FFDQバトルロワイアル3rd PART2at FF
FFDQバトルロワイアル3rd PART2 - 暇つぶし2ch50:聞こえた音 3/3
04/12/01 18:57:20 FVsct8gi

―― …キン…カキィ…

(…やっぱり、剣の音じゃねえか!)
微かな、それでも確かな音にギルガメッシュは瞠目する。
わるぼうとサリィは相変わらず疑問符を浮かべているが、自分には間違いなく聞こえた。
誰かが剣を交えている。多分、そんなに遠くない場所で。しかし、一体誰が?
(まさか…バッツ…じゃあねえだろうな…?)
ありえない話ではない。
一度そう思うと、気になって仕方がなくなってきた。ギルガメッシュは勢いよく立ち上がる。
「すまん、ちょっと様子見てくるわ!すぐ戻るから待ってろ!」
そう言うや否や、夜の平原を全力で駆け出した。
わるぼうの「おい!?待て!!」という声を、背に聞きながら。



【ギルガメッシュ 所持品:厚底サンダル 種子島銃
 現在位置:レーベ北の平原→レーベ西の平原、レオンハルトとベアトリクスの所へ
 第一行動方針:様子を見に行く 第二行動方針:剣が鍛えられあげるのを待つ】

【わるぼう 所持品:ビームライフル (後何かを所持)
 現在位置:レーベ北の平原 第一行動方針:剣が鍛えられあげるのを待つ、ギルガメッシュが戻るのを待つ】
【サリィ 所持品:鍛冶セット ボロい剣(伝説系の剣) 光の鎧(装備不可)
 現在位置:レーベ北の平原 第一行動方針:不思議な力を放つ剣を鍛えなおす、ギルガメッシュが戻るのを待つ】

51:人探し 1/2
04/12/04 02:04:35 Bf6d1jOp
ドーガは夜の川原で一人、目を閉じて集中していた。
彼の脳裏には、そこからはずいぶん離れた場所の景色がぼんやりと映っている。サイトロの魔法だ。
ドーガは、手負いのギルダーはおそらくすぐには行動せず、そんなに遠くないところに身を隠すだろうという考えから
がむしゃらに追うことはやめ、相手の位置を確認できればと思いサイトロを続けていた。
…しかし、どうも上手くいかなかった。あまり魔法の範囲を広げられない上、景色もぼんやりとしか映らないのだ。
これは自身の病のせいか、怪我のせいか、それとも精神的なものか…。
数十分続け、向こう岸の森林内などでは数人の姿を確認する事が出来たが、肝心のギルダーは未だ見つからない。

―ギルダーがなぜあんな行動をとったのか、ドーガは理解できなかった。
彼は光の戦士であるということを除けば、あとは至って普通の少年だったはずだ。
落ち着いた性格で冷静な彼が、殺し合いという恐怖に負けたとも思えない。
しかし何か理由があるとしても、クリスタルの力を悪用するならば放っておくわけにはいかない。
道を踏み外しそのまま堕ちていくならば、その前に…。殺すことになったとしてでも―

52:人探し 2/2
04/12/04 02:05:26 Bf6d1jOp
「あのー…」
唐突に声をかけられて、呪文と思考が中断する。いつの間にか、背後に先程助けた少年が立っていた。
少年はフィンと名乗り、遠慮がちにドーガへと頭を下げる。
「ええと…さっきは危ないところを助けてくれたみたいで、本当にありがとう」
ドーガはいや、と首を振った。
「あいつはわしの知り合いじゃ。すまなかったな…」
「そうですか…」フィンは、ドーガのおそらくは複雑であろう心情を察し表情を暗くする。
「…怪我のほうは大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫じゃ。このくらいなら放っておけばそのうちに治る」
その答えに少々驚いた様子のフィンに、ドーガは「人間とは治癒能力が違うからの」と付け足すと、再びサイトロの詠唱を始めた。

「何してるの?」
フィンの問いに、ドーガは魔法を続けながら答える。
「魔法で周りの様子を見ているんじゃ。わしはあいつを止めなくてはならないからな」
「…遠くが見えるんですか?」
ああ、とうなずくドーガにフィンは少し目を開き、少々勢い込んで言った。
「じゃあ、僕の仲間…金髪の王子っぽい人と、赤いマントの綺麗な女の人と、白い髭のおじいさんなんだけど
 この近くにいたりしない?」
仲間のことを説明し―マリベルのことを思い出して少々悲しげな表情になるフィン。
ドーガはそんなフィンを見て、
「…わかった、ちょっと待て。今探してやろう」
それだけ言うと、再び思考を呪文に集中させ始めた。

【フィン 所持品:陸奥守 魔石ミドガルズオルム(召還不可) 第一行動方針:仲間を探す】
【ドーガ(負傷) 所持品:不明 第一行動方針:サイトロ使用中(フィンの仲間とギルダーを探す) 第二行動方針:ギルダーを止める】
*現在位置:大陸中央の川原(北の橋東側付近)

53:復讐者 1/2
04/12/04 10:26:53 wdAxmByC
アグリアスは必死の形相で森の中を彷徨っていた。
時折―普段の彼女からは考えられぬことだが―、木の根や草に足を取られてはバランスを崩し、手や足に擦り傷を作る。
疲れのせいではない。夜という時のせいでもない。
瞳を覆う闇と、死神のように後を追いつづける気配のせいだ。

さて、話は数時間前に遡る。
焔色の髪を持つ男・サラマンダーとの戦いは、完全な膠着状態に陥っていた。
双方ともに一歩も退かず、隙を見せない。例え千日の時を掛けても決着はつかぬだろう。
二人がそのことをうすうす悟り始めた―その時、異変が訪れた。
「ぐぁっ!?」
サラマンダーが突然のけぞり、構えを崩す。
あまりに唐突だったので、対峙するアグリアスも剣を振るうことを忘れてしまったほどだ。
だが我に返り、今が絶好のチャンスだと気付くと、勝負を終わらせようと一気に間合いを詰めた。
それが失敗だった。
「うっ!」
風を切る音と共に、何かが深々とアグリアスの肩を貫く。
同時に、緑あふれる森が、新月の夜空にも似た闇色に染められた。
(これは―?)
木々の輪郭さえ判別しがたい、半ば閉ざされた視界の向こうで、サラマンダーとは別の薄ら寒くなるような気配を見つける。
「久しぶりだな、アグリアス・オークスよ」
男の声が森に木霊した。聞き覚えのある、そして二度と聞くことのないはずの声だった。
「貴様は……ッ!」
「私の目的はラムザ一人と言いたいが……
 奴に組した者を見逃すわけにもいかぬし、ここで朽ちる気もない。
 死んでいった仲間たちのためにも、我が妹ミルウーダのためにも、な」
「ウィーグラフッ!」
バカな。ルカヴィと融合し、魂さえも闇に飲まれ、魔人ベリアスとして滅びたはずの男が……
どうしてここにいる? いや、それ以前になぜ生きている?
幾つもの疑問が頭に浮かぶが、答えを考えている暇はない。
重要なのは、奴が自分を殺すつもりであるらしいという事実だけだ。

54:復讐者 2/2
04/12/04 10:30:02 wdAxmByC
「くっ……勝負は預けるぞ!」
矢の飛んできた方向の反対へ飛び退りながら、サラマンダーに向けて言い放つ。
舌打ちの音が聞こえたが、追撃はなかった。恐らく彼も視界を奪われているのだろう。ウィーグラフの放った矢によって。
「邪魔が入ったな……次は仕留める、必ずだ」
サラマンダーの捨て台詞を背に、アグリアスは走り出した。

―そうして、今に至る。彼女は未だに逃げ続けている。
森の中を。暗闇の中を。ずっとついて回る、凍るような殺気の中を。
(私をなぶり殺しにするつもりか……)
日が沈んだことはわかっている。闇が濃くなったことに気付く前に、放送が流れた。
当たり前だが、とうに体力は尽き果て、走るどころか歩くこともおぼつかない。
つまり殺そうと思えば、いつでも奴は自分を仕留められるはずなのだ。
それをしないということは、限界までなぶってから殺すつもりか、あるいは―
(あるいは、私はエサなのか?)
ふと、そんな考えが脳裏に閃く。
広間でのラムザと自分のやり取りは、ウィーグラフも見ていただろう。
『向こうで落ち合おう』
あの時、彼は確かにそう言った。もしあのラムザが幻影などではない、本物のラムザであるなら―
(ラムザは私を探しているはずだ……私を餌にラムザをおびき寄せる、それが、奴の狙いか)
冗談ではない。だが、この状況では打つ手もない。
アビリティを付け替えて暗闇を回復しようにも、気付かれたら一巻の終わりだ。
(焦るな……機を待とう)
チャンスは必ず訪れる。今の彼女には、そう信じるしかなかった。

【サラマンダー(暗闇) 現在位置:岬の洞窟入口近辺→移動 所持品:ジ・アベンジャー(爪)、他は不明 
 第一行動方針:暗闇が治るまでどこかで待機 第二行動方針:参加者を殺して勝ち残る(ジタンたちも?)】
 
【アグリアス(暗闇+疲労) 現在位置:岬の洞窟入口近辺→北へ 所持品:クロスクレイモア、ビームウィップ、もう一つは不明
 第一行動方針:逃げながら反撃の機会を窺う 第二行動方針:生き延びる】
【ウィーグラフ 現在位置:岬の洞窟入口近辺→北へ 所持品:暗闇の弓矢、残りは不明
 第一行動方針:ラムザとその仲間を殺す(ラムザが最優先) 第二行動方針:生き延びる、手段は選ばない】
*暗闇は時間経過で自動治癒します

55:英雄の責務 1/3
04/12/04 16:34:25 pjvhZMVv
大地震、放送。
それすらも、彼らの闘いを止める事は無かった。

依然として、デュランとメルビンの闘いは続いている。
だが、その力の差を一瞬一瞬メルビンは噛み締める。
(これでは…負ける…)
いまや相手の剣の一閃を避けるのに全ての神経を費やすしかない。
剣を失った。魔力も底をついた。
対して相手は魔族の強みである無尽蔵な体力と強烈な破壊力を誇る剣を前面に押し出しメルビンを圧倒する。
それでも未だ生を失っていないのは、ある意味仲間達のおかげかもしれない。

―メルビン、次の職業どうしようか?
フィンの声がした。
―メルビン、踊り子なんてどう?
アイラがクスクスと笑う。
―ウェー、おっちゃんの踊り、またステテコダンスか?
ガボが吐く真似をする。
―まぁ、少しは若返りの効果があるかもね。私は見たくないけど。
マリベルの声だけが、少し霞んで聞こえた。
―身かわし脚とか、受け流しとかさ。結構使えると思うんだよね。
フィンが言ったソレが、今の自分の生を保っている。

「うぉぉぉっ!」
一声吼え、再び襲い掛かる剣をかわす。
直後に起きる爆発は予測済みだ。一寸後ろに飛び跳ねればある程度は避けられる。
「貴様、しぶといなっ!」
デュランのほうが圧倒的有利である筈だ。
だが、魔王の剣に完全には捉えられること無くここまで来た。
…あの日、皆にからかわれながら踊り子などという職業に就いた。
それが、今、彼を魔王の剣から救っているようで。

56:英雄の責務 2/3
04/12/04 16:35:38 pjvhZMVv
(なかなか、捨てた物じゃなかったでござるな)
…だがそれはある意味強がりだった。
魔王の振るう剣はかわせても、その後に襲い掛かる爆発を完全にかわすことは出来ない。
今や彼の身体中には無数の傷が刻まれている状態だ。
それは少しずつ彼の動きを鈍くし、最後にはデュランに捉えられてしまう事になるだろう。

魔王の剣を再びかわした時、彼の目にある物が映った。
直後の爆発による閃光で、一瞬だけそれを捉えることが出来たのだ。
…やはり、それしかあるまいな。
メルビンは大きく飛び上がり、ムーンサルトを放つ。
これも、メルビンをスーパースターに仕立て上げたなんとも微笑ましい仲間達のおかげだった。
「貴様の攻撃はもはやその程度か!」
デュランはそれを悠々と避ける。
だが、それはメルビンの期待通りだった。
別の理由があったのだ。デュランの反対側に移動したのは。其処にあった物を、拾うために。
膝を突き、メルビンは着地する。同時に、右手でそれを拾い握り締めた。
「戯けた事をするものだな!」
デュランは振り返り、剣を構える。どうやらそれには気づいていないようだ。
メルビンは立ち上がり、デュランを睨み付ける。
…右手は、デュランに見えない様に。
デュランはメルビンめがけ突撃を開始した。
デュランは今、魔力に頼る気は無かった。最後まで真剣勝負だ。
思い切り剣を振りかぶる。
「避けられるかッ!?」
「…避ける気など無いでござるよ」

―英雄の役目は、魔王を倒し平和をもたらすこと。
―フィン殿、アイラ殿…真に倒すべき敵は任せたでござるよ。
―神よ!これがメルビン最期の生業でござる…!

