05/09/28 21:57:06 BzBmykAF
6.Hostias
エイトの身柄はサザンビークへ移送された。王太子の婚約者を奪い、王統を乱そうとした大逆
者として自らの手で断罪したいとサザンビーク側が強硬に主張した為である。トロデーンとの
婚姻は破談になり、婚約者を寝取られたチャゴス王子の面目をせめて保とうという臣下たちに
よる配慮だった。
それでもこの処置に反対する向きがなかった訳ではない。明らかにされたエイトの出生を考え
た時、現政権に対する不満分子がその身柄を奪って王に刃向かうのではないか、と危惧する声
もあったのである。それを押し切ったのはチャゴス王子の(珍しく)強い意向が働いたからだ、
と言われていた。
そのチャゴス王子は今までと違ってやけに強硬な態度を示して苛烈な刑の執行を望むかと思え
ば、別の時はそんなことには興味を示さず、以前と同じく城を抜け出しカジノに行こうとする。
余りの豹変ぶりにお付きの人も首を傾げずにはいられなかった。
首を傾げると言えばミーティア姫への態度もだった。事件が発覚してすぐは
「あれは強姦されたんだ、姫は関係ない」
と結婚の意思を示していたという。しかしいつの間にか
「あの男と共謀してサザンビークの王位を狙っていたに違いない」
と言い始め、ミーティア姫も処刑せよと喚き散らす。しかし裁判が始まって反逆罪の論拠が崩
され姦通罪単独での処刑も有り得ない、という論調になって来ると一転して無関心となった。
それどころか城を抜け出してどこかに行こうとして父王に一喝される始末。
587:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/28 21:58:24 BzBmykAF
それでもエイトがサザンビークに移送されてくるとまた行状が改まった。一時期のように邪悪
な気配をして意見を強硬に主張する。その傾向は近くにフードの男がいると強まった。周囲に
してみれば、海綿のようにふにゃふにゃと定見なく遊び呆ける王子が、どのような方向にせよ
意思を強く示すようになったことはありがたかった。その上どこかに遊びに行ってしまうどこ
ろか、何と城内で勉強に勤しんでいるのである。これは大変喜ばしい事態だった。例え暴君で
あっても自らの行動に何の責任も持たずふらふらしてばかりの王よりは格段にましだからであ
る。それに暴虐な行動に出るのはあの事件に関わる事象だけであり、それ以外には及ばなかっ
た。それ故、
「あの事件は腹立たしいが、王子が変わるきっかけになったことは不幸中の幸いだ」
と周囲は噂し合ったのであった。
※ ※ ※
当のエイトはサザンビーク城の奥深くに閉じ込められていた。重罪人とは言え王家直系の血を
引く者、疎かには扱えない。本人に逃げる意思が有ろうと無かろうと別の反逆者に利用される
ことのないよう、厳重に監視されていた。
その夜、エイトの元に一人の来訪者があった。
「久しいな、エイト」
クラビウス王だった。
「はい、陛下にはお変わりなく」
とエイトが常に従って答えた。しかし話の接ぎ穂を失って互いに無言のまましばらく居心地の
悪い思いをしていると、微かな躊躇いの後、エイトが口を開いた。
「このような事件を引き起こし、貴王室、ひいては貴国の尊厳を脅かしたこと、深くお詫び申
し上げます。一命を以てしても償えぬことにも関わらず、ご慈悲を賜りましたこと、感謝の念
に堪えません」
静かな口調だった。しかしエイトの言葉を聞くうちにクラビウスは苛立ちを感じ始めた。その
様子をエイトは怪訝そうに見ていたが、続けた。
「大逆の罪は重く、火によってしか浄められぬところを斬罪に減弱くださったこと、お礼申し
上げます」
588:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/28 21:59:57 BzBmykAF
「礼を言われる筋合いはない!」
クラビウスは思わず大きな声を出していた。死を目前にしているのに落ち着いた物腰、拷問を
受けたにも関わらずそれを微塵も感じさせない強靱な精神、庶民として育った筈なのにどこか
気品のある様子、どれも自分の息子には未だ備わっていないものばかり。この青年が、ひいて
はその親である兄が妬ましかった。にも関わらずこの青年の命はもうすぐ消えていく、そのこ
とを悔やむ気持ちもまた真実であった。
「お前は恨まんのか。国を守らんが為にお前を犠牲にする私を」
何をやらせても常に優れていた兄。エイトはその兄にそっくりな目でこちらを真直ぐ見返した。
「国を守ることは国主の務めでございましょう。僕は罪を犯したのですから、罰を受けるのは
当然のことです」
「当然ではない!兄が王位を継いでおればお前が正統な王位継承者となっておった筈だ。この
サザンビークの玉座に座り、トロデーンの姫を娶ったのはチャゴスではなくお前だったのに、
なぜだ!」
激昂するクラビウスに対し、エイトは静かに答えた。
「僕はトロデーンの人間です。誰が何と言おうとも」
と。そしてちょっと躊躇った後、続けた。
「あの方を汚辱の中に堕しておきながら僕一人だけのうのうとしていられる程、恥知らずには
なりたくないのです」
クラビウスはすっかり失念していた。ククールからトロデ王の意向、ミーティア姫とその子孫
の王位継承権を剥奪するという方針を聞いてこの縁組に執着することを止めたからである。ト
ロデーンの玉座がサザンビークの手に入らないのであればこの縁談は何の意味も為さない、と。
「…あの姫故、か」
「はい」
エイトの目の中に強い光が揺らめく。クラビウスはふと、既視感を覚えた。それは二十年前、
城を出て行く兄の目に宿されたものであった。
「よろしい」
しばらく互いに無言であったが、クラビウスは常の様子に戻って言った。
「慣例に従い、死に行くお前の願いを一つ、聞こう。あれば言うてみよ」
「はい。ではお言葉に甘えまして」
とエイトは居住いを正した。
589:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/28 22:01:38 BzBmykAF
「先に申しました通り、僕はトロデーンの人間です。確かに生まれは違いますし、父祖の国は
貴国ですが。ですが物心着いてからずっとトロデーンが故郷でございました。死ぬ時はせめて、
トロデーンの方を向いて死にたいのです」
余程考え抜いたものだったのだろうか、エイトは澱みなく願いを述べた。
「…願いは聞き届けられた。刑は明後日、執行される。サザンビークではなくトロデーンの流
儀に従い、斧による斬首である。既に最も優れた斧使いを呼んだ」
「御配慮に深く御礼申し上げます」
エイトは深々と礼をする。クラビウスはその時覘いたうなじを物悲しい気持ちで見遣ったので
あった。
※ ※ ※
590:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/28 22:02:41 BzBmykAF
サザンビーク城は朝から物々しい雰囲気に包まれていた。城下町にも衛兵が立ち並び、街の人々
を威圧する。門も閉鎖され、城壁の外に出ることは不可能だった。さらに修復した北の関所も
厳重に閉鎖し、ベルガラック方面には兵を置いて人の通行を遮断していた。城の魔術師たちも
総出で移動呪文避けの結界を張り巡らす。王位継承権を持つ者の処刑を速やかに滞りなく遂行
するための処置だった。国内外の反乱分子に身柄を奪われないようにするために。
城壁の外に急ごしらえながら処刑台が設置され、流れ出る血を受け止めるための藁が敷き詰め
られる。小柄ながら大きな斧を持った男が慣例に従い覆面をして姿を現した。最後の祈りを捧
げるための神父を従えるかのようにして処刑台に昇り、受刑者を待
つ。
刑場はサザンビーク兵によって部外者を一歩たりとも近付けまいとびっしりと囲まれていた。
その中をさらに衛兵によって囲まれ、後ろ手に縛られたエイトが処刑台へと歩を進める。
クラビウスもチャゴスもこの場にはいない。刑の遂行を見届けるためなのかフードの男─マル
チェロが薄笑いをフードに隠しつつ見ているだけだった。
神父がエイトに最後の祈りを捧げた後、慣例によって処刑人がエイトに近付きごく低い声で処
刑することについて赦しを請うた。エイトもまた、例に習い「赦す」と答える。
「しっかりやってくれ。大して太い首じゃないから楽だとは思うが」
とエイトが言って台に頭を乗せようとした。
が、その瞬間、上空を大きな影が過る。何事かと皆の目が処刑台から離れ、空に向けられた。
「竜だ!」
「竜が出たぞ!」
衛兵たちはうろたえ騒ぐ。それを後目に処刑人が素早くエイトを縛る縄を切った。
「兄貴!」
ヤンガスだった。
「どうしてここへ!」
「あっしだけではねえでげす!」
上空を旋回していた竜が処刑台の近くに降りた。振り回される尾や吐き出される炎を避けよう
と兵は逃げ惑う。
「弓箭隊、前へ!」
それでもなお、その場を取り仕切る隊長には任務遂行の意思があったらしい。弓矢で竜を追い
払おうとした。が、鼻息から巻き起こる炎が飛び交う矢を焼き尽くす。
591:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/28 22:03:45 BzBmykAF
「あなたは…」
戒めを解かれたエイトが竜に近寄ろうとした。竜はそんなエイトに一瞥をくれると首を振って
くわえていた剣をこちらに投げて寄越す。
「グルーノさんでがすよ。さあ兄貴、剣を取るでがす!」
エイトは思わず受け取ってしまった手の内の剣を見た。旅の中、数々の武器を手にしてきたが、
これ程大きな力を感じるものはなかった。その力が自分に向かって語りかけている。
「どうしたんでがす?早く取るでげすよ!」
「…駄目だ」
剣は語り掛ける。我が主人よ、我が力を捧げよう、と。その言葉に従いさえすれば自分は比類
ない力を手にすることができると分かる。だがしかし!
「罰は受けなければ」
「何言っているんでがす!誰も兄貴の死ぬことなんて望んじゃいねえでげすよ!大体何でこの
剣がここにあるのか考えてみたんでげすか!?」
エイトは思い出した。竜神王の試練で得たこの剣を錬金してみようと釜に入れものの、出来上
がる前に暗黒神を倒してそれきりになってしまったことを。
「どうして…?釜はもう、城の宝物庫に収めた筈…」
「トロ…ゲフンゲフン、持ち主が完成させてあっしに託したんでがす。エイト以外の何者にも
この剣の主人にはなれん、て」
結果的に裏切ってしまった主君、トロデ王。憎まれて顔も見たくないと思われていも仕方ない
と思っていた。なのに自分がこの剣の主だと言ってくださるのか。
「さあ、剣を取るでげす!みんなの志を無駄にしねぇでくだせえ!」
処刑台の異変にも気付いたのか矢がこちらにも飛んでき始めた。その内の一本がヤンガスの頭
に真直ぐに向かっているのに気付いた瞬間、エイトの身体は勝手に反応し、踏み出して抜刀す
るや否や一息に切り飛ばす。
592:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/28 22:04:56 BzBmykAF
「すまなかった。もう迷わない、僕は剣を抜く!」
二の矢も切って落としながらエイトは叫ぶ。
「ヘヘっ、それでこそあっしの兄貴でがす。後ろは任せてくだせえ、逃げるでげすよ!」
処刑台の周囲はそれこそ立錐の余地なく兵が立っている。竜の出現に浮足立っているものの、
罪人が逃げようとしているのに気付くとそれを阻むべく押し寄せてきた。人波の向こうで竜が
―グルーノが「乗れ」と吠えている。そこまで十メートル足らずの距離。呪文は使えない、結
界があるから。この剣で道を切り開くしかないのだ。
エイトは剣を持ち替える。そこへ兵が槍を繰り出す。穂先を打ち払い、柄で槍身を殴って取り
落とさせる。その横でたじろぐ兵の胴に剣の峯を叩き込む。
「馬姫様の為にも犬死にしちゃいけねえでげす」
そうだ、生きねばならぬとしたらそれはミーティアの為。ただそれだけの為に血路を開く、と
エイトは決意を新たにする。
群がるサザンビーク兵の剣や槍を断ち切り―鋼さえも両断して刃毀れ一つなかった―場合によっ
ては人に刃を向ける。手加減しないと胴すら一瞬で断ちかねなかったが、何とか当座の戦闘能
力を失わせる程度の傷を与えて退かせる。背後のヤンガスも乱刃をかい潜り斧で武器を跳ね飛
ばしながらじりじりと竜へと近付く。二人の強さに兵士たちが退き気味になった時、
「そこまでだ!」
フードの男、マルチェロが立ち塞がった。
「お前らの相手をしてやる。さあ、かかってこい!」
邪魔なフードをかなぐり捨て、抜刀して間合いを詰める。エイトも緊張して身構える。迎え撃
とうとしたその時、
「うっ」
マルチェロの背後から光の刃が現れその首筋に当てがわれた。
593:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/28 22:05:59 BzBmykAF
「勘違いするな。あんたの相手はこのオレだ」
仮面で顔を隠しているもののその声はククールのものだった。
「雑魚は皆片付けたぜ。エイト、ここはオレに任せて逃げろ!」
そう、見渡せばいつの間にか兵たちはみな眠り込んだり混乱して同士討ちになっている。竜の
近くではローブで顔を隠した女がエイトたちに向かって得意気に手を振っていた。
「そうはさせるか!貴様なぞこの私には役者不足だ。逃げるだけが得意のうつけ者が」
「さあ、それはどうかな」
ククールはマルチェロの威嚇を鼻であしらい、「行け」とばかりに顎をしゃくる。
「貸し一つな!」
「…ありがとう、必ず借りは返す!」
もう敵はいない。エイトたちはグルーノ目指して一気に走る。その背後に打ち交わす刃の音が
重なった。
「最後にもう一回。ラリホーマ!」
顔を隠すように安らぎのローブを着たゼシカが起き上がり始めた兵たちに向かって呪文を投げ
掛ける。
「さっ、行くわよ、エイト」
再び深い眠りに落ち込む兵士たちには目もくれず、ゼシカは二人の手を取って身をかがめるグ
ルーノの背中によじ登る。その途端両翼が羽ばたいてあっという間に空高く舞い上がっていた。
「ククールは!」
「大丈夫、結界はもう壊れているわ。あいつならルーラで逃げられる」
「そうじゃないくて!」
「決着を付けたかったのよ。他の誰でもなく、自分の手でね」
「そんな」
「大丈夫でがす。ククールはやる時はやる男でがすよ。任せてやるでげす」
下界、もはや豆粒程の大きさになった二人が剣を撃ち合っている。と、片方が相手の剣を跳ね
飛ばした。その刹那誇らしげに日に輝くは銀色の髪。
「ほら、大丈夫だったでしょ」
※ ※ ※
エイトの処刑は失敗し、他愛もなく身柄を奪われたことにサザンビークは激怒し、追っ手を放っ
た。他国の声高な抗議もものともせず強引な捜査を各地で繰り広げる。しかしながらエイトと
その仲間の行方は杳として知れなかった。
(続く)
594:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/28 22:39:41 tPkfGmSm
>エイトは思い出した。竜神王の試練で得たこの剣を錬金してみようと釜に入れものの、出来上
>がる前に暗黒神を倒してそれきりになってしまったことを。
烈しくワロタw
色んな意味で意外な展開でした。ラストバトルにも超期待!
595:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/28 22:46:49 L1pWX+jr
ここまでやっちゃったら竜神族の里に引きこもるしかないんじゃ
596:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/29 05:45:59 i6Ljy0t7
>光の刃
>仮面
ライトシャムシールとファントムマスクかな。
内容はもちろんのこと、こういった装備を喚起させるような表現は武器マニアにはたまらんかったです。
597:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/29 10:22:33 BE7beI7c
トロデーンとサザンビークが全面戦争になり、サザンビークが敗北。エイトとミータンが
結婚して、トローデン=サザンビーク連合王国の成立。クラビウスとチャゴスは追放又は
死刑。
でどうでしょう。
598:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/29 11:03:17 CtNAi0bB
分かっちゃいたけど○の扱いが酷すぎるな…
嫌いなキャラなら出すなと言いたいよ
599:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/29 11:04:51 ykEwXTww
分かっちゃいたけど○厨ウザすぎるな…
嫌なら見るなと言いたい
600:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/29 11:24:25 dmjUgg0A
毎回楽しみに読んでる者なんですけどね。
このスレでは主人公とミーティアが見たいのであって、今回ちょっとククゼシ風味が強過ぎるなと・・・。
書いてくださってるのに申し訳ないけど、メインの二人が見れないと待ち遠しすぎるのよ。
601:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/29 11:49:03 4qZM5NuU
敵役は邪悪に徹するのも良い扱いの一つだと思うがなぁ。
<チラシの裏>
好きな敵役のトップ2がラオウとルカ=ブライトなんですが。
兄ちゃん結構良い線いってたけども一つ何かが足りんのだよな。
やっぱ指輪なんぞ投げずに弟の独白鼻で笑うくらいでないと。
</チラシの裏>
602:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/29 14:44:01 bPjdpRAv
>601
うむ、禿しく同意。
変に悔悛キャラにされるより徹底的にやってくれる方がいい扱いに感じる。
それでもってマンガなら見開き一ページまるまる使って死に台詞抜かしてくれるとかw
そういう意味ではかなり贔屓されてると思うぞ>マルチェロ
なんつーかどんでん返し多いから、結末どうなるのか気になる。
603:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/29 16:52:47 sIsZ/Ja3
こんな所にまでルカ様ファンが!
指輪は蛍みたいなもんだと思っている
マルチェロにはマルチェロなりの思惑があってゲームで主人公の敵になったんだし
それがゲーム後に続いてもおかしくない引きだった
正直JSH氏のレスのクセには前々から思うところがあったのだが
作風に関しては以前のバカップルオンリーより今回の方が世界が生きてて好きだ
二人をちょっと引いた広い視界で書いてて、
多分意識的に高めのハードルに挑戦してる感じ
まあ頑張れ。
604:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/29 23:41:01 4o2vCP74
感想どうもありがとうございました。
誤字、脱字が多く、大変申し訳ありません。
>596
当たりです。
605:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/30 14:55:17 LNJcwKFl
8主スレ落ちちゃった…
606:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/30 15:06:55 J3jJDMd/
落ちたね・・・。_| ̄|○
607:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/30 15:31:39 E5v9vBT3
4月 ユリマスレ落下
4月 キラスレ落下
4月 ヤンガススレ落下
5月 ゲルダスレ落下
5月 ゼシカスレ落下(8月に復活)
5月 ユッケスレ落下
6月 ミーティアスレ落下
9月 ククールスレ落下(即復活)
そして・・・
. _ シンサク ニハ カテナイカ…
. ,'´ .__ _ヽ
i /メ))ヘゝ /´ ̄、>
(ソゞ(;-_-ノ (,,=;= 、 i ショウガナイヨ
. K゙ヽY/ス i(´ヮ`;i_ノ キョネン ハ
U〉-l=ト!J と[.!∀__!,ゞ キミノセイデ オチタスレ モ アッタンダ…
/エ_iイi_〉 l_Å_∪
|-/|-| .じ.し'
 ̄  ̄
9月末日 8主スレ 落下
608:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/30 19:57:58 8kS0D12l
そ、そんな~っ(ノД`)ワーン!!
609:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/30 20:01:13 8kS0D12l
ヤン主スレも落ちてるーっ・゚・(つД`)・゚・
610:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/09/30 23:48:09 G9jSCwAn
まあまあ。このスレはこのスレで、皆でまったり守ろうぜ。
他のスレは他のスレ、このスレはこのスレだ。
それでも落ちてしまったなら、それだけの需要がなくなってしまった、それだけの事だ。
このスレの住人達がここを本当に必要としているなら…分かるだろ?
今まで通り楽しくやっていこうや。
611:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/01 01:20:35 cfofRzKj
ちなみに8主スレは9/28(水)の16時くらいの書き込みが最後だったよ。
今日の15時にはなかったってことは、丸二日ほっとくと確実に落ちるな。
気をつけよう。
612:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/01 01:41:53 hTuTcovV
2日で落ちちゃうのか。
よっし。
スレタイに沿った話題をせっせと考えて保守するかな。
613:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/01 08:31:31 3uA6JzHs
assyuku
614:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/01 10:20:26 QV2Ff63N
Script Of Saga2
URLリンク(hpcgi1.nifty.com)
615:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/01 23:38:17 YMl/4wPn
続きを 待っています゚。・☆ *゚・+.・。☆・゚ 。・
616:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 13:02:32 Y0bfdD+0
定期カキコ
617:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 15:22:34 Uo4oCGPb
ゲームでは○のラストがイマイチだった。どうせあそこまでワルキャラにしたのなら
とことん悲惨な最期にまで追い込みかけて欲しかったよ。
性格的に救いようが無い人間だし。
ククールが○を気遣っている、又は兄弟としての情を○に求めていること自体
漏れは不自然だと思う。
肉親と言ったって所詮は他人だぞ。あそこまで敵対していたら、普通に考えて
関係の修復なんて不可能だよな。
連載中のssにはそのあたりにどう迫るのか、少なくともゲーム内での中途半端な
結末ゆえ○厨なんて副産物を生み出したが、漏れ的には○のあるべき末路を
期待する。
618:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 19:01:18 YCu71sEd
いい加減にしてくれないかな。主姫好きの中にも普通にマルチェロ好きなやつもいるんだけど。
個人の考えでSS書く分は何も言うことないけど、配慮が足りないなとは思うよ。色々な意味でさ。
619:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 19:09:43 a+j5pPf/
>>618
原作(というかゲーム内)ですでにそういう扱いなんだから仕方無いじゃんか…。
620:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 20:52:15 27r3EE3A
>>617
ここは主姫スレでしょ?
○に対する取り扱いの要求って完璧スレ違い。該当するスレに行けば?
>>619
ゲーム中のどこら辺で「そういう扱い」をされたのか真剣に分からん。
確かに主人公達と一時的に敵対したことはあるけど…。
ラスボスのように倒すべき絶対悪だと描かれていた覚えはない。
621:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 21:01:27 6BJXiiJ9
>>620
ここで書かれてるSSでも、まだ絶対悪と決まった描写は無いんだけど・・・。
○がどういう位置付けのキャラになるのか定まって無いみたいだよ。
622:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 21:22:48 8uLUZD2t
まぁでも黒幕っぽいし、あそこから改心したりしたら、安直どころの話ではないなw
自分的にマルチェロの扱いで不満に感じたのは、マルチェロによるエイトの拷問シーンが
省略されていたこと。そこは一番の見せ場じゃないか。楽しみにしてたのに。
続きをお待ちしています。
623:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 21:27:05 TGC+PzSR
>>622
> 自分的にマルチェロの扱いで不満に感じたのは、マルチェロによるエイトの拷問シーンが
> 省略されていたこと。そこは一番の見せ場じゃないか。楽しみにしてたのに。
これは○ファンに配慮してくれたのかも・・・。
今、最終的に○がどういう扱いになるか定かでない時点で
自称○ファンからここまで言われてる状態だし、
もしそのシーンまで描写されてたらもう・・・。(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
624:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 21:33:05 8uLUZD2t
>>623
いや、自分もマルチェロ好きだけど。見たかったな~、と。
そうね、それが配慮なのかもね。ガックシ…。
625:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 21:34:56 TGC+PzSR
>>624
_| ̄|○人○| ̄|_
いや、あなたの気持ちはよくわかるよ・・・。
626:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 22:47:44 d31GNU5j
絶対悪ではないけど、決して交わらない平行線としての描写はあったと思うよ。
もし何らかのきっかけがあったとしたら再び敵として相見えることがあってもおかしくなかった。
627:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 22:58:25 8uLUZD2t
だから、それが個人の解釈の違いなんだって。
自分の考えを押し付けるなよ…
628:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 23:44:22 fGNTtYCy
>>626
それはゲーム本編でも思いっきりあったでしょーに・・・('A`)
629:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 23:46:31 tsCbBNA4
ぬっちゃけマルチェロはゲーム後、
ギッタギタに残虐非道の限りを尽くし続けるキャラとも、
悟りを開いて隠遁生活を送る事になるキャラとも、どちらにもとれる。
マルチェロもそれなりの理由があってあくどい事をしていたわけだが、
ゲーム中で彼の「それなりの理由(世の中の不公平やコンプレックス)」は
解消されていない。
当時のマルチェロの信念は倒すべき絶対悪ではないけれど、
エイト達の信念と相容れないのなら、双方は対立するしかないんだろう。
マルチェロが考えをすっかり改めきった描写はゲーム中にはないんだし、
マルチェロが主人公達と馴れ合うのか自分の意思を貫くのか、
そのへんの解釈は各SS書きさん次第。
あくどいマルチェロが許せなくて、見るのも嫌なら今回の話はあぼ~んしときなよ。
別に、嫌な人に読めと強制されているわけでもないんだからさ。
そんでしばらくしたら、善人なマルチェロの出てくる話でも書いてくれ。
その話が面白ければ、それが主流になるだろう。
630:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 23:51:40 8uLUZD2t
そんなこと言ってんじゃないってのが分からないならもういいです。
631:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 23:53:03 x5q9KCJa
正直マルチェロなんざどーでもいい
善人なマルチェロの出てくる話ってなんだよ
ここは主姫スレだっつーの
これが○厨のキモさか
632:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/02 23:59:23 27r3EE3A
なんで○の話題でこんなに盛り上がってるの?主姫スレなのに(笑)
何が悪で正義かなんて、その時の立場や状況でころころ変わる相対的なもんだろ。
エイト達の信念と相容れないっていうより、○にとっては野望の達成に邪魔だから
一時的に敵対しただけじゃなかったっけ?
たまたま主役側視点で見てるから○が悪役に見えるだけであって。
ちなみに自分は杖に簡単に精神を支配されなかったことや
子ククールへの接し方なんかを見て、深いキャラだな、と思った。
好きとはちょっと違うが。
法皇の死因もそれとなく匂わせてはあったけど○が直接手を下した描写は無かったように思うし…。
いろんな感じ方をさせてくれる描き方だから面白いんじゃないか。
主よりも○が好きなプレイヤーがいてもおかしくはない。
後日談とかについては、せっかく製作サイドが自由に想像できる余地を残しておいて
くれたんだから個人個人の感性で楽しんだ方がいい。
こうあるべきだって決め付けは良くないし、書くのも読むのももちろん個人の自由。
633:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:05:09 8uLUZD2t
>>631
誰も善人のマルチェロが見たいなんていってないが。
流れが 「マルチェロのエイト拷問シーンキボンヌ(*´Д`)」 で終わってる時に
>626は相当変だと思っただけだ。
マルチェロのことについてはそれぞれの解釈があっていいと思うので
>632に全面的に同意。
何がイヤかって○厨って言葉を使われるのがイヤ。
そういう他のキャラのファンを煽るようなことを言うのはやめて欲しい。
634:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:10:17 X8gonw/6
○なんて全然関係ないカプスレで○とはうんぬんと語りだす輩を厨房と言わずなんとする?
