FFDQバトルロワイアル3rd PART2at FF
FFDQバトルロワイアル3rd PART2 - 暇つぶし2ch100:ルナティック・ハイ 1/4
04/12/10 22:21:04 HvF28r0w
―彼は変わっていない。
兄とよく似た風貌も、聡明さを象徴するかのような瞳も、人々の心に静かに響く優しい声も。
外見だけならば、彼は何一つ変わっていない。
―彼は変わってしまった。
昔の彼は、優しすぎるぐらいに優しい人間だった。
他人を傷つけぬために、自分を犠牲にすることができる人間だった。
けれども今はどうだ。人を傷つけることも、命を奪うことさえも楽しんでいる。
―彼は狂っていない。
狂人は待つことを知らない。いつでも真理と結果のみを求め、浅薄な妄想の世界に浸ろうとする。
彼はそうではない。機を待ち、慎重に事を進めることの大切さを知っている。
ハイになっても、いざとなれば冷静に判断することができる。そうするだけの自制心も持っている。
―彼は狂っていた。
血に餓えた獣に、いや、それ以下の存在に成り果てていた。
獣は生きるために殺すが、彼は違う。生きるためではなく、快楽のためだけに人を殺す。
それ以外に理由はない。あったかもしれないが、もうどうでもよくなってしまった。

少しずつ、少しずつ。風の音に紛れるように、少しずつ。
さやけき月光が、姿を照らし出さないように。ターゲットに気付かれないように。
少しずつ、少しずつ、距離を詰め、間合いを計る。
込み上げる笑いと高揚感を抑え、トリガーに指をかけたまま、前に進み―
「エドガー!」
唐突に、二人組みの片割れが叫ぶ。
気付かれたか? まあ、ここまで近づけばどうでもいい。
一気に引き金を引く、それが舞踏会の始まりの合図だ。
昼間の男のようにワルツを踊れ。パートナーは死神、楽曲は銃声。悲鳴が伴奏で、流れる血潮が葡萄酒の代わり。
そして壊そう。壊してしまえ、何もかも。肉も骨も、血も涙も、花のように散らせてしまえ。
さあ、最高のワルツを僕に見せろ。死を、血を、僕に捧げろ!
壊れろ、踊れ! 僕のために! もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと……
「もっと……もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっともっともっともっと
 もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと
 もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと!!
 もっと、僕を楽しませろ!!」

101:ルナティック・ハイ 2/4
04/12/10 22:24:28 HvF28r0w
若者の哄笑を聞きながら、エドガーとデッシュは舌打ちした。
「どうしてこんなに近づかれるまで気付かなかったんだよ?」
「生憎、熱中すると回りが見えなくなる性分でね。相手が美しいレディなら話は別だったのだが」
「おいおい……本当、これでよく蜂の巣にされずに済んだよな」
そう、本当に幸運だったとしか言いようがない。
デッシュが叫ぶより早く、エドガーも襲撃者に気付き、デッシュの身体を抑えながら地面に伏せたこと。
襲撃者の反応が予想よりも遥かに鈍く、木陰に隠れられるだけの時間が生まれたこと。
そして相手が、二人の頭があった位置を―つまり割と上の方を狙って銃弾を撃ちこんできたこと。
これらの要素が重なったお陰で、多少の手傷を負っただけですんだ。

「しかしどうするよ? 首輪とメモとひそひ草が……」
デッシュが囁く。研究成果とバーバラへの連絡手段は、全て弾幕の向こう側だ。
最も、首輪がらみのことは二人の頭の中にきちんと残っているが。
「取りに戻れると思うか? それより、今は逃げることを考えろ」
「説得……は、絶対に無理だよな……」
「アレを相手にするぐらいなら、ケフカと一対一で会談する方がまだマシだ」
エドガーはデッシュの手からウィンチェスターをもぎ取り、声の方に撃ち込みながら言う。
「いいか、今から三数えるから、そうしたら一気に走れ」
「何言ってんだ! そんなことしたら、ネズミが食うチーズみたいになっちまうだろ?!」
「私を信じろ! いいか、三……二……一、今だ!」
自棄になってデッシュは走り出す。エドガー自身も後を追う。
だが、攻撃は来なかった。
疑問のあまり振り向いたデッシュの目に、唇を噛みしめる若者の姿が映る。
そう、まるでおあずけを喰らった犬のような、撃ちたいと思いながらも命令に抗えない兵士のような……
「……クッ。付け焼刃では、やはり効き目は薄いか……!」
エドガーが呟く。その手に握られた銃が、わずかに光を帯びている。
(マテリアか!)
ようやくデッシュは思い当たった。それと同時に、途切れていた銃声が再び響き渡る。
けれども生い茂る木々と夜の闇が、彼らの身を守る盾となった。

102:ルナティック・ハイ 3/4
04/12/10 22:28:12 HvF28r0w
これでは、もう銃弾は届かない―
デールは苛立たしげに銃口を下ろした。森に静寂が戻る。
アラームピアスの音色も途切れた。せっかくの獲物を、完全に逃してしまったのだ。
彼は追撃を早々に諦め、立ち去ろうと銃を背負う。
その時、奇妙なことに、どこかから女の声が響いた。

『どうしたの? ねぇ、エドガー、何があったの!?
 すごい音がしたけどどうしたの? ねぇ、返事をして! エドガー!』

―デールはすぐに声の正体に気がついた。首輪と共に放り出されたままの、見たことのない草。
直感に従って草を拾い上げ、落ち着いた声音で話し掛ける。
「もしもし。私の声が聞こえますか?」
すると、彼の予想通り、草自体から返事が返ってきた。
『……あなた、誰?』
「失礼しました。私の名はデール、ラインハットという国に住む者です」
一国の主に相応しい、穏やかで丁寧な言い回し。
その様子に、女性の声も警戒を緩めたのか、デールに聞いてきた。
『あたしはバーバラっていうの。ねぇ、そっちで何があったの?』
「詳しいことはわかりませんが、戦闘があったようですね。
 死体はありませんが、木々が派手に薙ぎ倒されています。
 ……そういえば、ツンツン尖った髪型の若者が、大きなものを抱えて走っていくのが見えました」
『ツンツン尖った……? じゃあ、エドガーでもデッシュでもないわ。
 そいつが襲撃者なの?』
「わかりません……何分、辺りも暗くて」
『そっか、夜だもんね』
「お役に立てず、すみません」
デールがいかにも申し訳なさそうに言うと、バーバラは『いいのいいの』と笑って答えた。
『死体がないなら、きっとデッシュもエドガーも無事だろうから。
 それよりデールさん。今、どこにいるの?』
「お城の北の森です」
『あー……本当に、二人とも全然動いてなかったのね。
 もう。ちょっとくらい、こっちに迎えに来てくれたっていいのに……女の子の気持ちをわかってよ』

103:ルナティック・ハイ 4/4
04/12/10 22:31:30 HvF28r0w
ため息と一緒に聞こえた言葉に、デールは反射的に問い返した。
「こっち、とは?」
『今は原っぱにいるの。半日掛けて、山を越えて歩いてきたのよ。
 エドガーは無理するなって言ってたけど、ずっと一人でいるって嫌だから……
 えっと、地図で言うと、多分レーベって村の東の方だと思う』
「レーベの東、ですか……私でよろしければ、迎えに行きましょうか?」
『え!? ホント?』
「ええ。実を言いますと、私も一人で心細い思いをしていたのです。
 兄と義理の姉が広間にいたのですが、二人に声も掛けられぬまま、こんな場所に放り出されてしまって……
 ……どうでしょう、バーバラさん。お互い、一人よりは二人の方が安心できると思います。
 レーベの村というところで落ち合いませんか?」
『わかったわ。あたし、赤い髪を一つに結ってるの。だから見ればすぐにわかると思うわ』
バーバラの嬉しさに満ちた承諾の声に、デールは笑いを押し殺していた。
赤い髪の少女。彼女の悲鳴はさぞ聞き応えがあるだろう。白い肌を伝う血は、きっと上質のワインのようで。
ああ、ナイフがあれば存分に味わえるのに! まぁいい、彼女には華麗な踊りを見せてもらえば……
―そんな歪みきった思いをおくびにも出さず、彼は理知的な声で告げる。

「わかりました。会えるのを楽しみにしています」

【デール 所持品:マシンガン、アラームピアス(対人)、ひそひ草
 現在位置:アリアハン北の森→レーベへ移動
 第一行動方針:レーベでバーバラと会い、殺害する 第二行動方針:皆殺し】

【エドガー 所持品:バスタードソード 天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン
【デッシュ 所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる)
 現在位置:アリアハン北の森 第一行動方針:デールから逃げる/首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】

【バーバラ 所持品:ひそひ草、その他様々な種類の草がたくさん入っている(説明書あり)
 現在位置:レーベ東の平原→レーベへ
 第一行動方針:デールとレーベで会う 第二行動方針:エドガー達と合流/ゲーム脱出】

(首輪二個と研究成果のメモはアリアハン北の森の中に放置)

104:MOON 1/2
04/12/12 02:13:59 m9e9Gjtr
そこには、無かった。横たわっている筈の、顔の焼け爛れた女性の姿が。
それが分かったときに、ビビは不思議な気持ちに襲われる。
心のどこかで安心して。心のどこかで不安で。
 あぁ、生きていたんだね。どこかに行ったんだね。
 ボクが来る前にいなくなっていて、よかった。人を殺すのなんて嫌だから。
 でも、あのお姉ちゃんがもし悪い人だったら、死んじゃう人は増えるかもしれない…
 そうしたらボクが殺さなかったせいなんだ…
「ねぇ、悪い人じゃ、無いよね…?」
虚空に問いかける。
「ちょっと、怖かっただけよね…?」
何故かそこに女性が立っている光景が思い浮かぶ。
「本当の悪い人なんて、いないよね…?」
女性は、焼け爛れた顔で、ビビを見下ろした。
「ボクはお姉ちゃんを許してあげられるから…だから」
女性の表情に変化は無い。火傷のせいで表情を表せないようにも見える。
「ボクも…ごめんなさい…」
ビビは、大きく頭を下げた。
…頭を上げると、女性の幻影は消えていた。
対象のいない会話が、何らかの利益を彼に与えるとは思うわけが無く。
「火傷、ボクには治せないけれど、ここから抜けられたら魔法で治せると思うんだ…」
ただ、そうせずにはいられないと彼が思ったから、そうしたのだった。
「ボクの仲間に、白魔法が使えるエーコって人がいるから…」
もう一人彼の頭に浮かんだ人がいた。だが、もう、その人はもういないから。忘れようと、頭を振った。
「だから、えっと、お姉ちゃんも、生きてここを抜け出して、火傷を治そうね…」
あの女性のことを考えれば考えるほど、彼女が善人だったように思えてくる。
自分が魔法を放ったのは間違いじゃないかという、後悔も共に。
ゆっくりと顔を上げ、月を見上げる。
「月、綺麗だよね…。お姉ちゃんも、エーコも、みんな、そう思うのかなぁ…?」
誰も返事をする事が無いのを知りつつ、問いかける。
そして、振り返り、尖がり帽子を両手で調整すると、元来た道を戻り始めた。

105:MOON 2/2
04/12/12 02:15:06 m9e9Gjtr
「なんスか、一体…?」
彼の行動の一部始終を、木の陰から見ている青年がいた。
思わず口に出してしまったその言葉どおりの心境だった。
やってくるなり闇に向かって話しかけ、謝り出した少年。
彼の言うお姉ちゃん、とは一体誰なのか。許す、ということは何か悪事を働いた女性か。
気になる。聞いてみたい。でも、この一連の動きが罠だという可能性も、否定できない。
さっきは目の前でエアリスが殺されたのだ。
自分もああなるかもしれないという事を考えると、正直恐怖で立ってさえいられなくなる。
それが、彼に行動を起こすことを自粛させている。

それに彼にはもう一つ、やらなければならない事があった。
ターニアを探さなければ。
きっと何処かで震えているから。暗闇を、きっと怖がっているだろうから。
エアリスの血を見てしまった彼女が、今心配で。

ちょっと空を見上げた。
少年の声が、何故か耳の中で反響しているから。
「本当に…綺麗な月ッスね…」
呟くと、歩き出した。
なんとなく、南へ。少年とも、そしてターニアとも、違う方向へ。
少年とターニアが同じところにいることなど、当然、気づく事は無く。

相変わらず、月は見ているだけ。誰の味方も、しなかった。

【ティーダ 所持品:鋼の剣 青銅の盾 理性の種 ふきとばしの杖〔4〕 首輪×1
      第一行動方針:南へ 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【ビビ 所持品:不明 第一行動方針:ピサロの元へ戻る 最終行動方針:ゲームから脱出】

現在位置:レーベ東の森中央付近

106:長い休息 1/2
04/12/12 17:16:37 BgSR+Ehh
それは日が沈む少し前。
アリアハン城地下牢。そこに断続的に銃声が響いていた。
「うん。八割方当るようになった」
リュカとケット・シーは洞窟を抜けた先にあったこの地下牢で、
休憩を兼ね、リュカにとっては初めて使う武器である銃の練習をしていた。
地下牢に直接通じる兵宿の扉が閉まっていれば、銃声の音は完全に遮断され、城内に誰かいても気づくことはない。
そしてその扉はご丁寧に以前ここにいたキーファ達が閉めていたので、リュカは心置きなく練習が出来たのだ。
「リュカさんって飲み込み早いんやなぁ。すぐにヴィンセントにも追いつきそうや」
「ヴィンセント?」
「ボクの知ってる限り、その銃使うとった人や。このゲームには参加してへんけど」
「そう…」
よかったね、というべきなのかと、リュカは一瞬迷った。
しかしヴィンセントという人物がどんな人なのかがわからない以上、下手なことはいえない。
そして思う。
リュカはケット・シーに家族や仲間のことを話したが、ケット・シーのことは全然聞いていない。
何とはなしに聞いてみると、ケット・シーはこそばゆそうに頭を掻き、だが口を閉ざしはしなかった。
「う~ん、知り合いゆうてええんか、ちょっとわからんのですよ。
 僕は知ってる人たちなんですけど、クラウド達は本当は部長の仲間やったわけですから」
「どういうこと?」
そしてケット・シーは語った。かつて星を救った者達の冒険のことを。
その冒険でリーブと言う男が、遠隔操作でロボットを操り参加していたことを。
「そのロボット言うんが『ケット・シー1号、2号』なんや。
 ボクはその時の記録データをインストールされた『自立行動型ケット・シーVol 7.03』量産型の一体なんです。
 せやから、クラウド達には直接会ったことなくて…」
「へ、へぇ…」
リュカは決してバカではない。
しかし耳慣れない単語をふんだんに含んだ話というものは、人間の脳みそを一時的に混乱させてしまうものである。
「まぁ外見は全く一緒やし、記憶とか能力とかもほとんど違いはありません。
 性格も、部長の人格まんまの人工知能やから、多分クラウド達に会っても絶対見分けつかん自信ありますよ~」