57:英雄の責務 3/3
04/12/04 16:37:18 pjvhZMVv
デュランの剣がメルビンの胸を切り裂くのとほぼ同時に、
メルビンの握り締めた、刃だけとなり落ちていた鋼の剣が、デュランの喉に突き刺さっていた。
「これが、英雄として願った最期でござるよ」
それは、魔王と相討ちする事。
身を捧げて平和をもたらす事を夢見た。
神の加護は、きっと―
デュランとメルビンは、同時に、背中から地面に倒れていった。

「避けられたはずだ…」
喉に剣の先が突き刺さっている状態で、デュランは呟く。
魔族は喉を突いても言葉を発することが出来るのか、とメルビンは思った。
「…魔王など、生かしておくワケには行かないでござるよ…英雄として。だから決断したのでござる」
メルビンは、自らの切り裂かれた胸の前で、両腕を十字に組む。
「フフフ…いい勝負だった…が、まだ引き分けというところだな」
クッ、とデュランは苦痛に表情を歪めた。
「あの世でもう一度手合わせをしたいものだ」
「…魔族は地獄、正しい人間は天国へ逝くと相場は決まっているでござる…」
メルビンは、自分の声が少しずつ小さくなっていくのを感じた。
「…だから、それでは戦いなど出来ないでござるよ」
「フッ、そうかも知れぬな…」
デュランは皮肉を帯びた笑みを浮かべる。
「…ゴホッ…おぬしは地獄へ…」
「…フン、貴様も…天国へ行くのだな…」
「神の元へ…」
擦れていった声に耳を傾けるのは、森の木々のみ。
二人の猛者は、何処か満足したようにゆったりと意識を闇に溶かしていった。
そしてもう、何も聞こえることは無かった。

【デュラン メルビン 死亡 残り103人】
現在地:岬の洞窟北西の森 ラミアスの剣放置。

58:虚無の襲撃者
04/12/04 21:19:29 uL9CmQaG
クラウドは逃げた。夢中で走った。
-大きな建物と町らしいものが見えてきた頃、地鳴りと轟音が彼を転倒させたが、
それが彼をかえって落ち着かせた。
虚空のスクリーンに現れた魔女が、次々に死者の名前を読み上げてゆく。
「バレット…エアリスも」
彼は地面に膝をついたまま、拳を握り締めた。が、悲しむ余裕など無いのも
わかっていた。
ユフィ、シド、ザックス…そしてティファ。彼らは果たして無事だろうか。
早く探し出さねば。その思いが彼を立ち上がらせる。追ってきたはずの
セフィロスと、もう一人はどうした?
辺りを注意深く見回すと、遥かに見える岩山のほうから、一人の黒髪の女が
歩いてくるのが見えた。
「この辺は危険だ!早く…」
逃げろ、と言おうとして彼は息をのんだ。女の瞳を、見てしまったから。
赤い瞳にあったのは、殺意でも、狂気ですらなく。-ただ、深淵。
クラウドは、悪寒を覚えて飛び退った。彼の中の何かが
「危険だ」
と告げる。彼がアルテマウェポンを油断なく構えると、女-パインは、無言で
アイスブランドを振りかぶった。
(くそ!近くにセフィロス達が居るかもしれないってのに!)
彼は内心で舌打ちをして、最初の一撃を迎え撃った。

【クラウド 所持品:おしゃれなスーツ アルテマウェポン
現在位置:アリアハン城下町南の入り口付近
第一行動方針:パインと戦う
最終行動方針:ゲームから生きて抜ける】
【パイン(ジョブ:ダークナイト)所持品:うさぎのしっぽ 静寂の玉 アイスブランド
ドレスフィア(ダークナイト)
状態:凶暴化(何かの衝撃で正気を取り戻す可能性あり)
現在位置:アリアハン城下町南の入り口付近
行動方針:全員殺害。正気を取り戻した場合は不明】
※近くにセフィロス&クジャが潜んでいる可能性があります。

59:she is not dead 1/4
04/12/06 20:32:42 ud/J2Yaz
「殺ス、ソノ三人組ヲ殺ス。クラウドノタメニ…」
夢中で山道を駆け抜けるティファの頭は、それだけしか考えられないほど錯乱していた。
三人組には意外と早く追いついた、なにやら立ち止まって話をしている。チャンスだ。
「アノ三人組ヲ殺セバクラウドはラクニナル。」

狙いをつけて引金に指を掛ける…

「マッシュ、どうした?いきなり立ち止まって。」スコールが声を掛ける。
「いや、なんかザックの中が熱いんだ…。なんだろ。」
ごそごそとザックをまさぐるマッシュ、その時スコールは異様な殺気を感じた。振り返ると背後に銃を構える人影。

「みんな!伏せろー!!」

「ぱん、ぱん、ぱん」
山道に銃声が木霊する。

「ぐはあ!」「きゃあ!」立ち上がっていた二人は、即銃弾の餌食となった。
「えっ。2人ともどうした!」
マッシュはザックの中身を確認するために、あらかじめ低い姿勢になっていたので銃弾から逃れることが出来た。
彼はすぐに2人のそばに駆け寄り、傷の確認をする。
「うっ…、私は何とか大丈夫。それよりスコールを…。」アイラは足に銃弾を受けたが、意識ははっきりとしていた。
「おい、大丈夫かスコール!返事をしろー!」それに対してスコールの傷は最悪だった。
右脇腹に一発、そして左胸の心臓の下あたりにもう一発。いや、もしかしたら心臓を傷つけてしまったのかもしれない。
現に彼は意識がなくぐったりしていて、その顔面は蒼白だった。

「動かないで。」

気が付くと背後に顔が焼け爛れてしまっている女が一人、銃口をマッシュの方に向けて立っていた。



60:she is not dead 1/4
04/12/06 20:35:17 ud/J2Yaz
「殺ス、ソノ三人組ヲ殺ス。クラウドノタメニ…」
夢中で山道を駆け抜けるティファの頭は、それだけしか考えられないほど錯乱していた。
三人組には意外と早く追いついた、なにやら立ち止まって話をしている。チャンスだ。
「アノ三人組ヲ殺セバクラウドはラクニナル。」

狙いをつけて引金に指を掛ける…

「マッシュ、どうした?いきなり立ち止まって。」スコールが声を掛ける。
「いや、なんかザックの中が熱いんだ…。なんだろ。」
ごそごそとザックをまさぐるマッシュ、その時スコールは異様な殺気を感じた。振り返ると背後に銃を構える人影。

「みんな!伏せろー!!」

「ぱん、ぱん、ぱん」
山道に銃声が木霊する。

「ぐはあ!」「きゃあ!」立ち上がっていた二人は、即銃弾の餌食となった。
「えっ。2人ともどうした!」
マッシュはザックの中身を確認するために、あらかじめ低い姿勢になっていたので銃弾から逃れることが出来た。
彼はすぐに2人のそばに駆け寄り、傷の確認をする。
「うっ…、私は何とか大丈夫。それよりスコールを…。」アイラは足に銃弾を受けたが、意識ははっきりとしていた。
「おい、大丈夫かスコール!返事をしろー!」それに対してスコールの傷は最悪だった。
右脇腹に一発、そして左胸の心臓の下あたりにもう一発。いや、もしかしたら心臓を傷つけてしまったのかもしれない。
現に彼は意識がなくぐったりしていて、その顔面は蒼白だった。

「動かないで。」

気が付くと背後に顔が焼け爛れてしまっている女が一人、銃口をマッシュの方に向けて立っていた。



61:she is not dead 2/4
04/12/06 20:37:49 ud/J2Yaz
「くっ…。」

これで終りか、マッシュはふと思った。
しかし、焦点のはっきりしない泳いだ彼女の瞳を見たとき、彼は直感でこう思った。
もしかしたら彼女は錯乱しているだけなのかもしれない、ゲームに乗った誰かによって焼かれてしまった自分の顔を見て。
現に彼女は今から人を殺そうとしているはずなのに、
何かにすがりたいような、ひどく頼り無く悲しい目をしていた。

マッシュは目の前の女性に気付かれないように、しずかにザックの中を探り始めた。
そしてさっきから熱を発している物体、ティナの魔石を強く握り締めて念じた。
かつて現世でピンチになったとき、魔石から幻獣を呼びだすのと同じ要領で。

「力を貸してくれ!ティナ!」

魔石はマッシュの手を離れ、空中に舞い上がる。そして、暖かい光を放ち始めた。
しかしその光は目を刺激するようなものではない。その場にいる者たちを優しく包み込んでいた。
マッシュはなぜか、モブリスの村で幸せそうに子供達と戯れるティナの姿が頭に浮かんだ。

そして次の瞬間、魔石から『妖精』が飛び出した。
桃色の肌に長い髪、それと美しい羽を広げて。
それは魔石になったことにより、完全に幻獣化したティナの姿。
彼女の発するまばゆく暖かい輝きで、もう辺りは昼間のように明るかった。


62:she is not dead 3/4
04/12/06 20:40:01 ud/J2Yaz
「傷が…。」
アイラの足を掠めた銃弾による傷が、みるみるうちにふさがっていく。

「うっ…。」スコールも眼を覚ました、そのとき銃撃による傷はもうふさがりかけていた。

そして三人が見たものはいつのまにか仰向けに倒れている女性の、焼け爛れた顔面を治療するティナの姿だった。
皮膚がただれ落ちてしまっているその両頬に、彼女は両手を当てた。掌からは溢れんばかりの優しい輝きが発せられている。
ティナは、三人を見て言った。
「大丈夫…、この人は悪い人じゃない。意識を取り戻したら必ず力になってくれるはず…。」
スコールは納得がいかない、といった表情でそれに反論する。
「俺達を殺そうとしたんだぞ?そいつは。」
「スコール、気持ちは分かるけどここはティナを信じてやってくれないか。」
「しかし…、!」

彼は反論する言葉を失った。今まで見たこともないような、マッシュの真剣なまなざしを見て。

「いいじゃない。」アイラも彼に言う。
「私はあの娘が間違った判断をするとは思えないわ。」

スコールは再びティナのほうを見て気付いた、彼女の強力な魔導の力に。
それはアルティミシアの悪しきそれとは違う、希望に満ちた力。彼女がいれば、奴とも対等に闘えるような気さえした。
「…分かった、信じよう」表情を変え、スコールは言った。


63:she is not dead 4/4
04/12/06 20:48:30 ud/J2Yaz
「ありがとう、三人とも。」治療を終えたティナは笑顔を浮かべて言う。
「私はいつでもあなたたちを見守ってる…、アルティミシアを倒してこの人殺しゲームを終わらせるまで!」

そう言ってティナは魔石に吸い込まれるようにして、消えていった。
まだ光が消えずぬくもりが残っている石を拾い上げて、マッシュは呟いた。
「そうだよな…、おまえはまだ死んでなんかいないよな…。」

「この石には…、一体どんな力が?」
「ああ、話そう。この娘もまだ目を覚まさないし。」

【スコール 所持品:天空の兜、貴族の服、オリハルコン(FF3) 、ちょこザイナ&ちょこソナー、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
【アイラ 所持品:ロトの剣、炎のリング、アポロンのハープ
 第一行動方針:ティファが目を覚ますまで魔石についての説明を聞く
 第二行動方針:ゲームを止める
 現在位置:アリアハン東山岳地帯、森と祠の中間地点】
【マッシュ 所持品:ナイトオブタマネギ(レベル3)、モップ(FF7)、ティナの魔石
 第一行動方針:ティファが目を覚ますまで魔石についての説明をする
 第二行動方針:ゲームを止める
 現在位置:アリアハン東山岳地帯、森と祠の中間地点】










64:she is not dead
04/12/06 21:05:52 ud/J2Yaz
【ティファ(気絶)所持品:コルトガバメント(予備弾倉×5)、エアナイフ
 現在位置:同上 行動方針:?】

度々すいません、連投もごめんなさい。次から気をつけます



65:殺姉愛 1/6
04/12/06 22:03:49 kORAoSZ6
レーベの村の南の森、さらにその奥深く、姉弟は対峙した。
一人はそれと知らぬままに…。

雷鳴の剣がうなる。
ミレーユの金髪が何本か、宙に舞った。
一撃を放った後の隙。そこに彼女の正拳突きが炸裂する。
「くっ…!!」
細身の腕から繰り出される予想外の威力に、テリーは顔をしかめた。
今度は距離をとり、体勢を立て直す。
だが、たったそれだけの短時間に、ミレーユは呪文を一つ唱え終えていた。
「バギクロス」
狙いはテリーではない。
彼が呪文をはじくことは、先の戦闘で思い知っている。
ではどこを狙ったのか、それは周囲にそびえる木々。
バギ系最大の呪文は、竜巻となって森の木々をなぎ倒す。
倒れる先には、血に飢えた肉親。
これ以上、弟に罪を重ねてほしくない。
止めなければならない、ただ一人の姉なのだから。
例え、殺してしまってでも…。
雷鳴の剣がいかに優れた剣であっても、全方向から倒れる木々全てをなぎ払えるものではない。
怒涛のごとき破壊の後、そこには張り詰めた沈黙が流れた。

はぁ、はぁ、はぁ…。
息が荒い。
倒れた木々から目を離せない。
あそこには、弟がいる。
助けて、ダメ、助けては、振り切りなさい、ミレーユ!!

66:殺姉愛 2/6
04/12/06 22:04:37 kORAoSZ6
何かを振り払うように、ミレーユは己で行った破壊の結果に背を向けた。
そして視界に映るのは、すでに事切れた男と瀕死の魔物。
ミレーユには、それは弟のもたらした破壊の結果だとしか映らなかった。
ならば、それまでに止められなかった自分にも責任があるのではないか。
私は、責任を取らねばならないのではないか。
弟が手を下そうとした魔物はまだ生きている。
彼女は手を差しのべてしまった。
事実は、彼女の結論とは多少ずれている。
けれど、ミレーユにそれを知るすべはない。
「大丈夫。…ごめんなさい」

そのとき、ピエールの意識は、またしても闇に囚われかけていた。
テリーの殺気により、主に対する忠誠心による気力のみで覚醒を果たし、さらには身を守る動きも出来た。
だがそれも限界に近づいてきている。
そこに、あたたかい、やわらかい光が降り注ぐ。
本来なら、どんな重傷の者でもたちどころに癒してしまう魔法の光。ベホマ。
今現在ではそこまでの効力もないが、ピエールの意識を完全に呼び戻すだけのことは可能であった。
「…よかった」
死より救い出してくれた女性は、ピエールの目にとても美しく映る。
けれど、彼の成すべきことは、一つ。
そっと、ザックの中に手を伸ばす。

その時…。

空に雷鳴が響き渡る。
と同時に眩いばかりの光とともに、天から一筋の雷が降り注ぐ。
雷は倒木を砕き、砂塵を撒き散らす。
それが晴れたとき、そこには一人の男の姿がある。
テリーは雷鳴の剣を高く掲げていた。

67:殺姉愛 3/6
04/12/06 22:05:38 kORAoSZ6
何をしようとしているのかはわかる。
雷鳴の剣をもう一度使うつもりだ。
選ばれし勇者しか扱えぬ雷の力を従えるつもりなのだ。
ミレーユは唖然と弟を見つめていた。
彼女とて雷鳴の剣の効力ぐらいは知っている。
けれど、手を下したはずの弟がまだ生きていることへの感情が、
喜びなのか悲しみなのか、あるいは恐怖なのかわからず、混乱している。
それが、彼女の行動を遅らせた。
テリーが雷鳴の剣を振り降ろす。

雷が落ちる。

ピエールはとっさに、しかし冷静に、伸ばした手の先のザックの中からいかずちの杖を取り出し、放り投げた。
その杖には雷鳴の剣と同じく、魔法の力が込められている。性質は多少違うが。
雷は宙に投げられたいかずちの杖に引き寄せられるように直撃した。
雷の力と炎の力が衝突する。
二つの魔力は集束し、そして大爆発を引き起こした。
「なっ…!!」
「あっ…!!」
「……」
爆発に怯むテリーとミレーユ。
しかしピエールはこの結果を予測している。
「今です!!!」
いまだ把握と理解と納得を出来ていないミレーユに、ピエールは言い放つ。
重傷を負っている自分では、怯んだ隙をうかがっても敵に一撃たりと入れられない。
ミレーユの混乱は、そしていまだ完全には整理の言っていない心は、まだ迷いの淵にいる。
けれどピエールの言葉は、迷いを持ったままのミレーユを決断の崖へと追い立てた。
もう、後戻りは出来ない…。

