07/06/16 22:36:58
*共通ローカルルール
・死亡した芸人の復活は基本的に不可
・あくまでネタスレです。まったりどうぞ
・*書き手用ローカルルール
・投下する前に過去ログ、まとめwiki(特に必読項目)に目を通す
・投下時に明記すること
・どのレスの続きか(>>前回のレス番号)
・文中で芸人が死亡、同盟を組む、他、重要な出来事があった場合
・所持品、行動方針、現在位置、日付、時間帯、投下番号
・トリップ強制 付け方は名前欄に『#好きな言葉』
・書き手は一つの話に一人だが、以下の場合は引き継ぎ可
・書き手自身が執筆中止を告げた場合
・最終投下から3ヶ月以上経過した場合
・書いた話に不都合があった場合、番外編としても投下可
・2002年ver.の話を投下する場合は文章の最初でその旨明記する
他、詳しくはまとめ参照
*読み手用ローカルルール
・書き手に過度な期待、無理な注文をしないようにする
・コメント、感想、要望などはアンカーがついているといいかもしれません
・本スレで言いにくいことはしたらばのチラシで
3:名無し草
07/06/16 22:40:44
過去ログ
vol.11 スレリンク(geinin板)
vol.1 スレリンク(geinin板)
vol.2 スレリンク(geinin板)
vol.3 スレリンク(nanmin板)
vol.4 スレリンク(nanmin板)
vol.5 スレリンク(nanmin板)
vol.6スレリンク(nanmin板)
2002年Ver.まとめサイト・ミラー集(更新停止中)
URLリンク(www.geocities.jp)
URLリンク(makimo.to)
9~10スレ目・関連スレ
スレリンク(geinin板)
スレリンク(geinin板)
スレリンク(geinin板)
↓こちらを使って見てください
2ch DAT落ちスレ ミラー変換機 ver.4
URLリンク(usamimi.info)
4:名無し草
07/06/16 22:41:39
乙です。
5:名無しさん(まとめ”管理”人)
07/06/16 22:49:41
>>1
乙です。まとめサイトはっていただいてありがとうございます。
6:名無し草
07/06/16 22:53:17
>>1乙です!
7:名無し草
07/06/16 22:57:53
乙
8:名無し草
07/06/16 22:58:05
>>1 まとめ管理人さん共に超乙!
9:名無し草
07/06/16 23:01:18
>>1
乙です!
まとめとしたらば、ざっと見てきた。
あれだ、とりあえず編集してみるかw
10:名無し草
07/06/16 23:17:40
>>1乙!
まとめいい感じですね。
編集先にやったほうがいいのか、投下を先にやった方がいいのか迷うw
11:名無し草
07/06/16 23:27:10
>>10
同時進行だ!
投下の準備は出来てるw
12:名無し草
07/06/17 00:51:14
投下ラッシュwktk
13:名無し草
07/06/17 01:01:50
結構まとめサイト編集進んでるねえ。
みんな素早いな。すばらしい。
14:名無し草
07/06/17 01:20:49
次の投下番号は206で合ってる?
15:名無し草
07/06/17 01:39:05
>>14
合ってる。
16:名無し草
07/06/17 02:23:58
携帯からまとめサイトは見れますか…?
パスとIDがわからないのでorz
17:名無し草
07/06/17 02:56:26
>>16
さっきケータイから行ってみたけど、見れなくはないよ。
ただやっぱりちょっと見にくくはあるけど。
IDとパスは冷静になって考えたら分かるから頑張れ。
18:名無し草
07/06/17 03:04:28
そういやIDとパスをテンプレに入れるって話はどうなった?
19:名無し草
07/06/17 03:11:10
入れる必要ないと思う
少し考えれば分かる問題だから
20:名無し草
07/06/17 03:19:35
ローマ字ですか?英語ですか?
21:名無し草
07/06/17 13:00:22
ID パス分からない・・・
22:名無し草
07/06/17 13:17:58
過去ログ見れば一発だよ
23:名無し草
07/06/17 13:19:46
マジで分からない・・・困った
24:名無し草
07/06/17 13:22:42
冷静に考えて分かった、スペルミスってた。
ありがとうございました
25:名無し草
07/06/17 13:57:59
過去ログってどうやって見るの?
26:名無し草
07/06/17 14:06:02
>>3
27:名無し草
07/06/17 15:48:49
わからない・・orz
28:名無し草
07/06/17 19:53:01
あわてずさわがずおちついて考えるんだ!
29:名無し草
07/06/17 20:30:12
コーヒー飲んで旧まとめでも覗いてこい
30: ◆U2ox0Ko.Yw
07/06/17 20:35:42
ロンブー&くりぃむ編です。
「有田、起きろ」
上田の声と共に有田の肩が揺さぶられる。
薄目を開けてみれば周りはまだ深い闇の中で、こんな早起きをするなんて
今日は何のロケだったっけと、ぼんやりとした頭で考えていた。
全身のだるさも相まって、中々起きる気になれない有田の肩を上田が叩く。
「おい、起きろって!前髪引っこ抜くぞ!」
先ほどよりも幾らか不機嫌になった上田の声に、そろそろ狸寝入りは通用しないかと
諦めた有田がのそりと起き上がる。
「放送の前に起こせよ」
有田が起きたのを確認した上田は、それだけ言うと有田と入れ替わるように床に
転がって眠ってしまう。まだ現状を把握できていない有田が寝ぼけ眼で
畳に座り込んでいると、闇の中から咎めるような声がした。
「有田さん、二度寝しないで下さいよ」
声のしたほうに顔を向けると、小さいオレンジ色の光が揺れているのが見えた。
目を凝らしてみると光の傍に見知った男が座っているのが分かり
有田は膝立ちのままにじり寄る。
「あー……そっか、交代か」
ようやく今の状況を思い出した有田は、眠気を振り払うように腕や背中を伸ばす。
硬い畳の上で寝ていたせいか、それとも筋肉痛のせいか、体のあちこちから軋むような痛みが起こる。
うう、と情けない呻き声を上げながら関節を伸ばしている有田に、淳が数枚の紙を手渡してきた。
「大体こんな感じなんで」
淳はそれだけ言うと、下を向いて何かの作業を始める。何となく気になった有田が
目をこすって淳の手元を覗き込むと、スケッチブックに細かい文字がつらつらと
書き込まれているのが見えた。
31: ◆U2ox0Ko.Yw
07/06/17 20:37:00
「……そういや、お前は交代しないの」
こんな暗がりでよくあんな細かい文字が書けるもんだと感心した有田が
あくびを噛み殺して淳に問いかける。
「なんか、目が冴えちゃったんで」
「……意外とタフなんだな」
へへ、と笑って事も無げに答えた淳に有田は呆れた声を返し、手渡された紙に目を向ける。
何枚かある紙をぱらぱらと捲って見れば、見覚えのある字と見慣れない字が交互に
書き込まれたものと、首輪の絵に所々書き込みがなされたものがある。
ひとまず文字のみが書かれた紙の順番を斜め読みで確認すると、順を追って読み始める。
淳は文字を書く手を止めて、口に手を当てた姿で思案に暮れていた。
音の無くなった室内に、分厚い木戸をすり抜けた虫の音が響く。
有田は時折意識が飛びそうになるのを堪えながら、必死で文字を追った。
紙に書かれていたのは首輪の構造と、上田と淳の筆談だった。
しかし、解除コードの存在や内部構造が分かっていても、特に具体的な対策は立てていないようだ。
(まぁ、上田は仕方ないか)
ビデオやパソコンの配線を有田に丸投げるような男だ。
首輪の構造図を完璧に覚えていたとしても、それ以上のことは到底望めない。
有田はもどかしげに首を掻く。有田が見る限り、首輪の設計に隙はなかった。
配線を切ることが出来れば簡単なのだろうが、センサーが邪魔をしている。
起爆スイッチの解除コードは本部。本部にはこちらの位置が丸分かりで、こっそり忍び込むことは不可能。
だからといって真正面から向かっていっても、返り討ちにあうのがオチだ。
淳が何か考え込んでいる様子を見ると、何かしらの手はあるのだろう。
有田は考えを巡らせながらこめかみを揉む。
しつこく居座っている眠気のせいで、うまく思考が定まらない。
32: ◆U2ox0Ko.Yw
07/06/17 20:38:49
「……しかし、暗いな。これどうにかなんないのか」
暗闇は眠気を誘う。
文字が読める程度には目は慣れたが、蝋燭の優しい光は眠気を更に強めている気がする。
「仕方ないですよ。火を熾せば明るすぎますし、それに暑いでしょ」
「たしかに、暑いのはやだな」
僅かな光も漏らさぬように、室内の扉はぴったりと閉じてある。
唯一、二階の窓だけは開けたままにしてあるが、そこから風が入ってくる訳でもない。
夜になっていくらか涼しくなっているとはいえ、室内はじっとりと蒸し暑い。おまけに室内は埃臭い。
「電気がつけばいいんだけどな…っても、この家クーラーないのか」
ぼんやりと天井に浮かぶシルエットを見渡しながら有田が愚痴る。
森に囲まれたこの家は夏場であっても窓を開け放ってしまえば相当涼しいのだろう。
しかし今の状況ではそうする訳にもいかない。有田は今まであって当然のように感じていた
冷房器具の有難さを痛感した。
「そうそう、電気がつけばいいんですけどね」
有田の愚痴を黙って聞いていた淳が、それまで眺めていた紙を有田に差し出した。
紙を無言で受け取った有田はそれにざっと目を通す。
おそらく思いつくままに書いていったのだろう。
乱雑な文字で箇条書きに記されていたのは、首輪を外すためのいくつかの案だった。
有田は顔を上げて淳を見る。
淳は有田の反応を伺うような目をしていた。
有田は視線を紙に戻し、赤で丸を付けられている一文に目を向ける。
『・外からの破壊はほぼ不可能
・要は起爆スイッチが作動しなくなればOK
・制御装置を破壊した後なら首輪は切断可能か?』
33: ◆U2ox0Ko.Yw
07/06/17 20:40:55
有田は顎を揉んで考える。赤丸から伸びた矢印の先に、同じ赤色で「ショート」と書かれていた。
首輪内部に直接電気を流して、起爆装置や無線機の制御盤を機能させなくする狙いなのだろう。
しかし、危険も大きい。爆薬が誤爆する可能性もあるし、そもそも触覚センサーに守られている
配線にどうやって電気を流すつもりなのだろうか。
そして、基盤を破壊するほどの電気の当てもない。
(電気があれば、か)
有田は先ほど淳が漏らした言葉を思い出す。
淳自身も、この計画に必要な電気の当てがない事に気付いている。
しかし外側から壊すことが不可能な以上、内側から壊すしかない。
電気、電気、電気。
考えを巡らせながら、有田は再び喉になにかがつかえているような感覚を味わった。
何かあった気がする……と、必死で記憶を辿っていくと、不意に先ほど二階でみた光景を思い出した。
「そういや二階に上がったときに、学校のほうがやけに明るかったのを見たな」
「学校ですか。そりゃ、本部があるんですから明かりくらいは点いてるでしょう」
しかし、学校に電源があるとしても近づくことは出来ない。
有田もそれは理解していたが、依然それとは違う何かが引っかかっているのを感じていた。
「学校にだけ電気が通ってるのもおかしい話だと思うけど」
「発電機があるんじゃないですか?」
「ああ、上田もそう言ってた」
有田は二階でのやり取りを思い出す。二階の窓から本町をある程度眺めることができたが
家や街路灯のどこにも灯りは点いていないようだった。
ただ、学校の方向からだけ煌々とした光が放たれていた。
34: ◆U2ox0Ko.Yw
07/06/17 20:42:38
「それだけ明るかったんなら、学校はさぞかしクーラー効いてるんでしょうね」
盗聴器の事を気にしてか、淳が話題を微妙にずらした。
淳の真意に気付いた有田が片手を挙げて詫びる。
どうも真意を誤魔化しながらの会話は自分には向いていない、とでも言うように
有田はしばらく視線を天井に彷徨わせると、床に転がったままのペンに手を伸ばす。
『他に方法は?』
新たに書き込まれた文字を見て、淳は首を横に振った。そのまま、横線で消された一文を指す。
『偶然の故障の可能性』
有田はため息をついてペンを床に置いた。
四人の首輪が偶然故障した上に誤爆することも無く外せる可能性に賭けるより
工場か農家の倉庫にあるかもしれない発電機と燃料を探すほうが確実だろう。
その代わり他の参加者との鉢合わせや襲撃される危険性も高いが、どうしようかと
迷っている時間も無い。当てもなく島をさまようより幾らかマシだろうが
明日からの行動を考えただけで気が滅入るようだった。
「クーラーが恋しいよ」
汗が背中を伝い落ちていく感触に不快感を覚えながら、有田は呟いた。
淳はうんうんと頷いて答える。
「同感です。でも、今は現実を見ましょうよ」
35: ◆U2ox0Ko.Yw
07/06/17 20:45:31
発電機と燃料を探すというとりあえずの目標が決まったせいか
淳は少なからず気分が軽くなっているのを感じていた。
元々そんなに神経が太いわけではない。
得意の嘘とよく回る口で巧妙に隠してはいるが、実際の自分は小心そのものだ。
このゲームにしても、もし一人で行動しなければならなかったら
こんなにも冷静でいられたか分からない。
他に行動を共にする人間がいたから「ロンドンブーツの田村淳」らしい自分を保っていられるのだろう。
他人に対する見栄は、時と場合によっては大きな力になる。
淳が視線を暗がりに向けると、泥のように眠っている上田の向こうに金髪の頭だけが
ぼんやりと浮かび上がっているのが見えた。
「……目立つなぁ、あれ」
昼間はともかく夜間に行動する場合、光を反射しやすい金髪というのは問題だ。
だからといって今黒髪に染め直すというのも現実的ではない。
淳はすっかり短くなった蝋燭の乗っている皿を持ち上げると奥の座敷に向かった。
有田は何か気になる事があると言い、二階から外を見張ると上がって行ったきりだから
自分が下で探し物をしても問題ないだろう。
それに一階部分の戸は閉め切っているのだから見張りのしようもない。
せいぜい、物音に注意を払うくらいだ。
36:名無し草
07/06/17 20:46:15
保守
37: ◆U2ox0Ko.Yw
07/06/17 20:46:33
奥座敷は先ほど亮が蝋燭を探し回ったままの姿で、見事に荒れていた。
きちんと閉められていない箪笥からは古い新聞紙の端が顔を覗かせ
半開きのままの引き出しもいくつかある。
ひっくり返されたダンボールから零れた布切れの束は、亮が足でどけたのか
不自然な形で隅に寄せられていた。
泥棒に入られた直後ってこんな感じなのかなと、妙な感想を持った淳だったが
構わず床に散乱している布を物色する。
炎が布切れに燃え移らないよう注意しつつ暫く探していると、やっと目当てのものが見つかった。
淳が探していたのは黒い―夜目のため実際の色は分からないが、とにかく濃い色の―風呂敷だった。
気休め程度だろうが、無いよりマシだろう。
淳は囲炉裏の傍に戻ると、時計を見た。
二十三時五十分。
そろそろ有田が二階から降りてくるだろう。
そして、ゲーム開始から二度目の放送も間もなく行われるはずだ。
「亮くん起こさなくっちゃな」
淳はそう呟くと、気持ちよさそうに眠る相方を起こしに向かった。
38: ◆U2ox0Ko.Yw
07/06/17 20:48:49
有田は自分の喉につかえているものの正体を探るため、人工的な光を放ち続けている
学校の方角を凝視していた。
ざわざわと木々を揺らす風は、夏であってもひんやりと冷たい。
一階で打ち合わせをしている時にかいた汗が冷たい風に晒されて冷えたのか、肌寒ささえ感じる。
二階に上がった直後はあまりの快適さに、皆まとめてここで寝たほうが良いのではと思ったが
こんなところで眠っては逆に風邪を引いてしまいそうだった。
(特に上田だよな。体力ないし体弱いし骨も弱いし)
淳と亮の健康面には詳しくないため、自然と上田の健康面に気が向かう。
多くの人間が持つ「自分だけは大丈夫」という思い込みは当然のように有田にも作用していたため
有田自身の心配は全くといっていいほど考えていなかった。
有田は学校の光に意識を戻す。
多少の現実逃避はあったものの、意識を集中させ続けたせいか、有田は喉に
つかえていたものの正体を掴みかけているという実感があった。
(そう、電気だ。何かがおかしいはずなんだ)
有田は学校の方角から放たれている光を見つめる。
学校の電力供給については、上田や淳が言ったように発電機を持ち込んでいると
考えれば説明がつく。この島のライフラインは寸断されているという話も
学校以外のどこにも―少なくとも本町一帯では―灯りが無いという事実を見れば納得できた。
しかし、違和感が拭えない。重要な何かを見逃しているぞと、脳の隅でその何かが声を上げている。
39: ◆U2ox0Ko.Yw
07/06/17 20:50:20
爪を噛んで考え込む有田の耳に、階下からがたがたという音が響いた。
有田は一瞬身を強張らせたが、よく聞けば人が争っているような感じの音ではない。
大方淳が家捜しでもしているのだろう。またしても気を削がれた格好の有田は、時計に目をやる。
二十三時半過ぎだった。
「そろそろ放送か……」
放送。そう呟いた自分の声に、有田ははっとした。
「そうだ、放送だ!」
有田は小さく叫んだ。途切れていた線がつながったのを確信し、脳に心地よいものが広がるのを感じる。
有田は自分の考えを確認するように、改めて学校から溢れている光を見渡した。
自家発電機。確かに学校はそれで説明が出来るだろう。
しかし、この島に点在するスピーカーは?あれも学校の自家発電機の電力で補っているのだろうか?