全ての元凶は>>525
こいつのせいでスレがおかしくなりだした
635:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:11:14 rLe8vHp4
マルのキャラうんぬんするんならマルスレでやれ
スレリンク(ff板)
スレリンク(ff板)
636:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:11:52 afw/ffZo
>>633
いや、あなたのような○ファンを「○厨」とくくってるわけじゃなさそうだし、
そんなに気にすることないと思うよ。
何レスかあったでしょ?
「配慮が足りない」とか「扱い酷い」とかきつい言葉でレスしてる香具師。
そいつらのことを言ってるんだと思うのよ。
自分は主姫ファンであり○ファンでもあるけど、
そういうレスを見て、「この○厨が!」って心の中で突っ込んでるもんw
637:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:14:08 vdJ+7m2j
一部のアフォが「○の扱いをもっと良くしろ!」なんて言い出すから
こんなことになったんだよ。
638:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:17:08 3LHRCFm7
>>634
別におかしくはなってないでしょ?
それともカプスレでは他キャラの話は厳禁なわけ?
その煽った書き方の方が荒れる原因のような気がするが。
639:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:19:08 F4f04Sbx
>>638
「○ファン」でなく「○厨」の、わがまま全開の書き方のほうが
余程煽ってると思うんだけど。
ていうか、そんなレスが無ければここまで
○のことでスレの雰囲気が悪くなることは無かったよ。
640:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:21:49 9SB48Cuf
そうやっていちいち煽るあなたはなんなの…_| ̄|○
641:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:24:58 sDzO1sQb
作家さんにはこんな雰囲気に惑わされず、書きたいように書いてほしいよ。
いや、書いてくださると私は嬉しい。
藻前らいい加減に汁
642:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:26:11 3LHRCFm7
>>525は単なる感想じゃん…。
○厨だの何だの、ただ感想書いただけなのに
こんなに荒れるのも珍しいよな。
643:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:31:35 X8gonw/6
別に煽ったつもりはなかったけど
今までこのスレに投下されたSSの中にはチャゴスも出てきたしヤンガスもゼシカもククールもトロデも出てきた
チャゴスなんてゲーム以上に酷い扱いだった話さえあった
それなのにそのことについて突っ込む奴はほとんどいなかった
なのに今回はどうだ?
マルチェロが出てきて悪っぽく扱われた途端グダグダ言う奴出現
マルチェロとはこういうキャラじゃねーの?と熱く語りだす始末
厨房以外になんて言えばいいのか教えてほしいよ
644:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:32:07 Ev7N1gRs
自分は>>618からおかしくなったと思ってるんだけど。
あのきつい物言いはいくらなんでも、ちょっとなー。
ホントにSS読んでるのかも疑わしいよ。
645:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:32:47 rLe8vHp4
もうだれが煽っただのどうのって書いてる奴いいかげんにしろ
ここから先、マルの扱いとか書きこむ奴はどんなこと書いたって厨だ
646:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:35:42 bH2iEFQx
ということで、投下お待ちしております。
一連の流れは脳内あぼーんしてくださいおながいします( ´Д⊂
647:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:36:03 3LHRCFm7
>>643
あんたが○大嫌いなのはよーくわかったw
過剰反応しすぎ。
そのレスが○厨を呼び込んで荒れる原因になってるんだから
少しは黙ってれば?
648:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:38:24 9DBzHkaw
>>647
一つ二つ前のレスも読めないのか?
もういい加減にしなよ。
649:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 00:40:00 X8gonw/6
>>647
あい、わかった
俺と君が相容れないことはよくわかった
お互いIDが変わるまでは書き込まないでいようや
650:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 11:06:29 m+aNzIm0
自分の肌に合わないSSをThroughできずに
ぐだぐだ言う馬鹿がいるスレはここですか?
早く続き読みたいですよ…
651:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:21:14 9SB48Cuf
一般絵板に神キタ━━━(゚∀゚)━━━!!
652:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:43:06 gNZ1PxPQ
>>473-476、>>485-492、>>506-514、>>550-559、>>565-568、>>586-593
続き
653:二人に捧げるRequiem ◆JSHQKXZ7pE
05/10/03 21:45:26 gNZ1PxPQ
7.Sanctus
ある朝ミーティアは、いつもにも増して塔の周囲が物々しくなっていることに気が付いた。
岬の突端に建てられた塔は三方を断崖に囲まれており、海からの侵入を阻む。さらに激しい潮
流が陸を侵食し、削られた岩が海中に落ち込んでは複雑な地形を形成してますます潮の流れの
予測を難しくしている。陸側には見張りの兵が置かれ、無断で近付くことはできなかった。
ここは昔から海の難所だった。それでも灯台もなく放置された状態であったのはどの定期船の
航路からも外れており、通う人少なだったからである。
(私が死んだ後は灯台になるのかしら)
とミーティアは思っていた。恐らく設計者もそれを考慮したのだろう、三方の海に向かって大
きく窓が取られていた。おかげでミーティアのいる場所には陽光が降り注ぎ、海景を望むこと
ができる。その風景はかつて暮らしたトロデーン城三階テラスからの眺望に似ていた。実際高
さも同じくらいだっただろう。
海側対し、陸側は窓もなくその上深い穴が穿たれているばかりだった。下との行き来はここを
通じてのみ。天井に備え付けられた滑車を使い、日に一度、外界から篭に乗って食事や細々と
した手回り品が届けられる。時には本や衣類に紛れて薬草や毒消し草が届けられた。名乗って
はいなかったがそれが誰からのものであるのかはミーティアにはよく分かっていた。
だが、それらの物が役に立つ日が来るのだろうか。風の噂では、大逆の判決を受けたエイトの
身柄はサザンビークに送られたという。兄の遺児だからといってサザンビーク王が私情を挟む
とは思えなかった。エイトの存在そのものが王位を脅かすのだとすれば、彼は速やかに処刑す
るに違いない。ミーティアは悲しくそう思っていた。
その朝の物々しさの理由は今日の荷物が届いた時に判明した。食事を運んでくれる侍女の腕に
ひっそりと喪章が巻かれていたからである。
「…今日なのね」
独り言のようにミーティアが呟くと彼女ははっと身を硬くし、躊躇った後、
「はい」
と答えた。
654:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:48:08 gNZ1PxPQ
「そう。午前中なの?」
ミーティアの声は平静そのものだった。言葉を詰まらせたのはむしろ侍女の方だった。
「…はい。そのように…聞き及んでおります」
そして恐る恐るといった風に続ける。
「…陛下より、今日から一日中姫様のお側に上がるよう、申し付…」
「いえ、その必要はありません。ありがとう」
侍女の言葉は素早く遮られた。
「ですが」
「帰ってお父様に申し上げてください。私は決して自ら死を選んだりいたしません、と。私の
命は人の手によって助けられたもの、それを粗末に扱うことはできませんから」
「かしこまりました」
侍女は一礼した。
「ですが今日だけは」
「…そうね。分かりました」
ミーティアは頷き、侍女が彼女の身の回りの世話を始める。久々に他人の手で髪を梳られてミー
ティアはふと、旅のことを思い出した。
旅の途中、ミーティアの鬣を結うのはエイトの役目だった。どんなに疲れていても仲間の為に
宿を取った後、必ず戻ってきて身の回りの世話をしてくれる。紐を外し丁寧に梳り、結い直す。
一度
「紐が古くなりましたので…」
と新しいリボンを買ってきてくれた。リボンなんて沢山持っていたけれど木綿製のあのリボン
より大切なものなんてなかった。大事にとって置こうと思っていたのに、呪いが解けて人の姿
に戻った時、どこかへ消えてしまったのだった。
(あれがあったなら…)
とミーティアは思った。
(エイトを偲ぶ縁にもなったでしょうに…)
以前ならそう考えただけでも涙が零れたものだった。けれども最早何も流れ出てはこない。何
もかも遠い現実のようにしか思えなかった。
身支度も済み、食事を、と思った時、急に階下が騒がしくなった。
「何事でしょう」
と二人、顔を見合わせる。侍女も何も知らないようだ。滑車が動く音がして下から誰かが昇っ
てくる。
655:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:49:04 gNZ1PxPQ
「姫様!御前失礼いたします!」
そう言いながら姿を現したのはいつも見張りをしている兵士。かなり慌てている。
「どうしたのです?何かあったのですか?」
侍女の問いにもまだ落ち着きを取り戻せずにいる。
「た、隊長が、じゃなかった、えええ、エイト様、あっ、様付けもよくないんだった、あの、
えと、前の近衛隊長ががが」
「どうしました?あの、水しかありませんけれど、いかが?落ち着いてゆっくり話してくださ
いね」
水差しの水を汲んで渡しながらもミーティアは己の血が冷たくなっていくのを感じた。
「おっ、恐れ入ります」
兵士は差し出された水を一息に飲んで、漸く落ち着きを取り戻した。
「先程サザンビークから急使が。本日処刑されることになっていたエイト隊長が逃亡した由」
「えっ」
「処刑場に竜が現れて暴れ回った隙に顔を隠した三人組に身柄を奪われたとのこと。隊長と三
人組のうち二人が竜に乗って逃げ、残る一人も呪文で行方をくらませたとか」
「まあ、ではまだ行方は分からないのですね」
「そのようです」
侍女と兵士の言葉をミーティアは何も言わずただ聞いていた。傍目にはただ座っているだけに
見えたかもしれない。けれどもその目の中に新たな光が宿ったことに二人は気付いていた。
※ ※ ※
656:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:51:43 gNZ1PxPQ
エイトが逃亡して数カ月、サザンビークの追撃の手は全く緩まなかった。ミーティアの幽閉さ
れている塔の周囲も警備が強化されている。その上、季節の変わり目で毎夜毎夜雷光が閃き霙
混じりの雨が叩き付けるように降り注いでいる。強風に海も荒れて近付くことは困難だろうと
思われた。
その夜も激しい風雨に見舞われ見張りの兵は苦労していた。それでも雨は少しずつ収まり始め、
東の空が白んでくる。
「やれやれ、やっと夜明けだな」
「温かいスープが飲みてえよ。すっかり冷えちまった」
もうすぐ交替の時間だった。何事もなく夜が明け。休息できると思うと気も弛む。風はまだ強
く、崩れた波濤から飛ぶ飛沫が顔にかかって視界を奪うことはあったが、総じてほっとした空
気が流れていたことは事実だった。
だから、目立たぬ服装で西の空に残る夜闇に紛れるようにひっそりと姿を現した男の発見が遅
れたのも無理のないことだったのかもしれない。
「おい、この先は立ち入り禁止だぞ」
漸く一人の兵士が気付いて制止の声を掛ける。が、男はそれに一瞥もくれず真直ぐ塔へと向かっ
た。
「動くな!この先はトロデーン王の御名において禁足となっている。速やかに立ち去られよ。
さもなくば逮捕いたす!」
それでも足を止めない男に兵士たちは槍を向けた。
「止まれ!この槍が目に入らないのか!?ただちに止まるのだ!」
漸く男は立ち止まった。そして被った黒い衣の下から塔を見上げる。
「ここに…いるんだな」
「何をいっている!」
こちらを全く気にしていない様子に兵士は苛立ちを隠せない。
「少しトロデーンの牢で頭を冷やして来い!」
「トロデーンか…でももう二度と帰れない…陛下はお許しにならないだろうから…」
男は悲し気にそう呟くとやっと兵の方に向き直った。
「ここを通してくれ」
「何だと!」
その内容に兵士は目を剥く。
「ふざけるな!そんなに通りたくば、まず我が槍を受けてからにせよ!」
657:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:53:25 gNZ1PxPQ