68:殺姉愛 4/6
04/12/06 22:06:44 kORAoSZ6
昔、魔王ムドーを倒し、ダーマ神殿を復活させたとき、ミレーユは願った。
仲間を守りたい。 …そして僧侶となった。
守り続ける力が欲しい。 …そして武道家となった。
二つの職を極めた彼女は、最後にこう願った。
守っていきたい。ずっと。だからもっと、力を。
(上級職たるパラディンならば、その願いをかなえられることもできよう)
(では、神官様。お願いします)

爆発による熱風は、まだ吹き荒れている。
テリーは体勢を立て直し、またこちらに向かってくる。
だが隙がある。
本人がそれと気づかず焦っている。
ミレーユは、胸の前で十字を切った。
(私は、守りたい。…テリー、あなたを…)
聖なる十字架、グランドクロス。
魔法ではない思いの力。
どうかこの光が、彼の闇を消してくれますように…。

光が晴れた。
砂煙も晴れた。
テリーは地に臥している。
息は、ある。
ミレーユは彼の元で膝を折った。
「何故、止めを刺さない…?」
「あなたを殺したいわけじゃない。止めたかったの。こんな方法しかなくて」
「…止めるだと?」
テリーは鼻で笑う。その行為さえ苦しそうだ。
「いったい何が目的だ?」
「テリー、思い出して。私は、あなたの…」

69:殺姉愛 5/6
04/12/06 22:08:13 kORAoSZ6
何か、鈍い音が聞こえた。
その音がしたとたん、ミレーユは言葉を紡がなくなった。
喉に剣が生えていては、人間であるミレーユは言葉を発することは出来ない。
剣が抜かれ、金の髪が舞う。
彼女は崩れ落ちる。
スライムナイトが、真新しい血を滴らせる鋼鉄の剣を持っている。
昔どこか見た光景だ。
細かくは違う。
その時彼女は喉から剣など生やしていなかったし、そこにいた魔物はスライムナイトでなかったと思う。
しかし感じた絶望は、同じ。
「…姉さん?」
その時倒れた女性を呼ぶ。
今倒れた女性と同じ、美しい金の髪を持っていた。
「…姉さん」
呼んでも返事がないのも同じ。
「姉さん!!!」
ピエールは、また別の血を求めて、鋼鉄の剣を振り下ろした。
何かが体を走る。
痛みではない。もっと熱い何か。
振り下ろされた剣は、先程までテリーの頭があったところに正確に破壊をもたらした。
テリーは避けた。
生への執着心が反射的に命を守った。
しかし代償を払ってだ。
リフレクトリング。魔法をはじく実用性の高い装備品。
それをはめた左腕。
もう、ない。
目の前にある金の髪。
その髪を持つ女性の命も、
もう、ない。

70:殺姉愛 6/6
04/12/06 22:09:25 kORAoSZ6
「う、わぁああああぁああぁぁーーーーーー!!!!!」
テリーは走った。逃げるために。
命を狙う魔物からではなく、失ったという事象それ自体から。
逃げても、逃げ切れるはずがないのに。
右手には、最強の部類に入る雷鳴の剣を握ったままだというのに。

ピエールは追わない。
そんな体力など残っていない。
だが体を引きずるながら、アイテムの回収もせずその場を去った。
初めは竜巻、そして雷、爆発。
全く派手にやったものだ。
どこでもいい、とにかくすぐにでも身を隠せる場所を探して。


※現在位置:レーベ南の森(南部)

【テリー(DQ6)(左腕喪失&重傷) 所持品:雷鳴の剣 イヤリング 鉄の杖 ヘアバンド 天使の翼
 行動方針:逃げる(走る)】

【ピエール(重傷)
 所持品:鋼鉄の剣 ロングバレルR 青龍偃月刀 魔封じの杖 ダガー 祈りの指輪
 第一行動方針:身を隠し、回復に徹する
 基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す】


【ミレーユ 死亡 残り102人】

※ミレーユの所持品は放置
 戦闘音は激しく、レーベ村から南の橋あたりまで何らかの異変に気づけます

71:映像 1/2
04/12/07 23:58:05 6m+xuZxM

突如の地震。
ただ広い夕焼の中に浮かび上がった、邪悪な魔女の姿。
彼女が告げたあまりに多い犠牲者の名前の中に、リディアは有る筈の無い名前を聞いた。

「セシル…ローザ…どうして!?どうしてよ!?」
リディアは、泣き叫ぶ。それが何の効果をも彼女には与えてくれない事を知りながら。
邪悪な魔女の姿なんて見たくもない。
それ以上に、血に塗れた二人の姿も、見たくはない。
それでも、最も見たくない映像を、彼女の心は創り上げてしまっていた。

 恐怖に震えるローザ。
 彼女の前に、彼女を庇おうと立ちはだかるセシル。
 そして、血に濡れた槍を振りかざし、無表情のままにそれを二人に突き立てるのは、
 ―彼女のよく見知った姿だった。

「いやぁ!」
頭を抱え、その場に座り込むリディア。
まさか、とは思う。
でも、拭えない。
カインが二人を殺すという、何の裏付けも無い映像だけが、彼女の心の中で繰り返し流れていた。



72:映像 2/2
04/12/07 23:59:15 6m+xuZxM
「そんなはず…無いよ…そんな…」
魔法を唱詠するかのように口の中で繰り返す。
自分の考えを否定したい。
いっそ思考すら止めてしまいたい。
カインが殺したのだと思う自分が、憎かった。
それはカインに対する冒涜だから。
カインを信じていないことになるから。
仲間で有る筈のカインを…

『俺に構うな』
空虚なカインの声が、心の奥底に沈んでいった。

フラフラと、リディアは歩き出す。
誰に誘われた訳でもないのだけれど。
南へ。
セシルとローザの遺体が放置された、その場所へ。
何を感じたわけでもない。
ただ運命が彼女にそうしろと告げただけ。

リディアの瞳の中を、白い霧が揺らめいた。

【リディア(ショック状態?) 現在位置:アリアハン西の海岸→南へ 所持品:いかずちの杖、星のペンダント
 第一行動方針:南に行く 第二行動方針:カインを止める(?)】

73:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/12/08 01:33:54 Mfqtez5L
荒らさないで下さい。

74:『人殺し』 1/6
04/12/08 20:42:11 PxVlbdSO
「魔石、か……」
緑色に輝く石を見つめ、スコールは小さく息を吐いた。
ティナの魂が宿るそれは、安らぐようなぬくもりを残したまま、静かに明滅を繰り返している。
―人を殺した少女の化身とは、とても思えない。
(ティナ……誰があんたを狂わせたんだ?)
答えはない。それ以前に、問い掛ける気になれなかった。
聞いたところでどうしようもないし、何より、自分の考えを肯定されたくないというのもある。
「……ともかく、それを使えば彼女を幻獣として召喚できるわけだな?」
頭に浮かび続ける陰鬱な思考を振り払うために、スコールは今までの話題を思い返して言った。
「ああ。ただ、ティナ自身の意思が応じてくれた時じゃないと無理だ。
 無闇に呼んだら、ティナに負担がかかっちまう」
「でも、すごい力よね。あれほどの傷を治せるなんて……」
アイラが呟いた。(もっと早く気付いていれば……)と思いはしたが、言葉にはしない。
マリベルのことは、仕方が無かったのだ。
割り切れるわけではないが、そう思わないとやっていられなかった。

「う……ううん」
「おっ、お嬢さんのお目覚めだぜ」
マッシュの言葉に、アイラが顔を上げる。
「私が相手をするわ。二人は少し離れててくれない?」
「何故だ?」「なんで?」
首を傾げる男たち。彼女は大きくため息をついた。
「なんていうか、外見的に、ちょっとね。
 錯乱してる相手をこれ以上怯えさせたりしたら、余計に話がこじれると思うから」
「…………」
スコールとマッシュは憮然とした表情で顔を見合わせたが、反論はせず、大人しく後ろに下がった。

75:『人殺し』 2/6
04/12/08 20:45:16 PxVlbdSO
アイラの説得は、まあ、上手くいった方だろう。
少なくとも自分たちが敵ではないことを飲み込ませ、戦意を解く事には成功したのだから。
けれども、ティファが完全に納得したかと言えばそうでもない。
「火傷を治してくれたことにはお礼を言うし、戦う気がないってこともわかったわ。
 でも、あなたたちは人殺ししても生き延びるつもりなんでしょ? それで信用しろって言われてもね」
きっぱりと言い放つティファに、アイラも、話を聞いていたスコールとマッシュも眉をひそめる。
「人殺し? 俺たちが?」
「そうよ。黒髪の女剣士に、金髪の格闘家に、黒尽くめの男の三人組。
 あなたたちのことでしょ? 他に誰がいるっていうの?」
彼女がそこまで言った時、急にスコールが前に進み出て、彼女の胸倉を掴んだ。
「……もしかして、あんたにそれを教えたのは、コートを着てボウガンを持った茶髪の男か?」
呆れとも悲しみとも怒りともつかぬ表情で、スコールが問い掛ける。
剣幕に圧されながら、ティファはスコールの腕を振り払って答えた。
「確かに、コートに茶髪だったけど、ボウガンなんて見てないわ……その人がどうしたっていうの?」

「人殺しはそいつの方だ」

その意味が飲み込めなかったのか、彼女はぼんやりとスコールを見る。
それからしばらくして、苦笑を浮かべた。
「……嘘」
スコールは声を抑えて言葉を続ける。
「嘘じゃない。アーヴァインは、四人……最低でも二人は確実に殺してる」
「人違いよ、きっと。あの人はそんな人じゃないわ」
ティファは力なく反論したが、スコールの話は止まらない。
「そうかもしれないな。だが、俺とマッシュとアイラが一緒にいることを知っている人間は三人しかいない!
 そのうち二人は奴に殺された。生きているのは、あいつだけだ!」
「……嘘よ。本当に人殺しなら、私が生きてるわけないじゃない!」
「あんたに俺たちを殺させるために、わざわざ生かさせたんだ。
 その方が効率もいいし、手間も掛からずに済むからな!」
「違う! あの人はそんな人じゃない!
 だって、あんなに優しくて……火傷の手当てまでしてくれて……生きろって励ましてくれた!」
「騙されてるんだ、あんたは! いい加減に理解しろ!」

76:『人殺し』 3/6
04/12/08 20:49:03 PxVlbdSO
苛立ちのあまり、スコールは見えない壁に叩きつけるように拳を振った。
マッシュとアイラが、慌てて二人の間に割って入る。
「落ち着け、スコール! 彼女に当たってどうなるってんだ!」
「ティファさんが言うように、人違いって可能性もあるわ。
 もしかしたら、彼によく似た格好の人が、近くで私たちのことを見ていたのかもしれない」
(そんなこと、あるわけないだろ!)
スコールは唇をかみ締め、泣きそうな顔のティファを睨みつける。
―正確に言うなら、ティファの後ろに立つアーヴァインの幻影を。

「ともかく、早く戻りましょう。
 ラグナさんとイクサス君とエーコちゃんだったかしら、その人たちも心配していると思うわ。
 ……マリベルとティナの名前は、放送で聞いただろうしね」
「ああ」
アイラの言葉に、スコールは歩き出した。
少しばかり進んでから、唐突にぽつりと呟く。顔を前に向けたまま。
「……すまない。言い過ぎた」
「……」
「ただ、これだけは信じてくれ。俺たちは人を殺す気はない」
「………」
「生きるために剣を取ることはあっても、自分から誰かを殺そうとは思わない。
 例外は―アルティミシアが相手の時だけだ」
ティファは何も答えない。
ただ、彼女はゆっくりとスコールたちの後ろを歩き始めた。
―今は、それだけで十分だった。

77:『人殺し』 4/6
04/12/08 20:55:50 PxVlbdSO
それからどれほど歩いただろう。闇は濃さを増し、星はますます冴え渡った光を放つ。
ようやく、道の向こうに広がる木々の群れが見え―だが、四人の足はそこで止まった。
ぼんやりと光るランプの灯と、三つの袋を抱えた子供の影を認めて。
「イクサス!?」
スコールとマッシュが声を上げる。それが聞こえたか、人影は立ち止まった。
少し遠いが見間違えはしない。影の主は、確かにイクサスだ。
けれども、彼の口から返ってきた言葉は、誰もが予想しないものだった。

「近づくな、人殺しの仲間が!」

子供のものとも思えない、敵意に満ちた声が夜の森に響く。
「お前らを信じようとしたオレがバカだったよ……
 そうさ、人殺しの仲間は人殺しなんだよな! みんな……お前らのせいで殺されたんだ!」
「―みんな?」
嫌な予感が二人の背筋を捕える。
イクサスは憎しみのこもった視線を投げつけ、叫んだ。
「そうだ! マリベルも、エーコも、ラグナさんも!
 みんな、みんな死んだんだよ! お前らが見捨てたせいでッ!」

―時が凍りついた。ただ一人、イクサスを除いて。

「何でもっと早く戻ってこなかったんだ!? どうして、あの時行ったんだよ!
 みんな、お前らの帰りを待ってたのに……マリベルはお前らを心配して行ったのに……信じてたのに!」
「お前らがずっとここにいれば、みんな死なずに済んだ! お前らはオレたちを見捨てて、みんなを殺したんだ!」
「お前らの仲間も、お前らも、同じだ―人殺しだ!!」
「返せよ! マリベルを、エーコを……ラグナさんを返せよッ!!」
そして、どうしようもない悲しみと、やり場の無い怒りと、全ての憎悪を込めて、イクサスは言い放った。
「もう、他人なんか信じるもんか……お前らなんか死ね! 消えろ! 二度と姿を見せるなッ!」

誰も、彼の後を追うことはできなかった。
スコールも、マッシュも、アイラも、ティファも、イクサスの小さな影が闇に飲まれていくのを見守るしかできなかった。

78:『人殺し』 5/6
04/12/08 20:59:47 PxVlbdSO
森の中、ギルダーは静かに剣を拭いていた。
刀身を濡らす血糊は、髪飾りをつけた少女と、中年の男のものだ。
この二人と、逃げた少年。詳しいことはよくわからないが、どうも自分を助けようとしたらしい。
誰かに襲われて気絶した被害者だと思い込み、魔法まで使って手当てをしたようなのだ。
本当は、疲れのあまり気を失っていただけで―誰かに襲われたも何も、襲撃者は自分だと言うのに。
全くバカな連中だ。
しかし、失われた体力も戻り、おまけに二人も仕留められたのだから、そこは感謝するべきかもしれない。
少年を逃したのは残念だったが……