(それは多分ないな)
有田は学生時代に覚えた電気や電圧についての記憶を必死で辿る。
(確か、距離が長くなればなるほど送電には高い電圧が必要になるはずだ。日中、俺たちが
辿ってきた送電線は……どの位か分からないけど、かなりの高電圧のはず。
自家発電機でそれだけの電圧は出せない)
となるとライフラインのうち、電気は生きていると考えるのが自然だ。
学校以外の電気が落ちているのは、送電線と町の間にある変電所のどこかで電力が
カットされている為だろう。スピーカーは本来防災用として設置されている事を考えれば
独立した電力供給体制を持っていてもおかしくはない。
思わぬところで電気の問題が解決したことにも、有田は気付いた。
発電機と燃料を探し回る必要は無くなった。送電線近くの変電所を探して、そこから電気を拝借すればいい。
最終手段としてスピーカーを叩き壊して配線を剥き出しにすれば電気は手に入るだろう。
感電の危険と、厚さ数ミリはあるだろう鉄筒を破壊するのは容易ではないという事は
今は敢えて考えないことにした。
有田は、善は急げとばかりに一階に向かう。
夜風に冷えた体は、階下の熱気すら心地よかった。
40: ◆U2ox0Ko.Yw
07/06/17 20:53:41
淳が二度三度と肩を揺さぶっても、亮は目覚める気配が無かった。完全に熟睡している。
どうしたものかと悩む淳の耳に、階段が軋む音が聞こえた。有田が降りてきたのだろう。
暫くすると障子が開き、有田が部屋に入ってきた。
淳は有田の妙に嬉しそうな顔を見て怪訝な表情を浮かべる。
「あぁ、淳。ついでに上田も起こしといて」
有田は淳の表情を気にすることも無く、囲炉裏の傍に座り込むと紙に何かを書き始める。
何かを思いついた様子の有田に、淳は一旦亮を起こすのを諦めて上田の肩を揺する。
上田はひどく億劫な様子ではあったが、意外なほどあっさりと目を覚ました。
暗闇に目が慣れないのか、何度か目を擦って起き上がる。
「もうすぐ零時ですよ」
淳が上田にそう告げると、上田はああ、と言ってデイパックに手を伸ばす。
そのまま眠そうな様子で水の入ったペットボトルを取り出すと、僅かな量の水を口に含んだ。
淳は亮を優しく起こすのを諦めたのか、拳で亮の肩を叩いている。
「飲み水もどうにかしないといけませんね」
水を飲む上田を見て思ったのか、淳が困ったような声で呟く。夏場ということもあり
水分補給は食事以上に重要な問題だった。空腹はある程度我慢も出来るだろうが、飲み水は
十分に確保できなければ、即、脱水症状や熱中症を引き起こす危険がある。
「そうだな……湧き水を見つけられればいいんだけど」
ペットボトルを袋に詰め直した上田は、そのまま地図と筆記用具を取り出した。
「湧き水がだめでも川があるからそれを沸かせば飲めるだろ。なんか、適当な容器を探さなきゃいけないけど」
「大丈夫ですかね」
「田舎の川だから水質はいいと思うよ。上流に工場とかも無いみたいだし。
念のためゴルフ場より下流は、農薬とかの心配もあるから避けたほうがいいだろうけど」
あくびをしながらも上田が続ける。
「不安なら蒸留だな……って亮、まだ寝てんのか」
ようやく淳の方に視線を向けた上田が呆れた声を出す。
淳は苦笑いを返すと、亮の背中を殴りつけた。
41: ◆U2ox0Ko.Yw
07/06/17 20:54:45
起きたのか起きていないのかハッキリしないが、一応身体を起こした亮を確認した淳が
デイパックから地図と筆記用具を取り出した所で零時の放送が始まった。
前回と同様に、ノイズ交じりの音楽から始まり、六時間の間の死亡者が読み上げられる。
次いで禁止エリアの発表。それを書き漏らす事無く記録するのは大して難しいことではないが
精神的には厳しいものがあった。
放送が終わり、一通り記入ミスが無いかを確認し合うと、有田が上田と淳の前に一枚の紙を差し出した。
淳が箇条書きに書き連ねたアイデアの下に、有田の字でスピーカーと電力についての説明が書き加えられている。
淳は驚いたように目を見開き、すぐに満足そうな表情に変わる。
上田は有田と同じく誤爆の危険性を感じたのか、少し不安げな表情を浮かべた。
亮は三人と少し離れたところで舟を漕いでいる。
「これ、どうかな」
有田の提案に喜びを隠せないでいる淳は、すぐにでも出発したい様子だった。
デイパックに地図と筆記用具を入れなおすと、それを抱えたまま新しい紙にペンを走らせる。
『変電所ってこの辺りにありますかね?』
淳の書いた文字に、上田は首を傾げる。淳が上田を見ていたからだ。
「何で俺だよ」
「何でも知ってるじゃん、上田は」
有田がからかうように口を挟むが、上田はそんなことないよと頭を振って地図に目を向ける。
海岸近くの一点を除いて他に変電所らしき施設は見当たらない。島の規模からいって
大掛かりな変電施設は必要ないのだろう。その代わり送電線記号で囲まれたものがいくつかあるようだった。
おそらく小規模の変電施設だろう。上田は頭に溜め込んでいる知識の中から使えそうなものを引っ張り出す。
(確か、この手の変電所の多くは屋外設置のもののはず。そこまで電気が来ているとしても
最低でも六千ボルト以上はある。運悪く変電前のものに当たれば三万から八万弱か……
素人が触るのは危ないな。建物が併設されていればそこのコンセントが使えるだろうけど
建物がありそうなのはJ2の配電所くらいか?多分、海底ケーブルから送電線に上げるための変電所と
電圧監視のための施設があるはず。それに、ここまでは電気は確実に来ている)
42: ◆U2ox0Ko.Yw
07/06/17 20:55:46
全て一般的な事柄に合わせての推測でしかなかったが、この島が特殊な
電力供給形態をしているとも考えにくい。
上田は困ったように頭を掻くとペンを取る。
『電気が来ているとしても電圧が高くて扱えない。海岸の配電所まで行けば
多分管理施設がある。そこならコンセントくらいはあると思うけど』
書き終えた上田が申し訳なさそうに二人を見た。
海岸まで行くには日中歩いた道を戻って更に南下しなければならない。
「いいじゃないですか。行きましょうよ、海」
道のりを想像してか、どこかげんなりした表情になった有田を横目に
淳は海水浴にでも行くような気軽さでそう言うと荷物を持って立ち上がる。
さあ行きますよ、と言外に示された有田と上田はさすがに面食らう。
「お前、寝てないだろ。大丈夫か」
せめて夜が明けてからと提案する上田に、淳は首を横に振る。
「朝になれば他の参加者と鉢合わせする可能性が高くなるでしょ?
ま、夜でもその可能性はありますけど、闇に紛れられる分だけ安全です」
尤もらしく言う淳に、有田と上田は顔を見合わせる。
あまり乗り気ではなさそうなくりぃむしちゅーに、淳が畳み掛けるように続けた。
「それに、時間が勿体無いでしょ。今のところ禁止エリアには入っていませんけど
次もそうならないって保障はありません」
「……それもそうだな」
禁止エリアはこちらの都合などおかまいなしに、刻々とその面積を広げていく。
ここから配電所までの移動時間を考えると、もし次の放送で配電所が禁止エリアに
指定された場合、時間的な余裕は殆ど無くなる。
渋々、といった様子で出発の準備を始めるくりぃむしちゅーを横目に
淳は未だに眠そうにしている亮の方に歩み寄った。
43: ◆U2ox0Ko.Yw
07/06/17 20:56:49
「亮くん、もう出発するからちゃんと起きて」
「出発?」
亮はようやく目が覚めてきたのか、辺りをきょろきょろと見回しながら不思議そうな表情を浮かべている。
「まだ夜中やないか。もう出るんか?」
「そう、暗いうちにね。あと、これ」
首を傾げたままの亮に淳は地図と名簿を手渡す。亮は「あっ」という表情を浮かべた後
ばつが悪そうに頭を掻いた。淳はたいして気にしていない様子で説明を始める。
「禁止エリアと名簿のチェックはしておいたから。今から向かうのはここ」
淳はそう言いながら配電所を指した。亮は淳が指し示した部分をじっと見つめる。
「何があるんや?ここ」
「大事なものだよ」
亮が口にした疑問に淳はそれだけを答えたが、亮はなぜか満足げな様子で分かったと頷いた。
「あとコレ、頭に巻いて?金髪は目立つからさ」
「ん?おぉ」
淳は先ほど家捜しして手に入れた黒い風呂敷を差し出した。亮は風呂敷を受け取るなり
それを大きく広げたり裏返したりして何かを確認している。おそらく深い意味など無いのだろうが
何度かそれを繰り返した後、意外と器用な手つきで風呂敷を頭に巻きつけた。
「お前さ、疑問とか持たねぇの?」
淳と亮のやりとりを眺めていた有田が呆れた声を出す。
「疑問ですか?」
しかし亮は有田が何を指して言っているのか思い当たらない様子で、しばし考え込む。
「……そや、淳。これどっから持ってきたん?」
「……そこじゃないよ」
頭に巻いた風呂敷を指差して振り向いた亮に、淳はほとんど泣きそうな顔になる。
両手で顔を覆い項垂れる有田の横で、上田が声を殺して笑っていた。
44: ◆U2ox0Ko.Yw
07/06/17 20:57:52
【くりぃむしちゅー 有田 哲平
状態:異常なし
所持品: ロープ・投網
第一行動方針:配電所に向かう
基本行動方針:首輪を外す
最終行動方針:生存 】
【くりぃむしちゅー 上田 晋也
状態:首に痣
所持品:サバイバルナイフ・ライター
第一行動方針:配電所に向かう
基本行動方針:首輪を外す
最終行動方針:島からの脱出 】
【ロンドンブーツ 田村 淳
状態:異常なし
所持品: 拳銃(コルト45 11/12)・携帯電話
第一行動方針:配電所に向かう
基本行動方針:首輪を外す
最終行動方針:生存 】
【ロンドンブーツ 田村 亮
状態:異常なし
所持品: 油性ペン12色セット・スケッチブック・黒い風呂敷・蝋燭2本
基本行動方針:淳の言うことをきく
最終行動方針:淳についていく 】
【現在位置:元町近くの民家】
【8/16 00:30】
【投下番号:206】
45:名無し草
07/06/17 22:43:44
携帯からだと見づらいな、まとめ
46:名無し草
07/06/17 23:00:14
>>44
乙です!
