08/12/22 19:17:05 oI23IxmX0
241 名前:174(4/4) 投稿日: 2008/12/21(日) 22:23:18
「ちょ、待て、今岡! 今、なんて……」
呟きを聞き咎めた矢野が、鳥谷より早く始動する。それでも、咄嗟に伸ばした手は
空を掴み、曰く付きの一言を発した男は曰く付きの逃亡を成功させていた。
「なんで……俺を見て……桧山さん―」
彼は鳥谷を見て、「桧山さん」と言った。
鳥谷から桧山を連想することは、通常ならまずないだろう。さして共通点もない、
ポジションも違う、取り立てて仲が良かったわけでもない先輩後輩。
つまり、彼は鳥谷と桧山が一緒に行動していたことを知っていた。少なくとも、
彼は鳥谷から桧山を連想させる何かを知っている。
(今岡さんは、桧山さんと会ってる―!)
桧山が鳥谷の前から姿を消して、雨の中銃殺死体となって再会するまでの空白の
時間を、彼は知っている。
矢野も同じことを思ったらしい。
すでに武器と荷物を携え、スパイクを履いている同行者は、試合中のような厳しい
視線を今岡の消えた窓の向こうへと向けていた。
何かを―起こりうるあらゆる可能性とパターンを、思索している時の顔だ。
「追うぞ」
「はい!」
間髪入れずそう答え、鳥谷は慌ててスパイクを履いて矢野の後を追った。
その頭上に、六甲おろしが鳴り始めていた。
【残り28人】