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2018.06.11 07:00 週刊ポスト2018年6月22日号 森功
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■異例中の異例人事
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検事総長候補と評されるエリート検事の林は、現場の捜査検事からの信頼も厚い。このときの人事で法務省の事務次官になり、続いて東京高検検事長、検事総長という階段をのぼると目されていた。
それが、一足飛びに名古屋高検検事長に就任した。本来、名古屋高検検事長は“あがりポスト”であり、そこで検察の人事が狂ってしまった。法務・検察組織にとって、衝撃的な人事といえた。なぜ、そんなことが起きたのか。
「それは官邸、すなわち内閣人事局の影響とみて間違いない」と、ある特捜部長経験者が、こう説明してくれた。
「安倍一強で霞が関の幹部人事を牛耳っているといわれる内閣人事局ですが、司法の独立という建前上、検事の人事だけは口を出せないことになっています。だからこそ、政権にとって検察は最も怖い。そこで官邸が頼りにしてきたのが、黒川(弘務)事務次官だといわれています」
法務・検察官僚は赤レンガと呼ばれる法務省と捜査現場の検察庁を行ったり来たりするのが普通だが、黒川は法務省官房長、事務次官を7年も務めてきた。それだけに政権中枢と極めて近い。法務・検察内部では、2年前の2016年、17年とすでに交代案が出ていたが、結局流れ、事務次官として留任してきた。「官邸の守護神」ともいわれる。
「黒川君は安倍政権の悲願だった共謀罪法を成立させるため、野党に働きかけてきた。菅官房長官をはじめ最も官邸の覚えめでたい法務官僚だといわれています。だが法務・検察組織としては、さすがにこのときの人事で地方の高検検事長にすることにしていた。ここでそれがひっくり返ったのです」
当然のことながら、黒川を事務次官に留めおこうとすれば、林はほかに異動させるほかない。そこで名古屋高検の検事長にしたのだという。それは法務・検察組織にとって、まさに異例中の異例人事だった。が、まかり通った。
そして、それは大阪地検の森友捜査を封じるためではなかったか。そんな人事に対する不信が検察関係者のあいだから沸き起こる。それも無理のないところだった。この件について、ある大阪地検関係者はこう解説した。
「官邸といえども検事総長や高検検事長の検察人事には介入できない。しかし法務省内の事務次官留任なら、内閣人事局の管轄だから、思い通りになる。世間の風当たりを気にしたのか、この人事は表向き上川陽子法務大臣が決めたことになってはいますが、官邸に無断でここまでの人事ができるわけがない。というより、官邸の意思で黒川君を事務次官に留任させたとみたほうが正しいでしょう。ここまで見せつけられると、森友捜査は地検マターではなく、政治判断という話になりますよ」
文字どおり奥の院の謀だけに、特捜部の捜査にどう影響があったのか、真偽のほどは定かではない。ただ現に大阪地検の捜査が、立件に向かわなかったのはたしかだ。
「東京から参加した応援検事を4月に元に戻すという異動が決まっていたから、2月中には不起訴の判断が出ていました。『二・二六人事』にはたしかに一部で期待があったが、しょせん大きな流れを変える力なんかない。
なにより特捜部の山本真千子部長などは捜査開始当初からやる気を感じませんでした。彼女は本来、昨年夏の異動が決まっていた。なのに告発があったせいで、いかにも捜査をやらされているような感じ。それでは現場の士気があがるはずもありません」(同地検関係者)
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朝日新聞のスクープがなければ、この3月に捜査が終結し、財務省の公文書改ざんという罪は世に問われることもなく、密かに闇に葬られた危険性もある。だからこそ非常に意味のある報道ではある。半面、仕切り直したはずの捜査には、さしたる変化はなかった。まさに、政治判断の捜査終結という以外に言葉が見あたらない。
結果として捜査の幕は閉じられた。5月31日、大阪地検特捜部長の山本は、前理財局長の佐川をはじめ告発された財務省関係者ら38人全員の起訴を見送ったと記者発表した。案の定、不起訴の理由は詳らかにせず、「捜査を尽くした」と繰り返す言葉がむなしく響くばかりだった。
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