そんな時、地震のような揺れとともに、あの魔女の声が響いた。

107:長い休息 2/2
04/12/12 17:18:35 BgSR+Ehh
銃声も漏れぬ密閉した地下牢にも、何か魔法でもかかっているのかその声はよく響いた。

そして、それが終わったとき、再び戻ってきた静けさは、もう以前のものとはかけ離れていた。
まだ、耳に魔女の声が残る。
「サンチョ…、ピピン…」
口にするのは簡単で、ついに再会することは叶わない。
幼いときから見守ってくれていた人。
尊敬のまなざしでいつもみてくれて、声をかけただけで歓喜してくれた人。
ふと、隣を見る。
魔女が口にした名前の中には、ついさっきケット・シーが話してくれたばかりの人たちもいた。
「…バレット……、…エアリス……」
とても小さい、場所がこんなところでなければ多分気づけなかったであろう程小さな声。
会ったこともないのに記憶だけある人物。
一体自分はどういう感情を持てばいいのか…。
「そろそろ行きましょ。リュカさんの腕も相当上達したし、もたもたしてたら本当に家族に会えへんことになりますよ」
それでもケット・シーは、まだ生きている、記憶だけの知り合いに会いたいとは言わない。
「うん」
リュカはただ、頷くだけだった。


【リュカ 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ
【ケット・シー 所持品:正宗 天使のレオタード
現在位置 アリアハン城地下牢
第一行動方針 移動開始
基本行動方針 リュカの家族、及び仲間になってくれそうな人を探す】

108:彼の失敗、彼女のミス 1/3
04/12/13 20:01:29 wywC+b/d
僕、疲れてたんだよね。
何せ四回もバトルして、山を走り抜けてこの村までやってきたんだ。
おなかは空いたし、息は上がるし、足もガクガクするし……
最悪のコンディションで、当然のことながら注意力も散漫になっていた。
だから、その赤い草のような物が何なのか、一目ではわからなかったんだよね。
(ナニ、コレ?)
家の影からにょきっと伸びたそれに気を取られ、僕は反射的に近づいてしまった。
今から思えば、さっさとボウガンを撃ち込むべきだったんだよ。
でも、僕が武器を構えることを思い出した時には、もう遅かった。

「ラリホーマ!」

その不思議な言葉を聞いた途端、僕をものすごい睡魔が襲った。
口を開く間もなく、視界はフェードアウト。僕の意識もブラックアウト。
ちょこっとだけ、悪戯っぽく微笑む赤髪の女の子の姿が見えて……それで、おしまい。

―そうして気が付くと、僕はベッドの上にいた。
首を横に回してみると、すぐ隣のベッドに緑色の髪をした男の人が横たわっている。
僕より十歳は年上だろうか。オジサンとお兄さんの中間って感じのオジサ……もとい、お兄さんだ。
「よぉ、気が付いたか」
「ここは?」
「村の宿屋だよ。道端で眠ってたお前を、ソロの奴が連れてきたんだ。
 風邪引いて死なれたら、寝覚めが悪いからってさ」
道端で? 眠ってた?
「しかしお前もドジだな。支給品の食料どっかに落としてくるなんてよ」
食料? 落とした? そんなはずは……

109:彼の失敗、彼女のミス 2/3
04/12/13 20:05:12 wywC+b/d
「……あーーっ!?」
あの赤い髪の女の子!!
「な、なんだよ、大きな声出して」
「ほ、ほほほ、本当に僕の袋なかったの?」
「袋はあったぜ。空っぽだったけどな。お前の横の壁にかけてある」
「僕、袋以外に何か持ってなかった?」
「全部、そこのテーブルの上に置いてある」
テーブルの上って……置いてあるのはグレートソードと、ランプと地図だけなんだけど。
……やられたよ。あの女の子、今度見つけたら絶対に殺してやる~!
でも、もう近くにはいないだろうな……第一、探しに行く気力も体力も残ってないよ。
「盗まれたのか?」
「ラリホーマって声が聞こえて、赤い髪の女の子が見えて、そのまま眠っちゃった」
「ああ、そりゃ眠りの呪文だな。ま、生きてるだけでもマシってことにしとけ」
……確かに、普通ならそのまま殺されても文句言えない状況だけどさ。
まさか、ティナのボウガンも、ナイフも、ミスリルの小手も、食料も、全部盗られるなんて!
竜騎士の靴は、履きっぱなしだったせいか無事だけど……
ディアボロスは盗りようがなかったんだろう、ジャンクションされたままになってるけど……
「食料なら心配しなくていいぞ。今、ソロが夕飯作ってるところだ。
 他にも缶詰や瓶詰で良ければここにあるし、パンと水は俺たちのを分けてやるよ」
ありがとう、親切なオジサン。
でもね、僕が心配してるのはそういうことじゃないんだ……
これから先、不得手な剣一振りでどうやって相手を仕留めるかってのと、
スコール達が追ってきたらどうやって切り抜けよう、ってことであって。
けれど、本当の事なんか口が裂けても言えない。
うう……銃かボウガンが手に入るまで、この人たちと一緒に大人しくしてるしかないか。
二人ともかなりのお人よしみたいだし、少しは僕のことも守ってくれるはずだ。
―もし、この人たちに僕の正体がバレたら?
その時はその時で考えよう。今はボウガンを盗られたショックが強くて、考える余裕なんてない。
今日はもう、疲れちゃったよ……セフィ……

110:彼の失敗、彼女のミス 3/3
04/12/13 20:08:06 wywC+b/d
大・成・功ー!
まさかこんなに上手く行くなんて!
苦労して、盗賊と魔法使いの修行を積んだ甲斐があったってものよね。
ボウガンに、ナイフに、小手にー……食料もたくさん。
これだけ物が揃えば、当分の間は心配することなんかないわ。
デールさんも一・二時間程度で来ると思うし、もう矢でも鉄砲でもムドーでも、どーんと来いって感じ。
……でも、あのお兄さんには、悪いことしちゃったかな。
ううん、きっと大丈夫だよね。
ランプと地図と、一番強そうな剣は残してきたし……食料だって、村の中にあるし……
もしバッタリ会っちゃったら、素直にゴメンナサイって言えば許してくれるよね?
……無理かなぁ。
けど、こっちだっていつまでも草束抱えてウロウロするわけにもいかないじゃない?
ひそひ草や薬草、毒消し草、満月草、山彦草は便利だけど、攻撃に使えるわけじゃないし。
他は、使ってどーするの? 何に使うの? って物がほとんどで、不安だったのよ。
だからアレだけ武器を持ってるんだし、少しぐらい分けてくれてもいいよねー、って……

……ごめんなさい、コートに帽子のお兄さん。
今度偶然出会ったら、きちんと謝って返すから。
それまで、ちょっとの間だけ貸したってことにしておいてね。

【バーバラ 所持品:ひそひ草、他に様々な種類の草たくさん(説明書付き)
 キラーボウ エアナイフ ミスリルの小手 食料二人分(マリベル+アービンの分)
 現在位置:レーベの村・民家
 第一行動方針:デールが来るまで待つ 第二行動方針:エドガー達と合流/ゲーム脱出】

【アーヴァイン(HP4/5程度、疲労中) 所持品:竜騎士の靴 G.F.ディアボロス(召喚不能) グレートソード
 第一行動方針:休息/銃かボウガンを手に入れる(それまでは大人しくしてる) 第二行動方針:ゲームに乗る】
【ソロ(MP消費・疲労) 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング
 第一行動方針:ヘンリーに付き添う/自分の休息】
【ヘンリー(負傷) 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可) 第一行動方針:傷の治療】
 現在位置(共通):レーベの村・宿屋

111:コラム:魔物と人間の考察1/2
04/12/14 05:39:07 H8bbufwN
魔物には純粋な魔界の住民や、宝石から作られたクローンも含まれているが、
物体に怨念が宿ったり、普通の生物が邪気、症気、狂気に取り込まれて巨大化、凶暴化したものも多い。
ある雪国で伝えられる邪なる狼の群れや、ある町の伝説に残る巨大植物などはその最たる例である。
そして、それは、人間とて例外ではない。

人間のように強い意志を持つ生物は、魔物化に2通りのパターンがある。
一つは、願いをかなえるために自ら心を捨てたもの。
例えば、強さを求めて魔物と化した、ならず者の町の格闘家、魔法の極意を極めるために魔王に魂を売った魔法使い。
主君への忠誠心があまりにも強く、魔物となってまで主を守ろうとしたものもいるし、殺しに快感を覚え、魔物となったものまで、様々である。
中には果てしない野望を持ち、魔族を束ねる王にまでなったものさえいる。

もう一つは、邪気、症気に取り込まれたために、心も体も魔物と化すものである。
例えば、邪神の生け贄にされた人間、恋人に裏切られ、失意のまま死んだ人間の魂、邪神の邪気に触れたさる灯台守。
異世界の歴史を紐解けば、アーガス神官長やマイエラ修道院長といった最高位の聖職者ですらいとも簡単に魔物化している。
これらの魔物は、本能(というと語弊があるかもしれないが)的に他者を仲間に引き入れようとしつこく行動する。
ブリザードが頻繁にザラキを唱えたり、ゾンビ系モンスターが集団で現れ、倒しても墓からやたらと復活するのはそのためだ。
意志を持ったまま魔物化した場合も、基本行動は同じである。むしろ、状況判断力が付く分たちが悪い。

112:コラム:魔物と人間の考察2/2
04/12/14 05:44:25 H8bbufwN
それでは、人間の魂を魔物の体に移すとどうなるのだろうか。これを転生というのだが、
基本的に魔物の力を得て、なおかつ精神はそのまま、という状態を得ることが出来る。
純粋に力を求める場合、最も手っ取り早い方法であるが、人を魔物に転生させられる者自体、世界で数えられるほどしかいない。
そのうえ、重大な欠点もある。負の力に対する耐性が弱くなることである。
普通に生活する分では問題ないのだが、例えば恋人を突然失ったり、戦場の空気に触れたりして、
自我を著しく欠いた場合、特に負の力の大きい場所においては、邪気に支配されてしまうことがあるのだ。
魔物は純粋な生き物、周りの環境によって、180度性質が変わる。
邪気を取り除くことが出来れば、本来の意志を取り返すこともできるかもしれない…

ここはアリアハンの書庫。3人がそれぞれ本で調べものをしている。
「っああ~!性に合わねぇー!」
ジタンが本を投げ出し、歩き回る。
「どうだ、リノア。何かいい情報は見つかったかい?」
「ううん、さっぱり。呪術の本や工学の本は一通り見たけど、難しくて…
 あ、そうそう、その怖い顔したお面は呪われてるから着けちゃいけないからね」
「ああ、分かった。といっても、こんなもの着けたいって思うやつもいないだろうけど。
 キーファ、そっちは?…ってどこ読んでんだよ。『コラム:魔物と人間の考察』?なんだこりゃ?」
「いや、ちょっとな。さっき墓作った女の人いただろ。あの人知り合いだったんだよ。
 俺がまだ小さいときだったからほとんど覚えてない、ってか、今思い出したんだけどさ。
 それでその人に彼氏いたんだけど、その彼氏…モンスターでさ、大丈夫かなって気になったんだよ。それだけだ。
 ……あ~!さて、調べに戻るか!」

【ジタン 所持品:英雄の薬、厚手の鎧、般若の面 第一行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 第二行動方針:ゲーム脱出】
【リノア 所持品:不明 第一行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 第二行動方針:仲間と合流しゲーム脱出】
【キーファ 所持品:攻略本 第一行動方針:首輪解除の手段を探す 第二行動方針:フィンと合流しゲーム脱出】
現在位置:アリアハン城裏の図書館 (コラムは攻略本の一部、3人とも図書館で本読んでいます)

113:僕はもう、疲れたよ…
04/12/14 05:46:06 H8bbufwN
あの放送を聞いたとき、彼の思考といえるものは途絶えた。
彼にとって、彼女は自分の命よりも大切な存在。一度は魔物と化した彼の心を人間の心に戻してくれたのは、他でもない彼女。
だから、彼女を守り続けようと思った。死ぬにしても、二人一緒に、同じ時間、同じ場所で死のうと思っていた。
それなのに、現実はどうだろう。一言も言葉を交わすこともなく、姿を見ることもなく、彼女はこの世からいなくなってしまった。
彼にもう生きようという気力はなくなってしまった。


脳裏に邪悪な闇の化身が迫ってきた。
邪神が存在していたとき、何度も味わった感覚だ。僕は、彼女がいるから、ただそれだけの理由でこれを拒否してきた。
けど、彼女はもういない。この世にとどまる理由もない。だから拒否する理由もない。
仲間は生きているけれど、この世にとどまる理由にならない。
来るものすべてを受け入れよう。自分が壊れてもいい。もう、何もする気にならない。今日はもう、疲れた。
マチュア…僕も今、そっちに行くよ…


彼の心は空っぽになった。醜い外見でありながらも、光を宿していた目、今はただただ漆黒の闇が広がるばかり。
もはや彼の抜け殻をつき動かすのは、魔物としての本能と、会場を取り巻く狂気のみ。
彼の抜け殻が求めるのは、人の血肉と、自らの肉体の滅びのみ。

【スミス(腐った死体) 所持品:無し 現在位置:レーベ北東 行動方針:魔物の本能に従う(無心状態、理性無し)】
 所持品(紫の小ビン、拡声器)はすべて放置、腐った死体に変身の状態です

114:殺人者でも、狂人ですらなく 1/6
04/12/14 09:31:45 8HnEnPJO
苦渋の末の決断だった。
確実に待ち受ける死と、可能性として存在する死。
葛藤の果てに、エッジは『確実な死』を防ぐことを選んだ。
「マリアさん、すまねぇ……すぐ戻るから、それまで無事でいてくれ!」
エッジは唇を噛みしめながら波動の杖を受け取り、走り出す。
彼の後姿を、マリアはどこか安心したような表情で見送った。

―実のところ、マリアの運命はこの時点で決まっていたのだが、二人には知る由もない。

エッジがそうしたことで、カインの判断も決まった。
確かな実力を持つ旧友と、疲弊しきった女。
ターゲットは二つだが、リスクは少ない方がいいに決まっている。
自分の目的は生き残ることだ。殺人は手段の一つに過ぎない。
(回復魔法もアイテムもない以上、下手に手傷を負うのはまずい……慎重にならねばな)
いくら騙し打ちや奇襲をかけたところで、エッジほどの実力者相手に無傷というのは難しい。
だが、見るからに非力そうな、あの女性なら。
自分でも卑劣な考えだとは思うが、場合が場合だ。そんなことを言う余裕は無い。
(ここは見晴らしもいい……気付かれて邪魔に入られても困る……エッジが去るまで、もう少し待つか)
カインは槍を携え、静かに機を窺う。