『マリベルに頼まれたからなぁ! イクサスまで殺させるわけにはいかねぇんだよ!』

―ふと、男の最期の言葉が脳裏に浮かぶ。
武器も何もないくせに、少年を逃がすためだけに自分に挑みかかった男の言葉が。
少女を殺された時点で大人しく逃げ出していれば、もしかしたら助かったかもしれないのに。
「……本当に、バカだな。あんたも、そこのお嬢ちゃんも」
ギルダーは呟いた。その声には、少し、疲れたような響きが混ざっていた。
「はは……俺の方がもっと大バカか。なぁ、サラ、サックス。
 ……でも、止まるわけにはいかないし……もう、止まれないよ」
ギルダーは帽子を被りなおし、立ち上がる。
夜という狩り場で、犠牲者という名の新たな獲物を探すために。

79:『人殺し』 6/6
04/12/08 21:03:58 PxVlbdSO
【イクサス(人間不信) 所持品:加速装置、ピクニックランチセット、ドラゴンオーブ、シルバートレイ、ねこの手ラケット
 行動方針:一人で生き残る 現在位置:アリアハン東山脈中央部→北へ】

【スコール 所持品:天空の兜、貴族の服、オリハルコン(FF3) 、ちょこザイナ&ちょこソナー、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
【アイラ 所持品:ロトの剣、炎のリング、アポロンのハープ
【マッシュ 所持品:ナイトオブタマネギ(レベル3)、モップ(FF7)、ティナの魔石
 第一行動方針:不明 第二行動方針:ゲームを止める】
【ティファ 所持品:コルトガバメント(予備弾倉×5)、エアナイフ
 第一行動方針:スコールたちについていく(?) 第二行動方針:不明】
【現在位置(四人共通):アリアハン東山脈中央部の森】

【ギルダー(MP消費) 所持品:ライトブリンガー・雷の指輪・手榴弾×3・ミスリルボウ
 現在位置:アリアハン東山脈中央部の森・川辺付近→移動
 第一行動方針:ゲームに乗る 最終行動方針:生き残りサラの元へ帰る】

【ラグナ 死亡】【エーコ 死亡】
【残り100人】

(*金の髪飾りはラグナ&エーコの死体と共に東山脈中央部の森・川辺付近に放置)

80:最悪の再会 1/7
04/12/09 18:39:59 y4hY27SC

紙と鉛筆、参加者一覧ファイルに地図。
それを一度に閲覧し、メモに紙に書きなぐり、そしてまた考える。
セージはこの作業を延々と続けていた。

「とりあえず、母親のビアンカさん、父親のリュカさんは生きてる」
「…うん」
「魔物のピエールとやらも生きてる。あと君の兄のレックスも生きてる」
「うん」
「全員には会いたいけれど…」
「難しい?」
「短期間ではね。でも大丈夫だ、絶対見つける」

自分の見解が当たっていたことに安堵した彼は、
その言葉で問いを止め、大きく背中を伸ばした。

「とりあえず、そろそろ寝る準備をしよう
 タバサはベッドを使いなよ。僕は適当に突っ伏しとくよ」
「え?で、でも…」
「大丈夫大丈夫、僕は馬鹿じゃないけど風邪はひかないしね」

そう言うと、セージはベッドの上を掃除し始めた。
埃が少し飛ぶ。だが本当に「少し」で済んだ様で、すぐに掃除は終わった。

と、その時。

81:最悪の再会 2/7
04/12/09 18:41:46 y4hY27SC

ドンドンドン!!
五月蝿いノックが聞こえた。

「……は?」

ドンドンドン!!
まだノックしている。どうやらなんとしても開こうとしているらしい。
何故ここに人が来たのか。セージはそんな事も考えたがとりあえず扉に近づいた。

「隠れてなよ。なんか凄く嫌な予感がするから」
「ど…どこに?え?え?」
「適当に」

そう言ったのを合図にしたのだろう。言葉と同時に扉を開いた。
するとそこには――息を切らした金髪の女性が居た。
必死に走ってきたのか、息を切らしている。
だが、セージの姿を確認するや否や、素早い動きで鞭を振るい始めた――

「うわっっ!あっぶないな!」

82:最悪の再会 3/7
04/12/09 18:42:35 y4hY27SC

良いモノを見つけた、と言わんばかりに薄ら笑いを浮かべて攻撃する女。
そしてタバサの方に近づけぬように器用に立ち回るセージ。
それを遠くからタバサが見守ろうと、テーブルの下から身を乗り出した瞬間、彼女は叫んだ。

「お母さん!!」
「はぁ!?」

攻撃を避けながらつい叫んでしまったセージ。
そのまま相手の顔を見ると、「成程」とつい呟いてしまった。

「彼女がビアンカさんか…似てるんじゃないの?結構」
「お兄さんお願い!お母さんを傷つけないで!」
「判ってる!」

緊張した空気の中、タバサを傷つけぬように鞭を振るうビアンカの目には、
何故自分を襲うのかと淡々と考えているセージの姿が映っていた。


数時間前。
フリオニールの攻撃を喰らったビアンカは、操りの輪の意思のままに走っていた。
何かにとり憑かれたように、そこが森だろうが平地だろうが関係なく走っていた。
そして疲労を回復しようと隠れ家を探していた矢先に、地下へと繋がる祠を発見する。
だがそこは鍵がかかっており、やっと開いたと思ったその時――

「心の優しいお母上じゃなかったの!?」
「うん!お母さんは凄く優しくて…だからこんな事はしないわ!」

最愛の娘と、そして男が居た。
家族以外の人間には死を。操りの輪によって、悲しくも彼女はそんな業の道を取った。
だから今…彼女は疲労を押して、男をなんとしても殺そうと鞭を振るっている。

83:最悪の再会 4/7
04/12/09 18:44:47 y4hY27SC


「とりあえず…タバサには攻撃しないんだねぇ。賢い賢い。
 ならそれを利用して頂こうか……」

微苦笑を浮かべてセージがそう呟くと、素早く距離をとった。
そして、嘲笑にも似た表情を浮かべ―


「モシャス」


静かにそう言った。
そしてそのまま、不思議な現象が起こった。

彼の体が一瞬光ったと思いきや、一瞬にしてタバサの姿へと変わっていた。
小さな少女の姿。隣の"本物の"タバサは驚愕を隠し切れない表情を浮かべた。

「…お母さん」

驚くべきことに、声すらも同じだった。
だが「本物」が驚く暇も与えず、タバサの姿をしたセージは続ける。

「お母さん止めよう。あたしはそんなお母さんは見たくないよ。
 お願い、元のお母さんに戻ってよ。ねぇ……お願い!」

ビアンカの動きが止まった。
が、それは一瞬。ビアンカはすぐに、且つ的確に"偽者の"タバサを狙って攻撃を放った。

84:最悪の再会 5/7
04/12/09 18:46:42 y4hY27SC

「あらー…やっぱ目の前でモシャスしてもムリだよねぇ」

セージは、誰にでも聞こえる様な大きな舌打ちのオマケ付きでそう言った。勿論タバサの姿で。
そしてもう姿を偽る必要が無いと知ったやいなや呪文を解いた。元の彼の姿に戻る。
そしてまた元の展開に戻ったのだが……。

「あれ?」

タバサが口を開いた。先刻と同じように攻撃を避けながら、セージが反応する。
そして視線も向けずセージが問うと、タバサはハッキリと言った。

「あの頭の輪っか……何?前お城にいたときはあんなのしてなかったよ」
「さぁ、僕は知らないね。どっかで拾ったんじゃないの?」
「違うと思う」
「何でさ」
「お母さんの趣味じゃないもん、あんな変な輪っか」
「…………何それ」

だが、言われると余計に気になってくる。
実の…しかもこんなしっかりした性格の娘が言うのだから間違いはほぼ無いはずだ。
セージの頭の中で、ある一つの仮定が完成した。

85:最悪の再会 6/7
04/12/09 18:48:31 y4hY27SC

あの頭のアレか。
アレがビアンカを駆り立てているのだろう、とセージは勘付いた。
ならば簡単な話だった。頭の輪を外せば良い。そうするには丁度良過ぎる道具もあった。
その道具は袋の中に眠っている。セージはそこまで考えると袋に手を伸ばし、道具を取った。

「はりせんってやつ!」

強調してそう言うと、すぐさま相手の攻撃を待った。
来た。鞭が撓る。避ける。隙が出来る。今だ。

「傍から見ると不思議だよねぇ…この状況」


その呟きを聞いたのを最後に、ビアンカの意識は途絶えた。

何故なら、ハリセンを振り上げたセージの上を、
あの操りの輪が飛んでいたから。ついでに、地面に墜ちて「バキッ」という嫌な音を立てていたから。


目の前の女性はただ気絶しているのだ、という事を確認した後
セージはビアンカの体を持ち上げた。そして、ベッドに体を寝かせる。
ほっと胸を撫で下ろすと、タバサの方を向いて微笑を浮かべた。

「お客様、ベッドの空きが無くなりました。なんてね」
「大丈夫、不都合は無いですよ。なんてね」

2人は安心した様子で、言葉を交わした。

86:最悪の再会 7/7
04/12/09 18:50:41 y4hY27SC


【セージ 所持品:ハリセン ファイアビュート
 現在位置:いざないの洞窟近くの祠内部の部屋 行動方針:部屋で夜を過ごす】
【タバサ 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑 現在位置:同上 行動方針:同上】

【ビアンカ(暴走状態回復:多大な疲労) 所持品:なし
 現在位置:同上 第一行動方針:不明 基本行動方針:不明】

※:ファイアビュートはセージが預かりました
  操りの輪は壊れました

87:『裁いてやる』 1/3
04/12/09 20:34:41 DX+6jyOg
夕暮れの森が広がっていた。
赤く染められた木の葉の向こうで、ラグナさんとエーコが笑っている。
『へぇ、イクサスも王子様なのか。いい感じにお似合いじゃないか、エーコ姫さま?』
『ヤダ、変なこと言わないでよね。
 イクサスには悪いけど、エーコにはジタンっていう最高にカッコいい王子様がいるんだから』
『それじゃイクサスがカッコ悪いみたいじゃないか、なぁ。
 言ってやれ、後でオレの最高にカッコいいとこ見せてやるかんな! ってよ』
ラグナさんはそう言って、オレの頭を撫でた。

それから、辺りが急激に暗くなった。
薄闇の下で、エーコは今にも泣きそうな顔をしていた。
オレとラグナさんが止める間もなく、彼女は走り出す。一人で泣ける場所を探しに。
残されたラグナさんは、近くにあった木を思いっきり殴りつけた。何度も、何度も殴りつけた。
『どうしてなんだ? スコール達より先に、あいつらに会っちまったってのか?
 ちくしょう! 俺が、あの時止めていれば……!』
オレは何も言えなかった。
その代わり、しばらくして、エーコがこっちに戻ってきた。
『大変! 向こうで人が怪我してるの!』

また、場面が切り替わる。
水音が聞こえるあの場所で、エーコが嬉しそうに叫ぶ。
『あっ、気付いたの?』
オレとラグナさんが振り向くと、飛び跳ねるエーコの後姿が見えた。
『よかったぁ』
多分胸を撫で下ろしたのだろう。エーコの頭が少し俯く。
―それと同時に、音が聞こえた。
柔らかいモノを貫く音。喉から込み上げる液体を咳き込む音。
それが何なのか悟る前に、エーコの背中から、赤く濡れた剣先が覗いた。

88:『裁いてやる』 2/3
04/12/09 20:36:52 DX+6jyOg
ラグナさんが、自分とエーコの荷物をオレに放り投げ、叫ぶ。
『イクサス、逃げろ!』
ああ。あの時リチャードが言ったのと同じ言葉だ。
リチャードは帰らぬ人になってしまった。ラグナさんも、また。
『イクサスまで殺させるわけにはいかねぇんだよ!』
叫びに続いて聞こえた、ぞぶり、という低い音。一生耳から離れないだろう、あの嫌な音―

―そして、暗闇が世界を塗りつぶした。
オレの前には四つの死体があった。
全身を切り刻まれて絶命しているリチャード。傍には、緑髪の女がいた。
矢を突き立てられたマリベル。隣には、コートの男がいた。
心臓を正面から貫かれたエーコ。肩から袈裟懸けに斬られ、真っ二つになったラグナさん。
二人の間に、赤い羽根帽子をかぶった男が立っていた。

四人の声が悲しげに響く。
『逃げろ、イクサス!』
三人が冷笑しながらこっちへ歩いてくる。
『お前も死ぬんだ、イクサス』
怖くなって、オレは後ろを振り向いた。
すぐそばに、スコールとマッシュがいた。
二人は広間の魔女のような邪悪な笑みを浮かべて言い放つ。
『いずれお前もこうなるんだよ、イクサス―』

89:『裁いてやる』 3/3
04/12/09 20:42:05 DX+6jyOg
「―うわぁああああああああああっ!!」

オレは跳ね起きた。夜の山の中で。
「……夢?」
ちょっと休むだけのつもりだったのに、いつの間に寝てしまったのだろう?
とにかく、回りには誰もいない。死体も、殺人者も、スコールとマッシュも。
時折吹く風と梟の声だけが、淋しげに木の葉を揺らす。
時間はそれほど経っていないらしい。夜空に浮かぶ月は相変わらず、煌々と輝き続けている。
オレは涙を落としながら呟いた。
「ちくしょう……ちくしょう……!」

死んでたまるか。あいつらの思い通りになってたまるか。
緑髪の女はもういない。
でも、コートの男と、赤帽子の男と、スコールと、マッシュは、まだ生きている。
「……殺してやる。きっと、殺してやる。
 いつまでも笑ってられると思うなよ……」
オレだって医術士だ。薬と毒のことなら、誰より良く知ってる。
そこらへんの野草や雑草にだって、強力な毒を持っているものがある。
上手く使えば、非力なオレでもあいつらを殺せるはずだ。

リチャードとマリベルの仇。そして、エーコとラグナさんの仇。
直接手に掛けていようが、いなかろうが、全員同罪だ。あいつらのせいでみんなは死んだ。
―だからオレが裁いてやる。奴らを裁いてやる。医術士イクサスの名にかけて。

【イクサス(人間不信) 所持品:加速装置、ピクニックランチセット、ドラゴンオーブ、シルバートレイ、ねこの手ラケット
 第一行動方針:植物採集&毒薬作り
 第二行動方針:ギルダー・アーヴァイン・スコール・マッシュを殺す/一人で生き残る 
 現在位置:アリアハン東山脈北部】

