08/01/07 01:45:16 Y+AW1FEG
きみは転々と散らばっている農家を見て、その美しさに感動する。
だが、ぼくはそういったものを見ても、家々がたがいに孤立していて、
犯罪にはもってこいの舞台だ、ということしか思い浮かばないんだよ。
ぼくはこういった農家を見ると、いつもある種の恐怖感に襲われるのだよ。
ワトソン、これは経験にもとづいて確信しているのだが、
ロンドンのどんなにいかがわしい薄汚れた裏町よりも、
むしろ、のどかで美しい田園のほうが、はるかに恐ろしい罪悪を生み出しているのだよ。
でも、理由はきわめて明白なのだよ。
都会では、世論の力が働いて、法律の手の届かないところを補ってくれる。
どんなにいかがわしい裏町でも、いじめられた子供の泣き叫ぶ声や、
酔っ払いが人をなぐる音がひびけば、必ず近所の人たちの同情や憤慨を呼び起こす。
それに、正義を守る組織の手が町のすみずみまでいきわたっているから、
ひと声訴えさえすれば、すぐに活動をはじめてくれ、
犯罪はあっという間に法廷に引きずり出される。
だが、あのぽつんと建っている農家を見たまえ。
それぞれ自分の畑にとりかこまれていて、中に住んでいる者の大半は、
法律なんてほとんど知らないような無知な連中なのだ。
こういうところでは、残忍きわまりない悪事が秘かに積み重ねられていても、
不思議ではない。
しかも永遠に世に知られることはないのだ。
(コナン・ドイル「ぶな屋敷」)