―けれども、カインがマリアに槍を突き立てることは、ついになかった。

115:殺人者でも、狂人ですらなく 2/6
04/12/14 09:36:32 8HnEnPJO
どれほどの時が過ぎただろう。
十分? 十五分? それとも三十分? あるいは五分か?
ともかく、エッジが過ぎ去った後しばらくしてからだ。
樹上のカインは、一人の若者が森の中を歩いて来るのに気がついた。
華奢な身体に貴族風の服を纏った、高い教養と知性は窺われるけれど、戦いの才能はなさそうな……
数度だけ会ったダムシアンの王子を思い起こさせる、いかにも大人しくて無害そうな若者だった。
それでもカインが襲撃に移らなかったのは、若者の持つ奇妙な武器と、背筋を走り抜けた予感のせいだ。
出て行ってはならないという、確信に近い直感。何故かはわからない。
だが、カインは自分の勘を信じることにした。

草原にしゃがみ込んだままの女性の姿に気付いたのだろうか。
若者は足を速め、森から平野に出た途端、一気に走り出す。
若者が叫んだ。「マリアねえさん!」、カインにはそう聞こえた。
女性は面を上げ、若者に手を伸ばす。二人はお互いの身体をしっかりと抱きしめあう。
姉と弟なのだろうか? だが、それにしては似ていないし、髪の色もずいぶん違う。
「兄さんは? 一緒にいないんですか?」
また、若者が言った。良く通る声だ。これだけ離れているのにはっきり聞こえる。
身なりといい、育ちの良さそうな感じといい、演説馴れした貴族か王族なのかもしれない。
女性は首を横に振る。
「ヘンリー」「先に名前を」、「デールさん」「会っていないの?」という部分だけが辛うじて聞き取れた。
「はい……でも、ヘンリー兄さんは簡単に死ぬような人ではありませんよ。
 兄さんも、きっとねえさんを探してるはずです……あの人は、貴女を誰よりも愛しているから」
―ここまで聞いて、ようやくカインにも理解できた。
若者は兄弟の弟で、女性は兄の嫁なのだろう。『姉さん』ではなくて、『義姉さん』と言っているのだ。
「マリア義姉さん、歩けますか?」
若者は義理の姉を心配し、手を貸そうとする。しかし女性は再び首を振る。
「疲れ」、「足が」、「動かない」、「やすま」―『疲れて足が動かない、少し休まないと』。
その返事に、若者は困ったように夜空を仰いだ。そして何を思ったのか、唐突に女性に問い掛ける。
「……そうだ。刃物か何かを持っていませんか?」

116:殺人者でも、狂人ですらなく 3/6
04/12/14 09:38:43 8HnEnPJO
(―刃物?)
若者の言い方に、カインは少し違和感を覚えた。
自分なら、「剣を持っていないか?」という風に聞くだろう。少なくとも刃物とは言わない。
けれども女性は気にとめた様子もなく、一振りの大剣を渡した。
「これしかなくて……」
済まなさそうに頭を下げる女性を余所に、若者は剣をじっと見つめ、何度か素振りをする。
筋は決して悪くないが、素人だというのが丸判りだ。
若者自身もわかっているのだろう。「兄さんならもっと上手く扱えるだろうに」と一人ごちる。
その通り、疲れて動けない女性を守るには、あまりにも頼りない。
(俺の勘も鈍ったか?)
カインは自嘲した。
若者の武器が何かは未だにわからないが、わざわざ剣を受け取る辺り、役に立たない代物なのだろう。
そしてあの腕前では、自分の敵になれなどしない。
彼から感じた危険は全て気のせいだ―己の迷いが生んだものだったのだろう。
カインがそう考えた時、若者の声が夜空に響いた。
「でも、贅沢は言えませんね……切れ味は良さそうだし、壊すのには向いていそうだ」
(―壊す?)
カインがその言葉の意味を理解する前に―

若者の剣が、女性の肩に突き刺さった。

「―っ―!!?」
カインの叫びは喉の奥で止まる。女性の絶叫は声にならず、それでも空気を震わせる。
何だ? 何が起きた?
混乱する二人の前で、若者だけが静かに笑う。
剣は真下にゆっくりとすべり、鈍い音と共に腕を断ち切った。
「壊れてください、マリア義姉さん」
若者はそう言った。嫌になるほど落ち着いた声で。
血濡れの刃が右足に潜り込み、今度こそ、女性は絹を裂くような高いソプラノの悲鳴を上げた。

117:殺人者でも、狂人ですらなく 4/6
04/12/14 09:46:51 8HnEnPJO
「綺麗な歌ですね。修道院で覚えたのですか? もっと、聞かせていただきたいのですがね」
ぞっとするような呟きと共に、また赤い飛沫が咲く。左足に、左腕に。
女性は涙と血を流しながら、必死で若者を見上げる。
「どうして、デールさん? ……止めて、止めて……!」
若者は止めない。義理の姉を、兄の妻を、あれほど親しそうにしていた相手を、笑顔で切り刻んでいく。

(狂っている……)
カインは呟いた。呟かずにはいられなかった。
誰が誰を思い起こさせるだと? どいつが無害そうだと? 何が頼りないだと?
勘が鈍っていたのではない。俺の目が曇りきっていただけだ!

「最初はね。可愛いコリンズとラインハットのために、戦おうと思っていました」
若者は不意に手を止めて、女性を見つめた。
「けれど途中で気付いたのですよ。僕の望みに。僕自身が、何を望んでいたのかに……」
泣き崩れる恋人を慰めるように優しく頬に手を触れ、指先を唇へと滑らせる。
「僕はずっと、人の夢を叶えてやることばかり考えていました。
 でも、生まれて初めて、自分自身の望みを叶えてみようと……そう、思ったのです。
 僕の願いを……人間を、生命を、何もかもを壊したいって願いをねぇ!」
ざくり、と嫌な音がして、剣先が女性の肺へ突き刺さった。
飛び散る血の量を減らすためか、長くいたぶりたいがためなのか、やけにゆっくりと。
女性の口から血が溢れる。若者の指も同じ色に染まる。
「邪魔をする者も、逃げる者も……! バーバラって小娘も、リュカさんも、ビアンカさんも!
 僕が! この手で! 壊してやるんですよ! 最高でしょう!?
 それが僕の願いなんですよ、義姉さん!」
若者は女性の身体に何度も刃を突き立てながら、愉快そうに笑った。楽しそうに笑い続けた。
それが再び、唐突に止んだ。
「……神に感謝します。僕を、ここで、貴女と引き合わせてくれたことに。
 ヘンリー兄さんと貴女だけは、他の誰にも殺させたくなかった……
 貴方たちを壊すのも、その最期を看取るのも……できるならば、僕でありたい」
果たして、若者は笑っていたのだろうか? それとも泣いていたのだろうか?
カインからは見えない。ただ、重なる二つの影だけがはっきりと見えた。
「……愛しています。マリア義姉さん」

118:殺人者でも、狂人ですらなく 5/6
04/12/14 09:54:18 8HnEnPJO
―カインは込み上げる吐き気に口を抑えた。
彼でなくても、真っ当な神経の持ち主ならば誰だってそうする。あるいは、恐怖とおぞましさで卒倒するかだ。
そんなカインの胸中を知らない若者は、女性の身体を離すと紅色に濡れた唇を舐めながら言った。
「誰か、いるな」
それが自分に向けられたものだとカインが気付くには、数秒が必要だった。
「壊されたいか? 僕に」
若者は周囲を見回しながら、剣ではなくあの奇妙な武器を構える。
「これでも女性と待ち合わせをする身だ、あまり時間は割けぬ。
 剣は使ってやれないが、何、鉛球と共に踊るのも楽しいものだぞ?」
若者の持つ武器が、突然硝煙を吐き出した。鉄筒の直線状に位置する木に、無数の穴が穿たれる。
剣や槍など比べ物にならぬ破壊力だ。そしてあの速度、避けることも弾くことも難しい。
「さあ、出て来るがいい」
若者は空を仰ぎ、静かに告げた。ほんの一瞬だけ、カインの目は若者の顔を捕え―
(―くそっ!)
カインは跳んだ。挑むためではなく、逃げるために。
あの未知の武器のせいか。それとも、常軌を逸した言動のせいか。
どちらにしてもカインには若者が容易く倒せる相手とは思わなかった。
純粋な実力からすれば、カインの方が優位に立つにも関わらず、だ。
(アレは、人間じゃない)
カインの脳裏に、若者の表情と瞳が浮かぶ。
予想したような血走った目ではない。焦点を結ばぬ濁った瞳でも、狂人のへらへらした表情でもない。
逆だ。
真珠のように綺麗な目、確固とした一点を捉える澄んだ瞳。理性と威厳さえ感じさせる、ひどく冷静な表情。
―間違いなく狂っているはずなのに、正気であるとしか思えない。
(アレは人間じゃない。俺のような殺人者でも、狂人ですらない……)
アレを一言で形容するならば、邪悪だ。
このゲームが、ソレを作り出すためだけに用意されたとしても納得するぐらいに、邪悪な化物だ。
けれども、元は。たった半日前までは、アレも人間だった。
恐らくは兄夫婦を慕い、他人を気遣いながら生きてきた、優しい心を持つ青年だったのだ。
(ここで生き延びようとする限り、俺も、いつかは……ああなってしまうのか?)
その問いに答えられる者も、そうでないと断言できる者もいない。カイン自身を含めて。

119:殺人者でも、狂人ですらなく 6/6
04/12/14 09:56:42 8HnEnPJO
【ユフィ(瀕死) 所持品:プリンセスリング フォースアーマー 行動方針:死を待つ】
【エッジ 所持品:風魔手裏剣(30) ドリル 波動の杖
 現在位置:アリアハン北の橋から西の平原→東へ移動
 第一行動方針:波動の杖の向く先(アルカートのところ)へ走る 第二行動方針:仲間を探す】

【デール 所持品:マシンガン、アラームピアス(対人)、ひそひ草、アポカリプス+マテリア(かいふく)
 現在位置:アリアハン北の橋から西の平原→レーベへ移動
 第一行動方針:レーベでバーバラと会い、殺害する 第二行動方針:皆殺し(ヘンリーが最優先)】

【カイン(傷はほぼ回復) 所持品:ランスオブカイン
 現在位置:アリアハン北の橋から北西の森の中
 行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】

【マリア(DQ5) 死亡】
【残り 99人】

120:その眼、翼の生えた物につき 1/3
04/12/14 18:59:50 aQVBbFRT
レックス達のいる場所が修羅場と化している時。
バッツとローグは、少し困っていた。
戦場の近くで余計な事はしたくない。故に動けない。しかも巻き込まれると困る。
近くでの観戦は拙かったな…とローグが舌打ちした。

実はローグには一つ、やりたい事があったのだ。
それはできるだけ人のいない安全な場所でやりたかったが―まぁ仕方が無い。
とりあえず短く用件を伝えて実行することにした。

「バッツ…悪ィけどちょっとよーく戦いを見守っててくれ。やりたい事があるから」
「はぁ?こんな修羅場で何をするんだよ……」
「ちょっと近辺の状況を見る。近くに実力者やゲームに乗った奴がいるかもしれないしな」

その言葉を聞いたバッツが、困惑したように気の抜けた声で答える。
無理は無い、バッツはローグの「あれ」を知らない。説明が必要ではある。
だが時間が無い。納得させる時間が惜しい。無視だ。

「大丈夫、俺には優秀な"鷹"が付いてる」

そう言うと、ローグは静かに目を閉じた。

121:その眼、翼の生えた物につき 2/3
04/12/14 19:03:17 aQVBbFRT


一呼吸置こう。集中だ、そうしないとこれは使えない。
いつもはセージが
「真面目にやってよね?変な道案内より困った物は無いんだし」
と悪態をつくがそれが今は無い。大丈夫だ、集中―――


ローグが眼を開いた。
見開いた眼に宿る鋭い眼光は、全てを見通してしまうのだろうとさえ思わせてしまう。
本当に、見違えるほどに、誰の目にも明らかな変化が起こっていた。

『鷹の眼』

平たく言えば、空を飛ぶ鷹のように遠くのものを見渡すローグだけのスキル。
伝説の勇者ですら使えない、ローグの特権。

「な…お前……なんだそれっ!」
「アリアハン北西に…誰か……あれは……」

驚くバッツの声が聞こえてないのか、ローグは眼を凝らす。
その直後、ローグは背筋が凍ったような感覚に襲われた。

「なんだありゃ!あれは…あれは…」
「おい、何があった!」
「あんなの……あんなのまでいるのか…ここには!」

ローグの目は「普通」に戻った。
何かに怯えながら、今度は見た事を頭で整理することにした。

122:その眼、翼の生えた物につき 3/3
04/12/14 19:05:38 aQVBbFRT


ローグが見た…いや、見てしまったもの。
それは体を切り刻まれた女性と、その近くで微笑んでいる男。
男の部分部分には血が付いており、女性を殺した犯人であろう事が想像できる。

信じたくは無かった。
見た目は、優しそうな男性。だが、女性を酷く惨殺したのもあの優しそうな男性なのは、確か。
あの男の目に多大なる自信と高揚感があるのも、確か。

殺している瞬間を目にしたわけではないが、わかる。
これ以上無いまでにそう確信できるものが揃っている。

「ふざけんな……とんでもないモンを呼びやがったなあの女は」

ローグは、大きな後悔と恐怖を同時に抱え込む事になった。


【バッツ 現在地:アリアハン城下町 所持品:チキンナイフ、ライオンハート、薬草や毒消し草一式
 第一行動方針:様子見を続行 第二行動方針:レナ、ファリスとの合流】
【ローグ 現在地:アリアハン城下町 所持品:銀のフォーク@FF9
 第一行動方針:様子見を続行 第二行動方針:首輪を外す方法を探す】

※近くでサイファー達が交戦状態です(>>35-37)

123:1/3 温もり
04/12/14 22:12:03 37Ay4Ch8
目が覚めたのは、痛みのせいだった。
ゲームが始まってすぐに負った重度の傷は、未だ治る兆しを見せない。
無造作に投げ出された足を枕にするように、少女がスースーと無防備な寝息をたてている。
木に寄りかかり、それまで眠っていた男―ピサロは、顔をしかめながら辺りを見回した。
周りは暗く、凝視しなければ何がどこにあるのかも判らない。
ビビの姿は見当たらない。あの得体の知れない武器をもった女を探しているか、さもなくばもう殺されているかだろう。(…動けるか?)
全身を走る痛みに耐えつつ、ゆっくりと体を動かしてみた拍子に、肩にかけたままの焼け焦げたザックから、
ボトッという少し重い音と共に、彼の足元に握り拳よりもすこし大きいぐらいの石が落ちた。
(?)
訝しげに手を伸ばし、触れた瞬間、石はピサロの手の中で淡く輝きだし、まるで生きているかのような温もりを発した。
驚いて思わず手を離し、もう一度、慎重にに触れてみる。
すると再び石は輝きを発し、彼の手に温かい何かを伝えた。
「これは一体…?」
ピサロは右手で石を暫く持ちつづけ、石から感じる「何か」の正体を探ろうとした。
温もりは手の中に広がって腕を伝い、体全体を満たしていく。
「何か」が体を巡る感覚は実に心地がよく、それまで彼を包んでいた痛みをも忘れさせるほどだ。
「もしや…この感覚は…」石を凝視し、口に出して行ってみる。
「魔力…?」
彼の疑問に答えるように、魔石バハムートは一際強い輝きを発した。


