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>>81-89 松竹本編第三話
初期装備 アメリカザリガニ
カツ、カツ、カツ、カツ―。
無事に平井と合流を果たした柳原は、ゲームセンターに散乱している椅子に腰掛け、上半身をゲー
ム台に預けるようにして伏せていた。手入れの行き届いていない森を駆け抜けるのは想像以上に体力
を消耗したため、この建物に辿りついてしばらくは何も考えずにじっと回復を待っている……という
のが現状である。
太陽はとうに沈んでいた。そのため室内は不気味なほど暗い。おまけに入り口を閉ざしているせい
か、夜になったとはいえ空気が篭って暑苦しい。何もしなくても汗が流れ落ちるほどで、その暑さは
尋常ではなかった。
息苦しさをを紛らわすかのように、柳原は室内を見渡した。冷たいゲーム台に密着した上体はその
ままに、目だけをぐるりと動かした。
だだっ広いこの空間には、数えるのも億劫なほどのゲーム台が並んでいる。入り口近くにはクレー
ンゲームや音楽ゲームがひっそりと出迎え、車を見立てたレースものの機械は居心地悪そうに整列し、
アクションゲームやパズルゲームの類は部屋の半分近くのスペースを埋め尽くし、今座っている奥ま
った場所にはパチンコ台やスロット台が無言で陣取る。
当然ゲームセンター本来の賑やかさはそこにはなく、あるのは先ほどから鳴っている、平井の爪と
ゲーム画面が衝突して共鳴する音だった。
次いで視線を落とし、柳原はテーブル代わりに体を預けている小さなクレーンゲームに目をやった。
腰下程度の高さのゲーム台は、カプセルに入った景品をクレーンで拾うタイプのものだった。そうい
えばこの手のゲームで景品を入手した経験がない事を、柳原はぼんやりと思い返す。過去何度かやっ
てはみたものの、アームを閉じてクレーンを持ち上げる瞬間、毎度のようにカプセルがすべりアーム
からすり抜けてしまうのがどうにも納得いかないのだ。ゲーム台の前で「こんなん取れる訳ないやろ」
と毒づいた経験は数知れない。