90:魔物
04/12/10 02:32:04 O9Ckkzyd
先程の三人組に追いつけないのはわかっていた。少し走って、茂みを抜けたところでデールは
一旦立ち止まった。心臓が早鐘を打っている。なんだろう、この興奮は……。
ふと右手を見ると、森で枝か何かで斬ったのだろう、一筋の切り傷が出来ていた。
マシンガンも悪くはないが、ナイフの方が楽しそうだ。
うっとりと見つめていると、手首に血液が一筋つたった。
デールはそれを、舌で舐めとった。どんよりと塩辛く、そして鉄がさびたような匂いが
口の中に広がる。飲み込むと陶酔感がじわりと広がっていき、
麻酔のように全身を痺れさせた。
「壊したい」
そう呟いた瞬間、デールの中で何かが弾けた。
腹の底から押し寄せてきた衝動をはき出すように、デールは笑った。大声をあげ笑った。
彼を支配したのは壊れない物を壊してしまう快感かもしれない。
「さあ、誰が一番頑丈だ?」
鋼の肉体も鉄腕も、全て壊してやる。デールの目が燃えていた。
彼はもう、狂った人間でさえなかった。
それであるならば正常な、ごくごく普通の、「魔物」になっていた。


(笑い声……?)
エドガーは顔を上げて、上を向いた。
(……気のせいか)
エドガーとデッシュは首輪の解析に没頭しており、周りへの注意力が散漫になっていた。
それ故、背後に魔物が迫っていることなど、全く気づいていなかった。


【デール 所持品:マシンガン、アラームピアス(対人)
 現在位置:アリアハン北の森
 行動方針:皆殺し】

【エドガー 所持品:バスタードソード 天空の鎧 ひそひ草 ラミアの竪琴 イエローメガホン 首輪×1 紙や鉛筆など
【デッシュ 所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) 首輪×1 紙や鉛筆など
 現在位置:アリアハン北の森 第一行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】

91:彼女に映る幻影
04/12/10 08:20:28 s9Q5M7Sm
「ジオさん?そっちですか?もう少し待っててくださいね」
アルカートは死んだ筈の男の名前を呼び、フラフラと歩いていく。
「ジオさん、そっちで良いんですね、もう少しで着きますから待っててください」
何もない空間に語りかける彼女、そこにはジオの幻影が浮かんでいたのかもしれない。

「なんだよアンタ…アンタも俺の邪魔をしようって言うのかよ?」
気が付けば少年の声がした。
「俺は忙しいんだよ、どっか行ってくれよ」
つっけんどんにアルカートを追い払う、だが彼女は前へ進もうとする。
「だから…邪魔だって言ってんだろ!早くどっかいけよ!」
つい猫の手ラケットを持って、アルカートを吹き飛ばす。
少年の力とはいえ、そのラケットに秘められた力は凄い物だ。
何度も吹き飛ばされる、だがアルカートは幾度となく起き上がり、進んでくる。
その異常な体力とローブに付いた紫の血は、イクサスに有る一つの
「ああ、そうかよ。アンタもあいつらの仲間だって言うのかよ!」
イクサスが、アルカートを殴り倒す、ラケットの力はやはり凄い。
「………って言ってるんです…」
「何言ってんだよ!わかんねぇよ!」
ドカドカとラケットで何度も殴り倒す、その音は何度も高く響いた。
ラケットから血が滴る、女性は動かない。
「はぁ…はぁ…ヘッ、たいしたことないじゃん、俺にも人が殺せる。
 それを…あいつらに分からせてやる」
そして、彼は猛毒を持つ植物から作る、半分出来掛けていた毒薬を再び作り始めた。
声がする、まだ生きていたのか?後ろを向いたときはもう遅かった。

92:彼女に映る幻影
04/12/10 08:21:14 s9Q5M7Sm


「邪魔だって言ってるのが聞こえなかったんですか?」


その冷徹な声と共に最後、イクサスが見たものはアルカートの邪悪に染まった飲み込まれそうな目を見た。
恐怖がイクサスを包んだ、そしてその恐怖はイクサスを死後の世界へ連れて行ったのだ。
爆音が木霊する、唯一殺傷能力を持つ白魔法、ホーリー。
その爆発はフレアにも匹敵する、だが彼女が普段出している全力のホーリーは白マテリアのほんの一部力でしかなかった。
ケアルを唱えるよりも簡単に、ホーリーが唱えられたのはそのお陰だ。

アルカートは、頭から流れる血を、片言の魔法で直す、傷が塞がっただけで痛みはまだあるが。
怪しい音を立てる薬と己の血に染まったラケットを拾う。
自分が殺したイクサスの方を見る、何故邪魔をしたんだろう?
いやそんな事はどうでも良かった、ジオの元に行くまで、誰にも邪魔はさせない。
どこに居るんですか?何で私より先に死んだんですか?
ジオさん?答えてくださいジオさん、ジオさん………。
ジオは何も答えない、だがどんどん遠ざかっていくのは分かる。
そのジオをとにかく追った。

【アルカート(頭を負傷+微流血) 所持品:ナッツンスーツ グラディウス 白マテリア(ホーリー) ネコの手ラケット 猛毒薬(約10人分)
 現在位置:アリアハン近く北の平原>アリアハン城へ
 第一行動方針:ジオの元へ行く、邪魔するものは殺す】

【イクサス 死亡 残り99人】
死体の場所:アリアハン北の平原(アルカートが今居るところより結構離れた場所
所持品:加速装置、ピクニックランチセット、ドラゴンオーブ、シルバートレイは放置。

93:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/12/10 16:57:46 mPHqjzlp
ガギッ!
クラウドとパイン、それぞれの持つ刃がぶつかり合って嫌な音を立て、また離れる。
…もうこうして幾度、攻防が続いたことだろうか。クラウドの体の芯には、
澱のように疲労が溜まり始めていた。
(それでも…俺は負けるわけにはいかないんだ。)
参加者名簿に、死んだはずの彼女の名を見つけたとき。
死んでいるはずの彼女が、何故?と疑問が脳裏をかすめたのは一瞬で。
あとは、喜びのほうが大きかった。
今度こそは、死なせずに済むかもしれない。
今度こそは、守りきれるかもしれない-
-だが、その望みは、僅か半日足らず。魔女が彼女の名を呼んだ瞬間に潰え去った-
また、守れなかった。
また、死なせてしまった。
その事実が、何よりも痛切な悔恨となって、彼自身をさいなんだ。
悔しい。心が痛い-もうこんな思いは、嫌だ-
だからこそ、残された仲間たちは、守らなければ。
(ザックス…ユフィ…シド…ケット・シー…ティファ。待っててくれ!)
大振りな一撃をバックステップしてかわし、続いて急所を正確に狙ってくる
刃を、アルテマウェポンで受け止める。
クラウドは躓いたと見せかけてわざと隙を作り、パインの剣を誘った。
すかさずパインが彼のがら空きになった首筋を狙って、アイスブランドを振り被る。
-狙い通り。そこにできた僅かな隙を、クラウドは見逃さなかった。
下から上へ、掬い上げるような一撃を見舞う。


94:守りたい心2/2
04/12/10 17:46:26 mPHqjzlp
…パインの身体には縦一文字に深い傷が刻まれ、どさり、と音をたてて
ゆっくりと前のめりに地に臥した。そのパインをちらとだけ見下ろして、クラウドは
眼前にそびえる大きな建物と、狭くないらしい町を見やった。町ならば。人が集まるだろう。
現に耳を澄ませてみれば、複数のものらしい人の声も、風に乗って聞こえてくる。
あるいは守るべき人も、そこにはいるかもしれない。セフィロス達から身を隠すにも、
建物の多い町はうってつけだろう。そう判断したクラウドは、倒れたままのパインには
目もくれずに、身を翻して駆け出した。

-だから、彼は気が付くことはなかった。
地に臥した彼女の指先が、僅かに慄いたことに。
それは彼女の持てる生命力か、スフィアに宿った魔物の妄執が成せる業か。
指先が土を僅かに握り締め、腕に、足に少しずつ力が入り-這うようにして身を起こしたことを。
【クラウド(疲労)所持品:おしゃれなスーツ アルテマウェポン
現在位置:アリアハン城下町南の入り口付近→町へ
基本行動方針:仲間を見つけ、守る
最終行動方針:ゲームから生きて抜ける】
【パイン(重傷)(ジョブ:ダークナイト)所持品:うさぎのしっぽ 静寂の玉
アイスブランド ドレスフィア(ダークナイト)
状態:凶暴化(何かの衝撃で正気を取り戻す可能性あり)
現在位置:アリアハン城下町南の入り口付近
行動方針:全員殺害。正気を取り戻した場合は不明】
※近くにセフィロス&クジャが潜んでいる可能性があります。

95:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/12/10 17:56:27 s9Q5M7Sm
>>91-92は無効です。
詳しくは雑談スレにて。

96:虚空の彼方から 1/4
04/12/10 18:21:36 uWOxMcRL
あれからどれだけの時間がたっただろう。
日は沈み、悪夢のようなあの声も聞こえなくなって、今はただ、薄暗い草原の中を佇んでいる。
ここにいるのは俺とフリオニール、二人だけだ。
レーベの村に戻る理由は、もうない。
俺は決めた。こいつと、フリオニールと共にここを生きると。
もちろん、それは俺なりにいろいろ考えて決めたことだ。

フリオニールが飛び出したとき、咄嗟に後を追った。追わなければならないような気がした。
いや、そんなことを考えるまでもなく、俺の体は動いていた。
あいつ足の速さには、トレジャーハンターの俺も驚かされる程で、追いついた時にはレーベの村からだいぶ離れていたと思う。
でもそれも、実はあまり自信がない。
もしかすると、追いついたのは案外レーベの近くだったのかもしれない。
どちらにしても、今となってはそれも関係がないこと。
今は、レーベの村からひとしきり離れたこの場所にいるんだから。

フリオニールを捕まえると、あいつはそのままぐったりとして、何の抵抗もしなかった。
俺はというと、捕まえてどうするということも考えてはいなかったんだけれど、
ただなんとなく手持ち無沙汰で、とりあえずレーベの村へ連れて帰ろうと思った。
だけど、レーベの村のほうへ行こうとすると、腕を振り払って、あいつは頑なに動こうとしなかった。
正直、意外だった。
それは多分、あいつがみせた初めての意志表示だったからだと思う。
そのときに、俺はフリオニールが人形じゃないことを知った。

どうして行きたくないのかと考えてみても、心当たりはヘンリーとのことしかない。
俺は、あの行動を攻めることは出来ない…ああしなければ、なにも出来なかっただろうから。
だからヘンリーとのことは気にするなといった。
それでも、フリオニールは動こうとしなかった。



97:虚空の彼方から 2/4
04/12/10 18:23:05 uWOxMcRL
あのときはわからなかったけど、ヘンリーに会いづらくて拒んでいたわけじゃなかったんだろう。
多分、そういうことを考えられるほどの感情が、今のフリオニールにはない。
俺が思うには、ただ怖かったんじゃないかと思う。
フリオニールの悲痛な叫び声は、今でも覚えている。
たしかにあのときあいつは、「死ぬ」という言葉に過剰な反応を示していた。
フリオニールはその言葉から逃げている。
それを思い出さないために、あの場に戻ろうとしない…でもそれも、結局は俺の頭の中で考えたことだ。
真意はわからない。

まあとにかく、俺はこれからどうするかを考えなければならなかった。
意志表示をしたといっても、状況は酷い。話しかけても、機械的な言葉さえ返さないんだから。
かろうじて開かれていた心が、閉じかかっている。
俺は辟易した。

そんなときに…あの、アルティミシアの声が聞こえた。
読み上げられていく名前の中にあったのは、俺も良く知った名前が二つ。
シャドウと…ティナ。(正直、シャドウに関しては、最初の場で名前が呼ばれたときも驚いた…あいつは死んだはずだったから。
でも、ケフカやレオもいるこのゲームは、それ自体不思議なことじゃないのかもしれない)
あの呆然とした感じは、今まで味わったことがないものだ。
自分の仲間が死ぬ現実。そして皮肉なことに、あいつらの死こそが、俺自身の生還への道となっているという事実。
といっても、そのときの俺にはそんなことを考える余裕もなくて、
口をだらしなく開いたまま、焦点の合わない目を動かすだけだった。



98:虚空の彼方から 3/4
04/12/10 18:24:01 uWOxMcRL
そんなときでさえ、フリオニールは相変わらずぼーっとしていた。
今読み上げられた中に、仲間や知り合いはいなかったのだろうか?
いたのかもしれないけれど、それすら理解することもできないのだろうか。
俺はなんとなくフリオニールの横顔を涼しげな眺めていて、そしてはっとして気づいた。
気づいたというよりは、俺が聞いたフリオニールのもう一つの叫び声を、突然に思い出した。
一番最初に、誰よりも早く死ぬことになったあの女の、すぐそばにいた男の―
「フリオニール、おまえは…」
不意に、口から言葉が漏れたけど、そのあとに言葉は続かなかった。
覚えていないはずはないのに、どうして気づかなかったんだろう?
でも、俺はそのときに、自分のおかれた状況を悟った。

フリオニールはきっと、俺の未来の姿なんだと思う。
俺の望みは、セリスと共に―もちろん、仲間もいることがベストだが―生きること。
そのセリスがこのゲームでいなくなったときの俺の姿が、今のフリオニールの姿に重なって見える。
(ティナの死も、俺のこの想いに大きな影響があるのかもしれない)
共に行動することを決意したのは、このときだった。
それまで俺は、何をすればいいのかもよくわかっていなかった。
だけど、はっきりとした。
俺はこのゲームの鎖の中では、生きることができない。
この鎖から抜け出す、この狭い世界から。それこそが、俺の、俺たちの生きる道なんだ。

そんな俺の決意も素知らぬようで、当のフリオニールはといえば、時折するまばたき以外に動きが見受けられない。
フリオニールは、このゲーム最初の犠牲者だ。
もしフリオニールが立ち直って、再び前をむき始めたなら―そのときが、レジスタンスの始まりだと、そういう気がする。

…俺がこれだけいろいろなことを考えたのは、どれだけ久しぶりだろう。
コーリンゲンの、レイチェルの家の前で待っていた日々以来じゃないだろうか。
このいかれたゲームに不似合いな、退屈がいけない。
世界一のトレジャーハンターとして、退屈は一番の敵だ。
いつまでも感傷浸ってはいられない。
これから、手探りで鎖を解き放つ方法を見つけださなければならないんだから。


99:虚空の彼方から 4/4
04/12/10 18:25:50 uWOxMcRL

ふと、フリオニールが歩き始めた。そして、止まった。
俺は思った。
どんなことでも、起きてくれればいいと。
そう思いながら、フリオニールがじっとひとつの方向を見ていることに気づいた。
何もない。
そう思う。
でも、フリオニールはその方向を見ている。
見ている…?
俺は目をつむった。
断続的な金属音が聞こえる。
俺は思わず、目を見開いた。
そして、叫んだ。
「フリオニール、行くぞ!」
言い終わる前に、二人とも走り出していた。