124:2/3 回復
04/12/14 22:13:51 37Ay4Ch8
満身の力をこめ、傷口にむかって自分が知る限りの回復魔法を唱えた。
それでも左手から放たれる癒しの光はどこか頼りなく、傷口を完治するには至らない。
「しかし、まあ、これで戦えるようにはなったな。」
一人呟き、頭上に広がる星空を見上げる。
「ロザリー…」
彼の愛する人の名…なぜ彼女までゲームに参加して、否、させられたのだろう。
ピサロの足元には、武器をその小さな手に持った事すらないであろう少女が眠っている。
あの邪悪な雰囲気をたたえた魔女は、なにを考えているのだろう。弱い物をゲームにいれた所で、ただ死ぬだけなのに。
いや、それが狙いなのかもしれない。
ゲームの参加者にとって大切な人が成す術もなく死んで行く姿を見せるためか?
例えば、ビビが親しい人―ガーネットと言ったか―を失ったと知った時、ひどくうなだれたように。
例えば、今自分がロザリーの死を何よりも恐れているように。

ある者は、ゲームに乗り狂ったように他の参加者を殺し、

ある者は、迫り来る死から泣き叫びながら逃げ惑い、

ある者は、親しい人を亡くしてしまったことに絶望する。

「傍から見れば、究極の娯楽ということか。」
しかし、その中に放りこまれた者達はたまったものではない。
ロザリーはまだ―少なくとも日が沈む前までは―生きている。何としても今一度再会し、護ってやらねばなるまい。
このゲームの、邪悪な思惑の通りにならないように…


125:3/3 移動
04/12/14 22:15:05 37Ay4Ch8
ピサロがそうこう考えていると、近くで足音がした。
ゆらゆらと揺れるランプの灯火に、ふらついているような妙な足取り―ビビだ。
「お姉ちゃん…いなかった」
ピサロの元に辿りつくや否や、幼い黒魔導師は肩で息をしながら言った。
「ターニアちゃんは?」
「気が動転していたので呪文で眠らせた。」
「あ、そう…」
それからしばらくして、彼に起こった変化に気がついた。
あんなに苦しそうに息しながら、木に寄りかかっていたピサロさんが―立ってる。
「あれ?傷はもういいの?」
ビビが首を傾げると、彼は「ああ」と言い、懐から例の石を取り出し、「お前も触ってみろ」と手渡した。
ビビの手に触れた瞬間、魔石は輝きと魔力を発し、黒魔導師はうわあ、と声を上げて石を取り落とした。
「この石の魔力のおかげでなんとか回復できた…完全ではないがな。」
ピサロはそう言うと、深刻な眼であらぬ方向を睨んだ。
「それよりもあの女は逃げたか…厄介な事になりそうだ。ここから離れねばな。」
呟くと、足元でガサガサと紙を広げる音がした。
「あのね、ピサロさん。考えがあるんだけど」
ビビはいいながら、地図に記された森を指差す。
「ここがボク達が今いるところなの。それで、ここから西に、レーベっていう村があるんだ。」
「…それで?」
「今日はここで休まない?村ならちゃんとしたベッドもあるだろうし。」
「なるほどな。では、そうするとしよう。」
ピサロは言うと、眠ったままの少女を担ぎ上げ、ビビと並んで歩き出した。
村なら、他の参加者も集まるだろうな…ロザリーも来るだろうか?
歩きながら、そんなことを期待する。
しかし、彼女に気を取られていたせいか、ゲームに乗った者が村に現れるという可能性までは頭が回らなかった。

【ピサロ(HP3/4程度) 所持品:スプラッシャー、魔石バハムート(召喚可) 行動方針 レーベ村へ行き体を休める】
【ビビ 所持品:不明 行動方針 同上】
【ターニア(睡眠) 所持品:微笑みの杖 行動方針 ?】

現在位置:レーベ東の森をレーベに向かって移動中

126:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/12/14 22:50:46 37Ay4Ch8
んが、ミスった。
>>124
×満身の力をこめ、傷口にむかって自分が知る限りの回復魔法を唱えた。

○そういえば昔、古い文献で読んだことがある。
「幻獣」と呼ばれる特殊な魔物が死する時、その身を小さな石に変えてしまうと。
石には膨大な魔力が秘められ、その魔力は半永久的に尽きることがないと。
「ほう…あの伝説は誠だったか。しかし全身にみなぎるこの魔力、尋常ではな…」
そこまで言って、ピサロは突然閃いた。
今ならできるかもしれない。体が魔力に満たされている今なら。
満身の力をこめ、傷口にむかって自分が知る限りの回復魔法を唱えた。

127:勇賢盗僧父…裏(1/4)
04/12/14 23:31:34 XD+CBITh

ジダンとリノアが本を漁っているとき、キーファは一人だけ攻略本を読んでいた。
コラムの欄もそうだが、沢山の参加者も目を通しておきたかったからだ。
色々な名前と特技などの特徴が詳しく書き込んでいるそれは、何故か頼もしく思えた。
沢山の人間の膨大な記録。全てを読むには難しいが、ランクの高いものは頭に入れるべきだろう。

そう必死にページをめくっていると、隣からリノアの声がした。

「これ。なんかこの国の近況の本だって」
「ふーん。それを何で俺に?」
「この攻略本に、もしかしてこれと同じことが載ってたりしないかなって」
「どういう事だ?」

リノアの話はこうだった。

この国がもし、元々「あった」のだとしたら、
この国に住んでいた人物がこのゲームに参加していたら、
その人物と合流することによって有利に立てるのではないか。

そういう事だった。

「成程…な」

キーファは、リノアの持ってきた本を早速開いた。
なかなか豪勢なつくりをしている。だが、意外にも薄い。
「近況」だからな…とキーファは思った。
ぺらりぺらりとめくって行く。そして、あることに気付いたのだった。

128:勇賢盗僧父…裏(2/4)
04/12/14 23:35:38 XD+CBITh



「オル…テガ?」

あるページにハッキリと書かれていた。

「勇者オルテガが妻と息子を残して魔王バラモス討伐の旅に出る…。
 数々の街を回り、バラモスに後一歩と近づくも火山の河口に落ち戦死を遂げる。
 兵士達により弔いが行われる中、妻が息子を勇者として育てると決意」

続きがある。

「息子アルス、16歳となり父と同じく魔王バラモスを討伐せんと旅に出る。
 賢者セージと盗賊ローグ、そして僧侶フルートと共にバラモスを討伐するがゾーマの存在を確認。
 ゾーマ討伐を決意し、その際にギアガの大穴の地下にて広い世界を発見。
 最終的にゾーマを討伐するが、大穴が閉じ帰郷が不可能となる。だがある力により帰郷が可能となる。
 神たる龍に挑んだ後、勇者オルテガも帰郷。世界に平和が戻った。
 
 ※尚、3行目以降についてはアルス一行本人の報告によるものである」

アルス、セージ、ローグ、フルート、オルテガ。
どれもこれも見覚えがある。
強い人間を確認しておこうとがむしゃらに呼んでいた時に見た気がする。

キーファはもう一度、攻略本を手にした。

129:勇賢盗僧父…裏(2/4)訂正
04/12/14 23:37:44 XD+CBITh



「オル…テガ?」

あるページにハッキリと書かれていた。

「勇者オルテガが妻と息子を残して魔王バラモス討伐の旅に出る…。
 数々の街を回り、バラモスに後一歩と近づくも火山の河口に落ち戦死を遂げる」

続きへと紡がれている。

「息子アルス、16歳となり父と同じく魔王バラモスを討伐せんと旅に出る。
 賢者セージと盗賊ローグ、そして僧侶フルートと共にバラモスを討伐するがゾーマの存在を確認。
 ゾーマ討伐を決意し、その際にギアガの大穴の地下にて広い世界を発見。
 最終的にゾーマを討伐するが大穴が閉じ帰郷が不可能となる。だが、ある力により帰郷が可能となる。
 神たる龍にに挑んだ後、勇者オルテガも帰郷。世界に平和が戻った。
 尚、3行目以降についてはアルス一行本人の報告によるものである」

アルス、セージ、ローグ、フルート。
どれもこれも見覚えがある。
もう一度、攻略本を手にした。


「おいおいおい……マジかよ」

つい、驚きを声に出してしまった。
だが無理も無い。
なんと、名前の出た人間の中でAランクが2人。そしてBも2人。
エリートの中でも更に篩を掛けた様な人間。
ページを開いてみる。誤植でなければ化け物揃いだ。そう実感する。
詳細を読む。やはり、その強さを認識するだけで終わってしまった。

130:勇賢盗僧父…裏(3/4)
04/12/14 23:40:32 XD+CBITh

・アルス 強さ:A
 仲間:セージ・ローグ・フルート  性格:正義感溢れる。芯が強いが、むっつりスケベな部分も
 所持特技:デイン系呪文・アストロン・ベホマズン・剣技
 対策法:最強の呪文と類稀なる才能に恵まれた剣術で攻撃してくる。
     魔法はあまり得意ではないので遠距離から攻撃しよう!剣ではまず無理だ!

・セージ 強さ:A
 仲間:アルス・ローグ・フルート  性格:プライドが高く自信家。斜に構える部分があるが意外に社交的(?)
 所持特技:魔法使いと僧侶が習得できる呪文全て メラ系、ヒャド系、ホイミ系、全てを扱う。
 対策法:無尽蔵の精神力・魔力と恐ろしい量の呪文を使い分ける遠距離の鬼。
     接近戦には自信がないので、肉体的な体力で差をつけよう!呪文で煽っても死ぬだけかもね!

・ローグ 強さ:B
 仲間:アルス・セージ・フルート  性格:柔軟な思考で状況を打破する。仲間に理想を持ちすぎ。
 所持特技:鷹の目・盗賊の鼻・フローミ・レミラーマ・忍び足
 対策法:状況に応じて素早く対応し、サバイバルな状況では生き残れそうな状態。
     一度に騒ぎを起こして混乱を起こすといいかも!ただし大概は逃げられるかもよ!

・フルート 強さ:D
 仲間:アルス・セージ・ローグ  性格:天然。おおよそ戦闘には向いていない。
 所持特技:ホイミ系の回復呪文、支援呪文。
 対策法:この状態であれば殺すのは楽だ!しかしストレスを与えない方が良いぞ!
     刺激を与えずになるべく気付かれないように攻撃すると良いかも!一撃で殺さないと。。。

・オルテガ 強さ:B
 仲間:アルス(子)  性格:勇敢。強大な敵にも一人で立ち向かう勇気を持っている
 所持特技:バギクロス・ベホマ・斧術
 対策法:パワーと体力があるので持久戦ではまず勝ち目はないぞ!
     相手の精神力を削るか、遠距離で即効ケリを付けろ!

131:勇賢盗僧父…裏(4/4)
04/12/14 23:46:19 XD+CBITh

「どうしろと…」「スキがねーよ、なさ過ぎる」「おいおい…それができれば世話ないって……」
「え?なんだこりゃ…え?怖……ッ」「おいおいおいおい…勇者だぜ?」

読んだ。突っ込みながら読んだ。
殆どがエリートだ。恐ろしく強いのはわかった。
だが…。

問題はフルートだった。
あの奇妙な伏線を残した遠まわしな書き方。
エリート揃いの中で一人だけランクが低い理由が不明。
一言で言うと「仲間として相応しくないはず」だと思った。

暫く考えながらページをめくっていると、別項を発見した。
その別項には…特集か?と言わんばかりにある人物がピックアップされている。

そう、フルートだった。
キーファはまたそのページを凝視した。
そして、「信じられないことが発覚してしまった」と心底思った。

・フルート(裏) 強さ:A(ある意味Sかも!?)
 仲間:いないと思っているかも!?  性格:凶暴。好戦的。
 所持特技:僧侶系呪文・武闘家時代に修練した拳技、脚技・会心の一撃
 対策法:おおよそ人類が生み出した中でも凶悪な人間。防御力なんざ無視の肉体の攻撃が唸る!叫ぶ!轟く!
     これもキューソネコカミに頼るしかないかも!使う隙があればの話だけどね!!

なんだこりゃあ!!
はぁ!?誤植じゃないのか!?そうだ、誤植だ間違いない。
キーファはこの本に少し疑問を覚えてしまった。

だが多少間違いがあったとしても、真実というものは埋もれているもので。
キーファは嘘のようなその事実を受け止めきれず、腑に落ちないまま本を閉じることになってしまった。

132:勇賢盗僧父…裏(終)
04/12/14 23:48:22 XD+CBITh

【ジタン 所持品:英雄の薬、厚手の鎧、般若の面 第一行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 第二行動方針:ゲーム脱出】

【リノア 所持品:不明 第一行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 第二行動方針:仲間と合流しゲーム脱出】

【キーファ 所持品:攻略本 第一行動方針:首輪解除の手段を探す 第二行動方針:フィンと合流しゲーム脱出】

現在位置:アリアハン城裏の図書館 (参加者解説は攻略本の一部、3人とも図書館で本読んでいます)

133:Advance
04/12/15 00:32:29 H5MhPGl3
デールは、レーベへと真っ直ぐ歩いていた。
壊したいという感情だけで動く体は、疲れを知らない。
高揚した感情に有り難味を覚える。

こんな素晴らしい事に出会わせてくれた、この素敵な世界に感謝をした。



――さぁ、壊そう。

僕はもう何も怖くは無い。僕はもう何にも邪魔されない。
僕は壊すんだよ、そう…壊すんだ。
醜く命乞いをする人間を壊して、僕は最後に生き残るんだ。

生き残って何をしよう。
そうだ、政治の形態を思い切って変えてしまおうか。
住人達は「恐怖政治だ」と言うだろうが、もう僕には関係ない。
僕が王なんだ、僕が皆を育てたんだ。孝行してくれても良いはずだ。
絶対生き残って、僕の為に命を捧げる人間を増やすこととしよう…そうだ、それがいい。



鈍く光る「刃物」に、どす黒い感情を圧縮したような微笑が映っていた。

【デール 所持品:マシンガン、アラームピアス(対人)、ひそひ草、アポカリプス+マテリア(かいふく)
 現在位置:アリアハン北の橋から西の平原→レーベへ移動
 第一行動方針:レーベでバーバラと会い、殺害する 第二行動方針:皆殺し(ヘンリーが最優先)】

134:はぐりんの半日 1/3
04/12/15 08:05:58 p956pPhx
【昼前】洞窟の中を捜したが、ご主人はいなかった。
    外に行ってみよう。

【まだまだ昼前】草に話しかけながら歩いている女の子がいた。電波?

