場所に鎌を持ってよく行くんでがすが、あれがなかったらあっ
しなぞ足も踏み入れられなかったでがすよ」
「そうそう、ほとぼりが冷めるまで一時期御厄介になったっけ。グルーノさんも寂しいでしょ
うね、ずっと孫と一緒だったのに」
「あれは兄貴の決断だったんでがす。『故郷かもしれないけど、居るべき場所はここじゃない、
それに迎えに行かないと』って言って」
「そうだったわよね…」
二人でここにいない人に思いを馳せる。
「…今日は揃わなかったけど、みんなで会いたいわね。いつかは」
「いつかは必ず来るでげす」
夜も更けて牢獄亭はますます盛況だった。
※ ※ ※
683:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:42:11 CSuhLvnR
黄昏の光と闇に紛れるようにフードの男が部屋に滑り込む。埃に塗れ、心無しかやつれた風を
見せるその男は、壁を背にして座るこの家の主に来意を告げた。
「お主はあらゆる物について占い、外したことがないとか」
外見とは裏腹に意外に若い声をしている。
「形あるものについてはな」
男は答える。と同時に全て見通すかのような鋭い眼光をフードの男─マルチェロに向けた。
「人探しだな」
「ふん、聞きしに勝る横柄な態度だな。だが、その眼力は本物のようだ。
…その通りだ、占い師ルイネロ。ある者どもの行方を追っている」
「その者の名は」
「トロデーンの前の近衛隊長、エイトとトロデーン王女ミーティア」
神頼みを嘲りつつも占いに頼る気になったのは二人の行方が全く掴めないからだった。そこへ
トラペッタの街に、落とし物から行方不明の者まで占って全く外したことのないという占い師
がいるという噂を聞き付けたのである。
「…よかろう」
マルチェロの言葉をただ黙って聞いていたが、ルイネロは一つ頷くと目前の水晶玉に手をかざ
し意識を集中させる。すると玉は思わせぶりに輝き出した。マルチェロは何らかの答えが得ら
れるに違いない、と図らずも期待した。が、漸く返ってきた答えは意に反するものだった。
「見えんな」
「何だと?よく見ろ、エイトとミーティアだ。ちゃんと捜せ、金ならいくらでも出す」
「見えんものは見えん。最早人の形を留めておらんのだろう」
きっぱり言い切るルイネロにマルチェロは激昂した。
「貸せ!私に見せろ!」
とルイネロを追い払い、自ら水晶玉を覗き込む。が、
「何だこれは!何も見えんではないか!」
水晶玉には灯火が揺らめいているばかり。その答えはにこりともせず発せられた。
「この水晶玉の力を引き出せるのはこの私一人だ。お前には到底叶わん。さあ、分かったなら
そこをどけ」
684:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:43:26 CSuhLvnR
「ま、待て。では屍体がどこにあるのかを占え」
「先に言ったであろう、形あるものしか占えぬと。あの事については私も聞き及んでおる。何
年も前のことだ。あの地は海の難所、沈んだ遺体は波に千切れ、柔らかい部分は魚の餌となり、
骨も海老や蟹の住処となって海底に散っておろう。波に洗われ既に人骨の姿すら取ってはおら
ぬ筈」
「それでもいい、頼む」
「探し当ててどうする?お主、『この腓骨はミーティア姫のもの』と断言できるのか?よしん
ばそれを見せたとて他人を納得させられるとはとても思えんぞ」
「くそっ…」
そうルイネロに言われ、マルチェロは腹立ち紛れに床を蹴り付けた。そして代金を投げ付けん
ばかりの勢いで卓に放り出すと身を翻し部屋を出ていこうとする。
「…気を付けるがよい、怒りの酒は身を滅ぼすぞ」
ルイネロの言葉に一瞬立ち止まったがすぐに「ふん」と鼻を鳴らし出ていった。
「…今夜はユリマを使いに遣らんようにせねば。まあ、あの男に私の言葉を受け入れる余裕が
ありさえすれば回避できるだろうが…」
一人ごちてまた水晶玉に目を遣る。
本当はルイネロには見えていた。どこか遠い山の上、小さな家の中の炉端に一組の夫婦が寄り
添うように座っている光景が。着ているものは粗末だったが、幸せそうに語らっている。ふと
二人が愛おし気に見遣る先には柵に囲まれた小さな寝台があって、幼子がすやすやと眠ってい
た。耳を澄ませば二人の会話が遠く聞こえる。
「お城に連れて行って貰って、疲れてしまったのね。もう寝てしまったわ」
「ククールが、『くっくりゅおいちゃん』って呼ばれたってしょげてたよ」
「まだ舌が回らないんですものね…お父様も『じいじ』って呼ばれてとても喜んでいたんですっ
て」
二人は再び顔を見合わせて微笑み合う。
「…彼らに平安を、とこしえの平安を…」
呟いてルイネロは手をかざした。と、水晶玉はあっという間に光を失いただの玉となる。部屋
の中は再びほの暗い黄昏の光の中に置かれたのだった。
(終)
685:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:46:14 CSuhLvnR
長々とお邪魔しました。
誤字脱字があまりに多く、見苦しかったことを深くお詫びいたします。
686:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:47:56 Fws04CYI
リアルタイムで乙
締めがマルチェロとルイネロなのは予想できなかったぜ
687:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:53:34 w3melO70
又マルチェロが落ちなければ好いが、……。
688:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 03:34:50 GyshJCFX
>>679-685
くっくりゅおいちゃん!w
いや~楽しませていただきました、最後はまったりと締められてよかったです。
また新作書いてくださいね!
689:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 10:46:38 h1mgZaQe
チャゴスごときに翻弄される○、哀れなり
690:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 13:40:33 AfcUl5Gb
でもミーティアはチャゴスがイケメンだったらすんなりケコーンしたんだろうかw
691:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 17:40:45 22LH6TNh
でも主人公とミーティアがはっきりくっついたって感じではなかったね
どっちとも取れるような終わり方だった
692:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 17:42:09 AfcUl5Gb
え?そうか?思いっきりキスしてるのに。
693:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 18:17:50 IAtAxp44
どう考えてもくっついただろ
694:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 18:25:31 HmxgW9Nz
>>691
くっつきまくって子供までいるじゃん
695:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 18:26:02 22LH6TNh
>>691
えっ?一回目のエンディングではほのめかしてたけど
真エンディングではくっつくの?
696:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 18:26:49 22LH6TNh
間違えてたorz
自分が691ですた
697:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 18:32:03 HmxgW9Nz
>>696
へ?
SSじゃなくてゲームのエンディングの話だったの?
ならちゃんとそう書いておくれよ。
ややこしい。
698:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 20:50:11 Lx3ipnPc
>>685
長編お疲れ様でした。
連載中、いくつもの名シーンの数々に手に汗を握りました。
そして流麗な文体に、釘付けになりました。
とても面白かったです。次回作も楽しみにしています!
699:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 21:40:51 HtTJB+xO
チャゴス…がイケメンでも 性格が イクナイから ミーティアは 結婚したくなかったと思う...
エイトさんとなら、
つつましい生活でも いたわり合って暮らしてゆける二人ゃと 思う…隠れて生きていかなければならないのは 気の毒だけれど ふたりが幸せでいて ほんまによかったと思う☆
700:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 21:48:38 yK6gdhrG
>>685
途中荒れかけていたからどうなることかと思いましたが、
最後まで読むことができて、嬉しかったです。
ほんのり予想していた通りの結末だったけど、
二人が幸せになれて本当に良かった、と感じました。
素敵な小説を読ませていただいてありがとうございました。
お疲れ様でした。
次回作も楽しみに待ってます。
701:小ネタ7 ◆nefbuGknog
05/10/07 23:11:20 +XWp43kS
「それじゃあゼシカ、姫をよろしく」
そう言いおいて教会に入っていくエイトに任せておいてと手を振った。
初めのうち姫の世話を人に任せることを頑なに拒んでいたエイトだが、
近頃ゼシカにだけは時折ブラシかけなどさせてくれるようになっている。
ククールなど馬具を外した後近寄るとさみだれ突きが飛ぶところをみると
女同士ならかまわないということだろうか。
「あら?」
黒い鬣を飾るリボンをほどきかけてゼシカは手を止めた。
前とは違う滑らかな感触。
よくよく見れば旅の間に擦り切れ色あせかけていたはずのリボンが
真新しいものにかわっている。
でもゼシカの手を止めさせたのはそのことではなく。
「これって、えーっと……」
「ねえ、ミーティア姫、これを見て頂戴」
ほどいたリボンをゼシカは姫の目の前にかざした。
赤いシルクのリボンに丁寧に飾り文字が書かれている。
“誕生日おめでとう あなたに幸多からんことを”
姫の誕生日はドルマゲスを倒したほんの少し後のこと。
ちょうどゼシカの失踪と重なっていて祝いどころではなかったことを
ゼシカは後で知って申し訳なく思っていたのだが。
「よかったわね、エイトは忘れてなかったみたいよ」
耳元でささやくと姫は嬉しそうに小さく嘶いた。
702:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 23:12:57 +XWp43kS
秋といえばリブルアーチ、というかその直後の雪待ちの教会で。
姫の誕生日の話はちょうどこの時期に泉に行くと聞けるので、
やっぱお祝いできるような空気じゃなかったんだろうなぁ、と。
それとなんかで読んだリボンにラブレター書いて贈る話が
脳内練金釜で練成されてこんなんになりました。
……あんま性能よくない錬金釜ですがorz
そしてククールにちょっとだけごめんなさいですw
703:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/08 20:36:36 YUjUBPId
わざわざMP4も消化してさみだれ突きを放つところに主の執念を感じるw
704:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/08 22:33:06 ZH+7W1ZR
>nefbuGknog氏
エイト…容赦ねえw
そうだよなあ、非常事態についうっかり忘れてしまった、もありだろうけど
主姫的にはこっそりお祝いしてたらっていうのもいいなあ。
後、感想くださった皆様、本当にありがとうございました。書いていて非常に励みになりました。
この場をお借りしてお礼申し上げます。
>>688
そんなあなたのために「ククールVS子供」w
「この人はだあれ?」
「やんがしゅおいちゃん!」
「そうだね(おいちゃんがおじさんかな)。じゃあこっちは?」
「じぇじかおねーたん」
「かわいいなあ。じゃあさ、オレは?」
「くっくりゅおいちゃん!」
「おっ、おじさんかよ…それは止めてくれないかな(あいつらどういう教育しているんだ)」
「んー…………くっくりゅ!」
「オレだけ呼び捨てかよorz」
705:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/09 00:13:54 0jAuyvLX
>704
カワユスw
706:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/09 13:12:59 HMZQ9kHa
「じぇしかおヴぁたん」って言ったら、魔法食らうんだろうかねw
707:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/09 18:40:16 fVkHpfDS
「おいおい、何でオレがおじちゃんでゼシカはおねーちゃんなんだ?おばちゃんだろフツー」
背後で全ての魔力を解き放つ準備をしているゼシカ
708:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/10 00:13:35 7m73mOib
この流れは前にもあったな
阻止
709:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/10 16:55:17 glIfTSzJ
保守
710:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/10 16:57:37 0ZzAFamH
ついにこのスレも終焉を迎えるときが来てしまったか…
711:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/10 17:17:31 FK1rHox5
そうかなー?そうは思えないけど。
一部の祭会場以外はこんなもんだろう。
大体ここ一日一レス以上あるし。
北米版ではボイスが付くらしいけど、みーたんの声はどんな感じなのかなー。
712:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/10 17:22:04 BH+CJD/H
海の向こうだとおおむね男性は高く、女性は低い声になると聞いた。
713:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/10 17:46:44 glIfTSzJ
そうか!みーたんにも声がつくのか。
うわ、欲しいなー。それ。
714:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/11 20:14:23 axaVcGsb
ストライクフリーダム×ミーティア?
715:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 17:57:25 YNNTwOKX
はいはいSEEDSEED
716:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 19:33:53 o3gKzn1z
ちょっとワロタ
次のSSを楽しみに待っておきます
717:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 22:01:40 s16cQ4q4
おつまみ置いて行きます。
718:バッカスの踊り ◆JSHQKXZ7pE
05/10/12 22:04:12 s16cQ4q4
目が覚めると城中に楽し気な空気が漂っていた。
着替えを手伝ってくれるメイドさんも、今日は何だか心ここに有らず、といった感じ。
「今日、何かあったかしら?」
髪を梳かれながら鏡越しに問いかける。鼻歌でも歌い出しそうな様子だったので。トラペッタ
のお祭りもまだ先だったし、なぜ皆楽しそうなのか分からなかった。
「まっ、まあ、申し訳ございません」
慌てて取り繕いながらも私の疑問に答えてくれた。
「今日は城の者総出で葡萄搾りなのでございます」
その言葉にうっすらと去年の記憶が甦る。確かそんなことをしていたような。でもそんなに大
掛かりだったかしら…
「今年は当たり年だとかで質、量ともに最高の出来なのだとか。いつもは私どもが手伝うこと
はないのでございますが、特に人手が要るとかで呼ばれているのでございます」
「楽しそうね。見てみたいわ」
そう言うとメイドさんはちょっと考える風だったけれど、
「今日の講義はサザンビークの歴史なの。でもあの先生、進むのがとっても遅いんですもの。
もうとっくにご本は読み終わってしまって、空でだって言えるわ。今日お休みできないかしら」
と言うと
「…分かりました。ではその旨、お伝えいたします」
と渋々了承してくださった。
教育係の方とも話がついたのか、今日の講義はお休みになった。きちんとお勉強することはと
ても大切なこととは分かっているのだけれど、あの先生の講義だけは気が進まない。どうして
なのかは本当はよく分かっているのだけれど…
それもあってとても解放された気持ちで庭に出てみると既に大きな桶と樽が準備されていた。
「まあ、こんなに大きい桶、初めて見たわ」
荷車の荷台程もありそうな大きな桶に近寄ると、中ではエイトがせっせと拭き掃除をしている。
「おはよう、エイト」
「…おはようございます、姫様」
もう名前では呼んでくれない。人目があれば殊更素っ気無い。でも本当はそうしなければいけ
ない。だって、いつまでも子供のままでいることなど、できはしないのだから…
719:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 22:07:18 s16cQ4q4
それでも他の人々の楽しい雰囲気に影響されたのか、珍しくエイトの方から話し掛けてきてく
れた。
「もうすぐ葡萄が届くんですよ」
「まあ、そうなの。楽しみだわ」
他愛もない会話。でもそれだけでもとっても大切。
「ところで葡萄搾りってどういうことをするの?」
「葡萄をこの桶の中に入れて」
そう言って足元を指差す。
「みんなで桶の中に入って踏み潰すのでございます。こっちは赤ワイン用、あっちが白ワイン
用でございます」
「…そうよね、色が着いてしまうものね」
もちろんワインを飲んだことはない。でも色の違いくらいは分かる。宴会の時お給仕さんが持っ
ているのを見たことがあるから。
「今年は特別な葡萄もあるそうでございますよ」
「特別?どんな葡萄かしら」
「さあ…僕も話で聞いただけなので分かりませんが、とても甘いワインができるんだそうです」
「じゃあその実はとっても甘いのね、きっと。食べてみたいわ。一粒貰ってもいいと思う?」
「多分大丈夫だと思います」
そんなことを話しているうち、門が開いて馬車が入ってきた。領地の畑から収穫された、緑色
の葡萄が山積みされている。
「葡萄が来たぞ!手の空いている奴は手伝え!」
声が掛かり、わらわらと人が城内から出て来る。桶に移し替えていると次の荷車もやってきた。
こちらには黒い葡萄が。料理長さんが指示を出している。
「混ぜるなよ、白ワインがロゼになっちまうからな。赤潰した奴は白の樽に近付くんじゃない
ぞ」
エイトは黒い葡萄を桶に移し始めた。と、たちまち果汁で服が赤紫色に染まる。
「ミーティアも手伝うわ!」
何だかもう、訳もなく楽しくなってしまって、服が汚れることなんてすっかり忘れて黒葡萄の
房を抱え取る。
「姫様!」
誰かが気付いて私を止めようとしたけれど、もう既に潰れた果汁で服は染まっていた。
720:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 22:09:27 s16cQ4q4
「ごめんなさい、服を汚してしまって!」
そう言いながらもどんどん桶に房を投げ込む。
「白の方になさればよかったのに!」
隣でエイトが笑う。
「いいの!こんな楽しいことしたことなかったんですもの!」
桶の底一杯に葡萄が入ると、メイドさんたちが出てきた。皆足をよく洗うとそろそろと桶の中
に入っていく。そうして誰かが歌い出し、踊りが始まった。葡萄の上で。葡萄はたちまち潰れ
ていく。
「ミーティアも踊ってみたいわ」
隣のエイトにそう言うと、
「うーん、…じ、じゃ、くくく靴下脱がないと」
突然動揺し出した。あら、どうしてかしら?
「そうね、じゃ、靴下脱いで来るわ」
さすがに人前は恥ずかしいので図書館に入る。今日は皆庭に出ていて無人だったとのをいいこ
とに靴下留めから靴下を外して脱いだ。裸足になることなんてなかったけれど、ちょっと気持
ちいい。でも靴下なしで靴を履くのって、変な感じ。
早速外に出て足を濯ぎ、桶の中に入る。足首まであるドレスもたくし上げて膝が見えてしまっ
た。でも素足でこんなことをするなんてとっても楽しい。それに暖かい陽射しの中で歌ったり
踊ったりできるなんて!
一旦桶の中身が空けられて、また新たな葡萄が入れられる。
「エイト!エイトも一緒に踊るのよ!」
「えっ、でも…」
躊躇うエイトに手を差し延べる。
「ね?お願い」
その時は知らなかった。葡萄を搾るのは女の子だけ、ということ。でもどうしても一緒に踊り
たかった。その額に寄る寂しそうな気配を拭ってあげたかったの。
「ほら、姫様が呼んでいらっしゃるぞ」
「…そうねえ、エイトだったらいいわ。どうぞ」
周りの大人に押され、桶の中で一緒に踊るメイドさんたちに手招きされる。エイトは仕方無さ
そうに靴下を脱ぎ、ズボンの裾をたくし上げ、足を洗って桶の中に入ってきた。
721:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 22:11:03 s16cQ4q4
どこかおどおどとしている手を取る。慌てるエイトに
「あの曲、覚えていて?一緒に踊った曲」
と囁いた。
「…ええ」
そう、お城の舞踏会で奏でられる優雅なメヌエットやガボット、荘重なサラバンドのような端
整な曲ではない。かつてトラペッタで踊った、変わった拍子の楽しい踊り。私が一節を口ずさ
んで踊るとエイトもそれを受けて踊る。メイドさんたちは最初はきょとんとしていたけれど、
元々トラペッタやその近くの出身が多かったから、あっという間に踊りの輪が広がった。
大きな桶だった筈なのに、何人も入って踊るものだからちょっと狭く感じる。でも肩がぶつかっ
てしまっても楽しい。大抵、エイトとだったし…
踊りに踊って全ての葡萄を潰し終えた。もうへとへと。ドレスの裾は赤紫にぼかし染めになっ
て、点々と水玉模様がついている。足を濯いで貰って、裸足のまま靴を履いた。
と、そこへ新たな荷馬車が着いた。
「あっ、あれね、すごく甘い葡萄って!」
きっとつやつやしていて、ほんのり粉を吹いていて、丸々と大きな粒の葡萄なのだろう、と急
いで駆け寄る。けれど、
「んん?」
「わっ!」
首傾げる私の横でエイトが驚く。荷台には灰色でしわしわしている上に所々灰色のふわふわし
たもので覆われた葡萄ばかりがあった。どう見ても美味しそうではない。
「はっはっは、びっくりなさいましたかな?」
御者台の老人が笑った。
「これが貴腐葡萄でございますよ。葡萄にカビが生えたものでございます」
「カビ?」
「えっ、カビなんですか?!」
「左様。特別なカビなんでございます。このカビが付くとうっとりする程甘く美味しいワイン
ができるのでございますよ」
「まあ…」
「へえ…」
722:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 22:13:57 s16cQ4q4
知らなかったわ。世の中って思いもよらないことがたくさんあるのね。図書館にたくさん本は
あるけれど、実際に見てみないと分からないことって一杯あるんじゃないのかしら。きっと素
敵なことで一杯なのでしょうね。
見ることができたらいいのに。…できれば、エイトと一緒に…
(終)
みーたん12、3歳ぐらいの話で。
註
貴腐ワイン
ある種のカビが熟した白葡萄に付き、果汁を濃縮したためにできる非常に甘いワイン。
カビは自然に生えるのを待つしかないので、とても貴重。
ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ(TrockenBeerenauslese)、
ボルドーのソーテルヌ(Sauternes)地区のVin de Pourriture Noble
などが有名。
文中の踊りの曲は全てDQの城の音楽で使われたものです。
723:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 23:53:28 x2gSPubY
ハァハァしますた
このあと二人が旅に出た時、みーたんはワインの飲めない体に…
724:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/13 01:04:36 We0jo4wA
ほのぼのでよかったです。
ちょっとだけ女の子のエイトが浮かんできて、萌えてしまいました。
725:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 17:37:56 rVFahK2x
ほしゅ
726:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 23:57:26 JGmmkp4W
ホシュ
727:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/15 20:13:42 /rZmfwal
感想どうもありがとうございました。
◆nefbuGknog氏の「女の子は脚だろう」から秘密のベールに包まれたみーたんの脚に迫ってみますた。
でもフトモモまでは迫れなかった…
ネタを勝手に使って申し訳ありません。
今後も頑張ります。
728:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/15 22:35:29 nuZ45NVB
最下層達成!!!!!!!
729:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 01:21:48 QUmKUT60
>>727
乙です。
張られたままの伏線も気になるところです。
今後も楽しみにしています。
730:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 12:54:28 DNH1XjGx
一番下まで来ちゃったのであげ
731:秘密のお出かけ ◆JSHQKXZ7pE
05/10/16 14:51:10 ADFFVt2o
1.
「エイト、あのね」
夕食の片付けも一段落ついた頃、ミーティア姫が厨房にやってきてエイトを手招きしました。
「うん…どうしたの?」
人目を憚るその様子にエイトもつられてひそひそ声になります。
「あのね…来週トラペッタでお祭りがあるんですって」
「うん」
エイトもそれは知っていました。秋の収穫を祝う、それは盛大なお祭りなのだそうです。
「エイトも見に行くのでしょう?」
その日はお休みを貰っていました。トロデーンでも収穫をお祝いするため、豪華な晩餐が用意
されますが、ゼリー寄せやテリーヌ、仔羊の冷製など、ほとんど前もって作られるものばかり
でした。なので下働きのエイトでもお休みを貰って出かけることができるのです。
「うん、そのつもりだけど」
話がよく分かりません。ずっとここに住んでいるミーティア姫がちょっと離れているとはいえ、
領地のお祭りを知らない筈ありませんでしたから。
「あのね…ミーティア、お祭りに行きたいの。お願い、一緒に連れてって」
「えっ!」
「一度もね、行ったことないの。ううん、一度だけお父様と馬車の中から見たことはあるけれ
ど。とっても楽しそうだったけれど、ミーティアにはふさわしくないからって行かせてもらえ
なかったの」
ミーティア姫はしょんぼりとして悲しそうでした。
「その時ね、ミーティアと同じくらいの女の子が白いふわふわとしたものを持っていたのよ。
その子のお父様に手を引かれながらそれを食べていたの。ミーティアもとっても食べてみたかっ
たのだけれど、『お城のパティシエがおいしいお菓子をお作りいたしますから、我慢なさいま
せ』って言われて食べられなかったの」
「そうだったんだ…」
エイトはちょっと可哀想になりました。何不自由なくお城で大切にされているが故に、ミーティ
ア姫は綿菓子一つ、食べることもできないのです。
「じゃあ、王様にお願いして…」
732:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 14:52:17 ADFFVt2o
「それは駄目よ」
ミーティア姫はあっさりエイトの言葉を否定しました。
「だってお父様にお話ししたらお付きの人をぞろぞろ連れて行くことになってしまうわ。そし
たらまたあれも駄目、これも駄目って言われちゃう」
「それはそうだけど…そしたらトラペッタまで歩かなきゃならないよ」
エイトはそれが心配でした。最近一緒に遊ぶようになって大分丈夫になってきたとはいえ、歩
いて遠出できるとはとても思えません。自分一人なら朝出て夕方遅くに帰って来れるかな、と
考えていたのですが、ミーティア姫が一緒となると心許ない気持ちになるのでした。
「ミーティア、ちゃんと歩くわ。それにお父様にお願いしてお外で遊ぶ時の靴、あつらえても
らったんですもの」
そう言ってちょっぴりドレスの裾を持ち上げました。真新しい革のブーツを履いています。赤
い鹿革のその靴はミーティア姫に似合って大層可愛らしかったのですが、エイトにはその新し
さが気になりました。
「新しい靴なんて履いて行ったら足痛くしちゃうよ」
エイトには面と向かって「連れて行けません」と言うことができませんでした。勝手に連れ出
せば罪に問われてしまうでしょう。怒られて夕食抜きくらいならまだしも、追放になったり死
刑になってしまうかもしれません。何とか諦めてもらおうと必死で言い逃れしようとします。
「分かっていてよ。だからこうして今も履いて慣らしているの」
よく鞣された革とはいえ、ミーティア姫の足は今まで一度も革靴を履いたことがありません。
ずっと絹サテンの靴で事足りていたのですから。きっとあちこち靴擦れして赤くなってしまう
でしょう。
「でもそんな絹のドレスじゃ、すぐお姫様だって分かっちゃうよ」
絹地には独特の光沢があります。特に王族が着るような布地はよく精練されていてつやつやと
していました。
「散歩服を着るもの」
「あんなに長い裾の服なんて、お姫様しか着ないよ」
確かに散歩服は麻製です。ですが子供が床すれすれの長さのスカートを着ているのは余程の家
に限られていました。裾を長くすればそれだけ布代が嵩みますから…
733:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 14:53:26 ADFFVt2o
「エイト…」
ついにミーティア姫は俯いてしまいました。
「ごめんなさい、迷惑だったのね…」
その声はエイトがはっとする程悲し気でした。
「でもミーティアはエイトと行きたかったの。エイトと一緒に行きたいの。それは、駄目?」
その言葉に胸の奥でとくん、と脈打つものを感じてエイトは落ち着かない気持ちになりました。
「そうじゃないよ」
不安定なその感覚を払いたくてエイトはつい、ぶっきらぼうな言い方になってしまいました。
でもミーティア姫にはそれが分かりません。言葉の素っ気無さだけを汲み取り、はっと身を固
くしてしまいました。
「あの…ごめんなさい。嫌だったのね。じゃあお城でピアノ弾いて待っているから、お話聞か
せてね」
「待ってよ」
すごすごと肩を落として厨房を出て行こうとする姫の腕を、エイトは思わず掴んでいました。
「…嫌なんかじゃないよ…」
そう言いながらもぷい、と顔を背けようとしましたが、ぱっと輝いた姫の顔をしっかり見てし
まいました。
「ほんと!?」
「本当だよ。じゃ、一緒に行こう」
「ありがとう、エイト!うれしいわ」
ミーティア姫は小さく手を叩いたかと思うと、爪先立ってエイトの頬にちょんと口づけしまし
た。
「……」
「じゃ、また明日ね。おやすみなさい、エイト」
無言で頬を赤らめるエイトに手を振って、ミーティア姫は厨房を出ていったのでした。
「おう、エイト。何姫様にチューされてんだ?」
からかうように料理人が話し掛けてきます。
「なっ、ななな何でもないです」
頬どころか首まで赤くなっているのが自分でも分かりました。急いで頭を振って普段の自分に
戻ろうとします。料理人もそれ以上は追求してこなかったので、エイトはほっとしました。
734:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 14:54:35 ADFFVt2o
けれどもどうしたらよいのでしょう。成り行きとはいえ、ミーティア姫をこっそりトラペッタ
に連れていく約束をしてしまったのですから。行き帰りどうしたらいいのか、もしトロデーン
のお姫様だと知れて人攫いに遭ったら、と心配の種は尽きません。
それでもエイトは最後までちゃんとやり遂げようと決心していました。ミーティア姫に悲しい
思いをさせたくなかったのです。トーポの次にできた、大切な友達でしたから。
(続く)
735:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 14:57:24 ADFFVt2o
泉で聞ける話ネタで。
あちこちで細切れに書いてきたこっそりお出かけした時の話です。
736:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 15:04:59 EFMPR/PL
いいですねー
ほのぼのしてて。
続き期待してます
737:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 17:18:16 UsXQlQpj
わー何か二人ともかわいいなv
おとぎ話のような語り口がイイ!
続きをお待ちしています。
738:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 21:31:13 Q6K2JV2Y
ついに来た?
トラペッタまで行ったはいいけど帰り道がわからなくなってトーポについていったら帰れたってネタだよな?
俺はこのエピソードをSSにしてくれる日を心待ちにしてたんだよ
739:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 22:31:09 t2dme2xN
ぬるぽ(^^)
740:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/17 10:34:24 /lBOiG5U
そういえば、ここのところ「主姫スレ」と「ククゼシスレ」がお隣さんだ。
両方を行き来している身としてはうれしい。
741:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/17 10:37:04 sA8CnrRt
>>739 ガッ!!
742:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/17 20:21:16 7grLABj9
読んでいただきありがとうございます。
頑張ります。……が、少しのんびりペースになるかも。
すみませんがよろしくお願いいたします。
743:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 07:29:07 7X3T79eF
ほす
744:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 17:15:00 CkXuGo24
ほしゆ
745:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 19:34:09 sskKwqgx
>>731-734
続き
746:秘密のお出かけ ◆JSHQKXZ7pE
05/10/19 19:35:49 sskKwqgx
2.
