07/11/11 01:36:12 5rtC3W5r0
大隈は、席を離れようとした。西郷はふりかえった。
すさまじい目であった。
「大隈サン。いずくに逝かれる」
「い、いや、都合があって」
「その都合とは?」
「・・・よっ、よっ、横浜にてぇ・・・」
と大隈はいった。
「がっ、外国人に招かれておりますのでぇ・・・」
「なんの用か」
西郷の太い頸が、大隈に向かってねじれている。
その表情のけわしさが大隈を圧迫し、
これほど人を食った男でさえ唇の色を失った。
大隈の声は、不覚にもふるえた。
「やっ、夜会の招待をうけておりますのでぇ・・・・」
「だまらっしゃい」
と、西郷は怒号した。
「貴公は日本の安危を背負う参議ではないか。いま国家の大事を議していると
申すのに、中座しようとなさるばかりか、その理由が異人の夜会に招かれている
からというのは、何事でござるか。事の軽重、当否がわからぬのか」
ヴァカ、と最後につけくわえた。西郷が同僚や他人に対し、面とむかって
これほどにののしったことはかつてないであろう。
大隈は、ゆくももどるもならず、片頬を痙攣させながらたたずんでいる。
「席に、もどらっしゃい」
と西郷はいった。大隈はやむなく数歩すすみ、席についた。すでにふてくされていた。
(司馬遼太郎「歳月」より)
大隈の小物ぶりが炸裂(笑)
良くも悪くもスーフリ大学の校風を体現してると言えば言える。