【多分お昼ごろ?】緑髪の女の子と帽子のお兄さんが、騎士風の人の死体の傍で荷物を漁っていた。
           見つかりそうになったので木陰に隠れた。怖かった。

【昼過ぎ】道に迷う。ここはどこ?

【夕方】お兄さんとおじさんとお姉さんが、お墓を作っていた。
    「リチャードさん」なる人と、金髪の女の子のお墓も作りに行こうかと相談していた。
    悪いと思ったけど、三人がどこかへ行った後で、こっそりお墓を掘り返させてもらった。
    茶色の巻き毛の女の子で、僕の知っている人じゃなかった。
    良かった……のかな。ともかく、ご冥福をお祈りします。

【放送】……サンチョさんの焼いたケーキ、もう一度食べたかったのに。
    ピピンさん、ご主人たちと一緒にオンセンってところに行く約束してたのに……

【日没後、しばらくして】顔が爛れたお姉さんがものすごい勢いで走ってきた。怖すぎ。夢に出てくるかもしれない。

【夜】あとちょっと、平野まで出ればこっちのもの……って、アレ、ビアンカ様じゃない?
   話し掛けようとしたけど、そのまま走って行っちゃった……僕、忘れられてるのかな。

【その後で】青髪の女の子をおんぶしためちゃめちゃ強そうな魔族の人と、とんがり帽子の子を見かけた。
      魔族の人が僕を睨んだけど、それ以上は何もされなかった。
      でも怖いものは怖いから、全力で走って逃げた。

135:はぐりんの半日 2/3
04/12/15 08:09:19 p956pPhx
【完全に夜】村の中で、さっきの帽子のお兄さんが緑髪のお兄さんに引きずられていた。
      宿屋に入っていったので中を見ると、ご主人のお友達のヘンリーさんが寝ていた。
      声を掛けようかと思ったけど、向こうは僕のことあまり知らないだろうし……
      ここはご主人探しを優先させることにしよう。
      他の家も調べてみたけど、さっき草に話し掛けていた女の子や、
      綺麗なお姉さん二人と気弱そうなお兄さんぐらいしかいなかった。

【まだまだ全然夜】森の中でピエールさんらしき人を見かけた。すごい怪我だ。
         助けたかったけど、僕は回復呪文はメガザルしか知らない……
         ごめんね、ピエールさん……ご主人に会ったら伝えるから、それまで生きてて……

【その後、すぐ】見覚えのあるお兄さんが、女の人の死体の傍で、血まみれの腕をいじっていた。半端なく怖い。
        どうも指にはめられた指輪を取りたいみたいだけど、硬直して取れないらしい。
        早くレーベに行かないと、とか呟いてて、最後には指ごと切り落として取ってた。
        当然、話し掛けずに逃げた。
        ……そうだ、思い出した。あの人、ヘンリーさんの弟の、ラインハットのデール王だ。
        何やってんの? あの人……

【さらにその後】平野で死体を見つけた。その傍で、ネズミ風の人が穴を掘っていた。
        近づいて顔を見た。……ヘンリーさんの奥さんのマリアさんだった。
        ネズミ風の人が僕に気付いて、知り合いかと聞いてきたのでうなずいた。
        一緒にお墓を作るか? と言われたので、僕も手伝うことにした。
        ヘンリーさんに知らせに戻ろうかと思ったけど……あの惨殺死体じゃ、逆に知らせない方がいいよね。
        そういや、そろそろデールさんもレーベに着いてる頃かな。

【夜が更けてきた】森の中で、首輪とメモを拾った。
         何が書いてあるのかわからないけど、ご主人なら読めるだろう。持っていこう。

【それにしても】大陸一周してるのに、ご主人にはまだ会えない。
        どこにいるんだろう……?

136:はぐりんの半日 3/3
04/12/15 08:11:02 p956pPhx
【はぐりん 所持品:エリクサー×10 ブロードソード レーザーウエポン 首輪×2 研究メモ
 行動方針:仲間との合流(リュカを最優先、戦闘はできるだけ避ける)
 現在位置:アリアハン北の森の中】

【エリア 所持品:妖精の笛、占い後の花
 第一行動方針:休憩中 第二行動方針:サックスとギルダーを探す】
【ギルバート 所持品:毒蛾のナイフ
 第一行動方針:休憩中 第二行動方針:リディアを探す】
【レナ 所持品:不明
 第一行動方針:休憩中 第二行動方針:バッツとファリスを探す】
【現在位置:レーベの民家(バーバラとは別)】

【フライヤ 所持品:アイスソード えふえふ(FF5)
 現在位置:アリアハン北の橋から西の平原
 第一行動方針:竜の気(カインの所)へ行く】

【デール 所持品:マシンガン、アラームピアス(対人)、ひそひ草、アポカリプス+マテリア(かいふく) リフレクトリング
 現在位置:レーベ入り口
 第一行動方針:バーバラと会い、殺害する 第二行動方針:皆殺し(ヘンリーが最優先)】

137:嵐の前の
04/12/15 09:58:22 DakYKSua
レーベの村で一番背の高い民家、その上に降り立つ影がひとつ。
ふわり、と音をたてず華麗に着地する様だけならば、いつもとなんら変わりない。
しかし、竜のよう着地した彼はそのままふらつき、口を抑え激しくせきこんだ。
月明かりに照らされる、病人のように青い頬を伝わるのは冷たい汗。
普段は高い誇りと強い精神を持つ彼も、今だけは、まるで傷ついた竜のように。
「げほっ、げほ…く、くそっ…」

―死体や、殺人現場を見たこと事態にはもちろん抵抗などない。
ただ、あまりにも異常なアレは。
アレが引き起こした、あまりにも異常な出来事は。
どうにも、気分の悪さが収まらなかった。
(駄目だ、こんなことでは…)
そう思う。しかし、おぞましい声は呪いでもかけられたかのように耳から離れずに、心に圧力をかけていく。
(これが…人間であることを捨てた、アレの力なのか?)
自分は人として人を裏切り、罪を犯す。
しかしアレは違う。すでに人ではないので、人としての罪を負わないのだ―

138:嵐の前の
04/12/15 09:59:32 DakYKSua
(…?)
カインはふと立ち上がり、東の方向へと目を向けた。ふいに、風に乗って届いたのは声き覚えのある声。

「…エリア、レナさん、ちょ、ちょっと…待って…はあ、はあ…」
「…ギルバート。なんであなたが私より疲れてるの…」
「ふふ。もう少し体力をつけるべきかもしれないわね」

(ギルバート王子か…)
一見すると三人組の女性にも見えるが、カインはその内の一人を知っていた。
もっとも、彼はセシルと仲が良かっただけなので、カインと直接会話したことは数えるほどしかないが。
三人は屋根にカインがいることなど全く気付かずに、会話を交わしながら民家へと入っていった。
(……いいんだ。ここは人が集まる。チャンスはまだまだある…今は、)
静かな夜風に身を預けて、汗が乾くのを待とう。

―ただ、逆に気がかりなのは今のこの静けさだ。
嵐が目前に迫っていなければいいのだが。

【カイン 所持品:ランスオブカイン 現在位置:レーベの村・レナたちのいる民家の屋根上
 第一行動方針:気分を落ち着かせる 基本行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】

139:爆弾 1/3
04/12/15 22:17:51 qXsBZIRE
二人が夕飯を食べて寝静まってから、どのくらいたっただろうか。
彼は剣を片手に、敵が来ないか警戒しつづけていた。
体は疲労感につつまれ、正直言って眠い事この上ないが、3人ソロって寝転がるんじゃ無防備過ぎる。
幸か不幸かここは宿屋。たぶん、夜が更けて行くことを考えるとこの先何人かここを訪ねてくるだろう。
それが自分達と同じくゲームに乗ろうとしない人なら願ったり叶ったり、仲間は多いほうが心強い。
喜んで協力を求め、一緒にここを守ってもらおう。相手も同じ事を考える筈だ。
しかし、もしもゲームに乗ったのが来たら…?
ふと、剣を握る手が小刻みに震える。…やめよう。そんなこと考えるのは。
「…寒いなあ…」
だれにともなく、呟いてみる。
勿論、誰も答えない。心細さを紛らわそうと言ってみたが、逆効果だった。

それからしばらくして、来訪者は突然やってきた。

不意に目の前のドアが開いた。
ソロはとっさに剣を構え、「誰だ!」と吼える。辺りが暗く、顔がよく見えない。
それから睨み合うこと十数秒。ふと、影の足元から小さい、妙な帽子を被った子供が歩み寄ってきた。
「安心してお兄ちゃん。ボク達は戦うつもりは無いよ。」
子供がそういうと、影の方もゆっくりとこちらに歩いてきた。
ランプの光に照らされて、ゆっくりと顔が露わになる。鋭い目つきをしたそいつは――
「ピサロ!」
なんてこった。こんな奴までゲームに参加しているなんて。
「…あまり大きな声を出すな。どこにだれがいるのか判らんのだぞ」
ピサロは名を呼ばれるや、冷静に言った。
考えてみればそれもそうだ。つい今しがた、この宿屋に何人もの人が来るかもしれないと考えていたのは自分じゃないか。
「まあ、それは置いておいて…我々もここで休ませてはくれないか?」

140:爆弾 2/3
04/12/15 22:19:54 qXsBZIRE
言った。いきなり言った。
ソロが予想したなかで、多分最悪な要望。
しかし、小さい子供が一緒にいるぐらいだ。少なくともこちらに対する戦意はなさそうだ。
それに、ピサロの力はこの状況下では無視できない魅力だ。
「お願い、お兄ちゃん。」
足元の子供はすがるように懇願してくる。「せめて、ターニアちゃんだけは休ませてくれないかな?」
そう言われて初めて、ソロはピサロの小脇に抱えられた少女に気がついた。
「ターニアちゃん…?」
「そうだ。殺されそうになっている所をビビが助けた。血を見ると気が動転するらしい。」
ターニアというらしい少女は、スースーと可愛い寝息を立てている。が、あまりにも弱弱しい。
か弱い、無防備な少女と、子供の懇願するような眼差し…ソロは、ついに折れた。
「…分かりましたよ。でも代わりと言ったらアレだけど、僕の代わりに見張りやってくれません?」
ピサロは少し考えるような素振りを見せたが、やがて「…良かろう」と頷いた。

今夜ロザリーを捜すのは諦めよう。
傷はまだ回復していないし、暗い中無闇に歩き回るのは危険過ぎる。
夜明けに再び魔女が現れた時、ロザリーの名が告げられないことを祈る他無い。
ソロは呪文を何度も使って疲れていたせいか、あれからすぐに眠ってしまった。
目の前ではビビがドアの方を向いて佇んでいる。そこで初めて、ピサロはある事に気がついた。
彼が「おい」と言うと、ビビはピサロを振り向き、「何?」と歩み寄ってきた。
「お前…自分がどんな武器を与えられたか分かっているか?」
言われて初めて気づいたようで、ビビは肩からぶら下げたままのザックを床に下ろした。
「…爆発しないよね?」
ビビが冗談交じりに言うと、ピサロはフンと鼻で息をし、微笑した。
(あ…笑った…)
黒魔導師が知る限り、始めて見る彼の笑顔だった。
恐くて、冷たくて、ちょっと嫌な人だけど…ほんとは優しい人なのかな?
そんなことを考えながら、ザックの中身を探り出した。

141:爆弾 3/3
04/12/15 22:23:06 qXsBZIRE
初めに出てきたのは、細長くて、刃が曲がってる剣だった。自分はこの類の武器は扱えないので、ピサロさんに預けた。
二つめに出てきたのは、ビビも見たことのある、真っ黒なローブ。どうせだからこれに着替えなよと、これもピサロさんにあげた。
それで、最後に出てきたのは――
「なんだこれは?」
ピサロが訝しげに最後の武器を手に取った。自分の見たことの無い、なにやら奇怪な道具を。
「棒…いや筒?どっちにしろ使い物にならんな。」
そう言って”使い物にならない道具”をザックに戻す。
「じゃ、ボクもう寝ちゃっていい?疲れた…」
眠そうなあくびをして、ビビはベッドに歩いて行った。
まあ、爆弾ではなかったな…一人残された男は、ビビから受け取ったローブを身に着けた。

しかしこの時、ピサロもビビも気がつかなかった。
最後にザックから出てきた「役立たず」…それが、ある意味では非常に恐ろしい爆弾になりうることに。

【ビビ(睡眠中) 所持品:スパス
第一行動方針:寝て疲れを取る 第二行動方針:仲間達と合流】
【ピサロ(HP3/4程度) 所持品:天の村雲、スプラッシャー、魔石バハムート黒のローブ
 第一行動方針:宿屋に誰か来ないか見張りつつ、傷と疲れを癒す 第二行動方針:ロザリーを捜す】
【ターニア(睡眠中) 所持品:微笑みのつえ第一行動方針:?】
【アーヴァイン(HP4/5程度、睡眠中) 所持品:竜騎士の靴 G.F.ディアボロス(召喚不能) グレートソード
 第一行動方針:休息/銃かボウガンを手に入れる(ビビが銃を持っている事を知ったら…?) 第二行動方針:ゲームに乗る】
【ソロ(MP消費・睡眠) 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング
 第一行動方針:ヘンリーに付き添う/自分の休息】
【ヘンリー(負傷、睡眠) 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可) 第一行動方針:傷の治療】

現在位置(共通):レーベの村・宿屋

142:勇者と言う光
04/12/16 00:30:02 DohdgVuq
パウロは、目覚めてからやさしい女性の笑顔を見た。
本当に怖かった、でも彼女なら大丈夫と、恐怖がどんどんとなくなっていったのだ。
不思議だった、自分でも。
その後、自分のことを話した。ロランのこと、ムースのこと、シドーとかについて。
彼女、セリスもいろいろ話してくれた、大切な仲間のこと、空駆ける不思議な船のこと、ケフカという狂人のこと。
いろいろな話を聞いている途中だった、アリアハン中に響く一つの悲鳴と一つの叫び。
思わずパウロは持っていた紅茶を慌てて置く。
「セリスさん!今の声…もしかして」
「ええ、そうね。考えたくないけど……」
セリスもそこで言葉を切る、恐らく先ほどの声の主はもうこの世には居ないだろう。
ゲームに乗った人物が、自分の知り合いではないこと。
それだけを切に願っていた。