段々と目的に迫ってきましたね。
積極的に脱出狙ってる数少ない芸人だから頑張って欲しいです。
>>45
確かに見にくいかも。
つか、睡眠削ってちまちま移動してるが……終わる気がしないw
47:名無し草
07/06/18 01:56:02
>>44
乙です。新スレ初投下はくりぃむ編でしたか…楽しみにしていたので嬉しいです。
あいかわらず室内の雰囲気の描写が巧みで、情景を頭に浮かべながら読めました。
ついに彼らの目的がはっきりしてきましたね。これからの展開が気になります。
>>45
それについては新しいしたらばの要望スレ行った方がいいかも。
48:名無し草
07/06/18 05:41:41
未だにIDとPASSの分からない自分って…orz
49:名無し草
07/06/18 06:23:50
>>48
取り合えずsageようか
50:名無し草
07/06/18 07:41:44
まとめ管理人さんもくりぃむ編も乙ー!待ってたよ!!
51:名無し草
07/06/18 07:58:33
くりぃむ編の亮が好きだw
52:名無し草
07/06/18 08:19:50
IDPWはスレタイ
53:名無し草
07/06/18 14:24:45
パスワードが分からん
スレタイって言われても分かりません
54:53
07/06/18 14:25:55
過去スレ見てたら分かった
迷惑かけました
55:名無し草
07/06/18 17:54:38
owaraiと2006?
56:名無し草
07/06/18 19:52:03
違うよ
57:名無し草
07/06/18 20:09:19
え?あってるだろ
58:名無し草
07/06/18 20:39:11
聞く前に確かめろよ
59:名無し草
07/06/18 23:10:09
柳生秀人の糞ブログかよw
どんだけ~?ww
60:まとめ”管理”人
07/06/19 00:19:20
>>45のように携帯からまとめを見て見にくいと感じる方で、
携帯で見られるデータの容量の関係などで、まとめにたどり着けても
新したらばに行けない方はいらっしゃいますか?
もしいらっしゃれば、対応策を考えますので名乗りを上げていただけますでしょうか。
また、したらばにも書きましたが、携帯からまとめを見た際に見にくいのが
「本文を横スクロールしないと読めない」という点である場合、
pukiwikiの仕様上改善方法がありません(詳細はしたらば要望スレにて)ので、どうぞご勘弁下さい。
61:名無し草
07/06/19 21:52:06
保守
62:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/20 10:34:44
麒麟・ソラシド編です。
”それぞれの望”
「じゃあ、あきちゃんとは今朝まで一緒にいたん?」
「うん、最初から今日の6時までずっと。」
「何でなん?たむちゃん達寝てる間に出てってしもたとか?」
「いや・・・朝の放送、馬場ちゃんも聞いてたら知ってる思うけど・・・」
馬場園は6時の放送内容と、その後にあった出来事を思い出した。
「・・・坊ちゃんのこと?」
田村と町田は黙って頷いた。
「放送終わった瞬間、あいつ走って飛び出してどっか行きよってん。」
「ノブはどうしたん?」
「俺が置いてきた」
少し申し訳なさそうな面持ちで町田が手を上げた。
「置いてきたぁ?」
「いや、あん時の川島はほんま誰か殺しかねへん感じやったから・・・」
「川島はそんなんする奴と違うわ!!」
町田の言い訳を田村が力いっぱい否定した。
「ごめん・・・田村」
「ええよ・・・せやけど、もう2度と言いなや」
口ではそう言っているが、町田を見る田村の眼光は鋭い。
「それで今はあきちゃん探してる途中なんやね?」
「うん、レーダーは川島置いていきよったから」
そうこれこれ、と田村が町田の持っているレーダーの画面を見たその時である。
「何やねんこれ!?」
「どないしたん?」
レーダー初見の馬場園も画面を覗き込む。
「俺ら以外の番号あれへんやんけ・・・」
画面にあるのは田村と町田と馬場園の番号だけだ。先程まであれだけあった他参加者の番号が綺麗さっぱり無い。
「じゃあレーダーは・・・」
「何の役にも立たへん、て事やな」
63:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/20 10:35:48
眉間に皺を寄せて町田が呟いた。
「そんな・・・」
「くそっ!!」
田村は叩きつけるようにデイパックの底にレーダーを押し込んだ。
「こうなったら自力で川島探す。町田、馬場ちゃん、行こう!!」
デイパックのファスナーを締めながら歩き出した田村を馬場園が追った。だが、
「動くな!」
町田がそう叫んだ。だるまさんが転んだの状態で2人はピタッと止まる。
「何やねん、動くなて!」
「レーダーが無い以上、闇雲に動き回んのは危険や。」
「わかってるわそんなん!」
「どこに誰がいんのかわからん状態で動き回んのが、どんだけ危険なんかわかるやろ?」
「危険や言うたかて、川島が。・・・」
「今まで何人死んだかわかってんのか!?」
普段冷静である町田が思わず声を荒げた。
「これが始まってからもう丸1日経ってる。そんでこんだけ死んでるって事は、
”殺す気の奴”が何人かいるっていう事なんやで!」
町田が突きつける現実に、田村も馬場園も言葉を失う。
「俺らかてたまたま運が良かったから生きてるだけや。お前と川島はレーダー持ってたし、
俺と馬場ちゃんは適当な所でじっとしてたら見つからんかった。でもな、1歩間違ったらここにはおらへん。」
「それはわかるけど・・・川島は1人でもっと危険やんか」
ようやく田村が反論する。
「けど、あいつが持ってんのはピストルやろ。俺らが持ってる武器は何や?・・・お前の鉄パイプと煙幕だけや」
再び田村は黙ってしまった。レーダーが役に立たない今戦闘を予め避ける事は出来ない。
「うちが持ってるのも、武器としては役に立たへんもんね」
「そう、でも俺のんに比べたら馬場ちゃんのは長期戦には持ってこいや。あと1日位で支給の食料は切れるしな。」
「ようそんな先の事まで考えてる余裕があんな・・・」
「・・・何かで聞いた事があんねや。バトルロワイアルで使ってるのは軍でも使ってるレーダーで、
戦闘で使うからしょっちゅうバグるて。でも大体のは自己修復する機能が付いてるらしい。」
2人の顔に希望の光がさした。
64:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/20 10:37:24
「そ、それやったら・・・」
「ああ、放っといたら直る可能性が高いって。せやから動くな言うてんねや。」
「そういう事やったら・・・」
「早く直らへんかなこれ」
田村がデイパックからレーダーを取り出す。町田も自分のデイパックに手を突っ込んでいた。
底のデザートイーグルを確認していたのだ。
(”あいつが持ってんのはピストルやろ”?”武器はお前の鉄パイプと煙幕だけや”?
何言うとんねん俺。自分かてご立派なピストル持ってるやんか。
人のええ2人を騙して主導権握るやなんて、自分やなかったら即行ぶち殺したいわ。)
しかしそうやって自分を卑下しても、醜く生にしがみつくのを止められない。
自己嫌悪で町田は胸が痛かった。その町田に田村は声をかけた。
「町田、あのな・・・」
「何や、田村?」
「いや、ちゃんと俺らの事考えてくれてんのやな思て。さっき怒ったりしてごめんな。やっぱお前頼りになるわぁ。」
胸の痛みが増し、心臓がぎりぎりと締めつけられる感じがした。
そのまま破裂すればいい、と町田は少しだけ思った。
「あ、俺ら以外の番号!」
嬉しそうに田村はレーダーの画面を指差す。しかしすぐに表情が曇った。
「たむちゃん、どしたん?」
画面に表示された番号。それは、
「216番・・・」
「!・・・坊ちゃん?」
65:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/20 10:38:30
「あーゲホゲホっ・・・僕昨日と今日で死にかけたん4回目やわ。」
「・・・うち2回は俺か。」
「半分も川島や、会ってまだ2,3時間しか立ってへんのに。このペースで行くと今日中に20は堅いげ?」
「・・・・・・・・」
「?・・・あっ、冗談やで!もちろん冗談!!ごめん!」
本坊は川島が怒っているのだと思い、慌てて謝った。
だがそれは本坊の誤解だ。川島は短時間の内に2回も本坊を殺しかけた。
気心の知れた親友ですらこんな状態では、いつか自滅してしまうのではないだろうかと考えていた。
そう思いながら、まだ真新しい本坊の首輪の跡が残る両手を見つめる。
その首輪の跡に、川島は違和感を感じた。
「本坊、お前学校出て来たん何時位やった?」
「え、そうやね~・・・大体9時頃やったかな?」
今朝の放送ではこう言っていた。
『あと、今回はおまけにもう1つ禁止エリアがついてきまーす。 そこはスタート地点の学校でーす。
みんな気をつけろ~。ふざけて学校に入ったら撃ち殺しまーす。 』
(学校が禁止エリアの筈やったら、首輪をしている本坊が生きてるのはおかしい。)
「でも、それがどないしたん?」
「学校・・・禁止エリアになったんや。」
「え、でも僕通ってきたのに。」
「せやけど、たけしさんそう言うてた・・・」
川島は本坊の頭からつま先にかけてを訝しげに見た。
「え、何?」
「お前・・・ほんまに生きてるやんな?」
「・・・2回も殺しかけた奴の言う台詞やあらへん。」
「・・・ごめん」
冷静に本坊が返し、川島は反省した。
66:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/20 10:39:38
「それやったら、いっぺん行ってみる?」
「行くって、学校に?」
「そ、論より証拠ってやつやん?」
「それはそうやけど・・・」
「そうと決まったら早よ行こうげ。」
「・・・田村!」
「田村が何?」
「言うてたやろ?田村達はレーダー持ってるから、すぐ追いつくて。やから待っとけ。」
「あ、そっか。みんなで行動した方が楽しいやんな!」
「ようこの状況で楽しんでられるわ・・・」
「どれ位で追いつくやろね?」
「さあ、俺もどこら辺にいるんか全然わからへんからな。本坊はここがどの位置かわかるか?」
「わからへんよ、僕適当に歩いてきただけやもん。」
「じゃあじっとしとくしかないか・・・」
「大体どれ位までここにいる?僕も早く水口の所行きたいしさ。」
「早よ来ると思うけど・・・遅くても夜には来よるよ。」
「じゃあ日付が変わるまで待つ。17日になったら行こう。」
「あと12時間・・・よし、そうしよ。」
2人の会話に、間の抜けた腹の虫の音が割って入った。
「・・・川島、朝ごはんまだやない?」
「まだやけど、お前もやろ。」
「うん、ごはん食べようや。そろそろお昼時やし。」
支給されたカンパンをかじる。お世辞にも美味しいとは言えないが空腹だからまあいい。
問題は水の方だ。季節柄すぐ喉が乾くし、その上食べてる物がカンパンなんて嫌がらせか。
カンパンじゃなくて米なら喉が乾くのも多少マシになるのに、と川島は思う。
「あ~、米食いたいわぁ。」
「川島米好きやもんな。」
川島は米をおかずに米を食べる事が出来る程の米好きだ。それがもう丸1日も米を口にしていない。
「おにぎり持って来たかったね~」
「おにぎりは好きやけどお前の嫌やな。お前米炊くの下手くそやもん、仏壇の米みたいになってる。」
67:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/20 10:41:01
「なんかどんだけ炊いても硬いんよね、じゃあお前米炊いて。僕カレー作るし。」
「カレーかぁ。カレーええなぁ。」
「キャンプっていったらやっぱカレーやんな~」
あまりにも馬鹿馬鹿しい会話だが、川島は楽しかった。ずっとこんな話を続けたかった。
だが、スピーカーから出るクラシックがそれを拒絶した。
「放送・・・もう12時か」
6時の放送での影響なのか、今回は至って模範的で必要事項を伝えただけの放送だった。
たけしが軽口を叩く事もなく、段々音楽がフェードアウトしていき放送は終了した。
「シューベルトの”ます”やんな、今の。」
「そういえばそんな曲やっけ、中学ん時習ったけど。」
「こないだの単独で使ったからね。」
ソラシドの単独ライブ名はある法則がある。
第7章サティ、第8章シューベルトというように
「第○章(回数)☆☆☆☆(クラシックの作曲者名)」というタイトルを毎回付けている。
そしてその時のタイトルの作曲家の楽曲をライブ中に使用しているのだ。
「次の単独はな、もう決めてあるんよ。」
「第9章・・・誰?」
「第九って言うたらベートーヴェンに決まってるやん!」
ああ~、と川島は納得して頷いた。
「せっかく漫才もコントも考えてたのになぁ。」
本坊はまた過去形の口調になった。
「出来るよ・・・お前らの単独も、俺らの卒業ライブも。」
弱々しい呟きだが、これでも精一杯の希望だ。
「・・・そうやね、出来たらええね。」
本坊が共感した事が、川島にとっては意外だった。やはり本坊は変わっていないと川島は安心した。
「早く田村来るとええのにな・・・」
68:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/20 10:42:01
「・・・もう暗なってきたな。」
「たむちゃん、まだレーダーは変化なし?」
「うん、相変わらず4つだけや・・・くそっ!」
悔しそうに田村は吐き捨てる。
「私らのと・・・坊ちゃんのと。」
「本坊の番号だけいつまで経っても消えへん、何やねん人の気も知らんと!」
田村は苛立ちを隠さず、近くの木を思いっきり殴りつけた。
「バトルロワイアルで・・・死人に支給するもんなんか、粗悪品でええて事か?」
苛々しているのは田村だけではない。町田も同じだ。性格の違いからか、町田は溜め息をつくだけだが。
「いっ、イライラしてる時にはカルシウムやで!!」
馬場園は声を裏返させながら、”1日に必要なカルシウム入ってます!”と書かれたビスケットを差し出した。
ピリピリした空気の中にいきなりお菓子を差し出されたので、2人は呆気にとられている。
「あ、ありがとう馬場ちゃん・・・」
「しかしこんな支給品もあんのやな。」
差し出されたビスケットをかじりながら、町田は言う。
「あ、それは支給品と違うよ。」
「へ?じゃあこれどっから・・・」
ばらばらばら、と馬場園はデイパックをひっくり返して、中に入ってる物を全部出した。
「こっちがうちの持ってきたお菓子。支給品のがこっち。で、虫除けスプレーやろ、これが全部化粧品、
ちなみにこっちも化粧ポーチな。あとUNOと、それから着替えのTシャツ・・・」
「遠足みたいやな・・・ってこれほんまに俺らとおんなじカバンか!?」
「ドラえもんのポケットか!」
「あ、ふくだけコットン箱で持ってきたから2人とも使ってかまへんよ。拭いたらさっぱりするし。」
馬場園は蓋をぺりぺりと開けてシートをごしごしと腕に擦り付けた。
69:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/20 10:43:02
「じゃあちょっともらうわ。・・・あれ、馬場ちゃん同じの2つも持ってきたん?」
「何のこと?」
「いや、同じ箱もう1つあるから。ほら、こっちのローソンのシール貼ってあるヤツ。」
田村がひょいっとそれを拾い上げた。
”「それなぁ、死んだ隅ちゃんに使うたやつやねん。」”
それは今朝本坊から手渡されたものの1つだった。
突き飛ばしてバラバラに散らばった筈だったが、そのうちの1つが馬場園のデイパックに紛れ込んだのだろう。
「いやっっ!!!」
忘れていた恐怖が背筋を電撃のように駆け抜け、気付くと馬場園は田村の持っていた箱を叩き落としていた。
「いったぁ・・・馬場ちゃんどないしたん?」
はっと我に返る。自分が叩いた田村の手は赤くなっていた。
「ごっ、ごめん・・・あれや、ちっさい虫がおってん!」
「えぇっ虫!?」
「田村虫大っ嫌いやからな。」
「つい反射的にやってしもて。えと、2つあるんはあれや。うち汗っかきやからいっぱいあった方がええなって!」
「実際こんな事になってしもたし、持ってきてくれて助かったわ、ありがとうな。」
「う、うん。どういたしまして・・・」
馬場園は高鳴る心臓を抑えるのに必死で生返事しか返せなかった。
70:名無し草
07/06/20 10:44:03
19時ごろまで明るい夏の空が紺碧に塗られている。時計の針はもう23時半を指していた。
川島と本坊は無言のまま座っている。本坊は何回か話しかけようとしたが、
川島の焦りが時とともに酷くなっていくのを見て、その気をなくした。
(・・・おい、何しとんねん田村、町田、ノブ。もう夜やぞ、俺は動いてへんねんから簡単に見つかるやろ?)
