05/04/11 20:28:30 /c7BhpsN
今年はめずらしく開花が遅れ、近くの公園はまるで樹海のように迷子になるほど桜が咲き誇っている。
74回目の誕生日は桜のプレゼントだな、と最高の日になるだろうとここ数日楽しみにしていた。
しかし、あの冬の日の出来事以来、春が来てもひとり風の冷たさを感じていたのだった。
いつのまにか、かけがえの無い存在になった少年。
住む音楽の世界が自分と違うのに、僕の音楽を好きになってくれて、それが僕への愛情に変わった。
初めて同姓から告白されて途惑った。
けれど本当に愛される事は、何も関係無いのだと彼が教えてくれた。
初めてのくちづけを思い出す度、あの出来事が嘘の様に思える、が、本当にあった悪夢だ…。
74回目の誕生日。雨音で目が覚めた。ステンドグラスの日差しは鈍い光を落としていた。
ここ数ヶ月、眠りが浅く、よく夢を見る。指で数える程だが彼が出てくる。
今朝方も彼と夢で逢っていた。あの日にあった事は無かったかの様に微笑み合っていた。
絶え間無く降りしきる雨。せっかくの桜が散ってしまう。
せっかくの誕生日だし、桜を見ようと雨の中公園へ散歩に出てみた。
昨日は初夏の様に汗が浮くほど暑かったのに、まるで冬に戻ったかの様に寒かった。
道中、夢を思い出しながら、そして続きを考えながら向かった。
桜は雨粒と共にはらはらと、まるで雪の様に舞っていた。
今日が天気だったら最高だけど、この景色もまた良いかもしれない。
天を仰ぎ 「涙に散る桜…」 と無意識に口に出た。
視線を戻した瞬間、遠くに、散る桜の花びらの間に見覚えのあるシルエットを見掛けた。
確かに知っている少年だと、何も疑わず駆け出した。
「クラウド!」
寒さで白くなった息を切らし、いつのまにか手にあった傘は離していた。