しばらく後、あの邪悪な魔女の声が聞こえた、死者の名前が読み上げられる
その中に居たティナと、シャドウ。
仲間が二人…死んだ。嘘だ、そんなことがあるわけが無い、そう思いたかった。
「ムース…なんで?」
パウロも同様だったらしい、先ほどの放送で呼ばれた名前の中に、仲間が居たのだ。
それ以降、顔を下に向けてずっと呟いている。
ふと、参加者のリストを見る。ティナ、そしてシャドウのところに赤線がびっしりと敷かれている。
二人が死んだということを、もう一度思い知らせるような、現実という剣だった。
自分の中からこみ上げるやるせなさが彼女を包み込んだ。

143:勇者と言う光
04/12/16 00:32:11 DohdgVuq
少したってからだろうか、キィン!という一律の音が鳴る。
外から聞こえる金属音に反応し窓から外を見る、骸骨の怪物と自分と同い年ぐらいの青年が戦っている。
見るからに青年が劣勢だ、自分に出来ることならあの怪物を倒す手助けをする。できれば情報が聞きたいけれど…
セリスは、袋から樫の杖を取り出す、武器はこれしかない、だが無いよりかはマシだ。
杖を握り、セリスは青年たちを援護しに行かんと家から出ようとする、が。
そのセリスをパウロが慌てて止める、だがセリスはその手を振り払う。
「無茶ですよセリスさん!あんなでかい怪物とそんな杖で闘うなんて!」
その顔は、会った時の臆病な顔に戻っていた、セリスは冷たく言い放つ。
「パウロ?貴方は勇者でしょう?なぜ怪物と闘うことから逃げるの?」
刺すようなセリスの一言、パウロは下を向く。
「だって僕は…いつもロランとムースの後ろから援護してるだけだった。
 あの二人が居たから、僕は戦って行けたんだ…あの二人が居ない僕なんて――」
バシィッと高く音が響く、パウロが思いっきり吹き飛ばされる。
頬が赤く腫れる、痛い、ズキズキする、でもそれは痛みじゃない別の何かが。
「じゃあ貴方は勇者なんかじゃないわ、ただの臆病な戦士よ」
え?とパウロが顔を起こす、セリスの顔は子供を叱るような母親のような顔になっていた。
「本当の勇者って言うのは一人でも、どんな危険があっても、誰かを助けようとするの、例えそれが見知らぬ人でもね」
痛い、ズキズキする。叩かれた頬より心が。
何本もの槍で突き刺されているような気分だ。
「本当に、貴方が勇者の内の一人なら…私に着いて来て、そしてあの怪物と闘って」
最後の槍をパウロの心に突刺し、セリスは民家から出た。
その言葉を受けてからパウロは少し呆けていた。
(―ロラン、僕は…僕は一人で戦えるかな?
 君なら戦えるだろうけれど僕は――)
パウロはじっと己の手を見つめた、その手に託された可能性を見つけるため。
一回頷く、ゆっくりとドアに手をかけ勢いよく開けた。
破壊神を滅ぼした三つの光のうちの一つの光が、今もう一度目覚めようとしていた。

144:勇者と言う光
04/12/16 00:33:05 DohdgVuq
【パウロ 所持品:破壊の剣(使う気0)
 現在位置:アリアハン城下町東側の民家二階
 第一行動方針:サイファー達に加勢 第二行動方針:ロランを探す】
【セリス 所持品:樫の杖 シャナクの巻物
 現在位置:アリアハン城下町東側の民家二階
 第一行動方針:サイファー達に加勢 第二行動方針:ロックを探す】

145:信じる理由 1/5
04/12/16 17:53:35 l4f14gUB
オルテガの振り下ろした斧をレオは軽く飛び跳ねて避け、哮った。
「何故邪魔をする!」
パパスは剣を構えていった。
「そなたは、自分のしようとしていることがわかっているのか?」
レオは、吹雪の剣を二人に向けて叫んだ。
「ああ、よくわかっているとも、だから、邪魔をしてくれるな!」
それをきき、パパスは唇を噛み締めて嘆く。
「事情はわからぬが、そなたほどの者が…その行為、止めねばなるまい」
パパスは瞬時にして間合いに入り、その剣をおろす。
レオはそれを受け止め、腰をかがめてパパスを抜きさる。
その先に待ち受けるオルテガの斧を、間一髪で避ける。
しかし、攻撃を連続してかわしたためか、足が縺れ体勢を崩してしまった。
捕らえようとオルテガが襲いにかかる。
レオは刹那、眼をつぶったかと思うと、次の瞬間に剣を振り上げて飛び出した。

「ぬぉぉッ!?」

剣から激しい衝撃波が生み出され、不意を突かれたオルテガはそのままひざまずく。
「貴様、いったいなにを!?」
続いてパパスが剣を振り上げた。
先の渾身のショックで、レオはうまく立ち上がることができない。
しかし、それでも再び剣を持ち直し、防御とカウンターの機会を狙う。
パパスの鋭い斬撃がレオを襲う…はずだった。
それは、ひゅんと音を立て、眼前に突き刺さったナイフに止められた。
「誰だ!?」



146:信じる理由 2/5
04/12/16 17:54:32 l4f14gUB
出てきたのは、中世的な顔立ちをした若者―パパスには、その性別の判断がつかなかった―ファリスであった。
「おっさんたち、何してるんだよ!」
ファリスが怒鳴り込むと、レオは落ち着き払ってこういった。
「ファリス、感謝する。私は再び、ケフカを追う!」
そして、今度はすっと立ち上がると、森の奥の方へと走りだした。
「なっ!?」驚きの声が三つ重なる。
「待て、どこへ行く!」ショックの傷により追うことのできないオルテガの周りを、真空の刃が巡る。
その刃は瞬く間にしてオルテガを離れ、レオに向かって動き出した。
「何をするんだ!」ファリスはそう叫ぶと、大きな火球をそれに向かって打ち出す。
「む、むううん!」
空気の断層が火をひきちぎり、真空の刃は火にうち消された。相殺。

「貴様ッ!」
パパスが怒鳴った。ファリスは向き直っていった。
「おっさん、どうしてレオを襲ったんだ?」
「あの男は、無実の人を殺そうとしたんだぞ」
ファリスは興奮していった。
「無実の人だって?誰のことだいそりゃ!レオが倒そうとしているのは、妙な男一人だけじゃねえか!
 レオがああいってるんだ、あいつはきっといますぐにでもぶっ倒さなきゃならないようなやつなんだよ!」
「何を根拠にそういうのだ?」
そういわれて、ファリスはふと言葉に詰まった。
レオとは、今会ったばかりである。レオのことなど、何も知らない。
「なんで、って…」口ごもるが、それでもファリスは、レオのことをなんとはなしに信用している自分に気づいた。



147:信じる理由 3/6
04/12/16 17:55:28 l4f14gUB
「…たしかに、戦いの途中、彼から邪気は感じなかった」
少し離れたところから、オルテガが口を挟んだ。
「オルテガ…大丈夫なのか?」
「ああ、まだ少し痛むがな。とにかく、私も彼をなかなか悪人とは思えないことも事実だ」
「邪気を感じない、ということには同意しよう。しかし…」
「まあ、待て。あの男の、あの状況にして咄嗟にだした一撃…予想だにしなかったこととはいえ、ものすごい威力だ。
 相当に名のある武人に違いない。そしてあれは、少なくとも暗黒の力ではなかった」
「そうかもしれぬ。さりとて、簡単に信用できるものでもない」
「ならば、あの傷ついた男のいうこともまた、鵜呑みにするべきではないだろう」
「…なるほど」
パパスはここにきて、うんと唸った。
ファリスはこの壮年の二人がいったいなんの話をしているのか、よくわからなかった。
どうも風向きが変わったなとだけ、感じ取った。

不意に、パパスが口を開いた。
「私の名はパパス。向こうにいるのはオルテガだ。そなたの名は、何という?」
「俺か?俺は…ファリスだ。信用してくれたのか?」
「いや…そなたのいうことも一理あると思っただけだ。真実はわからぬ。おそらく、そなたもそうであろう」
「…ああ、でも…」
「この状況だ、何があってもおかしくはない。裏切られる、ということもあろう」
「……」
ファリスは押し黙った。



148:信じる理由 4/6
04/12/16 17:56:51 l4f14gUB
「知り合いはいるのか?」
ふと、オルテガがたずねた。
「…いるよ。だけど、もう、一人…」
皆までいわずとも、どういうことかははっきりとわかる。
「そうか…。それで、おまえはこれからどうするつもりなんだ…?」
「残りの仲間を探す。妹と、あいつ―」
「妹、か…」パパスが言った。
「このゲームでは、まずわかっていなければならないことがある。
 仲間だから信頼できるのではなく、信頼できるから仲間なのだ。
 それがわからず、取り返しのつかないことになる者もいよう…いや、既にいるのかもしれぬ。
 その意味で、血の繋がりというのは…格別だ」
「…バッツは、信用できる」
「すまない、血の繋がらない仲間は信用できないといったわけではない」
もちろん、ファリスのレナに対する信頼は、血の繋がりが大きく影響しているのは間違いがない。
…しかし、バッツに対してはどうなのだろう。
バッツへの信頼感の源は、なんなのだろうか。



149:信じる理由 5/6
04/12/16 17:57:44 l4f14gUB
――バッツ?レナたちと宿屋にいたんじゃなかったのか?
――ちょっと逃げてきた。まったくあいつら、口を開けたら止まらないんだよ。
――ああ、わかるぜそれ。なんていっていいんだかわからないんだよな。
――ほんとにな。女ってのはみんなああなんだから、どうしたもんだろ。
――……
――ん?どうしたんだ、ファリス。
――バッツ……
――うん?
――俺も、女なんだけど…
――……ああー、そういえばそうだったな、わりぃ、忘れてた。
――ガスッ!
――痛ってーー!やっぱおまえ男じゃないのか!?
――うるせえ!ぶん殴るぞ!
――もう殴ってるじゃねーか!
――うるせえ、うるせえ!俺はもう寝る!
――なっ、ちょ、ちょっと待て、待てったら………ファリス………………

なんとなく、思い出した。
覚えているのは、男扱いされて怒ったことなど、なかったから…。
でも、どうして今こんなことを?いや…



150:信じる理由 6/6
04/12/16 17:59:27 l4f14gUB
ファリスの思考を、雷鳴が遮った。
「なんだ…?」オルテガが呟く。
今度は、崖崩れが起きたかのような爆発音が聞こえた。
「…行こう」「ああ」二人はその方向へと駆けだした。
「お、おいっ!」
ファリスの呼びかけに呼応したわけはないだろうが、パパスが振り向いた。
「妹がいるといったな」
「あ、ああ…」
「このゲームで…命を懸けても、守りきるのだ。いいな」
そういうと、パパスは踵を返して、レオとは反対方向の、森の奥へと消えていった。
ファリスはぼんやりと、パパスの言葉の重さも知らないで、ただなんとなく、
姉じゃなくて兄に思われてるのかなあ…と考えていた。



【レオ 所持品:吹雪の剣 鉄の盾 神羅甲型防具改
 第一行動方針:ケフカ殺害 基本行動方針:ゲームに乗らない】
現在位置:レーベ南の森南東部→奥

【ファリス 所持品:王者のマント 聖なるナイフ 
 第一行動方針:? 第二行動方針:仲間を探す】
現在位置:レーベ南の森南東部
※ファリスがオルテガたちの後を追うかどうかはわかりません

【オルテガ 所持品:ミスリルアクス 覆面&マント
 第一行動方針: 第二行動方針:アルスを探す
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【パパス 所持品:パパスの剣 ルビーの腕輪
 第一行動方針:レオを止める 第二行動方針:仲間を探す
 最終行動方針:ゲームの破壊】
現在位置:レーベ南の森南東部→音の方向(南部、ピエールたちのいる場所)


151:覚悟1/2
04/12/16 18:58:38 qmIoh3ho
―殺された、自分達のせいで。

―もういない、ラグナもエーコも。


「畜生…!」

(フン、負け犬の遠吠えだな。)

マッシュの頭の中で誰かが応える。
―兄弟子のバルガス。

まだダンカン師匠に弟子入りしたての頃、何度試合をしても奴にはかなわなかった。

(畜生…!なぜだ、なぜ…勝てない?)

打ちのめされ、傷だらけで地面を這いながら何度も俺はそう呟いた。
そしてそんな俺に、何度も奴はこう吐き棄てた。

(ふふ…、才能の差だ。俺は師匠の実の子だからな。赤の他人であるお前とは違う。)

―こんな時にあの頃を思い出すなんて。修行不足なんて言葉じゃあ…済まされないな。

2人の亡骸を前にして跪いたマッシュの目に、とめどなく涙が溢れた。


152:覚悟2/2
04/12/16 19:01:29 qmIoh3ho
「弔って…、やらなくちゃね。」声が、震えていた。
アイラは平静を装ったつもりだった、こみ上げてくる言いようの無い怒りと悲しみをこらえて。

(恐らく2人ともすぐには立ち直れないでしょうね、さっき助けた彼女も頭を抱えて震えているし…
 ここで私がしっかりしなきゃ…、…?)

