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『寛子姉さん』 五島由紀夫
私には心に忘れられない姉がいる。姉と言っても彼女は私にとって血の繋がりがある
関係ではなくただ私が勝手にそう呼んでいるだけである
その人は私よりも一つだけ歳上の女性で女優のように特別な美人でもファッションの
世界で活躍するモデルのようなスタイルでもなく夜の世界で男たちを魅了する
ホステスやキャバクラ嬢のような妖艶さがあるわけでもない、ただ見ていて気持ちの良い
品のいい整った顔立ちと、抱きしめて護りたくなるような小柄で華奢な身体
そして疲れた心を癒してくれるような清楚で春風のような雰囲気が魅力的な
そんな何処にでもいそうな女性なのに間違いなくこの世界にたった一人しかいない
私の心の姉なのである
何故、姉であるのかというと、単純に私よりも一つだけ歳上だからである
彼女は毎日午後二十二時三十分頃にブラウン管に登場し、私に天気と気温を伝えてくれる
彼女のような恋人がいたらと思いながら私は画面を眺め彼女の言葉に耳を傾けるのである
そんな時はいつも彼女にも結婚を約束した人がいていつかはその人と結ばれるのだろうか?
やはり寛子姉さんは心の中だけの姉で終わってしまうのだろうか?と悲しい気持ちになり
涙が流れてくるのである
寛子姉さんは大の男がこんな情けないことを書いていることを知ったらどう思うだろうか?
馬鹿にして笑うだろうか?困ったような顔をするだろうか?
もしも寛子姉さんの反応を一つだけ選べるというのならば私の身体を抱きしめて
こう言って欲しい 「私とあなたは一緒よ。だから泣かないで」と、寛子姉さんに言って欲しい
完