ミーティア姫もまた、困っていました。確かにエイトの言う通り、ひらひらした絹のドレスで
はどう考えても街の子供には見えません。近隣の村から運ばれてくる野菜や穀物の荷馬車に同
じ年くらいの女の子が乗っているのを見掛けたことがありましたが、その子はブラウスと膝丈
ぐらいのスカートを着ていました。姫の持っているドレスは皆、裾の丈がくるぶしまでありま
す。庶民でも十四、五にもなると長いスカートを身に着けるようになりますが、自分がその年
齢に見えるとはとても思えませんでした。
では新しくスカートを作ろうかとも考えましたが、木綿や麻の布が手に入りません。いえ、寝
台周りの敷布や枕カバーは麻でしたが、あまりに真っ白過ぎてちょっと不自然でしたし、何よ
り無くなっていたらリネン係のメイドさんに怪しまれてしまいます。
どうしようかと一生懸命考えながら城内を歩くうち、ふと赤い格子縞の布が目に入りました。
何か片付け物の途中だったのでしょう、取りあえず見苦しくないように布を掛けておいたよう
です。
(これでスカートを作ったらかわいいのではないかしら?)
ミーティア姫はそう考えました。近寄って摘んでみると縁はもうかがってあります。筒状に縫
い合わせ、胴にリボンを巻いてサッシュにしたらすぐにスカートになりそうでした。
「まあ姫様」
突然背後から声が掛かり、姫は飛び上がらんばかりに驚きました。
「お見苦しいところをお目におかけして大変申し訳ございません。すぐに片付けますので」
掃除係のメイドさんです。ミーティア姫はお願いしてみることにしました。
「お仕事お疲れさまです。…あの、この布はあなたのもの?」
「はい、左様でございますが」
747:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 19:37:58 sskKwqgx
「とってもかわいいわ。この布、もらえないかしら?お部屋の棚に掛けたいの」
「まあ、こんな粗末な布、姫様のお部屋には相応しくございませんですよ。ビロードや繻子の
美しい布をたくさんお持ちでしょうに」
メイドさんは笑いながらそう言って取り合ってくれません。
「ううん、この布がいいの。だって大きなチェックがとってもかわいいんですもの。ね、お願
い」
「ですが…」
「掛ける布が無くなって困るのだったら、ミーティアのお部屋のカバーを使って」
姫も必死です。
「いえ、そんな勿体無い」
メイドさんはびっくりして手を振りました。
「布なんていくらでもございますよ。姫様がどうしても、と仰るのでしたらまだ使っていない
ものがございますので、そちらを差し上げます」
「まあ本当?!うれしいわ、どうもありがとう」
姫の小躍りせんばかりの喜び様にメイドさんは不思議そうな顔をしましたが、
「ではただ今持って参ります」
と言って布を持ってきてくれました。
ミーティア姫はお礼を言い、布を抱えて小走りに部屋に戻ります。途中で廊下を掃除している
エイトを見付けました。
「エイト、エイト」
物陰から手招きするとエイトがやってきます。
「あのね、この布でスカートを作るわ。かわいいでしょ?」
エイトは胸にしっかりと抱えられた布を見ました。これなら何とか街の女の子に見えそうです。
「うん、そうだね」
エイトに認めてもらえて姫はとても嬉しくなりました。が、次の心配が浮かんで来ます。
「後はブラウスよね…どうしたらいいのかしら…」
「あのさ」
困っているミーティア姫にエイトは耳打ちしました。
「上は何とかするよ。だからちゃんとスカート作って」
748:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 19:40:30 sskKwqgx
「ほんと!?ありがとう、エイト」
そう言って爪先でくるりと回ります。あまり嬉しくてくるくる回っていると
「ミーティア、人が来たらへんに思われちゃうよ」
と困ったように言われてしまいました。
「あっ、ごめんなさい。秘密のお出かけなんですものね、気付かれないようにしないと」
そう言いながらも姫のにこにこは収まりません。
「だからさ、そんなににこにこしていたらへんだよ。普通にしていてよ」
エイトはますます困ったように言います。
「ええ、分かっていてよ。ちゃんと普通にしているわ。じゃ、エイト、また後でね」
分かったようなことを言いましたが、楽し気に手を振り、部屋に戻るその足はスキップしてい
ます。歌を口ずさみながら遠離るその姿を見送って、エイトは小さく溜息を吐いたのでした。
部屋に戻ると早速ミーティア姫はお針箱を取り出しました。貴婦人の嗜みとして小さい頃から
刺繍の手ほどきを受けています。自分で刺繍して縁をかがり、トロデ王に贈ったこともありま
した。
なので脇を縫い合わせ、胴に襞を取ってリボンを縫い付けることなど簡単です。あっという間
にスカートが出来上がりました。赤いブーツに合いそうです。膝よりやや長めの丈で、着てみ
ると足が空気に触れてちょっとひやっとしました。
でもこんなスカートを着るのは初めてです。何だかとっても嬉しくなって、鏡の前でポーズを
取ったりダンスをしたりしてしまいました。
新しい服を作り、それが自分に似合っている様子を見て心躍るのは女性ならば誰しものこと。
お昼になって仕方なく普段着のドレスに着替えした後も、にこにこは収まりませんでした。
「姫や、今日は随分ご機嫌じゃの。何かいいことでもあったのかの?」
とお昼の時にトロデ王に聞かれてしまう始末。
749:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 19:42:02 sskKwqgx
「いいえ、何もなくってよ。あっ、お父様とお昼ご一緒できるの久しぶりでうれしいの」
確かにその通りだったのですが、それにしてもはしゃぎ過ぎていてトロデ王は心配になりまし
た。
「あまりはしゃぐとまた具合悪くなるのではないかの。今日は外に出ない方がよいのではない
か」
トロデ王の心配ももっともでした。ミーティア姫は昼間はしゃぎ過ぎて夜熱を出したことが何
回かあったのです。ただそれは子供に特有のもので、心配する程のものではなかったのですが。
けれども亡き王妃の忘れ形見である愛娘の発熱がもし死病の前触れだったら、と王は恐れてし
まうのでした。
「大丈夫よ、お父様。だってミーティア、エイトと一緒に遊ぶようになってから熱出したこと
ないんですもの」
「そうじゃったの。随分丈夫になって、ワシゃ嬉しいぞ。エイトのおかげじゃの」
どうやら王の意識はそちらの方へ行ってくれたようです。ミーティア姫はほっとしました。
(気を付けなくっちゃ)
と姫は思いました。それでもどこかうきうきした気分が出ていたのでしょう。その日はずっと
「ご機嫌ですね」
とことあるごとに言われ続けてしまったのでした。
着るものがどうにかなりそうだったので、エイトはほっとしていました。もしかしたら自分の
服を貸さないといけないのではないかと心配していたのです。貸すのはいいのですが、女の子
のミーティア姫にズボンを履かせるのは気が引けました。どこの子供でも女の子はスカート、
男の子はズボンで、逆は見たことがありませんでしたから。
それにあの長い髪をどこに隠すのか、帽子の中に押し込むしかなさそうです。その上完全に男
の子の格好をさせたとしても、姫はどうしても女の子にしか見えなさそうでしたから。
750:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 19:44:00 sskKwqgx
一日の仕事が漸く終わり、エイトは寝床の中で自分の行李を開きました。中には自分の着替え
が入っています。この前貰った新しいチュニックが奥にしまってありました。
頻繁に服が貰える訳ではないので、小さくなったり繕えない程生地がへたってしまうまで着な
ければなりません。今着ている服はまだまだ充分着ることができそうだったので新しい服は取っ
ておいたのですが、これが役にたちそうでした。色も生成りで、これなら女の子が着ていても
おかしく思われないでしょう。
(後は頭かな)
時々親と一緒に荷馬車に乗ってきて荷運びの手伝いをしている女の子の服装をエイトは思い出
そうとしました。確か髪は二つに分けて三つ編みにしていたようです。肌寒い日は肩掛けをし
ていました。秋も半ばを過ぎ、朝夕は冷え込みます。
(何かそういうものがあった方いいかも)
「おい、エイト」
あれこれ考えていたら隣の寝床から眠た気な声がかかりました。
「明日も早いんだ。さっさと寝ろ」
「は、はい」
こっそり点していた灯が邪魔だったようです。急いで灯を消し、荷物をしまいました。
次の日の夕食後、またミーティア姫が厨房にやってきました。
「こっち」
と口だけ動かして隅の方へ呼び寄せます。
「あのさ、このチュニック貸すよ。上に着て」
ミーティア姫はエイトの手の中にある服を見ました。
751:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 19:45:45 sskKwqgx
「ありがとう、エイト」
姫もまた、ほっとしていました。自分の持ち物の中で合いそうな服は無く、かといって自分で
作るにはあまりに複雑で、どうしたらいいのか途方に暮れていたのです。
「じゃあ、その日はそれ着てきて…あっ!」
エイトは何か思い当たったようです。
「どうしたの?」
「その格好じゃ城の中歩けないよ…」
「あっ、そうね、そうよね…」
「どうしよう」
「どうしましょう」
「うーん」
「うーん」
二人で考え込むうち、先に口を開いたのはミーティア姫でした。
「あのね、馬小屋とかで着替えたら駄目?」
「えっ、でも汚れちゃうよ」
「平気よ、ちょっとぐらい」
「あっ、だったら」
漸くエイトがいいことを思い付いたようです。
「穀物貯蔵庫にしよう。あそこ、きれいにしているし、通用口も近いよ」
「貯蔵庫?」
「あ、分かんないか。じゃ、ここに来て。それまでにお弁当作っておくから。一緒に行こう」
「うん!」
本当に嬉しそうでした。その顔を見てエイトは
(ああ、一緒に行くって言ってよかった)
と思ったのでした。
(続く)
752:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 22:02:09 Chg//7ik
わくわく
753:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/20 00:50:45 qEdOQl1m
エイトの作ったお弁当が激しく食べたい。
754:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/20 22:50:40 rUQo+9yq
変なところで空白入ってる…!