【フリオニール(感情半喪失) 所持品:銅の剣 現在位置:レーベ西の平原 行動方針:レオンハルトたちの場所へ】
【ロック 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 現在位置:同上 第一行動方針:金属音の方向へ 最終行動方針:ゲームをぶち壊す】


100:ルナティック・ハイ 1/4
04/12/10 22:21:04 HvF28r0w
―彼は変わっていない。
兄とよく似た風貌も、聡明さを象徴するかのような瞳も、人々の心に静かに響く優しい声も。
外見だけならば、彼は何一つ変わっていない。
―彼は変わってしまった。
昔の彼は、優しすぎるぐらいに優しい人間だった。
他人を傷つけぬために、自分を犠牲にすることができる人間だった。
けれども今はどうだ。人を傷つけることも、命を奪うことさえも楽しんでいる。
―彼は狂っていない。
狂人は待つことを知らない。いつでも真理と結果のみを求め、浅薄な妄想の世界に浸ろうとする。
彼はそうではない。機を待ち、慎重に事を進めることの大切さを知っている。
ハイになっても、いざとなれば冷静に判断することができる。そうするだけの自制心も持っている。
―彼は狂っていた。
血に餓えた獣に、いや、それ以下の存在に成り果てていた。
獣は生きるために殺すが、彼は違う。生きるためではなく、快楽のためだけに人を殺す。
それ以外に理由はない。あったかもしれないが、もうどうでもよくなってしまった。

少しずつ、少しずつ。風の音に紛れるように、少しずつ。
さやけき月光が、姿を照らし出さないように。ターゲットに気付かれないように。
少しずつ、少しずつ、距離を詰め、間合いを計る。
込み上げる笑いと高揚感を抑え、トリガーに指をかけたまま、前に進み―
「エドガー!」
唐突に、二人組みの片割れが叫ぶ。
気付かれたか? まあ、ここまで近づけばどうでもいい。
一気に引き金を引く、それが舞踏会の始まりの合図だ。
昼間の男のようにワルツを踊れ。パートナーは死神、楽曲は銃声。悲鳴が伴奏で、流れる血潮が葡萄酒の代わり。
そして壊そう。壊してしまえ、何もかも。肉も骨も、血も涙も、花のように散らせてしまえ。
さあ、最高のワルツを僕に見せろ。死を、血を、僕に捧げろ!
壊れろ、踊れ! 僕のために! もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと……
「もっと……もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっともっともっともっと
 もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと
 もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと!!
 もっと、僕を楽しませろ!!」

101:ルナティック・ハイ 2/4
04/12/10 22:24:28 HvF28r0w
若者の哄笑を聞きながら、エドガーとデッシュは舌打ちした。
「どうしてこんなに近づかれるまで気付かなかったんだよ?」
「生憎、熱中すると回りが見えなくなる性分でね。相手が美しいレディなら話は別だったのだが」
「おいおい……本当、これでよく蜂の巣にされずに済んだよな」
そう、本当に幸運だったとしか言いようがない。
デッシュが叫ぶより早く、エドガーも襲撃者に気付き、デッシュの身体を抑えながら地面に伏せたこと。
襲撃者の反応が予想よりも遥かに鈍く、木陰に隠れられるだけの時間が生まれたこと。
そして相手が、二人の頭があった位置を―つまり割と上の方を狙って銃弾を撃ちこんできたこと。
これらの要素が重なったお陰で、多少の手傷を負っただけですんだ。

「しかしどうするよ? 首輪とメモとひそひ草が……」
デッシュが囁く。研究成果とバーバラへの連絡手段は、全て弾幕の向こう側だ。
最も、首輪がらみのことは二人の頭の中にきちんと残っているが。
「取りに戻れると思うか? それより、今は逃げることを考えろ」
「説得……は、絶対に無理だよな……」
「アレを相手にするぐらいなら、ケフカと一対一で会談する方がまだマシだ」
エドガーはデッシュの手からウィンチェスターをもぎ取り、声の方に撃ち込みながら言う。
「いいか、今から三数えるから、そうしたら一気に走れ」
「何言ってんだ! そんなことしたら、ネズミが食うチーズみたいになっちまうだろ?!」
「私を信じろ! いいか、三……二……一、今だ!」
自棄になってデッシュは走り出す。エドガー自身も後を追う。
だが、攻撃は来なかった。
疑問のあまり振り向いたデッシュの目に、唇を噛みしめる若者の姿が映る。
そう、まるでおあずけを喰らった犬のような、撃ちたいと思いながらも命令に抗えない兵士のような……
「……クッ。付け焼刃では、やはり効き目は薄いか……!」
エドガーが呟く。その手に握られた銃が、わずかに光を帯びている。
(マテリアか!)
ようやくデッシュは思い当たった。それと同時に、途切れていた銃声が再び響き渡る。
けれども生い茂る木々と夜の闇が、彼らの身を守る盾となった。

102:ルナティック・ハイ 3/4
04/12/10 22:28:12 HvF28r0w
これでは、もう銃弾は届かない―
デールは苛立たしげに銃口を下ろした。森に静寂が戻る。
アラームピアスの音色も途切れた。せっかくの獲物を、完全に逃してしまったのだ。
彼は追撃を早々に諦め、立ち去ろうと銃を背負う。
その時、奇妙なことに、どこかから女の声が響いた。

『どうしたの? ねぇ、エドガー、何があったの!?
 すごい音がしたけどどうしたの? ねぇ、返事をして! エドガー!』

―デールはすぐに声の正体に気がついた。首輪と共に放り出されたままの、見たことのない草。
直感に従って草を拾い上げ、落ち着いた声音で話し掛ける。
「もしもし。私の声が聞こえますか?」
すると、彼の予想通り、草自体から返事が返ってきた。
『……あなた、誰?』
「失礼しました。私の名はデール、ラインハットという国に住む者です」
一国の主に相応しい、穏やかで丁寧な言い回し。
その様子に、女性の声も警戒を緩めたのか、デールに聞いてきた。
『あたしはバーバラっていうの。ねぇ、そっちで何があったの?』
「詳しいことはわかりませんが、戦闘があったようですね。
 死体はありませんが、木々が派手に薙ぎ倒されています。
 ……そういえば、ツンツン尖った髪型の若者が、大きなものを抱えて走っていくのが見えました」
『ツンツン尖った……? じゃあ、エドガーでもデッシュでもないわ。
 そいつが襲撃者なの?』
「わかりません……何分、辺りも暗くて」
『そっか、夜だもんね』
「お役に立てず、すみません」
デールがいかにも申し訳なさそうに言うと、バーバラは『いいのいいの』と笑って答えた。
『死体がないなら、きっとデッシュもエドガーも無事だろうから。
 それよりデールさん。今、どこにいるの?』
「お城の北の森です」
『あー……本当に、二人とも全然動いてなかったのね。
 もう。ちょっとくらい、こっちに迎えに来てくれたっていいのに……女の子の気持ちをわかってよ』

103:ルナティック・ハイ 4/4
04/12/10 22:31:30 HvF28r0w
ため息と一緒に聞こえた言葉に、デールは反射的に問い返した。
「こっち、とは?」
『今は原っぱにいるの。半日掛けて、山を越えて歩いてきたのよ。
 エドガーは無理するなって言ってたけど、ずっと一人でいるって嫌だから……
 えっと、地図で言うと、多分レーベって村の東の方だと思う』
「レーベの東、ですか……私でよろしければ、迎えに行きましょうか?」
『え!? ホント?』
「ええ。実を言いますと、私も一人で心細い思いをしていたのです。
 兄と義理の姉が広間にいたのですが、二人に声も掛けられぬまま、こんな場所に放り出されてしまって……
 ……どうでしょう、バーバラさん。お互い、一人よりは二人の方が安心できると思います。
 レーベの村というところで落ち合いませんか?」
『わかったわ。あたし、赤い髪を一つに結ってるの。だから見ればすぐにわかると思うわ』
バーバラの嬉しさに満ちた承諾の声に、デールは笑いを押し殺していた。
赤い髪の少女。彼女の悲鳴はさぞ聞き応えがあるだろう。白い肌を伝う血は、きっと上質のワインのようで。
ああ、ナイフがあれば存分に味わえるのに! まぁいい、彼女には華麗な踊りを見せてもらえば……
―そんな歪みきった思いをおくびにも出さず、彼は理知的な声で告げる。

「わかりました。会えるのを楽しみにしています」

【デール 所持品:マシンガン、アラームピアス(対人)、ひそひ草
 現在位置:アリアハン北の森→レーベへ移動
 第一行動方針:レーベでバーバラと会い、殺害する 第二行動方針:皆殺し】

【エドガー 所持品:バスタードソード 天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン
【デッシュ 所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる)
 現在位置:アリアハン北の森 第一行動方針:デールから逃げる/首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】

【バーバラ 所持品:ひそひ草、その他様々な種類の草がたくさん入っている(説明書あり)
 現在位置:レーベ東の平原→レーベへ
 第一行動方針:デールとレーベで会う 第二行動方針:エドガー達と合流/ゲーム脱出】

(首輪二個と研究成果のメモはアリアハン北の森の中に放置)

104:MOON 1/2
04/12/12 02:13:59 m9e9Gjtr
そこには、無かった。横たわっている筈の、顔の焼け爛れた女性の姿が。
それが分かったときに、ビビは不思議な気持ちに襲われる。
心のどこかで安心して。心のどこかで不安で。
 あぁ、生きていたんだね。どこかに行ったんだね。
 ボクが来る前にいなくなっていて、よかった。人を殺すのなんて嫌だから。
 でも、あのお姉ちゃんがもし悪い人だったら、死んじゃう人は増えるかもしれない…
 そうしたらボクが殺さなかったせいなんだ…
「ねぇ、悪い人じゃ、無いよね…?」
虚空に問いかける。
「ちょっと、怖かっただけよね…?」
何故かそこに女性が立っている光景が思い浮かぶ。
「本当の悪い人なんて、いないよね…?」
女性は、焼け爛れた顔で、ビビを見下ろした。
「ボクはお姉ちゃんを許してあげられるから…だから」
女性の表情に変化は無い。火傷のせいで表情を表せないようにも見える。
「ボクも…ごめんなさい…」
ビビは、大きく頭を下げた。
…頭を上げると、女性の幻影は消えていた。
対象のいない会話が、何らかの利益を彼に与えるとは思うわけが無く。
「火傷、ボクには治せないけれど、ここから抜けられたら魔法で治せると思うんだ…」
ただ、そうせずにはいられないと彼が思ったから、そうしたのだった。
「ボクの仲間に、白魔法が使えるエーコって人がいるから…」
もう一人彼の頭に浮かんだ人がいた。だが、もう、その人はもういないから。忘れようと、頭を振った。
「だから、えっと、お姉ちゃんも、生きてここを抜け出して、火傷を治そうね…」
あの女性のことを考えれば考えるほど、彼女が善人だったように思えてくる。
自分が魔法を放ったのは間違いじゃないかという、後悔も共に。
ゆっくりと顔を上げ、月を見上げる。
「月、綺麗だよね…。お姉ちゃんも、エーコも、みんな、そう思うのかなぁ…?」
誰も返事をする事が無いのを知りつつ、問いかける。
そして、振り返り、尖がり帽子を両手で調整すると、元来た道を戻り始めた。

105:MOON 2/2
04/12/12 02:15:06 m9e9Gjtr
「なんスか、一体…?」
彼の行動の一部始終を、木の陰から見ている青年がいた。
思わず口に出してしまったその言葉どおりの心境だった。
やってくるなり闇に向かって話しかけ、謝り出した少年。
彼の言うお姉ちゃん、とは一体誰なのか。許す、ということは何か悪事を働いた女性か。
気になる。聞いてみたい。でも、この一連の動きが罠だという可能性も、否定できない。
さっきは目の前でエアリスが殺されたのだ。
自分もああなるかもしれないという事を考えると、正直恐怖で立ってさえいられなくなる。
それが、彼に行動を起こすことを自粛させている。

それに彼にはもう一つ、やらなければならない事があった。
ターニアを探さなければ。
きっと何処かで震えているから。暗闇を、きっと怖がっているだろうから。
エアリスの血を見てしまった彼女が、今心配で。

ちょっと空を見上げた。
少年の声が、何故か耳の中で反響しているから。
「本当に…綺麗な月ッスね…」
呟くと、歩き出した。
なんとなく、南へ。少年とも、そしてターニアとも、違う方向へ。
少年とターニアが同じところにいることなど、当然、気づく事は無く。

相変わらず、月は見ているだけ。誰の味方も、しなかった。

【ティーダ 所持品:鋼の剣 青銅の盾 理性の種 ふきとばしの杖〔4〕 首輪×1
      第一行動方針:南へ 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【ビビ 所持品:不明 第一行動方針:ピサロの元へ戻る 最終行動方針:ゲームから脱出】

現在位置:レーベ東の森中央付近

106:長い休息 1/2
04/12/12 17:16:37 BgSR+Ehh
それは日が沈む少し前。
アリアハン城地下牢。そこに断続的に銃声が響いていた。
「うん。八割方当るようになった」
リュカとケット・シーは洞窟を抜けた先にあったこの地下牢で、
休憩を兼ね、リュカにとっては初めて使う武器である銃の練習をしていた。
地下牢に直接通じる兵宿の扉が閉まっていれば、銃声の音は完全に遮断され、城内に誰かいても気づくことはない。
そしてその扉はご丁寧に以前ここにいたキーファ達が閉めていたので、リュカは心置きなく練習が出来たのだ。
「リュカさんって飲み込み早いんやなぁ。すぐにヴィンセントにも追いつきそうや」
「ヴィンセント?」
「ボクの知ってる限り、その銃使うとった人や。このゲームには参加してへんけど」
「そう…」
よかったね、というべきなのかと、リュカは一瞬迷った。
しかしヴィンセントという人物がどんな人なのかがわからない以上、下手なことはいえない。
そして思う。
リュカはケット・シーに家族や仲間のことを話したが、ケット・シーのことは全然聞いていない。
何とはなしに聞いてみると、ケット・シーはこそばゆそうに頭を掻き、だが口を閉ざしはしなかった。
「う~ん、知り合いゆうてええんか、ちょっとわからんのですよ。
 僕は知ってる人たちなんですけど、クラウド達は本当は部長の仲間やったわけですから」
「どういうこと?」
そしてケット・シーは語った。かつて星を救った者達の冒険のことを。
その冒険でリーブと言う男が、遠隔操作でロボットを操り参加していたことを。
「そのロボット言うんが『ケット・シー1号、2号』なんや。
 ボクはその時の記録データをインストールされた『自立行動型ケット・シーVol 7.03』量産型の一体なんです。
 せやから、クラウド達には直接会ったことなくて…」
「へ、へぇ…」
リュカは決してバカではない。
しかし耳慣れない単語をふんだんに含んだ話というものは、人間の脳みそを一時的に混乱させてしまうものである。
「まぁ外見は全く一緒やし、記憶とか能力とかもほとんど違いはありません。
 性格も、部長の人格まんまの人工知能やから、多分クラウド達に会っても絶対見分けつかん自信ありますよ~」