―それは取り越し苦労だった、涙を払いながらゆっくりと立ち上がる2人。

―彼等は強い。
話を聞いたわけでも、本を読んだわけでもない。
それぞれの世界で、それぞれの困難に立ち向かいそれを打破した者たち。自分と同じその力を彼女は感じ取っていた。
物からではなく人々の記憶からでもなく、今目の前に息づくそれそのものの存在から直に。

「そうだな、人殺しの…せめてもの罪滅ぼしだ。」
スコールは言った。何か吹っ切れたような、清廉な表情で。

「とりあえずアイラは脅えてるそいつに付いててやってくれ、あとは俺達がやる。」

そう言って振り返ったマッシュの目は、ティナを信じたあの時と同じ光が宿っていた。

「ええ、分かったわ。私もくよくよしていられないわね。」
アイラは、励まそうとした二人に逆に励まされた気がした。

(もうこれ以上誰も殺させない、仲間は俺達が守る。)

2人の覚悟が宿った表情を、青白い月灯りがより洗練なものにしていた。

153:覚悟
04/12/16 19:02:40 qmIoh3ho
【スコール 所持品:天空の兜、貴族の服、オリハルコン(FF3) 、ちょこザイナ&ちょこソナー、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
【マッシュ 所持品:ナイトオブタマネギ(レベル3)、モップ(FF7)、ティナの魔石
 第一行動方針:2人の弔い 第二行動方針:ゲームを止める】
【アイラ 所持品:ロトの剣、炎のリング、アポロンのハープ
 第一行動方針:ティファの介抱 第二行動方針:ゲームを止める】
【ティファ 所持品:コルトガバメント(予備弾倉×5)、エアナイフ
 第一行動方針:不明】【現在位置(四人共通):東山脈中央部の森・川辺付近】

154:小五ロリ 1/4
04/12/16 19:16:59 39AOIalb
死闘から一寸時を刻んだ後…
セージはビアンカの支給袋を勝手に弄っていた。
本人の許可が無いのは気が引けるが、疲弊している女性を起こすのはもっと気が引ける。
何か武器が無いかと探していると……何かを掴んだ。

「なんだか同じような手順を踏んでる気がするけどねぇ…」

またハズレなのか、という思いが脳裏を駆け巡る。
実際、中の手触りは紙だ。もうその時点で武器ではない。気分は最悪。
一気に手を出すと、その手に握られていたのは…とても見知ったものだった。

「うわ、懐かしいなまた」

出てきたのは、巻物。
開くとやっぱり。小難しいことが書かれている。

「お兄さん、これは?知ってるものなの?」
「ああ、もう懐かしすぎてたまんないね。
 これは悟りの書といって、僕が賢者となる為に手に入れなければならなかった道具なんだ。
 これを"神に選ばれし人間"が理解して、特別な修行をすると"賢者"を名乗れるようになる」

タバサに手渡すと、最後にこう付け加えた。

「早い話、僕の為の魔法教法」

155:小五ロリ 2/4
04/12/16 19:18:32 39AOIalb

タバサはセージの言葉を聞いた後、静かに悟りの書を開いた。
「セージがかつて使っていた魔道書」と言う肩書きに惹かれたのだ。
要するに、深い探究心と好奇心だった。


――なんだろう。
理解はできないけど、何か不思議な感じがする。でも嫌な感じじゃない。
この本が魔力を持ってるのか…内容に秘密があるのか…
それはよくわからないけれど、凄い物だと思う。

「魔力という概念」「魔術師と僧侶の力の根底」「"呪文"の定義」
「"悟り"とは何か」「魔力と全ての生物の関係」「魔道の光と闇」

軽く流して呼んだだけでもこれほどの事がかいてある。
本格的に読み取ってみると、もっと細かい知識が詰め込まれている。

グランバニアの本には書いていない話が、
グランバニアの魔術師が教えてくれない経験が、
グランバニアの…いや、全ての世界の本や魔術師が「知らない」領域が、
その全てが、この巻物に詰め込まれているとすら感じてしまって――

「…~い…バサ……タバサ~、ねぇタバサ。お~い…」
「………え?ええ…え!?あ、はい!!」

周りの音が聞こえないほどに、没頭してしまった。

156:小五ロリ 3/4
04/12/16 19:22:55 39AOIalb


「面白かったかい?」
「うん…何か知らなかった事が多すぎて、私の世界の人も知らないことがあって…」
「魅力を…感じた?」
「うん!凄く!ねぇお兄さん、もし良かったら…これ貸して!お願い~!」
「え?ああ、良いよ。理解できなくても暇つぶしにはなるだろうし、少しでも理解できたら儲けものだしね」
「ありがとう!」

タバサが子どものように…いや、この姿が正しいのだろうが、はしゃいで喜んだ。
そしてすぐに、また巻物を開いた。熱心に読んでいる。並みの子どもは持っていない集中力だ。

それを見た後、セージがベッドに視線を移した。
静かにビアンカが寝ている。汗が引き、静かに眠っていた。
「とりあえず越えたね…峠は」と、安心した様子で視線をタバサに戻すと…

「あらら、寝てるじゃん。まぁ子どもだもんねぇ…はは、仕方ない仕方ない」

セージは軽く楽しそうに笑い、
寝ているタバサの隣にある袋に手を伸ばした。
そして悟りの書を、そっとタバサの袋の中に入れてあげた。

そして思う。

157:小五ロリ 4/4
04/12/16 19:24:06 39AOIalb



あの子は確かに、そして明らかにあの巻物の内容について答えた。
勿論浅くだろうが…内容を読み取れるという何よりの証。

更にあの子は、あの書に魅力を感じた。
この世の理すらも書き連ね、優秀な魔術師も根を上げる程の…あの書の重みも感じなかった様だった。

もうこれは、才能という領域を超えているのかもしれない。
何が「少しでも理解できたら儲け物」だ。
この書を持ったものは、神に選ばれし者を除いては全て「理解できない」のだ。
「少し勉強になったかも」とか、そんな中途半端な感想は絶対に得られない。

「ナルシストだ」と言われようが、自分に非は無い。
本当に賢者は「神に選ばれし者」だ。そしてあの書を理解できるものもまた「神に選ばれし者」だ。
かく言う自身も…この世界で神に選ばれ、そうなるべくして世に生を受けた様なものだ。
だが、あの子は別の世界で生まれた。その世界で「天空の勇者」と呼ばれた人間の子孫として…。
この子は特別だ。そしてもう、その道の軌道に乗っている。

「兄が勇者なら妹は賢者…か?
 だけどこの子…僕の様な魔道に詳しい人間が教授すれば……化けるぞ」

そこまで思考を進め、彼は眠る事にした。

明日はどんな修羅場が待ち受けているのか。
そしてこの子がどう成長していくのか。

そう考えながら。

158:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/12/16 20:14:40 3eZb/q7d
【セージ 所持品:ハリセン・ファイアビュート
 現在位置:いざないの洞窟近くの祠内部の部屋
 第1行動方針:睡眠 基本行動方針:タバサの家族を探す】
【タバサ 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑・悟りの書 
 現在位置:同上 
 第1行動方針:同上 基本行動方針:同上】

【ビアンカ(疲労回復) 所持品:なし
 現在位置:同上 
 第1行動方針:睡眠中 基本行動方針:不明】

だそうです。

159:殺人嫌悪
04/12/16 23:13:29 N/m/9JYs
「うっ、がぁっ、ゲホゲホッ」
胸の中が熱い。胃の中の物が込み上げる。
思わず中のモノを吐き出す。誰かに見られていては出来ないことだが。
―冗談じゃない。アレは…何だと言うのだ!
自分にあるのは生き残りへの願望だ。
それは正しい。人間である者に平等に与えられた欲望だ。
―だが、アレは何だと言うのだ!
生き残るために手段を選ばないのなら、分かる。
―だが、アレは何だと言うのだ!
見た目は貴族風だったと思う。
否、寧ろ王族のようだった。
それが、何をした?
生き残るために誰かを殺したのではない。
己の本能、欲望、そして…快楽。
そのために人を殺したか。
―アレは何だと言うのだッ!
認めるか。
確実に、このゲームは、人の心を蝕んでいるのだと。
そして、狂気に満ちたあの『怪物』の存在を。
自分の見た映像が心から早く消え去ることを祈った。
知らずの間に己に芽生えた殺人に対する嫌悪感などに、気がつくはずも無く。
「未だ、様子を見る必要があるか」
未だ拭えない吐き気を抑えながら、再び大地に目を向けた。

【アルガス(視覚聴覚向上) 所持品:無し 現在位置:ナジミの塔最上階 
 行動方針:偵察し、使えそうな人物をこのステージの間に捜す
 第二行動方針:多くのアイテムを集めておく
 最終行動方針:どんな手を使ってでも生き残る。但し、本人は気づいていないが殺人に対して嫌悪感アリ】

160:静かなる・・・
04/12/17 01:45:52 Vphp0qAV
鳥の鳴き声が途絶えたのはいつだったか。
けたたましく、響きわたっていた、フクロウの声はどこへ消えたか。
ザックスは上方を仰いだ。
さくり、と草を踏む普段は気にもならないような音がやけに騒々しく聞こえる。
ザックス達3人はマシンガンによる奇襲者から少しでも距離を稼ぐべく、
さらに樹々の間隔がせばまった感のある 森の奥地へと入り込んでいた。
押しつぶされそうに濃い緑の間からもれる月の光は、ほんのわずかしかない。
「……静かですね」
シンシアがささやくように言った。互いの呼吸音さえ鮮明に聞こえる程の静寂の中で、地声は不要だった。
「そうだな…」
しん、と澄みわたる空気に、自分の呟きが吸い込まれていくような。
そんな錯覚をおぼえながらも、ザックスは別のことを考えていた。
「ザックス?」
自分の緊張が伝わったのか、ランドが不安そうに声を揺らした。
「……知ってるか、ランド」
肩に引っかけたザックを、わざと音を立てて担ぎなおす。
「音のない森には何もいないんじゃない。何かがいるんだ」
森に住む生物は、食物連鎖の上位に立つ存在を確認したとき、いっせいに息を潜める。
ここに餌になるものは居ないのだと、主張するかのように。
「それってつまり…」
「…ああ、オレ達の他にも誰かがいるってことだ。それも割と近くにな」
ランドの喉が緊張のためかごくり、となった。
―そしてシンシアの持つ対人レーダーに新たに2つの反応を捕えることになるのは、
間もなく数秒後のことだった。

【ザックス 所持品:スネークソード 毛布 
現在位置:アリアハン北部の森奥地 
第一行動方針:襲撃があった場所から離れる 第二行動方針:主催者に一泡吹かせる】
【シンシア 所持品:万能薬 対人レーダー 煙幕×2 毛布 
現在位置:同上  行動方針:ザックスについて行く】
【ランド 所持品:オートボウガン 魔法の玉 毛布 
現在位置:同上 行動方針:ザックスたちについて行く】

161:魔物の襲来1/4
04/12/17 17:36:26 mRmWV17t
冷えきった夜風が顔を叩きつけ、その拍子にハッと目が覚めた。
どうやらうたた寝していたらしい。辺りを見ると、世界はすっかり闇に包まれている。
なんてこった。屋根の上などという見晴らしのいいところで、堂々と居眠りするなんて。
目を凝らし、闇に目を慣れさせようとすると、あの忌々しい記憶がに再び蘇った。
悲鳴を上げ、混乱して泣き叫ぶ女性。
わけの分からないことを言いながら、その女性を八つ裂きにする若者。
カインは頭をぶんぶんと横に振り、なんとか振り払おうとした。
しかし、あの光景が鮮明に目に焼きつき、脳裏から離れようとしない。
――いつまでもこんなところにいるのは危険だ。どこかに身を隠してゲームの様子を伺おう――
混乱し、しかしどこか冷静な頭がそう告げる。
彼がそれに従い、屋根から移動しようとした、その時だった。あの魔物の声が聞こえたのは。
「見ぃつけた」
カインは凍りついた。あいつが、いや、アレが、まさかこんなにも早く自分の前に再び現れるとは。
今一番見たくなかったアレが…もはや魔物に、いや、それよりも醜い存在であるアレが!
震えあがるカインを正面に見据え、デールは続ける。
「お前はマリア義姉さんを壊した時にいたな?…あの時の続きだ。こいつと戯れろ。」

162:魔物の襲来2/4
04/12/17 17:37:13 mRmWV17t
あの時自分を襲った得体の知れない武器。
それが再び金切り声をあげようとする寸前、カインは咄嗟にジャンプして回避した。
一瞬前まで自分が座り込んでいた屋根が無数の鉛に襲われ、蜂の巣のようになっていくのを尻目に、
着地して最初に視界に入った民家のドアを蹴破り、中に逃げこむ。
テーブルを倒し、その裏側に隠れた瞬間、またも鉛の風が先ほど蹴破ったドアの方から吹き荒れた。
鼓膜が破れそうなほどの轟音がし、家の中にある全ての物が破壊されて行くなか、アレが狂った叫び声を上げた。
「逃げるなああ!僕に壊されて死んでしまええぇぇぇぇえぇえ!!!」
ぞっとするような、悪魔の雄叫び――それを聞きながら、カインはこの劣勢を打開する策を練っていた。
この状況下で、相手の不意をつき、かつ自分にできる確信がある行動…竜騎士には、短時間では一つの策しか思いつかなかった。
相手の周りはさっきから謎の飛び道具を乱射しつづけたせいで、白い硝煙と火薬の匂いに包まれている。
そのせいでこちらの動きはまったく見えない筈だ。だとすればやるなら今しかない。

槍を垂直に上へ向かせ、自らも真上へ飛びあがった。

ランスオブカインは天井を屋根を貫き、一気にレーベの村の上空まで使い手を舞い上がらせた。
今度は逃げるためのジャンプではない。挑むために。あの魔物の息の根を止めるために。
上昇がとまり、村への落下が始まるのを確認した上で槍を真下に向け、狙いを定める。
硝煙で出来た白い塊めがけて、一直線に降下し…

ガシャッという妙な音がした。
槍があの得体の知れない飛び道具を貫き、破壊したのだ。
これさえなければ後は簡単、剣に関しては素人のあいつに負ける筈はない。…はずだった。

163:魔物の襲来3/5
04/12/17 17:39:34 mRmWV17t
辺りにはあの魔物の姿は見えなかった。
恐る恐る、足元に転がった武器を見てみると、カインは目を見開いた。
武器を握っていたのはあいつじゃない。指輪をはめた、細い指…それが柄に巻きついているだけだ。
武器の方も両側の壁から紐で固定され、丁度人が持っている高さに合わせてあった。
なんてこった。相手の動きが見えていないのは俺も同じじゃないか!
気づいた所でもう何もかもが遅い。

背後からの殺気に振り向く間も無く、槍を持った左腕は根元から斬り落とされた。

「っっっぐああああああぁああぁぁああっっ!!!!」
なにが起こったかわからない。
ただ確かなのは、左腕を失った事、自分が痛みに絶叫を上げた事、そして…魔物が背後に立っている事。
「…綺麗な声じゃないか。マリア義姉さんの歌を真似たのかな?」
言いながら、デールは彼の右足に剣を突き刺す。
「ぐッく…か…」
「結構結構。鈍くて太くて、義姉さんとは違う良さだ。もっと聞かせておくれ。」
今度は左足を刺した。

164:魔物の襲来4/5
04/12/17 17:42:22 mRmWV17t
…俺って、駄目な奴だな…
バロンにいたころも常にセシルに上に立たれ、ローザにも告白できずにいた。
―ドウシタ?モット聞カセテオクレヨ――
その劣等感からか、ゴルベーザの誘惑から逃れられなかった。
裏切り者の汚名を着せられる代わりに、セシルを超える力を得た。
―壊レタワケジャナイダロウ?ソノタメニ手加減シテヤッテルンダカラ…
そのくせ、あっさりとセシル達の本に戻ったんだよな…
彼等の敵になりきれず、どっちつかずの中途半端な立場に立ちつづけて。
―…オイ!ナントカ言エ!――
だから再び彼らを裏切ってしまった。そして、またもあっさりと寝返った。
それでも、セシルは俺を許してくれた。
親友として育っていながら常に敵対意識を持ち、二度も裏切った俺を。
―ナントカ言ッタラドウナンダ!エエ!?―
その時、俺ははっきりと悟った…セシルには勝てないと。
こいつは、俺よりも遥かに大きい人間だと。
それに引き換え、ゼロムスを倒した後も山に篭り、あいつの顔を見る事すら出来ない俺…
そして今、殺人者にもなりきれず、途中で倒れてしまう俺…
―…シネ…―