もう何がなんだか_| ̄|〇
エイトに美味しいお弁当を作らせるので勘弁してください。
755:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 01:48:16 Qpc/Ei+r
子ども時代主姫可愛いな。
◆JSHQKXZ7pEさんに触発されて、
漏れも何か書きたくなってきた…。
756:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 20:44:14 FTrETvbF
>755
カモーン
757:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 22:44:03 CkiiDk3J
そんじゃ、◆JSHQKXZ7pEさんの連載が終わられた後にでも
投下しますね ノシ
758:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/22 15:28:25 GVuVVWFh
>>731-734、>>746-751
続き
759:秘密のお出かけ ◆JSHQKXZ7pE
05/10/22 15:31:06 GVuVVWFh
3.
さて、いよいよその日がやってきました。
エイトは二人分のお弁当を作るために早起きしました。冷めても美味しいもの、姫が普段食べ
慣れているものに近い内容にしようと色々考えています。
まず大蒜と玉葱を細かく刻み、オリーブ油で香りが立つまで炒めてベーコンの切れ端を加えま
す。さらに賽の目に切った茄子やパプリカ、トマトを炒め、水気が無くなったら茹でたペンネ
を入れて摺り下ろしたチーズで和えました。型に入れてとき卵と牛乳を流し入れ、石釜に入れ
じっくり焼きます。
続いてエイトは昨日分けてもらったパイ生地を取り出しました。伸ばして四角く切り分け、林
檎を乗せて砂糖と肉桂を振り掛けてこれも石釜に入れます。
漸く二つとも焼き上がり、ほかほかと美味しそうな湯気を立てているオムレツとパイを見てい
ると、パン種をこしらえているおばさんが肩越しに覗き込んできました。
「上手くできたねえ」
「はい!」
おばさんに褒められエイトは嬉しくなりました。
「あんたはチーズを使う料理だと本当に上手に作るねえ。そういう場所で育ったのかもしれな
いねえ」
「…」
おばさんは何の気無しに言ったのですが、エイトは笑顔のまま固まってしまいました。
そうだったのかな…全然覚えていないけど、そういう場所だったのかな…故郷が分かったら帰
されちゃうのかな…嫌だな、だって全然覚えてないんだもの…でも父さんや母さんがいるかも…
どんな人なのかな、会いたいな…
「ああ、すまなかったねえ、考えさせちまって。じゃあお祭り楽しんでおいで」
「…はい」
おばさんはぽんと肩を叩いて行ってしまいました。エイトは小さく溜息を吐いた後、「しゃん
としよう」と顔を上げます。と、戸口からミーティア姫の頭がちょっぴり覘いて中を窺ってい
るのが見えました。
「今行くよ。外出てて」
と小声で言うと、「分かった」とこっくりと頭が動き、引っ込みました。
エイトは急いでオムレツを切り分け、器に入れました。パイも同じ大きさの器に入れて二つを
重ね、布巾で包んで牛乳の入った瓶と袋に入れます。そして着替えの入った袋も一緒に抱えて
姫の後を追ったのでした。あまり待たせては悪いと思ったので。
760:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/22 15:32:14 GVuVVWFh
通用口ではトラペッタから運ばれてきた荷物の受け渡しが行われていました。野菜や果物、お
酒や乾物が下ろされ、代わりに空になった木箱や樽が荷馬車に積み込まれています。衛兵が荷
物を改め、返却する樽や箱が空であることを確認すると御者に賃金を渡しました。お祭りとい
うこともあって代金を弾んでもらえたのでしょう、御者はほくほく顔で荷馬車を出発させまし
た。
先程衛兵が荷物を確認したので通用口では何の検査もせず通過します。ガタゴトと音を立てて
荷馬車が城から充分離れた時、荷台の掛け布がごそごそと動きました。と、布の隙間から四つ
の目が覘きます。茶味を帯びた黒い目と美しい碧色の目でした。
「うまく行ったね」
「本当ね」
ひそひそ声で話しているのはエイトとミーティア姫です。
「よかった、これでトラペッタに行けるよ」
エイトはほっとしていました。変装には自信ありましたが、もしかしたら通用口の衛兵に見破
られるのではないかと心配していたのです。
「ガラガラ言っていて楽しいわ」
ミーティア姫はもう、珍しいことばかりで何を見ても楽しく感じられてしまうようです。
「大丈夫?痛くならない?」
ふかふかのクッションとビロードが敷き詰められた王様の馬車にしか乗ったことのない姫です。
こんな板に車が付いただけの荷馬車の乗り心地がいい訳ありません。
「平気よ」
と姫は答え、二人は微笑み合いました。
「見つかっちゃまずいから、静かにしていよう」
「ええ」
761:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/22 15:34:04 GVuVVWFh
二人で黙って荷馬車に揺られていくうち、エイトの意識は少しずつ遠くなってきました。無理
もありません、今朝は夜明け前からお弁当作りをしていたのですから。
吊り橋を渡って森に入りました。道は平坦になってごとごとと規則正しい車輪の音が眠気を誘
います。一生懸命道を覚えていようと目を開き続けていましたが、頭上でさし交わされる木々
の枝が作る緑の回廊がふと、どこかの洞窟に見えました。くねくねと続くその洞窟には不思議
な壁画が描かれております。ぼんやりとしか見えませんでしたが、見たこともない服装の人々
が描かれているようです。けれどもなぜかしら懐かしく感じられる絵でした。
突然洞窟は終わり、明るい陽射しに照らされてエイトは顔を顰めました。視界が開け、目の前
に小さな草地がありました。今までまるで生き物の気配もなかったのに、そこだけ花が咲いて
います。その奥には─
「エイト、エイト」
はっと気が付くとミーティア姫が顔を覗き込んでいました。
「大丈夫?もうすぐトラペッタに着くわよ」
いつの間にか眠り込んでいたようです。
「あれ?寝ちゃってたんだ。じゃあ、あれ、夢だったのかな…」
「どんな夢だったの?」
「うーんと…」
姫に聞かれ、順を追って話そうとしました。が、その瞬間映像はするすると心から滑り落ちて
どこかへ消えてしまったのでした。
「…覚えてないや」
エイトは残念に思いました。とても大切なことだったように思えます。と同時にとても寂しい
気持ちになりました。どこかにぽっかりと穴が開いていてそこから冷たい風が吹き込んでいる
ような。
「何だったのかな。覚えていられたらよかったのに」
「もしかしたらまた見ることがあるかもしれないわ。そしたら覚えていて、ミーティアにも教
えてね」
「…うん」
ミーティア姫の言葉が嬉しく、エイトは深く頷いたのでした。
762:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/22 15:35:16 GVuVVWFh
「あ、着いたわ」
荷馬車が止まりました。トラペッタの街を取り囲む環状壁は厚く、門も頑丈に出来ているため
開閉には時間が掛かります。御者が開門を呼びかけている隙に、二人は荷台から飛び下りまし
た。
変装は完璧でした。姫が一生懸命作った赤い格子縞のスカートに生成りのチュニック、肩には
赤いストール─これはエイトが誰かからのお下がりで夜寒い時に上に掛けるように貰ったもの
でした─を掛け、髪は二つに分けて三つ編みにしています。どこからどう見てもお姫様ではな
く、庶民の女の子でした。
門が開き、門番が型通り通行人を改めます。呼び止められたら、と緊張しましたが、
「子供だけか?気を付けて行けよ」
と手を振られ、ほっとしながら二人は門をくぐりました。
どこかで狩りの角笛が吹き鳴らされています。お祭りは今、始まろうとしていました。
(続く)
763:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/22 15:40:39 GVuVVWFh
エイトの作るニンニク風味の野菜たっぷりオムレツとりんごのパイはどちらも映画の中で
使われていて、美味しそうだったので。
だらだら書いていてすみません。できるだけ速やかに書き上げます。
764:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/22 23:51:05 oCZ8yile
今423KBだ…もしかしたらこのスレも完走前に容量オーバーになるかも。
気をつけていた方いいかもね。
765:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/23 00:34:13 hRG7TzwU
>>759
エイトのお弁当美味そー!!
続き楽しみにしてますので、焦らずゆっくり進めてくださいね。
>>764
気をつけるってどうしたら?
書き込み少なめにするとか…。
もしかしたら、レスの数じゃなくて行数とかなのかな?
766:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/23 01:00:13 oUdf1I4x
>765
512kbで落ちるわけだから、500kb行ったら次スレ立てて誘導するべ。
767:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/23 01:54:13 hRG7TzwU
>766
そうだったのか…。教えてくれてありがと。
時々荒れることもあったけど、自分はこのスレが大好きです。
ずっと続いていってくれたら嬉しいな。
768:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/23 10:54:55 EJx0Ru7z
三つ編みミーティア想像したらかわいいなぁ(*´ー`)
769:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/23 23:06:25 B81fyyA8
容量ってどこを見ると分かるの?
770:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/23 23:12:38 3oIPNgKn
>>769
専ブラによっては常に表示できたりするし
専ブラを使ってないなら下のほうに 424 KB [ 2ちゃんねるが使っている 完全帯域保証 レンタルサーバー ] と容量が出てる
771:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/23 23:43:37 B81fyyA8
>>770
あっ、本当だ。どうもありがとう。
772:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/25 01:30:10 pyqZ34Ne
このスレ、埋めちゃったほうがいいのかなあ…。
773:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/25 18:42:15 yn9Y4oND
ダレモイナイ…(‥ )
774:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/25 20:05:52 3SBur8Si
>>731-734、>>746-751、>>759-762
続き
775:秘密のお出かけ ◆JSHQKXZ7pE
05/10/25 20:08:04 3SBur8Si
4.