”もうこの世にいないのかもしれない”という絶望が何度も頭をちらつくが、その度に否定する。
しかし、無事であるならば来ないのは辻褄が合わない。時間の経過とともに、そのズレは大きくなる。
(動かんでただ待ってるのが、こんなしんどいて思わへんかった・・・・不安に潰されそうや。
大体何でこんな目にあわなあかんねや。何基準で選んだんや、選ばれてへん芸人かてぎょうさん・・・)
「川島、1つ言っときたいんやけどさ。」
「ん、ああ・・・何や?」
「何で俺が?とか考えたり、誰かのせいにしたりしたらあかんよ。」
冷静に本坊はたしなめる。図星だった川島は心の中を見透かされていると思って慌てた。
「考えるのは・・・そう考えるのは当たり前と違うんか?間違いなんか?」
「間違いとか正解とかやない。無駄やって言うてんねや。」
「無駄・・・?」
そうかもしれない。何で自分が?という疑問はここの誰に聞いてもわからない。
仮にわかった所で、じゃあ真面目に殺しあってきますなんて言わない。
じゃあ誰のせいにすればいい?政府のせいか?戦う相手は同じ立場の芸人であるというのに。
「無駄な事考えんとさ、自分らの出来る事を精一杯やってこれを終わらせればええんとちゃうかな?」
「これを”終わらせる”? ”抜け出す”の間違いちゃうの?」
「いいや、終わらせる。まあ具体的には何も決まってへんのやけどね。」
「終わらせる・・・ってどうすんのやな?」
「みんないっぺんに死んでもらう。」
71:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/20 10:45:49
聞き間違いかと思い、川島は耳の穴に小指を入れてひねった。
「あ、もちろん水口以外な。」
聞き間違いではなかった。
「放送で言った事は・・・そういう事なんか?」
「ああ、そこまでは聞こえてたんや。よかったぁ。」
「マジで言うてる?」
「マジやって。いくら僕でもこんな不謹慎な冗談言わへんよ。」
「お前みんな死ねばええって言うてんのやろが!!」
「そうやで。」
それがどうかしたのかと言う様に本坊は平然としている。
「おかしいわお前・・・さっきから言うてる事むちゃくちゃや・・・」
「どこが?わかりやすいやん。どうせみんな殺しあって死ぬんやから、恨んだり悲しんだりする前に
いっぺんに終わらせようって言うてるだけで。簡単な理由やげ?」
「納得・・・出来る訳ないやろ。」
「それは、心のどっかで助かるって思てるからそうなるんやろ。そういうのも無駄や思うわ。」
「今俺が惜しんでる命も、無駄やって言いたいんか?」
「命やなくて、そのネガティブな考え方があかんのやって!仕方ないやん、俺らは巻き込まれて
もう何人かは死んでる。死んだ人を放っとくのは、俺は嫌や!!」
「生きてたいって思うんはそんなあかんのか?」
「あかんとは言わへんよ・・・でも生きる為には他人を殺して生き残れっていうんがバトロワやろ。
生き残る為には他の人を殺してもいいやなんて、それは間違いやない?」
「それやったら水口は?何であいつだけ例外なん?」
「水口は別やねん。あいつは死んだ人の事考えてくれるから。きっと自分以外の参加者を弔ってくれる。」
「何で・・・お前は何で生き残りたいって思わへんねや?水口がどうしたかて・・・お前も死ぬねんで?」
「かまへんよ。死んだ後で誰か俺の事思い出してくれる人がいるんやったら、俺は死んでもええ。」
わからない。本坊の考えている事が欠片も。いや、理屈はわかっても感覚で理解出来ない。
命を惜しむ事は人が持つ必然である筈なのに、どうしてそれがわかってもらえないのか?
72:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/20 10:47:01
その時、森のどこかにあるスピーカーがブツッと鳴った。日付変更の放送が開始されるのだ。
「17日・・・約束の時間やな。」
「水口が・・・」
「ん?」
「水口がもし死んでたら・・・そん時お前はどうすんのや?」
首を傾げて本坊は考えた。そして、にっこり笑ってこう言った。
「そん時は、川島が殺してくれる?」
川島は絶句して、今朝本坊の首を絞めた掌を見る。跡はすっかり消えて元通りになっていた。
「じゃあ放送聞いとこうや・・・今から死亡者言わはるから。」
たけしのあくび混じりの放送が終わった。
「良かったやん。田村とか呼ばれてへんわ、水口も。」
「あ、ああ・・・」
「ほな行くで。もう17日やし。」
「本坊!死んでへんて事は、もしかしたら追いつくかもしれへんやろ!もうちょっと待ってくれへんか!?」
本坊は立ち止まった。そして振り返る事無く言い放った。
「川島。約束したやろ?もうじゅうぶん待ったわ。行くで。」
「でも、レーダーあったら水口も探しやすくなるし・・・」
「12時間も動かへんかったのに来ぇへんかってんで。生きてるにしたかて来れる状況ちゃうんやろ。
・・・今はあきらめ、川島。」
再び本坊は歩き出した。川島は追いすがって止める。
「待ってや、本坊!!」
「・・・川島。昼言うてた事やけど、あれ訂正するわ。」
「訂正?」
「麒麟の卒業ライブも、俺らの単独も・・・もう出来ひん。」
決定的な意志の違いだった。自分ではもう、本坊を止める事が出来ない。
(誰か、誰でもええから止めて欲しい。水口でも誰でも。
・・・・田村。助けて、田村・・・)
73:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/20 10:48:33
「復活したぁ!!」
レーダーをたかいたかいの状態で持ち上げ、田村は歓喜した。
「長かったな!」
「うちにもちょっと見して」
3人ともこぞって画面を覗く。
「良かった・・・川島無事や。」
安心した後少しだけ表情が曇った。理由はすぐにわかった。本坊の番号は消えていない。
「ここだけ直ってへんやんけ・・・」
「しかも川島の横か・・・まあええ。まだ近くにいるみたいやし、急ごう。」
暇な時間を利用して交代で寝ていた為、体力は温存している。
本坊の番号を見て、2人とは全く別の感情を抱く馬場園は画面に釘付けになっていた。
「坊ちゃんは・・・死んだ、んよな?」
2人は黙って、しばらく経って無言で頷いた。
「気持ちはわかるけど・・・」
「俺らも嫌やわ。馬鹿にされてるみたいで。」
田村と町田には本坊を失った悲しみと、その本坊を生存者側に表示する機械の無神経な間違いに対する怒りがあった。
だが馬場園はその2つとは全く違う、安堵の感情を抱いていた。
(坊ちゃんはやっぱり死んだんや・・・)
だがすぐに、矛盾が生じる。
(やとしたら・・・坊ちゃんにもらったあれは何?)
田村はレーダーを持ち、町田がコンパスで方向を確認する。
「良かった。これで川島に会えるわ。」
「・・・やっぱ嬉しそうやな、田村。」
「うん、でも川島だけと違うよ。俺はやっぱりみんなと生き残りたいもん。
川島も町田も馬場ちゃんも、他の人らもみんな。」
田村の希望、本坊の絶望、川島・町田の生への渇望。どれが正しいのかは、わからない。
・・・いや、本坊の言葉を借りるなら正しいとかそういう事を考える事自体”無駄”な事なのかもしれない。
74:名無し草
07/06/20 10:50:58
麒麟 田村 裕
所持品:ライター、煙草、簡易レーダー、鉄パイプ、煙幕×4、爪切り
基本行動方針:首輪の外し方を探す。攻撃してくる相手には反撃する
第一行動方針:相方捜索
第二行動方針:仲間を探す
最終行動方針:ゲームの中止】
【ヘッドライト 町田
所持品:デザートイーグル、サザエさん 1,7,24,38,45巻
基本行動方針:自分の身は自分で守る
第一行動方針:川島捜索
第二行動方針:
最終行動方針:不明】
【アジアン 馬場園 梓
所持品:お菓子の詰め合わせ、生理用品(私物)、虫除けスプレー(私物)
基本行動方針:生存最優先
第一行動方針:とりあえず田村・町田と行動をともにする
第二行動方針:不明
最終行動方針:不明】
【現在位置:F-6 】
75:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/20 10:55:30
【ソラシド 本坊 元児
所持品:コンビニコスメセット
基本行動方針:水口を捜す
第一行動方針:学校へ向かってみる
最終行動方針:水口以外の参加者(自分含め)全員を1度に死亡させ、水口を優勝させる】
【麒麟 川島 明
所持品:ライター 煙草(開封済) 眼鏡 ベレッタM92F 予備マガジン×1
基本行動方針:自分の精神を保つ
第一行動方針:混乱している為考えられない
第二行動方針:上に同じ
最終行動方針:上に同じ】
【現在位置:G-6】
【8/17 00:09】
【投下番号:207】
>>30
ロンブー・くりぃむ編乙です!
真面目に脱出の段取りしてる話なのに、クーラーが恋しいとか、
(特に上田だよな。体力ないし体弱いし骨も弱いし)のとことか、亮の呑気さとか
ほっこりする箇所多くて良かったです。次回も楽しみにしてます。
76:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/20 11:51:11
訂正。
>>74も現在位置もG-6です。
77:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/20 11:52:38
>>76
×>>74も
○>>74の、です。gdgdだ・・・
78:名無し草
07/06/20 15:03:04
オツカレチャ━━( ´∀`)━━ン!!!!
投下待ってたよ
79:名無し草
07/06/20 15:34:40
>>75
乙です!
本坊の暴走も怖いが川島・町田・馬場園辺りも不安定だな。
先のことを考えると……(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
80:名無し草
07/06/20 21:47:45
>>62-77
乙です
この調子で書き手さんにはどんどん投下していただきたい
81: ◆//Muo9c4XE
07/06/21 00:01:08
前スレ>>505-509 松竹本編第二話
NEW GAME アメリカザリガニ
時は2006年8月15日、沸き上がる欲望がこの島を揺らした
奔走する若者達の集う様は、忌々しい底なしの闇に覆い隠される
情熱の矛先は溢れる憤りと共に見知らぬ地へと向けられた
『偉大なる人』はさらなる高みを求めていた。そのため人々は新たな皇道を模索した。
そして選ばれた一部のエンターティナー。大人達は、ただ黙示した。
―これは法律であり、我々の日常である。
限りあるフィールド。降り立った狩人達。時に獲物へと成り代わる。
死闘の果てに、一体何を見るのか。
残される事の憎しみを、
朽ち果てる事の喜びを、
舞台は整った。さぁ。我等が偉大なる人へ、その全てを奉げろ。
GAME START !