そんな時、地震のような揺れとともに、あの魔女の声が響いた。

107:長い休息 2/2
04/12/12 17:18:35 BgSR+Ehh
銃声も漏れぬ密閉した地下牢にも、何か魔法でもかかっているのかその声はよく響いた。

そして、それが終わったとき、再び戻ってきた静けさは、もう以前のものとはかけ離れていた。
まだ、耳に魔女の声が残る。
「サンチョ…、ピピン…」
口にするのは簡単で、ついに再会することは叶わない。
幼いときから見守ってくれていた人。
尊敬のまなざしでいつもみてくれて、声をかけただけで歓喜してくれた人。
ふと、隣を見る。
魔女が口にした名前の中には、ついさっきケット・シーが話してくれたばかりの人たちもいた。
「…バレット……、…エアリス……」
とても小さい、場所がこんなところでなければ多分気づけなかったであろう程小さな声。
会ったこともないのに記憶だけある人物。
一体自分はどういう感情を持てばいいのか…。
「そろそろ行きましょ。リュカさんの腕も相当上達したし、もたもたしてたら本当に家族に会えへんことになりますよ」
それでもケット・シーは、まだ生きている、記憶だけの知り合いに会いたいとは言わない。
「うん」
リュカはただ、頷くだけだった。


【リュカ 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ
【ケット・シー 所持品:正宗 天使のレオタード
現在位置 アリアハン城地下牢
第一行動方針 移動開始
基本行動方針 リュカの家族、及び仲間になってくれそうな人を探す】

108:彼の失敗、彼女のミス 1/3
04/12/13 20:01:29 wywC+b/d
僕、疲れてたんだよね。
何せ四回もバトルして、山を走り抜けてこの村までやってきたんだ。
おなかは空いたし、息は上がるし、足もガクガクするし……
最悪のコンディションで、当然のことながら注意力も散漫になっていた。
だから、その赤い草のような物が何なのか、一目ではわからなかったんだよね。
(ナニ、コレ?)
家の影からにょきっと伸びたそれに気を取られ、僕は反射的に近づいてしまった。
今から思えば、さっさとボウガンを撃ち込むべきだったんだよ。
でも、僕が武器を構えることを思い出した時には、もう遅かった。

「ラリホーマ!」

その不思議な言葉を聞いた途端、僕をものすごい睡魔が襲った。
口を開く間もなく、視界はフェードアウト。僕の意識もブラックアウト。
ちょこっとだけ、悪戯っぽく微笑む赤髪の女の子の姿が見えて……それで、おしまい。

―そうして気が付くと、僕はベッドの上にいた。
首を横に回してみると、すぐ隣のベッドに緑色の髪をした男の人が横たわっている。
僕より十歳は年上だろうか。オジサンとお兄さんの中間って感じのオジサ……もとい、お兄さんだ。
「よぉ、気が付いたか」
「ここは?」
「村の宿屋だよ。道端で眠ってたお前を、ソロの奴が連れてきたんだ。
 風邪引いて死なれたら、寝覚めが悪いからってさ」
道端で? 眠ってた?
「しかしお前もドジだな。支給品の食料どっかに落としてくるなんてよ」
食料? 落とした? そんなはずは……

109:彼の失敗、彼女のミス 2/3
04/12/13 20:05:12 wywC+b/d
「……あーーっ!?」
あの赤い髪の女の子!!
「な、なんだよ、大きな声出して」
「ほ、ほほほ、本当に僕の袋なかったの?」
「袋はあったぜ。空っぽだったけどな。お前の横の壁にかけてある」
「僕、袋以外に何か持ってなかった?」
「全部、そこのテーブルの上に置いてある」
テーブルの上って……置いてあるのはグレートソードと、ランプと地図だけなんだけど。
……やられたよ。あの女の子、今度見つけたら絶対に殺してやる~!
でも、もう近くにはいないだろうな……第一、探しに行く気力も体力も残ってないよ。
「盗まれたのか?」
「ラリホーマって声が聞こえて、赤い髪の女の子が見えて、そのまま眠っちゃった」
「ああ、そりゃ眠りの呪文だな。ま、生きてるだけでもマシってことにしとけ」
……確かに、普通ならそのまま殺されても文句言えない状況だけどさ。
まさか、ティナのボウガンも、ナイフも、ミスリルの小手も、食料も、全部盗られるなんて!
竜騎士の靴は、履きっぱなしだったせいか無事だけど……
ディアボロスは盗りようがなかったんだろう、ジャンクションされたままになってるけど……
「食料なら心配しなくていいぞ。今、ソロが夕飯作ってるところだ。
 他にも缶詰や瓶詰で良ければここにあるし、パンと水は俺たちのを分けてやるよ」
ありがとう、親切なオジサン。
でもね、僕が心配してるのはそういうことじゃないんだ……
これから先、不得手な剣一振りでどうやって相手を仕留めるかってのと、
スコール達が追ってきたらどうやって切り抜けよう、ってことであって。
けれど、本当の事なんか口が裂けても言えない。
うう……銃かボウガンが手に入るまで、この人たちと一緒に大人しくしてるしかないか。
二人ともかなりのお人よしみたいだし、少しは僕のことも守ってくれるはずだ。
―もし、この人たちに僕の正体がバレたら?
その時はその時で考えよう。今はボウガンを盗られたショックが強くて、考える余裕なんてない。
今日はもう、疲れちゃったよ……セフィ……

110:彼の失敗、彼女のミス 3/3
04/12/13 20:08:06 wywC+b/d
大・成・功ー!
まさかこんなに上手く行くなんて!
苦労して、盗賊と魔法使いの修行を積んだ甲斐があったってものよね。
ボウガンに、ナイフに、小手にー……食料もたくさん。
これだけ物が揃えば、当分の間は心配することなんかないわ。
デールさんも一・二時間程度で来ると思うし、もう矢でも鉄砲でもムドーでも、どーんと来いって感じ。
……でも、あのお兄さんには、悪いことしちゃったかな。
ううん、きっと大丈夫だよね。
ランプと地図と、一番強そうな剣は残してきたし……食料だって、村の中にあるし……
もしバッタリ会っちゃったら、素直にゴメンナサイって言えば許してくれるよね?
……無理かなぁ。
けど、こっちだっていつまでも草束抱えてウロウロするわけにもいかないじゃない?
ひそひ草や薬草、毒消し草、満月草、山彦草は便利だけど、攻撃に使えるわけじゃないし。
他は、使ってどーするの? 何に使うの? って物がほとんどで、不安だったのよ。
だからアレだけ武器を持ってるんだし、少しぐらい分けてくれてもいいよねー、って……

……ごめんなさい、コートに帽子のお兄さん。
今度偶然出会ったら、きちんと謝って返すから。
それまで、ちょっとの間だけ貸したってことにしておいてね。

【バーバラ 所持品:ひそひ草、他に様々な種類の草たくさん(説明書付き)
 キラーボウ エアナイフ ミスリルの小手 食料二人分(マリベル+アービンの分)
 現在位置:レーベの村・民家
 第一行動方針:デールが来るまで待つ 第二行動方針:エドガー達と合流/ゲーム脱出】

【アーヴァイン(HP4/5程度、疲労中) 所持品:竜騎士の靴 G.F.ディアボロス(召喚不能) グレートソード
 第一行動方針:休息/銃かボウガンを手に入れる(それまでは大人しくしてる) 第二行動方針:ゲームに乗る】
【ソロ(MP消費・疲労) 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング
 第一行動方針:ヘンリーに付き添う/自分の休息】
【ヘンリー(負傷) 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可) 第一行動方針:傷の治療】
 現在位置(共通):レーベの村・宿屋

111:コラム:魔物と人間の考察1/2
04/12/14 05:39:07 H8bbufwN
魔物には純粋な魔界の住民や、宝石から作られたクローンも含まれているが、
物体に怨念が宿ったり、普通の生物が邪気、症気、狂気に取り込まれて巨大化、凶暴化したものも多い。
ある雪国で伝えられる邪なる狼の群れや、ある町の伝説に残る巨大植物などはその最たる例である。
そして、それは、人間とて例外ではない。

人間のように強い意志を持つ生物は、魔物化に2通りのパターンがある。
一つは、願いをかなえるために自ら心を捨てたもの。
例えば、強さを求めて魔物と化した、ならず者の町の格闘家、魔法の極意を極めるために魔王に魂を売った魔法使い。
主君への忠誠心があまりにも強く、魔物となってまで主を守ろうとしたものもいるし、殺しに快感を覚え、魔物となったものまで、様々である。
中には果てしない野望を持ち、魔族を束ねる王にまでなったものさえいる。

もう一つは、邪気、症気に取り込まれたために、心も体も魔物と化すものである。
例えば、邪神の生け贄にされた人間、恋人に裏切られ、失意のまま死んだ人間の魂、邪神の邪気に触れたさる灯台守。
異世界の歴史を紐解けば、アーガス神官長やマイエラ修道院長といった最高位の聖職者ですらいとも簡単に魔物化している。
これらの魔物は、本能(というと語弊があるかもしれないが)的に他者を仲間に引き入れようとしつこく行動する。
ブリザードが頻繁にザラキを唱えたり、ゾンビ系モンスターが集団で現れ、倒しても墓からやたらと復活するのはそのためだ。
意志を持ったまま魔物化した場合も、基本行動は同じである。むしろ、状況判断力が付く分たちが悪い。

112:コラム:魔物と人間の考察2/2
04/12/14 05:44:25 H8bbufwN
それでは、人間の魂を魔物の体に移すとどうなるのだろうか。これを転生というのだが、
基本的に魔物の力を得て、なおかつ精神はそのまま、という状態を得ることが出来る。
純粋に力を求める場合、最も手っ取り早い方法であるが、人を魔物に転生させられる者自体、世界で数えられるほどしかいない。
そのうえ、重大な欠点もある。負の力に対する耐性が弱くなることである。
普通に生活する分では問題ないのだが、例えば恋人を突然失ったり、戦場の空気に触れたりして、
自我を著しく欠いた場合、特に負の力の大きい場所においては、邪気に支配されてしまうことがあるのだ。
魔物は純粋な生き物、周りの環境によって、180度性質が変わる。
邪気を取り除くことが出来れば、本来の意志を取り返すこともできるかもしれない…

ここはアリアハンの書庫。3人がそれぞれ本で調べものをしている。
「っああ~!性に合わねぇー!」
ジタンが本を投げ出し、歩き回る。
「どうだ、リノア。何かいい情報は見つかったかい?」
「ううん、さっぱり。呪術の本や工学の本は一通り見たけど、難しくて…
 あ、そうそう、その怖い顔したお面は呪われてるから着けちゃいけないからね」
「ああ、分かった。といっても、こんなもの着けたいって思うやつもいないだろうけど。
 キーファ、そっちは?…ってどこ読んでんだよ。『コラム:魔物と人間の考察』?なんだこりゃ?」
「いや、ちょっとな。さっき墓作った女の人いただろ。あの人知り合いだったんだよ。
 俺がまだ小さいときだったからほとんど覚えてない、ってか、今思い出したんだけどさ。
 それでその人に彼氏いたんだけど、その彼氏…モンスターでさ、大丈夫かなって気になったんだよ。それだけだ。
 ……あ~!さて、調べに戻るか!」

【ジタン 所持品:英雄の薬、厚手の鎧、般若の面 第一行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 第二行動方針:ゲーム脱出】
【リノア 所持品:不明 第一行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 第二行動方針:仲間と合流しゲーム脱出】
【キーファ 所持品:攻略本 第一行動方針:首輪解除の手段を探す 第二行動方針:フィンと合流しゲーム脱出】
現在位置:アリアハン城裏の図書館 (コラムは攻略本の一部、3人とも図書館で本読んでいます)

113:僕はもう、疲れたよ…
04/12/14 05:46:06 H8bbufwN
あの放送を聞いたとき、彼の思考といえるものは途絶えた。
彼にとって、彼女は自分の命よりも大切な存在。一度は魔物と化した彼の心を人間の心に戻してくれたのは、他でもない彼女。
だから、彼女を守り続けようと思った。死ぬにしても、二人一緒に、同じ時間、同じ場所で死のうと思っていた。
それなのに、現実はどうだろう。一言も言葉を交わすこともなく、姿を見ることもなく、彼女はこの世からいなくなってしまった。
彼にもう生きようという気力はなくなってしまった。


脳裏に邪悪な闇の化身が迫ってきた。
邪神が存在していたとき、何度も味わった感覚だ。僕は、彼女がいるから、ただそれだけの理由でこれを拒否してきた。
けど、彼女はもういない。この世にとどまる理由もない。だから拒否する理由もない。
仲間は生きているけれど、この世にとどまる理由にならない。
来るものすべてを受け入れよう。自分が壊れてもいい。もう、何もする気にならない。今日はもう、疲れた。
マチュア…僕も今、そっちに行くよ…


彼の心は空っぽになった。醜い外見でありながらも、光を宿していた目、今はただただ漆黒の闇が広がるばかり。
もはや彼の抜け殻をつき動かすのは、魔物としての本能と、会場を取り巻く狂気のみ。
彼の抜け殻が求めるのは、人の血肉と、自らの肉体の滅びのみ。

【スミス(腐った死体) 所持品:無し 現在位置:レーベ北東 行動方針:魔物の本能に従う(無心状態、理性無し)】
 所持品(紫の小ビン、拡声器)はすべて放置、腐った死体に変身の状態です

114:殺人者でも、狂人ですらなく 1/6
04/12/14 09:31:45 8HnEnPJO
苦渋の末の決断だった。
確実に待ち受ける死と、可能性として存在する死。
葛藤の果てに、エッジは『確実な死』を防ぐことを選んだ。
「マリアさん、すまねぇ……すぐ戻るから、それまで無事でいてくれ!」
エッジは唇を噛みしめながら波動の杖を受け取り、走り出す。
彼の後姿を、マリアはどこか安心したような表情で見送った。