門をくぐると街には楽しい空気が流れていました。あちらでは手回しオルガンの音楽に合わせ
て人形が踊り、こちらでは売り子が素晴しい滑舌で口上を述べ立てています。向こうで人々が
どよめき、続いて拍手喝采が起こりました。
「エイト!」
ミーティア姫が振り返り、興奮気味に叫びます。
「すごいわ!楽しそう!」
「広場の方へ行ってみようよ」
「ええ!」
二人は手を繋いで駆け出しました。
広場では既に色々な見せ物が始まっていました。大道芸人が素晴しい技を披露しているかと思
えば、楽隊が楽しい曲を奏でています。魔物使いが飼いならした魔物に寸劇をやらせている横
で奇術師が帽子から鳩を飛ばしていました。
広場の真ん中に目を移すと、大きな樽がでんと据え付けられています。あれが今日の祭りのメ
インイベント、今年できたての新酒の樽なのでした。
「出来が良かったらしいからねえ。楽しみだよ」
「珍しいことに香ばしい香りがするんだそうだ」
行き過ぎる大人たちがそんな会話をしています。
「あっ、あれ」
どれもこれも初めて見るものばかりで、胸が一杯になって何も言えずにいたミーティア姫が漸
く口を開きました。指差す先には屋台があって、子供が群がっています。
「あれよ、前に見たの」
歓声を上げて屋台から離れる子供の手には綿菓子が握られています。エイトはポケットを探り
ました。綿菓子くらいなら買えそうです。
「買ってくるよ。そこの噴水のところで待ってて」
返事も待たずに屋台へと駆け出していってしまいました。付いていこうとしたのですが、人波
に押されて進めそうにありません。仕方なくエイトの言う通り噴水の横にちょこんと腰掛けま
した。
776:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/25 20:09:29 3SBur8Si
随分並んでいるようです。エイトは時々ミーティア姫の方を振り返っては手を振ります。姫も
手を振り返すうち、新たな人波が二人の間を遮りました。エイトが見えなくなってちょっとしょ
んぼりしていると、
「お嬢ちゃん、かわいいね。一人なの?」
と突然頭上から声が降ってきました。振仰ぐとひょろりとした顔色のあまり良く無い十七、八
歳ぐらいの男がこちらをにこにこと見下ろしています。
「お友達を待っているの」
姫は何の疑いもなく答えました。
「お父さんやお母さんはいないの?」
その問いにこっくりと頷きます。さすがに「お父様」と言ってはまずい、ということまでは分
かっていたのですが…エイトは丁度自分のところに順番が回ってきて、くるくると回る小さな
器から綿が吹き出て綿菓子ができていく様に見入ってしまい、姫の様子に気付きません。
「お友達待っている間にお兄ちゃんと遊ばないかい?珍しいものを見せてあげるよ。ほら」
そう言って差し出した手の上には小さな青白い火の玉が浮かんでいます。
「…いいの。だってここで待ってるってお約束したんですもの」
ミーティア姫も最初は物珍し気に見ておりました。けれども優し気な言葉の中に何か引っ掛か
る、嫌な感じを受けてぷい、と横を向きます。が、
「いいからおいで。とっても楽しい、いいことしよう、ね」
と手を引っ張り、どこかへ連れ去ろうとします。
「いやっ!…エイト!エイト!助けて!」
姫も今や必死で助けを求めます。エイトも代金を支払ってこちらを振り返り、漸く事態に気付
きました。姫の元へ急ごうとしますがたくさんの人が邪魔になってなかなか進めません。その
間にも男は姫を引っ張って物陰へ連れ込もうとします。
「おい、ちょっと」
とその時、声と共に男の肩に手が置かれました。
「嫌がっているじゃないか、離してやれよ」
赤茶色の髪をした十四、五歳くらいの少年でした。
「こっ、こいつはオレの妹だ。どうしようとお前に関係ない」
男はしらばっくれます。年下だと侮ったのでしょう、横柄な態度になりました。
「話はずっと聞こえていたんだ。妹なはずあるもんか。嘘を吐くな」
「オレを嘘つき呼ばわりする気か?!」
「そうだろう?違うのか?」
777:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/25 20:11:08 3SBur8Si
腕に自信があるのでしょう、少年は挑発します。ミーティアと同じ歳くらいの連れの女の子が
それをはらはらと見ておりました。姫は怖くて動けずにいると
「下がっておいで」
と優しい声で呼び掛けられました。白髪の老人です。ですが動作はきびきびとしていました。
「ワシの弟子が何ぞいたしましたかな」
語調は穏やかでしたが、有無を言わせぬ迫力があります。姫を攫おうとしていた男は項垂れま
した。
「この者はまだ修行の身。無礼がありましたら師たる者の責任。この者に代わってお詫び申し
上げる」
老人がそう言うと赤茶の髪の少年は身構えを解きました。
「いえ、お気遣いなく。何も起こらなかったのですから…ではこれで」
と一礼すると
「さあ、行こうか。心配かけてごめんな」
「うん、お兄ちゃん」
と連れを促して立ち去っていきました。そこへ人波を掻き分け漸くエイトが辿り着きました。
「ごめん、ごめんね。怖い思いさせて」
「ううん、いいの。何もなかったんですもの」
最後まで守り通すと決心していた筈だったのに、もう早速姫を危険な目に遭わせてしまって、
エイトは申し訳なさで一杯でした。「いいの」と言われても自分の気が済みません。
「怪我はなかったかな」
振り返ると老人がにこにこしてこちらを見ていました。その背後で男が膨れっ面をしています。
「はい。どうもありがとうございました」
二人がお辞儀すると老人はますます笑みを深くしました。
「うむ。祭りで浮かれておる者も多い。気を付けて行きなされよ」
と言って身を翻し、男を従え人波の中へ消えて行ったのでした。
「あっ、さっきのお兄さんにお礼言えなかったわ」
そのことに思い当たりミーティア姫は慌てて辺りを見回しました。
「また会えるよ。まだお祭り始まったばかりだし」
「そうよね。あっ、そのお菓子、どうもありがとう」
「あ、うん。はい、どうぞ」
778:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/25 20:12:51 3SBur8Si
出し物はどれも面白く、見ていて飽きることがありません。堅苦しいお城の生活から離れて、
ミーティア姫はとても解き放たれた気持ちでした。それはエイトも同じこと。大人ばかりの中
で働き詰めの毎日から離れ、今日は一日自由です。
「そろそろお昼にしようよ」
太陽もお昼を指し示しているようです。
「ええ!」
二人は混雑する広場を離れ、階段を上って教会の横に行きました。木箱が数個あって、座って
お弁当を広げるにはちょうどいい具合でした。
「これ全部エイトが作ったの?すごいわ、おいしそう!」
実際食べてみるとオムレツはとても美味しく出来上がっていました。
「トーポ、はい、お昼ごはんだよ」
エイトはポケットの中からトーポを出し、オムレツを一切れ、前に置いてやりました。
「ネズミさんってこんな風にごはんを食べるのね。かわいいわ」
前足で器用にオムレツを掴み、食べている様子を姫は珍しげに見ております。と、トーポは急
にぽろりとオムレツを落としました。「くちゃん、くちゃん」とくしゃみが止まりません。
「あっ、ごめんね。胡椒が固まりになってたみたい。ごめんね、これ飲んで」
急いでエイトは牛乳を瓶の蓋に注いで置いてやりました。トーポはそれをごくごくと飲んで、
どうやら事無きを得たようです。
「危なかった…」
「大丈夫、トーポ?」
姫の問い掛けに「チュ」と短く返事のようなものをしてトーポは再びオムレツを食べ始めまし
た。今度は牛乳と交互に、ですが。
オムレツもパイも食べ終わり、とても幸せな気持ちで二人座っていると、またトーポの様子が
おかしくなりました。ふんふんと鼻を動かして何か匂いを嗅いだ後、とことこと走り出したの
です。
「あっ、こら、駄目だよトーポ!そっち行っちゃ駄目だってば!」
エイトの制止も聞かず、トーポは走っていきました。慌てて立ち上がり、追いかけようとした
その時です。大きな影がトーポを掬い上げました。
「おう、このネズミは坊主のかい?」
逆光になっていてよく見えませんでしたが、こちらに向かって来るのは体格のいい年配の男の
ようです。
779:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/25 20:15:12 3SBur8Si
「はい、そうです。どうもありがとうございました」
そう言ってエイトは受け取ろうとしました。が、トーポはこちらに見向きもせず、男に向かっ
て前足を上げ、餌をねだる時のような仕草をします。
「あっ、こらっ、駄目だよトーポ。そんなことしちゃ」
「はっはっは、何だ、オレの袋に何が入っているのか分かっとるのか。どれ、一つ出してやる
か」
そう男は言って肩か下げていた袋からチーズを一欠片取り出してトーポの前に置いてやりまし
た。
「…すみません。おじさんのチーズだったのに」
むしゃむしゃとチーズを頬張るトーポをちらりと見て、エイトは男に頭を下げました。男は屈
託なく笑います。
「気にすることはねえ。まだまだたくさんあるからよ。
ところで坊主、どうだ、毎日楽しくやっとるか?」
突然の問いにちょっとびっくりしましたが、エイトは元気よく答えました。
「はい!」
「そうかい、そうかい。そいつはよかった。そのネズミ、大事にしてやれよ」
男はにっこりと笑いかけ「そらよ」とトーポをこちらに渡して手を振って行ってしまいました。
「エイトの知っている人?」
木箱の上からずっと様子を見ていた姫がこちらへやって来て聞きました。
「ううん、全然知らない人」
首を捻りながらエイトは答えます。
「誰だったんだろう。でもよかったね、トーポ。チーズもらって。おいしい?」
「チュ」
トーポはエイトの手の中でまだチーズを頬張っていました。
780:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/25 20:16:31 3SBur8Si
下の広場ではこれからワインの栓が抜かれようとしていました。トラペッタの代官が重々しく
祝辞を述べ、グラスを樽口に当てます。栓を抜くと勢いよく濃い赤色をしたワインが注ぎ込ま
れました。
「今年の収穫に感謝を!」
代官の言葉を皮切りに次々とワインが注がれていきます。楽隊が踊りの曲を演奏し始めました。
乾杯を済ませた人々がそれに合わせて踊り出します。
「楽しそう!踊りたいわ。エイト、踊れる?」
広場へ下りる階段からその様子を見ていた二人でしたが、踊りが始まるとミーティア姫がむず
むずと足を動かし始めました。お城で奏でられる優雅なメヌエットやガボットと違い、テンポ
が速く快活で楽しい曲です。
「うーん…」
エイトはちょっと首を傾げました。聞いたことのない曲です。変わった拍子の曲でしたが、最
初思ったよりは単純で、周りの人々を見ながらなら何とかなりそうでした。
「行こう。踊ってみよう!」
「ええ!」
二人は階段を駆け下り、踊りの輪の中に飛び込みます。踊っていた大人たちも小さな踊り手を
快く受け入れてくれたのでした。
(続く)
781:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/25 20:48:19 7oZjBR5e
落ちそうなので揚げ
782:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/25 20:48:56 6a/ep+UZ
だからこの板は下から落ちていくわけじゃないと何度言ったら……。
783:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/25 21:33:34 a2xbA/BE
続きキタヨ
赤毛の兄ちゃんはわからんけどチーズくれたおっちゃんは滝の洞窟のてっぺんにいる竜神族のおっちゃんだよな
784:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/25 21:49:57 lHHEfCMz
赤毛の兄ちゃん…
赤毛…ゼシカ…ゼシカの兄ちゃん…
サーベルトでFA
785:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/25 21:59:46 a2xbA/BE
お前頭いいな
786:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/25 22:27:00 3SBur8Si
>784
正解!250G獲得w
主姫スレだし主役以外はみな敢えて名無しにしていたんですがよく分かりましたね。
787:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/25 22:47:17 lHHEfCMz
えへへ…
788:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/26 12:42:18 96nNX6r3
>ひょろりとした顔色のあまり良く無い十七、八 歳ぐらいの男
もしや$?!
789:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/26 20:16:00 wQ4m74Ov
その男のことを一瞬でも「別世界からワープしてきた6主」だと思った自分は吊ってきます・・・
790:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/26 20:20:36 Ekym71Mw
>>789
そっちの方が面白いww
791:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/26 20:25:14 t4HQVKVS
ひょろりとした兄ちゃん…
ひょろり…ククール…ククールの兄ちゃん…
マル…
マル…
792:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/27 02:42:55 BY6DD5Yw
マルチェロとミーティアの髪と目の色が似てる件についてw
マルチェロの母親はミーティアと似てたんだろうか
793:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/27 20:16:44 tLXZpVcy
>>731-734、>>746-751、>>759-762、>>775-780
続き
794:秘密のお出かけ ◆JSHQKXZ7pE
05/10/27 20:18:37 tLXZpVcy
5.
「そろそろ帰らないと」
広場は明るい午後の光に満ち溢れていましたが、城壁が作る影は長くなりつつありました。
「ええ。でもこの劇が終わるまで」
ミーティア姫は手回しオルガンとそれに合わせて踊るからくり人形の劇がすっかり気に入って
動こうとしません。
「…」
しょうがないなあ、といった顔でエイトは溜息を吐きました。でもまだ日は高いし、門を出て
道を真直ぐ行けばトロデーンです。迷うことはありません。
「これ終わったら帰るからね」
「ええ、分かったわ」
姫は上の空でしたが、エイトはその返事を貰ってほっとしました。そして自分も人形劇に目を
遣ります。本当はエイトも観たかったのですから。
広場はますます賑わいを見せていました。大人たちは手に手にワインのグラスやビールのジョッ
キを握り、笑い声や歌声に酔いが混じります。
「もう少しいたかったわ」
「うん。でも最近日が暮れるの早くなったし」
喧噪を避けながら門の方へ歩く二人はそんな会話を交わしていました。
「うーぃ、ヒック、お、おう、ビールもう一杯だ」
「駄目ですよ、そんなに飲んじゃ。ほら、お嬢さんが困っているじゃないですか」
ビールの樽の横で飲むの飲まないのの押し問答がされています。
「金ならあるんだぞー、いいからもう一杯くれ」
「あんな当たらない占いに金出す物好きがいたんですねぇ」
「何か言ったか?」
「いーえ、何でもありません。…はいはい、注ぎますよ。全く、お嬢さんが気の毒ったらありゃ
しない」
「…近寄らないようにしよう」
「ええ」
酔っぱらいを見ないようにして二人は門の前に立ちました。
「おや、随分早く帰るんだねぇ」
門番も一杯機嫌です。
795:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/27 20:20:07 tLXZpVcy
「うん。僕たちちょっと遠くから来たから」
言葉を選びつつも周りの雰囲気に影響されてにこにこ顔でエイトは答えました。
「そうかそうか。気を付けて帰れよ」
二人は門をくぐり、心楽しく家路へと就いたのでした。
そのつもりでした。トラペッタには門が二つあり、トロデーンへ帰るには西門から出なければ
なりません。が、南門から出てしまったことに二人はまだ気付いていなかったのでした。
さっき観た劇のことや楽しかった踊りのこと、お弁当のことなどをおしゃべりしながら二人は
道を歩いて行きます。木々の梢は色付き始め、穏やかな秋の午後でした。
途中、分岐がありました。
「あのね、滝の方ではなかったの」
と姫が言うのでエイトは道を左に折れました。道は森の中へと入っていきます。森を抜ければ
吊り橋があって、トロデーン城が見えてくる筈。そう思うと薄暗い森もちっとも怖くありませ
ん。それにまだ午後の明るい陽射しが木々の隙間から射し込んでいます。太陽の光ある限り、
こちらから何もしなければ魔物に襲われることもないのでした。
「あのお兄さんに会えなかったわ」
ふと思い出してミーティア姫は残念そうに言いました。
「うん、そうだったね。僕もお礼言いたかったな」
そのまましばらく二人とも無言で歩いていましたが、姫がぽつりと呟きました。
「ああいうお兄様がいたらな、ってずっと思っていたの」
エイトはちら、と隣を見ました。返答に困って黙っていましたが、姫はそれに構わず続けまし
た。
「いいな、あの女の子。だってあんなお兄様がいるのですもの。ミーティアにもお兄様がいら
したらよかったのに」
エイトは厨房で聞いた話を思い出しました。トロデ王には子供はミーティア姫しかおりません。
けれどもかつては今は亡き王妃との間には姫の上に王子がいて、姫の生まれる数年前に流行病
で亡くされていたそうなのです。それが堪えたのか王妃は身体を悪くなさって、ミーティア姫
を産んですぐ、お亡くなりになってしまったのでした。
796:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/27 20:21:31 tLXZpVcy
「あのさ」
ずっと無言だったエイトが口を開きました。何か、と姫がエイトを見遣ると少し躊躇ってから
続けました。
「…僕じゃだめ?」
「えっ?」
思いがけない言葉にミーティア姫は目を見開きました。
「一生懸命頑張って、いいお兄様になるよ。だから…」
まじまじと見詰められ、エイトは気恥ずかしくなって最後は口籠ってしまいました。ちょっと
考えれば、いくら友達とは言え使用人を兄妹だと思う筈がありません。ですから次の姫の言葉
にエイトはびっくりしたのです。
「ほんと?!うれしいわ。じゃあこれからエイトはお友達でお兄様なのね」
「う、うん」
姫の嬉しそうな様子に驚きつつも胸の奥に暖かなものが広がるのを感じました。それはとても
穏やかで、幸せなものでした。兄妹というものが何なのか分からないまでも、それはとてもい
いことだ、と思えるような。
森の中の道も終わりそうです。木立の向こうに明るい空の色が見えてきました。道も緩く下っ
て、もうすぐ吊り橋の筈です。
けれども、
「あれっ?!」
どうしたことでしょう。深い渓谷があって、橋が掛かっていることは同じなのですが、吊り橋
ではなく立派な石造りの橋です。その上門があって衛兵が立っているではありませんか。
「あ、あの…」
エイトは恐る恐る衛兵に話し掛けました。ミーティア姫は用心して俯いています。
「おう、何だ。リーザスの方へ行くのか」
「ここ、どこですか」
と尋ねると兵士は爆笑しました。
「何だ、坊主、迷子にでもなったのか?」
「いえ、あの、僕たちトラペッタからトロデーンの方へ帰ろうと思ったんですけど…」
不安が湧き上がります。
「おやおや」
兵士は漸く笑いを引っ込めました。
797:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/27 20:23:40 tLXZpVcy
「そいつは出る門を間違えたんだな。トラペッタはな、門が二つあるんだよ。西門から出れば
トロデーンに、南門から出ればリーザスという村へ行くのに便利にできているんだ」
話を聞いているうちにエイトは心臓が喉から飛び出してきそうな感覚に襲われました。道を間
違えた?トラペッタまで戻らなきゃならない?でももう随分歩いているし、戻って改めてトロ
デーンに向かったとしても途中で日が暮れてしまう…
「近道はないんですか?」
エイトは必死でした。何としても日暮れ前にお城へ帰りたかったのです。
「近道ねえ…そうだなあ、道は無いんだが、途中分かれ道があっただろ?あそこを滝の見える
方へ曲がるんだ。そしたら適当なところで丘を登ってそのまま真直ぐ進めばトロデーンへ行く
道にぶつかる筈だよ」
「…分かりました。そこ、行ってみます。どうもありがとうございました」
暗くなる前に帰らなければなりません。夜は魔物が跋扈する時。そんな時間、ミーティア姫に
出歩かせる訳にはいきません。どんな魔物も一撃で仕留めることができる勇者ならいざ知らず、
エイトは十にも満たない非力な子供でした。
「ごめんね、僕のせいで」
「ううん、大丈夫。行きましょ、エイト」
「うん」
姫は元気よく言いました。本当はちょっと疲れてきていたのですが、それを口にしたらエイト
はきっと気にして背負おうとするでしょう。背負ってくれるのは嬉しいのですが、そんなこと
をしたらエイトもへとへとになってしまいます。ならば気を使わせない様に、と子供心にエイ
トを気遣ったのでした。
(続く)
798:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/27 20:29:21 tLXZpVcy
>789
書いていてそれは思ってたw
あのスレに影響受け過ぎだよ、自分。
トラペッタの街では旅の序盤で会える(故人を含む)人々とすれ違うよう書いています。
799:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/28 09:20:59 Ql9EpFlq
6主「ムッ!? ここで俺のうわさが!」
8主「すいません、すぐつれて帰ります!」
800:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/28 20:21:05 V/dF9DJ+
800!