82: ◆//Muo9c4XE
07/06/21 00:02:30
「はぁっ、はぁ、っ……」
足場の悪い森の中を全速力で走り抜ける。辺りは薄暗くなり始め余計に足元が取られやすい。
喉は痛くなるほど乾ききって、微量な唾を飲み込むとほのかに血の味がした。
途切れる呼吸を無理矢理繋ぎとめるため、少し多めに息を吸いこむ。
すると欲張りすぎた反動かゴホゴホとむせてしまった。
その間も足を緩める事はなく、とりつかれているかのように地面を蹴った。
太陽が沈みかけても流れる汗の量は変わらない。
昼の干乾びるような暑さとは違う、ジメジメとした息苦しい暑さが全身を襲う。
まとわりつくシャツを疎ましく思いながら、尚も力を振り絞り走り続けた。
『観覧車まで走れ』
その言葉を聞いたのは夢から醒めた直後、教室内でのこと。
頭も視界もボンヤリとしているのに、その言葉は素直に耳に響いた。
しかし言葉の意味より真っ先に気になったのは、何故か真隣に座っている声の主、相方平井善之の事だった。
ついさっきまでいつものように他の芸人達とくだらない話で盛り上がっており、その輪の中に平井はいなかった。
まるで相方が瞬間移動でもしてきたかのようで、全身に鳥肌が立つ。
それが思い違いだと気付くのは、完全に体を起こして辺りを見回した時だ。
先ほど目にした楽屋とは似ても似つかない風景がそこにはあった。
そして不思議と途切れている頭の中の記憶……寝起き特有の気だるい身体がそれらの矛盾と繋がった。
いつの間に眠ってしまったのか。いつの間にこんなところに移動してきたのか。
答えを求めるように平井の顔を見やると、もう一度小さな声で囁いてきた。
「観覧車まで走れ。1秒でも早く」
あまりにも小さな声で聞き取るのが大変だった。しかし間違いなくそう言った。
83: ◆//Muo9c4XE
07/06/21 00:03:51
どういう事なのか。観覧車とは何の事だ。
そう問いたかったが、室内を取り巻くピリピリとした空気に声を出すのを躊躇った。
ウルサイと評判の高音ボイスはこの空間ではあまりにも不釣合い。
声にはせず目で訴えては見たものの、平井はそれ以降、一言も言葉を発することはなかった。
『えー、今日は君達に、ちょっと殺し合いをしてもらいます』
相方の言葉は、ビートたけしの登場によって次第に謎解きされていった。
『お前らも、大人なら知ってるよな?』
つい遮った真新しい記憶に、発熱する目頭を押さえた。
全てが始まったあの教室で見た。
いつもここから山田の死。そしてヘッドライト和田の『孤独』な死。
目の前で目撃した二人の死が、頭にこびりついて離れない。
間違いなく迫りくる恐怖を味わったのは当人のはずなのに、残された者が被害者意識に刈られてしまうのは否めなかった。
何とも後味の悪い死を目の当たりにして、自分の命の存在意義に不安を抱かずにはいられない。
思い出すのは撃ち抜かれた体と半分にちぎれた首、そして校舎前で泣き崩れる一人の男の姿だった。
どの記憶もあまりに鮮明で立体的だ。
何が起こっても傍観者でしかいられなかった。自分を守るのに必死だった。
血の味がする唾をもう一度飲みこむ。
動いた喉が首輪の締め付けをよりリアルに感じさせた。
右手でそっと首輪に触れると、途端に、胸が早鐘を撞くように高鳴る。
自分の運命は、こんな小さな鉄の塊に握られているのか。
ぐっと唇を噛んだ、その時だった。
84: ◆//Muo9c4XE
07/06/21 00:05:05
「ぉわっ!」
突然視界が激しく揺れ、鈍い音を響かせた。
視線が瞬時に低くなった。もつれた脚のせいで勢いよく転んでしまったのだ。
右膝がじんじんと痛む。手のひらと右肘にも同じ感覚があった。
「なんで、こんなん……」
体は地を這っている。それを元に戻す気力が、どうしても見つからない。
こんな思いをしてまでこのプログラムに参加する意義とは一体なんだ。
太陽の光を遮断した湿った土の匂いも、大地にたくましく生い茂る草木の青さも、
この光景は普段の生活と何も変わらないはずなのに。
起き上がる事も出来ず、右に握り拳を作った。
ただそれをぶつける相手が見つからず、目の前にある大地に打ちつけた。
固く乾ききった土は、無言で拳を受け止めるだけだった。
とうに限界を超えてしまった心身が諦めにも似た表情をこちらに見せる。
これまでの運動量と精神的なダメージのせいで、激しく咳き込み嗚咽を漏らした。
『観覧車まで走れ』
助けを求めるように空を仰いだが、木々に遮られ照らすものもないこの森の中から、観覧車は見えなかった。
辿りつけない。
そう思った瞬間闇が辺りを覆うような感覚に陥り、身震いをした。
死んでしまうのだろうか。このまま、ここで。
85: ◆//Muo9c4XE
07/06/21 00:07:06
自分の事ばかり考えていた、その報いかもしれない。
死に逝く人に、泣き暮れる人に、もっと優しくなりたかった。
例えばあの時、大量の死体を目の前にして涙していたあの男を―ザ・プラン9のヤナギブソンを、少しでも勇気付けて元気付ける事が出来たなら。
例えばあの時、一人死の恐怖に追いこまれたヘッドライト和田に、助ける事は出来ずとも手を差し伸べる事くらい出来たなら。
例えばあの時……。
今更、遅いだろうか。
「観覧車まで走れ、観覧車まで走れ、観覧車まで……」
堅く目を閉じ呪文のように数度繰り返し呟くと、もう一度力強く拳を地に突きつけ、立ち上がる。
そして軽く辺りを見まわし、汚れた服を払うことなく走り出した。
今更遅いかもしれない。ただ、今死ぬわけにはいかなかった。
平井がわざわざ声をかけてきたのには、きっと何か深い意味がある。何か考えがある。
教室で顔色一つ変えずにビートたけしの話を聞いていたのも、何か策があるからだ。
この状況を脱する策を持っているからだ。
それが確認できれば、なれる気がする。
死に逝く人に、泣き暮れる人に、そして全ての参加者たちに。
必ず、平井は自分を正しい場所へと導いてくれる。
86: ◆//Muo9c4XE
07/06/21 00:08:22
森を抜けると目の前に大きな門構えが飛びこんできた。奥には更に巨大な観覧車が聳え立つ。
重苦しい空気が不穏に流れる。目に見えるものではないのだが、殺気立ったものを感じた。
この場所は、何か良からぬことを生み出す気がする。
ぼんやりとそんな事を考えたが、すぐに忘れた。
とにかく平井と会う事、それしか頭になかったからだ。
『1秒でも早く』
園内に響く足音が鼓動と共に加速する。
動かない遊具の不気味さも、静まり返る遊園地の悲壮さも、染まり狂った青のペンキも、気に留める暇はなかった。
目指すは観覧車、ただ一つ。
観覧車の前まで来ると、中までくまなく探した。
遊具の中、更にはそばにあった管理室のような小部屋も、当然確認した。
しかし、平井の姿はなかった。
スタートしたのは平井のほうがずっと先である。
自分より断然体力のない相方は、どこかでへばっているのかもしれない。
それならいいのだが、万が一誰かに襲われてしまったのだとしたら……。
ゾッと悪寒が走り、頭を振るいその悪い考えを消し去る。
わずかな希望に託し、目に付いた建物を手当たり次第確かめていった。
アトラクションは時が止まったかのように薄暗い景色の中に佇む。
ここにも、ここにも―。
87: ◆//Muo9c4XE
07/06/21 00:09:41
次に辿りついたのはゲームセンターらしき建物だった。
錆びれてしまったその外観ではもはや見る影もない。
誘い込むかのようにドアが開け放たれている。
自然と脚が、そちらに向かった。
入り口の前で立ち止まると、その薄暗がりの中から足音が響いた。
まだ整わない呼吸を何とか落ちつかせようと、目を閉じて深呼吸する。
どうか。恐ろしい殺人鬼ではありませんように。出来る事なら、探している相方でありますように。
漠然とした不安が襲いかかる。生命の危機とは違うそれは、ただ漠然と「嫌な予感」であった。
ゆっくり目を開くと直線上に人の影が止まる。
飲みこんだ唾は、やはり血の味だった。
「ようこそ。我が砦へ」
妖しげな台詞とは裏腹に、聞こえてくる声は穏やかだった。
のほほんとした口調は間違いなく、探していたその人のものである。
暗闇の中に立つのは、手招きしてこちらを歓迎してくる平井であった。
相方と出会えた喜びなのか、はたまた何か胸踊る出来事でもあったのか、嬉しそうな表情を貼り付けていた。
その瞬間、今まで感じていた殺気や不安、「嫌な予感」なんてものは完全に姿を消した。
いや、少なくとも、完全に忘れた。
思わず胸を撫で下ろし、つられるように笑みをこぼす。
「砦て……なんのことやねん!」
よく通る甲高い突っ込みが、飛び跳ねるようにこの島に響いた。
88: ◆//Muo9c4XE
07/06/21 00:10:54
《主人公の設定をしてください》
名前: 柳原 哲也
性別: 男
職業: 芸人
この設定でよろしいですか?
→はい いいえ
......Now Loading
89: ◆//Muo9c4XE
07/06/21 00:12:10
設定完了。
最後の一人に残れるよう、頑張ってください。
→ BATTLE ROYALE 50 START
【アメリカザリガニ 合流】
【アメリカザリガニ 柳原哲也】
所持品:不明
第一行動方針:平井の計画を聞く
基本行動方針:優しくなりたい
最終行動方針:ゲーム終了
【アメリカザリガニ 平井善之】
所持品:不明
第一行動方針:不明
基本行動方針:不明
最終行動方針:不明
【現在位置:E1 アミューズメントパーク内ゲームセンター】
【8/15 18:25】
【投下番号:208】
90:名無し草
07/06/21 00:17:39
リアル投下ktkr
乙です!!
どうなるのか楽しみだ
91: ◆//Muo9c4XE
07/06/21 00:20:13
遅くなりましたが……。
>>30
乙です!
やっと脱出の糸口が!
お得意の頭脳プレーでどう行動していくのか、とても楽しみです。
>>62
乙です!
本坊って狂っているようで一番冷静に現実を見ているような……。
彼らが無事再会できるのか、ハラハラしながら続編を待ちたいと思います。
92:名無し草
07/06/21 11:42:04
松竹編乙です!
93:名無し草
07/06/22 00:52:30
>>89
乙です!
そのゲームはどこで購入できますか?w
94:名無し草
07/06/23 13:31:59
ほす
95:名無し草
07/06/23 18:25:35
ほ
96:名無し草
07/06/23 21:10:43
守
97:名無し草
07/06/24 01:02:20
マジでパスわからん、携帯で過去見れないし、\(^o^)/オワタ 保守
98:名無し草
07/06/24 01:31:44
IDもPassも冷静になってこのスレ読み返せばわかるとおも(´・ω・`)
99:名無し草
07/06/24 02:15:58
通勤ブラウザ使ってみるとたまに正しいIDとパス入れても弾かれるのは気のせいだろうか。
そのせいで携帯住民がまとめ見れないってことは……ないよな?
100:名無し草
07/06/24 03:31:21
BASIC認証がそもそも携帯向きの機能じゃないからね。
101:名無し草
07/06/24 11:36:33
携帯ユーザーです。
ページが長すぎて下まで表示されないところがいっぱい
あと注意書き、白で書いてあるんだろうけど
携帯では背景白になるから読めないところがあった
102:名無し草
07/06/24 12:45:52
>>101
自分も携帯だけど、途中で切れてる時は2ページに分けて表示されてるよ
数字の8ボタン押したら次のページ行ける
103:名無し草
07/06/24 15:11:55
>>101
>>102ですが自分で読んでてわかりにくいので補足
まとめの上部には常に
0.Top|1.New|2.Edit|3.Unfreeze|4.Menu|5.Recent
↑これが表示されてると思うんだけど、例えば文字数や改行の多いページを開いたら(例:芸人データベースのページ)
0.Top|1.New|2.Edit|3.Freeze|4.Menu|5.Recent|1/4|8.Next
↑こういう風に表示されるはずなんで、「8.Next」をクリックする、もしくは8ボタンを押すと次のページに進むと思います
>|1/4|
ここの部分はそのページの文字数などの量によってそのつど1/2になったり1/3になったり…あまり意味はない情報ですが
携帯の機種やメーカー、文字の大きさによって違うかもしれませんが多分これできちんと操作できると思います
(ちなみに自分はauのWINで文字サイズは極小に設定してあります)
ってしたらばに書けばよかったかな…
104:名無し草
07/06/24 15:29:49
owaraiと2006
105:まとめ”管理”人
07/06/25 00:09:59
>>99
BASIC認証を普通にかける以外のことはしてないんですが…。申し訳ありません。
>>100の方の言われるように、BASIC認証自体携帯向きでないのは確かです。
>>101
ページが長過ぎるという指摘ですが、それをなおすにはページ自体が多すぎます。
申し訳ありませんが、>>103のような(>>103の方説明ありがとうございます)やり方を参考にして下さい。
また、注意書きに関しては携帯用にページを設けるか、何か方法を考えたいと思います。
106:名無し草
07/06/25 01:11:53
携帯だけど、ここ使って見てる
URLリンク(mobazilla.ax-m.jp)
107:名無し草
07/06/25 05:54:14
>>102->>106
ありがとう、無事見れました。
俺が無知なだけだった…
それと文字色の件、管理人さん手数かけて申し訳無い。
108:まとめ”管理”人
07/06/25 15:55:23
>>107
携帯用トップページを試作してみました。
普通にindexから入ったPC用のトップページの上部にリンクしてあるので、確認してみて下さい。
pukiwikiのメニューバーと単語検索のページに直接行けると便利かなーと思ったので、
携帯用トップの上のところにリンクしてみました。もし見づらいとか何かあればまたご連絡下さい。
109:名無し草
07/06/26 16:08:37
ほしゅ
投下まだー?