「…そうか、そうだったな。いつも熱心に槍の稽古を受けていたっけ、お前。大分上達したん
だろうな」
意外な男の言葉に兵士は動揺を隠せない。
「誰だ、貴様は!」
男は衣に手を掛ける。と、黒い衣が翻り、赤い異国の甲冑が未だほの暗い暁の光の元に曝され
た。
「見忘れたのか、この僕を。短い間だったけどよく稽古の相手したよな?」
「たっ、隊長っ!」
「通してくれ。トロデーンの兵に向ける剣はない」
「だっ、駄目です。これは主命故、通せません!」
「そうか」
かつての後輩の言葉にエイトは寂し気に笑った。
「…では仕方ない。力ずくでも罷り通る!」
言葉よりも速く背負われた剣が抜かれる。瞠目する間もなく間合いを詰められ、咄嗟に槍身で
斬撃を受けるのが精一杯。
「言った筈だ、敵から目を離すなって。間合いを詰められても動揺するな。鐓で相手の武器を
叩き落とすんだ」
エイトはそう言いながらも斬撃を加える。兵士にその助言を実行させる暇も与えない。兵士は
必死で回避し、身体が離れた隙を突いて槍を繰り出したが、剣の柄で槍身を殴られて取り落と
す。その途端、エイトの足が槍を蹴り飛ばし、遠くへ転がって行ってしまった。
「…次!」
衝撃に痺れる手を庇って退く兵を後目にエイトが叫ぶ。為す術なく遠巻きに見ているしかなかっ
た兵たちが及び腰になった。
「どうした?僕が兵士になった頃は『次』と言われて出て行かない奴は腰抜け扱いされてたぞ。
呪文は使わない。さあ、かかって来い!」
そこまで言われては兵士たちも立つ瀬がない。エイトよりやや年長の兵士が進み出る。
「久しいな、エイト」
「お久しゅうございます」
エイトも目礼する。かつて先輩だった彼はエイトにとっての目標であった。
「お相手願おう。いざ!」
658:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:54:20 gNZ1PxPQ
互いの剣がぶつかり合う。かつてエイトは三本に一本取れるか取れないかぐらいの腕前だった。
技量の未熟さもさることながら彼の動きは訓練された正規のものだけではなく、我流も混ざっ
ていて次の動きが読み難かったのである。
だがしかし、旅の間鍛え抜かれたエイトの身体は容易くそれを見切っていた。振り下ろされる
剣を切先で受け流し、峯で柄から掌分くらいの場所を殴りつける。剣は高く澄んだ音を立てて
折れ飛んだ。
すると一人では適わないと見て取ったか若い兵士が二人掛かりで左右同時に斬り掛かる。が、
エイトは素早く身を引いた。勢い余った二人の剣が互いの身体を斬らんとしたその時、エイト
の剣が一人の剣を叩き落とし、返す峯がもう一人の胴を薙ぐ。
「二人同時で斬り掛かるのに正対する奴がいるか。躱されたら味方の剣で怪我するって言った
だろう」
語尾に秋水のごとく剣光が閃く。動作は澱みなく、足取り軽く無人の境を行くかのようにエイ
トは塔へと近付いて行った。
659:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:55:02 gNZ1PxPQ
しかし塔内には難問が待ち構えていた。内部はほぼがらんどうで階段や梯子はなく、ミーティ
アのいる最上部へは篭に乗って釣り上げて貰わなければならない。しかしそれはエイト一人で
は無理な話だった。扉を閉ざして追っ手をしばし足止めさせたエイトは考え込んでいたが、滑
車からぶら下がる二本の縄を一緒に掴んでよじ登り始めた。縄を片方だけ持てば滑車から抜け
落ちてしまう。壁面は腕のいい石工が組んだのか手を掛ける隙間もなかったから、これしかな
かったのである。
「エイト!」
騒ぎに気付いたミーティアの声が上から降り注ぎ、エイトの心を勇気づける。ちょっとだけ上
を見遣って、さらに登り続けた。
半分まで登ったところで漸く扉が開かれた。兵たちは皆エイトの姿に唖然としたが、すぐに後
を追ってよじ登り始める。どうしようかとエイトが考えた時、鼻先をかすめて何かが落ちていっ
た。
「うわっ!…げほげほっ!」
下で何か砕ける音がしたかと思うと叫び声と共に咳き込む音が上がる。見下ろせば白い粉のよ
うな物がもうもうと立ち込めていた。
「他の人は登らせないわ!」
見上げればミーティアの手には何か握られている。
「白粉壷よ。お化粧道具なんて使わないもの。これも投げちゃうわ!」
続いて落とされるは頬紅の壷。地に落ちて赤い粉が塔内にぶちまけられる。
「今のうちに!」
「ありがとう、ミーティア!」
その後も香水瓶やら眉墨やらが盛大に投げ落とされる中、エイトはミーティアの待つ最上部へ
と登っていった。
※ ※ ※
660:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:56:58 gNZ1PxPQ
懐かしいエイトの手が現れる。続いて腕が。兜に覆われた頭が覘き、勢いを付けて上半身が一
気に姿を現した。片足が床に乗り、もう一方もしかと最上階に辿り着く。
その様子をミーティアは何か恐ろしい物でも見るかのように呆然と見ていた。一目なりとも逢
いたい、伝えたいこともたくさんあった筈だった。なのに言葉は身体の中を巡るばかりで表に
出ては来られない。
「エ、イ、ト…?」
漸く振り絞るようにして出された声に、登ってきた縄を下に落としていたエイトが振り返る。
「ミーティア」
「エイト」
これは本当に起こりつつある出来事なのだろうか。目の前にいる者は本当にエイトなのだろう
か、と。が、その途端エイトは片膝を突いた。
「エイト?」
「申し訳ございませんでした」
「えっ」
「あなたの輝かしい人生を奪い、汚した罪は重く、一生掛けても償い切れないものです。赦し
を乞うことすらおこがましいことだと承知しております」
頭を横に振り続けるミーティアだったが、それには構わずエイトは続けた。
「どうすればいいのか、ずっと考えてきました。でも僕の乏しい知識ではこれ以上のことは思
い付かなかった。
僕の身を、あなたに委ねます。どうかその手で裁いてください」
エイトの目は真剣だった。
「では」
長い沈黙の後、ミーティアが口を開く。
「その身を以て私に教えてください、愛というものを。いつまでも私の傍にいてください。死
が私たち二人を分かつその日まで」
重々しく告げられるその言葉の内容にエイトは目を見開いた。
「ミーティア」
「もう二度と、自分一人で何もかも背負おうとしないで。私もその半分を分かちます。
これが私の裁きです」
「ミーティア!」
661:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:57:57 gNZ1PxPQ
「立って」
信じられないといった顔でエイトが立ち上がる。
「私の半身となって私と共に在ってください。私に等しい者はエイト、あなたしかおりません」
「…僕は」
エイトが一歩近付く。
「トロデーン王女であり続けるよりもあなたの妻として生きていきたい。エイト、あなたが私
を助けてくれたように私もあなたを助けます。だから」
言葉の最後はエイトの胸の中に消えた。硬い甲冑の下に息づくエイトの身体から鼓動が伝わる。
「あなたの存在そのものが僕の希望だった。これから先もそう在り続けてくれるんだね」
「ええ、そうよ」
「もう二度とトロデーンに帰れないよ」
「エイトのいるところがミーティアの居場所よ」
「サザンビークからも追われているんだよ」
「一緒に逃げるわ。言ったことあったでしょ?『どこまででも乗せて行くわ』って」
「ミーティア」
ミーティアが顔を挙げると真摯で優しい目をしたエイトがあった。
「私エイトは病める時も健やかなる時もいついかなる時もあなたの良き夫であり続けることを
誓います」
エイトがミーティアの目をひたと見詰めながら誓う。
「私ミーティアは富める時も貧しき時もいついかなる時もあなたの良き妻であり続けることを
誓います」
エイトの目を見詰めその言葉を発しているうちにミーティアはふと、自分の魂がエイトの魂と
一つに重なっていくように感じた。奥深いどこかで何かが強く結び合った、と。
引き合う心に導かれるかのように二人の顔が近付き、唇が重なる。魂を強く結び合わせるかの
ように。
※ ※ ※
662:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 21:59:16 gNZ1PxPQ
長い口づけの後どちらともなく唇を離すと冷たい外の空気が流れ込む。同時に階下の物音も二
人の耳に届き始めた。
「何かしら。縄を落としたらもう昇れない筈よね」
「梯子でも渡すつもりじゃないかな」
確かに塔内は何もないが、上手く梯子は渡せば踊り羽となるように小さな足場が所々に設けら
れているのにエイトは気付いていた。
「…いきましょう」
「…そうだね。行こう、二人で」
もう一度唇を重ね合う。離れた時、エイトは既に戦う顔になっていた。
「もう一回足止めしてもらえるかな。僕は窓を開けるから」
ミーティアは頷き、連絡孔に走って行った。エイトは窓に近付く。鎧戸がないので嵐にも耐え
得るよう分厚いガラスが嵌殺しになっていた。けれども窓の上部三分の一は突出しになってい
て開くことができる。部屋のこちら側に倒すように金具が付いていた。
「外せば何とか出られるかな」
そう呟くとエイトは金具に指を掛けた。釘がしっかり打ち込まれていて苦労したが、引き剥が
す。窓枠ごと外すと強い潮風が部屋に流れ込んだ。
椅子を窓枠に押し付けてエイトは上に乗った。何とか外に出ることができそうだ。が、風が強
く、さらに波も高い。時折やって来る高い波がここまで届きそうだった。
「ミーティア」
手招きして胴を留める紐を解く。
「もう上がって来るわ」
ミーティアの言葉に頷き、身体を椅子の上に引き上げた。抱き寄せて紐で互いを繋ぎ合う。
「エイト?」
「離れ離れになりたくないから…塔から出ないと移動呪文、使えないんだ」
怯えさせないよう極力穏やかな口調で言う。が、言外の意味をミーティアは汲み取った。
「分かったわ…信じています」
そう言ってエイトの頚に腕を廻す。ミーティアの言葉を胸に刻み、エイトは窓の外に身を乗り
出した。
663:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 22:01:56 gNZ1PxPQ
「待て!動くな!」
丁度最上階に着いた兵士が慌てて二人に駆け寄ろうとした。が、その瞬間突風が吹き付けて平
衡を失ったかのように窓の外に落ちる。そこへ一際高い波が打ち寄せ二人を飲み込んだ。
「落ちた!」
「落ちたぞ!」
「引き上げろ!まだ間に合う筈だ!」
塔外の兵士たちもうろたえ騒ぐ。海中に没したと思われる二人を探るべく竿を差す。
懸命の捜索が続けられた。だがしかし、二人の遺体はついに上がらなかった。
(続く)
664:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 22:06:42 gNZ1PxPQ
お待たせしてしまって申し訳ありません。
PCがフリーズして完成したのがアボーンしたり、どうも気に喰わなくて全面書き直ししたりして遅くなってしまいました。
残り後一回ですのでお付き合いください。
665:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 22:08:46 y0xrJ6fD
ここにきてエイトが急激にかっこよくなった!
666:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 22:09:14 9SB48Cuf
リアルタイムでキタ━━━(゚∀゚)━━━!!
うわ。むっちゃドキドキしました。
ここで竜神装備が来るとは!!大興奮です。
そしてトロデーン兵士との邂逅シーンが最高にかっこよかった。
続きを超絶楽しみにしています。
667:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 22:25:07 HCjyy/P7
婦女子にありがちな、お耽美で美化15100%なアナザーストーリーだなあ……。
まあそういう話が好きな人もいるようだからいいけど。
最終回までこのスレ落とさず待つから、無理せずがんばってーな。
それから、このレスにいちいちレスはいらんからな。
668:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 22:31:07 PVOu6TeH
>>667
じゃあSS書いて
669:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/03 22:50:54 2AxTdq6p
>>667
書き込んだ以上は「レスはいらん」という言葉は通用せんよ。
670:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/04 03:10:14 fdnanpg7
旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦
旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦
旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦
旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦
茶でも飲みませんか
>664乙です!続き楽しみにしてます。がんがれ!
671:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/04 03:26:50 3eN+j/Pg
>>670
ありがとういただきます つ旦
>>664
禿乙です
いよいよあと1回ですか~、楽しみに待ってます!
672:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/04 10:57:43 8bVfazij
gj!!
673:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/04 21:03:40 4rD5CPKh
感想どうもありがとうございました。
いつもにも増して誤字脱字の嵐…_| ̄|〇オドリ「羽」ッテナニサ…
本当に申し訳ありません。メモ帳ではちゃんとなってたのに…
最後までしっかり頑張ります。
>670
ありがとうございます。いただきます。
つ旦
674:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/04 23:27:34 nJ5cTG5X
あと1回、楽しみですな。
>>670つ旦
675:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/05 21:02:15 vFBvplf1
つ旦
秋の夜長にお茶が旨いのぅ~
676:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/05 21:35:05 gBVj0mfh
+ +
+ + + +
∧_∧ +
(0゜・∀・) ドキドキワクワクテッカテカ
(0゜つ旦C + +
と__)__) +
677:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/05 21:59:24 nQIQNdv3
いただきます~つ旦
次回がいよいよ最終回か…。
楽しみなような、寂しいような。
678:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:35:22 CSuhLvnR
>>473-476、>>485-492、>>506-514、>>550-559、>>565-568、>>586-593、>>653-663
続き
679:二人に捧げるRequiem ◆JSHQKXZ7pE
05/10/06 21:36:46 CSuhLvnR
8.Agnus Dei
月日は流れた。
塔から落ちたエイトとミーティアの行方は依然不明のままである。あのまま海中に没したとし
て、遺体を引き上げることは難しい問題だった。サザンビークなどは何としても行方を掴もう
と潜水夫を雇おうとしたが、皆場所を聞くなり拒絶する。どんな手馴れであっても逆巻く潮に
飲み込まれ岩に叩き付けられて命すら危ういからであった。
並の場所ならばいつかは遺体が岸に打ち上げられることもあるものを、ここはそれもない。と
言うのは落ち込んだ岩によって海底は複雑な地形を成し、沈んだ物は岩に引っ掛かって二度と
浮き上がることはなかったからである。
エイトは移動呪文を使うことができたことから、波に飲まれる直前にどこかへ逃げた可能性も
考えられていた。しかし、世界中のどの街、どの村にも二人のいた形跡はない。各地の有力者
が匿っていることもあり得たが、それにしても気配すらないのである。
トロデーンはすっぱりと捜索を諦め、ミーティアを幽閉していた塔を灯台へと作り替えた。元
よりミーティアは王位継承権を失っており、何の問題もない。先々代の王妹が嫁いだというど
こだかの公爵家当主が新たな王位継承者となって決着していた。
問題なのはサザンビークの方だった。身分を明らかにして裁かれたため、国民の誰もがエイト
が現王の兄の遺児であることを知っている。今はいい、クラビウスは国を富ませ善政を布いて
国民の信頼も篤く、変わることは全く望まれていない。だが次の世代はどうなのか。
さすがのチャゴスもそこには気付いたらしい。エイトが逃亡し、ミーティア姫を奪還した揚句
生死不明という事態に狼狽え、周囲の人々を手当り次第捜索に派遣した。けれども皆、手掛か
りすら掴めずに帰ってくる。
業を煮やしたチャゴスにある夜、マルチェロが囁いた。
「何としても対抗する者はなく、ただ一人の王位継承者であることを明らかにしませんと。そ
う、何としても」
「う、うむ」
チャゴスの目が不安に歪む。そこをマルチェロは一押ししようとする。
「ですが王子の身分では制約が多く、思うように捜索もできません。もし殿下が…」
680:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:37:48 CSuhLvnR
「そうだ!」
が、「王位に就けばあらゆる権力を用いて捜索できるでしょうに」という誘惑の言葉はかき消
された。言おうと思っていたことを急に遮られてぽかんとしている様子にまるで気付かず、チャ
ゴスは続けた。
「お前、探して来い。うん、そうだ。お前ならすぐに見付けられるだろ」
チャゴスの巨体が迫り、マルチェロはたじたじとなった。
「で、ですが」
「見付けるまでいちいち報告に帰って来ることはないからな。一刻も早く見付けてくれよ」
「……は」
マルチェロは呆然として声も出ず、ただ命令に従わざるを得なかったのであった。
そうやって図らずもマルチェロを追い出したチャゴスは、また弛んだ生活に戻ってしまった。
今までの勤勉さはどうやらマルチェロの態度に刺激されたものであり(この点は評価されて然
るべきかもしれない)、いなくなれば元の木阿弥、といったところであろうか。
クラビウスはその点には落胆していたものの、また元のような悪意のない、平和な横着者に戻っ
てしまったチャゴスに一面安堵していた。以前の息子は何かに取り憑かれたかのようにどこか
不自然で、親として不安だったからである。
それにこの結末にもある程度納得していた。エイトの生死が不明であるが故に政局は安定し難
いかもしれない。けれどもそれ以上にその存在がチャゴスにとって鏡となり続けるだろうと考
えていた。甚だしい愚行を繰り返せば「エイトを探し出して新たな王に」という声が高まる。
自らの地位を守りたくば常にそつのない為政者であらねばならぬ。それは結果としてサザンビー
クの国益となっていくのだ。
そして私人としてはできればどこかで生きていて欲しかった。親子で暮らすというささやかな
願いすら叶わなかった兄のためにも。
※ ※ ※
681:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:39:24 CSuhLvnR
パルミド、牢獄亭。
「あいっかわらず怪し気な街よね」
そう言って隅のテーブルに腰掛けたのはゼシカだった。リーザス村に帰り、アルバート家の女
当主となっている筈だったが、相変わらず挑発的な服を着ている。
「そう言うゼシカの姉ちゃんも変わってねえでがすよ。まあ、こういう街だからこそ、あっし
が紛れていても誰にも怪しまれないんでげす」
答えるはヤンガス。彼もあまり変わっていない。
「そうよね…一番ヤンガスが危なかったんだものね」
エイトを処刑する時は黒い覆面を被っていたものの、サザンビークに処刑人として雇われる時
に顔を見られている。当時は頬の傷を上手く隠していたが、最も捕まる危険が高い役回りだっ
た。
「へっ、これくらい、大したことはねえでがす。兄貴のためなら例え火の中水の中」
ヤンガスは誇らし気だった。
「ところでククールは?まさかカジノでイカサマしているんじゃないでしょうね?」
「いや、ほら、…トロデーンに」
ゼシカの問いにややぼかした答えをする。ここの客はみな自分の会話に夢中になっていて誰も
他人の話などには興味を示さないが、念には念をいれたのだろう。
「ああ、あれね。…王様っていうのも大変だわ」
納得したように頷くと一つ嘆息した。
「全くでがすよ。この前なんて『おぬし、たまにはおっさん呼びするのじゃ』ってあっしに言っ
たんでげす」
「ぷぷっ。トロデーンから飛んでくるつもりなのかしら」
「たまには息抜きさせてやろうってんで牢獄亭に誘ってみたんでげすがね、『絶対嫌じゃ』っ
てそっぽ向かれたんでがす」
「全く、トロデ王らしいわ」
笑い声に酒場の楽し気な音楽が重なる。
「そのうちトロデーンに顔出さなくっちゃ。あの帽子使えばすぐだしね」
「本当に便利でがすよ。みんな兄貴のおかげでがす」
そう言ってヤンガスはポケットの帽子をそっと撫でる。
682:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:40:48 CSuhLvnR
「ほら、珍しい物を集めにあの場所に鎌を持ってよく行くんでがすが、あれがなかったらあっ
しなぞ足も踏み入れられなかったでがすよ」
「そうそう、ほとぼりが冷めるまで一時期御厄介になったっけ。グルーノさんも寂しいでしょ
うね、ずっと孫と一緒だったのに」
「あれは兄貴の決断だったんでがす。『故郷かもしれないけど、居るべき場所はここじゃない、
それに迎えに行かないと』って言って」
「そうだったわよね…」
二人でここにいない人に思いを馳せる。
「…今日は揃わなかったけど、みんなで会いたいわね。いつかは」
「いつかは必ず来るでげす」
夜も更けて牢獄亭はますます盛況だった。
※ ※ ※
683:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:42:11 CSuhLvnR
黄昏の光と闇に紛れるようにフードの男が部屋に滑り込む。埃に塗れ、心無しかやつれた風を
見せるその男は、壁を背にして座るこの家の主に来意を告げた。
「お主はあらゆる物について占い、外したことがないとか」
外見とは裏腹に意外に若い声をしている。
「形あるものについてはな」
男は答える。と同時に全て見通すかのような鋭い眼光をフードの男─マルチェロに向けた。
「人探しだな」
「ふん、聞きしに勝る横柄な態度だな。だが、その眼力は本物のようだ。
…その通りだ、占い師ルイネロ。ある者どもの行方を追っている」
「その者の名は」
「トロデーンの前の近衛隊長、エイトとトロデーン王女ミーティア」
神頼みを嘲りつつも占いに頼る気になったのは二人の行方が全く掴めないからだった。そこへ
トラペッタの街に、落とし物から行方不明の者まで占って全く外したことのないという占い師
がいるという噂を聞き付けたのである。
「…よかろう」
マルチェロの言葉をただ黙って聞いていたが、ルイネロは一つ頷くと目前の水晶玉に手をかざ
し意識を集中させる。すると玉は思わせぶりに輝き出した。マルチェロは何らかの答えが得ら
れるに違いない、と図らずも期待した。が、漸く返ってきた答えは意に反するものだった。
「見えんな」
「何だと?よく見ろ、エイトとミーティアだ。ちゃんと捜せ、金ならいくらでも出す」
「見えんものは見えん。最早人の形を留めておらんのだろう」
きっぱり言い切るルイネロにマルチェロは激昂した。
「貸せ!私に見せろ!」
とルイネロを追い払い、自ら水晶玉を覗き込む。が、
「何だこれは!何も見えんではないか!」
水晶玉には灯火が揺らめいているばかり。その答えはにこりともせず発せられた。
「この水晶玉の力を引き出せるのはこの私一人だ。お前には到底叶わん。さあ、分かったなら
そこをどけ」
684:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:43:26 CSuhLvnR
「ま、待て。では屍体がどこにあるのかを占え」
「先に言ったであろう、形あるものしか占えぬと。あの事については私も聞き及んでおる。何
年も前のことだ。あの地は海の難所、沈んだ遺体は波に千切れ、柔らかい部分は魚の餌となり、
骨も海老や蟹の住処となって海底に散っておろう。波に洗われ既に人骨の姿すら取ってはおら
ぬ筈」
「それでもいい、頼む」
「探し当ててどうする?お主、『この腓骨はミーティア姫のもの』と断言できるのか?よしん
ばそれを見せたとて他人を納得させられるとはとても思えんぞ」
「くそっ…」
そうルイネロに言われ、マルチェロは腹立ち紛れに床を蹴り付けた。そして代金を投げ付けん
ばかりの勢いで卓に放り出すと身を翻し部屋を出ていこうとする。
「…気を付けるがよい、怒りの酒は身を滅ぼすぞ」
ルイネロの言葉に一瞬立ち止まったがすぐに「ふん」と鼻を鳴らし出ていった。
「…今夜はユリマを使いに遣らんようにせねば。まあ、あの男に私の言葉を受け入れる余裕が
ありさえすれば回避できるだろうが…」
一人ごちてまた水晶玉に目を遣る。
本当はルイネロには見えていた。どこか遠い山の上、小さな家の中の炉端に一組の夫婦が寄り
添うように座っている光景が。着ているものは粗末だったが、幸せそうに語らっている。ふと
二人が愛おし気に見遣る先には柵に囲まれた小さな寝台があって、幼子がすやすやと眠ってい
た。耳を澄ませば二人の会話が遠く聞こえる。
「お城に連れて行って貰って、疲れてしまったのね。もう寝てしまったわ」
「ククールが、『くっくりゅおいちゃん』って呼ばれたってしょげてたよ」
「まだ舌が回らないんですものね…お父様も『じいじ』って呼ばれてとても喜んでいたんですっ
て」
二人は再び顔を見合わせて微笑み合う。
「…彼らに平安を、とこしえの平安を…」
呟いてルイネロは手をかざした。と、水晶玉はあっという間に光を失いただの玉となる。部屋
の中は再びほの暗い黄昏の光の中に置かれたのだった。
(終)
685:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:46:14 CSuhLvnR
長々とお邪魔しました。
誤字脱字があまりに多く、見苦しかったことを深くお詫びいたします。
686:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:47:56 Fws04CYI
リアルタイムで乙
締めがマルチェロとルイネロなのは予想できなかったぜ
687:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/06 21:53:34 w3melO70
又マルチェロが落ちなければ好いが、……。
688:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 03:34:50 GyshJCFX
>>679-685
くっくりゅおいちゃん!w
いや~楽しませていただきました、最後はまったりと締められてよかったです。
また新作書いてくださいね!
689:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 10:46:38 h1mgZaQe
チャゴスごときに翻弄される○、哀れなり
690:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 13:40:33 AfcUl5Gb
でもミーティアはチャゴスがイケメンだったらすんなりケコーンしたんだろうかw
691:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 17:40:45 22LH6TNh
でも主人公とミーティアがはっきりくっついたって感じではなかったね
どっちとも取れるような終わり方だった
692:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 17:42:09 AfcUl5Gb
え?そうか?思いっきりキスしてるのに。
693:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 18:17:50 IAtAxp44
どう考えてもくっついただろ
694:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 18:25:31 HmxgW9Nz
>>691
くっつきまくって子供までいるじゃん
695:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 18:26:02 22LH6TNh
>>691
えっ?一回目のエンディングではほのめかしてたけど
真エンディングではくっつくの?
696:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 18:26:49 22LH6TNh
間違えてたorz
自分が691ですた
697:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 18:32:03 HmxgW9Nz
>>696
へ?
SSじゃなくてゲームのエンディングの話だったの?
ならちゃんとそう書いておくれよ。
ややこしい。
698:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 20:50:11 Lx3ipnPc
>>685
長編お疲れ様でした。
連載中、いくつもの名シーンの数々に手に汗を握りました。
そして流麗な文体に、釘付けになりました。
とても面白かったです。次回作も楽しみにしています!
699:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 21:40:51 HtTJB+xO
チャゴス…がイケメンでも 性格が イクナイから ミーティアは 結婚したくなかったと思う...