165:魔物の襲来5/5
04/12/17 17:43:34 mRmWV17t









   俺   っ   て   、   駄   目   な   奴   だ   な   …











【デール 所持品:リフレクトリング(マリアの指にはまったまま)、アラームピアス(対人)、ひそひ草、アポカリプス+マテリア(かいふく)
 現在位置:レーべの村
 第一行動方針:バーバラと会い、殺害する 第二行動方針:皆殺し(ヘンリーが最優先)】

【カイン 死亡】

銃声や悲鳴はレーベ村周囲まで響いてます。

166:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/12/17 19:58:39 mRmWV17t
>>161-165は無効です。
詳しくは感想スレにて。

167:誰が誰を殺したか 1/7
04/12/17 20:22:26 7Ic1WgoN
【21:06】
 アーヴァインは、ベッドの中で必死に眠りにつこうとしていた。
 元来のナイーブな性格、そして状況が状況ということも手伝い、睡眠状態に入っても三十分程度で目が覚めてしまう。
 それを何度も繰り返した挙句、彼はついにベッドから身を起こした。
 眠れないといっても休むことは休めたし、夕飯も食べたので、疲労感は大分減っている。
 帽子をかぶり、相変わらず血のついたままのコートを羽織って、額を抑えながら扉をくぐった。
 見張りをしていたピサロは、寝室から出てきたアーヴァインを一瞥したが、沈黙を続ける。
 「オジサン、誰~?」
 アーヴァインは微妙に眠たそうな声で、わざとらしく目をこすりながら話し掛けた。
 「……ソロの知人だ」
 ピサロは不機嫌そうに答える。
 人間への感情がそうさせたのか、オジサン呼ばわりが不服だったのか、どちらが原因かはわからない。
 けれどもアーヴァインは気に留める様子もなく、いつものように微笑みながら言った。
 「ふーん。ソロ、知り合い多いんだね~。
  やっぱり人柄って奴かな。すっごい親切だし、色々できるし、きっと女の子にもモテモテなんだろね~」
 「………」
 「あ、そうだ。オジサンさぁ、銃とか持ってない?」
 「ジュウ?」
 ピサロには聞きなれない言葉だった。それで初めてアーヴァインに興味が湧いたらしく、彼の顔を見る。
 「ジュウ、とはなんだ?」
 「知らないの? うーん……説明しづらいけど、鉄製の筒にボウガンみたいな引き金がついてる奴だよ。
  火薬入りの弾を込めて、筒の中で火薬を爆発させて、その勢いで弾を撃ち出すって武器なんだ」
 「鉄製の筒……ビビの袋に入っていた、アレのことか?」
 ピサロの呟きに、アーヴァインは目を輝かせる。
 「持ってるの?!
  僕、もともと剣より銃の方が得意なんだ。持ってるなら譲ってほしいんだけど」
 ピサロは答えない。その顔には、拒否の意思が露骨に表れている。
 「この剣と交換でも、ダメ?」
 「悪いが間に合っている。それに、見ず知らずの人間に武器をくれてやるほどお人よしになった覚えはない」
 「そっか……それもそうだね。ゴメンナサイ、わがまま言っちゃって」

168:誰が誰を殺したか 2/7
04/12/17 20:26:45 7Ic1WgoN
 アーヴァインはあっさりと引き下がり、頭を下げた。それから突然思い出したように言う。
 「そうそう。目が冴えちゃって眠れないから、少し外に行ってきてもいいかな?」
 「勝手にしろ」
 どうしようもなく突き放された返事だったが、それでもアーヴァインは笑顔を崩さない。
 「うん、そうするよ。でも、帰ってきたら五回ノックするから、そうしたら中に入れてね」
 ひらりと身を返すアーヴァインに、ピサロはふと、顔を上げる。
 「待て。朝になる前に、その服をどうにかしておけ。連れの娘が目覚めたときに騒ぎ出す」
 「え、服? 騒ぎ出すって……あ、もしかして血が怖いとか?」
 「そうだ」
 「わかった。ついでだし、着替えも探してくるよ」
 飄々と外に出て行くアーヴァインを、ピサロは相変わらずの冷めた視線で見送った。

【21:43】
 ギルバートは、一人でベッドに寝そべっていた。
 彼もどこぞの誰かと同じように、眠れぬ意識を闇に沈めることに全力を注いでいたのだ。
 けれども、彼もやはりシーツを捲って飛び起きることになる。
 ただしアーヴァインとは違い、ギルバートは窓の外から鳴った音に反応しただけだ。
 こんこん、という、風の揺れでは有り得ないノックのような音に。
 「誰か、いるのか?」
 その言葉に答えるかのように、再びこんこんと音が鳴る。
 ギルバートは身をかたかたと震わせながら、それでも窓に手をかけた。
【22:01】
 待ちくたびれてテーブルに突っ伏していたバーバラは、ノックの音で跳ね起き、慌てて扉を開けた。
 戸口に立つ青年を見て彼女は首を傾げ、すぐに何かを思い出したようにポンと手を打つ。
 そして、彼女は青年を家の中へと招き入れた。
【22:05】
 エリアとレナは同じ部屋の中で、修学旅行中の女学生のごとく、仲良くお喋りをしていた。
 そこへ寝室にいたギルバートが、「外に行ってもいいかな?」と聞いてきた。
 臆病なギルバートが夜に一人で外に出て行くなんて……
 珍しいこともあるものだと思いながらも、レナは「気をつけて」と返事をした。
 ギルバートが去ってから、エリアが「明日、雨が降るかもね」などと呟いたが、二人ともそれ以上は気にしなかった。

169:誰が誰を殺したか 3/7
04/12/17 20:30:15 7Ic1WgoN
【22:12】
 カインは、赤い髪の少女と青年が揃って民家を出るのを確認した。
 二人は一旦別れ、赤い髪の少女が小走りでどこかへと向かう。
 それを見て、カインは冷笑を浮かべた。
【22:14】
 一人の若者が、町の入り口に立っている。彼は羽飾りのついた帽子をかぶりなおし、静かに歩き出した。
【22:16】
 空を見上げるアーヴァインの背後に、一つの影が近づいていく。
 影は彼の耳元で何事かを囁く。アーヴァインは目を見開いて、人影を振り返った。
【22:21】
 宿屋の外で血飛沫が上がったが、誰も気付かない。
 宿屋の中からでは直に見ることができない場所で、静かに行われた出来事だったので。
 そして見張り役のピサロは銃に興味を持ち、色々といじりまわしていたので。
【22:25】
 カインの目が、逃げるバーバラと追うデールの姿を捉えた。
 鬼ごっこが始まったようだ。さて、彼女はどこまで頑張れるか。
【22:27】
 顔の半ばまでをマントで覆い、赤い羽付き帽子を頭にのせた男が
 血溜まりに落ちたカウボーイハットを見つめている。
 その傍には数mほど何かを引き摺ったような跡が、砂に滲んだ赤い線とともに残されている。
【22:34】
 カインは屋根の上に佇み、あの時と同じように下界の様子を眺めている。
 彼の眼下で繰り広げられる光景も、あの時のソレと良く似ている。
 いや、似ているどころか、二人の登場人物のうち片方はあの時の『アレ』だ。
 最も、もう片方の赤い髪の少女は、無抵抗どころか必死の形相で逃げ回っているが……
 そろそろ痺れを切らした『アレ』が、マシンガンを撃ち始めるだろうとカインは読んだ。
 第一、そうしてくれなければ彼としても困ることになる。
【22:36】
 タイプライターにも似た銃声が、レーベの夜空を震わせた。

170:誰が誰を殺したか 4/7
04/12/17 20:31:37 7Ic1WgoN
【22:37】
 宿屋の屋根の上に、赤い羽つき帽子をかぶった人影が立っている。
 彼の眼下では、ソロとビビとピサロが険しい視線を赤い水溜りに向けている。
 ソロが青ざめた表情で、大きな切り傷のついた帽子を拾い上げた。
 彼の中で、山奥の村での記憶と目の前の光景がオーバーラップする。
 帽子からこぼれた、やはり血濡れの茶色の髪に、彼は虚ろに呟いた。
 「なんで……どうして、こんな……」
【22:39】
 エリアとレナは、地面の上に倒れたギルバートの傍にくずおれていた。
 彼の胸は何かで刺し貫かれていて、そのくせ出血は殆ど無く、はたから見れば道端で眠っているだけのようにも見える。
 けれども彼が既に息絶えていることは、間違いようのない事実なのだ。
 二人は泣いた。その涙が、蝋人形より白く変わった頬に落ちて弾けた。
【22:43】
 バーバラは窮地に追い込まれていた。
 足はいい加減に限界に近い。けれども止まれば、すぐに銃弾が彼女の胸を撃ち抜くだろう。
 彼女は涙をいっぱいに溜めながら叫んだ。
 「ひどいよ―約束が違うよぉ!!」
 その言葉が、本当は誰に向けられたものなのか。真意を知るのはバーバラと、二人だけ。

【21:15】
 ピサロに言われたとおり、店で服を探して適当なモノに着替えたアーヴァインは
 夜風の涼しさを身に受けながら、地面を蹴って屋根の上へと飛び上がった。
 目的は二つ。周辺の地理を確認し、いざという時の逃走経路を確立するためと……
 先ほどの赤い髪の少女、あるいは彼女の行き先を知っていそうな人物を探すためだ。
 そうして高みに飛び移った彼は、自分と同じように月下に佇むカインの姿を捉えた。
 カインも彼に気付いたか、無言で槍を構える。アーヴァインは剣を抜く―わけもなく、わざと大げさな身振りで両手を上げた。
 そのポーズのまま宙を跳び、カインの近くへ着地する。
 「まだ起きてる人もいるし、こんなところで戦ったら絶対に聞こえるよ。
  寄って来られても困るし、面倒でしょ? ここはちょっと、休戦ってことにしてくれないかな」
 「……」

171:誰が誰を殺したか 5/7
04/12/17 20:36:23 7Ic1WgoN
 カインは一瞬の躊躇を見せたが、勘が目の前の男も自分と同じ人種なのだと告げたか。
 あるいは、先ほどのショックが未だ抜けきれていないがためか。
 ともかく彼は槍先を静かに下げ、「何の用だ?」と聞いた。
 アーヴァインは自分の名を名乗ってから、手短に用件を告げる。
 「赤い髪の女の子を探してるんだ。見かけたなら、どこへ行ったか教えてほしいんだよね~」
 「赤い髪……この家に一人いるが、女の子という年齢ではないな。写真はないのか?」
 アーヴァインは自分の袋から参加者リストを取り出し、ページを開いてカインの足元へ滑らせる。
 「その子だよ。名前はバーバラっていうらしいね」
 「ッ……バーバラ、だと?!」
 カインの声に、驚愕と、ほんのわずかな恐怖が混じる。
 「知ってるの?」
 「アレが呼んでいた名だ」
 「アレ?」
 「見た目は貴族か王族風の男。中身は人を壊すことしか考えない化物だ」
 「コワ、ス? コロスじゃなくて?」
 首を傾げるアーヴァインに、カインは先ほど見たことの一部始終を語った。
 話が進むにつれ、アーヴァインの顔に「聞かなきゃ良かった」という色がありありと浮かんでいく。
 「わーぉ……本当にサイアクだね、ソレ。
  僕も人のこと言えた義理じゃないけどさ……でも、さすがにそこまではやれないし、やらないよ。
  ―で、ソイツがバーバラって名を呼んで、しかも女性と待ち合わせしてるってコトは……」
 「言い方からして、以前からの知り合いというわけではなさそうだった。
  それに奴が歩いてきた方角と、待ち合わせ場所になる施設を考えれば」
 「答えは一つしかない、ね」
 カインはうなずき、大きく舌打ちした。一方、アーヴァインは顎に手を当て考え込む素振りを見せる。
 「ねぇ、モノは相談なんだけどさ」
 その瞳に宿る輝きは、大胆不敵にして冷徹な、プロの狙撃手のものだ。
 「多分、僕とオジサンって同じこと考えてるクチだと思うんだよね。
  だから正直に話すけど、バーバラは僕の武器を盗んで逃げた。
  そして今の話からすると、まだこの村にいる可能性が高いってことになる」
 「……取り戻すのに手を貸せ、と?」
 カインは鋭い眼光をアーヴァインに向けた。アーヴァインも、微動だにせず視線を受け止める。

172:誰が誰を殺したか 6/7
04/12/17 20:44:16 7Ic1WgoN
 「盗られたのは小手とボウガンとナイフ。小手はオジサンに譲るよ。
  僕はボウガンが戻ればそれでいい。
  それともう一つ―どうせ目的が同じなら、いっそのことこれから先も手を組んだ方が早くない?
  二人で力を合わせれば、この状況を利用して一気に人数を減らせるかも……ってね~」
 カインはアーヴァインの言葉を黙って聞いていたが、やがて、にやりと唇の端を吊り上げた。

【22:42】
 「どうだ、そっちは?」
 カインは、背後に降り立ったマントの若者に声をかける。
 「イイ感じ。でも、難しいのはここからだけどね。
  あ~あ、やっぱりきちんとした銃がほしいな~。後で奪ってこようかな~」
 緩いウェーブのかかった茶色の髪。そして、真冬の海を思わせる、深い青の瞳。
 ギルバートの帽子とマントを纏ったアーヴァインは、シニカルに笑う。

 最初にバーバラに会ったのはアーヴァイン。
 彼女にカインから聞いた話を伝え、デールを引き付ける囮となるように説得したのだ。
 窮地になったら助けると言いくるめて―もちろん本当に助けてやるわけも、そうするだけの義理もない。
 ボウガンと小手はその時に返してもらっている。信用させるために、ナイフは彼女にくれてやった。
 そして、ギルバートを外へ誘き出し気絶させたのは、数度だが面識があったカイン。
 彼を宿屋の前で始末したのはアーヴァインだ。
 心臓を貫いた死体を民家の前に運んだ後で、彼は自分の帽子と一束の髪を斬り、
 ギルバートの血痕と組み合わせて自身の死を印象付ける小道具に仕立て上げた。
 もちろん姿を見られてはまずいから、ギルバートのマントとついでに帽子を奪い、簡単に変装をして。

 銃声を聞かせて、余裕と冷静さを奪う。直後に人の死を見せ付けて、平常心と判断力を奪う。
 ここまでは上手くいった。だが、問題はこの先だ。
 それとは知らずに陽動役を果たすデールを―忌々しいが―多少は援護しないといけないし、
 ある程度戦力が分断したら、さらに騒ぎを起こして混乱させなくてはならない。
 そうしてパニックが広がりきったところで、本格的な襲撃に移る―そこまでが、二人の『計画』。
 だが、果たして九人の標的がこの先どう動くか。こればかりは予測がつかない。つけようもない。


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