110:名無し草
07/06/26 17:48:33
うっせ、黙ってまってろカスが
111:名無し草
07/06/26 19:09:06
しね
112: ◆1ugJis83q2
07/06/27 02:12:30
山根と小林行きます
夏休みの朝は、確かに暑いが爽やかだった。
1日中何もしなくてもいい、ただ、遊んでいれば良いだけの日々の始まりは、少年の心を浮き上がらせる。
山根はそんなことを考えていた。
先程から小林は何も言わない。手元にある、びっしりと乱雑な字の書かれた紙をながめていた。
山根が、その紙がコントの原稿だと気づいたのは、それから眼を離した直後のことだった。
「図書館の三原則を知っているか」
突然小林が、口を開いた。
「いいえ」
「ふむ」
会話はするが、小林の視線が山根に向くことはない。
「まず、図書館という施設がいるな。それがないと何も展示できない。
そして次に資料がある。主に本だな。最近はマイクロフィルムや電子資料などもあるが、これらがないと意味がない。
最後に来るのが職員だ。職員がしっかりしていないといい図書館にはならない」
「はあ」
小林が言っている事は理解できるが、小林が何を言いたいのか山根には理解できない。潮風にのどがひりつく。
「しかし、だ。近年ここに新しい概念が生まれた。利用者の存在だ。彼らがいないと、いくら資料があったってどうにもならないじゃないか…コントだって、そうだ」
微かに呻いて、小林はうつむいた。髭が伸び、垢にまみれ、やつれきった頬は奇妙に歪んでいた。
「だれも演じない、だれも観ない…そんなコントに意味があるのか?しかも完成すらしていない。
これは、コントじゃないよ。だから、こうする」
その言葉の直後、小林の手元にあったコントは彼によって引き裂かれ、空を舞う。
「これでいいんだよ…観ている人に笑ってもらえないコントなんて意味がない。
笑ってもらえるコントが書けなければ…だから、僕にはもう何もないんだよ」
「え?」
山根が省みた時、小林は笑っていた。笑いながら、コントを引き裂いては風に散らしていた。
「何でそんなことを言うんですか!」
山根は1人で叫んだ。小林の笑顔があまりにも無邪気だったからだ。そこに自嘲や嘲笑の色はまるでなかった。
いっそ、小林が泣いたり悔やんだりしてくれていた方が、山根はどれだけ彼に同情できたろうか。
嘘が多いといわれている小林だが、その笑顔にはあまりにも裏がなさ過ぎる。
113: ◆1ugJis83q2
07/06/27 02:13:45
「じゃあ、君は」
小林は言う
「人殺しの書いたコントで笑えるのかい?」
山根は黙り込んだ。「人殺し」という言葉の生々しさが、彼をして黙らせたのだ。
そして、まだ小林は笑っている。彼の周りには、コントの残骸が散らばって、空に吸い込まれるのを待っている。
生々しいのは言葉のみで、その場の情景は生きているものの気配を感じさせない、乾いた清涼に充ちている。
こんなときは、どこからかバッハのチェロ無伴奏が流れてきそうなものだが、彼らの耳に絶えずささやきかけるのは、絶え間のない波の音だけだった。
そうして山根はある言葉を思い出す。
『死に至る病とは絶望のことである』キルケゴール
【アンガールズ 山根良顕
所持品:救急セット
第一行動方針:今立の手伝い
基本行動方針:怪我をした人を助ける
最終行動方針:死は覚悟している
現在位置:崖】
【ラーメンズ 小林賢太郎
所持品:フェンシングの剣
第一行動方針:
基本行動方針:
最終行動方針:
現在位置:崖】
【8/16 07:45頃】
【投下番号:209】
114:名無し草
07/06/27 09:54:29
>>113
乙!
うわーコントがー!!
115:名無し草
07/06/27 15:51:42
>>113
乙!
ついに本格的な死亡フラグが…(((( ;゚Д゚)))
一時でもコント書いてた小林がコントを捨てる時が来るとは。
116:名無し草
07/06/27 17:41:30
>>113 乙!
いやああああああああ
あまりにも悲しすぎる・・・
117:名無し草
07/06/28 01:26:38
>>113
乙!
小林のメンタルの弱さを思うと先が恐いんだよな…
118:名無し草
07/06/28 07:51:29
>>113乙!
コント………(つд`)
119: ◆//Muo9c4XE
07/06/29 01:01:59
>>81-89 松竹本編第三話
初期装備 アメリカザリガニ
カツ、カツ、カツ、カツ―。
無事に平井と合流を果たした柳原は、ゲームセンターに散乱している椅子に腰掛け、上半身をゲー
ム台に預けるようにして伏せていた。手入れの行き届いていない森を駆け抜けるのは想像以上に体力
を消耗したため、この建物に辿りついてしばらくは何も考えずにじっと回復を待っている……という
のが現状である。
太陽はとうに沈んでいた。そのため室内は不気味なほど暗い。おまけに入り口を閉ざしているせい
か、夜になったとはいえ空気が篭って暑苦しい。何もしなくても汗が流れ落ちるほどで、その暑さは
尋常ではなかった。
息苦しさをを紛らわすかのように、柳原は室内を見渡した。冷たいゲーム台に密着した上体はその
ままに、目だけをぐるりと動かした。
だだっ広いこの空間には、数えるのも億劫なほどのゲーム台が並んでいる。入り口近くにはクレー
ンゲームや音楽ゲームがひっそりと出迎え、車を見立てたレースものの機械は居心地悪そうに整列し、
アクションゲームやパズルゲームの類は部屋の半分近くのスペースを埋め尽くし、今座っている奥ま
った場所にはパチンコ台やスロット台が無言で陣取る。
当然ゲームセンター本来の賑やかさはそこにはなく、あるのは先ほどから鳴っている、平井の爪と
ゲーム画面が衝突して共鳴する音だった。
次いで視線を落とし、柳原はテーブル代わりに体を預けている小さなクレーンゲームに目をやった。
腰下程度の高さのゲーム台は、カプセルに入った景品をクレーンで拾うタイプのものだった。そうい
えばこの手のゲームで景品を入手した経験がない事を、柳原はぼんやりと思い返す。過去何度かやっ
てはみたものの、アームを閉じてクレーンを持ち上げる瞬間、毎度のようにカプセルがすべりアーム
からすり抜けてしまうのがどうにも納得いかないのだ。ゲーム台の前で「こんなん取れる訳ないやろ」
と毒づいた経験は数知れない。
120:名無し草
07/06/29 01:02:10
保守
121: ◆//Muo9c4XE
07/06/29 01:07:14
クレーンゲームもコツさえ掴めば簡単に景品を手に入れられるらしい。柳原は睨み付けるようにガ
ラスの箱を凝視した。それはコツを掴むヒントを得るための行為だったのだが、思いもよらない事に
気付いてしまい慌ててそのゲーム台から目を逸らした。
柳原は手で口元を覆った。ついニヤけてしまう口元を隠すためだった。口元がニヤけてしまうのは
大笑いしたいのを必死に我慢しているから、なんて理由ではない。背徳行為で得られる喜びのた
め―そう例えるのが一番適当である。
景品として転がっているカプセルの中に入っていたのは、色とりどりの女性用下着だった。窮屈そ
うに閉じ込められた布地に粗いレースが見え隠れしている。パステル調の爽やかなものから黒や赤と
いった妖艶さを備えたものまで、多彩な品揃えであった。それらを凝視していた自分が急に恥ずかし
くなり、ふわふわと視線を漂わせ斜め向かいに座っている平井を見た。平井はこちらの事など気にも
止めていない様子で、アクションゲームか何かの台に頬杖をつき、一定間隔で鋭い音を生み続けていた。
ここに辿り着いてから、柳原はずっと違和感を覚えていた。全てが平井に対しての違和感なのだが、
その違和感が何を意味するのかまではわからなかった。いくらスタートの時間が違うとはいえ、急い
で走れば追いつけると思っていた。スポーツに無縁な平井の事だ。走り続けるほどの体力もないだろ
うし、ましてや、全力疾走している平井の姿など想像もつかなかった。
しかし蓋を開けてみれば、平井は柳原よりもずっと早くこの場所に辿り着いていた。入り口で対面
した時も、長い道のりを駆けて来た割には疲れた素振りも見られなかったし、今だって息苦しいほど
暑いこの空間で、文句の一つも言わず涼しげな顔をしているのがどうにも不思議で仕方ない。
改めて平井の様子を眺める。宙に浮いていた平井の視線はこちらへと向かい、そうかと思えば、周
囲の暗闇と共にニヤッと笑った。
「自分どう思う?」
鳴り続けていた不快なBGMは途切れ、突然喋り掛けられた。
122: ◆//Muo9c4XE
07/06/29 01:08:38
柳原は考えた。平井はバトルロワイアルについて聞いているのだろうか。どうと言うのは、その言
葉通り。
「そんなもん早よ終わらせな。平井かてそうなんやろ?」
同意を求めるつもりではなかったが、同じ答えが返ってくると疑いはしなかった。心なしか、平井
の顔は驚いているようだった。
「そや、早よう終わらせんとな」
平井はまたニヤついて、今度は腕組みを始めた。
「何か、考えてんねやろ?」
その問いかけに平井が小さく目を見開いた。やっぱり、平井はこのバトルロワイアルを打破する策
を何か持っている。そう思わずにはいられない反応だった。
「平井、聞きたい事あんねんけど」
「何?」
「その、どないして終わらせるつもりか知らんけどやな、俺にしか声かけてないん?」
「いや」
「他には、誰?」
「松竹の芸人何人か」
「みんな?」
「……」
突然平井は黙り込んだ。しばらく答えを待ってみたが、返ってくる言葉はなかった。
今更遅いのだろうか。
柳原は思い出していた。ここに来るまでに見た全ての事を。
そして言い訳をした。どれも仕方のない事だったのだ、と。
銃で撃たれた体と、千切れた首と、泣いている男が同化してこちらを見ているようだった。形のな
いものを見ているようで、しかし、確実にそれは実体であった。
123: ◆//Muo9c4XE
07/06/29 01:10:08
居た堪れなくなった柳原は慌てて声を上げた。
「おい、何とか言えやこら」
気持ちが焦る。
のろのろと、同化したモンスターが近づいてきた。
「出来る事と出来ん事があるわ」
否定的な平井の言葉に、モンスターは大きく口を開けた。
「自分らだけ助かるわけにはいかんやろ」
鋭い牙を見せつけ直進してくる。それは重力に従って落下する一切のものよりも早く感じた。
「みんなや、みんな。今生きてるみんな!」
(助けてくれ!)
「それがアカンのやったら出来る限り大勢、助けられるだけ!」
(平井!)
「自分らだけ助かっても嫌や!」
(死にたないねん!)
同化したモンスターは目前まで迫っていた。ついに柳原はその存在を直視出来なくなり、固く目を
閉じた。
(おい俺。死にたないって、なんやねん)
「なぁ」
心臓が飛び上がった。
ただ呼びかけられただけの事なのに、その声は非難を含んでいるかのようだった。
ゆっくり目を開くと、先ほどまで見ていたモンスターは姿を消し、代わりに相変わらず腕組みをし
ながらスカしている平井の姿があった。だが、ぶつかり合った平井の視線が、ついさっきこちらを向
いていたあのモンスターの視線とリンクして、柳原は思わず身震いをした。
124: ◆//Muo9c4XE
07/06/29 01:12:13
本当はわかっていた。
平井が言おうとしている事は。
そして、その言葉に従うしかない事も。
「それは欲や」
ただ表現が、柳原の想像していたものより少し難しいだけで。
「欲深いんよ、おまえ」
少し、ひねくれた言い回しをするというだけで。
「大切なもんはたくさん持ち過ぎたらどれが本当に必要なもんか、忘れてまうって」
「……」
「本当に大切なもんって、1人につき1つや思うわ」
平井の指す「1つ」が「自らの命」と聞こえてしまうのは気のせいだろうか。いや、疑いようもな
い。このプログラムの中で守るべきものは、やはり自分の命なのだから。
それでも―。
一度決めた事をそう簡単に曲げる訳にはいかなかった。
全ての参加者たちに、そう決めたのだから。
もう傍観者でいるのは嫌だと。
柳原は急速に考えを練った。自らが決めた目的を果たすべく、ひたすら思案した。
叶わない事かもしれない。それでも同じ事務所のしかもごく一部の人間しか助けられないなんて、
あまりにも悲しい。少しでも多くの人を助けたい、そう思った。
「わかった」
平井の言葉を受け止めた。そんな風に柳原は呟いた。
その返事に平井は満足げに笑った。ほんの一瞬だけ。
「平井にとって大事なもんが俺。で、俺にとって大事なもんが……せやな、後輩も大事やけど、岡
田さんやろな」
柳原は咄嗟に事務所の特別お世話になっている先輩の名を出した。確かに岡田は柳原にとって尊敬
している人ではあるが、この場合は単なる思い付きでしかなかった。誰でもよかったとまでは言わな
いが、その岡田から1人、また1人と所謂芋蔓式に人を集めようと考えたのだ。これでまず平井の理
論は崩せる。平井の思い描くプログラム終了計画がどんなものかはわからない。それでも一度集まっ
てしまえば追い返す事も出来ないだろうし、平井も最終的にはその行為を容認してくれると思った。
彼がそんな無慈悲な性格ではない事を、柳原はよく知っている。
125: ◆//Muo9c4XE