エイトさんとなら、
つつましい生活でも いたわり合って暮らしてゆける二人ゃと 思う…隠れて生きていかなければならないのは 気の毒だけれど ふたりが幸せでいて ほんまによかったと思う☆
700:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 21:48:38 yK6gdhrG
>>685
途中荒れかけていたからどうなることかと思いましたが、
最後まで読むことができて、嬉しかったです。
ほんのり予想していた通りの結末だったけど、
二人が幸せになれて本当に良かった、と感じました。
素敵な小説を読ませていただいてありがとうございました。
お疲れ様でした。
次回作も楽しみに待ってます。
701:小ネタ7 ◆nefbuGknog
05/10/07 23:11:20 +XWp43kS
「それじゃあゼシカ、姫をよろしく」
そう言いおいて教会に入っていくエイトに任せておいてと手を振った。
初めのうち姫の世話を人に任せることを頑なに拒んでいたエイトだが、
近頃ゼシカにだけは時折ブラシかけなどさせてくれるようになっている。
ククールなど馬具を外した後近寄るとさみだれ突きが飛ぶところをみると
女同士ならかまわないということだろうか。
「あら?」
黒い鬣を飾るリボンをほどきかけてゼシカは手を止めた。
前とは違う滑らかな感触。
よくよく見れば旅の間に擦り切れ色あせかけていたはずのリボンが
真新しいものにかわっている。
でもゼシカの手を止めさせたのはそのことではなく。
「これって、えーっと……」
「ねえ、ミーティア姫、これを見て頂戴」
ほどいたリボンをゼシカは姫の目の前にかざした。
赤いシルクのリボンに丁寧に飾り文字が書かれている。
“誕生日おめでとう あなたに幸多からんことを”
姫の誕生日はドルマゲスを倒したほんの少し後のこと。
ちょうどゼシカの失踪と重なっていて祝いどころではなかったことを
ゼシカは後で知って申し訳なく思っていたのだが。
「よかったわね、エイトは忘れてなかったみたいよ」
耳元でささやくと姫は嬉しそうに小さく嘶いた。
702:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/07 23:12:57 +XWp43kS
秋といえばリブルアーチ、というかその直後の雪待ちの教会で。
姫の誕生日の話はちょうどこの時期に泉に行くと聞けるので、
やっぱお祝いできるような空気じゃなかったんだろうなぁ、と。
それとなんかで読んだリボンにラブレター書いて贈る話が
脳内練金釜で練成されてこんなんになりました。
……あんま性能よくない錬金釜ですがorz
そしてククールにちょっとだけごめんなさいですw
703:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/08 20:36:36 YUjUBPId
わざわざMP4も消化してさみだれ突きを放つところに主の執念を感じるw
704:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/08 22:33:06 ZH+7W1ZR
>nefbuGknog氏
エイト…容赦ねえw
そうだよなあ、非常事態についうっかり忘れてしまった、もありだろうけど
主姫的にはこっそりお祝いしてたらっていうのもいいなあ。
後、感想くださった皆様、本当にありがとうございました。書いていて非常に励みになりました。
この場をお借りしてお礼申し上げます。
>>688
そんなあなたのために「ククールVS子供」w
「この人はだあれ?」
「やんがしゅおいちゃん!」
「そうだね(おいちゃんがおじさんかな)。じゃあこっちは?」
「じぇじかおねーたん」
「かわいいなあ。じゃあさ、オレは?」
「くっくりゅおいちゃん!」
「おっ、おじさんかよ…それは止めてくれないかな(あいつらどういう教育しているんだ)」
「んー…………くっくりゅ!」
「オレだけ呼び捨てかよorz」
705:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/09 00:13:54 0jAuyvLX
>704
カワユスw
706:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/09 13:12:59 HMZQ9kHa
「じぇしかおヴぁたん」って言ったら、魔法食らうんだろうかねw
707:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/09 18:40:16 fVkHpfDS
「おいおい、何でオレがおじちゃんでゼシカはおねーちゃんなんだ?おばちゃんだろフツー」
背後で全ての魔力を解き放つ準備をしているゼシカ
708:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/10 00:13:35 7m73mOib
この流れは前にもあったな
阻止
709:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/10 16:55:17 glIfTSzJ
保守
710:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/10 16:57:37 0ZzAFamH
ついにこのスレも終焉を迎えるときが来てしまったか…
711:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/10 17:17:31 FK1rHox5
そうかなー?そうは思えないけど。
一部の祭会場以外はこんなもんだろう。
大体ここ一日一レス以上あるし。
北米版ではボイスが付くらしいけど、みーたんの声はどんな感じなのかなー。
712:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/10 17:22:04 BH+CJD/H
海の向こうだとおおむね男性は高く、女性は低い声になると聞いた。
713:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/10 17:46:44 glIfTSzJ
そうか!みーたんにも声がつくのか。
うわ、欲しいなー。それ。
714:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/11 20:14:23 axaVcGsb
ストライクフリーダム×ミーティア?
715:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 17:57:25 YNNTwOKX
はいはいSEEDSEED
716:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 19:33:53 o3gKzn1z
ちょっとワロタ
次のSSを楽しみに待っておきます
717:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 22:01:40 s16cQ4q4
おつまみ置いて行きます。
718:バッカスの踊り ◆JSHQKXZ7pE
05/10/12 22:04:12 s16cQ4q4
目が覚めると城中に楽し気な空気が漂っていた。
着替えを手伝ってくれるメイドさんも、今日は何だか心ここに有らず、といった感じ。
「今日、何かあったかしら?」
髪を梳かれながら鏡越しに問いかける。鼻歌でも歌い出しそうな様子だったので。トラペッタ
のお祭りもまだ先だったし、なぜ皆楽しそうなのか分からなかった。
「まっ、まあ、申し訳ございません」
慌てて取り繕いながらも私の疑問に答えてくれた。
「今日は城の者総出で葡萄搾りなのでございます」
その言葉にうっすらと去年の記憶が甦る。確かそんなことをしていたような。でもそんなに大
掛かりだったかしら…
「今年は当たり年だとかで質、量ともに最高の出来なのだとか。いつもは私どもが手伝うこと
はないのでございますが、特に人手が要るとかで呼ばれているのでございます」
「楽しそうね。見てみたいわ」
そう言うとメイドさんはちょっと考える風だったけれど、
「今日の講義はサザンビークの歴史なの。でもあの先生、進むのがとっても遅いんですもの。
もうとっくにご本は読み終わってしまって、空でだって言えるわ。今日お休みできないかしら」
と言うと
「…分かりました。ではその旨、お伝えいたします」
と渋々了承してくださった。
教育係の方とも話がついたのか、今日の講義はお休みになった。きちんとお勉強することはと
ても大切なこととは分かっているのだけれど、あの先生の講義だけは気が進まない。どうして
なのかは本当はよく分かっているのだけれど…
それもあってとても解放された気持ちで庭に出てみると既に大きな桶と樽が準備されていた。
「まあ、こんなに大きい桶、初めて見たわ」
荷車の荷台程もありそうな大きな桶に近寄ると、中ではエイトがせっせと拭き掃除をしている。
「おはよう、エイト」
「…おはようございます、姫様」
もう名前では呼んでくれない。人目があれば殊更素っ気無い。でも本当はそうしなければいけ
ない。だって、いつまでも子供のままでいることなど、できはしないのだから…
719:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 22:07:18 s16cQ4q4
それでも他の人々の楽しい雰囲気に影響されたのか、珍しくエイトの方から話し掛けてきてく
れた。
「もうすぐ葡萄が届くんですよ」
「まあ、そうなの。楽しみだわ」
他愛もない会話。でもそれだけでもとっても大切。
「ところで葡萄搾りってどういうことをするの?」
「葡萄をこの桶の中に入れて」
そう言って足元を指差す。
「みんなで桶の中に入って踏み潰すのでございます。こっちは赤ワイン用、あっちが白ワイン
用でございます」
「…そうよね、色が着いてしまうものね」
もちろんワインを飲んだことはない。でも色の違いくらいは分かる。宴会の時お給仕さんが持っ
ているのを見たことがあるから。
「今年は特別な葡萄もあるそうでございますよ」
「特別?どんな葡萄かしら」
「さあ…僕も話で聞いただけなので分かりませんが、とても甘いワインができるんだそうです」
「じゃあその実はとっても甘いのね、きっと。食べてみたいわ。一粒貰ってもいいと思う?」
「多分大丈夫だと思います」
そんなことを話しているうち、門が開いて馬車が入ってきた。領地の畑から収穫された、緑色
の葡萄が山積みされている。
「葡萄が来たぞ!手の空いている奴は手伝え!」
声が掛かり、わらわらと人が城内から出て来る。桶に移し替えていると次の荷車もやってきた。
こちらには黒い葡萄が。料理長さんが指示を出している。
「混ぜるなよ、白ワインがロゼになっちまうからな。赤潰した奴は白の樽に近付くんじゃない
ぞ」
エイトは黒い葡萄を桶に移し始めた。と、たちまち果汁で服が赤紫色に染まる。
「ミーティアも手伝うわ!」
何だかもう、訳もなく楽しくなってしまって、服が汚れることなんてすっかり忘れて黒葡萄の
房を抱え取る。
「姫様!」
誰かが気付いて私を止めようとしたけれど、もう既に潰れた果汁で服は染まっていた。
720:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 22:09:27 s16cQ4q4
「ごめんなさい、服を汚してしまって!」
そう言いながらもどんどん桶に房を投げ込む。
「白の方になさればよかったのに!」
隣でエイトが笑う。
「いいの!こんな楽しいことしたことなかったんですもの!」
桶の底一杯に葡萄が入ると、メイドさんたちが出てきた。皆足をよく洗うとそろそろと桶の中
に入っていく。そうして誰かが歌い出し、踊りが始まった。葡萄の上で。葡萄はたちまち潰れ
ていく。
「ミーティアも踊ってみたいわ」
隣のエイトにそう言うと、
「うーん、…じ、じゃ、くくく靴下脱がないと」
突然動揺し出した。あら、どうしてかしら?
「そうね、じゃ、靴下脱いで来るわ」
さすがに人前は恥ずかしいので図書館に入る。今日は皆庭に出ていて無人だったとのをいいこ
とに靴下留めから靴下を外して脱いだ。裸足になることなんてなかったけれど、ちょっと気持
ちいい。でも靴下なしで靴を履くのって、変な感じ。
早速外に出て足を濯ぎ、桶の中に入る。足首まであるドレスもたくし上げて膝が見えてしまっ
た。でも素足でこんなことをするなんてとっても楽しい。それに暖かい陽射しの中で歌ったり
踊ったりできるなんて!
一旦桶の中身が空けられて、また新たな葡萄が入れられる。
「エイト!エイトも一緒に踊るのよ!」
「えっ、でも…」
躊躇うエイトに手を差し延べる。
「ね?お願い」
その時は知らなかった。葡萄を搾るのは女の子だけ、ということ。でもどうしても一緒に踊り
たかった。その額に寄る寂しそうな気配を拭ってあげたかったの。
「ほら、姫様が呼んでいらっしゃるぞ」
「…そうねえ、エイトだったらいいわ。どうぞ」
周りの大人に押され、桶の中で一緒に踊るメイドさんたちに手招きされる。エイトは仕方無さ
そうに靴下を脱ぎ、ズボンの裾をたくし上げ、足を洗って桶の中に入ってきた。
721:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 22:11:03 s16cQ4q4
どこかおどおどとしている手を取る。慌てるエイトに
「あの曲、覚えていて?一緒に踊った曲」
と囁いた。
「…ええ」
そう、お城の舞踏会で奏でられる優雅なメヌエットやガボット、荘重なサラバンドのような端
整な曲ではない。かつてトラペッタで踊った、変わった拍子の楽しい踊り。私が一節を口ずさ
んで踊るとエイトもそれを受けて踊る。メイドさんたちは最初はきょとんとしていたけれど、
元々トラペッタやその近くの出身が多かったから、あっという間に踊りの輪が広がった。
大きな桶だった筈なのに、何人も入って踊るものだからちょっと狭く感じる。でも肩がぶつかっ
てしまっても楽しい。大抵、エイトとだったし…
踊りに踊って全ての葡萄を潰し終えた。もうへとへと。ドレスの裾は赤紫にぼかし染めになっ
て、点々と水玉模様がついている。足を濯いで貰って、裸足のまま靴を履いた。
と、そこへ新たな荷馬車が着いた。
「あっ、あれね、すごく甘い葡萄って!」
きっとつやつやしていて、ほんのり粉を吹いていて、丸々と大きな粒の葡萄なのだろう、と急
いで駆け寄る。けれど、
「んん?」
「わっ!」
首傾げる私の横でエイトが驚く。荷台には灰色でしわしわしている上に所々灰色のふわふわし
たもので覆われた葡萄ばかりがあった。どう見ても美味しそうではない。
「はっはっは、びっくりなさいましたかな?」
御者台の老人が笑った。
「これが貴腐葡萄でございますよ。葡萄にカビが生えたものでございます」
「カビ?」
「えっ、カビなんですか?!」
「左様。特別なカビなんでございます。このカビが付くとうっとりする程甘く美味しいワイン
ができるのでございますよ」
「まあ…」
「へえ…」
722:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 22:13:57 s16cQ4q4
知らなかったわ。世の中って思いもよらないことがたくさんあるのね。図書館にたくさん本は
あるけれど、実際に見てみないと分からないことって一杯あるんじゃないのかしら。きっと素
敵なことで一杯なのでしょうね。
見ることができたらいいのに。…できれば、エイトと一緒に…
(終)
みーたん12、3歳ぐらいの話で。
註
貴腐ワイン
ある種のカビが熟した白葡萄に付き、果汁を濃縮したためにできる非常に甘いワイン。
カビは自然に生えるのを待つしかないので、とても貴重。
ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ(TrockenBeerenauslese)、
ボルドーのソーテルヌ(Sauternes)地区のVin de Pourriture Noble
などが有名。
文中の踊りの曲は全てDQの城の音楽で使われたものです。
723:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/12 23:53:28 x2gSPubY
ハァハァしますた
このあと二人が旅に出た時、みーたんはワインの飲めない体に…
724:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/13 01:04:36 We0jo4wA
ほのぼのでよかったです。
ちょっとだけ女の子のエイトが浮かんできて、萌えてしまいました。
725:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 17:37:56 rVFahK2x
ほしゅ
726:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/14 23:57:26 JGmmkp4W
ホシュ
727:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/15 20:13:42 /rZmfwal
感想どうもありがとうございました。
◆nefbuGknog氏の「女の子は脚だろう」から秘密のベールに包まれたみーたんの脚に迫ってみますた。
でもフトモモまでは迫れなかった…
ネタを勝手に使って申し訳ありません。
今後も頑張ります。
728:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/15 22:35:29 nuZ45NVB
最下層達成!!!!!!!
729:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 01:21:48 QUmKUT60
>>727
乙です。
張られたままの伏線も気になるところです。
今後も楽しみにしています。
730:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 12:54:28 DNH1XjGx
一番下まで来ちゃったのであげ
731:秘密のお出かけ ◆JSHQKXZ7pE
05/10/16 14:51:10 ADFFVt2o
1.
「エイト、あのね」
夕食の片付けも一段落ついた頃、ミーティア姫が厨房にやってきてエイトを手招きしました。
「うん…どうしたの?」
人目を憚るその様子にエイトもつられてひそひそ声になります。
「あのね…来週トラペッタでお祭りがあるんですって」
「うん」
エイトもそれは知っていました。秋の収穫を祝う、それは盛大なお祭りなのだそうです。
「エイトも見に行くのでしょう?」
その日はお休みを貰っていました。トロデーンでも収穫をお祝いするため、豪華な晩餐が用意
されますが、ゼリー寄せやテリーヌ、仔羊の冷製など、ほとんど前もって作られるものばかり
でした。なので下働きのエイトでもお休みを貰って出かけることができるのです。
「うん、そのつもりだけど」
話がよく分かりません。ずっとここに住んでいるミーティア姫がちょっと離れているとはいえ、
領地のお祭りを知らない筈ありませんでしたから。
「あのね…ミーティア、お祭りに行きたいの。お願い、一緒に連れてって」
「えっ!」
「一度もね、行ったことないの。ううん、一度だけお父様と馬車の中から見たことはあるけれ
ど。とっても楽しそうだったけれど、ミーティアにはふさわしくないからって行かせてもらえ
なかったの」
ミーティア姫はしょんぼりとして悲しそうでした。
「その時ね、ミーティアと同じくらいの女の子が白いふわふわとしたものを持っていたのよ。
その子のお父様に手を引かれながらそれを食べていたの。ミーティアもとっても食べてみたかっ
たのだけれど、『お城のパティシエがおいしいお菓子をお作りいたしますから、我慢なさいま
せ』って言われて食べられなかったの」
「そうだったんだ…」
エイトはちょっと可哀想になりました。何不自由なくお城で大切にされているが故に、ミーティ
ア姫は綿菓子一つ、食べることもできないのです。
「じゃあ、王様にお願いして…」
732:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 14:52:17 ADFFVt2o
「それは駄目よ」
ミーティア姫はあっさりエイトの言葉を否定しました。
「だってお父様にお話ししたらお付きの人をぞろぞろ連れて行くことになってしまうわ。そし
たらまたあれも駄目、これも駄目って言われちゃう」
「それはそうだけど…そしたらトラペッタまで歩かなきゃならないよ」
エイトはそれが心配でした。最近一緒に遊ぶようになって大分丈夫になってきたとはいえ、歩
いて遠出できるとはとても思えません。自分一人なら朝出て夕方遅くに帰って来れるかな、と
考えていたのですが、ミーティア姫が一緒となると心許ない気持ちになるのでした。
「ミーティア、ちゃんと歩くわ。それにお父様にお願いしてお外で遊ぶ時の靴、あつらえても
らったんですもの」
そう言ってちょっぴりドレスの裾を持ち上げました。真新しい革のブーツを履いています。赤
い鹿革のその靴はミーティア姫に似合って大層可愛らしかったのですが、エイトにはその新し
さが気になりました。
「新しい靴なんて履いて行ったら足痛くしちゃうよ」
エイトには面と向かって「連れて行けません」と言うことができませんでした。勝手に連れ出
せば罪に問われてしまうでしょう。怒られて夕食抜きくらいならまだしも、追放になったり死
刑になってしまうかもしれません。何とか諦めてもらおうと必死で言い逃れしようとします。
「分かっていてよ。だからこうして今も履いて慣らしているの」
よく鞣された革とはいえ、ミーティア姫の足は今まで一度も革靴を履いたことがありません。
ずっと絹サテンの靴で事足りていたのですから。きっとあちこち靴擦れして赤くなってしまう
でしょう。
「でもそんな絹のドレスじゃ、すぐお姫様だって分かっちゃうよ」
絹地には独特の光沢があります。特に王族が着るような布地はよく精練されていてつやつやと
していました。
「散歩服を着るもの」
「あんなに長い裾の服なんて、お姫様しか着ないよ」
確かに散歩服は麻製です。ですが子供が床すれすれの長さのスカートを着ているのは余程の家
に限られていました。裾を長くすればそれだけ布代が嵩みますから…
733:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 14:53:26 ADFFVt2o
「エイト…」
ついにミーティア姫は俯いてしまいました。
「ごめんなさい、迷惑だったのね…」
その声はエイトがはっとする程悲し気でした。
「でもミーティアはエイトと行きたかったの。エイトと一緒に行きたいの。それは、駄目?」
その言葉に胸の奥でとくん、と脈打つものを感じてエイトは落ち着かない気持ちになりました。
「そうじゃないよ」
不安定なその感覚を払いたくてエイトはつい、ぶっきらぼうな言い方になってしまいました。
でもミーティア姫にはそれが分かりません。言葉の素っ気無さだけを汲み取り、はっと身を固
くしてしまいました。
「あの…ごめんなさい。嫌だったのね。じゃあお城でピアノ弾いて待っているから、お話聞か
せてね」
「待ってよ」
すごすごと肩を落として厨房を出て行こうとする姫の腕を、エイトは思わず掴んでいました。
「…嫌なんかじゃないよ…」
そう言いながらもぷい、と顔を背けようとしましたが、ぱっと輝いた姫の顔をしっかり見てし
まいました。
「ほんと!?」
「本当だよ。じゃ、一緒に行こう」
「ありがとう、エイト!うれしいわ」
ミーティア姫は小さく手を叩いたかと思うと、爪先立ってエイトの頬にちょんと口づけしまし
た。
「……」
「じゃ、また明日ね。おやすみなさい、エイト」
無言で頬を赤らめるエイトに手を振って、ミーティア姫は厨房を出ていったのでした。
「おう、エイト。何姫様にチューされてんだ?」
からかうように料理人が話し掛けてきます。
「なっ、ななな何でもないです」
頬どころか首まで赤くなっているのが自分でも分かりました。急いで頭を振って普段の自分に
戻ろうとします。料理人もそれ以上は追求してこなかったので、エイトはほっとしました。
734:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 14:54:35 ADFFVt2o
けれどもどうしたらよいのでしょう。成り行きとはいえ、ミーティア姫をこっそりトラペッタ
に連れていく約束をしてしまったのですから。行き帰りどうしたらいいのか、もしトロデーン
のお姫様だと知れて人攫いに遭ったら、と心配の種は尽きません。
それでもエイトは最後までちゃんとやり遂げようと決心していました。ミーティア姫に悲しい
思いをさせたくなかったのです。トーポの次にできた、大切な友達でしたから。
(続く)
735:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 14:57:24 ADFFVt2o
泉で聞ける話ネタで。
あちこちで細切れに書いてきたこっそりお出かけした時の話です。
736:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 15:04:59 EFMPR/PL
いいですねー
ほのぼのしてて。
続き期待してます
737:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 17:18:16 UsXQlQpj
わー何か二人ともかわいいなv
おとぎ話のような語り口がイイ!
続きをお待ちしています。
738:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 21:31:13 Q6K2JV2Y
ついに来た?
トラペッタまで行ったはいいけど帰り道がわからなくなってトーポについていったら帰れたってネタだよな?
俺はこのエピソードをSSにしてくれる日を心待ちにしてたんだよ
739:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/16 22:31:09 t2dme2xN
ぬるぽ(^^)
740:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/17 10:34:24 /lBOiG5U
そういえば、ここのところ「主姫スレ」と「ククゼシスレ」がお隣さんだ。
両方を行き来している身としてはうれしい。
741:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/17 10:37:04 sA8CnrRt
>>739 ガッ!!
742:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/17 20:21:16 7grLABj9
読んでいただきありがとうございます。
頑張ります。……が、少しのんびりペースになるかも。
すみませんがよろしくお願いいたします。
743:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 07:29:07 7X3T79eF
ほす
744:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 17:15:00 CkXuGo24
ほしゆ
745:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 19:34:09 sskKwqgx
>>731-734
続き
746:秘密のお出かけ ◆JSHQKXZ7pE
05/10/19 19:35:49 sskKwqgx
2.
ミーティア姫もまた、困っていました。確かにエイトの言う通り、ひらひらした絹のドレスで
はどう考えても街の子供には見えません。近隣の村から運ばれてくる野菜や穀物の荷馬車に同
じ年くらいの女の子が乗っているのを見掛けたことがありましたが、その子はブラウスと膝丈
ぐらいのスカートを着ていました。姫の持っているドレスは皆、裾の丈がくるぶしまでありま
す。庶民でも十四、五にもなると長いスカートを身に着けるようになりますが、自分がその年
齢に見えるとはとても思えませんでした。
では新しくスカートを作ろうかとも考えましたが、木綿や麻の布が手に入りません。いえ、寝
台周りの敷布や枕カバーは麻でしたが、あまりに真っ白過ぎてちょっと不自然でしたし、何よ
り無くなっていたらリネン係のメイドさんに怪しまれてしまいます。
どうしようかと一生懸命考えながら城内を歩くうち、ふと赤い格子縞の布が目に入りました。
何か片付け物の途中だったのでしょう、取りあえず見苦しくないように布を掛けておいたよう
です。
(これでスカートを作ったらかわいいのではないかしら?)
