04/12/22 03:38:31 1Xo+s3T4
先生は生きている─。
もちろんそんなものは何の根拠もない、ただの予感でしかない。
いや、予感ですらないのではないか。思い込み、もしくは執念?
クリスマスに見かけた先生は、先生を無意識のうちに求め続けた自分を自分自身が哀れんだ末の幻想だった? 自分が手にかけてしまった事実は消せなくとも、なお……。
「フッ、何をやっているんだ、俺は」
思わず嘲笑の言葉が口元からこぼれた。それはこの数ヶ月もの間、クラウドの頭で何千回となく繰り返されていたセンテンスだった。
「口に出すと余計惨めになるもんだな。俺、本当に何やってるんだろう……」
あの日から。こういちのことを考えない時間など一瞬たりとも存在しない。
こういちがいそうな場所へは、どこでも何度でも足を運んだ。追いかけっこした海岸。自分のために曲を書くと約束してくれたスタジオ。
2人で行ったコンサートホール、こういち行きつけのレストラン。主亡き後引っ越してしまったスギヤマ工房のあった自宅、JASRAC本部ビル、
いつか教えてくれると言っていた、バックギャモンを設置したパブやラウンジ。
こういちを待つ一日の終わりには、2人が初めて出会ったバーへ自然と足が向く。こういちとの思い出に浸りながら酒をあおるのが、いつしかクラウドの日課になっていたのだ。
クラウドにとってはもはや、こういちを探し出すことが目的ではなくなりつつあった。先生の存在を、ほんの少しでも感じていたい。
そんな愚かにも見える行為へとクラウドを掻き立てるのは、こういちに対する想いだけだ。
<つづく>