07/06/29 01:13:34
しかし当の平井は、仮面のように笑っていた表情を崩し、明らかに不快感を示していた。やや厳し
い顔つきをしながら、全てを受け付けないとでも言うような声色で、簡潔に答えた。
「あかん」
こちらの考えを読まれているのかもしれないと考えたが、それでもいいと柳原は思った。たった一
つの大切なものよりも、少しでも幸福に近いプログラムの結末を望んだ。
「岡田さんには声かけてないん?」
「かけてない。見つからんかったし」
「それやったら追加せい」
「どこに居るかもわからんのに、どないすんの。それに……」
「それに?」
「いや……」
平井は表情を曇らせて、組んでいた腕を解きまた頬杖をつく。それからは窓の外に目をやったきり、
投げ出した言葉の続きを教えてはくれなかった。
柳原は少しだけ苛々していた。答えを急いでいたのだ。
「探してきたらええねやろ? 俺探して連れて来るわ」
「それはあかん」
「なんでや」
「そんなんできるわけないやろ」
「勝手に決めんなや、やってみんことにはわからへんやろが」
「岡田さん見つける前に死ぬかもしれんのやで?」
「ここに居ったかて死ぬかもしれへんのは一緒やんけ」
「外うろつくよりかマシやろ」
「それでも連れて来る! 出来んねんて!」
「出来ん」
「出来るわ!」
「出来ません」
「出来る!」
「ムリや」
「あーもう、頼むわ、この通り!」
次第にこのやり取りが面倒になった柳原は、仕方なく立ち上がって頭を下げた。まるで命乞いでも
するかのようで、その光景は自分でも可笑しいと思った。
126: ◆//Muo9c4XE
07/06/29 01:14:49
声をかけられてもひたすらに頭を下げ続けていると、平井はしばらく考えこんで小さくため息をつ
くとこう言った。
「日没までや」
「にちぼつ?」
「明日の日没までにここに連れてき。それが出来ひんかったら、素直に戻ってくる。ええか?」
「明日の、日没……」
「それが嫌やったらこの話は終いな」
「ま、待てって。わかった、わかったから」
急かされて深く考える間もなく条件を飲んだ。多少無茶な条件だとは思ったが、そんなにのんびり
している暇はないというのが現実なのだろう。当然といえば当然だった。
「その代わり、変なんまで連れてくんなや?」
「変なん?」
「面倒はゴメンやからな」
平井は笑っていた。意図するものが何なのかわからないが、とても楽しそうだった。
続けて平井は急かした。
「さっさと探しに行った方がええんとちゃうの? 時間あんまないし」
もうちょっと言い方あるやろ。そう心の中で不満を洩らし、柳原はまだ疲れの取れない身体を伸ば
して奮い立たせる。入り口を横目で確認したところで、またも平井に声をかけられた。
「カバン、確認したん?」
その言葉を聞くまで、柳原はデイパックを背負っていた事など忘れていた。当然中身は確認してい
ない。
平井は小さく笑い、柳原の背中に回ると、背負っているデイパックに手を伸ばした。ファスナーの
エレメントが噛み合う音が背後から流れ、一拍おいた後、平井の唸り声が部屋に響いた。
「おまえー、えらいもん担いできよったな」
何が入っているのか想像もつかなかった柳原は首だけ後ろに振り返る。
127: ◆//Muo9c4XE
07/06/29 01:16:10
「な、何やってん」
「えらい高級なもんや」
「ライフルとか?」
「もっと、こう、黒くて重宝されるもんや」
「……ボウガン?」
「ちゃうわ、もっと軽くて薄っぺらいねんて」
「薄っぺらい?」
「薄っぺらいねんけど、深みがあんねん」
「何やねん、もったいぶらんと早よ教ええや!」
平井の曖昧なヒントでは思い浮かぶはずもなく、耐えきれなくなった柳原は身体ごと振り返った。
平井は大きい画用紙のような黒い物体を手に持って「急に動くなや」とぼやいた。
黒い物体は平井の上半身を覆い隠せそうなほど巨大だった。いくらわからない振りをしてみても、
柳原はそれがとても身近なものである事も、固そうに見えるが素手で簡単に真っ二つに裂かれてしま
う事もよく知り得ていた。なぜならその物体のど真ん中には、立派な毛筆書体でこう書かれていたの
だから。
「真昆布……」
「ええダシとれるわ」
「どないせいっちゅうねん」
「ま、海にでも帰したったらええやん」
「ダシばら撒くだけやないかい」
項垂れる柳原をよそに、平井は真昆布をデイパックに戻した。口を閉じたデイパックを背負い直し、
柳原は「そういえば」と言葉を繋げる。
「平井は何やったん? 武器」
「ある意味ビックリすんで」
待ってましたと言わんばかりに平井は無造作に置かれたデイパックを引き寄せた。真昆布より驚く
代物などそうそうないだろうと思いながらも、柳原は平井の動作を目で追った。
128: ◆//Muo9c4XE
07/06/29 01:17:43
例のクレーンゲーム台にそれらは並べられた。真っ黒な四角い塊とインカムが二組整列した。真昆
布と違って身近なものではないはずなのに、一瞬でそれが何なのか理解できた。
「もしかしてこれ……」
一つ手に取ってじっくりと眺める。
片手に収まるサイズの四角い図体からは本体より長いアンテナが伸び、真ん中には小さなディスプ
レーがある。上半身にはスピーカーのようなものが点々と穴を開け、下半身には複数のボタンが並ん
でいる。柳原が思い描いていたそれのイメージよりもずっとコンパクトでスタイリッシュなデザイン
だった。
「トランシーバー?」
「もちろん」
「おお! せやったら俺が片方……」
「やらん」
手の中にある無線機を意図も簡単に取り上げられた。思いもよらぬ出来事に柳原は声を荒げる。
「なっ、なななななんでや!」
「なんちゅうリアクションすんねん。渡す必要ないやろ?お前とは明日の日没また会うんに」
「あー……」
「それに期待してるほど遠くまで電波とばへんって」
それでも諦めきれない柳原は「でも折角やし」とか「どこまで飛ぶか試さへん?」などと説得して
みたが、平井はちっとも相手にしてくれなかった。他に何か使い道を考えてあるような口ぶりだった。
129: ◆//Muo9c4XE
07/06/29 01:18:57
「もうええわ、行ってくる」
とうとう諦めた柳原は、軽く拗ねる形になりながら仕方なく入り口に振り向き歩き出す。
正直、一度でいいからあんなワクワクするオモチャを扱ってみたかった。少年時代に憧れる叶いそ
うで叶わない小さな夢の一つである。
「あ、ついでに何か武器になりそうなもんあったら持って帰る事」
「そんなん知るか!」
正面を向いたまま背後の声を突っぱねる。別に命令された事に腹を立てているのではない。オモ
チャの恨みは怖い。柳原は胸の奥でひっそりと、平井に復讐を誓った。
「じゃあ気いつけてな、転ばんように」
腕の傷を見ての発言だろうか。クスクスと響く平井の笑い声が少しだけむかついた。
「家帰ったら覚えとけや! 平井のゲーム全部売り飛ばしてやんぞ!」
柳原は自分でもくだらないと思うほど幼稚な捨て台詞を吐き、ゲームセンターを飛び出した。
墨で塗りつぶしたように広がる闇の中を走り抜ける。入園ゲートをくぐり、不気味に広がる森の中
へ何の躊躇いもなく突っ込む事が出来たのは、プログラムに参加させられている恐怖心よりもあの無
線機を扱う事が出来なかった悔しさの方が勝っているからだろうか。
「ったく……あほんだらーっ!」
特徴のありすぎるその声は、島全体にこだました。柳原を狙うモンスターも、今は静かに影を潜め
るだけだった。
130: ◆//Muo9c4XE
07/06/29 01:25:16
【アメリカザリガニ 柳原哲也】
所持品:真昆布
第一行動方針:岡田を探す
基本行動方針:芋蔓式に人を集める
最終行動方針:ゲームの終了
【現在位置:F2】
【アメリカザリガニ 平井善之】
所持品:無線機DJ-R100D(Lタイプ)×2 インカムEME-19A×2
第一行動方針:柳原を待つ
基本行動方針:ゲーム終了のために行動
最終行動方針:ゲームの終了
【現在位置:E1 アミューズメントパーク内ゲームセンター】
【8/15 20:30】
【投下番号:210】
>>113
あぁ……小林が壊れていく……。
131:名無し草
07/06/29 07:45:15
松竹編乙です。
平井の行動凄い気になります。
132:名無し草
07/06/29 12:51:54
乙!
柳原、ちゃんと生きて帰ってこいよ…
133:名無し草
07/06/29 18:30:43
松竹編乙です!
いや、コンブだけで帰って来たら奇跡だなw
134:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/29 22:18:43
麒麟・ソラシド編>>62-75続き
「死んだ方がマシ」という言葉はよく聞くが、実際にそう思った事はなかった。
そしてそれが自分の成すべき事を示してくれる言葉だという事も、あの時までは気付かなかった。
”相思相殺”
「ほら早う!町田、馬場ちゃん!!」
「まっ、待ってぇな・・・」
駆け足の田村に町田、馬場園と続いていく。
「そんなん急かさんでも、十分近づいてるやろ?」
馬場園を気遣いながら、町田はレーダーの画面を見る。
徐々に距離は詰め寄っている。・・・相変わらず本坊の番号は消えていないが。
「ちゃんと近づいてる・・・あいつもじっとしてくれてたみたいやな」
そのままじっとしてくれればすぐ合流出来るのに、と田村は思っていたが
彼は川島が日付変更と共に移動を始めた事など知る由もない。それよりも徐々に近づきつつある事が嬉しかった。
居所も生死もわからなかったあの12時間に比べればと思うと、希望が満ち溢れてくる。
「待ってろや川島・・・1人になんてさせへんからな!」
事前に交代して睡眠を取り体力を温存していたにしても、素人が真っ暗闇の森を駆け抜けるのは容易ではない。
元々体力に自信がある田村はともかく、女性の馬場園はもちろん、痩身の町田にはきつかった。
急かす田村を10分限定で、という条件で町田は休憩させてくれと頼んだ。
馬場園はそれを頼み込む余力もなくへたりこんだ。その馬場園の姿を見て、田村は渋々了承した。
「うちが・・・もっとマラソンとか得意な子やったらなぁ・・・」
ゼェゼェと苦しそうに馬場園が声を絞り出す。
「気にせんときぃや。近づいていってんのやし、まだ完全にバグってへんとも限らへんのやから」
町田は再三慎重に動く様に田村に言ったのだが、浮かれている田村は聞く耳を持たなかった。
自分が疲れたと言った所で田村はお構いなしだったろうが、流石に馬場園にはそうは出来なかったらしい。
「もうええかげんバグらへんって。町田も川島と一緒で根暗でマイナス志向なんやから・・・」
135:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/29 22:20:18
レーダーを空高く掲げて、つまらなさそうに田村が呟いた。
「あのなぁ、命かかってんねんから慎重になんのは当然やろ!考えなしに動くのは危険てさっきから・・・」
田村の無神経な物言いに町田は食って掛かったが途中でやめた。田村の表情が画面を見たまま固まっていたからだ。
「・・・田村?」
「消えた」
「え?」
「川島と本坊の番号が、パッ、って・・・」
「消えたってどういうこと!?」
3人がいっせいに画面を凝視する。
確かに先程まであった川島の番号と、それにくっついていた本坊の番号が無いのだ。
「今、たった今まで、確かにあってんで?それやのにパッて・・・」
「まさか、死・・・」
「いや、それはないわ」
田村も考えた馬場園の疑問を、間髪入れず町田が打ち消す。
「でも消えたってことは」
「それやったら”消える”だけっていうのはおかしい。それやったら・・・」
突然レーダー画面の16番が点滅して赤色に変わった。
「ほら、こういう風に赤に変わる筈やろ?」
「ほんまや・・・」
16番、という番号が町田にひっかかっていた。誰だ・・・?
「石田や・・・」
田村が声を押し殺してその番号の人物を指した。
「石田が・・・横のは水口か」
町田と田村が悲嘆にくれる横で、馬場園だけは事情がわからずオロオロしていた。
「どういうこと?石田って、まさか・・・」
町田が無言で頷き、馬場園は両手で顔を覆った。彼女から目を離し、町田は水口の側の番号を名簿と照らし合わせる。
「15・・・って石井さん?アリキリの・・・」
喋っているのは町田だけだ。馬場園は泣いているし、田村は画面を見つめたまま動かない。
136:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/29 22:21:41
(石田を殺したのは、石井さんかもしれない)
画面からわかる事は誰がどこにいて、誰が死んだか。結果だけはわかるが、過程がわからない。
誰がどう殺されたか。複数いる場合は誰が殺したのかもわからない。
それに生存者側にいる参加者だって、どういう状況にいるのか画面ではわからない。
自分達のようにケガひとつない者も、致命傷を負って死ぬのを待つだけの者も、
この画面では同じ”生存者”として表示される。
石田がどう死に、水口がどんな状況で、石井がどう対峙しているのか、考えれば考える程わからなくなる。
水口が死ぬのではないか、或いは石井が死ぬのか、いやそもそも石田は誰に殺されたのか?