指摘があってから気にしていたんだけど意外に500kb行かないもんだね。
でも気を付けるのに越したことはないな。
そういえば前回はss投下中に容量オーバーになったし。
801:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/28 21:15:23 VsxFfJun
マルチェロとミーティアは父親違いの異父兄妹。
ミーティアは亡くなった母=マルチェロの母に生き写しだ。
ククールは人間の姿になったミーティアの中に、マルチェロの面影を見る。
(馬鹿だな、オレ…)
戦いが終わり平和が訪れて数年後、マルチェロとククールの間柄は好転しつつある。
そんなある日、トロデーンを訪れたマルチェロはミーティアを見て愕然とした。
「母さん…!?」
そんなストーリーが浮かんで消えた。
802:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/29 01:02:40 a81u848P
消さずになんとか膨らませてくれ
803:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/29 01:42:02 5dw5JMOv
マル絡みだと、すげー濃い話になりそうだなww
展開が気になる。
804:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/29 09:48:59 Fiqyk22f
○の話はやめろカス
805:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/29 12:03:12 H9kQfzxl
何日かぶりに来たら◆JSHQKXZ7pEさんの続きが…!
遅ればせながらいつもGJでございます!
毎回「おっ、これは」と思わせるキャラが登場するので楽しみに読んでます。
わざとそれらのキャラの名前を伏せて話を進めるところも心憎い演出ですね。
エイトがみーたんのお兄ちゃんになるよ、というくだりが可愛らしい!
エイトのその台詞に対して「あー、みーたんなら絶対言いそうだ」という受け答えもツボでした。
少し長い感想になってしまいましたが、可愛いお話の続きをお待ちしております!
806:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/30 14:48:10 30W/v74w
保守
807:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/30 15:22:52 T82p/vJi
>>731-734、>>746-751、>>759-762、>>775-780、>>794-797
続き
808:秘密のお出かけ ◆JSHQKXZ7pE
05/10/30 15:24:43 T82p/vJi
6.
森の中を歩く二人の周りに夕闇がひたひたと迫ってきました。
リーザス村への関所の兵士に教えられた通り近道しようと道を逸れ丘を登っていったのですが、
それが間違いの元だったのです。先を急ぐあまりエイトはよく知らない上に道のない場所を進
もうとしました。けれども本当に急いで帰りたかったのなら一度トラペッタに戻って改めてト
ロデーンに向かうべきだったのです。案の定、二人は道を見失ってしまいました。
「ここ、どこなのかしら」
「…」
エイトは必死でした。不安そうなミーティア姫の言葉にも、答える余裕はありません。木々の
隙間から何か見えないか、と目を凝らしてみてもただしんとした闇ばかり。振り仰げは梢から
覘く空はもう薄紫色をしていました。茜色はもう、どこにもありません。
「くしゅん」
さわっと冷たい風が首筋を撫で、思わず姫はくしゃみをしてしまいました。人の手の入らぬ林
床の落ち葉からはひんやりとした湿気が立ち上り、最早昼間の楽し気に踊る木漏れ日はどこに
もありません。
「大丈夫?」
漸くエイトはミーティア姫の様子に気付きました。先を急ぐあまりつい先に進んでいたようで
す。慌てて姫の元へ行くと頬には血の気が無く、袖口から覘く手首はすっかり粟肌立っており
ました。
「ごめんね、先に行ったりして」
「ううん」
そう答えながらも震えが止まりません。エイトは姫の肩掛けを外し、頭からすっぽりと被せて
やりました。
「エイト?」
「この方が暖かいから…あのさ、渓谷に沿って行けば必ず吊り橋に行き着けると思うんだ」
姫はこくりと頷きました。今はエイトだけが頼りです。
「今日は晴れているし、星明かりがあるから多分大丈夫だと思う」
そう言いながらもエイトは不安でした。今夜は晦(つごもり)、闇夜です。満月の明るさがあ
れば行く先を照らしてくれたのでしょうが…
「あのね、神父様から聖水もらっていたの。これ、身体に振りかけておいたらいいんじゃない
かしら」
809:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/30 15:25:58 T82p/vJi
「うん、そうだね」
それに気付いていなかった自分の迂闊さを腹立たしく思いつつもエイトはそう答えました。こ
れで弱い魔物なら逃げて行ってくれる筈です。
「あとね、手燭もあるの」
「ごめん、灯りはつけられないんだ」
「どうして?」
「ちょっと知恵のある奴だと火のあるところにヒトがいる、って知っているんだ。だから外で
火を点す時はヘンルーダとか魔物の嫌う香草を入れるんだけど…今持ってないし」
「そうなの…」
「なるべく音を立てないようにして。大声出すと魔物が寄ってくるから」
実際うなじの辺りに突き刺さるような視線を感じます。弱い魔物なのか聖水の力で近寄って来
ないのが幸いですが。
「分かったわ。静かにしているわ」
ひそひそと話すと再び歩き始めました。目が慣れているせいか闇は苦になりません。でも木の
洞や潅木の茂みが作る影が何者かに見えて、恐ろしくて叫んでしまいそうです。梢を吹き渡る
風の音に怯え、枯れ枝を踏んでは驚いて、夜の森はそれはもう、子供にとって恐ろしいところ
でした。
突然の闖入者に、足元から山鳥がばさばさと飛び立つのに驚いて身を捩った時です。
「うわっ!」
エイトの足が何かぬるりとしたものを踏み付けました。その感触に足を持ち上げた途端、緑色
のぶよぶよした生き物が体当たりしてきます。咄嗟に腕で顔を庇うと、それで気が済んだのか
その魔物はどこかへ行ってしまいました。
「な、何?今の」
「バブルスライム踏んずけちゃったのかも」
エイトは腕を摩りながら答えました。ぶつかったところが気のせいかじんじんと痺れています。
「気を付けて行かないと」
「ええ」
810:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/30 15:27:21 T82p/vJi
エイトの腕の痺れは治まりません。それどころかどんどん痛くなって、気持ちまで悪くなって
きました。
「エイト…」
時々立ち止まって腕を摩るエイトにミーティア姫が不安そうに声をかけます。
「大丈夫。もうすぐトロデーンだし」
怖がらせないように、とエイトは空元気を奮い起こしてにっこりとします。
「ほら、森が終わるよ!」
指差す先には木々が切れ、星空が覘いています。
「行こう!」
「ええ!」
具合悪いのも忘れて駆け出したのですが…
バキッ!
「うわああぁっ!」
「エイト!」
ザザザッ!ドスッ!
ちょっと先を行くエイトの身体が突然沈みました。そこは小さな崖になっていました。草が生
い茂っていて分からなかったのです。姫は気を付けて覗き込みました。エイトが蹲っているよ
うでしたが、暗くてよく見えません。
「エイト?」
姫の問い掛けにも返事はありません。どこか降りられそうな場所は、と闇を透かし見たのです
がずっと崖になっています。仕方なく何かの蔓に縋って崖を降りようとしました。
が、そんなことしたことがない姫です。あっという間に蔓から滑り落ちてしましました。
「いたっ」
落ちた拍子に膝をぶつけえしまいました。ちょっと覗いてみると擦り剥けて血が滲んでいます。
そんなことよりエイトです。急いで駆け寄りました。
「ミー…ティア…だ…いじょう…ぶ?」
そう言うエイトの膝がぱっくり割れて、破れたズボンの隙間から血が出ているのを姫は見てし
まいました。
「エイト」
「ミーティア、一人で逃げて…血が流れたから、魔物が寄ってくる…」
落ちた時に岩で膝を切ってしまったのです。聖水の加護より生々しい血の臭いの方が強く、も
うすぐその臭いを嗅ぎ付けた魔物がやってくるでしょう。
811:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/30 15:29:01 T82p/vJi
「だ、駄目よそんなこと。だってエイトが食べられちゃうわ」
ミーティア姫は急いで腰に下げていた袋を取りました。確か薬草が入っていた筈です。以前、
神父から貰って使う機会がなく、ずっと取っておいたものでしたが…
「ない?!」
いつの間にか袋の底がほつれていたのです。どこでそうなったのか、確かに入れておいた薬草
も毒消し草もみんな落としてしまったのでした。
でも傷の手当てはしなければなりません。中にはまだ、ハンカチが残っていました。
「エイト…」
「それ、貸して」
ハンカチを受け取り、エイトは傷口をしっかり縛りました。これで何とか動けるでしょう。
「行こう」
エイトはふらつきながらも何とか立ち上がりました。足は痛いし気持ちは悪いのですが、何と
しても姫をトロデーンまで連れ帰らなければなりません。それに先程「お兄様になる」と言っ
たばかりではありませんか。兄ならこういう時ちゃんとしなければならない筈です。
「でも…」
「帰らないと」
「だって…」
夜目にもエイトの唇は紫色をしているのが分かりました。今にも倒れそうです。なのに歩き出
そうとしています。お城へ帰る道も未だ分からないというのに。
そのことに思い当たったミーティア姫はへなへなと座り込んでしまいました。道は分からない、
エイトは怪我してしまった、今まで気付かずにいましたが、足はもう棒のよう。お腹も空いて、
寒くなってきました。
「ミーティア…歩こうよ…」
「ふえっ、ぐすっ、エイト、もう、ぐすっ、あっ、あるけない、ぐすっ」
エイトが戻ってきて手を引こうとしましたが、一度座ってしまうともう立ち上がれません。
「泣かないで、ね。ほら、もうすぐトロデーンが見えるはずだから」
慰めの言葉も耳に届かないようです。いえ、聞こえてはいるのですが、今までの疲れや恐怖や
らでもう堰を切ったかのように涙が止まりません。
「だって、ぐすっ、だってもう、帰れないもん。ぐすっ、エイト、怪我しちゃっ、たし。ぐすっ、
魔物に食べられ、ぐすっ、ちゃう」
「だから行こうってば。歩かなきゃ帰れないんだよ」