ミーティア姫はそう考えました。近寄って摘んでみると縁はもうかがってあります。筒状に縫
い合わせ、胴にリボンを巻いてサッシュにしたらすぐにスカートになりそうでした。
「まあ姫様」
突然背後から声が掛かり、姫は飛び上がらんばかりに驚きました。
「お見苦しいところをお目におかけして大変申し訳ございません。すぐに片付けますので」
掃除係のメイドさんです。ミーティア姫はお願いしてみることにしました。
「お仕事お疲れさまです。…あの、この布はあなたのもの?」
「はい、左様でございますが」
747:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 19:37:58 sskKwqgx
「とってもかわいいわ。この布、もらえないかしら?お部屋の棚に掛けたいの」
「まあ、こんな粗末な布、姫様のお部屋には相応しくございませんですよ。ビロードや繻子の
美しい布をたくさんお持ちでしょうに」
メイドさんは笑いながらそう言って取り合ってくれません。
「ううん、この布がいいの。だって大きなチェックがとってもかわいいんですもの。ね、お願
い」
「ですが…」
「掛ける布が無くなって困るのだったら、ミーティアのお部屋のカバーを使って」
姫も必死です。
「いえ、そんな勿体無い」
メイドさんはびっくりして手を振りました。
「布なんていくらでもございますよ。姫様がどうしても、と仰るのでしたらまだ使っていない
ものがございますので、そちらを差し上げます」
「まあ本当?!うれしいわ、どうもありがとう」
姫の小躍りせんばかりの喜び様にメイドさんは不思議そうな顔をしましたが、
「ではただ今持って参ります」
と言って布を持ってきてくれました。
ミーティア姫はお礼を言い、布を抱えて小走りに部屋に戻ります。途中で廊下を掃除している
エイトを見付けました。
「エイト、エイト」
物陰から手招きするとエイトがやってきます。
「あのね、この布でスカートを作るわ。かわいいでしょ?」
エイトは胸にしっかりと抱えられた布を見ました。これなら何とか街の女の子に見えそうです。
「うん、そうだね」
エイトに認めてもらえて姫はとても嬉しくなりました。が、次の心配が浮かんで来ます。
「後はブラウスよね…どうしたらいいのかしら…」
「あのさ」
困っているミーティア姫にエイトは耳打ちしました。
「上は何とかするよ。だからちゃんとスカート作って」
748:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 19:40:30 sskKwqgx
「ほんと!?ありがとう、エイト」
そう言って爪先でくるりと回ります。あまり嬉しくてくるくる回っていると
「ミーティア、人が来たらへんに思われちゃうよ」
と困ったように言われてしまいました。
「あっ、ごめんなさい。秘密のお出かけなんですものね、気付かれないようにしないと」
そう言いながらも姫のにこにこは収まりません。
「だからさ、そんなににこにこしていたらへんだよ。普通にしていてよ」
エイトはますます困ったように言います。
「ええ、分かっていてよ。ちゃんと普通にしているわ。じゃ、エイト、また後でね」
分かったようなことを言いましたが、楽し気に手を振り、部屋に戻るその足はスキップしてい
ます。歌を口ずさみながら遠離るその姿を見送って、エイトは小さく溜息を吐いたのでした。
部屋に戻ると早速ミーティア姫はお針箱を取り出しました。貴婦人の嗜みとして小さい頃から
刺繍の手ほどきを受けています。自分で刺繍して縁をかがり、トロデ王に贈ったこともありま
した。
なので脇を縫い合わせ、胴に襞を取ってリボンを縫い付けることなど簡単です。あっという間
にスカートが出来上がりました。赤いブーツに合いそうです。膝よりやや長めの丈で、着てみ
ると足が空気に触れてちょっとひやっとしました。
でもこんなスカートを着るのは初めてです。何だかとっても嬉しくなって、鏡の前でポーズを
取ったりダンスをしたりしてしまいました。
新しい服を作り、それが自分に似合っている様子を見て心躍るのは女性ならば誰しものこと。
お昼になって仕方なく普段着のドレスに着替えした後も、にこにこは収まりませんでした。
「姫や、今日は随分ご機嫌じゃの。何かいいことでもあったのかの?」
とお昼の時にトロデ王に聞かれてしまう始末。
749:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 19:42:02 sskKwqgx
「いいえ、何もなくってよ。あっ、お父様とお昼ご一緒できるの久しぶりでうれしいの」
確かにその通りだったのですが、それにしてもはしゃぎ過ぎていてトロデ王は心配になりまし
た。
「あまりはしゃぐとまた具合悪くなるのではないかの。今日は外に出ない方がよいのではない
か」
トロデ王の心配ももっともでした。ミーティア姫は昼間はしゃぎ過ぎて夜熱を出したことが何
回かあったのです。ただそれは子供に特有のもので、心配する程のものではなかったのですが。
けれども亡き王妃の忘れ形見である愛娘の発熱がもし死病の前触れだったら、と王は恐れてし
まうのでした。
「大丈夫よ、お父様。だってミーティア、エイトと一緒に遊ぶようになってから熱出したこと
ないんですもの」
「そうじゃったの。随分丈夫になって、ワシゃ嬉しいぞ。エイトのおかげじゃの」
どうやら王の意識はそちらの方へ行ってくれたようです。ミーティア姫はほっとしました。
(気を付けなくっちゃ)
と姫は思いました。それでもどこかうきうきした気分が出ていたのでしょう。その日はずっと
「ご機嫌ですね」
とことあるごとに言われ続けてしまったのでした。
着るものがどうにかなりそうだったので、エイトはほっとしていました。もしかしたら自分の
服を貸さないといけないのではないかと心配していたのです。貸すのはいいのですが、女の子
のミーティア姫にズボンを履かせるのは気が引けました。どこの子供でも女の子はスカート、
男の子はズボンで、逆は見たことがありませんでしたから。
それにあの長い髪をどこに隠すのか、帽子の中に押し込むしかなさそうです。その上完全に男
の子の格好をさせたとしても、姫はどうしても女の子にしか見えなさそうでしたから。
750:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 19:44:00 sskKwqgx
一日の仕事が漸く終わり、エイトは寝床の中で自分の行李を開きました。中には自分の着替え
が入っています。この前貰った新しいチュニックが奥にしまってありました。
頻繁に服が貰える訳ではないので、小さくなったり繕えない程生地がへたってしまうまで着な
ければなりません。今着ている服はまだまだ充分着ることができそうだったので新しい服は取っ
ておいたのですが、これが役にたちそうでした。色も生成りで、これなら女の子が着ていても
おかしく思われないでしょう。
(後は頭かな)
時々親と一緒に荷馬車に乗ってきて荷運びの手伝いをしている女の子の服装をエイトは思い出
そうとしました。確か髪は二つに分けて三つ編みにしていたようです。肌寒い日は肩掛けをし
ていました。秋も半ばを過ぎ、朝夕は冷え込みます。
(何かそういうものがあった方いいかも)
「おい、エイト」
あれこれ考えていたら隣の寝床から眠た気な声がかかりました。
「明日も早いんだ。さっさと寝ろ」
「は、はい」
こっそり点していた灯が邪魔だったようです。急いで灯を消し、荷物をしまいました。
次の日の夕食後、またミーティア姫が厨房にやってきました。
「こっち」
と口だけ動かして隅の方へ呼び寄せます。
「あのさ、このチュニック貸すよ。上に着て」
ミーティア姫はエイトの手の中にある服を見ました。
751:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 19:45:45 sskKwqgx
「ありがとう、エイト」
姫もまた、ほっとしていました。自分の持ち物の中で合いそうな服は無く、かといって自分で
作るにはあまりに複雑で、どうしたらいいのか途方に暮れていたのです。
「じゃあ、その日はそれ着てきて…あっ!」
エイトは何か思い当たったようです。
「どうしたの?」
「その格好じゃ城の中歩けないよ…」
「あっ、そうね、そうよね…」
「どうしよう」
「どうしましょう」
「うーん」
「うーん」
二人で考え込むうち、先に口を開いたのはミーティア姫でした。
「あのね、馬小屋とかで着替えたら駄目?」
「えっ、でも汚れちゃうよ」
「平気よ、ちょっとぐらい」
「あっ、だったら」
漸くエイトがいいことを思い付いたようです。
「穀物貯蔵庫にしよう。あそこ、きれいにしているし、通用口も近いよ」
「貯蔵庫?」
「あ、分かんないか。じゃ、ここに来て。それまでにお弁当作っておくから。一緒に行こう」
「うん!」
本当に嬉しそうでした。その顔を見てエイトは
(ああ、一緒に行くって言ってよかった)
と思ったのでした。
(続く)
752:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/19 22:02:09 Chg//7ik
わくわく
753:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/20 00:50:45 qEdOQl1m
エイトの作ったお弁当が激しく食べたい。
754:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/20 22:50:40 rUQo+9yq
変なところで空白入ってる…!
もう何がなんだか_| ̄|〇
エイトに美味しいお弁当を作らせるので勘弁してください。
755:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 01:48:16 Qpc/Ei+r
子ども時代主姫可愛いな。
◆JSHQKXZ7pEさんに触発されて、
漏れも何か書きたくなってきた…。
756:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 20:44:14 FTrETvbF
>755
カモーン
757:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/21 22:44:03 CkiiDk3J
そんじゃ、◆JSHQKXZ7pEさんの連載が終わられた後にでも
投下しますね ノシ
758:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/22 15:28:25 GVuVVWFh
>>731-734、>>746-751
続き
759:秘密のお出かけ ◆JSHQKXZ7pE
05/10/22 15:31:06 GVuVVWFh
3.
さて、いよいよその日がやってきました。
エイトは二人分のお弁当を作るために早起きしました。冷めても美味しいもの、姫が普段食べ
慣れているものに近い内容にしようと色々考えています。
まず大蒜と玉葱を細かく刻み、オリーブ油で香りが立つまで炒めてベーコンの切れ端を加えま
す。さらに賽の目に切った茄子やパプリカ、トマトを炒め、水気が無くなったら茹でたペンネ
を入れて摺り下ろしたチーズで和えました。型に入れてとき卵と牛乳を流し入れ、石釜に入れ
じっくり焼きます。
続いてエイトは昨日分けてもらったパイ生地を取り出しました。伸ばして四角く切り分け、林
檎を乗せて砂糖と肉桂を振り掛けてこれも石釜に入れます。
漸く二つとも焼き上がり、ほかほかと美味しそうな湯気を立てているオムレツとパイを見てい
ると、パン種をこしらえているおばさんが肩越しに覗き込んできました。
「上手くできたねえ」
「はい!」
おばさんに褒められエイトは嬉しくなりました。
「あんたはチーズを使う料理だと本当に上手に作るねえ。そういう場所で育ったのかもしれな
いねえ」
「…」
おばさんは何の気無しに言ったのですが、エイトは笑顔のまま固まってしまいました。
そうだったのかな…全然覚えていないけど、そういう場所だったのかな…故郷が分かったら帰
されちゃうのかな…嫌だな、だって全然覚えてないんだもの…でも父さんや母さんがいるかも…
どんな人なのかな、会いたいな…
「ああ、すまなかったねえ、考えさせちまって。じゃあお祭り楽しんでおいで」
「…はい」
おばさんはぽんと肩を叩いて行ってしまいました。エイトは小さく溜息を吐いた後、「しゃん
としよう」と顔を上げます。と、戸口からミーティア姫の頭がちょっぴり覘いて中を窺ってい
るのが見えました。
「今行くよ。外出てて」
と小声で言うと、「分かった」とこっくりと頭が動き、引っ込みました。
エイトは急いでオムレツを切り分け、器に入れました。パイも同じ大きさの器に入れて二つを
重ね、布巾で包んで牛乳の入った瓶と袋に入れます。そして着替えの入った袋も一緒に抱えて
姫の後を追ったのでした。あまり待たせては悪いと思ったので。
760:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/22 15:32:14 GVuVVWFh
通用口ではトラペッタから運ばれてきた荷物の受け渡しが行われていました。野菜や果物、お
酒や乾物が下ろされ、代わりに空になった木箱や樽が荷馬車に積み込まれています。衛兵が荷
物を改め、返却する樽や箱が空であることを確認すると御者に賃金を渡しました。お祭りとい
うこともあって代金を弾んでもらえたのでしょう、御者はほくほく顔で荷馬車を出発させまし
た。
先程衛兵が荷物を確認したので通用口では何の検査もせず通過します。ガタゴトと音を立てて
荷馬車が城から充分離れた時、荷台の掛け布がごそごそと動きました。と、布の隙間から四つ
の目が覘きます。茶味を帯びた黒い目と美しい碧色の目でした。
「うまく行ったね」
「本当ね」
ひそひそ声で話しているのはエイトとミーティア姫です。
「よかった、これでトラペッタに行けるよ」
エイトはほっとしていました。変装には自信ありましたが、もしかしたら通用口の衛兵に見破
られるのではないかと心配していたのです。
「ガラガラ言っていて楽しいわ」
ミーティア姫はもう、珍しいことばかりで何を見ても楽しく感じられてしまうようです。
「大丈夫?痛くならない?」
ふかふかのクッションとビロードが敷き詰められた王様の馬車にしか乗ったことのない姫です。
こんな板に車が付いただけの荷馬車の乗り心地がいい訳ありません。
「平気よ」
と姫は答え、二人は微笑み合いました。
「見つかっちゃまずいから、静かにしていよう」
「ええ」
761:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/22 15:34:04 GVuVVWFh
二人で黙って荷馬車に揺られていくうち、エイトの意識は少しずつ遠くなってきました。無理
もありません、今朝は夜明け前からお弁当作りをしていたのですから。
吊り橋を渡って森に入りました。道は平坦になってごとごとと規則正しい車輪の音が眠気を誘
います。一生懸命道を覚えていようと目を開き続けていましたが、頭上でさし交わされる木々
の枝が作る緑の回廊がふと、どこかの洞窟に見えました。くねくねと続くその洞窟には不思議
な壁画が描かれております。ぼんやりとしか見えませんでしたが、見たこともない服装の人々
が描かれているようです。けれどもなぜかしら懐かしく感じられる絵でした。
突然洞窟は終わり、明るい陽射しに照らされてエイトは顔を顰めました。視界が開け、目の前
に小さな草地がありました。今までまるで生き物の気配もなかったのに、そこだけ花が咲いて
います。その奥には─
「エイト、エイト」
はっと気が付くとミーティア姫が顔を覗き込んでいました。
「大丈夫?もうすぐトラペッタに着くわよ」
いつの間にか眠り込んでいたようです。
「あれ?寝ちゃってたんだ。じゃあ、あれ、夢だったのかな…」
「どんな夢だったの?」
「うーんと…」
姫に聞かれ、順を追って話そうとしました。が、その瞬間映像はするすると心から滑り落ちて
どこかへ消えてしまったのでした。
「…覚えてないや」
エイトは残念に思いました。とても大切なことだったように思えます。と同時にとても寂しい
気持ちになりました。どこかにぽっかりと穴が開いていてそこから冷たい風が吹き込んでいる
ような。
「何だったのかな。覚えていられたらよかったのに」
「もしかしたらまた見ることがあるかもしれないわ。そしたら覚えていて、ミーティアにも教
えてね」
「…うん」
ミーティア姫の言葉が嬉しく、エイトは深く頷いたのでした。
762:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/22 15:35:16 GVuVVWFh
「あ、着いたわ」
荷馬車が止まりました。トラペッタの街を取り囲む環状壁は厚く、門も頑丈に出来ているため
開閉には時間が掛かります。御者が開門を呼びかけている隙に、二人は荷台から飛び下りまし
た。
変装は完璧でした。姫が一生懸命作った赤い格子縞のスカートに生成りのチュニック、肩には
赤いストール─これはエイトが誰かからのお下がりで夜寒い時に上に掛けるように貰ったもの
でした─を掛け、髪は二つに分けて三つ編みにしています。どこからどう見てもお姫様ではな
く、庶民の女の子でした。
門が開き、門番が型通り通行人を改めます。呼び止められたら、と緊張しましたが、
「子供だけか?気を付けて行けよ」
と手を振られ、ほっとしながら二人は門をくぐりました。
どこかで狩りの角笛が吹き鳴らされています。お祭りは今、始まろうとしていました。
(続く)
763:名前が無い@ただの名無しのようだ
05/10/22 15:40:39 GVuVVWFh
エイトの作るニンニク風味の野菜たっぷりオムレツとりんごのパイはどちらも映画の中で
使われていて、美味しそうだったので。
だらだら書いていてすみません。できるだけ速やかに書き上げます。