そんな事を考えながら、画面に張り付いていた。
30分ほど経っただろうか。馬場園はいつのまにか泣き止んで同じ様にレーダーを見ていた。
水口と石井は・・・生存者側のままだ。どの様な状況なのかはわからないが、殺しあっているなら既に決着が付いている筈だ。
「まだ生きてる・・・こんだけ時間経ってどっちも死んでへんのやから、水ちゃんは無事よな?」
不安げに馬場園が町田に尋ねる。
「そうやと思う・・・けど」
町田としては安易に大丈夫とは言えないと考えている。傷心の時ほど付け入られやすいタイミングはないから、
ある程度まで味方のフリをして油断したところを・・・なんていうのはよくある話だ。
しかし馬場園のすがるような顔の前でそんな事は言いたくなかった。
「水口がどないなってんのかも、川島がどこにいんのかもわからへんのか・・・」
失望の目で田村は吐き捨てた。相変わらず川島の番号は消失したままだ。
「うちの時かて、急に番号パッて出て来たんやろ?また出て来るよ」
馬場園はそう言って田村を元気付けた。彼女の言い分は尤もである。石田の番号は変色したのだから、
順当に考えれば死んでいるよりか誤作動と考えるのが普通だ。
「そうやで田村。待ってたらまた直るわ」
「また、待つんやな・・・」
田村は空を仰いで、右腕で両目を隠した。空気がまた重たくなった。
また終わりの見えない待ち時間が始まった。
睡眠をとっているからか寝られる様な心境ではないのかは知らないが、数時間に渡って誰も口を開かなかった。
ふと気が付くと夜が明け、周囲は明るくなっていた。
137:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/29 22:23:01
「水口・・・こっち来てるみたいやわ」
田村が重い口を開き、そう言うとおもむろに立ち上がった。
「たむちゃん!どこ行くん?」
「水口に会う」
「ええ!?」
馬場園が思わず素っ頓狂な声を出し、町田は呆気に取られていた。
「待てや田村!会うてどうなんねや!?」
「お前の時みたいに、会うて仲間にする」
唐突な田村の申し出に、町田はますます困惑する。
「素直に応じてくれるとは限らへんやろ!」
「お前かてわかってくれたやんか・・・いや、たとえわかってくれへんでも俺は会いに行く」
「だから会いに行ってどうなんねんって」
「助けたいんや・・・会って、話して、1人になったあいつを助けたい」
やはりそうだった。田村の正義感の強い性格を知っていれば辿り着く答えだった。
「川島は?あいつの事はいいんか?」
田村の眉がピクっと動き、しばらく画面を見つめた後思い詰めた表情で言った。
「・・・心配やで?でも、何もせんとただ待ってるだけやなんてもう嫌や!」
川島の事を後回しにしたのは彼の事を気にかけなくなったからではない。ただ待つのに疲れ果てたのだ。
「うちもそう思う。・・・会いに行こう、水ちゃんに」
馬場園は田村に同調した。
「2人とも・・・そんなんでええんか!?」
「たむちゃんの言うとおりやと思う。うちら、もう十分待ったわ」
そう言って馬場園が町田の腕を引っ張り上げた。無理矢理にでも連れて行こうというのだ。
(俺は、お前らを完璧に信用して一緒にいる訳と違うんやで・・・)
町田のデイパックの底のデザートイーグルが、嘲笑する様に小さくカタカタと鳴っていた。
大荷物に引き摺られた、絶望に満ちた表情の男がそこにはいた。
パンパンに膨らんだデイパックがしょっちゅう肩からずり落ちていたが、彼はそれに一瞥もくれず紐を握り締めた。
眼の下にある隈が、表情の暗さに拍車をかけていた。
1人になってから彼の表情に変化はない。涙を流したのはほんの数時間前なのに、今となってはそれが
本当に自分がした事なのかどうかも疑わしかった。それからの彼の顔の感覚は、呼吸をしている鼻穴が規則的に動くのを伝えるのみで、
それがなくなれば人形となんら変わらない位に急速に表情というものを失くしていったからだ。
138:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/29 22:24:09
「水口!」
懐かしい声がした。涙が出る程嬉しい筈なのに、水口はわずかに目を見開いただけだった。
「田村・・・・か?」
「水ちゃん!」
馬場園と、少し遅れて町田が続いた。
その2人を見上げた水口に、田村が抱きついてきた。
「ケガとかないな?お前・・・よく、無事で・・・」
「心配してんで、うちら。水ちゃん死んだかも、って・・・」
泣き崩れる田村と馬場園とは対照的に、水口の表情は死んだままだ。それに町田だけが気付いていた。
「お前・・・大丈夫か?」
当然、町田が聞いたのは体の方でなく精神の方である。
「・・・・・・・」
水口は答えない。町田はその表情の暗さにぞっとしたが、2人は気付いていない。
「無事で・・・無事でほんまよかった!もう、もう大丈夫!!俺ら一緒にいるからな!」
「もう安心やで、水ちゃん」
再会を喜ぶ2人は気分が高揚してしまっていて、水口を置き去りにしている事がわからない。
「もう誰も・・・お前を1人にさせへんからな!」
田村は満足そうに言った。だが、
「・・・いい」
それだけ言って、水口は田村をゆっくり押して離した。
「へ?」
「いい、1人でいい・・・誰とも一緒にいたくない」
恐ろしい程静かに、水口は否定した。
喜びに満ちた空気はその一言で、水を打った様に静まり返った。
「なんで・・・何でそんなん言うん?」
泣きそうな顔で馬場園は尋ねた。
「本坊と石田の事気にしてんのか?」
馬場園にかぶさって、田村は質問した。
無神経な質問だと町田は思ったが、そんなのを考えている余裕は田村にはない事もすぐわかった。
「・・・・・・・・」
139:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/29 22:25:21
水口は答えない。田村は答えが無いにもかかわらず続ける。
「心配すんなや!悲しかったと思う。でも、だからこそ俺らはお前と一緒にいたい。
傷ついてるお前を1人になんて絶対にさせへんからな!」
水口の答えがどうあれ、田村の主張が変わる事は無い様だった。
「・・・・・俺が本坊と石田を殺したって言うても?」
そう言った後、ごく自然に水口の口角が上がった。その水口に田村は無意識に後ずさった。
「ほら、やっぱりひいた」
水口は口角を上げていたが、それは田村を馬鹿にした笑いでも自虐な笑いでもなかった。
ただ、微笑んでいるというだけの得体の知れない笑いだった。
「・・・嘘や」
田村はようやく祈りの様な声を絞り出した。
「嘘ちゃうよ」
「嘘や、絶対に嘘や!」
「信じたくなくても、ほんまの事や」
「嘘や・・・お前、傷ついてるやないか!悲しんでるやんか!殺したんやったら、そんなん出来へん!!」
うっ、と一瞬水口は言葉を詰まらせた。
「でも、事実や。俺は嘘ついてない。・・・俺は井上に会いに行かなあかんから、そろそろ行くで。」
「井上・・・?」
水口は田村達に背を向けた。だが、田村は水口のデイパックを掴んで止めた。
「頼む・・・頼むから嘘や言うてくれ。何でも、何でもするから・・・」
泣きながら田村は追いすがる。水口がしばらく考えた後、口を開いた。
「田村。ライターある?」
予想外の質問が飛び出した。田村は慌てて自分のデイパックを探った。
「ああ・・・これでええの?」
「ありがと、じゃこれ」
水口はポケットに入っていたガムをポンと田村に投げた。
「それと交換、ガム好きやろ?」
呆気に取られた一同に、水口は再び背を向ける。
140:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/29 22:26:22
「それじゃあ」
やや大袈裟に、水口は右手を振り上げた。
「水口!お前の言う事がほんまなんやったら、何で俺らを殺さへんのや!?」
叫んだのは、今まで無言で注意深く様子を見ていた町田だった。
「お前が2人を殺したのが優勝目的やとしたら、俺らは邪魔者なんやから殺した方がええ筈やろ?
正直言うて、俺らは丸腰やで。・・・何で殺さへんのや?」
水口は何も答えず、ゆっくり右手を下ろした。
「水ちゃん・・・?」
「やっぱり、やっぱりそうや!嘘なんやろ!?」
田村は水口に駆け寄って、両肩を掴んだ。
「・・・離してや」
「お前が人殺しなんてする筈あれへんやんな・・・俺らを巻き込みたくないからそんな嘘・・・」
「離せって言うてるやろ!!」
水口は激昂して、思いっきり田村を突き飛ばした。体格差が相当あるが、格闘技の覚えのある水口には問題ではない。
「たむちゃん、大丈夫!?」
馬場園が田村に駆け寄った。咄嗟に受身が取れなかった田村は相当痛い様だ。
「嘘と違う・・・俺はもう、誰も死なせたくないだけや・・・」
決意を秘めたというには頼りない表情で、水口は言った。
「・・・F-6」
いつのまにか田村のレーダーを握った町田がそう呟いた。
「F-6?」
「そう、そこの、ここの建物に井上がいる」
町田は水口にレーダーを差し出し、指で井上の位置を示す。
「ここに、井上が・・・?」
「ああ、ここから動いてへんみたいや。俺らの位置からも近いから、すぐに会いにいける」
「・・・ありがとう、まっちー」
位置を確認した後、水口は町田に礼を述べた。
「・・・水口。ひとつだけ言うてもええか」
本当はすぐにでも立ち去りたい水口だったが、井上の居場所を教えてもらった以上、そうしたくはなかった。
141:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/29 22:27:23
「ええよ・・・どうしたん?」
「井上に会って、もしお前の心境に変化があったら・・・その時は俺らを受け入れて欲しい」
思いがけない町田の申し出に水口は困惑するが、実はこれに1番驚いているのは町田本人だったりする。
町田は自分でも、何故こんな事を言ってるのか理解出来ないのだ。
「今、無理矢理お前を引き入れた所で・・・お互いええ結果になるとは思えへん。
だから、井上の場所を教える。会ったらどうなるかはわからへん。
でも、もし会った後俺らを受け入れる余裕があるなら・・・俺らはまたお前に会いに行くから、そん時は・・・」
まっすぐに自分を見つめる町田から目をそらし、水口は言う。
「・・・まっちー、俺もまっちーに教えたい事あんねや」
「俺に?」
「和田は学校で死んだ。たけしさ・・・あいつに、首輪を爆発させられて」
水口以外の一同は驚愕する。その間に、水口は走り去った。
「教えてくれてありがとう・・・ほなな!」
それだけ言い残して。
「水ちゃん!」
「待てや、おい、水口!」
追いかけようとする田村を町田は牽制する。
「止めんなや町田!!」
「・・・後で会いに行こう」
「今、今やなかったらあかんねん!」
言い争っている間に、水口の姿は小さくなっていく。
「くそっ・・・逃げんなや水口!お前質問答えてへんやんけ!
あとこんなガムなんていらへんねん、勝手にライター持ってくなや!
アホ、チビ、バカ水口!!戻ってこいやボケーーーー!!」
駄々っ子の様な暴言を田村は叫び、その声は森中に木魂した。
142:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/29 22:28:49
「田村てアホのくせに痛いとこ突いてくるんやもんなぁ・・・」
水口はぼそっと久々の独り言を呟いた。
(馬場ちゃんずっと泣いてたな・・・まっちーにも、あれ教えて良かったんかな)
コンパスに従って、教えられた通りに進んでいくとそれらしい建物に辿り着いた。
カーテンを開けたその人物に向かって、水口は大きく手を振った。
水口と目が合うと、その人物はサッとカーテンを引き、すぐに階段を駆け下りた。
朽ちたボロボロのドアが、勢い良く開いた。
「水口さん・・・無事やったんですね!」
NONSTYLE井上は、心から嬉しそうだった。
水口はそれをどこかで見た。ああ、石田だ。本坊に会った時の。
「どっこも怪我とかしてはらへんみたいで・・・良かった、ほんまに!」
「井上・・・俺、お前に伝えたい事あんねや」
ブツッとスピーカーが鳴って、ひび割れたクラシックが流れた。6時の放送だ。
『おはよーございまーす』と、やる気のないたけしの声がスピーカー越しに聞こえる。
「音うるさいな・・・水口さん、放送終わってからでもいいですか?」
『それでは、死亡者の発表でーす』
水口は左肩に担いでる方のデイパックをごそごそと開け始めた。
井上は頭にはてなマークを浮かべて見ていた。
そして、水口はあるものを取り出した。
『16番 石田明』
「これ、石田の遺品・・・」
デイパックから取り出されたのは、石田のネクタイが結ばれたオフェンスキープだった。
井上はへたりこんだ。
たけしと水口、2人の人間から同時に石田の死を告げられたのだ。
143:731 ◆p8HfIT7pnU
07/06/29 22:29:54
「・・・嘘でしょ?」
田村と全く同じ反応だった。人は理解しがたい現実に直面した時は、素直に信じられないものだ。
ただ、田村の時と違うのは水口の言葉以外にもそれを証明するものがある事。
たけしが放送で嘘を言う必要はないし、柄に結ばれたネクタイを井上はよく知っている。
「あいつが・・・あいつが死ぬ筈ないやないですか」
「死んだんや。石田は死んだ」
「水口さんが・・・水口さんが何知ってはるんですか?何でそのネクタイ持ってるんですか?」
「・・・石田を殺したのは俺やから」
しん、と辺りが静まり返った。
放送は変わらずうるさく響いていたので、静まり返ったという表現は正しくないが。
寧ろうるさい放送に反して重い空気で沈黙する2人の周りはさぞ異様な空気であっただろう。
「何で・・・石田を殺したんですか?」
水口はもう片方のデイパックからスコップを取り出した。
「・・・俺はこれで、亡くなった人のお墓作ってた。石田はそれを手伝ってくれてたんや」
「・・・それで何で?」
「手伝ってもらってるうちに・・・あいつ熱出して倒れた。死体を素手で触ったりしたから、感染症、になってんや。
必死で看病してんけど、薬もあらへんかって。自分が感染症って聞いたあいつは、死ぬのはこわない、
自分が死なへんと俺が死ぬからって、それの鞘に付いてるスタンガンで・・・自殺した」
石田の死の過程は、相方の井上は勿論説明する水口にも辛い事だった。
「石田は、あんたの巻き添え喰らったんですね?」
「そうや。俺に会わへんんかったら・・・石田は死なへんかった」
井上は水口が持つオフェンスキープを見つめていた。
「・・・あと、お前にはしてもらいたい事がある」
水口はオフェンスキープの柄を井上に差し出した。
「俺を、これで刺し殺して欲しい」
昨夜の石井の真似だ。驚く井上を見て、水口は自分はこんな顔をしたのかと思った。
水口と井上では置かれている状況が全く違うのだが。
144:731 ◇p8HfIT7pnU代理投下
07/06/29 22:47:52
(これでええ。今なら死ぬのこわないわ。ごめんな、みんな。俺、ここでリタイアする。)
水口は目を閉じて覚悟を決めた。清々しい気分だった。
「・・・・です」
井上はぼそぼそと呟いた。よく聞こえなかった水口が聞き返した。
「え?」
「・・・結構です」
既に死ぬ為の心の準備をしていた水口に、井上の拒絶が鋭く突き刺さった。
「今ここであんたを殺したら、石田の死が無駄になります。」
「でも、俺は石田を・・・井上は、俺が憎くないんか?」
「憎いですよ・・・殺したいに決まってるやないですか」
初めて向けられた純粋な殺意に、水口は怯んでしまう。
「あんた、どうせ俺に殺される事で全部チャラになる思たんでしょ?
可哀想な自分を哀れんで、悲劇ぶってたんでしょ?そういうナルシストな所、前から大っ嫌いやったんですよ!」
オフェンスキープを強く握り締めながら、井上は水口を責めたてた。
柄に結ばれた石田のネクタイがちらつき、水口は石田も自分を責めているという錯覚に囚われた。
「お墓?そんなあんたの好きな猫が死んだ時みたいな事して、石田は死んだんですか?そんなあんたの為に、石田は・・・」
井上の言葉を否定する事は水口には出来なかった。その通りだと思ったからだ。
「・・・殺す価値も、ない?」
水口が無意識に口をついて出た言葉がそれだった。
「ははっ・・・ようわかってはるやないですか」
嘲笑している筈なのに、井上の表情は悲壮でありすぎた。
「ええ、そうですよ!あんたなんか殺す価値もないんですよ!!
わかったら・・・わかったら消えて下さい。」
水口はただ立ち尽くしていた。
「消えて・・・もう2度と、俺の目の前に現れないで下さい」