―実のところ、マリアの運命はこの時点で決まっていたのだが、二人には知る由もない。

エッジがそうしたことで、カインの判断も決まった。
確かな実力を持つ旧友と、疲弊しきった女。
ターゲットは二つだが、リスクは少ない方がいいに決まっている。
自分の目的は生き残ることだ。殺人は手段の一つに過ぎない。
(回復魔法もアイテムもない以上、下手に手傷を負うのはまずい……慎重にならねばな)
いくら騙し打ちや奇襲をかけたところで、エッジほどの実力者相手に無傷というのは難しい。
だが、見るからに非力そうな、あの女性なら。
自分でも卑劣な考えだとは思うが、場合が場合だ。そんなことを言う余裕は無い。
(ここは見晴らしもいい……気付かれて邪魔に入られても困る……エッジが去るまで、もう少し待つか)
カインは槍を携え、静かに機を窺う。

―けれども、カインがマリアに槍を突き立てることは、ついになかった。

115:殺人者でも、狂人ですらなく 2/6
04/12/14 09:36:32 8HnEnPJO
どれほどの時が過ぎただろう。
十分? 十五分? それとも三十分? あるいは五分か?
ともかく、エッジが過ぎ去った後しばらくしてからだ。
樹上のカインは、一人の若者が森の中を歩いて来るのに気がついた。
華奢な身体に貴族風の服を纏った、高い教養と知性は窺われるけれど、戦いの才能はなさそうな……
数度だけ会ったダムシアンの王子を思い起こさせる、いかにも大人しくて無害そうな若者だった。
それでもカインが襲撃に移らなかったのは、若者の持つ奇妙な武器と、背筋を走り抜けた予感のせいだ。
出て行ってはならないという、確信に近い直感。何故かはわからない。
だが、カインは自分の勘を信じることにした。

草原にしゃがみ込んだままの女性の姿に気付いたのだろうか。
若者は足を速め、森から平野に出た途端、一気に走り出す。
若者が叫んだ。「マリアねえさん!」、カインにはそう聞こえた。
女性は面を上げ、若者に手を伸ばす。二人はお互いの身体をしっかりと抱きしめあう。
姉と弟なのだろうか? だが、それにしては似ていないし、髪の色もずいぶん違う。
「兄さんは? 一緒にいないんですか?」
また、若者が言った。良く通る声だ。これだけ離れているのにはっきり聞こえる。
身なりといい、育ちの良さそうな感じといい、演説馴れした貴族か王族なのかもしれない。
女性は首を横に振る。
「ヘンリー」「先に名前を」、「デールさん」「会っていないの?」という部分だけが辛うじて聞き取れた。
「はい……でも、ヘンリー兄さんは簡単に死ぬような人ではありませんよ。
 兄さんも、きっとねえさんを探してるはずです……あの人は、貴女を誰よりも愛しているから」
―ここまで聞いて、ようやくカインにも理解できた。
若者は兄弟の弟で、女性は兄の嫁なのだろう。『姉さん』ではなくて、『義姉さん』と言っているのだ。
「マリア義姉さん、歩けますか?」
若者は義理の姉を心配し、手を貸そうとする。しかし女性は再び首を振る。
「疲れ」、「足が」、「動かない」、「やすま」―『疲れて足が動かない、少し休まないと』。
その返事に、若者は困ったように夜空を仰いだ。そして何を思ったのか、唐突に女性に問い掛ける。
「……そうだ。刃物か何かを持っていませんか?」

116:殺人者でも、狂人ですらなく 3/6
04/12/14 09:38:43 8HnEnPJO
(―刃物?)
若者の言い方に、カインは少し違和感を覚えた。
自分なら、「剣を持っていないか?」という風に聞くだろう。少なくとも刃物とは言わない。
けれども女性は気にとめた様子もなく、一振りの大剣を渡した。
「これしかなくて……」
済まなさそうに頭を下げる女性を余所に、若者は剣をじっと見つめ、何度か素振りをする。
筋は決して悪くないが、素人だというのが丸判りだ。
若者自身もわかっているのだろう。「兄さんならもっと上手く扱えるだろうに」と一人ごちる。
その通り、疲れて動けない女性を守るには、あまりにも頼りない。
(俺の勘も鈍ったか?)
カインは自嘲した。
若者の武器が何かは未だにわからないが、わざわざ剣を受け取る辺り、役に立たない代物なのだろう。
そしてあの腕前では、自分の敵になれなどしない。
彼から感じた危険は全て気のせいだ―己の迷いが生んだものだったのだろう。
カインがそう考えた時、若者の声が夜空に響いた。
「でも、贅沢は言えませんね……切れ味は良さそうだし、壊すのには向いていそうだ」
(―壊す?)
カインがその言葉の意味を理解する前に―

若者の剣が、女性の肩に突き刺さった。

「―っ―!!?」
カインの叫びは喉の奥で止まる。女性の絶叫は声にならず、それでも空気を震わせる。
何だ? 何が起きた?
混乱する二人の前で、若者だけが静かに笑う。
剣は真下にゆっくりとすべり、鈍い音と共に腕を断ち切った。
「壊れてください、マリア義姉さん」
若者はそう言った。嫌になるほど落ち着いた声で。
血濡れの刃が右足に潜り込み、今度こそ、女性は絹を裂くような高いソプラノの悲鳴を上げた。

117:殺人者でも、狂人ですらなく 4/6
04/12/14 09:46:51 8HnEnPJO
「綺麗な歌ですね。修道院で覚えたのですか? もっと、聞かせていただきたいのですがね」
ぞっとするような呟きと共に、また赤い飛沫が咲く。左足に、左腕に。
女性は涙と血を流しながら、必死で若者を見上げる。
「どうして、デールさん? ……止めて、止めて……!」
若者は止めない。義理の姉を、兄の妻を、あれほど親しそうにしていた相手を、笑顔で切り刻んでいく。

(狂っている……)
カインは呟いた。呟かずにはいられなかった。
誰が誰を思い起こさせるだと? どいつが無害そうだと? 何が頼りないだと?
勘が鈍っていたのではない。俺の目が曇りきっていただけだ!

「最初はね。可愛いコリンズとラインハットのために、戦おうと思っていました」
若者は不意に手を止めて、女性を見つめた。
「けれど途中で気付いたのですよ。僕の望みに。僕自身が、何を望んでいたのかに……」
泣き崩れる恋人を慰めるように優しく頬に手を触れ、指先を唇へと滑らせる。
「僕はずっと、人の夢を叶えてやることばかり考えていました。
 でも、生まれて初めて、自分自身の望みを叶えてみようと……そう、思ったのです。
 僕の願いを……人間を、生命を、何もかもを壊したいって願いをねぇ!」
ざくり、と嫌な音がして、剣先が女性の肺へ突き刺さった。
飛び散る血の量を減らすためか、長くいたぶりたいがためなのか、やけにゆっくりと。
女性の口から血が溢れる。若者の指も同じ色に染まる。
「邪魔をする者も、逃げる者も……! バーバラって小娘も、リュカさんも、ビアンカさんも!
 僕が! この手で! 壊してやるんですよ! 最高でしょう!?
 それが僕の願いなんですよ、義姉さん!」
若者は女性の身体に何度も刃を突き立てながら、愉快そうに笑った。楽しそうに笑い続けた。
それが再び、唐突に止んだ。
「……神に感謝します。僕を、ここで、貴女と引き合わせてくれたことに。
 ヘンリー兄さんと貴女だけは、他の誰にも殺させたくなかった……
 貴方たちを壊すのも、その最期を看取るのも……できるならば、僕でありたい」
果たして、若者は笑っていたのだろうか? それとも泣いていたのだろうか?
カインからは見えない。ただ、重なる二つの影だけがはっきりと見えた。
「……愛しています。マリア義姉さん」

118:殺人者でも、狂人ですらなく 5/6
04/12/14 09:54:18 8HnEnPJO
―カインは込み上げる吐き気に口を抑えた。
彼でなくても、真っ当な神経の持ち主ならば誰だってそうする。あるいは、恐怖とおぞましさで卒倒するかだ。
そんなカインの胸中を知らない若者は、女性の身体を離すと紅色に濡れた唇を舐めながら言った。
「誰か、いるな」
それが自分に向けられたものだとカインが気付くには、数秒が必要だった。
「壊されたいか? 僕に」
若者は周囲を見回しながら、剣ではなくあの奇妙な武器を構える。
「これでも女性と待ち合わせをする身だ、あまり時間は割けぬ。
 剣は使ってやれないが、何、鉛球と共に踊るのも楽しいものだぞ?」
若者の持つ武器が、突然硝煙を吐き出した。鉄筒の直線状に位置する木に、無数の穴が穿たれる。
剣や槍など比べ物にならぬ破壊力だ。そしてあの速度、避けることも弾くことも難しい。
「さあ、出て来るがいい」
若者は空を仰ぎ、静かに告げた。ほんの一瞬だけ、カインの目は若者の顔を捕え―
(―くそっ!)
カインは跳んだ。挑むためではなく、逃げるために。
あの未知の武器のせいか。それとも、常軌を逸した言動のせいか。
どちらにしてもカインには若者が容易く倒せる相手とは思わなかった。
純粋な実力からすれば、カインの方が優位に立つにも関わらず、だ。
(アレは、人間じゃない)
カインの脳裏に、若者の表情と瞳が浮かぶ。
予想したような血走った目ではない。焦点を結ばぬ濁った瞳でも、狂人のへらへらした表情でもない。
逆だ。
真珠のように綺麗な目、確固とした一点を捉える澄んだ瞳。理性と威厳さえ感じさせる、ひどく冷静な表情。
―間違いなく狂っているはずなのに、正気であるとしか思えない。
(アレは人間じゃない。俺のような殺人者でも、狂人ですらない……)
アレを一言で形容するならば、邪悪だ。
このゲームが、ソレを作り出すためだけに用意されたとしても納得するぐらいに、邪悪な化物だ。
けれども、元は。たった半日前までは、アレも人間だった。
恐らくは兄夫婦を慕い、他人を気遣いながら生きてきた、優しい心を持つ青年だったのだ。
(ここで生き延びようとする限り、俺も、いつかは……ああなってしまうのか?)
その問いに答えられる者も、そうでないと断言できる者もいない。カイン自身を含めて。

119:殺人者でも、狂人ですらなく 6/6
04/12/14 09:56:42 8HnEnPJO
【ユフィ(瀕死) 所持品:プリンセスリング フォースアーマー 行動方針:死を待つ】
【エッジ 所持品:風魔手裏剣(30) ドリル 波動の杖
 現在位置:アリアハン北の橋から西の平原→東へ移動
 第一行動方針:波動の杖の向く先(アルカートのところ)へ走る 第二行動方針:仲間を探す】

【デール 所持品:マシンガン、アラームピアス(対人)、ひそひ草、アポカリプス+マテリア(かいふく)
 現在位置:アリアハン北の橋から西の平原→レーベへ移動
 第一行動方針:レーベでバーバラと会い、殺害する 第二行動方針:皆殺し(ヘンリーが最優先)】

【カイン(傷はほぼ回復) 所持品:ランスオブカイン
 現在位置:アリアハン北の橋から北西の森の中
 行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】

【マリア(DQ5) 死亡】
【残り 99人】

120:その眼、翼の生えた物につき 1/3
04/12/14 18:59:50 aQVBbFRT
レックス達のいる場所が修羅場と化している時。
バッツとローグは、少し困っていた。
戦場の近くで余計な事はしたくない。故に動けない。しかも巻き込まれると困る。
近くでの観戦は拙かったな…とローグが舌打ちした。

実はローグには一つ、やりたい事があったのだ。
それはできるだけ人のいない安全な場所でやりたかったが―まぁ仕方が無い。
とりあえず短く用件を伝えて実行することにした。

「バッツ…悪ィけどちょっとよーく戦いを見守っててくれ。やりたい事があるから」
「はぁ?こんな修羅場で何をするんだよ……」
「ちょっと近辺の状況を見る。近くに実力者やゲームに乗った奴がいるかもしれないしな」

その言葉を聞いたバッツが、困惑したように気の抜けた声で答える。
無理は無い、バッツはローグの「あれ」を知らない。説明が必要ではある。
だが時間が無い。納得させる時間が惜しい。無視だ。

「大丈夫、俺には優秀な"鷹"が付いてる」

そう言うと、ローグは静かに目を閉じた。

121:その眼、翼の生えた物につき 2/3
04/12/14 19:03:17 aQVBbFRT


一呼吸置こう。集中だ、そうしないとこれは使えない。
いつもはセージが
「真面目にやってよね?変な道案内より困った物は無いんだし」
と悪態をつくがそれが今は無い。大丈夫だ、集中―――


ローグが眼を開いた。
見開いた眼に宿る鋭い眼光は、全てを見通してしまうのだろうとさえ思わせてしまう。
本当に、見違えるほどに、誰の目にも明らかな変化が起こっていた。

『鷹の眼』

平たく言えば、空を飛ぶ鷹のように遠くのものを見渡すローグだけのスキル。
伝説の勇者ですら使えない、ローグの特権。

「な…お前……なんだそれっ!」
「アリアハン北西に…誰か……あれは……」

驚くバッツの声が聞こえてないのか、ローグは眼を凝らす。
その直後、ローグは背筋が凍ったような感覚に襲われた。

「なんだありゃ!あれは…あれは…」
「おい、何があった!」
「あんなの……あんなのまでいるのか…ここには!」

ローグの目は「普通」に戻った。
何かに怯えながら、今度は見た事を頭で整理することにした。

122:その眼、翼の生えた物につき 3/3
04/12/14 19:05:38 aQVBbFRT


ローグが見た…いや、見てしまったもの。
それは体を切り刻まれた女性と、その近くで微笑んでいる男。
男の部分部分には血が付いており、女性を殺した犯人であろう事が想像できる。

信じたくは無かった。
見た目は、優しそうな男性。だが、女性を酷く惨殺したのもあの優しそうな男性なのは、確か。
あの男の目に多大なる自信と高揚感があるのも、確か。

殺している瞬間を目にしたわけではないが、わかる。
これ以上無いまでにそう確信できるものが揃っている。

「ふざけんな……とんでもないモンを呼びやがったなあの女は」

ローグは、大きな後悔と恐怖を同時に抱え込む事になった。


【バッツ 現在地:アリアハン城下町 所持品:チキンナイフ、ライオンハート、薬草や毒消し草一式
 第一行動方針:様子見を続行 第二行動方針:レナ、ファリスとの合流】
【ローグ 現在地:アリアハン城下町 所持品:銀のフォーク@FF9
 第一行動方針:様子見を続行 第二行動方針:首輪を外す方法を探す】

※近くでサイファー達が交戦状態です(>>35-37)


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